内部統制報告制度の全体像|J-SOXを財務報告の説明可能性から理解する

内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXは、評価シートを作成し、RCMを更新し、サンプルテストを実施するだけの制度ではありません。

制度の中心にあるのは、会社が公表する財務報告について、経営者が自ら内部統制の有効性を評価し、その評価結果を外部に報告し、監査人がその報告に対して監査意見を表明するという構造です。

言い換えれば、内部統制報告制度とは、財務報告の信頼性について、「どの範囲を評価し、どの統制を有効と判断し、どの不備をどの程度重要と評価したのか」を、会社、監査人、監査役等、投資家その他の財務諸表利用者に対して説明可能にするための制度だといえます。

監査実務においても、内部統制は財務諸表監査から独立した別作業ではありません。重要な虚偽表示リスクの評価、内部統制への依拠、運用評価手続、実証手続の範囲、監査証拠の十分性、そして監査意見の形成と、密接に結びついています。

内部統制の運用状況が有効であれば、監査人のリスク評価や実証手続の範囲に影響し得ます。一方で、内部統制が有効に運用されていない場合には、内部統制に依拠せず、実証手続によって十分かつ適切な監査証拠を入手しなければなりません。

本稿では、内部統制報告制度の入口として、制度の目的、対象、経営者評価、内部統制報告書、内部統制監査、そして財務諸表監査との関係を整理します。

目次

内部統制報告制度とは何か

内部統制報告制度は、金融商品取引法に基づき、一定の会社が財務報告に係る内部統制を評価し、その結果を内部統制報告書として提出する制度です。

内部統制報告書に関する根拠規定は金融商品取引法第24条の4の4に置かれ、その用語、様式、作成方法は内部統制府令が定めています。
出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法
出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令

制度を一言でいえば、財務報告の信頼性を確保するために、会社が自ら内部統制を評価し、その評価結果を開示し、その内容について監査人が監査を行う仕組みです。

ここで押さえておきたいのは、内部統制報告制度が「内部統制を整備しているかどうか」を抽象的に問う制度ではない、という点です。

対象は、あくまで財務報告に係る内部統制に限られます。人事、営業、研究開発、情報セキュリティ、コンプライアンス、サステナビリティなどに関連する統制であっても、それが直ちに内部統制報告制度上の評価対象になるわけではありません。

もっとも、財務報告は会社の業務全体から生まれるものです。販売、購買、在庫、固定資産、資金、連結、決算、開示、ITシステム、外部委託先、監査役等による監視、内部監査によるモニタリング。これらは財務報告に影響する限り、内部統制報告制度の文脈で検討対象になります。

したがってJ-SOXを正しく理解するには、「制度上の評価対象は財務報告に係る内部統制である」と限定しつつ、「その財務報告は会社の業務全体と密接につながっている」と捉える視点が欠かせません。

内部統制の4つの目的と6つの基本的要素

2023年4月7日に企業会計審議会が公表した改訂後の内部統制基準では、内部統制を、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスとして整理しています。

その目的は、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全の4つです。基本的要素は、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応の6つとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

2023年改訂で特に注意したいのは、内部統制の目的の一つが、従来の「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」へと整理されたことです。報告の信頼性には、組織内外への報告、そして非財務情報を含む報告の信頼性が含まれるとされています。

一方で、内部統制報告制度そのものは、財務報告に係る内部統制についての有効性を確保しようとする制度です。財務報告の信頼性以外の目的を達成するための内部統制の整備・運用を、直接求めるものではありません。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

この点を取り違えると、評価範囲が不必要に広がるか、逆に財務報告への影響がある統制を見落とすことになります。

内部統制報告制度における実務判断では、次のような整理が必要です。

まず、会社全体の内部統制の枠組みは、財務報告だけでなく、業務、法令遵守、資産保全、非財務情報を含む報告全般に関係します。しかし、内部統制報告書で評価・報告する対象は、財務報告に係る内部統制です。

次に、財務報告に係る内部統制を評価する際にも、財務報告だけを見ていれば足りるわけではありません。販売プロセスの承認、購買プロセスの検収、在庫管理、固定資産管理、決算整理仕訳、連結パッケージ、開示基礎資料、アクセス権限、システム変更管理。こうした財務報告の基礎となる業務とITを理解しなければ、財務報告リスクを適切に評価することはできません。

内部統制報告制度は、このような意味で、財務報告を会社の業務プロセスと切り離さずに評価する制度なのです。

内部統制は絶対的保証ではない

内部統制報告制度を理解するうえで、もう一つ重要なことがあります。内部統制には限界がある、という点です。

内部統制は、財務報告の虚偽記載を完全に防止または発見することを保証する仕組みではありません。実際、内部統制報告書の様式上も、財務報告に係る内部統制により財務報告の虚偽の記載を完全には防止または発見することができない可能性がある旨を記載することが求められています。
出典:金融庁|内部統制報告書 第一号様式

この限界は、制度の弱さではありません。内部統制を現実の組織運営の中で捉えるための前提です。

内部統制は、人が遂行するプロセスです。判断誤り、理解不足、権限設定の不備、担当者の異動、システム変更、外部委託先の管理不足、経営者による内部統制の無効化、共謀。こうした要因によって、内部統制が想定どおりに機能しないことがあります。

したがって、内部統制報告制度上の評価は、「不正や誤謬が起きない」と言い切るためのものではありません。

財務報告に重要な影響を及ぼすリスクに対して、会社がどのような内部統制を整備・運用し、その有効性をどのような範囲と方法で評価し、その結果として開示すべき重要な不備がないと判断できるのか。それを説明するためのものです。

監査人にとっても、この前提は重要です。内部統制があるという事実と、内部統制が有効に整備・運用されているという判断は別のものです。さらに、内部統制が有効であるという経営者評価と、監査人がその評価を監査上利用できるという判断も、また別のものです。

経営者評価が制度の出発点になる

内部統制報告制度の出発点は、経営者による評価です。

内部統制基準は、経営者が財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲について、財務報告に係る内部統制の有効性を評価しなければならないとしています。

また、評価に先立って、財務報告に係る内部統制の整備及び運用の方針・手続を定め、その状況を記録・保存しておく必要があるとされ、評価は原則として連結ベースで行うものとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

ここでいう経営者評価は、内部監査部門やJ-SOX担当者の作業を指すものではありません。

実務上、評価作業を内部監査部門、経理部門、内部統制部門などが担うことはあります。しかし、内部統制報告制度上、評価結果を外部に報告する主体はあくまで経営者です。

この点は、監査上のコミュニケーションにおいても重要になります。

監査人が会社と協議すべき相手は、評価資料を作成した担当者だけではありません。評価範囲、不備評価、開示すべき重要な不備の有無、是正状況、内部統制報告書の記載内容は、経営者の判断として整理される必要があります。

とりわけ、評価範囲を限定する場合、評価対象外から不備が発見された場合、前年度に開示すべき重要な不備があった場合、期末日までに是正が完了しなかった場合。こうした局面では、担当者レベルの説明では足りません。経営者が、財務報告への影響、内部統制の実効性、開示上の説明可能性を踏まえて判断しているかが問われます。

評価範囲は「機械的な売上基準」だけでは決められない

内部統制報告制度で最も実務判断が難しい論点の一つが、評価範囲です。

内部統制基準は、経営者が内部統制の有効性の評価にあたり、財務報告に対する金額的及び質的影響の重要性を考慮するよう求めています。そのうえで、財務諸表の表示及び開示、企業活動を構成する事業または業務、財務報告の基礎となる取引または事象、主要な業務プロセス等について合理的に評価範囲を決定し、その決定方法と根拠等を適切に記録しなければならないとしています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

この規定が意味するのは、評価範囲を形式的な割合だけで決めてはならない、ということです。

もちろん、重要な事業拠点の選定において、売上高等の一定割合を利用することは実務上あり得ます。ただし、その指標は評価範囲を決める入口にすぎません。財務報告に重要な影響を及ぼす可能性がある場合には、金額的重要性だけでなく、質的重要性を考慮する必要があります。

例えば、売上規模が大きくない事業拠点であっても、特殊な取引、複雑な会計処理、重要な見積り、非定型取引、関連当事者取引、海外子会社、ITシステム変更、決算プロセスの集中、不正リスクといった要素がある場合には、評価範囲に含めるべきかを慎重に判断しなければなりません。

逆のケースもあります。形式的に評価対象に含めたとしても、そのプロセスの統制上の要点が財務報告リスクと結びついていなければ、評価作業は厚くても、監査判断への有用性は乏しくなります。

評価範囲の判断で重要なのは、「なぜその範囲を評価したのか」と同じくらい、「なぜその範囲を評価対象外としたのか」を説明できることです。

内部統制報告書は何を報告する書類か

内部統制報告書には、財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項、評価の範囲・基準日・評価手続に関する事項、評価結果に関する事項、付記事項、特記事項などを記載します。

様式上、評価結果は次の区分で記載されます。財務報告に係る内部統制が有効である旨。評価手続の一部が実施できなかったが内部統制は有効である旨。開示すべき重要な不備があり内部統制は有効でない旨。重要な評価手続が実施できなかったため評価結果を表明できない旨。
出典:金融庁|内部統制報告書 第一号様式

この区分を見れば、内部統制報告書が、単に「有効です」と述べる文書ではないことが分かります。

内部統制報告書は、次の判断を外部に示す文書です。

  • 第一に、誰が財務報告に係る内部統制の整備・運用に責任を有しているのか。
  • 第二に、どの基準に準拠して内部統制を整備・運用し、評価したのか。
  • 第三に、どの基準日で、どの範囲について、どのような手続で評価したのか。
  • 第四に、評価範囲の決定方法や根拠は何か。
  • 第五に、評価結果として、有効といえるのか、有効でないのか、評価結果を表明できないのか。
  • 第六に、開示すべき重要な不備がある場合、その内容、期末日までに是正されなかった理由、期末日後に実施された是正措置は何か。

内部統制報告書の記載は、監査人にとっても重要です。監査人は、会社が実施した内部統制評価の妥当性を検討し、内部統制報告書に重要な虚偽表示がないかについて意見を形成するからです。

「開示すべき重要な不備」とは何か

内部統制報告制度において、「開示すべき重要な不備」は極めて重要な概念です。

内部統制基準では、財務報告に係る内部統制が有効であるとは、内部統制が適切な内部統制の枠組みに準拠して整備・運用されており、開示すべき重要な不備がないことをいうとされています。そして開示すべき重要な不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備を指します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

ここで注意したいのは、開示すべき重要な不備の判断が、実際に重要な虚偽表示が発生したかどうかだけで決まるわけではない、という点です。

内部統制の不備は、虚偽表示の発生可能性と、その虚偽表示が財務報告に与える影響の重要性を踏まえて評価します。実際に修正仕訳が発生していない場合であっても、重要な虚偽表示を防止または発見・是正できない可能性が高ければ、開示すべき重要な不備に該当する可能性があります。

一方で、軽微な運用逸脱が発見されたからといって、直ちに開示すべき重要な不備になるわけでもありません。逸脱の原因、発生頻度、補完統制の有無、影響する勘定科目や開示項目、潜在的な虚偽表示額、質的重要性、期末日までの是正状況。これらを総合的に評価する必要があります。

監査人としては、「不備があったか」だけを見ていては足りません。その不備が財務報告にどのような虚偽表示をもたらし得るのか。その虚偽表示は重要か。他の統制で補完されるか。期末日現在で有効な状態といえるか。こうした点を整理しなければなりません。

内部統制監査は何に対する監査か

内部統制監査は、会社の内部統制そのものを直接保証する監査ではありません。

内部統制基準では、内部統制監査の目的を次のように整理しています。経営者が作成した内部統制報告書が、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価基準に準拠して、内部統制の有効性の評価結果をすべての重要な点において適正に表示しているかどうか。これについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断し、その結果を意見として表明することです。そして内部統制報告書に対する意見は、内部統制監査報告書により表明されます。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

この構造は、財務諸表監査の二重責任と同じく、責任分界を明確にするうえで重要です。

内部統制を整備・運用し、その有効性を評価し、内部統制報告書を作成する責任は経営者にあります。監査人は、その内部統制報告書に対して監査を行い、意見を表明します。

したがって、監査人が内部統制評価を会社に代わって実施するわけではありません。監査人が評価範囲、統制上の要点、評価手続、不備評価について協議し、必要な指摘を行うことはあります。しかし、内部統制の構築や評価に係る作業や決定は、会社・経営者によって行われる必要があります。

この責任分界を曖昧にすると、自己監査リスクが生じます。特にIPO準備会社や小規模上場会社では、会社側の内部統制評価体制が未成熟なことがあり、監査人への依存が過度になりやすい領域です。監査人は、必要な助言や指摘を行いながらも、経営者評価を代替しない線引きを明確にしておく必要があります。

内部統制監査と財務諸表監査は一体として実施される

内部統制監査は、原則として、同一の監査人により、財務諸表監査と一体となって行われます。

内部統制監査の過程で得られた監査証拠は、財務諸表監査の内部統制評価における監査証拠として利用されます。反対に、財務諸表監査の過程で得られた監査証拠が、内部統制監査の証拠として利用されることもあります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

この点は、実務上きわめて重要です。

内部統制監査を、財務諸表監査とは別のJ-SOXチームの作業と見てしまうと、監査計画、リスク評価、運用評価手続、実証手続、監査調書、審査対応が分断されてしまいます。

一方で、内部統制監査と財務諸表監査を一体として設計すれば、次のような判断が可能になります。

売上の不正リスクが高い場合には、販売プロセスの統制評価だけではなく、収益認識の会計判断、カットオフ、返品・値引き、関連当事者取引、KAM候補、開示との関係まで、一体で検討できます。

決算・財務報告プロセスに不備がある場合には、J-SOX上の不備評価だけではなく、期末監査における開示チェック、見積り注記、未修正虚偽表示、監査報告書への影響まで検討できます。

IT全般統制に不備がある場合には、アクセス管理や変更管理の評価だけではなく、アプリケーション統制、システム生成レポートの信頼性、データ抽出の完全性、実証手続の再設計にまで影響が及びます。

内部統制監査は、財務諸表監査の効率化のためだけに存在するものではありません。しかし、内部統制監査と財務諸表監査を切り離してしまえば、結果としてどちらの監査判断も弱くなります。

評価範囲外から不備が見つかった場合の意味

2023年改訂後の内部統制基準では、次の点が明確化されました。監査人が財務諸表監査の過程で、経営者による内部統制評価の範囲外から内部統制の不備を識別した場合、その不備が内部統制報告制度における評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮し、必要に応じて経営者と協議しなければならない、という点です。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

これは、内部統制報告制度の実効性を考えるうえで重要な改訂です。

評価範囲外から不備が見つかったという事実は、「そのプロセスも評価対象に追加すべきだったかもしれない」という話にとどまりません。評価範囲の決定プロセスそのものが、財務報告リスクを適切に捉えていたのかを問い直す契機になります。

実務上は、次の観点を検討する必要があります。

まず、その不備は、評価範囲決定時に把握可能だったリスクに関連するものか。

次に、その不備が影響する勘定科目、開示項目、アサーションは何か。

さらに、同種の不備が他の拠点、他のプロセス、他のシステムにも存在する可能性はないか。

また、当該不備が開示すべき重要な不備に該当する可能性はないか。

最後に、評価範囲の決定方法や根拠を、内部統制報告書上どのように説明できるか。

監査人としては、評価範囲外で発見された不備を、財務諸表監査上の個別指摘として処理するだけでは不十分です。内部統制報告制度上の評価範囲、不備評価、経営者評価、内部統制報告書の記載にどう影響するのかを、接続して検討する必要があります。

2023年改訂が示した実務上のメッセージ

2023年4月7日に公表された改訂基準・改訂実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用されます。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

この改訂は、制度全体を作り替えるものではありません。しかし、実務上は重要なメッセージを含んでいます。

第一に、内部統制評価の範囲について、より実質的な説明が求められています。内部統制報告書において、重要な事業拠点の選定に利用した指標、その一定割合、決定の判断事由等について記載することが適切とされました。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

第二に、訂正内部統制報告書への対応が強化されています。開示すべき重要な不備が当初の内部統制報告書ではなく、後日、訂正によって報告される事例があることを踏まえ、訂正の経緯や理由等を十分に開示する方向性が示されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

第三に、内部統制の基本的枠組みにおいて、不正リスク、情報の信頼性、ITへの対応、外部委託、サイバーリスク、ガバナンスや全組織的なリスク管理との関係が、より意識されています。

この改訂を、「内部統制報告書の記載項目が増えた」とだけ捉えると、本質を見誤ります。

改訂の背景には、評価範囲外から開示すべき重要な不備が発見される事例や、内部統制の有効性評価が後日訂正される際に十分な理由が開示されない事例への問題意識があります。制度が求めているのは、評価範囲を形式的に決めることではありません。財務報告リスクを実質的に捉え、その判断過程を説明できるようにすることです。

内部統制報告制度と会社法上の内部統制システムは同じではない

実務上、内部統制報告制度と会社法上の内部統制システムは混同されがちです。

会社法上の内部統制システムは、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保する体制、会社及び企業集団の業務の適正を確保する体制など、会社のガバナンス全体に関係します。

一方、金融商品取引法上の内部統制報告制度は、財務報告に係る内部統制の有効性を評価・報告し、監査人が監査する制度です。

両者は重なりますが、同じではありません。

例えば、取締役会や監査役等による監視、内部監査部門の機能、経営者の姿勢、コンプライアンス体制、リスク管理体制は、会社法上の内部統制システムとしても重要です。同時に、それらは財務報告に係る全社的な内部統制として、J-SOX評価にも影響し得ます。

したがって監査人は、会社法と金商法の制度目的の違いを理解しつつ、財務報告リスクに関係する範囲で、会社のガバナンス体制、監査役等の活動、内部監査の実効性を評価する必要があります。

この区別を曖昧にすると、内部統制報告制度を過度に狭く捉え、決算・開示プロセスだけの評価に矮小化してしまうことがあります。反対に、会社の内部統制全般をJ-SOXで評価しようとして、評価範囲が過度に膨張することもあります。

重要なのは、制度目的に応じた切り分けです。

内部統制評価を監査判断に接続する視点

内部統制報告制度の全体像を理解するだけでは、監査実務としては不十分です。監査人に求められるのは、J-SOX評価を財務諸表監査の判断に接続することです。

内部統制評価は、少なくとも次の判断に影響します。

一つ目は、重要な虚偽表示リスクの評価です。内部統制が有効に設計・運用されているかは、統制リスクの評価に影響します。統制環境が脆弱であれば、個別プロセスの統制が形式的に存在していても、監査上のリスク評価は慎重にならざるを得ません。

二つ目は、運用評価手続と実証手続の設計です。内部統制に依拠するのであれば、その統制が関連するアサーションに対して有効かを検証する必要があります。内部統制に依拠できないのであれば、実証手続だけで十分かつ適切な監査証拠を入手できるよう、手続の種類、時期、範囲を再設計しなければなりません。

三つ目は、会計上の見積りや不正リスクへの対応です。減損、税効果、収益認識、引当金、金融商品、連結範囲といった領域では、経営者判断が財務報告に大きく影響します。これらの領域では、内部統制が単なる承認手続にとどまらず、仮定、基礎データ、レビュー、専門家利用、開示判断を支える仕組みとして機能しているかを確認する必要があります。

四つ目は、KAMや監査役等とのコミュニケーションです。内部統制上の重要な不備、不確実性の高い見積り、決算・開示プロセスの弱点は、KAM候補や監査役等への報告事項と接続します。

五つ目は、審査、レビュー、検査対応です。J-SOX上の評価範囲、不備評価、監査手続、調書化は、監査法人内の審査や外部レビューにおいても問われます。後から説明できる調書にするためには、「有効」と結論だけを書くのでは足りません。なぜその統制上の要点を選び、どの証拠に基づき、どの不備をどのように評価したのかを残しておく必要があります。

内部統制報告制度を形式化させないための実務上の注意点

内部統制報告制度は、運用を誤ると容易に形式化します。

  • RCMは更新されているが、財務報告リスクと統制上の要点が結びついていない。
  • 評価範囲は前年踏襲だが、事業再編、システム変更、海外子会社の拡大、会計基準変更、不正リスクの変化が反映されていない。
  • サンプルテストは完了しているが、逸脱の原因分析や補完統制の評価が不十分である。
  • 決算・財務報告プロセスの評価は実施しているが、見積り、注記、開示基礎資料、経営者レビューの実効性が検討されていない。
  • IT全般統制の評価は行っているが、システム生成レポートやデータ抽出の信頼性が財務諸表監査にどう影響するかが整理されていない。
  • 開示すべき重要な不備の有無は結論づけているが、その判断過程が監査役等や審査担当者に説明できる水準で文書化されていない。

これらはすべて、内部統制報告制度が「作業」になっている状態です。

内部統制報告制度を実務判断として扱うためには、少なくとも次の問いを常に持っておく必要があります。

  • この統制は、どの財務報告リスクに対応しているのか。
  • この統制は、どのアサーションに関連しているのか。
  • この統制が機能しなかった場合、どの勘定科目または開示にどのような虚偽表示が生じ得るのか。
  • この統制の証拠は、整備評価・運用評価に耐えるものか。
  • 識別された不備は、単独または組み合わせで重要な虚偽表示につながる可能性があるか。
  • 経営者の評価範囲と監査人のリスク評価に不整合はないか。
  • その判断は、監査役等、審査担当者、レビュー担当者に説明できるか。

内部統制報告制度の品質は、最終的には、こうした問いに対する答えの質で決まります。

内部統制報告制度は、財務報告の「説明可能性」を高める制度である

内部統制報告制度は、上場会社等に対して、財務報告に係る内部統制の有効性を外部に説明することを求める制度です。

しかし、実務上の意味はそれだけではありません。

会社に対しては、財務報告リスクを識別し、必要な統制を整備・運用し、不備を評価し、是正し、その判断過程を記録することを求めます。

監査人に対しては、経営者評価の妥当性を検討し、内部統制監査と財務諸表監査を接続し、評価範囲、不備評価、監査証拠、意見形成を一貫した監査判断として説明することを求めます。

監査役等に対しては、内部統制の整備・運用状況、財務報告リスク、不備の是正状況、監査人とのコミュニケーションを通じて、会社の財務報告の信頼性を監視することを求めます。

その意味で、J-SOXは単なる制度対応ではありません。財務報告を支える会社の仕組みを、経営者、監査人、監査役等、投資家に対して説明可能にするための実務基盤です。

内部統制報告制度を深く理解することは、監査人にとって、財務諸表監査の品質を高めることそのものだといえます。評価範囲、統制評価、不備判断、内部統制監査報告書。いずれも単独で存在する論点ではありません。監査計画、リスク評価、監査証拠、会計上の見積り、KAM、開示、監査意見形成へとつながる一連の判断プロセスとして整理する必要があります。

内部統制報告制度の判断に迷う場合

内部統制報告制度では、形式的な正解よりも、事実関係、リスク、重要性、証拠、統制の実効性、開示上の説明可能性を踏まえた判断が重要になります。

  • 評価範囲をどこまで広げるべきか。
  • 決算・財務報告プロセスの不備をどう評価すべきか。
  • IT統制の不備が財務諸表監査にどう影響するか。
  • 評価範囲外で識別された不備をどう扱うべきか。
  • 開示すべき重要な不備に該当するか。
  • 内部統制報告書の記載としてどこまで説明すべきか。
  • 監査役等や審査担当者にどのように説明すべきか。

これらの論点は、単なるチェックリストでは整理しきれません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法定監査、内部統制、財務報告、開示、会計上の見積り、不正リスク、監査役等との連携を横断し、判断過程を説明できる状態に整理する支援を重視しています。

内部統制報告制度への対応や、J-SOX評価・内部統制監査・財務諸表監査との接続について、個別事情を踏まえて整理したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点重要な理解
内部統制報告制度の目的財務報告に係る内部統制を経営者が評価し、その結果を外部に報告し、監査人が監査する制度
評価対象会社の内部統制全般ではなく、財務報告に係る内部統制が中心
内部統制の基本構造4つの目的と6つの基本的要素から構成されるが、J-SOXの評価対象は財務報告への影響を軸に判断する
経営者評価内部統制の整備・運用と評価・報告の責任は経営者にある
評価範囲金額的重要性だけでなく、質的重要性、事業特性、リスク、IT、外部委託、不正リスクを踏まえて決定する
内部統制報告書評価範囲、評価手続、評価結果、開示すべき重要な不備、是正状況などを外部に説明する文書
開示すべき重要な不備財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備
内部統制監査経営者が作成した内部統制報告書が適正に表示されているかについて監査人が意見を表明するもの
財務諸表監査との関係内部統制監査は原則として財務諸表監査と一体で実施され、相互に監査証拠を利用し得る
実務上の核心J-SOXは作業ではなく、財務報告の信頼性を後から説明できるようにする判断体系である
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