相続財産の中に広い土地が含まれているとき、その相続税評価で「地積規模の大きな宅地の評価」を適用できるかどうかは、最終的な税額に大きく影響します。
ただし、これは「広い土地であれば必ず使える」という制度ではありません。面積だけで決まるものではなく、三大都市圏かどうか、路線価地域か倍率地域か、路線価図上の地区区分、市街化調整区域や工業専用地域への該当、指定容積率、大規模工場用地、評価単位、共有関係、そして土地の現況まで、ひとつずつ順を追って確認していく必要があります。
実務の現場では、特に次のような場面で判断を誤りやすいと感じています。
| よくある誤解 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 広ければ自動的に評価減できる | 面積要件のほか、除外要件・地区区分・評価単位を確認する |
| 登記簿上の一筆ごとに判定する | 原則として利用の単位となる1画地ごとに判定する |
| 持分だけなら面積が小さいので使えない | 共有地は持分按分前の共有地全体の地積で判定する |
| マンション敷地は対象外 | 現行制度では、要件を満たせばマンション敷地でも検討対象になる |
| 市街化調整区域はすべて対象外 | 一定の宅地分譲開発が可能な区域は例外的に対象となり得る |
| 容積率は前面道路幅員で下がった後の数値を見る | 地積規模の判定では、原則として指定容積率を見る |
| 相続税評価が下がるなら分割すべき | 分割後の利用可能性、不合理分割、売却可能性、相続人間の公平を検討する |
この評価は、相続税評価を引き下げるための単なるテクニックではありません。広い土地を戸建住宅用地として分割分譲する場合には、道路や上下水道などの整備、公共公益的施設の負担、販売に伴う負担といった事情から、標準的な宅地よりも単価が下がります。そうした市場の実態を、通達評価のなかに反映させるための仕組みなのです。
ですから、適用できるかどうかの判断は、目先の税額にとどまりません。将来の土地利用、遺産分割、二次相続、売却や納税資金の確保、さらには税務調査の場で説明できるかどうかにまで、つながっていきます。
地積規模の大きな宅地の評価とは
「地積規模の大きな宅地」とは、一定規模以上の広い宅地について、規模格差補正率を用いて評価する方法のことです。
国税庁は、三大都市圏では500平方メートル以上、三大都市圏以外では1,000平方メートル以上の地積をもつ宅地を「地積規模の大きな宅地」と位置づけています。ただし、市街化調整区域、工業専用地域、一定以上の指定容積率の地域、大規模工場用地など、一定の宅地はここから除かれます。
この制度は、平成29年9月の財産評価基本通達の一部改正によって新設され、平成30年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得する一定の宅地に適用されます。これに合わせて、改正前の財産評価基本通達24-4「広大地の評価」は廃止されました。
出典:国税庁|「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されました
かつての広大地評価は、周辺地域の標準的な宅地の地積、開発行為を行った場合の公共公益的施設用地の負担、マンション適地に当たるかどうかなど、判断の難しい要素を数多く抱えた制度でした。
これに対して現行の「地積規模の大きな宅地の評価」は、面積、地区区分、都市計画、容積率といった形式的な要件を中心に判定します。そのぶん、旧制度に比べて判断の枠組みははっきりしています。
とはいえ、要件が明確になったからといって、機械的に当てはめられるわけではありません。評価単位、土地の現況、複数の用途地域にまたがる場合、共有、マンション敷地、市街地農地等の扱いなどでは、今なお実務上の判断が求められます。
まず押さえるべき判断順序
地積規模の大きな宅地の評価では、いきなり規模格差補正率を計算するのではなく、次の順序で確認していきます。
| 順序 | 確認事項 | 判断内容 |
|---|---|---|
| 1 | 評価単位 | 利用の単位となる1画地はどこまでか |
| 2 | 地目・現況 | 宅地か、市街地農地等か、雑種地か |
| 3 | 評価方式 | 路線価地域か、倍率地域か |
| 4 | 面積要件 | 三大都市圏500㎡以上、それ以外1,000㎡以上か |
| 5 | 地区区分 | 路線価地域では普通住宅地区または普通商業・併用住宅地区か |
| 6 | 市街化調整区域 | 原則除外だが、宅地分譲開発可能区域に該当するか |
| 7 | 工業専用地域 | 工業専用地域に所在しないか |
| 8 | 指定容積率 | 400%未満、東京都特別区は300%未満か |
| 9 | 大規模工場用地 | 財産評価基本通達22-2の大規模工場用地に該当しないか |
| 10 | 共有・マンション敷地 | 持分按分前の地積、敷地全体で確認するか |
| 11 | 評価額計算 | 路線価地域・倍率地域ごとの方法で計算する |
| 12 | 記録化 | 判断根拠を申告後に説明できる形で残す |
国税庁の適用要件チェックシートも、路線価地域ではA表、倍率地域ではA表およびB表を用い、確認結果がすべて「はい」となった場合にこの評価を適用する、という構成になっています。
出典:国税庁|「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート
面積要件|三大都市圏かどうかで基準が変わる
面積要件は、次のとおりです。
| 所在地域 | 面積要件 |
|---|---|
| 三大都市圏 | 500㎡以上 |
| 三大都市圏以外 | 1,000㎡以上 |
ここでいう三大都市圏は、一般的な感覚での「東京・大阪・名古屋の周辺」というだけの話ではありません。国税庁は、首都圏整備法、近畿圏整備法、中部圏開発整備法に基づく一定の区域を、三大都市圏として定めています。
たとえば、同じ600㎡の土地であっても、三大都市圏内であれば面積要件を満たす可能性があります。一方、三大都市圏以外であれば1,000㎡未満となり、この評価の対象から外れます。
実務では、所在地の市区町村名だけで即断することは避け、評価対象地が三大都市圏の対象区域に含まれるかどうかを丁寧に確認します。固定資産税の資料や登記情報だけでは判定できないため、路線価図、評価倍率表、自治体の都市計画情報、国税庁の資料を併せて確認することが欠かせません。
評価単位|面積要件は「利用の単位となる1画地」ごとに判定する
地積規模の大きな宅地の評価で最も重要なのは、面積そのものよりも、どの土地を一つの評価単位とみるかという点です。
国税庁の質疑応答事例では、地積規模の要件は、利用の単位となっている1画地の宅地、つまり評価単位ごとに判定するとされています。あわせて、贈与や遺産分割等によって宅地の分割が行われた場合には、原則として分割後の画地を1画地の宅地とします。ただし、親族間などで行われた分割が著しく不合理であると認められるときは、分割前の画地を1画地の宅地とするものとされています。
これを整理すると、次のようになります。
| 土地の状況 | 評価単位の考え方 |
|---|---|
| 自宅敷地が1筆で利用されている | その自宅敷地を1画地として判定 |
| 複数筆が一体で自宅敷地として利用されている | 複数筆を一体の1画地として判定 |
| 自宅敷地と月極駐車場が隣接 | 利用状況により別評価単位となることがある |
| 貸家建付地と自用地が連接 | 利用区分・権利関係により評価単位を分けることがある |
| 贈与や遺産分割で分筆 | 原則は分割後画地で判定するが、不合理分割に注意 |
| 建物が複数棟ある大規模賃貸地 | 建物・賃貸借・駐車場利用の実態を確認 |
ここでの判断を誤ると、面積要件を満たすかどうかという結論そのものが変わってしまいます。
たとえば、1,200㎡の土地全体を一体で利用していれば面積要件を満たすとしても、実際には自宅敷地400㎡と貸駐車場800㎡に分かれて利用されている場合には、それぞれが別の評価単位となる可能性があります。そうなると、どちらも単独では面積要件を満たさない、あるいは片方だけが満たす、という結論になり得ます。
逆に、登記上は複数筆に分かれていても、実際には一体として利用されているのであれば、一つの評価単位として判定することになります。
不合理分割に注意する
「広い土地を分ければ評価額を下げられるのではないか」という発想は、相続・贈与の場面でしばしば出てきます。しかし、地積規模の大きな宅地の評価では、分割によって面積要件を満たすかどうかが変わるため、その分割に合理性があるかどうかが重要になります。
親族間の贈与や遺産分割において、分割後の画地が通常の宅地として利用できない、接道や形状に問題がある、経済合理性が乏しいといった場合には、不合理分割として、分割前の画地を1画地として評価する可能性があります。
不合理分割の判断は、次のような観点で整理していきます。
| 確認事項 | 問題になりやすい例 |
|---|---|
| 分割後の土地が通常利用できるか | 極端な細長地、無道路地、建築困難地 |
| 接道義務を満たすか | 建築基準法上の道路に2m以上接していない |
| 形状が著しく不自然でないか | 税務上の評価だけを意識したような分割 |
| 現実に売却・利用できるか | 市場性のない残地、利用不能な空閑地 |
| 分割の目的が説明できるか | 相続人の居住、売却、納税資金、事業利用など |
| 分割後の管理が可能か | 共有私道、インフラ、境界未確定など |
土地の分割は、評価額だけにとどまらず、建築、登記、測量、境界、道路、上下水道、そして相続人間の公平にまで影響します。評価のうえでは有利に見える分割であっても、将来の売却や二次相続の場面では不利に働くことがあります。
路線価地域での適用対象
路線価地域では、地積規模の大きな宅地のうち、路線価図上の地区区分が「普通商業・併用住宅地区」または「普通住宅地区」に所在するものが対象となります。
路線価地域での基本的な算式は、次のイメージです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 路線価 | 正面路線価を基礎にする |
| 各種画地補正 | 奥行価格補正、不整形地補正、間口狭小補正など |
| 規模格差補正率 | 地積規模に応じて乗じる補正率 |
| 地積 | 評価単位となる土地の地積 |
評価額のイメージは、次のとおりです。
評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率 × 不整形地補正率などの各種画地補正率 × 規模格差補正率 × 地積
国税庁も、路線価地域に所在する対象宅地について、路線価に奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に地積を乗じて評価する、としています。
正面路線が複数の地区にまたがる場合
評価対象地の接する正面路線が、普通住宅地区と中小工場地区など、2以上の地区にわたることがあります。
このような場合について、国税庁の質疑応答事例では、その宅地の過半が属する地区をもって、宅地の全部が所在する地区と判定するとされています。
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-正面路線が2以上の地区にわたる場合の地区の判定
この判定を誤ると、適用対象になるかどうかが変わってしまいます。
| 地区の構成 | 判定例 |
|---|---|
| 普通住宅地区が過半 | 全体を普通住宅地区として扱い、対象となる可能性 |
| 中小工場地区が過半 | 対象外となる可能性 |
| 普通商業・併用住宅地区が過半 | 対象となる可能性 |
| 高度商業地区などが過半 | 対象外となる可能性 |
路線価図の地区区分は、見た目で「住宅地らしいかどうか」を判断するのではなく、あくまで路線価図上の表示で確認します。評価対象地が大きいほど、複数の地区や複数の路線価にまたがりやすいため、地図のうえで丁寧に確認していく必要があります。
倍率地域での評価方法
倍率地域に所在する地積規模の大きな宅地については、路線価地域とは異なる計算を行います。
国税庁の質疑応答事例では、倍率地域に所在する地積規模の大きな宅地は、次のうちいずれか低い方の価額によって評価するとされています。
| 比較する価額 | 内容 |
|---|---|
| ① 倍率方式による価額 | 固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した価額 |
| ② 規模格差補正を準用した価額 | 標準的な間口距離・奥行距離を有する宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額を路線価とし、普通住宅地区に所在するものとして計算した価額 |
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-倍率地域に所在する場合の評価方法
倍率地域で難しいのは、②の「標準的な1㎡当たりの価額」をどう把握するかという点です。国税庁は、近傍の固定資産税評価に係る標準宅地の1㎡当たりの価額を基に計算することが考えられるとしています。ただし、その標準宅地が固定資産税評価上の各種補正を受けている場合には、その補正がないものとした1㎡当たりの価額に基づいて計算するものとされています。
つまり倍率地域では、固定資産税評価額と倍率だけを見て終わりにするわけにはいきません。近傍標準宅地、標準的画地、固定資産税路線価、補正の有無といった点まで確認する必要があります。
除外要件|面積を満たしても対象外になる土地
地積規模の大きな宅地の評価では、面積要件を満たしていても、次のいずれかに該当すると対象外となります。
| 除外要件 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 市街化調整区域 | 例外的に宅地分譲開発可能な区域かどうか |
| 工業専用地域 | 用途地域図で確認する |
| 指定容積率が400%以上 | 東京都特別区は300%以上で対象外 |
| 大規模工場用地 | 財産評価基本通達22-2に該当するか |
市街化調整区域
市街化調整区域に所在する宅地は、原則として地積規模の大きな宅地から除かれます。ただし、都市計画法34条10号または11号に基づき、宅地分譲に係る開発行為を行うことができる区域については、除外対象から外れ、適用対象となる可能性があります。
この点を「市街化調整区域だから即対象外」と決めつけてしまうと、誤りが生じます。自治体の開発許可基準、都市計画情報、条例、区域指定を確認しておく必要があります。
工業専用地域
都市計画法上の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地は、対象外となります。工業専用地域は、戸建住宅用地としての分割分譲を想定するこの制度の趣旨に、なじみにくいためです。
評価対象地が複数の用途地域にまたがる場合には、注意が必要です。国税庁の質疑応答事例では、評価対象となる宅地が2以上の用途地域にわたる場合、その宅地の全部が、過半の属する用途地域に所在するものと判定するとされています。
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-計算例②(用途地域が工業専用地域とそれ以外の地域にわたる場合)
指定容積率
指定容積率が400%以上の地域に所在する宅地は対象外です。ただし、東京都の特別区では300%以上で対象外となります。
ここで特に気をつけたいのは、「指定容積率」で判定するという点です。
前面道路の幅員によって、実際に使える容積率、いわゆる基準容積率が指定容積率を下回ることがあります。しかし国税庁の質疑応答事例では、この評価の適用に係る容積率は指定容積率によって判定するとされています。指定容積率が400%以上、東京都特別区では300%以上であれば、基準容積率がそれを下回っていても、容積率要件を満たさないことになります。
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-基準容積率が指定容積率を下回る場合の容積率の判定
また、指定容積率の異なる2以上の地域にわたる場合には、各地域の指定容積率に、その地域内にある各部分の面積割合を乗じたものの合計によって判定します。
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-指定容積率の異なる2以上の地域にわたる場合の容積率の判定
規模格差補正率の考え方
地積規模の大きな宅地の評価では、地積に応じて規模格差補正率を求めます。
国税庁は、規模格差補正率を所定の算式により計算し、小数点以下第2位未満を切り捨てるとしています。
三大都市圏とそれ以外では、地積区分ごとの係数が異なります。
| 所在地域 | 地積区分 | B | C |
|---|---|---|---|
| 三大都市圏 | 500㎡以上1,000㎡未満 | 0.95 | 25 |
| 三大都市圏 | 1,000㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 75 |
| 三大都市圏 | 3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 225 |
| 三大都市圏 | 5,000㎡以上 | 0.80 | 475 |
| 三大都市圏以外 | 1,000㎡以上3,000㎡未満 | 0.90 | 100 |
| 三大都市圏以外 | 3,000㎡以上5,000㎡未満 | 0.85 | 250 |
| 三大都市圏以外 | 5,000㎡以上 | 0.80 | 500 |
この表からは、地積が大きいほど補正率が低くなる傾向が読み取れます。
ただし大切なのは、補正率だけに目を向けるのではなく、評価単位・地区区分・容積率・除外要件を満たしているかどうかを先に確認しておくことです。規模格差補正率の計算が正しくても、そもそも適用要件を満たしていなければ、その評価を採用することはできません。
共有地の場合|持分按分前の地積で判定する
共有地の場合、相続人が取得する持分に対応する面積だけで判定するのか、それとも共有地全体で判定するのかが問題になります。
国税庁の質疑応答事例では、複数の者に共有されている宅地については、共有者の持分に応じて按分する前の、共有地全体の地積によって地積規模を判定するとされています。
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-共有地の場合の地積規模の判定
たとえば、三大都市圏に所在する800㎡の共有宅地を、AとBが2分の1ずつ所有しているとします。各人の持分相当面積は400㎡ですが、地積規模の判定では按分前の共有地全体800㎡で判定するため、500㎡以上の面積要件を満たすことになります。
| 判定対象 | 地積 |
|---|---|
| 共有地全体 | 800㎡ |
| Aの持分相当 | 400㎡ |
| Bの持分相当 | 400㎡ |
| 地積規模の判定 | 共有地全体800㎡で判定 |
もっとも、共有地で適用できる可能性があることと、共有で承継すべきかどうかは、別の問題です。共有不動産は、売却、建替え、賃貸、管理、修繕、さらには二次相続の場面で問題を生じやすい財産です。評価上のメリットだけで共有を選ぶのではなく、将来の管理可能性まで見据えて検討する必要があります。
マンション敷地でも対象になる場合がある
旧広大地評価では、マンション適地に該当するかどうかが重要な論点でした。これに対して現行の地積規模の大きな宅地の評価では、マンション敷地であること自体を理由として、当然に対象外とする仕組みにはなっていません。
したがって、マンションの敷地であっても、面積要件、地区区分、指定容積率、用途地域、市街化調整区域、大規模工場用地などの要件を満たせば、地積規模の大きな宅地の評価を検討できます。
ただし、マンション敷地では次の点を確認します。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 敷地全体の地積 | 敷地権割合を乗じる前の地積で検討するか |
| 区分所有建物か | 敷地利用権・敷地権の内容を確認する |
| 指定容積率 | 東京都特別区では300%以上で対象外 |
| 地区区分 | 普通住宅地区・普通商業併用住宅地区か |
| 評価単位 | 敷地全体をどのように評価するか |
| 居住用区分所有財産の評価 | 令和6年以後のマンション評価見直しとの関係を別途確認する |
特に令和6年以後は、居住用区分所有財産の評価ルールも実務上重要になっています。地積規模の大きな宅地の評価と、居住用区分所有財産の評価は、同じマンションに関係していても、判断の目的が異なります。
マンションの相続税評価では、敷地の評価だけでなく、区分所有権、敷地利用権、補正計算、貸付の有無、そして小規模宅地等の特例との関係まで含めて整理する必要があります。
市街地農地等にも適用される場合がある
地積規模の大きな宅地の評価は、宅地だけにとどまりません。市街地農地、市街地周辺農地、市街地山林、市街地原野などにも関係してきます。
国税庁の質疑応答事例では、市街地農地について、地積規模の大きな宅地の評価の適用要件を満たす場合には対象となるとされています。市街地周辺農地、市街地山林、市街地原野についても、同様です。ただし路線価地域では、宅地の場合と同じく、普通商業・併用住宅地区および普通住宅地区に所在するものに限られます。
一方で、市街地農地等であっても、宅地へ転用するには多額の造成費を要し、経済合理性の観点から宅地への転用が見込めない場合や、急傾斜地などで宅地造成が物理的に不可能な場合には、戸建住宅用地としての分割分譲が想定されないため、地積規模の大きな宅地の評価の対象にはならないとされています。
ここで大切なのは、「農地だから使えない」でもなければ、「市街地農地だから必ず使える」でもない、ということです。宅地比準評価、造成費、農地法、都市計画、転用可能性、現況利用を総合して確認していきます。
相続対策で見落としやすい実務上の論点
1. 評価額と実際の売却価格は一致しない
地積規模の大きな宅地の評価は、あくまで相続税・贈与税の財産評価基本通達上の評価方法です。実際に売却する場合の市場価格とは一致しません。
広い土地は、評価のうえでは規模格差補正によって下がる一方、開発業者が高値で取得するような地域もあります。反対に、評価上は一定の減額ができても、接道、造成、インフラ、埋設物、土壌汚染、近隣調整といった事情から、実際には売却が難しいこともあります。
遺産分割では、相続税評価額だけでなく、時価、換金可能性、売却に要する期間、譲渡所得税、納税期限まで併せて検討する必要があります。
2. 代償分割では評価額の説明が重要になる
広い土地を長男が取得し、ほかの相続人へ代償金を支払うようなケースでは、土地の評価額が相続人間の公平感に大きく影響します。
税務上の評価額に規模格差補正を適用した結果、土地の評価額が低くなる場合には、ほかの相続人から「実際にはもっと高く売れるのではないか」という疑問が出ることがあります。反対に、取得する側からは「開発や売却に費用と時間がかかるため、相続税評価額でも高い」と感じられることもあります。
こうした場面では、次の情報を整理しておくと、説明がしやすくなります。
| 整理すべき情報 | 目的 |
|---|---|
| 相続税評価額 | 申告上の評価根拠 |
| 固定資産税評価額 | 公的評価の確認 |
| 近隣売買事例 | 時価感の確認 |
| 不動産会社の査定 | 売却可能性の確認 |
| 開発・造成費用 | 実質的な負担の把握 |
| 譲渡所得税の試算 | 売却後手取りの確認 |
| 納税資金 | 相続税を期限内に納付できるか |
| 二次相続 | 次世代で共有・未利用化しないか |
3. 小規模宅地等の特例とは別に判定する
地積規模の大きな宅地の評価と小規模宅地等の特例は、どちらも土地の相続税評価額に影響しますが、制度の目的と要件は異なります。
地積規模の大きな宅地の評価は、土地そのものの評価方法です。
これに対して小規模宅地等の特例は、一定の居住用・事業用・貸付用宅地等について、取得者や継続要件を満たす場合に評価額を減額する特例です。
広い自宅敷地や賃貸不動産の敷地では、まず土地の評価単位と地積規模の大きな宅地の評価を検討し、そのうえで小規模宅地等の特例の適用可否を検討する、という流れになります。どちらを先に考えるか、どの相続人が取得するか、未分割の場合にどう申告するかによって、税額と分割方針は大きく変わってきます。
4. 生前贈与では将来の相続税評価と分割に影響する
広い土地の一部を生前贈与する場合には、贈与時の評価だけでなく、将来の相続時に評価単位がどう変わるかまで確認しておく必要があります。
贈与によって土地が分割されると、各画地が地積規模の大きな宅地の面積要件を満たさなくなることがあります。一方で、その分割が不合理と判断されるような形状であれば、分割前の画地を基準に評価する可能性があります。
さらに、贈与税の負担、登録免許税、不動産取得税、将来の相続財産への加算、遺留分、特別受益、相続人間の不公平感も問題になり得ます。目先の評価減だけを見て土地を動かすことは、避けるべきです。
税務調査で説明できるように残すべき資料
地積規模の大きな宅地の評価を適用する場合には、計算結果だけでなく、なぜ適用できると判断したのかを説明できる資料が必要になります。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 固定資産税課税明細書 | 地番、地積、固定資産税評価額 |
| 登記事項証明書 | 所有者、地目、地積、共有持分 |
| 公図・地積測量図 | 筆界、形状、間口、奥行 |
| 現地写真 | 利用状況、建物、駐車場、農地、道路 |
| 路線価図 | 路線価、地区区分、借地権割合 |
| 評価倍率表 | 倍率地域での倍率確認 |
| 都市計画図 | 用途地域、市街化区域・調整区域 |
| 指定容積率資料 | 容積率要件の確認 |
| 開発許可関係資料 | 市街化調整区域での例外判定 |
| 建築計画概要書 | 既存建物・利用状況の確認 |
| 賃貸借契約書 | 貸家建付地・貸宅地との関係 |
| 管理資料 | 駐車場、賃貸物件、空地利用の実態 |
| 評価計算メモ | 評価単位、適用要件、採用数値の根拠 |
| 遺産分割協議書 | 取得者、分割後画地、代償金の確認 |
国税庁のチェックシートでは、地積規模の大きな宅地の評価を適用して申告する場合、そのチェックシートを「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」に添付して提出することとされています。
出典:国税庁|「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート
添付書類として提出するかどうかだけでなく、実務上は、判断の過程を残しておくことが重要です。評価単位をどう判断したのか、なぜ市街化調整区域の例外に該当すると考えたのか、地区区分をどう見たのか、容積率をどう判定したのか。こうした点を記録しておくことで、申告後の説明可能性は高まります。
避けたい短絡的判断
「500㎡以上だから使える」と考える
三大都市圏では500㎡以上が面積要件ですが、面積だけでは足りません。路線価地域では、地区区分、都市計画、指定容積率、大規模工場用地などを確認する必要があります。
「登記簿上の一筆で判定する」と考える
土地評価では、登記上の筆と評価単位が一致するとは限りません。複数筆を一体利用していれば一つの評価単位になることがありますし、一筆であっても利用状況によって分ける場合があります。
「共有持分の面積で判定する」と考える
共有地では、持分按分前の共有地全体の地積で判定します。ただし、共有で承継することの法務・管理上のリスクは、別途検討が必要です。
「マンション敷地だから対象外」と考える
現行制度では、マンション敷地であること自体を理由に、当然対象外となるわけではありません。指定容積率や地区区分などの要件で判断します。
「基準容積率が低いから対象になる」と考える
地積規模の大きな宅地の評価では、容積率の判定は指定容積率で行います。前面道路幅員による基準容積率が低くても、指定容積率が400%以上、東京都特別区では300%以上であれば、対象外となります。
「評価減できるように分ければよい」と考える
贈与や遺産分割による分割は、分割後画地で判定するのが原則です。しかし、著しく不合理な分割は、分割前画地で評価される可能性があります。税務上の評価だけでなく、実際の利用・売却・建築のうえでの合理性が求められます。
相談前に整理しておきたい情報
地積規模の大きな宅地の評価について相談する場合、次の情報を整理しておくと、初期の判断が進めやすくなります。
| 整理する情報 | 具体例 |
|---|---|
| 土地の所在地 | 地番、住居表示、市区町村 |
| 地積 | 登記地積、実測地積、固定資産税地積 |
| 利用状況 | 自宅、賃貸住宅、駐車場、農地、空地、事業用地 |
| 権利関係 | 自用地、貸宅地、貸家建付地、共有、借地権 |
| 評価方式 | 路線価地域か倍率地域か |
| 路線価図 | 路線価、地区区分、借地権割合 |
| 都市計画 | 用途地域、市街化区域・市街化調整区域 |
| 容積率 | 指定容積率、複数容積率地域の有無 |
| 開発制限 | 開発許可、接道、道路幅員、造成の要否 |
| 建物資料 | 建物配置図、建築確認、賃貸借契約 |
| 分割予定 | 誰が取得するか、売却予定があるか |
| 納税資金 | 売却・代償金・延納物納の検討有無 |
これらの情報がそろうと、「適用できるかどうか」だけでなく、「適用した評価額を遺産分割や納税資金計画にどう反映するか」というところまで、検討しやすくなります。
まとめ|地積規模の大きな宅地の評価は、面積ではなく判断順序が重要
地積規模の大きな宅地の評価は、広い土地の相続税評価において、大きな影響を持つ制度です。
しかし、広い土地だからといって、当然に使えるわけではありません。
まず評価単位を確定し、その土地が三大都市圏で500㎡以上、三大都市圏以外で1,000㎡以上の面積要件を満たすかどうかを確認します。そのうえで、路線価地域か倍率地域か、地区区分、市街化調整区域、工業専用地域、指定容積率、大規模工場用地、共有、マンション敷地、市街地農地等の論点を、順番に整理していきます。
評価減が可能な場合でも、それは税額だけの話ではありません。
広い土地を誰が取得するのか、共有にしてよいのか、売却して納税資金に充てるのか、代償金をどう支払うのか、そして二次相続で再び問題化しないか。これらをあわせて検討する必要があります。
相続税評価は、申告書に数字を入れる作業ではなく、後から説明できる根拠を積み上げていく作業です。地積規模の大きな宅地の評価では、特にその姿勢が問われます。
地積規模の大きな宅地の評価でお悩みの方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や生前贈与における土地評価について、評価単位、路線価・倍率、都市計画、容積率、共有、マンション敷地、市街地農地等の論点を整理し、申告後に説明できる評価根拠の作成を重視しています。
広い土地を相続する予定がある場合、相続税申告で地積規模の大きな宅地の評価を使えるか確認したい場合、あるいは遺産分割や売却・納税資金まで含めて検討したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|地積規模の大きな宅地の評価の重要ポイント
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 制度の位置づけ | 平成30年1月1日以後の相続・遺贈・贈与で、旧広大地評価に代わる制度として適用 |
| 面積要件 | 三大都市圏は500㎡以上、それ以外は1,000㎡以上 |
| 評価単位 | 利用の単位となる1画地ごとに判定する |
| 不合理分割 | 著しく不合理な分割は、分割前画地で評価される可能性がある |
| 路線価地域 | 普通住宅地区または普通商業・併用住宅地区が対象 |
| 倍率地域 | 倍率方式による価額と、規模格差補正を準用した価額の低い方で評価 |
| 市街化調整区域 | 原則対象外だが、一定の宅地分譲開発可能区域は例外 |
| 工業専用地域 | 対象外 |
| 指定容積率 | 400%以上、東京都特別区は300%以上で対象外 |
| 容積率判定 | 基準容積率ではなく指定容積率で判定する |
| 共有地 | 持分按分前の共有地全体の地積で判定する |
| マンション敷地 | 要件を満たせば対象となる可能性がある |
| 市街地農地等 | 宅地であるとした場合に要件を満たせば対象となるが、転用可能性に注意 |
| 遺産分割 | 評価額だけでなく、時価、売却可能性、代償金、共有リスクを確認する |
| 記録化 | チェックシート、都市計画資料、評価単位の判断メモを残す |