相続財産のなかに不動産がある場合、その土地が自分で使っている土地なのか、建物を建てて人に貸している土地なのか、土地そのものを他人に貸している土地なのか、あるいは借りている土地の上に建物を所有しているのか。こうした違いによって、相続税の評価は大きく変わってきます。
とりわけ、貸家建付地・貸宅地・借地権・使用貸借・同族会社への土地貸付がからむ土地は、路線価や固定資産税評価額をそのまま当てはめるだけでは評価できません。
たとえば同じ賃貸アパートでも、土地と建物の所有者が同じで、その建物を第三者に貸しているのであれば、敷地は「貸家建付地」として評価できる可能性があります。一方、親の土地に子が建物を建て、地代を払わずに使っているようなケースは、一般に使用貸借の問題となり、土地を貸家建付地として評価できるとは限りません。
さらに、被相続人が自分の同族会社に土地を貸している場合には、その貸借が賃貸借なのか使用貸借なのか、相当の地代を収受しているか、土地の無償返還に関する届出書があるか、といった事情によって、土地の評価だけでなく会社株式の評価にも影響が及びます。
この記事では、権利関係のある宅地の評価について、次の論点を中心に整理します。
| 論点 | この記事で扱うポイント |
|---|---|
| 貸家建付地 | アパート・賃貸マンション・貸ビルの敷地評価 |
| 貸宅地 | 借地権の目的となっている底地の評価 |
| 借地権 | 建物所有目的で土地を借りている側の権利評価 |
| 使用貸借 | 親族間で地代なし・公租公課程度で使用している土地の評価 |
| 賃貸割合 | 空室がある賃貸物件の評価にどう影響するか |
| 空室 | 一時的空室と、実質的な空き家・空室の違い |
| 同族会社貸付 | 相当地代、無償返還届出書、使用貸借の違い |
| 評価単位 | 貸家建付地・貸宅地・自用地が混在する場合の切り分け |
| 遺産分割・納税資金 | 評価額だけでなく承継後の管理・売却・収益をどう考えるか |
まず押さえたい全体像|「貸している土地」は一種類ではない
ひと口に「土地を貸している」「賃貸物件がある」といっても、相続税評価の上では、少なくとも次のように整理して考える必要があります。
| 状況 | 典型例 | 評価上の主な名称 |
|---|---|---|
| 土地所有者が建物も所有し、その建物を第三者に貸している | 被相続人所有の土地上に被相続人所有のアパートがあり、入居者に賃貸している | 貸家建付地 |
| 土地所有者が土地を他人に貸し、借主が建物を所有している | 被相続人が借地人に土地を貸し、借地人が自宅や店舗を建てている | 貸宅地、底地 |
| 被相続人が他人の土地を借り、建物を所有している | 被相続人が借地上に自宅・店舗を所有している | 借地権 |
| 親族間で地代を払わず土地を使っている | 親の土地に子が家を建てて無償で住んでいる | 使用貸借 |
| 被相続人が同族会社に土地を貸している | 社長個人所有地を自社の本社・工場・店舗敷地として使用 | 貸宅地、使用貸借、相当地代、無償返還届出書の論点 |
この切り分けを誤ると、評価額そのものはもちろん、小規模宅地等の特例、同族会社株式の評価、遺産分割、将来の売却、納税資金の検討まで、すべてがずれていきます。
たとえば、土地と建物の所有者が同じ賃貸アパートの敷地であれば、通常は貸家建付地の検討対象になります。これに対して、親の土地に子が建物を建て、その建物を子が他人に貸しているような場合は、親の土地について当然に貸家建付地評価ができるわけではありません。
土地所有者の側から見たとき、子に土地を使わせているその関係が、賃貸借なのか使用貸借なのか。まずはそこを確認する必要があるのです。
判断順序|計算式より先に、権利関係を確認する
権利関係のある宅地の評価では、いきなり計算式に進むのではなく、次の順序で事実を確認していきます。
| 順序 | 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 1 | 土地の所有者 | 被相続人が土地を所有しているか、借地権を持っているか |
| 2 | 建物の所有者 | 土地所有者と建物所有者が同じか、別人か |
| 3 | 建物の利用者 | 自宅、貸家、社宅、店舗、同族会社利用など |
| 4 | 契約関係 | 土地賃貸借、建物賃貸借、使用貸借、転貸借の有無 |
| 5 | 地代・権利金 | 通常地代、相当地代、無償、固定資産税相当額など |
| 6 | 借家人・借地人 | 誰がどの範囲を使用しているか |
| 7 | 空室・未利用部分 | 一時的空室か、継続的な空室・空き家か |
| 8 | 評価単位 | どこまでを1画地として評価するか |
| 9 | 特例・周辺論点 | 小規模宅地等、同族会社株式、納税資金、売却可能性 |
| 10 | 記録化 | 契約書、入居状況、地代入金、写真、評価メモを残す |
宅地は、利用の単位となっている1画地ごとに評価し、原則として、他者の権利の有無、権利の種類、権利者の違いによって区分する。これが国税庁の質疑応答事例で示されている考え方です。貸宅地と貸家建付地が同じ土地の上にある場合には、それぞれを1画地として評価する、という整理もなされています。
出典:国税庁|宅地の評価単位
出典:国税庁|宅地の評価単位-貸宅地と貸家建付地
貸家建付地とは|土地所有者が建物を貸している場合
貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地をいいます。典型的には、土地所有者が自分でアパート・賃貸マンション・貸ビルなどを建築し、その建物を入居者やテナントに貸しているときの敷地です。
貸家建付地の評価が自用地より低くなるのは、土地の上にある建物に借家人がいることで、土地所有者がその土地を自由に処分・利用しにくくなるためです。土地そのものを借地人に貸しているわけではありませんが、建物の賃貸借を通じて土地の利用に制約が生じます。その制約を評価に反映する、というわけです。
国税庁も、貸家建付地を「貸家の敷地の用に供されている宅地」と位置づけ、たとえば所有者が建築したアパートやビルなどを他に貸し付けている場合の敷地を例として挙げています。ただし、一般に借地借家法の適用がないとされる社宅の敷地については、貸家建付地評価ではなく自用地評価になるとされています。
貸家建付地の基本算式
貸家建付地の価額は、基本的に次の算式で評価します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 自用地としての価額 | 他人の権利がないものとして評価した土地の価額 |
| 借地権割合 | 路線価図・評価倍率表で確認する割合 |
| 借家権割合 | 借家人の権利を評価に反映する割合 |
| 賃貸割合 | 実際に賃貸されている独立部分の割合 |
貸家建付地の価額 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合
国税庁のタックスアンサーでも、貸家建付地の価額は「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」によって評価するとされています。
たとえば、自用地としての価額が1億円、借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%であれば、評価減に相当する額は1億円×60%×30%×100%=1,800万円。貸家建付地の価額は8,200万円ということになります。
ただし、この計算例は、あくまで仕組みを理解するために単純化したものです。実務では、まず路線価方式・倍率方式による自用地評価を行い、奥行補正、不整形地補正、評価単位、私道、セットバック、がけ地、地積規模の大きな宅地などを確認したうえで、はじめて貸家建付地評価へと進みます。
賃貸割合|空室があると評価額が変わる
貸家建付地の評価で見落とされやすいのが、この「賃貸割合」です。
賃貸マンションやアパートに空室がある場合、全室満室として評価してよいとは限りません。国税庁は、賃貸割合について、貸家に各独立部分があるときは、その各独立部分の賃貸状況に基づいて計算するとしています。ここでいう各独立部分とは、隔壁・扉・階層などによって他の部分と完全に遮断され、独立した出入口を有するなど、独立して賃貸その他の用に供することができる部分を指します。
賃貸割合の基本は、次の考え方です。
賃貸割合 = 課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計 ÷ 貸家の各独立部分の床面積の合計
たとえば10室のアパートのうち8室が賃貸中で、各部屋の床面積が同じであれば、単純に計算すると賃貸割合は80%です。この場合、貸家建付地の評価減も、満室の場合より小さくなります。
一時的な空室は賃貸中として扱える場合がある
もっとも、課税時期にたまたま空室があったからといって、その部分を常に賃貸割合から除外するわけではありません。
国税庁は、継続的に賃貸されていた各独立部分のうち、課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められるものについては、課税時期においても賃貸されていたものとして取り扱って差し支えないとしています。
一時的空室に該当するかどうかは、次のような事実関係から判断します。
| 確認事項 | 見るべき資料・事実 |
|---|---|
| 課税時期前に継続的に賃貸されていたか | 過去の賃貸借契約書、入金履歴、入居者一覧 |
| 退去後すぐ募集しているか | 募集広告、管理会社資料、媒介契約 |
| 空室期間中に他用途へ転用していないか | 物置利用、親族利用、事務所利用の有無 |
| 空室期間が一時的か | 課税時期前後1か月程度など短期間か |
| 課税時期後の賃貸が一時的でないか | 新たな契約期間、入居実績、賃料入金 |
国税庁の質疑応答事例でも、賃貸割合は原則として課税時期に実際に賃貸されている部分の床面積で算定する一方、一時的な空室部分は実際に賃貸されている部分に加えて算定して差し支えない、とされています。
ここで大切なのは、「空室があるか」ではなく、「なぜ空室なのか」「どのくらいの期間なのか」「募集の実態があるか」「賃貸事業として継続しているか」という点です。相続税の申告にあたっては、空室の部屋番号、退去日、募集開始日、入居決定日、管理会社の資料を確認し、評価メモとして残しておくと、後の説明がしやすくなります。
貸家建付地で誤りやすいケース
1. 親族への形式的な賃貸
親族に建物を貸している場合でも、契約書があるか、相当の賃料を収受しているか、実際に入金されているか、生活の実態があるかを確認します。
形式上は賃貸借契約になっていても、賃料が極端に低い、入金がない、使用の実態が曖昧、契約書だけ相続直前に作成した、といった事情があると、貸家建付地評価の前提となる借家権の実体が問われることになります。
2. 社宅・役員社宅
国税庁は、一般に借地借家法の適用がないとされる社宅の敷地については、貸家建付地評価を行わず、自用地として評価するとしています。したがって、同族会社の役員や従業員を住まわせている建物については、それが社宅なのか、通常の賃貸借なのかを確認する必要があります。
3. 駐車場部分
アパートやマンションに付随する駐車場がある場合、それが入居者専用の駐車場なのか、外部にも貸している月極駐車場なのか、コインパーキングなのかによって、評価単位や貸家建付地評価の対象範囲が問題になります。
入居者専用駐車場として建物賃貸と一体で利用されている場合と、外部貸し駐車場として独立した収益単位になっている場合とでは、評価単位が異なる可能性があります。固定資産税資料だけでなく、現地写真、駐車区画図、賃貸借契約、管理会社資料まで確認しておきます。
4. 建物が建築中・賃貸開始前
賃貸用の建物を建築中で、まだ借家人がいない場合には、貸家建付地評価の前提となる借家権が発生しているかどうかが問題になります。単に「賃貸予定」であるというだけで、貸家建付地評価ができるわけではありません。
このようなケースでは、建築請負契約、完成時期、募集状況、賃貸開始日、相続開始時点の状況を整理し、評価通達や質疑応答事例に照らして慎重に判断していきます。
貸宅地とは|土地を他人に貸し、借主が建物を所有している場合
貸宅地とは、借地権など、宅地の上に存する権利の目的となっている宅地をいいます。いわゆる「底地」と呼ばれることもあります。
典型例は、被相続人が土地を所有し、借地人がその土地の上に建物を建てている場合です。このとき土地所有者は土地を所有してはいるものの、借地人の権利があるために、自由に明け渡しを求めたり、更地として売却したりすることが難しくなります。その制約を評価に反映するのが、貸宅地評価です。
国税庁は、貸宅地を「借地権など宅地の上に存する権利の目的となっている宅地」と位置づけ、借地権の目的となっている宅地の価額を「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」によって評価するとしています。
貸宅地の基本算式
普通借地権の目的となっている貸宅地の基本的な評価は、次のとおりです。
貸宅地の価額 = 自用地としての価額 - 自用地としての価額 × 借地権割合 = 自用地としての価額 ×(1-借地権割合)
たとえば、自用地としての価額が1億円、借地権割合が60%であれば、貸宅地の価額は4,000万円となります。
ただし、ここでいう借地権割合は、実際の売買価格を保証するものではありません。あくまで相続税評価のための割合であって、底地の売却価格、借地権の買戻し価格、借地権者との交渉価格とは一致しないことがあります。遺産分割や売却を予定する場合には、相続税評価額と市場価値とを分けて考えておく必要があります。
借地権とは|土地を借りて建物を所有している側の権利
被相続人が土地を借り、その土地の上に建物を所有している場合には、土地そのものではなく「借地権」が相続財産になります。
国税庁は、借地権とは建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいい、相続税や贈与税の課税対象になるとしています。借地権の価額は、借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、借地権割合を乗じて求めます。
借地権の基本算式
借地権の価額 = 自用地としての価額 × 借地権割合
たとえば、自用地としての価額が1億円、借地権割合が60%であれば、借地権の評価額は6,000万円となります。
このとき、土地所有者側の貸宅地評価は4,000万円、借地人側の借地権評価は6,000万円という関係になります。もっとも、これは評価通達上の基本構造であって、実際の売買では、地代の水準、契約期間、更新料、建替え承諾、譲渡承諾、借地人と地主の関係などによって価格が変わってきます。
借地権で確認すべき資料
借地権が相続財産に含まれる場合には、次の資料を確認します。
| 資料 | 確認事項 |
|---|---|
| 土地賃貸借契約書 | 借地期間、地代、更新、譲渡・転貸制限 |
| 地代支払履歴 | 地代の実際の支払状況 |
| 権利金・更新料資料 | 借地権価額や契約実態の確認 |
| 建物登記簿 | 借地上建物の所有者 |
| 固定資産税資料 | 建物評価、敷地所在地 |
| 路線価図・評価倍率表 | 借地権割合 |
| 地主との覚書 | 建替え、承諾料、無償返還、立退き合意 |
| 借地権の譲渡・転貸資料 | 過去の権利移動の有無 |
借地権は、評価額が大きくなりやすい一方で、換金にあたっては地主の承諾や買主との調整が必要になることがあります。相続税評価額だけを見て遺産分割を決めてしまうと、取得した相続人が、後になって売却や建替えの場面で困ってしまうこともあるのです。
使用貸借|親族間の無償利用は評価減にならないことが多い
相続の実務で非常に多いのが、親の土地に子が家を建てて住んでいる、あるいは親の土地を親族が無償で使っている、というケースです。
このような場合、地代を支払っていない、または固定資産税相当額程度しか支払っていないのであれば、賃貸借ではなく使用貸借として扱うことがあります。
国税庁の使用貸借通達では、建物等の所有を目的として使用貸借により土地を借り受けた場合、借地権の慣行がある地域であっても、その使用貸借に係る使用権の価額はゼロとして取り扱うとされています。また、土地の借受者と所有者との間で、公租公課相当額以下の金額の授受があるにすぎないものは、使用貸借に該当するとされています。
出典:国税庁|使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて
使用貸借で押さえておきたいのは、土地を使っている人の側に権利価値が認められにくい反面、土地所有者側の土地評価も、原則として自用地評価になりやすいという点です。
国税庁は、使用貸借で借り受けた土地の上に建築した家屋を貸家としている場合であっても、その敷地の贈与を受けたときは、貸家建付地ではなく自用地の贈与を受けたことになるとしています。これは、使用貸借によって土地を使用する権利の価額が、ゼロとして取り扱われるためです。
出典:国税庁|No.4553 使用貸借に係る土地を贈与により取得したとき
使用貸借で誤りやすい判断
| 誤解 | 実務上の考え方 |
|---|---|
| 子が家を建てているから親の土地は貸宅地になる | 地代・契約実態を確認し、使用貸借なら原則として自用地評価の検討 |
| 子が建物を人に貸しているから親の土地は貸家建付地になる | 土地所有者が貸家を所有しているわけではないため、当然には貸家建付地にならない |
| 固定資産税相当額を払っているから賃貸借になる | 公租公課相当額以下なら使用貸借に該当する可能性がある |
| 契約書がないから評価に影響しない | 契約書がないほど実態確認が重要になる |
| 親族間だから税務上問題にならない | むしろ親族間は税務調査で実質を確認されやすい |
使用貸借は、相続税評価だけでなく、遺産分割の場面でも問題になります。特定の相続人が長年にわたって無償で土地を利用してきた場合、他の相続人から不公平感が出ることがあるからです。民法上は特別受益や使用利益の問題として議論されることもあり、税務上の評価と家族間の納得とは、必ずしも一致しません。
同族会社への土地貸付|賃貸借・使用貸借・無償返還届出書を分けて考える
被相続人が自分の同族会社に土地を貸している場合、評価はさらに複雑になります。
典型例は、社長個人が土地を所有し、その土地を自社の本社・工場・店舗・倉庫・駐車場などとして使わせているケースです。この場合、土地の評価だけにとどまらず、同族会社株式の純資産価額評価にまで影響することがあります。
確認すべきポイントは、少なくとも次のとおりです。
| 確認事項 | 評価上の意味 |
|---|---|
| 土地賃貸借契約書があるか | 賃貸借か使用貸借かの入口 |
| 地代を実際に支払っているか | 通常地代、相当地代、無償の区分 |
| 権利金の授受があるか | 借地権設定時の課税関係 |
| 無償返還届出書があるか | 借地権価額・貸宅地価額の判断 |
| 地代改定の有無 | 相当地代維持の確認 |
| 会社株主構成 | 同族会社株式評価への影響 |
| 小規模宅地等の特例 | 特定同族会社事業用宅地等の検討 |
| 使用実態 | 会社事業用か、貸付用か、遊休地か |
相当の地代を収受している場合
国税庁の相当地代通達では、借地権の設定に際して、権利金の支払に代えて、その土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代を支払っている場合、借地権者については借地権設定による利益はないものとして取り扱うとされています。
出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
そして、相当の地代を収受している貸宅地については、権利金を収受していない場合または特別の経済的利益を受けていない場合、その土地の自用地としての価額の80%相当額で評価するとされています。
出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
無償返還届出書が提出されている場合
同族会社への土地貸付では、「土地の無償返還に関する届出書」が提出されていることがあります。
この届出書がある場合、相当地代通達では、借地権の価額はゼロとして取り扱うとされています。また、無償返還届出書が提出されている貸宅地の価額は、自用地としての価額の80%相当額で評価するとされています。
出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
ただし、ここで注意したいのが、賃貸借なのか使用貸借なのか、という点です。無償返還届出書があっても、土地の貸借が使用貸借である場合には、その貸宅地の価額は自用地としての価額によって評価するとされています。
出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて
つまり、同族会社への土地貸付については、次のように整理することになります。
| 土地の利用態様 | 土地所有者側の評価の方向性 |
|---|---|
| 通常の借地権が成立し、通常地代 | 原則として貸宅地評価 |
| 相当の地代を収受 | 自用地価額の80%相当額などの検討 |
| 無償返還届出書あり・賃貸借 | 自用地価額の80%相当額などの検討 |
| 無償返還届出書あり・使用貸借 | 自用地評価の検討 |
| 地代なし・契約実態不明 | 使用貸借、認定課税、株式評価への影響を確認 |
同族会社への土地貸付は、「土地評価だけ」で完結するものではありません。会社側に借地権価額を認識する必要があるか、純資産価額方式による非上場株式の評価にどう影響するか、小規模宅地等の特例のうち特定同族会社事業用宅地等に該当するか。こうした複数の論点が、互いに連動してきます。
本記事では土地評価の入口に絞って解説していますが、同族会社が関係する場合には、小規模宅地等の特例や非上場株式の評価と必ず接続させたうえで検討する必要があります。
評価単位|貸宅地・貸家建付地・自用地が混在する土地は分けて考える
権利関係のある土地では、評価単位の判断が、そのまま税額に直結します。
たとえば、1筆の土地のなかに、次のような利用が混在していることがあります。
| 土地の一部 | 利用状況 | 評価の方向性 |
|---|---|---|
| A部分 | 借地人に土地を貸している | 貸宅地 |
| B部分 | 被相続人所有のアパート敷地 | 貸家建付地 |
| C部分 | 被相続人の自宅敷地 | 自用地 |
| D部分 | 外部貸し月極駐車場 | 雑種地または宅地等の検討 |
| E部分 | 入居者専用駐車場 | 貸家敷地との一体性を確認 |
国税庁の質疑応答事例では、所有する宅地の一部を他人に貸し付け、他の部分を貸家の敷地として使用している場合には、それぞれを1画地の宅地として評価するとされています。その理由として、貸宅地部分には借地権、貸家建付地部分には借家権という他人の権利が存在し、権利者も異なるため、利用の単位が異なるという点が挙げられています。
評価単位を誤ると、次のような問題が生じます。
| 誤り | 影響 |
|---|---|
| 貸宅地と貸家建付地を一体評価してしまう | 借地権者・借家人の権利差を反映できない |
| 自用地と貸家建付地を一体評価してしまう | 貸家建付地の評価減の範囲を誤る |
| 入居者専用駐車場と外部貸し駐車場を区別しない | 評価単位・地目・貸家建付地該当性を誤る |
| 複数棟アパートを全体でまとめて評価する | 原則として各棟敷地ごとの検討が必要な場合がある |
| 登記簿上の筆だけで評価する | 実際の利用単位とずれる |
土地の評価は、登記簿上の筆ではなく、現況・利用状況・権利関係に基づく評価単位で考える必要があります。複数の筆が一体で利用されていれば一体評価となることがあり、逆に1筆であっても利用や権利が分かれていれば、分けて評価することがあるのです。
借地権・貸宅地の評価と遺産分割のずれ
借地権や貸宅地は、相続税評価額と家族間の納得感とがずれやすい財産です。
たとえば貸宅地は、借地権割合を控除するため、相続税評価額は低くなりやすい一方で、地代収入は少額にとどまり、売却するにも借地人との調整が必要になります。相続人の一人が貸宅地を取得した場合、他の相続人からは「土地をもらった」と見られる一方、取得した本人からは「自由に使えず、収益性も低い」と感じられる。そんな食い違いが起こりがちです。
逆に借地権は、土地の所有権ではないものの、評価額が大きくなることがあります。被相続人が借地上の自宅や店舗を所有していた場合には、その借地権を誰が取得するのか、建物を使い続けるのか、それとも売却するのか、地主の承諾が必要なのかを確認しておかなければなりません。
| 財産 | 税務評価上の特徴 | 遺産分割上の注意点 |
|---|---|---|
| 貸宅地 | 借地権割合を控除して評価 | 収益性・換金性が低いことがある |
| 借地権 | 自用地価額×借地権割合で評価 | 地主承諾・建替え・譲渡制限を確認 |
| 貸家建付地 | 借家権相当の制約を反映 | 空室・修繕・管理負担を誰が負うか |
| 使用貸借地 | 原則として自用地評価になりやすい | 利用者である相続人との公平性が問題 |
| 同族会社貸付地 | 地代・届出・会社株式評価が連動 | 後継者・非後継者間の公平性に注意 |
相続税評価額だけで分割を決めてしまうと、取得後の収益、管理の負担、売却の可能性、納税資金の負担といった視点が抜け落ちてしまいます。とりわけ貸地・借地権・賃貸不動産は、税額の試算と同時に、将来のキャッシュフローと処分の可能性まで確認しておくことが大切です。
小規模宅地等の特例との関係
貸家建付地や貸宅地がある場合には、小規模宅地等の特例の検討も必要になることがあります。
たとえば、被相続人が賃貸アパートを所有していた場合には、その敷地について貸付事業用宅地等の適用を検討します。同族会社に事業用として土地を貸している場合であれば、特定同族会社事業用宅地等の検討が必要になることもあります。
ただし、土地の評価と小規模宅地等の特例とは、あくまで別の判断です。
まずは、貸家建付地・貸宅地・使用貸借・自用地などとして、土地の評価額を整理します。そのうえで、相続人の誰が取得するのか、申告期限まで所有や事業の継続といった要件を満たすのか、未分割ではないか、限度面積の選択をどうするか、といった点を確認していきます。
評価額が下がるからといって、誰が取得しても特例が使えるわけではありません。むしろ賃貸不動産や同族会社への貸付地では、取得者を誰にするかが、税額、納税資金、事業承継、二次相続にまで大きく影響します。
税務調査で確認されやすい資料
貸家建付地・貸宅地・借地権がある土地では、税務調査において「計算式」よりも「前提となる事実」を確認されることが少なくありません。
| 論点 | 準備すべき資料 |
|---|---|
| 貸家建付地 | 建物賃貸借契約書、入居者一覧、賃料入金履歴、管理会社資料 |
| 賃貸割合 | 各部屋の床面積、空室期間、募集資料、退去日・入居日 |
| 貸宅地 | 土地賃貸借契約書、地代入金履歴、更新料・権利金資料 |
| 借地権 | 借地契約書、地代支払履歴、地主承諾書、建物登記簿 |
| 使用貸借 | 親族間の使用実態、公租公課負担、契約書・確認書 |
| 同族会社貸付 | 土地賃貸借契約書、地代計算、無償返還届出書、会社決算書 |
| 評価単位 | 公図、地積測量図、建物配置図、現地写真 |
| 駐車場 | 駐車場契約書、区画図、入居者専用か外部貸しか |
| 小規模宅地等 | 取得者、利用継続、所有継続、申告添付資料 |
| 申告後説明 | 評価明細書、判断メモ、採用した資料の保存 |
とりわけ空室のある賃貸物件では、相続開始時点の入居状況だけでなく、その前後の動きが重要になります。退去日、募集開始日、広告掲載、内見記録、入居申込日、契約日、入居開始日などを整理しておけば、「一時的空室」と判断した理由を、後から説明しやすくなります。
同族会社への土地貸付については、契約書と実際の地代入金が一致しているか、地代が長期間据え置かれていないか、無償返還届出書の内容と実態が合っているか、会社側の会計処理と整合しているか。こうした点を確認しておく必要があります。
生前対策で注意すべきこと
賃貸不動産や貸地は、生前対策として活用されることがあります。代表的なものとしては、アパート建築、不動産管理会社への貸付、子への建物贈与、土地の一部贈与、同族会社への土地貸付などが挙げられます。
しかし、権利関係のある土地では、目先の評価減だけで判断してしまうと、後になって次のような問題が起こることがあります。
| 生前対策 | 後から問題になりやすい点 |
|---|---|
| アパート建築 | 空室、借入金返済、修繕負担、収益性 |
| 建物を子へ贈与 | 土地が使用貸借となり、土地評価減が想定どおりにならない可能性 |
| 土地を子へ贈与 | 贈与税、不動産取得税、登録免許税、相続時加算 |
| 同族会社へ土地貸付 | 地代、無償返還届出書、株式評価、小規模宅地等 |
| 貸地整理 | 借地人交渉、立退料、譲渡所得、共有化リスク |
| 共有で承継 | 管理・売却・建替えの意思決定が難しくなる |
相続対策では、税額の軽減だけでなく、争族の防止、納税資金、資産を管理し続けられるかどうかを、一体で考える必要があります。賃貸不動産は評価額が下がる可能性がある一方で、借入金、空室、修繕、管理、そして相続人の負担も同時に発生するからです。税額だけを見て不動産活用を進めてしまうと、相続人にとっては「税金は下がったけれど、管理の難しい財産を承継した」という結果に終わってしまうこともあります。
避けたい短絡的判断
「賃貸物件だから必ず貸家建付地になる」と考える
土地と建物の所有者、建物の賃貸借、借家権の有無、社宅該当性、空室状況を確認する必要があります。
「親族が使っているから評価減できる」と考える
親族間で地代がない、または固定資産税相当額程度であれば、使用貸借として自用地評価になる可能性があります。
「空室はすべて賃貸中としてよい」と考える
一時的空室として扱うには、継続賃貸、速やかな募集、短期間、他用途利用なし、課税時期後の賃貸継続といった事実が必要です。
「同族会社に貸しているから貸宅地でよい」と考える
賃貸借か使用貸借か、相当地代か、無償返還届出書があるか、会社株式の評価にどう反映されるかを確認します。
「借地権割合で市場価格も決まる」と考える
借地権割合は、あくまで相続税評価のための基準です。実際の売買価格や遺産分割上の価額は、個別の事情によって異なります。
「契約書があるから実態確認は不要」と考える
契約書、入金履歴、使用状況、管理状況が整合しているかを確認します。とりわけ親族間・同族会社間では、形式だけでなく実態が問われます。
相談前に整理しておきたい情報
貸家建付地・貸宅地・借地権がある土地について相談する場合、次の資料を整理しておくと、評価の判断がスムーズに進みます。
| 資料・情報 | 確認する内容 |
|---|---|
| 固定資産税課税明細書 | 土地・建物の所在地、地積、評価額 |
| 登記事項証明書 | 土地所有者、建物所有者、地目、持分 |
| 公図・測量図 | 筆界、利用範囲、接道、形状 |
| 建物配置図 | 建物ごとの敷地範囲 |
| 建物賃貸借契約書 | 借家人、賃料、契約期間、用途 |
| 土地賃貸借契約書 | 借地人、地代、権利金、更新条件 |
| 地代・賃料入金履歴 | 実際の支払い状況 |
| 入居者一覧 | 課税時期の賃貸状況 |
| 空室資料 | 退去日、募集資料、入居日 |
| 駐車場契約書 | 入居者専用か外部貸しか |
| 無償返還届出書 | 同族会社貸付の有無 |
| 同族会社資料 | 決算書、株主名簿、土地利用状況 |
| 現地写真 | 利用状況、建物、駐車場、空地 |
| 遺産分割方針 | 誰が取得するか、売却予定があるか |
| 納税資金 | 賃料収入、現預金、売却可能性 |
これらの資料がそろえば、単に評価額を計算するだけでなく、誰がその不動産を承継すべきか、共有にしてよいか、売却や代償分割を検討すべきか、二次相続で問題が残らないか、といった点まで検討しやすくなります。
まとめ|権利関係のある土地評価は、契約実態と将来承継を同時に見る
貸家建付地・貸宅地・借地権がある土地の評価では、計算式そのもの以上に、その前提となる権利関係の確認が重要になります。
貸家建付地であれば、土地所有者が建物を所有し、その建物が借家権の目的となっているかを確認します。貸宅地であれば、借地権の目的となっている土地か、地代や権利金の授受がどうなっているかを確認します。借地権であれば、被相続人がどのような権利を持ち、地主との契約関係がどうなっているかを確認します。使用貸借であれば、評価減を安易に見込まず、土地使用権の価額がゼロとされる取扱いを踏まえて検討します。そして同族会社への土地貸付であれば、土地の評価、会社株式の評価、小規模宅地等の特例、事業承継までが一本につながっていきます。
相続税の評価は、税額を下げるためだけの作業ではありません。相続人に説明できる分割、申告後に説明できる評価の根拠、そして将来にわたって管理できる不動産の承継。それらを実現するための、判断材料なのです。
貸している土地、貸している建物、借りている土地がある場合には、「何となく賃貸不動産だから評価減できる」と考えるのではなく、契約、入金、現況、権利者、評価単位を一つずつ確認していくこと。その積み重ねが大切です。
貸家建付地・貸宅地・借地権の評価でお悩みの方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や生前贈与における不動産評価について、土地と建物の所有関係、賃貸借契約、使用貸借、空室状況、同族会社への土地貸付、評価単位、小規模宅地等の特例との関係を整理し、申告後に説明できる評価根拠の作成を重視しています。
賃貸アパート・貸ビル・貸地・借地権・同族会社利用地がある場合は、評価額だけでなく、遺産分割、納税資金、二次相続、将来の売却・管理まで含めて検討する必要があります。ご自身の不動産について、どの評価方法が適切か、資料をどこまで整えるべきか、相続人の間でどのように説明すべきかを整理したいときは、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|貸家建付地・貸宅地・借地権評価の重要ポイント
| 論点 | 振り返り |
|---|---|
| 最初に確認すること | 土地所有者、建物所有者、利用者、契約、地代、権利者を整理する |
| 貸家建付地 | 土地所有者が建物を所有し、その建物を第三者に貸している場合に検討する |
| 貸家建付地の算式 | 自用地価額-自用地価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合 |
| 賃貸割合 | 各独立部分の賃貸状況に基づき計算する |
| 一時的空室 | 継続賃貸、速やかな募集、短期間、他用途利用なし、課税時期後の賃貸継続を確認する |
| 貸宅地 | 借地権など宅地上の権利の目的となっている宅地 |
| 貸宅地の算式 | 自用地価額-自用地価額×借地権割合 |
| 借地権 | 建物所有目的の地上権または土地賃借権で、相続税・贈与税の課税対象 |
| 借地権の算式 | 自用地価額×借地権割合 |
| 使用貸借 | 使用権の価額はゼロとして扱われ、土地は自用地評価となることが多い |
| 親族間利用 | 地代、契約書、使用実態、公租公課負担を確認する |
| 同族会社貸付 | 賃貸借か使用貸借か、相当地代か、無償返還届出書があるかを確認する |
| 無償返還届出書 | 賃貸借なら貸宅地80%評価等を検討するが、使用貸借なら自用地評価に注意 |
| 評価単位 | 貸宅地、貸家建付地、自用地は権利関係・権利者ごとに分けて考える |
| 駐車場 | 入居者専用か外部貸しかで評価単位が変わる可能性がある |
| 遺産分割 | 税務評価額と実際の換金性・収益性・管理負担は一致しない |
| 税務調査対策 | 契約書、入金履歴、空室資料、現地写真、評価判断メモを残す |