上場株式やETF、REIT、公募株式投資信託などを売却して損失が出たとき、「赤字なのだから申告は必要ないだろう」と考える方は少なくありません。
たしかに、売却損だけを見れば、その年に納める税金が発生しないケースは多いものです。ただ、上場株式等の譲渡損失は、一定の要件を満たせば、上場株式等の配当等と損益通算したり、控除しきれなかった損失を翌年以後3年間にわたって繰り越したりできる場合があります。
一方で、申告すれば必ず有利になる、というわけでもありません。申告をきっかけに、住民税や国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料、さらには扶養判定や配偶者控除にまで影響が及ぶことがあります。とりわけ令和6年度分以後は、所得税と住民税で異なる課税方式を選びにくくなりました。以前の感覚のまま判断してしまうと、思わぬ不利益につながることもあります。
この記事では、上場株式等の譲渡損失について、配当等との損益通算、翌年以後への繰越控除、そして申告する・しないをどう判断するかという軸を整理していきます。なお、本稿で扱うのは、上場株式等の金融所得に関する基本的な所得税・住民税の判断です。非上場株式、ストックオプション、暗号資産、FX・先物取引、国外証券口座、相続取得株式の取得費、個別銘柄の投資判断までは対象としていません。
まず確認すべきこと|「損失が出た」だけでは判断できない
上場株式等で損失が出たとき、はじめに確認していただきたいのは、次の点です。
| 確認事項 | なぜ重要か |
|---|---|
| どの口座で損失が出たか | 特定口座、一般口座、NISAで扱いが変わる |
| その損失は金融商品取引業者等を通じた譲渡か | 相対取引などでは損益通算・繰越控除の対象外となることがある |
| 同じ年に上場株式等の配当等があるか | 申告分離課税を選択すれば通算できる場合がある |
| 他の証券口座で譲渡益があるか | 口座間で通算するには申告が必要になることがある |
| 過年度から繰り越した譲渡損失があるか | 当年の譲渡益・配当等から控除できる可能性がある |
| NISA口座の損失かどうか | NISAの損失は損益通算・繰越控除できない |
| 申告による住民税・国保等への影響 | 還付額より周辺負担の増加が大きくなることがある |
上場株式等の譲渡損失は、あらゆる所得と自由に相殺できるものではありません。給与所得、事業所得、不動産所得、一時所得、雑所得などとは、原則として通算できないのです。同じ金融所得の中でも、上場株式等、一般株式等、NISA、相対取引、そして配当等の申告方式によって、扱いは細かく分かれていきます。
上場株式等の譲渡損失でできること
上場株式等を金融商品取引業者等を通じて譲渡したことで生じた譲渡損失は、確定申告を行うことで、その年分の上場株式等に係る配当所得等の金額と損益通算できる場合があります。さらに、損益通算してもなお控除しきれない損失は、翌年以後3年間にわたって、確定申告により、上場株式等に係る譲渡所得等の金額および上場株式等に係る配当所得等の金額から繰越控除することができます。
出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
整理すると、次のようになります。
| 制度 | できること | 申告の要否 |
|---|---|---|
| 同一年内の譲渡益との通算 | 他の上場株式等の譲渡益と損失を相殺 | 口座内で完結する場合もあるが、口座間通算は申告が必要になることがある |
| 配当等との損益通算 | 上場株式等の配当等と譲渡損失を相殺 | 原則として確定申告が必要 |
| 繰越控除 | 控除しきれない損失を翌年以後3年間繰り越す | 損失発生年から連続申告が必要 |
| 過年度損失の控除 | 過去に繰り越した損失を当年の譲渡益・配当等から控除 | 控除を受ける年も申告が必要 |
ここで押さえておきたいのは、損失があるからといって、自動的に翌年へ繰り越されるわけではない、という点です。損失を税務上使っていくには、確定申告でその損失を申告し、翌年以後も必要な申告を続けていく必要があります。
損益通算できるもの・できないもの
上場株式等の譲渡損失は、通算できる相手が限られています。
| 損失の相手方 | 通算できるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 上場株式等の譲渡益 | できる | 特定口座内で自動通算される場合もある |
| 上場株式等の配当等 | できる場合がある | 配当所得については申告分離課税を選択したものに限る |
| 特定公社債等の利子等 | できる場合がある | 上場株式等に係る配当所得等に含まれるものを確認 |
| 一般株式等の譲渡益 | 原則できない | 上場株式等の損失を一般株式等の利益から控除できない |
| 給与所得 | できない | 金融所得内の制度であり給与とは通算できない |
| 事業所得・不動産所得 | できない | 事業赤字や不動産赤字とは別制度 |
| 雑所得 | できない | 暗号資産や副業雑所得との通算はできない |
| NISA口座の譲渡益・配当等 | できない | NISAは非課税口座内で完結する |
| NISA口座の譲渡損失 | 使えない | 損益通算・繰越控除の対象外 |
上場株式等に係る譲渡所得等の赤字は、一般株式等に係る譲渡所得等の黒字から控除することはできません。また、上場株式等の譲渡損失と上場株式等に係る配当所得等との損益通算は、確定申告書にその旨を記載し、一定の明細書等を添付することによって行います。
出典:国税庁|No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い
この点を取り違えると、「株で損したのだから給与と相殺できるはずだ」「NISAの損を特定口座の利益と相殺しよう」といった、誤った申告判断につながってしまいます。
配当等と通算するには、申告分離課税の選択が重要になる
上場株式等の配当等には、申告不要、総合課税、申告分離課税という選択が関わってきます。
譲渡損失と配当等を通算したい場合、対象となる配当所得は、申告分離課税を選択したものに限られます。総合課税を選んだ配当所得や、申告不要とした配当所得は、上場株式等の譲渡損失との損益通算の対象にはなりません。
| 配当等の申告方法 | 譲渡損失との通算 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 申告不要 | できない | 源泉徴収だけで完結させる扱い |
| 総合課税 | できない | 配当控除を検討できるが、譲渡損失との通算は不可 |
| 申告分離課税 | できる場合がある | 税率は20.315%。配当控除は使えない |
| 大口株主等の配当 | 申告分離課税不可 | 総合課税の対象となる |
上場株式等の配当等については、一定の大口株主等が受けるものを除き、総合課税に代えて申告分離課税を選択できます。申告する上場株式等の配当等は、その全額について総合課税と申告分離課税のいずれかを選ぶ必要があり、申告分離課税の税率は20.315%です。
出典:国税庁|No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度
配当控除を使うために総合課税を選ぶのか、それとも譲渡損失と通算するために申告分離課税を選ぶのか。ここは、所得水準や他の所得、所得控除、住民税、社会保険料への影響まで含めて比較したうえで決めていく必要があります。
「損失があるのだから配当も申告すればよい」と単純に割り切るのではなく、配当の申告方式をどう選ぶかが、実は判断の分かれ目になります。
特定口座・源泉徴収ありの場合|口座内通算と確定申告の違い
特定口座・源泉徴収ありの口座では、同じ証券会社の同じ源泉徴収口座内で生じた譲渡損益について、証券会社が年間損益を計算し、源泉徴収や還付の調整を行ってくれます。
加えて、その源泉徴収口座に上場株式等の利子等・配当等を受け入れる選択をしている場合、口座内で譲渡損失が生じているときは、源泉徴収税額の計算上、配当等から譲渡損失を控除した金額をもとに税額が計算されます。
出典:国税庁|No.1476 特定口座制度
ただ、ここで混同しやすいのが、「口座内通算」と「確定申告による繰越控除」の違いです。
| 場面 | 取扱い |
|---|---|
| 同じ源泉徴収口座内の譲渡損益 | 証券会社で年間通算される |
| 同じ源泉徴収口座内に受け入れた配当等と譲渡損失 | 一定の場合、源泉徴収税額の計算上通算される |
| 別の証券会社の口座との通算 | 確定申告が必要 |
| 控除しきれない損失を翌年へ繰り越す | 確定申告が必要 |
| 過年度からの繰越損失を当年の利益・配当等から控除 | 確定申告が必要 |
| 源泉徴収口座内の譲渡損失を申告する場合 | その口座に受け入れた利子等・配当等も併せて申告が必要 |
源泉徴収口座に受け入れた利子等・配当等は、口座ごとに申告するか申告不要とするかを選べます。ただし、源泉徴収口座内で生じた上場株式等の譲渡損失を申告する場合には、その口座に受け入れた利子等・配当等を申告不要にすることはできず、これらも併せて申告しなければなりません。
出典:国税庁|No.1476 特定口座制度
つまり、特定口座・源泉徴収ありだからといって、損失の繰越まで自動で行われるわけではないのです。翌年以後に損失を使いたいのであれば、やはり申告が欠かせません。
繰越控除は「損失が出た年の申告」から始まる
上場株式等の譲渡損失を翌年以後に繰り越していくには、損失が出た年分の確定申告が出発点になります。
繰越控除を受けるには、譲渡損失が生じた年分について、所定の付表と計算明細書を添付した確定申告書を提出し、その後の年においても、連続して所定の付表を添付した確定申告書を提出していく必要があります。上場株式等の譲渡がなかった年であっても、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告は必要です。
出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
繰越控除のイメージ
| 年分 | 状況 | 申告上の扱い |
|---|---|---|
| 1年目 | 上場株式等で100万円の譲渡損失 | 損失を申告。控除しきれない損失を翌年へ繰越 |
| 2年目 | 取引なし | 繰越を継続するため申告が必要 |
| 3年目 | 上場株式等で40万円の利益 | 繰越損失から控除 |
| 4年目 | 配当等がある | 申告分離課税を選択した配当等から控除できる場合がある |
| 5年目以後 | 3年間を過ぎた損失 | 繰越控除できない |
「今年は株を売っていないから申告しなくてよいだろう」と考えて申告を途切れさせてしまうと、繰越控除の継続に影響します。損失を翌年以後に使う意思があるのなら、取引の有無だけで判断せず、繰越を維持するための申告が必要かどうかを確認しておいてください。
NISA口座の損失は使えない
NISA口座で上場株式等を売却して損失が出た場合、その損失は税務上なかったものとして扱われます。
令和6年以降のNISAでは、18歳以上の居住者等が非課税口座で取得した上場株式等について、その配当等や譲渡益が非課税となります。その一方で、非課税口座で取得した上場株式等を売却して生じた損失は、ないものとみなされます。そのため、特定口座や一般口座の譲渡益・配当等との損益通算や繰越控除はできません。
出典:国税庁|No.1535 NISA制度
| NISA口座の結果 | 税務上の扱い |
|---|---|
| 売却益 | 非課税 |
| 配当等 | 一定の受取方法等により非課税 |
| 売却損 | 税務上使えない |
| 特定口座の利益との通算 | できない |
| 翌年以後への繰越 | できない |
NISAは、利益が出たときに強みを発揮する制度であって、損失を税務上活用するための制度ではありません。NISAの損失を見て「今年は大きな株式損失があるから申告しよう」と考えたときは、その損失が本当に特定口座・一般口座のものなのか、それともNISA口座内のものなのか、必ず切り分けて確認する必要があります。
相対取引・一般株式等・非上場株式の損失は別に考える
上場株式等であっても、すべての譲渡損失が損益通算・繰越控除の対象になるわけではありません。
上場株式等の譲渡であっても、いわゆる相対取引などにより生じた譲渡損失については、損益通算および繰越控除ができないとされています。
出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
また、一般株式等に係る譲渡所得等の損失は、原則として上場株式等に係る譲渡所得等の利益と通算できません。非上場株式、個人間売買、自己株式取得、同族会社株式などは、上場株式等の証券口座取引とは異なる論点が出てきます。
| 取引 | 本記事の制度との関係 |
|---|---|
| 証券会社を通じた上場株式等の売却損 | 対象になり得る |
| 上場株式等の相対取引による損失 | 対象外となることがある |
| 非上場株式の売却損 | 原則として別枠で判断 |
| 一般株式等の損失 | 上場株式等の利益・配当等とは原則通算不可 |
| 特定管理株式等が価値を失った場合 | 別途、特例の確認が必要 |
| エンジェル税制関連株式 | 別途、特例の確認が必要 |
「株式の損失」とひとくくりにせず、上場株式等なのか、一般株式等なのか、NISAなのか、証券会社を通じた譲渡なのかを分けて整理していくことが大切です。
申告すると住民税・国民健康保険料等に影響することがある
譲渡損失の申告は、所得税だけを見れば有利に映ることがあります。配当等と損益通算して源泉徴収税額が還付される場合や、翌年以後に損失を繰り越して将来の税負担を軽くできる場合が、その例です。
ところが、確定申告で特定配当等や特定株式等譲渡所得金額を申告すると、住民税や国民健康保険料等に影響することがあります。令和7年分の国税庁資料でも、特定配当等の額や特定株式等譲渡所得金額を申告する場合、国民健康保険料(税)、後期高齢者医療保険料、介護保険料などの額に影響する場合があると注意が促されています。
出典:国税庁|令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた 参考事項
影響し得るものを整理すると、次のとおりです。
| 影響項目 | 申告により確認すべきこと |
|---|---|
| 住民税 | 申告分離課税として住民税計算に反映される |
| 国民健康保険料 | 所得金額の増減により保険料に影響する場合がある |
| 後期高齢者医療保険料 | 所得判定に影響する場合がある |
| 介護保険料 | 所得段階に影響する場合がある |
| 配偶者控除・配偶者特別控除 | 合計所得金額の判定に影響する場合がある |
| 扶養控除 | 扶養親族側の所得判定に影響する場合がある |
| 住民税非課税判定 | 非課税限度額の判定に影響する場合がある |
| 各種給付・減免制度 | 所得判定を使う制度では影響する場合がある |
損失申告は、税額だけにとどまらず、申告後の生活上の負担にまで波及していきます。還付額だけを見て決めるのではなく、保険料・扶養・住民税への影響まで含めた総合的な判断が必要です。
令和6年度分以後は、所得税と住民税で異なる課税方式を選びにくい
かつては、上場株式等の配当所得等や源泉徴収口座内の譲渡所得等について、所得税では申告し、住民税では申告不要を選ぶといったかたちで、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することが、実務上の重要な論点でした。
しかし、令和6年度分、すなわち令和5年分以後の個人住民税からは、上場株式等に係る譲渡所得等について、所得税と同一の課税方式が適用される取扱いへと変わりました。国税庁も、源泉徴収口座における上場株式等の譲渡所得等について、令和6年度分(令和5年分)以後の住民税では所得税と同一の課税方式が適用されるとしています。
出典:国税庁|株式・配当・利子と税
同じ資料では、上場株式等の譲渡損失の損益通算・繰越控除についても触れられています。損益通算をするには確定申告書への記載と一定書類の添付が必要であり、繰越控除をするには損失発生年とその後の年で連続して一定書類を添付した確定申告書を提出する必要がある、とされています。
出典:国税庁|株式・配当・利子と税
したがって、現在は「所得税では損失を使って還付を受けるが、住民税や国保には影響させない」という整理が、以前よりも難しくなっています。
申告するかどうかは、次のような比較で判断していくことになります。
| 比較項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 所得税の還付額 | 損益通算により源泉徴収税額が戻るか |
| 住民税への影響 | 申告により住民税額・配当割額控除・譲渡所得割額控除がどう動くか |
| 保険料への影響 | 国保、後期高齢者医療、介護保険料に影響するか |
| 扶養・配偶者控除 | 合計所得金額の判定に影響するか |
| 将来の節税効果 | 翌年以後3年間の繰越控除を使える可能性があるか |
| 申告継続の負担 | 翌年以後も連続申告できるか |
申告した方がよい可能性があるケース
次のような場合には、上場株式等の譲渡損失を申告する価値があります。
| 状況 | 申告を検討する理由 |
|---|---|
| 同じ年に上場株式等の配当等がある | 申告分離課税を選択すれば損益通算できる場合がある |
| 他の証券口座で上場株式等の譲渡益がある | 口座間の損益通算により税額が下がる可能性がある |
| 源泉徴収された税額がある | 損益通算により還付を受けられる可能性がある |
| 翌年以後に譲渡益が出る見込みがある | 繰越控除を使える可能性がある |
| 過年度から繰越損失がある | 当年の利益・配当等から控除できる可能性がある |
| 投資規模が大きく損失額も大きい | 3年間の繰越効果を検討する価値がある |
| 複数口座を使っている | 口座ごとの損益だけで判断すると誤る可能性がある |
とくに損失が大きい年は、申告しないことで、将来の控除機会をそのまま失ってしまうおそれがあります。将来の利益を正確に見通すことはできませんが、翌年以後も上場株式等の取引を続ける予定があるのなら、繰越控除の選択肢を確保しておくかどうかを検討しておくべきでしょう。
申告しない判断もあり得るケース
反対に、損失が出ていても、あえて申告しないという判断が合理的な場合もあります。
| 状況 | 申告しない判断があり得る理由 |
|---|---|
| NISA口座内の損失のみ | そもそも損益通算・繰越控除ができない |
| 損失額が小さい | 申告の手間と効果が見合わない場合がある |
| 翌年以後に取引予定がない | 繰越控除を使う可能性が低い |
| 配当等が少ない | 損益通算による還付効果が限定的 |
| 国保・介護保険料への影響が大きい | 税額還付より周辺負担が大きくなる可能性がある |
| 扶養・配偶者控除への影響がある | 家族全体の税負担に影響する可能性がある |
| 申告継続が難しい | 繰越控除の連続申告を失念するリスクがある |
損失申告は、「やれば必ず得をする」という制度ではありません。損失を使える制度である一方で、申告した所得・損失が住民税や保険料の計算に連動していく場合があるからです。
判断フロー|株式損失を申告するかどうか
上場株式等の譲渡損失が出たときは、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。
| ステップ | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 損失が出た口座は、特定口座、一般口座、NISAのどれか |
| 2 | NISA口座の損失であれば、損益通算・繰越控除の対象外として整理 |
| 3 | 証券会社等を通じた上場株式等の譲渡損失か確認 |
| 4 | 相対取引、一般株式等、非上場株式の損失が混ざっていないか確認 |
| 5 | 同じ年に上場株式等の譲渡益があるか確認 |
| 6 | 同じ年に上場株式等の配当等があるか確認 |
| 7 | 配当等を申告分離課税で申告するか、総合課税・申告不要とするか比較 |
| 8 | 控除しきれない損失を翌年以後に繰り越す必要があるか確認 |
| 9 | 過年度からの繰越損失があるか確認 |
| 10 | 申告による住民税・国保・扶養等への影響を確認 |
| 11 | 必要書類をそろえ、継続申告の管理方法を決める |
| 12 | 判断に迷う場合は、申告前に専門家へ相談する |
このフローで大切なのは、税額計算に入る前に、「対象になる損失か」「何と通算できるか」「申告後に何へ影響するか」を切り分けておくことです。
申告に必要となる主な資料
上場株式等の譲渡損失を申告する場合は、次の資料を整理しておきます。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 特定口座年間取引報告書 | 譲渡損益、源泉徴収税額、配当等、還付税額 |
| 取引報告書 | 一般口座・特定口座以外の取引内容 |
| 配当等支払通知書 | 配当等の金額、源泉徴収税額 |
| 過年度の確定申告書控え | 繰越損失の有無、前年付表の金額 |
| 確定申告書付表 | 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算・繰越控除用 |
| 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | 譲渡所得等の金額の計算 |
| NISA口座の取引明細 | 対象外損失を区分するため |
| 給与所得の源泉徴収票 | 他所得、扶養、配偶者控除等の判定 |
| 国民健康保険・介護保険関係資料 | 申告による保険料影響の確認 |
| 家族の所得資料 | 扶養・配偶者控除への影響確認 |
国税庁の令和7年分用チェックシートでも、株式等の譲渡所得について、譲渡した株式等の取得年月日・譲渡年月日が分かるもの、譲渡収入金額、取得価額、譲渡費用等が分かるもの、そして特定口座を申告する方については特定口座年間取引報告書が、確認資料として挙げられています。
出典:国税庁|株式等に係る譲渡所得等申告のチェックシート【令和7年分用】
実務では、証券会社の年間取引報告書だけでなく、前年以前の申告書控えが非常に重要になります。繰越損失については、前年からどれだけ残っているのか、どの年分の損失なのか、連続申告が途切れていないかを、一つひとつ確認していかなければなりません。
典型的な誤り
損失が出た年に申告せず、翌年の利益と相殺できない
上場株式等の譲渡損失は、損失発生年の申告が出発点になります。損失が出た年に申告していないと、翌年以後の利益と相殺できないことがあります。
「赤字だから申告不要」と考える前に、翌年以後も取引を続けるのか、配当等があるのかを確認しておきたいところです。
NISAの損失を特定口座の利益と通算しようとする
NISA口座の損失は、税務上使えません。特定口座や一般口座の利益、配当等、翌年以後の利益と通算することはできません。
NISAは、利益が非課税になる一方で、損失を税務上利用できない制度です。
配当等を総合課税にしてしまい、譲渡損失と通算できない
配当控除を意識して総合課税を選ぶことがありますが、上場株式等の譲渡損失と通算するには、配当所得について申告分離課税を選択する必要があります。
配当控除を取るのか、譲渡損失と通算するのか。ここは比較して判断すべき論点です。
源泉徴収口座の譲渡損失だけ申告し、配当等を申告不要にしようとする
源泉徴収口座内の譲渡損失を申告する場合には、その口座に受け入れた利子等・配当等も併せて申告する必要があります。譲渡損失だけを申告し、同じ口座内の配当等を申告不要にすることはできません。
繰越申告を途中の年で忘れる
繰越控除は、損失発生年だけで終わるものではありません。翌年以後も連続して申告する必要があります。取引がない年であっても、繰越を続けるための申告が欠かせません。
還付額だけを見て申告してしまう
源泉徴収税額の還付が出ると、申告した方が得に見えます。しかし、住民税、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料、扶養判定に影響する場合があります。
税額だけでなく、家計全体の負担で判断していく必要があります。
上場株式等の損失申告は、単年ではなく「翌年以後の管理」まで含めて判断する
上場株式等の譲渡損失は、申告することで、配当等との損益通算や翌年以後3年間の繰越控除につながる可能性があります。ただ、その効果は、損失が出た年だけで完結するものではありません。
翌年以後に利益が出るか、配当等があるか、申告を継続できるか、住民税・社会保険料にどう影響するか。そこまで含めて判断していく必要があります。
とくに、次のような方は、申告の前に丁寧な整理が欠かせません。
- 複数の証券会社で取引している
- 特定口座・源泉徴収ありと一般口座が混在している
- NISA口座と課税口座の両方で損益が出ている
- 配当等を申告するか迷っている
- 過年度からの繰越損失がある
- 損失が大きく、翌年以後の控除を検討したい
- 国民健康保険や後期高齢者医療、介護保険に加入している
- 扶養、配偶者控除、住民税非課税判定への影響が気になる
- 副業、個人事業、不動産所得など他の申告論点もある
- 相続や贈与で取得した株式を売却している
- 海外証券口座や外国株式の取引がある
金融所得の申告は、単に証券会社の数字を転記する作業ではありません。どの所得を申告に含めるか、どの課税方式を選ぶか、どの損失を将来に繰り越すか。そうした一つひとつの判断の積み重ねです。
重要事項の振り返り
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 上場株式等の譲渡損失 | 一定の要件で配当等との損益通算や繰越控除が可能 |
| 損益通算の相手 | 上場株式等に係る配当所得等。配当所得は申告分離課税を選択したものに限る |
| 繰越控除 | 控除しきれない損失を翌年以後3年間繰り越せる |
| 連続申告 | 損失発生年とその後の年に連続して申告が必要 |
| 取引がない年 | 繰越を続けるには申告が必要 |
| 給与・事業・不動産所得 | 上場株式等の譲渡損失とは通算できない |
| 一般株式等 | 上場株式等の損失とは原則として通算できない |
| 相対取引 | 上場株式等でも損益通算・繰越控除できない場合がある |
| NISA | 利益は非課税だが、損失は通算・繰越できない |
| 特定口座・源泉徴収あり | 口座内通算はされるが、翌年への繰越には申告が必要 |
| 源泉徴収口座内の配当等 | 譲渡損失を申告する場合、同じ口座に受け入れた配当等も併せて申告が必要 |
| 配当等の申告方式 | 申告不要、総合課税、申告分離課税の選択が重要 |
| 住民税・国保 | 申告により保険料や扶養判定に影響する場合がある |
| 令和6年度分以後 | 所得税と住民税で異なる課税方式を選びにくい |
| 必要資料 | 特定口座年間取引報告書、配当通知、過年度申告書控え、付表、計算明細書 |
上場株式等の損失申告に迷う方へ
上場株式等の譲渡損失は、申告することで、配当等との損益通算や翌年以後3年間の繰越控除につながる場合があります。その一方で、申告をきっかけに、住民税、国民健康保険料、扶養判定などに影響が及ぶこともあります。
とくに、複数口座で取引している方、NISAと課税口座が混在している方、配当等の申告方式に迷っている方、過年度からの繰越損失がある方、国保・介護保険料への影響が気になる方は、申告の前に全体像を整理しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、特定口座年間取引報告書、配当等支払通知書、過年度申告書、給与・事業・不動産所得の資料を確認しながら、損失を申告すべきか、申告不要を選ぶべきか、繰越控除をどう管理していくかを整理します。
上場株式等の譲渡損失について、税額だけでなく、住民税・国保・翌年以後の申告まで含めて確認したいという方は、お問い合わせページからご相談ください。将来の資産形成と、後からきちんと説明できる申告判断につながるかたちで、必要な資料と判断の前提を整えてまいります。