株主・株式・名義株・少数株主を整理する|M&A前に売り手側が確認すべき株主関係の論点

M&Aを検討する売り手側にとって、株主・株式の整理は、つい後回しにされやすい論点です。

決算書や事業内容、顧客、従業員、取引先、価格目線といった項目に比べると、株主名簿や過去の株式異動は、日常の経営のなかで意識される機会が少ないからです。とりわけ、長年にわたり同族経営を続けてきた会社では、「株主はだいたい把握できている」「昔から家族で持っている」「実質的には自分の会社だから心配ない」と受け止められているケースも少なくありません。

しかし、株式譲渡によるM&Aで売却の対象となるのは、会社そのものではなく、会社の株式です。誰が、どの株式を、どの割合で、どのような権利として保有しているのか。これが不明確なままでは、買い手は安心して取引を進められません。

この点は、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも明確に位置づけられています。中小M&Aに先立つ「見える化」「磨き上げ」の一環として、株式の整理・集約が重要な準備事項とされているのです。具体的には、株式が分散している場合や一部株主の所在が不明である場合には、M&A実行時の重大な障害となりかねないこと、そして株主名簿の整備、名義株の有無、株券発行会社における株券管理の確認が欠かせないことが示されています。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

本記事では、売り手側がM&A前に確認しておくべき株主・株式・名義株・少数株主の論点を整理します。非上場株式の評価、税務上の時価、訴訟手続、スクイーズアウト手続の詳細までは踏み込みません。あくまで、M&A全体の設計のなかで、何を早い段階で確認すべきか、そしてどの論点が価格・スキーム・DD・契約・クロージングに影響するのかという視点で見ていきます。

目次

株主関係は、M&Aの「前提条件」である

売り手側のM&A準備では、どうしても事業の魅力や財務内容に目が向きがちです。しかし、株式譲渡型のM&Aで買い手が取得したいのは、対象会社を支配できる株式にほかなりません。

どれほど事業が魅力的であっても、売り手が本当にその株式を譲渡できる状態になければ、M&Aは前に進みません。過去の株式譲渡が未整理である、名義株がある、相続未了の株式がある、少数株主が反対している、株券の所在が分からない、譲渡承認手続が整理されていない――こうした論点は、後から発見されるほど交渉上の負担が重くなっていきます。

買い手から見れば、株主関係の未整理は、単なる事務上の不備にとどまりません。次のような懸念に直結するからです。

  • 取得対象が明確でない
  • 支配権を確実に取得できない
  • クロージングできない可能性がある
  • 後から株主を名乗る者が現れる可能性がある
  • 少数株主との紛争が残る可能性がある
  • 重要事項の決議ができない可能性がある
  • 表明保証違反や補償請求の原因になり得る

つまり株主関係は、条件交渉に入ってから確認すればよいものではなく、検討開始の段階で整理しておくべき前提論点なのです。

最初に確認すべき資料

株主・株式関係を整理するときは、まず資料を集めるところから始めます。ただし、資料を集める目的は、形式的に一覧表をつくることではありません。現在の株主構成が、法的にも、実態としても、税務・会計上の経緯としても説明できる状態にあるか。これを確認することが目的です。

最初に確認したい資料は、おおむね次のとおりです。

  • 株主名簿
  • 定款
  • 登記事項証明書
  • 設立時の発起人・株式引受関係の資料
  • 過去の株式譲渡契約書
  • 株式譲渡承認に関する議事録
  • 増資・減資・自己株式取得に関する議事録
  • 相続・贈与・売買による株式異動の資料
  • 株券発行会社かどうかを確認できる資料
  • 株券が発行されている場合の株券控え・管理状況
  • 株主間契約、議決権行使に関する合意、種類株式・新株予約権に関する資料
  • 法人税申告書別表二など、株主構成を確認できる税務資料

これらを突き合わせていくと、しばしば不一致が見つかります。たとえば、次のようなケースです。

  • 株主名簿と税務申告書の株主構成が一致しない
  • 過去の株式譲渡について、契約書や議事録が残っていない
  • 株式数は分かっても、取得の経緯が説明できない
  • 登記上は株券発行会社だが、実際には株券を見たことがない
  • 創業時の出資者と現在の名義が一致していない
  • 亡くなった株主の相続手続が未了のままになっている

M&Aで問題になるのは、資料の見た目ではありません。こうした不一致を、買い手にきちんと説明できるかどうかです。

株主名簿は「ただの一覧表」ではない

株主名簿は、M&A前に必ず確認しておくべき基本資料です。

会社法上、株式会社は株主名簿を作成し、株主の氏名・名称、住所、保有株式数といった一定の事項を記載・記録することが想定されています。あわせて、株式譲渡の会社に対する対抗関係や、名義書換請求に関する規定も置かれています。

出典:e-Gov法令検索|会社法

実務で重要になるのは、株主名簿が「存在するかどうか」だけではありません。次の点まで確認できているかが問われます。

  • 現在の株主構成を正しく反映しているか
  • 過去の株式異動と整合しているか
  • 税務申告書の株主構成と整合しているか
  • 議決権割合を正しく把握できるか
  • 種類株式がある場合に、その権利内容が反映されているか
  • 相続未了や名義株の疑いがないか
  • 株主の住所・連絡先が把握されているか

株主名簿が古いまま更新されていない会社では、実際の株主関係を確認するために、過去の議事録、契約書、相続関係書類、税務資料、そして出資時の資料まで遡る必要が出てきます。

売り手側が「実質的には自分が持っている」と考えていても、買い手はそれだけでは納得しません。M&Aでは、実質と形式の両方が確認されます。形式が整っていなければ、その分、実質を説明する資料が求められることになります。

名義株は、M&Aで重大な障害になり得る

名義株とは、株主名簿上の名義人と、実際に出資した者・実質的な権利者とが異なる可能性のある株式をいいます。

中小企業では、設立時や増資時に、親族・知人・従業員・取引先の名義を借りて株主にしていた、という経緯が残っていることがあります。当時はさほど深刻に考えられていなかったとしても、M&Aの場面では重要な論点として浮かび上がってきます。

買い手が知りたいのは、結局のところ、その株式の所有者は誰なのかという一点です。名義人が株主なのか、実際の出資者が株主なのか、過去にどのような合意があったのか。ここが曖昧なままだと、買い手は株式を取得しても後から権利関係を争われるリスクを懸念します。

名義株の疑いがある場合には、次のような観点から確認していきます。

  • 設立時・増資時に、誰が資金を拠出したか
  • 株式引受申込書や払込資料が残っているか
  • 名義人が株主として配当を受けたことがあるか
  • 株主総会で議決権を行使していたのは誰か
  • 名義人自身が、その株式を自分のものと認識しているか
  • 実質所有者とされる者との間に、確認書や合意書があるか
  • 相続・贈与・譲渡があった場合、その時点でどう扱われたか
  • 税務申告上、誰の財産として扱われてきたか

名義株を整理するとき、「名義を借りただけだから問題ない」と一方的に決めつけるのは危険です。名義人本人、相続人、税務上の取扱い、過去の会社運営、議決権行使の実態などを、総合的に確認する必要があります。

M&A前に名義株の疑いがあるのなら、安易に確認書を一枚つくって終わらせるのではなく、法務・税務の専門家とともに、権利関係、税務リスク、売却前に整理すべき手続を見極めておくべきです。

譲渡制限株式は、承認手続を確認する

非上場の中小・中堅企業では、定款で株式譲渡に会社の承認を要する旨が定められていることが多くあります。いわゆる譲渡制限株式です。

譲渡制限がある場合、株式を売却するには、定款や会社法の規律に従った承認手続を確認しなければなりません。承認機関が株主総会なのか、取締役会なのか、代表取締役なのか、あるいは定款に別段の定めがあるのか。ここをまず押さえます。

問題になるのは、手続そのものだけではありません。次のような点も合わせて見ていく必要があります。

  • 誰が承認決議に参加できるのか
  • 利害関係のある株主・取締役がいる場合に、どう扱うのか
  • 過去の株式譲渡で、承認手続をきちんと行っていたのか
  • 承認手続がないまま、名義変更だけが行われていないか
  • 今回のM&Aで全株式を譲渡する場合、どの決議が必要になるのか
  • 一部株主が譲渡に反対した場合、どうなるのか

過去の譲渡承認手続が不明確だと、現在の株主構成そのものに疑義が生じることがあります。買い手から見れば、過去の株式異動が有効に行われていたかどうかは、対象株式を取得できるかどうかに直結する問題です。

売り手側は、M&Aの直前になって初めて定款を確認するのではなく、早い段階で譲渡制限の有無と承認手続の履歴を確かめておく必要があります。

株券発行会社かどうかを確認する

現在の会社法では、株式会社は定款で株券を発行する旨を定めた場合に、株券発行会社となります。株券発行会社かどうかは、株式譲渡の実務に大きく影響します。

出典:e-Gov法令検索|会社法

とりわけ、長く続いている中小企業では、登記上は株券発行会社になっているものの、実際には株券を発行した記憶がない、所在が分からない、過去に発行した株券が手元にない、といった状況が見られます。

この状態のままM&Aを進めると、買い手から次のような確認を求められることになります。

  • 株券発行会社か、株券不発行会社か
  • 実際に株券を発行しているか
  • 発行済みの株券は、誰が保管しているか
  • 株券が紛失していないか
  • 過去の株式譲渡時に、株券の交付が行われていたか
  • 株券不発行会社への移行を検討すべきか
  • クロージング時に、どのように株式移転を証跡化するか

株券の論点は、一見すると形式的に見えますが、実はM&Aのクロージングに直結します。株券の所在が不明なままでは、買い手は株式取得の確実性に不安を抱きます。

売り手側としては、まず登記事項証明書と定款で株券発行会社かどうかを確認し、株券発行会社であれば、実際の発行・保管・喪失の状況を整理しておくことが必要です。場合によっては株券不発行会社への移行や喪失への対応を検討することになりますが、これは会社法上の手続が関係するため、専門家の確認を経ずに進めるべきではありません。

少数株主がいる場合、何が問題になるのか

少数株主がいること自体が、ただちにM&Aの障害になるわけではありません。

ただし、買い手が100%の取得を希望する場合には、少数株主が残ることが大きな論点になります。買い手は、取得後に自由に経営判断を行い、PMIを進め、必要に応じて組織再編や資本政策を実行したいと考えるからです。そのため、少数株主が残ると、次のような懸念が生じます。

  • 重要事項の決議に影響する
  • 株主総会の運営が複雑になる
  • 情報開示や説明対応が必要になる
  • 配当、自己株式取得、組織再編で反対を受ける可能性がある
  • 株式買取請求や価格をめぐる紛争が生じる可能性がある
  • 買収後の完全子会社化やグループ再編が難しくなる
  • M&Aの価格やスキームに影響する

会社法上、株主総会の普通決議・特別決議など、決議の種類によって必要な議決権割合は異なります。重要な事項では特別決議が必要になることがあるため、議決権割合の把握はM&A前の重要な論点です。

出典:e-Gov法令検索|会社法

中小M&Aガイドラインでも、全事業の譲渡など重要な事項については特別決議が必要になることがあるため、総議決権の3分の2以上の株式を保有しておくことが望ましいとされています。さらに、全株式を譲渡する場合には、基本的に譲り渡し側の経営者が全株式を保有しておく必要があることにも触れられています。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

売り手側は、「少数だから大丈夫」と片づけるのではなく、その少数株主がM&Aにどのような影響を与え得るのかを確認しておく必要があります。

株式分散を整理するときの基本姿勢

株式が分散している場合、売り手側はまず全体像を把握するところから始めます。確認したいのは、次のような点です。

  • 誰が何株を持っているのか
  • 議決権割合はどうなっているのか
  • 経営者・親族・役員・従業員・外部株主の関係はどうなっているのか
  • 株主間に、過去の感情的な対立はないか
  • 株式取得の経緯は明確か
  • 株主が売却に協力してくれる可能性はあるか
  • 連絡が取れない株主はいないか
  • 相続が発生している株式はないか

そのうえで、M&A前に株式集約を行うべきか、買い手が少数株主を残したまま取得する余地があるか、あるいはスキームを変更する必要があるかを検討していきます。

株式集約の方法には、任意の株式買取り、自己株式取得、種類株式の活用、株主間契約、組織再編、スクイーズアウトなど、複数の選択肢があります。ただし、それぞれに会社法、税務、資金、株価、少数株主保護、手続期間といった論点があり、その性質は一様ではありません。

本記事では詳細には立ち入りませんが、ここで強調しておきたいのは、「早く買い取ればよい」と単純化しないことです。株式を誰が買い取るのか、価格をどう決めるのか、税務上の時価と乖離しないか、会社が自己株式を取得する場合に財源規制を満たすか、他の株主との公平性をどう説明するか。これらを一つずつ確認していく必要があります。

所在不明株主・相続未了株式は時間がかかる

M&A前の株主整理で、とりわけ時間がかかりやすいのが、所在不明株主と相続未了株式です。

所在不明株主がいると、単に連絡が取れないというだけでなく、議決権行使、株式譲渡、配当、通知、株主総会の運営にまで影響が及びます。相続未了株式がある場合には、相続人の確定、遺産分割、共有状態の解消、相続人全員の協力が必要になることもあります。

いずれも、M&Aの相手方が見つかってから対応しようとしても、スケジュールに間に合わないことがあります。

売り手側としては、次の点を早めに確認しておくべきです。

  • 亡くなった株主はいないか
  • 株主名簿上の住所で、連絡が取れるか
  • 相続人が確定しているか
  • 遺産分割協議が完了しているか
  • 株式の承継を証明できる資料があるか
  • 共有株式について、権利行使者が定められているか
  • M&Aに必要な同意や譲渡手続に、協力を得られるか

所在不明株主や相続未了株式があると、M&Aのスキームやスケジュールそのものを見直さざるを得なくなることがあります。法務・税務・親族関係・交渉が絡み合う領域だけに、早期に専門家の関与を受けておきたいところです。

株式の「保有割合」だけでなく「議決権」を見る

株主整理では、発行済株式数に対する保有割合だけでなく、議決権割合まで確認する必要があります。

普通株式だけで構成されている会社であれば、保有株式数と議決権割合はおおむね一致します。しかし、次のような場合には注意が必要です。

  • 自己株式がある
  • 議決権制限株式がある
  • 種類株式が発行されている
  • 単元株制度がある
  • 相互保有株式により、議決権制限が問題になる
  • 新株予約権や転換可能な証券がある
  • 株主間契約で、議決権行使に関する合意がある
  • 属人的定めや特殊な定款規定がある

M&Aで重要なのは、誰が経済的に何%を持っているかだけではありません。誰が会社の意思決定を左右できるか、という点です。

買い手が重視するのは、クロージング後に対象会社を支配し、必要な決議を行い、事業運営を進められるかどうかです。だからこそ売り手側は、株式数・議決権数・決議要件を分けて整理しておく必要があります。

種類株式・新株予約権・従業員持株会がある場合

中小企業では多くないものの、種類株式、新株予約権、従業員持株会、投資育成会社、外部株主、過去の資金調達に伴う特殊な株式が存在する場合があります。

こうしたケースでは、M&A前の株主整理はさらに複雑になります。

種類株式には、議決権、配当、残余財産分配、取得条項、拒否権など、普通株式とは異なる権利が付されていることがあります。新株予約権がある場合には、将来的な株式の増加や希薄化、権利行使条件、M&A時の取扱いを確認しなければなりません。従業員持株会があれば、規約、退会時の取扱い、株式売却への協力、従業員への説明の順序などが問題になります。

これらは、単なる株主一覧を眺めるだけでは見えてきません。定款、発行決議、割当契約、規約、株主間契約、過去の議事録までを確認し、M&A時にどのような権利行使・承認・買取り・消滅処理が必要になるかを整理していく必要があります。

買い手がDDで確認するポイント

買い手は、法務DDや財務・税務DDのなかで、株主・株式関係を確認します。

主な確認ポイントは、次のとおりです。

  • 発行済株式数
  • 株主名簿の整備状況
  • 株主構成と議決権割合
  • 株式取得・譲渡の履歴
  • 譲渡制限の有無と承認履歴
  • 名義株の有無
  • 株券発行会社かどうか
  • 株券の発行・保管・喪失状況
  • 自己株式の有無
  • 種類株式・新株予約権の有無
  • 少数株主・反対株主・所在不明株主の有無
  • 相続未了株式の有無
  • 株主間契約・議決権拘束契約の有無
  • 過去の増資・減資・自己株式取得の手続
  • 株主総会議事録・取締役会議事録の整備状況

法務DDでは、対象会社の法的な問題点・リスクを調査し、M&Aの実行可否、ストラクチャーの変更、契約条件への反映などを判断することがあります。株主・株式関係の問題は、単なる確認事項ではなく、取引の実行可否やスキームに影響する典型的な法務論点です。

売り手側がこれらを事前に整理できていれば、DDでの説明は安定します。逆に、DDで初めて問題が判明すると、買い手は価格の引下げ、補償の強化、クロージング条件の追加、スキームの変更を求めてくる可能性があります。

株主整理が価格・条件に与える影響

株主・株式の未整理は、価格にも影響します。

買い手が取得したい支配権を確実に得られない場合、その不確実性は価格に反映されます。全株式を取得できなければ、少数株主対応のコストや、将来のスクイーズアウト費用を見込まれることがあります。名義株や相続未了株式があれば、後日の紛争リスクとして、補償やエスクローを求められる可能性も出てきます。

また、株主整理が必要なとき、売り手側で事前に株式を買い集めるのか、買い手が直接各株主から取得するのか、あるいはクロージングの前提条件として一定割合の取得を求めるのか。この選び方によって、条件設計は変わってきます。

売り手側にとって大切なのは、株主整理を「買い手に言われてから対応する」のではなく、価格交渉に入る前に自社の状態を把握しておくことです。次のような点を、あらかじめ整理しておきたいところです。

  • 自社は、全株式を譲渡できる状態にあるのか
  • 一部株主の協力が必要なのか
  • 買い手に残るリスクは何か
  • 売り手側で解消できるリスクは何か
  • 解消できない場合、価格・契約・クロージング条件でどう扱うのか

ここまで整理しておけば、価格はもちろん、支払条件、補償、表明保証、クロージング条件の交渉も進めやすくなります。

最終契約で問題になる株主・株式論点

株主・株式に関する論点は、最終契約にもそのまま反映されます。

株式譲渡契約では、売り手が対象株式を適法かつ有効に保有していること、対象株式に担保権や第三者の権利が付着していないこと、株主名簿や発行済株式数が正確であること、未開示の種類株式や新株予約権がないことなどについて、表明保証を求められることがあります。

また、クロージングの前提条件として、譲渡承認の取得、株券の引渡し、株主名簿の名義書換、少数株主からの譲渡完了、株主間契約の終了、必要な議事録の整備などが求められることもあります。

ここで気をつけたいのは、売り手が内容を理解しないまま表明保証を受け入れてしまうことです。

株主関係に未整理の論点があるにもかかわらず、「株式に関する問題はない」と表明保証してしまえば、後日その問題が発覚した際に、補償責任につながりかねません。未整理の論点があるのなら、隠すのではなく、開示事項として整理したうえで、価格・契約・前提条件のなかでどう扱うかを検討すべきです。

M&A前の株主整理で避けるべき対応

株主・株式の整理には、避けたほうがよい対応がいくつかあります。

第一に、株主名簿だけを形式的に書き換えることです。実態や過去の手続と整合しない名義変更は、後からかえって大きな問題になります。

第二に、名義株を安易な確認書だけで処理することです。名義人、実質所有者、相続人、税務上の取扱いを確認しないまま書面だけ整えても、買い手のDDで十分な説明にならないことがあります。

第三に、少数株主に対して強引な買取りを行うことです。価格、説明、公平性、手続を軽視すれば、紛争化し、M&Aそのものに影響します。

第四に、株券発行会社であることを見落とすことです。株券の有無や管理状況は、クロージング直前に判明すると、対応が難しくなります。

第五に、税務影響を確認せずに株式集約を進めることです。親族間、同族関係者間、会社による自己株式取得、低額譲渡、高額譲渡などでは、税務上の時価や課税関係が問題になることがあります。税務上の結論は個別の事情によって異なるため、具体的な株式異動を行う前に確認が必要です。

株主整理は、早く進めればよいというものではありません。正しく進めることが大切です。

売り手側が段階別に確認すべきこと

株主・株式の整理は、M&Aの進行段階ごとに、その目的が変わっていきます。

初期検討段階

この段階では、まず株主構成の全体像を把握します。

誰が株主か、何株を持っているか、議決権割合はどうか、名義株の疑いはないか、少数株主や所在不明株主はいないか、株券発行会社かどうか。これらを順に確認していきます。

ここでの目的は、そもそもM&Aを進められる前提が整っているかを判断することです。

相手探し・初期交渉前

この段階では、買い手候補に説明できる範囲を整理します。

全株式を譲渡できる見込みがあるか、少数株主の協力が必要か、譲渡制限の承認手続が必要か、株主整理に時間がかかる論点がないか。こうした点を確かめます。

ここでの目的は、買い手候補に対して、過度に不確実な説明をしないことです。

基本合意・DD前

この段階では、DDで確認される資料を整えます。

株主名簿、定款、議事録、株式譲渡契約書、株券関係資料、相続関係資料、種類株式・新株予約権関係資料、株主間契約などを準備しておきます。

ここでの目的は、買い手の確認に耐えられる状態をつくることです。

最終契約・クロージング前

この段階では、契約条件と実行手続へと落とし込みます。

表明保証、補償、開示事項、譲渡承認、株券引渡し、名義書換、少数株主対応、クロージングの前提条件、未了事項などを整理します。

ここでの目的は、契約締結後にクロージングできない、という事態を避けることです。

専門家が関与すべき理由

株主・株式の整理は、会社法、税務、相続、契約、登記、M&A実務が重なり合う領域です。

公認会計士・税理士の立場からは、株主構成と税務申告書の整合性、株式異動に伴う税務影響、同族関係者間の取引、自己株式取得、非上場株式の時価、役員・親族との関係などを確認します。

弁護士の立場からは、株式の帰属、名義株、譲渡制限、株主間契約、少数株主対応、相続未了株式、株券、スクイーズアウト、最終契約の表明保証・補償などを確認します。

司法書士の立場からは、登記事項、株券発行会社の確認、定款変更、組織再編や登記手続に関与することがあります。

ここで大切なのは、誰か一人の専門家に丸投げしてしまわないことです。M&Aの目的、スキーム、価格、契約、クロージングまでを見据えたうえで、必要な専門家を適切に組み合わせていく。この視点が欠かせません。

株主関係の問題は、感覚や過去の経緯だけでは処理しきれません。後から説明できる形で、資料・事実・手続・判断理由を残しておく必要があります。

まとめ:株主整理は、相手が見つかる前に始める

株主・株式・名義株・少数株主の整理は、M&Aの終盤に行う手続ではありません。

株式譲渡型のM&Aでは、株式こそが取引の対象です。誰が株式を持っているのか、その株式を譲渡できるのか、買い手が必要な支配権を取得できるのか、少数株主や名義株の問題が残らないのか。ここを確認しないことには、価格や条件の議論に入る前提そのものが整いません。

株主関係が整理されていれば、買い手は検討しやすくなります。DDでの確認も安定します。最終契約で、過度に厳しい補償や前提条件を求められるリスクも下げやすくなります。

反対に、株主関係が未整理のまま進めてしまうと、基本合意後やDD後に問題が表面化し、価格変更、条件追加、スキーム変更、クロージングの遅延、ときには撤退の判断にまでつながりかねません。

M&Aを検討する売り手側は、相手方が見つかってから株主整理を始めるのではなく、検討を開始する段階で、自社の株主・株式の状態を確認しておくことが重要です。

株主・株式・名義株・少数株主の整理について相談したい方へ

M&Aを検討し始めた段階で、株主名簿、名義株、少数株主、相続未了株式、株券、譲渡制限の論点まで整理できている会社は、決して多くありません。

しかし、これらは相手方が現れてから短期間で解決できるとは限りません。とりわけ、名義株、所在不明株主、相続未了、少数株主との関係、株券発行会社の問題は、早めに確認するほど、M&A全体の設計に反映しやすくなります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aを前提にした無理な売却推進ではなく、まずは株主構成、税務資料、過去の株式異動、議決権割合、未整理の論点を確認し、売り手側として何をどの順序で整理すべきかを一緒に検討する支援を行っています。

株主関係がM&Aの障害になり得るか確認したい場合や、買い手候補に提示する前に株主・株式まわりを整理しておきたい場合は、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。

振り返り

確認領域売り手側が確認すべきことM&Aで影響する主な場面
株主名簿現在の株主、保有株式数、住所、議決権割合が正しいかDD、株式譲渡、クロージング
株式異動履歴過去の譲渡、増資、相続、贈与、自己株式取得の資料があるか株式の帰属、表明保証、補償
名義株名義人と実質所有者が一致しているかDD、契約、後日の紛争リスク
譲渡制限株式定款上の譲渡承認機関、承認手続、過去の承認履歴株式譲渡手続、クロージング条件
株券発行会社株券発行会社か、株券の発行・保管・喪失状況はどうか株式移転、決済、名義書換
少数株主少数株主の有無、協力可能性、反対リスク価格、スキーム、完全子会社化
所在不明株主連絡不能株主、通知、議決権行使、相続関係スケジュール、決議、クロージング
相続未了株式相続人、遺産分割、共有状態、権利行使者株式譲渡、議決権、契約条件
議決権割合普通決議・特別決議に必要な割合を満たせるか事業譲渡、組織再編、重要決議
種類株式・新株予約権普通株式以外の権利、潜在株式、拒否権の有無支配権、希薄化、買収後の運営
株主間契約議決権拘束、譲渡制限、買取条件の有無買い手の支配権、契約整理
税務論点株式集約、自己株式取得、低額・高額譲渡の課税関係売却前の整理、価格、手取り額
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