「1日に何人診ればよいのか」「診療単価は高いのか、低いのか」「人件費率は適正なのか」「自院は本当に儲かっているのか」。
クリニックや診療所の経営を考えるとき、こうした問いは避けて通れません。ただ、ここで一つ気をつけておきたいことがあります。それは、医療機関の経営指標を「診療所平均」だけで見てしまうことです。
同じ無床診療所であっても、内科、整形外科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、精神科・心療内科、歯科では、状況がまるで違います。患者数、診療単価、診療時間、設備投資、人件費、材料費、自由診療の比率、予約制かどうか、患者の年齢構成。これらが診療科ごとに大きく異なるのです。
平均患者数や平均利益率だけを見て、「自院は平均より良い」「平均より悪い」と判断する。それだけでは、経営判断としては十分とはいえません。むしろ、診療科ごとの構造を無視して平均値に合わせようとすると、必要な投資を抑えすぎてしまったり、逆に過大な人員・設備を抱えてしまったりする危険があります。
この記事では、診療科別に医療機関のKPIと利益構造をどう見るべきかを整理していきます。狙いは、診療科ごとの「勝ち負け」を比較することではありません。自院の診療科・業態に合った数字の見方を持ち、月次決算、資金繰り、採用、設備投資、集患、そして承継・M&Aに使える経営管理の前提を整えることにあります。
なお、本稿で扱うのは、診療科別の大まかな経営構造です。個別の診療報酬点数、施設基準、算定要件、税務処理、自由診療の広告表示、医療法人の業務範囲などは、実際の判断時点の最新制度と個別事情に照らして確認していただく必要があります。
まず押さえたい前提:診療科別KPIは「平均値との比較」ではなく「構造の理解」に使う
診療科別KPIを見る目的は、他院の平均に近づけることではありません。
大切なのは、自院の収益がどの要素で成り立っているかを分解し、どの数字が動いたときに利益と資金へ影響するのかを理解することです。
医療機関の売上は、大きく分ければ次のように分解できます。
売上 = 患者数 × 診療単価 × 来院頻度・継続率
ただ、実務ではこれだけでは足りません。診療科によって、次の要素がまったく異なるからです。
- 1人当たりの診療時間
- 初診と再診の比率
- 慢性疾患管理か、急性疾患対応か
- 検査、処置、リハビリ、手術、画像診断の有無
- 薬剤・材料・外注検査・技工などの変動費
- 看護師、医療事務、検査技師、リハビリ職、歯科衛生士などの職種構成
- 予約制か、来院順か
- 自由診療・健診・予防接種・産業医・物販などの保険外収入の有無
- 医療機器、内装、チェア、検査機器、リハビリ機器などの固定資産負担
- 診療圏、年齢構成、競合密度
つまり診療科別KPIは、「患者数が多い診療科が強い」「単価が高い診療科が有利」といった単純な比較に使うものではないのです。
患者数が多くても、診療単価が低く、スタッフの負荷が高く、待ち時間が長ければ、利益率も患者満足度も下がっていきます。逆に診療単価が高くても、設備投資や材料費、人件費、予約キャンセルが重ければ、キャッシュ・フローは思ったほど残りません。
医療機関の経営では、診療科ごとの構造を踏まえたうえで、自院に合った管理指標を設計していく必要があります。
診療科別に見る前に、共通して確認すべき5つのKPI群
診療科ごとの違いを見ていく前に、どの医療機関にも共通して確認しておきたいKPI群があります。ここを整理しておくと、診療科別の違いがぐっと見えやすくなります。
1. 患者構造に関するKPI
患者構造を見るときは、単純な延べ患者数だけでは不十分です。
少なくとも、次の数字は確認しておきたいところです。
- 延べ患者数
- 実患者数
- 初診患者数
- 初診率
- 再診患者数
- 来院頻度
- 年齢階級別の患者構成
- 主な疾患構成
- 紹介患者・逆紹介患者
- 予約患者・飛び込み患者
- キャンセル率
たとえば同じ1日40人でも、慢性疾患の再診が中心の内科と、急性疾患で季節変動の大きい小児科とでは、経営上の意味がまったく違ってきます。精神科・心療内科では、1人当たりの診療時間が長くなりやすいため、患者数だけで生産性を判断すると見誤ります。
厚生労働省の令和5年患者調査によれば、調査日に全国の医療施設で受療した推計患者数は、入院1,175.3千人、外来7,275.0千人でした。外来受療率は人口10万対5,850。これが65歳以上では10,208、75歳以上では11,333と、高齢層ほど高くなっています。診療圏の年齢構成を見ないまま患者数の目標を置くのは、適切とはいえません。
(出典:厚生労働省|令和5年(2023)患者調査の概況、出典:厚生労働省|受療率)
2. 単価・収益構成に関するKPI
診療単価を見るときは、1日当たり単価や1件当たり単価だけでなく、その単価が何で構成されているかを確認します。
- 初・再診料
- 医学管理料
- 検査
- 画像診断
- 処置
- 手術
- リハビリテーション
- 投薬・注射
- 在宅医療
- 自由診療
- 健診・予防接種
- 産業医・自治体委託料
- 物販・付随収入
特に内科では、生活習慣病管理、検査、投薬、外注検査の影響が大きくなります。整形外科ならリハビリや画像診断、眼科なら検査・処置・手術の有無、歯科であれば保険診療と自由診療、技工、物販の組み合わせが重要になってきます。
令和6年社会医療診療行為別統計では、入院外の医科および薬局調剤の医科分における薬剤料の比率は41.0%でした。ただし、令和6年度診療報酬改定から、改定の施行月が従来の4月から6月へと変わり、集計対象月も6月審査分から8月審査分に変更されています。そのため、過年度との比較には留意が必要です。
(出典:厚生労働省|令和6(2024)年社会医療診療行為別統計の概況)
3. コスト構造に関するKPI
診療科別の利益構造を見るときは、売上だけでなく、コストの性質を分けておく必要があります。
医療機関の費用は、大きく次の2つに分かれます。
- 患者数・診療量に応じて増減する変動費
- 患者数にかかわらず一定程度発生する固定費
変動費には、医薬品費、診療材料費、外注検査費、歯科技工委託費などが含まれます。固定費には、人件費、家賃、減価償却費、リース料、保守料、システム費用、広告費などが入ります。
第25回医療経済実態調査の概要によれば、令和6年度の一般診療所(医療法人)の医業・介護収益に占める給与費は50.9%、医薬品費は11.1%、材料費は4.8%、減価償却費は3.8%でした。歯科診療所(医療法人)では、給与費49.1%、歯科材料費7.1%、委託費9.4%、そのうち歯科技工委託費7.8%、減価償却費4.4%となっており、医科診療所とは費用構造が異なります。
(出典:厚生労働省|第25回医療経済実態調査の概要 令和7年11月26日版)
4. 稼働・生産性に関するKPI
診療科ごとの利益構造を読み解くには、医師1人当たり、診療室1室当たり、検査機器1台当たり、チェア1台当たり、スタッフ1人当たりの稼働も見ておきたいところです。
たとえば整形外科では、リハビリスペース、PT・OT、レントゲン、診察室の流れが詰まると、患者数が増えても待ち時間と職員負荷ばかりが増え、満足度が落ちていきます。眼科なら検査機器と検査スタッフの流れ、歯科ならユニット稼働率、歯科衛生士のメンテナンス枠、技工委託の管理が、収益性を左右します。
ここで見るべきKPIは、単なる売上ではありません。次のような指標です。
- 医師1人当たり患者数
- 診療時間1時間当たり売上
- 診察室・処置室・リハビリ室・チェアの稼働率
- スタッフ1人当たり売上
- 予約枠稼働率
- キャンセル率
- 待ち時間
- 1患者当たり滞在時間
- 検査機器・医療機器の稼働件数
5. 資金・投資回収に関するKPI
利益が出ていても、設備投資や借入返済が重ければ、手元の資金は残りません。
特に整形外科、眼科、歯科、産婦人科、透析、リハビリ、画像診断を伴う診療科では、固定資産とリース、保守、更新投資の管理が大切になります。
確認しておきたいKPIは、次のとおりです。
- 借入残高
- 年間返済額
- 減価償却費
- 設備投資額
- 医療機器・内装の更新時期
- リース料
- 保守料
- 投資回収期間
- 設備ごとの稼働件数
- 現預金月商倍率
診療科別KPIは、利益だけを見るためのものではありません。将来の設備更新、採用、分院、承継、M&Aを、きちんと説明できる医療機関になるための管理指標でもあります。
内科:慢性疾患管理・再診継続・検査構成をどう見るか
内科は、診療所経営の中心となる診療科です。ただ、ひと口に「内科」といっても、一般内科、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、呼吸器内科、腎臓内科では、患者構造も収益構造も異なります。
内科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 生活習慣病患者数
- 慢性疾患患者の継続率
- 初診率
- 再診間隔
- 検査実施率
- 医学管理料の構成
- 外注検査費率
- 処方構成
- 高齢患者比率
- 在宅医療への移行可能性
- 健診・予防接種・産業医収入
内科の特徴は、再診の継続による収益の安定性にあります。高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性呼吸器疾患などの患者が継続的に来院することで、売上が安定しやすくなるのです。
一方で、慢性疾患が中心の内科では、患者数が安定しているように見えても油断はできません。来院頻度の低下、検査頻度の変化、診療報酬改定、院外処方、生活習慣病管理の算定方針などによって、単価や利益率は動いていきます。
内科で見落としやすいのは、患者数そのものではなく「患者の中身」です。
たとえば同じ1日40人でも、急性上気道炎が中心の40人と、糖尿病・高血圧・心不全・CKDなど慢性疾患管理が中心の40人とでは、まるで違います。医学管理、検査、再診頻度、説明時間、看護師の関与、そして将来の在宅医療への展開可能性が異なってくるのです。
ですから内科では、ただ患者数を増やすよりも、次の問いを確認することが大切になります。
- 自院の実患者数は増えているか
- 慢性疾患患者は継続しているか
- 初診患者は将来の継続患者につながっているか
- 検査や管理料の構成は制度変更に耐えられるか
- 高齢患者の在宅移行や通院困難への備えはあるか
- 外注検査費や医薬品費が利益を圧迫していないか
内科は、地域の人口構成と医療ニーズの影響を強く受けます。東京のような都市部では競合も多く、駅前、住宅地、オフィス街で患者層が大きく変わります。「内科だから、背景人口があれば成り立つ」と考えるのではなく、生活習慣病、健診後フォロー、在宅医療、専門外来、企業・産業医ニーズのうち、どの需要を取りにいくのかを明確にしておく必要があります。
整形外科:患者数・リハビリ稼働・人員配置を一体で見る
整形外科は、外来患者数が多くなりやすい診療科です。腰痛、膝痛、肩痛、骨粗鬆症、外傷、リハビリなど、来院の動機が幅広く、慢性症状による継続来院もあります。
ただし、整形外科で患者数だけを追いかけるのは危険です。患者数が増えるほど、待ち時間、リハビリ室の混雑、スタッフ負荷、動線の不良、クレームが増えやすくなるからです。
整形外科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 1日外来患者数
- 初診患者数
- 再診患者数
- リハビリ患者数
- リハビリ単位数
- リハビリ室稼働率
- 理学療法士・作業療法士1人当たり売上
- レントゲン・骨密度測定などの検査件数
- 待ち時間
- 患者滞在時間
- 医療機器・リハビリ機器の減価償却・リース料
- 労災・交通事故・自賠責の管理
整形外科の利益構造は、医師の診察だけで決まるものではありません。リハビリ、人員配置、機器稼働、患者の導線によって、大きく変わってきます。
売上が伸びていても、リハビリ職や受付・看護師の増員が追いつかず、現場が疲弊している。そういうケースもあります。逆に、人員と設備を先に増やしたものの、患者数やリハビリ稼働が伸びず、固定費だけが先行して利益を圧迫してしまうこともあります。
整形外科では、「何人診たか」だけでなく、「どの業務がボトルネックになっているか」を見ることが欠かせません。
診察室が詰まっているのか、レントゲンが詰まっているのか、リハビリ室が詰まっているのか、それとも会計が詰まっているのか。ボトルネックがどこにあるかによって、打つべき投資は変わってきます。
安易にスタッフを増やす前に、まずは診療時間帯別の患者数、リハビリ予約枠、検査導線、会計待ち、キャンセル率を確認しておきたいところです。
小児科:季節変動・年齢構成・予防接種を分けて見る
小児科は、患者数の季節変動が大きい診療科です。感染症の流行期には患者が集中し、閑散期には患者数がぐっと落ちることもあります。
また小児科は、本人である子どもだけでなく、保護者の受診行動に大きく左右されます。アクセス、予約のしやすさ、待ち時間、感染対策、説明の分かりやすさ、スタッフの対応。こうした要素が、そのまま経営に直結します。
小児科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 月別患者数
- 感染症流行期のピーク患者数
- 乳幼児・学童・中高生の年齢構成
- 予防接種件数
- 乳幼児健診件数
- 初診率
- 家族単位の継続率
- 予約枠稼働率
- キャンセル率
- 待ち時間
- 保護者からの問い合わせ件数
- Web問診利用率
小児科は、単月の売上だけで判断してはいけません。インフルエンザ、RSウイルス、感染性胃腸炎、花粉症、ワクチン接種の時期など、季節性を前提に、年間で見ていく必要があります。
少子化の影響を受けやすい一方で、地域によっては子育て世帯の流入があり、診療圏の分析が重要になります。同じ東京の中でも、子育て世帯が多いエリア、共働き世帯が多いエリア、再開発エリア、保育園・学校の多いエリアでは、受診行動が変わってきます。
小児科では、患者数を増やすことそのものだけでなく、繁忙期に現場が破綻しない仕組みを持つことが大切です。予約システム、Web問診、感染対策、予防接種枠、スタッフ配置、電話対応の標準化。これらが、利益率と患者満足の両方に効いてきます。
皮膚科:高回転外来と自由診療を分けて管理する
皮膚科は、比較的短時間の診療が多く、患者数が伸びやすい診療科です。その一方で、疾患やサービスによって収益構造が大きく変わります。
湿疹、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、にきび、水虫、いぼ、乾癬などの保険診療と、美容皮膚科、レーザー、ピーリング、注入、ドクターズコスメなどの自由診療とでは、見るべきKPIが異なります。
皮膚科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 1日外来患者数
- 初診率
- 再診率
- 患者1人当たり診療時間
- 保険診療単価
- 自由診療比率
- 美容施術件数
- 施術室稼働率
- 物販比率
- キャンセル率
- Web予約経由患者数
- 待ち時間
- 口コミ・紹介患者数
皮膚科では、保険診療の患者数を増やす施策と、美容・自由診療を伸ばす施策を、混同しないことが大切です。
保険診療では、待ち時間、回転率、説明の標準化、継続治療への導線が重要になります。これに対して自由診療では、費用説明、リスク説明、治療期間、広告規制、カウンセリング、キャンセル管理、施術後のフォローが鍵を握ります。
自由診療は単価が高く見えます。ただ、広告費、カウンセリング時間、施術者の人件費、機器投資、消耗品、クレーム対応、返金リスクまで含めて、採算を見る必要があります。
「美容を入れれば利益が上がる」と単純に考えるのではなく、保険診療と自由診療を部門別に分け、売上、粗利、広告費、施術時間、キャンセル率を別々に管理していくことが欠かせません。
眼科:検査・機器・手術の有無で利益構造が変わる
眼科は、検査機器、スタッフの導線、処置・手術の有無によって、利益構造が大きく変わる診療科です。
一般外来が中心の眼科と、白内障手術、硝子体注射、レーザー治療、コンタクトレンズ関連、オルソケラトロジーなどを行う眼科とでは、見るべきKPIが異なります。
眼科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 1日外来患者数
- 検査件数
- 検査機器稼働率
- 視能訓練士・検査スタッフ1人当たり件数
- 白内障手術件数
- 手術室稼働率
- 硝子体注射件数
- コンタクトレンズ関連収入
- 医療機器減価償却費
- 保守料
- 紹介患者数
- 高齢患者比率
眼科では、医師が診察に入る前の検査工程が、経営上のボトルネックになりやすいという特徴があります。受付、検査、診察、会計のどこで滞留しているのかを見なければ、患者数だけを増やしても現場は回りません。
また、高額な機器を導入する場合は、診療単価だけでなく、機器の稼働件数、保守料、耐用年数、借入返済、更新時期まで含めて判断する必要があります。
眼科の利益構造は、検査機器とスタッフの組み合わせで成り立っています。医師1人の診察能力だけでなく、検査スタッフの教育、機器配置、予約導線、手術日程、術後フォローまでを含めて管理していくことが求められます。
耳鼻咽喉科:季節性・処置・検査・小児比率を見る
耳鼻咽喉科は、花粉症、感染症、めまい、難聴、睡眠時無呼吸、アレルギー、補聴器相談など、患者のニーズが幅広い診療科です。
季節変動が大きく、春の花粉症シーズンや感染症の流行期に患者数が集中しやすい一方で、閑散期の稼働管理も大切になります。
耳鼻咽喉科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 月別患者数
- 花粉症シーズンの患者数
- 小児患者比率
- 検査件数
- 処置件数
- ネブライザー等の設備稼働
- 補聴器・睡眠時無呼吸等の関連収入
- 待ち時間
- 予約枠稼働率
- 再診率
- 家族単位の受診率
耳鼻咽喉科では、季節性を踏まえた人員配置がポイントになります。繁忙期だけに合わせて常勤の人員を増やすと、閑散期には固定費が重くのしかかります。かといって、繁忙期に人員が足りなければ、待ち時間やクレームが増え、患者満足は下がってしまいます。
耳鼻咽喉科は、小児科と同じく、家族単位の受診が起こりやすい診療科です。だからこそ、患者数だけでなく、家族紹介、再診の継続、予約のしやすさ、待合の動線、感染対策が、経営に影響してきます。
精神科・心療内科:患者数ではなく、時間単価と予約稼働を見る
精神科・心療内科は、他の外来診療科と比べて、1人当たりの診療時間が長くなりやすい診療科です。そのため、1日の患者数だけをKPIにすると、経営判断を誤ります。
精神科・心療内科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 初診枠数
- 再診枠数
- 初診待機期間
- 予約稼働率
- キャンセル率
- 無断キャンセル率
- 1人当たり診療時間
- 診療時間1時間当たり売上
- 患者継続率
- 診断書・意見書等の件数
- 心理士・看護師・精神保健福祉士等の関与
- オンライン診療の有無
精神科・心療内科では、医師の時間こそが最も大きな制約になります。患者数を増やしすぎると、診療の質、説明時間、カルテ記載、診断書作成、そして医師自身の疲弊に影響が及びます。
この診療科で見るべきは、「何人診たか」よりも次の点です。予約枠が適正に埋まっているか。キャンセルにどう対応しているか。初診と再診のバランスは適正か。そして、医師の診療時間に対して収益が見合っているか。
また精神科・心療内科では、患者との関係性が長期化しやすく、診療方針や予約のルールが曖昧だと、現場の負荷が少しずつ蓄積していきます。経営管理の面では、予約枠、診療時間、診断書作成、電話対応、キャンセルポリシーを明確にしておくことが大切です。
産婦人科・婦人科:単価だけでなく、リスク・人員・設備を含めて見る
産婦人科・婦人科は、妊婦健診、分娩、婦人科外来、更年期、月経関連、がん検診、不妊治療、自由診療など、業態の幅が非常に大きい診療科です。
分娩を扱うかどうか、不妊治療を行うか、婦人科外来が中心か。これによって、見るべきKPIは大きく変わります。
産婦人科・婦人科で重視したいKPIは、次のとおりです。
- 妊婦健診件数
- 分娩件数
- 婦人科外来患者数
- 検診件数
- 不妊治療件数
- 自由診療比率
- 助産師・看護師人件費
- 夜間・休日対応
- 医療安全・訴訟リスク対応
- 医療機器・設備投資
- 分娩予約数
- 地域内の出生数・年齢構成
産婦人科・婦人科は、単価が高く見える領域があっても、それだけで判断はできません。人員配置、夜間対応、医療安全、設備投資、訴訟リスク、分娩数の変動まで含めて考える必要があります。
特に分娩を扱う場合は、単純な外来診療所のKPIでは足りません。人員体制、施設設備、緊急時の対応、地域の周産期医療体制との連携まで含めて、経営と医療安全を一体で管理していくことが求められます。
歯科:チェア稼働・衛生士生産性・自由診療比率を分けて見る
歯科医院は、医科診療所とは利益構造が異なります。
歯科では、保険診療、自由診療、予防・メンテナンス、矯正、インプラント、審美、物販、デンタルローン、歯科技工、チェア稼働、歯科衛生士の生産性など、管理すべきKPIが多くなります。
歯科医院で重視したいKPIは、次のとおりです。
- チェア台数
- チェア稼働率
- 歯科医師1人当たり売上
- 歯科衛生士1人当たり売上
- メンテナンス患者数
- リコール率
- キャンセル率
- 無断キャンセル率
- 保険診療単価
- 自由診療比率
- 矯正・インプラント・審美の件数
- 歯科技工委託費率
- 歯科材料費率
- デンタルローン利用額
- 物販売上
- 治療計画説明率
歯科で特に重要なのは、保険診療と自由診療を分けて管理することです。
保険診療では、患者数とチェア稼働が重要になります。一方で自由診療では、治療計画、説明、同意、費用提示、分割支払、技工、材料、キャンセル、術後フォローまで管理しなければなりません。
自由診療の比率が高い医院ほど、売上の総額だけでは実態が見えてきません。広告費、カウンセリング時間、技工費、材料費、返金・中断のリスク、分割回収のリスクまで含めて、粗利を確認していく必要があります。
歯科医院では、「予約表」そのものが経営資料になります。チェアごとの稼働、歯科医師枠、歯科衛生士枠、メンテナンス枠、自由診療枠、キャンセル枠を見なければ、月次決算だけでは経営の実態をつかめません。
歯科医院は、行政機関、保健所、地方厚生局、税務署、労基署、年金事務所など、複数の機関と関わります。そのため、診療内容だけでなく、法務・税務・労務・行政対応を含めた管理体制が必要です。歯科医院の法務・税務・経営戦略については、診療科別の論点の中でも、独立した深掘りが必要なテーマといえます。
診療科別KPIを読むときに避けたい3つの誤解
誤解1:患者数が多ければ経営は安定している
患者数が多いことは、必ずしも経営の安定を意味しません。
患者数が増えても、診療単価が低い、変動費が高い、人件費が増えている、待ち時間が長い、クレームが多い、スタッフの離職が増えている。こうした状態であれば、経営はむしろ不安定になっていきます。
特に整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、小児科のように患者数が増えやすい診療科では、回転率と満足度のバランスが大切です。
患者数を見るときは、必ず次の数字と一緒に見るようにします。
- 診療単価
- 粗利
- 人件費率
- 待ち時間
- スタッフ残業時間
- クレーム件数
- 再診継続率
誤解2:診療単価が高ければ利益率も高い
診療単価が高くても、利益率まで高いとは限りません。
単価の高い診療には、材料費、技工費、検査費、医療機器、減価償却、リース料、専門人材、人件費、説明時間、リスク対応が伴うことがあります。
眼科手術、歯科の自由診療、産婦人科、不妊治療、美容皮膚科、画像診断などでは、単価だけでなく、直接原価と固定費を分けて見ていく必要があります。
単価を見るときは、必ず次の問いを置いてみてください。
- その単価は何で構成されているか
- 直接原価はいくらか
- 説明・同意・フォローにどれだけ時間がかかるか
- 設備投資を何年で回収できるか
- キャンセルや返金のリスクはあるか
- 医療広告や説明責任上のリスクはないか
誤解3:人件費率は一律に低いほどよい
人件費率は、低ければよいというものではありません。
医療機関は、専門職の組織です。看護師、医療事務、検査スタッフ、理学療法士、歯科衛生士、心理士、助産師といった人材が、患者満足、診療品質、生産性を支えています。
人件費を抑えすぎると、診療の質、患者対応、スタッフの定着、院内コミュニケーションが悪化し、結果として患者数や収益性に跳ね返ってきます。
その一方で、売上や診療体制に見合わない人員配置は、固定費を押し上げます。
見るべきなのは、人件費率そのものだけではありません。その人件費が、どの収益・品質・効率に結びついているのかです。
診療科別KPIを月次決算に落とし込む
診療科別KPIは、年1回の決算書だけでは管理できません。月次で、同じ前提の数字を確認し続けなければ、判断材料にはならないのです。
月次で最低限、確認しておきたいのは次の項目です。
- 月間売上
- 保険診療収入
- 自由診療収入
- 健診・予防接種・委託料
- 延べ患者数
- 初診患者数
- 再診患者数
- 診療単価
- 人件費
- 医薬品費・材料費・技工費・外注検査費
- 広告費
- リース料・減価償却費
- 借入返済額
- 現預金残高
ここで大切なのは、月次試算表の勘定科目と、医療現場のKPIをつなげることです。
会計上の売上だけを見ても、患者数の変化は分かりません。逆に、患者数だけを見ても、単価や利益率は見えてきません。医療機関の経営では、レセプト、予約表、会計データ、月次試算表、資金繰り表をつなげて見ていく必要があるのです。
この仕組みがないと、次のような判断が遅れてしまいます。
- どの診療科・部門が利益を生んでいるのか
- 広告費が初診につながっているのか
- 自由診療は本当に採算が合っているのか
- 人件費は過大なのか、それとも必要な投資なのか
- 設備投資を回収できているのか
- 分院や在宅医療に進む余力があるのか
- 承継・M&Aで説明できる数字になっているのか
診療科別KPIは、単なる分析資料ではありません。月次決算、予実管理、資金繰り、投資判断、採用計画、承継準備に接続して、はじめて意味を持つものです。
診療科別KPIを使って、自院で確認すべき問い
診療科別の平均値を見る前に、自院について次の問いを確認してみてください。
収益について
- 自院の売上は、患者数で伸びているのか、それとも単価で伸びているのか
- 初診患者は増えているか
- 再診患者は継続しているか
- 自由診療や健診収入は、保険診療と分けて管理されているか
- 診療単価の変化は、診療内容の変化によるものか、それとも制度変更によるものか
費用について
- 人件費率は、診療科の構造に照らして妥当か
- 医薬品費、材料費、技工費、外注検査費は、売上に見合っているか
- 医療機器や内装の減価償却・リース料は、稼働に見合っているか
- 広告費は、初診や自由診療に結びついているか
- 外注費や委託費に、見直しの余地はないか
稼働について
- 医師、スタッフ、診察室、検査機器、チェア、リハビリ室のどこが詰まっているか
- 予約枠は適正に埋まっているか
- キャンセルや無断キャンセルはどの程度あるか
- 待ち時間は患者満足に影響していないか
- 繁忙期と閑散期の人員配置は妥当か
将来判断について
- 採用すべき職種と時期は明確か
- 設備更新の資金は準備できているか
- 自由診療や在宅医療に進む場合、採算と体制を説明できるか
- 分院・移転・拡張を検討する前提資料はあるか
- 承継・M&A時に、診療科別の強みを第三者に説明できるか
診療科別の違いを、経営戦略にどうつなげるか
診療科別KPIを整理する最終的な目的は、経営戦略を選ぶことにあります。
医療機関の戦略は、大きく分けると次の方向に分かれます。
- 患者数を増やす
- 診療単価を高める
- 継続率を高める
- 自由診療・健診・在宅など、収益源を広げる
- 人件費や固定費の生産性を高める
- 設備投資の回収力を高める
- 診療圏内で専門性を明確にする
- 地域連携・紹介を強化する
- 承継・M&Aに備えて、説明可能性を高める
どの戦略が適切かは、診療科によって異なります。
内科では、慢性疾患管理、健診後フォロー、在宅医療、生活習慣病患者の継続管理が、戦略になりやすいでしょう。
整形外科では、リハビリ体制、患者導線、スタッフの生産性、設備稼働が重要になります。
小児科では、予約、感染対策、予防接種、保護者への説明、季節変動への対応が、経営を左右します。
皮膚科では、保険診療の回転と、自由診療の採算管理を分けることが必要です。
眼科では、検査工程、機器投資、手術の有無、スタッフ教育が、収益性を左右します。
精神科・心療内科では、診療時間、予約枠、キャンセル、初診待機、医師の負荷管理が重要になります。
歯科では、チェア稼働、歯科衛生士の生産性、メンテナンス、自由診療、技工費、キャンセル管理が鍵を握ります。
大切なのは、診療科ごとの構造を踏まえないまま、他院の成功パターンをそのまま真似しないことです。
診療科別KPIは、承継・M&Aでも問われる
診療科別KPIは、日常の経営だけでなく、承継・M&Aの場面でも重要になります。
買い手や後継者が見るのは、単年度の利益だけではありません。
- 患者基盤は安定しているか
- 初診患者は継続的に入っているか
- 特定の院長個人に依存しすぎていないか
- スタッフは定着しているか
- 自由診療は説明可能な収益構造になっているか
- 設備投資やリースの負担は重くないか
- 税務・会計・労務・行政対応にリスクはないか
- 診療科別・部門別の採算を説明できるか
診療科別KPIが整理されていない医療機関は、外部から見たときに「何で利益が出ているのか」「どこにリスクがあるのか」が分かりにくくなります。
逆に、患者数、単価、部門別の採算、人員体制、設備投資、資金繰り、自由診療比率を継続的に管理している医療機関は、金融機関、後継者、買い手、行政、外部の専門家に対して、ぐっと説明しやすくなります。
診療科別KPIの整備は、目先の経営改善だけにとどまりません。将来の承継可能性を高めるための基盤でもあるのです。
平均値に頼らず、自院の経営を説明できる状態へ
医療機関の経営において、平均値は出発点にはなりますが、結論にはなりません。
同じ診療科であっても、立地、患者層、医師の専門性、スタッフ体制、設備、予約システム、自由診療比率、法人形態、借入の状況によって、適正なKPIは変わってきます。
大切なのは、次の3つです。
1つ目は、診療科ごとの収益構造を理解すること。患者数、診療単価、再診継続、そして検査・処置・リハビリ・自由診療の構成を、分けて見ていく必要があります。
2つ目は、コスト構造を分けること。人件費、材料費、技工費、医薬品費、外注費、減価償却、リース料、広告費を一括りにせず、診療科の特性に合わせて確認します。
3つ目は、月次で継続的に確認すること。年1回の決算書だけでは、診療科別KPIを経営判断に使うことはできません。月次決算、レセプト、予約表、資金繰り表をつなげることで、はじめて投資、採用、集患、承継の判断材料になります。
診療科別KPIは、医療機関を縛るための数字ではありません。自院の状態を説明し、次の判断をより確かなものにするための、共通言語なのです。
この記事の振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 経営判断への使い方 |
|---|---|---|
| 診療科別KPIの意味 | 平均値ではなく、自院の診療科・業態に合った数字を見る | 他院平均に合わせるのではなく、自院の構造を説明する |
| 患者数 | 延べ患者数、実患者数、初診率、再診率、来院頻度 | 集患、予約、診療時間、人員配置を判断する |
| 診療単価 | 初再診、管理料、検査、処置、リハビリ、自由診療の構成 | 単価の高低ではなく、何で単価が作られているかを見る |
| コスト構造 | 人件費、材料費、医薬品費、技工費、外注費、減価償却 | 利益率と固定費負担、変動費負担を分けて確認する |
| 稼働率 | 診察室、検査機器、リハビリ室、チェア、予約枠 | どこがボトルネックかを特定し、投資や採用を判断する |
| 内科 | 慢性疾患、再診継続、検査、在宅移行可能性 | 患者数だけでなく、継続管理と将来需要を見る |
| 整形外科 | リハビリ稼働、検査、患者導線、人員配置 | 高患者数でも現場負荷と待ち時間を管理する |
| 小児科 | 季節変動、予防接種、保護者対応、予約 | 年間で繁忙期・閑散期を見て人員と導線を整える |
| 皮膚科 | 保険診療と自由診療の切り分け | 自由診療は広告費・説明時間・機器投資を含めて採算を見る |
| 眼科 | 検査工程、機器稼働、手術の有無 | 医師だけでなく検査スタッフと設備投資を管理する |
| 精神科・心療内科 | 診療時間、予約枠、キャンセル、初診待機 | 患者数より時間単価と医師負荷を重視する |
| 歯科 | チェア稼働、衛生士生産性、自由診療、技工費 | 保険・自由診療を分け、予約表と月次決算をつなげる |
| 月次管理 | レセプト、予約表、試算表、資金繰り表 | 採用、設備投資、集患、承継・M&Aの判断材料にする |
診療科別KPIを整理していくと、自院の強みだけでなく、見えにくい固定費、採算の弱い部門、将来の設備更新リスクまで見えてきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次決算、管理会計、資金繰り、診療科別・部門別の採算整理を通じて、院長・理事長が自院の経営状態を説明し、次の判断を行うための材料づくりをご支援しています。
診療科別KPIを自院の月次管理に落とし込みたいとお考えの場合は、まず現在の試算表、レセプト集計、予約表、資金繰りの状況を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。