レセプト・窓口収入・未収金を会計に正しくつなぐ

医療機関の月次決算で、特に神経を使う領域のひとつが「医業収益」です。

一般的な事業会社であれば、請求書を発行し、売掛金を計上し、入金時に消し込む、という流れが比較的整理しやすいものです。しかし、医療機関の収入は、それほど単純には進みません。

保険診療では、患者さんから窓口負担を受け取り、残りは社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会といった審査支払機関を通じて支払われます。しかも請求後には審査があり、返戻、査定、再審査、過誤調整が発生します。

患者さんの負担分についても、未収金、後日入金、返金、キャッシュレス決済、福祉医療、公費負担などが絡んできます。加えて、自由診療、健診、予防接種、労災、自賠責、在宅医療、介護、産業医報酬などがあれば、収入区分や税務・会計処理はさらに複雑になります。

この領域を曖昧なまま処理してしまうと、月次試算表の売上が実態とずれてしまいます。未収金が残っているのか、査定で減額されたのか、返戻で再請求すべきなのか、窓口で回収漏れがあるのか、その判断がつかなくなるのです。

医業収益は、医療機関の経営判断の出発点です。患者数、診療単価、初診率、自由診療比率、未収金、資金繰り、税務申告、金融機関への説明、そして承継・M&Aの評価まで、そのすべてが医業収益の正確性に左右されます。

本稿では、レセプト、窓口収入、未収金を会計へ正しくつなぐために、医療機関がどのような管理体制を整えるべきかを、実務の視点から整理していきます。

目次

医業収益は「入金額」だけでは把握できない

医療機関の収益管理で最初に押さえておきたいのは、医業収益を入金額だけで把握してはいけない、という点です。

保険診療では、診療行為が行われた月、レセプトを請求する月、審査結果が出る月、入金される月が、それぞれずれます。ですから、預金通帳に入金された金額だけを眺めても、それがどの診療月の収益なのか、当初の請求額からいくら減額されたのか、返戻分があるのか、未収として残るものがあるのかは見えてきません。

保険診療の報酬は、保険医療機関が一月ごとに施設単位でレセプトを作成し、支払基金や国保連へ提出するところから動き始めます。審査支払機関はそのレセプトを審査したうえで保険者へ診療報酬を請求し、保険者から支払われた報酬を医療機関へ支払う、という流れです。
出典:厚生労働省|審査支払機関の現状と課題について

つまり、医療機関の会計では、少なくとも次の4つを分けて見る必要があります。

  • 診療した事実
  • 請求した金額
  • 審査で確定した金額
  • 実際に入金された金額

この4つを区別しないと、月次決算は「入金ベースの集計表」に近いものになってしまいます。

入金ベースの数字は、資金繰りを見るうえでは確かに重要です。ただし、診療月ごとの採算、未収金、返戻・査定、自由診療比率を判断するには、それだけでは足りません。

レセプト請求から入金までの流れを会計に落とし込む

保険診療の会計処理を整えるには、まずレセプト請求から入金までの流れを押さえておく必要があります。

一般的には、診療月の翌月にレセプトを請求し、その後、審査支払機関で審査が行われ、診療月の翌々月以降に入金されます。ただし、実務上の入金日は社会保険診療報酬支払基金、国保連、地域・制度・請求方法などによって異なります。自院の実際の支払予定日で確認しておくことが大切です。

会計上は、この流れを次のように整理していきます。

1. 診療月

患者さんに診療を提供する段階です。

この時点で、医療機関は収益を生む診療行為をすでに行っています。ただし、保険請求分については、診療月末の時点で請求額が確定していない場合もあります。レセプト点検、保険資格確認、公費確認、請求保留などが残っているためです。

2. レセプト請求月

診療月の翌月に、レセプトを取りまとめて請求します。

ここで確認するのは、請求額、件数、点数、請求保留分、再請求分です。会計上は、診療月に収益を計上する方法、請求時に計上する方法など、実務上の運用が分かれやすい領域でもあります。

大切なのは、毎月同じ方針で処理し、決算時に必要な修正を行える体制を整えておくことです。

医療法人や一定規模以上の医療機関では、発生主義に基づいて、診療月の収益として医業収益・医業未収金を把握する運用が望ましい場面が多いといえます。小規模な個人診療所であっても、月次管理を経営判断に使うのであれば、入金額だけでなく、請求額、査定額、返戻額、未収額まで把握しておく必要があります。

3. 審査・返戻・査定

レセプト請求後には、審査支払機関や保険者による審査が行われます。

請求内容に不備があれば返戻となり、診療内容や算定点数について減額が認められれば査定となります。返戻は、原則として不備を補正して再請求するもの。査定は、請求額と認められた額との差額が生じるもので、内容に不服がある場合には再審査請求を検討することになります。

会計上、返戻と査定を同じように扱うと、未収金残高や医業収益が歪んでしまいます。

返戻は、再請求によって回収される可能性があります。一方、査定は、再審査請求を行わない限り、減額として処理する必要があります。もっとも、再審査で復活する場合もあります。

ですから、返戻、査定、再審査、復活、過誤調整は、それぞれ分けて管理しておかなければなりません。

4. 入金・消込

入金時には、預金入金額を確認するだけでなく、医業未収金と照合します。

確認すべき点は、次のとおりです。

  • どの診療月の入金か
  • 当初請求額はいくらか
  • 返戻額はいくらか
  • 査定額はいくらか
  • 再審査で復活した金額はあるか
  • 源泉徴収額や調整額はあるか
  • 公費分や福祉医療分が別経路で入金されていないか
  • 未収金として残る金額はいくらか

ここまで確認して、はじめてレセプト収入が会計につながります。

「支払調書」や「当座口振込通知書」だけで売上を判断してはいけない

保険診療収入の会計でよく見かける誤りが、支払調書や当座口振込通知書の金額を、そのまま売上として処理してしまうことです。

もちろん、これらの資料は重要です。支払基金から医療機関へ送られてくる支払調書は、基金が税務署へ提出した法定調書の写しという位置づけのものです。
出典:社会保険診療報酬支払基金|支払調書

しかし、経営管理や発生主義による会計処理を考えると、支払調書や振込通知書だけでは足りない場面があります。

なぜなら、これらの資料は「最終的に支払われる金額」を把握するには有用でも、当初請求額、返戻額、査定額、再審査の状況、未収として残る金額までを十分に示しているとは限らないからです。

たとえば、売上が前年同月比で減っているとします。このとき、単に患者数が減ったのか、診療単価が下がったのか、返戻が増えたのか、査定が増えたのか、それとも請求漏れがあるのか。その原因によって、打つべき対策はまったく異なります。

支払額だけを見ていては、原因にたどり着けません。

月次決算を経営判断に使う医療機関では、支払額だけでなく、請求額、決定額、返戻額、査定額、再請求額、入金額、未収残高までを一本につなげて管理する必要があります。

医業収益を分解して管理する

医業収益を正しく管理するうえで欠かせないのが、収入をひとつの「売上」にまとめてしまわないことです。

最低限、次のような区分は検討しておきたいところです。

収入区分管理上のポイント
社会保険診療報酬診療月、請求額、決定額、入金額、返戻・査定を管理
国保・後期高齢者医療国保連からの支払通知、過誤調整、公費分との関係を確認
窓口負担金日計表、現金、キャッシュレス、未収金と照合
公費負担医療患者負担分との関係、請求先、入金経路を確認
生活保護公費単独・併用の区分、請求先、入金管理を確認
労災労働局等への請求、査定、不支給、保留を管理
自賠責保険会社、患者さん、医療機関の請求関係を整理
自由診療課税関係、前受金、分割、返金、キャンセルを管理
健診・予防接種自治体委託、企業健診、個人負担の区分を整理
産業医・嘱託医報酬役務提供時期、請求先、源泉徴収・消費税区分を確認
物販医療行為との関係、消費税、在庫管理を確認

この区分を整理しておかないと、会計上の売上は合っていても、経営判断には使えない数字になってしまいます。

たとえば、こうした状況です。

  • 保険診療は安定しているが、自由診療のキャンセルが増えている
  • 外来患者数は横ばいだが、健診収入が季節要因で増えている
  • 在宅医療の請求額は伸びているが、未収金の回収が遅れている
  • 労災・自賠責の入金遅れが、資金繰りに影響している
  • 窓口現金は日計表上は合っているが、キャッシュレス手数料を控除した後の入金額しか会計に反映されていない

こうした状態では、売上総額だけを見ても判断を誤ってしまいます。

窓口収入は「日計表」「現金」「レセコン」「入金」を照合する

窓口収入は、医療機関の内部管理上、とりわけ注意を要する領域です。

窓口では、現金、クレジットカード、電子マネー、QR決済、後日請求、未収、返金などが入り混じります。さらに、保険診療の一部負担金、自由診療、文書料、予防接種、健診、物販までが、同じ窓口で処理されることもあります。

窓口収入を正しく会計につなぐには、次の照合が必要です。

  • レセコン上の会計データ
  • 窓口日計表
  • 現金残高
  • キャッシュレス決済明細
  • 未収金一覧
  • 返金・取消処理
  • 預金入金額
  • 会計帳簿上の医業収益・現金・未収金

なかでも、現金収入は属人的になりやすい領域です。

日計表上の現金額と実際の現金残高は一致しているか。現金過不足が生じたとき、その原因を記録しているか。返金処理について、患者名、理由、金額、承認者まで残しているか。キャッシュレス決済について、手数料控除前の売上と手数料とを分けて把握できているか。未収金として処理すべきものを、ただ「未回収」と現場メモに残したままにしていないか。

このあたりが曖昧だと、税務調査だけでなく、内部不正、患者さんとのトラブル、承継・M&A時の確認にまで影響してきます。

窓口収入は、受付業務の一部であると同時に、会計・内部統制の重要な入口でもあるのです。

窓口負担金と保険者負担分のバランスを見る

保険診療では、患者の一部負担金と、保険者からの給付部分との間に、一定の関係があります。

そのため、保険請求額に対して窓口収入が不自然に少ない場合には、会計処理や回収管理のどこかに問題が潜んでいる可能性があります。

考えられる原因としては、次のようなものが挙げられます。

  • 窓口徴収漏れ
  • 未収金管理漏れ
  • 公費負担の確認漏れ
  • 返金処理の記録不足
  • レセコン上の会計処理ミス
  • 現金管理の不備
  • キャッシュレス決済の未照合
  • 自由診療収入との混在
  • 自費分を別管理していて、会計に反映されていない

もっとも、患者負担割合、公費負担、生活保護、福祉医療、後期高齢者医療、限度額適用、オンライン資格確認の状況などによって、窓口負担は一律ではありません。ですから、単純な比率だけで判断することはできません。

それでも、月次で窓口収入と保険請求額の関係を確認していれば、異常にずいぶん早く気づくことができます。

「何となく現金が少ない」で済ませるのではなく、レセコン、日計表、現金、未収金、入金明細をつないで確認していくことが大切です。

未収金は「誰から回収するのか」で分ける

医療機関の未収金は、ひと括りにしてはいけません。回収先によって、その性質がまったく異なるからです。

大きく分けると、次のようになります。

未収金の種類主な回収先管理上の注意点
保険診療報酬未収金支払基金・国保連等診療月、請求月、入金月、返戻・査定を管理
患者窓口未収金患者さん本人回収方法、督促履歴、貸倒可能性を管理
公費負担分未収金自治体等請求先、制度区分、入金時期を確認
労災未収金労働局等不支給、保留、査定、患者さんへの請求切替を確認
自賠責未収金保険会社・患者さん一括対応、示談状況、診断書等の提出状況を確認
自由診療未収金患者さん・信販会社等前受金、分割、ローン、返金、キャンセルを管理
健診・委託料未収金企業・自治体契約期間、実施月、請求月、入金予定を管理

未収金管理で何より避けたいのは、会計帳簿上は未収金残高があるのに、現場では誰も回収状況を把握していない、という状態です。

未収金は、発生した時点で終わりではありません。回収予定日、回収方法、担当者、督促履歴、回収不能見込みまで管理して、はじめて意味を持ちます。

患者さんの未収金を放置すると、経営と現場の両方に影響する

患者さんの窓口未収金は、金額が小さいからといって軽く見るべきではありません。

一件ごとの金額が小さいために、院長や事務長がつい後回しにしてしまいがちです。けれども、未収金が積み上がると、資金繰りだけでなく、受付対応、患者さんへの説明、スタッフの心理的な負担にまで影響が及びます。

患者さんの未収金では、次の点を確認します。

  • 未収が発生した理由
  • 患者さん本人に説明した内容
  • 支払予定日
  • 支払方法
  • 督促履歴
  • 再診時の対応方針
  • 長期未収になった場合の回収方針
  • 貸倒処理を検討すべきか
  • 生活困窮や医療継続上の配慮が必要か

医療機関は、単なる債権回収業者ではありません。患者さんの事情、医療の継続性、窓口での対応負担も、あわせて考慮する必要があります。

一方で、何のルールもないまま放置することは、他の患者さんとの公平性や、スタッフの対応負担という面でも問題です。

未収金管理は、冷たく回収を迫るための仕組みではありません。医療機関として、説明可能で一貫した対応を行うための仕組みなのです。

返戻・査定は「医事課だけの問題」ではない

返戻や査定は、医事課や医療事務担当者だけの問題として扱われがちです。

しかし、経営管理の観点からは、院長・理事長・事務長が必ず目を通しておくべき重要指標です。

返戻・査定が増えている場合、その背景には次のような問題が潜んでいる可能性があります。

  • 算定ルールの理解不足
  • 電子カルテ・レセコン設定の不備
  • 保険資格確認の漏れ
  • 診療録の記載不足
  • 施設基準の要件確認不足
  • 検査・処置・指導料の算定漏れ
  • 医師と医事課の連携不足
  • 診療報酬改定への対応遅れ
  • 新人スタッフへの教育不足

返戻・査定は、単なる事務ミスではありません。医療機関の収益性、内部管理、診療録の記載、施設基準管理、スタッフ教育と、すべてつながっています。

月次で確認しておきたい指標は、次のとおりです。

  • 返戻件数
  • 返戻金額
  • 査定件数
  • 査定金額
  • 再請求済み件数
  • 未再請求件数
  • 再審査請求件数
  • 復活金額
  • 返戻・査定の主な理由
  • 担当者別・診療科別・医師別の傾向

これらを毎月確認していくと、収益管理だけでなく、現場の改善にもつながっていきます。

「請求漏れ」は見えにくいが、経営への影響は大きい

返戻や査定は、通知が届くため比較的見つけやすいものです。

これに対して、請求漏れは見えにくい問題です。請求漏れとは、診療行為を行ったにもかかわらず、それがレセプトに反映されていない状態を指します。

たとえば、次のようなケースです。

  • 検査を実施したが算定されていない
  • 処置や注射が入力されていない
  • 管理料の算定漏れがある
  • 在宅医療の加算が漏れている
  • 自由診療分を会計していない
  • 健診・予防接種の請求先を誤っている
  • 書類作成料を徴収していない
  • 自賠責や労災へ請求すべきものを保留したままにしている

請求漏れは、通帳を見ても分かりません。そもそも請求していないため、入金も返戻も査定も発生しないからです。

請求漏れを防ぐには、診療録、オーダー、検査伝票、処置記録、在宅訪問記録、レセコン入力を照合する必要があります。

特に、診療報酬改定の後、新しい加算を取得した直後、新人スタッフが入った直後、分院や在宅医療を始めた直後は、注意が必要です。

自由診療・健診・予防接種は、保険診療と分けて管理する

医療機関の収益管理では、保険診療と自由診療等を分けて管理する必要があります。会計、税務、消費税、広告、説明責任のいずれもが異なるためです。

消費税の取扱いでいえば、社会保険医療の給付等は非課税取引とされており、ここには健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などが含まれます。一方で、美容整形、差額ベッド料金、市販されている医薬品の購入などは、非課税取引には当たりません。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引

ですから、「医療機関の売上だからすべて非課税」と考えるのは危険です。

自由診療、物販、文書料、健診、予防接種、産業医報酬などは、その内容によって消費税区分や収入区分を確認する必要があります。

自由診療等では、次の管理が重要になります。

  • 診療メニュー別売上
  • 前受金の有無
  • 分割払いの有無
  • キャンセル・返金ルール
  • デンタルローン等の信販会社入金
  • キャッシュレス決済手数料
  • 消費税区分
  • 広告・説明資料との整合性
  • 患者さんへの費用説明記録

保険診療と自由診療を同じ「医業収益」として一括処理してしまうと、採算も税務も判断できなくなってしまいます。

労災・自賠責は入金時期と請求先を別管理する

労災や自賠責は、保険診療とも自由診療とも異なる管理が必要です。

労災では、労働局等による確認・審査があり、不支給、保留、査定、保留解除などが発生することがあります。自賠責では、保険会社、患者さん、加害者側保険会社、弁護士、医療機関の関係が複雑になることがあります。

これらを通常の保険診療収入と同じように処理すると、未収金管理が不安定になります。

確認すべき点は、次のとおりです。

  • 請求先は誰か
  • 患者さん本人への請求に切り替わる可能性があるか
  • 請求書・診断書・明細書の提出状況
  • 不支給・保留・査定の有無
  • 入金予定時期
  • 長期未収になっていないか
  • 会計上、どの収入区分にしているか
  • 消費税区分を確認しているか

労災・自賠責は、件数が多くない医療機関であっても、1件あたりの金額が大きくなることがあります。未収金として長く残ると、資金繰りや決算説明に響いてきます。

医業未収金は貸借対照表で管理する

医業収益の管理は、損益計算書だけでは完結しません。貸借対照表の医業未収金まで見ておく必要があります。

損益計算書では売上が増えている。ところが、貸借対照表では医業未収金も増えている。こうした場合には、売上は伸びていても、資金の回収が追いついていない可能性があります。

医業未収金については、次のような年齢表を作成すると、実務上とても有効です。

経過期間管理上の意味
1か月以内通常の入金待ち
2〜3か月入金予定・返戻・査定・再請求状況を確認
4〜6か月請求漏れ、再請求漏れ、患者未収、労災・自賠責の停滞を確認
6か月超回収可能性、督促、貸倒、処理方針を検討
1年超個別評価、税務処理、内部管理上の対応を検討

未収金は、「残高」だけで見るのではなく、「なぜ残っているのか」で見ることが大切です。

保険請求分なのか。患者さんの負担分なのか。公費分なのか。労災・自賠責なのか。自由診療の分割払いなのか。返戻で再請求予定なのか。査定で減額すべきなのか。それとも、実は入力ミスなのか。

この分類ができていない未収金は、経営判断には使えません。

月次決算では、医業収益のチェックリストを持つ

医業収益を会計へ正しくつなぐには、月次決算の際にチェックリストを使うのが有効です。

たとえば、次のような確認項目です。

  • 診療月別の保険請求額を確認したか
  • レセプト総括表と請求データの件数・点数は一致しているか
  • 請求保留分を一覧化しているか
  • 返戻分の再請求状況を確認したか
  • 査定分の処理方針を確認したか
  • 再審査請求の有無を確認したか
  • 支払基金・国保連の入金通知と会計帳簿を照合したか
  • 窓口日計表と現金残高を照合したか
  • キャッシュレス決済明細と入金額を照合したか
  • 患者さんの未収金一覧を更新したか
  • 自由診療、健診、予防接種、産業医報酬を区分したか
  • 労災・自賠責の未収状況を確認したか
  • 前月以前から残っている医業未収金の理由を確認したか
  • 消費税区分に誤りがないか確認したか
  • 異常値を経営会議で共有したか

このチェックに、完璧な形式が求められるわけではありません。大切なのは、毎月同じ視点で確認を続けることです。

会計事務所へ渡すべき資料

医業収益の会計処理を正確に行うには、会計事務所へ渡す資料も整理しておく必要があります。

通帳や入金明細だけを渡しても、医業収益は正しく処理できません。月次で共有しておきたい資料は、次のとおりです。

  • レセプト請求総括表
  • 支払基金の支払通知、支払調書関連資料
  • 国保連の支払通知、年間支払額通知書関連資料
  • 増減点返戻連絡書
  • 再審査等支払調整通知票
  • 返戻一覧
  • 査定一覧
  • 再請求一覧
  • 窓口日計表
  • 現金出納表
  • キャッシュレス決済明細
  • 自由診療売上一覧
  • 健診・予防接種・自治体委託料の請求書
  • 労災・自賠責の請求・入金・保留資料
  • 未収金一覧
  • 返金・キャンセル一覧

資料を渡すだけでなく、資料同士がつながっていることが重要です。

どの入金がどの診療月に対応するのか。どの返戻が再請求済みなのか。どの未収金が長期化しているのか。どの自由診療売上が前受金なのか。

ここまで整理されていれば、会計事務所は単なる記帳処理にとどまらず、収益構造の分析や未収金管理の支援まで踏み込みやすくなります。

医業収益管理は内部統制の問題でもある

医業収益は、税務申告のためだけに整えるものではありません。内部統制の観点からも重要です。

医療機関では、診療、レセプト、窓口会計、現金管理、未収金管理、入金確認が、それぞれ別の担当者に分かれていることがあります。小規模なクリニックでは、同じスタッフが複数の業務を兼ねることもあります。

どちらの場合でも、牽制と確認の仕組みは欠かせません。たとえば、次のような体制です。

  • 窓口担当者が日計表を作成する
  • 別の担当者または事務長が現金と日計表を確認する
  • レセプト担当者が請求総括表を作成する
  • 院長または事務長が返戻・査定の主要項目を確認する
  • 会計担当者が入金と医業未収金を照合する
  • 長期未収金は月次会議で共有する
  • 返金や現金過不足は承認記録を残す

これは、現場を疑うためのものではありません。医療機関の収益を、後からでもきちんと説明できる状態にしておくためのものです。

内部統制が弱い医療機関では、売上除外、現金過不足、未収金の放置、請求漏れ、返戻の再請求漏れが起こりやすくなります。そしてこれらは、税務調査、金融機関対応、承継、M&Aの場面で、必ずといってよいほど確認される論点でもあります。

税務上も、収入区分と計上時期は重要になる

医業収益は、税務上も慎重に整理しておく必要があります。

個人開業医では、社会保険診療報酬の所得計算の特例、自由診療収入、窓口負担、健診・予防接種、産業医報酬、労災・自賠責などが、所得区分や必要経費の計算に影響します。医療法人では、医業収益、医業外収益、未収金、貸倒引当金、消費税、そして役員・関係者取引との関係にも注意が必要です。

社会保険診療報酬の所得計算の特例については、社会保険診療報酬の範囲や総収入金額の範囲などが、国税庁の通達で整理されています。適用の可否や有利・不利は、社会保険診療報酬の金額、総収入金額、自由診療収入、共通経費などを確認したうえで判断する必要があります。
出典:国税庁|第67条《社会保険診療報酬の所得の計算の特例》関係

また、消費税では、社会保険医療が非課税取引に該当する一方、自由診療や物販等は課税取引となる場合があります。非課税と不課税では、課税売上割合の計算上の取扱いも異なります。だからこそ、収入区分を曖昧にしてはいけないのです。
出典:国税庁|No.6209 非課税と不課税の違い

つまり、医業収益を正しく会計につなぐことは、そのまま税務判断の前提になります。

医療法人では、会計基準と説明責任も意識する

医療法人の場合、医業収益管理は、法人運営上の説明責任にも関わってきます。

医療法人会計基準では、医療法人が会計処理を行い貸借対照表等を作成するにあたって、財政状態および損益の状況について真実な内容を明瞭に表示すること、正規の簿記の原則に従うこと、そして会計処理の原則・手続および表示方法を毎会計年度継続して適用することなどが求められています。
出典:e-Gov法令検索|医療法人会計基準

この趣旨から考えても、医業収益を毎月違う基準で処理することは望ましくありません。

ある月は入金ベース。ある月は請求ベース。決算時だけ未収計上。返戻・査定の処理は担当者任せ。自由診療は現金主義。労災・自賠責は入金時まで未管理。

このような運用では、医療法人としての説明力が弱くなってしまいます。

医療法人では、次の処理方針を明確にしておくべきです。

  • 保険診療収益の計上時期
  • 医業未収金の計上基準
  • 返戻・査定・過誤調整の処理方針
  • 患者さんの未収金の管理方法
  • 自由診療収益の計上時期
  • 前受金の処理
  • 労災・自賠責の未収管理
  • 消費税区分の確認方法
  • 長期未収金の評価方針
  • 月次決算と年度決算の調整方法

これらは、単なる経理ルールではありません。医療法人が外部に説明できる数字をつくるための基盤です。

経営会議では「売上」ではなく「収益の質」を見る

月次の経営会議で、売上総額だけを確認しているのでは不十分です。

医業収益については、次のような視点で確認していきます。

  • 保険診療収入は診療月ベースで増えているか
  • 患者数と診療単価の、どちらが変化しているか
  • 窓口収入と保険請求額のバランスに異常はないか
  • 返戻・査定が増えていないか
  • 請求漏れの可能性はないか
  • 未収金が増えていないか
  • 自由診療の売上は実際に回収されているか
  • 前受金を売上として誤認していないか
  • 労災・自賠責の未収が長期化していないか
  • キャッシュレス決済の手数料控除前後を正しく把握しているか
  • 公費・福祉医療分の請求漏れがないか

この確認を続けていくと、医業収益は、単なる「売上」ではなくなります。自院の診療構造、請求精度、現場管理、患者対応、資金繰りを映し出す経営資料へと変わっていきます。

レセプト・窓口収入・未収金を整える順番

医業収益管理を改善するなら、次の順番で整えていくと、実務に落とし込みやすくなります。

第1段階:収入区分を整理する

まずは、自院の収入を洗い出します。

保険診療、自由診療、健診、予防接種、産業医、文書料、物販、労災、自賠責、在宅医療、介護、公費、自治体委託料など、すべての収入経路を一覧化します。

第2段階:資料の流れを整理する

次に、収入区分ごとに、どの資料が発生するのかを整理します。

レセプト請求資料、支払通知、日計表、キャッシュレス明細、請求書、契約書、未収金一覧、返戻・査定通知などです。

第3段階:会計処理ルールを決める

診療月で収益計上するのか、請求時で計上するのか、入金時にどう消し込むのか、返戻・査定をどう処理するのかを決めます。

医療法人か個人開業医か、規模、月次管理の精度、税務申告方針によって、適切な運用は異なります。それでも、「毎月同じルール」で処理することが何より重要です。

第4段階:未収金一覧を作る

未収金を、回収先別、診療月別、経過期間別に管理します。

支払基金・国保連等の未収金、患者さんの未収金、労災・自賠責、自由診療、自治体・企業健診などに分けていきます。

第5段階:月次会議で確認する

最後に、返戻・査定、未収金、窓口現金、自由診療、労災・自賠責、異常値を、月次会議で確認します。

会計処理だけで終わらせず、現場改善と経営判断につなげていくことが狙いです。

まとめ:医業収益を説明できる医療機関になる

医療機関の収益管理は、入金額を会計ソフトに入力するだけでは整いません。

診療した月。請求した金額。審査で減額された金額。返戻されたレセプト。再請求した金額。患者さんから受け取った窓口負担。未収として残っている金額。自由診療や労災・自賠責の入金予定。そして、消費税や所得計算に影響する収入区分。

これらをつなげて、はじめて医業収益は経営判断に使える数字になります。

医業収益を正しく把握できれば、患者数や単価の変化、請求精度、未収金、資金繰り、自由診療の採算、在宅医療や分院展開の判断も、ぐっと見えやすくなります。

逆に、医業収益が曖昧なままでは、月次決算、資金繰り、事業計画、税務申告、承継、M&Aのすべてが不安定になってしまいます。

守りの仕組みとしてレセプト・窓口収入・未収金を整えることは、医療機関の成長を止めるものではありません。むしろ、自院の状態を説明し、次の判断を確かなものにするための基盤になります。

レセプト・窓口収入・未収金の管理を見直したい医療機関へ

月次試算表の売上とレセプト資料が合わない。窓口収入と現金・キャッシュレス入金の照合が属人的になっている。返戻・査定・再審査の管理が医事担当者任せになっている。未収金が残っているのに、その理由や回収見込みを説明できない。自由診療、健診、労災、自賠責、在宅医療の収入区分が整理されていない。

このような状態では、医業収益を経営判断に使うことが難しくなります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次決算、医業収益管理、レセプト・窓口収入・未収金の会計処理、税務判断、内部管理、医療法人運営、そして将来の承継・M&Aを見据えた資料整備を支援しています。

自院の医業収益が、後から第三者に説明できる数字になっているかを確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り:この記事の重要ポイント

論点確認すべきこと
医業収益の基本入金額だけでなく、診療月、請求額、決定額、入金額を分けて見る
レセプト請求診療月、請求月、入金月のずれを会計処理に反映する
返戻再請求が必要なものとして、未収金管理と再請求状況を確認する
査定減額処理、再審査請求、復活額を区分して管理する
支払調書・振込通知入金確認には有用だが、請求額・返戻・査定の分析には不足する場合がある
窓口収入日計表、現金、レセコン、キャッシュレス明細、未収金を照合する
患者さんの未収金回収予定、督促履歴、長期化理由、貸倒可能性を管理する
自由診療保険診療と分け、前受金、返金、消費税区分、説明資料との整合性を確認する
労災・自賠責請求先、保留、不支給、査定、入金予定を別管理する
医業未収金回収先別・経過期間別の年齢表で管理する
内部統制現金管理、返金承認、未収金消込、返戻・査定確認を属人化させない
経営判断売上総額ではなく、収益の質、回収状況、請求精度を月次で確認する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次