合併は、M&Aやグループ再編の手法の中でも、税務上の効果が目に見えやすいものです。
複数の会社を一つにまとめれば、管理コストは軽くなります。赤字会社と黒字会社を一体化すれば、その後の損益を通算できます。適格合併に該当すれば、資産の含み益に対する課税を繰り延べられますし、一定の要件を満たせば、被合併法人の繰越欠損金を合併法人で使える可能性も出てきます。
こうした点から、合併は「節税に使える手法」として検討の俎上に載ることがあります。
ただ、実務の現場から申し上げると、合併は単なる節税策ではありません。
合併では、被合併法人の資産・負債・契約関係・税務リスク・簿外債務・労務リスクなどが、原則としてまとめて合併法人へ引き継がれます。数字の上では有利に見える合併であっても、実行後になって、想定していなかった債務や税務調査リスク、少数株主への対応、金融機関との折衝、会計処理、労働条件の統一コストが表面化することは珍しくありません。合併には、シナジー、管理コスト削減、包括承継、損益通算、適格合併による含み益課税の繰延べ、一定要件下での繰越欠損金の引継ぎといった利点がある一方で、引き継ぐリスクもまた大きいのです。
合併を節税の観点から判断するとき、本当に問うべきなのは「税金が減るか」ではありません。「その合併に事業目的があり、実態・資料・資金繰り・将来のリスクに耐えられるか」です。
合併とは、会社を一体化する組織再編である
合併とは、複数の会社を一つに統合する組織再編です。
吸収合併では、被合併法人が消滅し、合併法人がその権利義務を引き継ぎます。新設合併では、合併によって新たに設立される法人が、消滅する会社の権利義務を承継します。
会社法上、合併は、消滅する会社が清算手続を経ずに法人格を失い、その事業に関する権利義務が承継会社へ移る仕組みです。これに対して法人税法上は、合併によって資産・負債が移転し、被合併法人の株主等が合併法人株式等を取得する取引として捉えます。同じ一つの合併を扱っていても、会社法上の見方と、法人税法上の組織再編税制の見方とでは、着眼点が異なるわけです。
そのため、合併を検討するときには、少なくとも次の二つを分けて考える必要があります。
- 会社法上、どのような手続で権利義務を承継するのか。
- 税務上、資産・負債・株主にどのような課税関係が生じるのか。
この切り分けをしないまま、「合併なら全部まとめられる」「適格合併なら税金がかからない」と受け取ってしまうと、実務判断を誤ります。
合併が節税に見える主な理由
合併が節税策として検討されるのは、おおむね次のような理由からです。
一つは、合併後は一つの法人になるため、黒字事業と赤字事業を同じ法人の中で管理でき、合併後に生じる損益を通算できる可能性があることです。
また、適格合併に該当すれば、被合併法人の資産・負債を税務上の帳簿価額のまま引き継ぎ、移転時点での含み益課税を繰り延べられる場合があります。
さらに、一定の要件を満たすときには、被合併法人の未処理欠損金額を合併法人が引き継ぎ、将来の所得と相殺できる可能性も出てきます。
加えて、複数の法人を一体化することで、経理・総務・人事・税務申告・監査対応といった管理コストを下げられることがあります。グループ内の資金、人材、資産を一体で運用しやすくなり、事業承継やM&A後の統合を進めやすくなる、という効果も見込めます。
ただし、これらはいずれも「可能性」にとどまります。合併すれば当然に税金が減る、というものではありません。
損益通算は、あくまで合併後に生じる損益の問題です。過去の繰越欠損金を使えるかどうかは、欠損金の引継ぎ・利用制限という別の論点になります。適格合併による課税の繰延べも、非課税ではなく、課税関係を将来へ持ち越す仕組みにすぎません。
合併を節税の観点から判断するときは、その効果を「損益通算」「課税繰延べ」「欠損金利用」「管理コスト削減」に分解して考えることが欠かせません。
適格合併は「非課税」ではなく「課税繰延べ」である
合併税務で最初の入口となるのが、適格合併に該当するかどうかです。
資産が移転する場合には、その移転資産の譲渡損益に課税するのが原則であり、組織再編成についても考え方は同じです。ただし、組織再編成の前後で経済実態に実質的な変更がなく、移転した資産に対する支配が再編成後も続いていると認められる場合には、一定の要件のもとで適格組織再編成として課税の繰延べが認められます。合併についても、対価要件をはじめとする要件を満たすときには、適格合併として、資産移転時の譲渡損益や株主の旧株譲渡損益の計上が繰り延べられることがあります。
出典:財務省|組織再編税制に関する資料
ここで気をつけたいのは、適格合併は「税金が消える制度」ではない、ということです。
適格合併では、被合併法人の資産・負債を、税務上の帳簿価額のまま合併法人が引き継ぐのが基本です。つまり、含み益や含み損は、合併の時点で精算されるのではなく、合併後の法人へそのまま持ち越されます。
そのため、適格合併を検討するときには、次のような点を確認しておく必要があります。
- 合併時点の課税を繰り延べられるか。
- 繰り延べた課税関係は、将来どこで表面化するか。
- 引き継いだ資産の税務簿価と、会計上の処理は整合しているか。
- 合併後に資産を売却した場合、どの時点で含み益・含み損が実現するか。
- 会計上は時価処理でも税務上は帳簿価額の引継ぎとなる場合に、税効果会計や申告調整を管理できるか。
適格合併を「税金がかからない合併」と受け取ってしまうと、将来の負担を見落とします。正しくは、「経済実態が続いている場合に、合併の時点で課税関係をいったん継続させる仕組み」と捉えるべきものです。
非適格合併では、時価移転・みなし配当・株主課税が問題になる
適格合併に該当しない場合は、非適格合併として、被合併法人の資産・負債を時価で譲渡したものとして課税関係が生じることがあります。
非適格合併では、被合併法人が資産・負債を時価で合併法人へ移転し、その対価として合併法人株式やその他の資産を取得して、それを株主に交付したもの、と整理されます。この結果、被合併法人の側で資産・負債の移転損益が生じ、株主の側でも旧株の譲渡損益やみなし配当が問題になることがあります。会社法上は一つの合併であっても、税務上は法人段階と株主段階の課税関係を分けて見なければならない、ということです。
とりわけ注意しておきたいのが、みなし配当です。
みなし配当とは、会社法上の配当ではなくても、実質的に配当と変わらない経済的利益を、税務上は配当とみなす制度です。法人税法・所得税法の上では、非適格合併はみなし配当が問題になり得る代表的な場面の一つといえます。
合併を節税目的で検討する場合には、法人段階の課税だけでなく、株主段階の課税も必ず確認しておく必要があります。
- 被合併法人に含み益課税が生じるか。
- 被合併法人の株主に、旧株の譲渡損益が生じるか。
- みなし配当が生じるか。
- 株主が個人か、法人か。
- 法人株主の場合、受取配当等の益金不算入や株式譲渡損益との関係はどうなるか。
- 個人株主の場合、配当所得・譲渡所得・源泉徴収の取扱いはどうなるか。
合併法人側の税金だけを追っていると、株主の側で想定外の課税が発生することがあります。
損益通算と繰越欠損金の引継ぎは別の問題である
合併を使った節税で混同されやすいのが、「損益通算」と「繰越欠損金の引継ぎ」です。
合併後は一つの法人になりますから、合併後に発生する黒字事業と赤字事業の損益は、同じ法人の中で集約されます。これは、合併後の損益をどう扱うかという問題です。
一方で、被合併法人が過去に発生させた繰越欠損金を、合併法人が引き継げるかどうかは、これとはまったく別の論点になります。
適格合併が行われた場合、被合併法人に未処理欠損金額があるときは、その未処理欠損金額を、合併法人の合併の日の属する事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額とみなして、合併の日の属する事業年度以後に繰越控除することとされています。ただし、支配関係のある法人間の適格合併では、みなし共同事業要件や5年超の支配関係の継続などに該当しない場合、支配関係が発生する前の欠損金や特定資産譲渡等損失相当額について、引継ぎが制限されることがあります。
出典:国税庁|被合併法人から引継ぎを受ける未処理欠損金額に係る制限の適用除外について
つまり、赤字会社を合併したからといって、その欠損金を自由に使えるわけではありません。
合併による節税効果を検討するときには、次の問いを一つひとつ分けて確認することが大切です。
- 合併後に生じる損益を、同じ法人の中で通算できるか。
- 被合併法人の過去の繰越欠損金を引き継げるか。
- 引き継げるとして、それはどの事業年度の欠損金か。
- 支配関係はいつから続いているか。
- みなし共同事業要件を満たすか。
- 含み損や特定資産譲渡等損失相当額の制限はないか。
- 合併後、その欠損金を実際に使えるだけの所得が見込まれるか。
- 欠損金を使うためだけの合併に見えないか。
損益通算と欠損金引継ぎを混同すると、合併の節税効果を過大に評価してしまいます。
欠損金や含み損の利用だけを目的にした合併は危険である
合併を使った節税の中で、最も慎重に考えたいのが、繰越欠損金や含み損の利用を目的とする合併です。
欠損金や含み損を持つ会社を買収し、それを使うために合併する。複数の組織再編を段階的に組み合わせて課税を避ける。税額控除枠や各種の実績率を利用する目的で組織再編を行う。こうした取引は、組織再編税制の濫用として、行為計算否認の問題につながる可能性があります。
出典:国税庁 税務大学校|組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について
ここで押さえておきたいのは、合併という法形式そのものが否定されるわけではない、という点です。
問われるのは、合併の目的・実態・経済合理性です。
- 欠損金を利用する以外に、合併する事業上の理由はあるか。
- 合併後も事業が続いていくのか。
- 人員、設備、取引先、管理機能の統合に実態があるか。
- 合併によるシナジーや管理コスト削減を、合理的に説明できるか。
- 合併前後の資金移動、会計処理、契約、議事録に整合性があるか。
- 合併の目的を説明する社内資料が、税務メリットだけになっていないか。
節税効果がある合併と、節税だけが目的の合併とは違います。
前者は、事業上の合理性があり、その結果として税務上の効果が生じるものです。後者は、税負担を減らすことが主目的となり、事業の実態や経済合理性が薄いものです。
合併を検討する段階から、この違いを資料の上でも説明できるようにしておくことが重要になります。
包括承継はメリットであり、同時にリスクでもある
合併の大きな特徴が、包括承継です。
事業譲渡であれば、契約、資産、負債、許認可、従業員関係を、一つひとつ個別に移転していく必要があります。これに対して合併では、被合併法人の権利義務がまとめて合併法人へ承継されます。
そのため、合併には次のような実務上のメリットがあります。
- 取引先ごとの個別承継手続を省きやすい。
- グループ会社を一体化しやすい。
- 管理部門を統合しやすい。
- 赤字事業と黒字事業を、同じ法人の中で管理しやすい。
- 不動産、契約、人員、設備を、会社単位でまとめやすい。
もっとも、包括承継はリスクの裏返しでもあります。次のようなものも、合併法人に引き継がれ得ます。
- 被合併法人の過去の税務リスク
- 簿外債務
- 保証債務
- 未払残業代
- 訴訟リスク
- 不採算契約
- 許認可上の問題
- 粉飾決算や仮装経理の影響
- 金融機関との契約上の制約
- 過年度申告の誤り
株式譲渡と同じように、合併もまた「過去を引き継ぐ」取引です。必要な資産・負債だけを選び取りやすい事業譲渡とは、性格が異なります。
だからこそ、合併の前には、財務・税務・法務・労務のデューデリジェンスを行い、合併によって何を引き継ぐことになるのかを、はっきりさせておく必要があります。
「合併すれば契約承継が楽だから」という理由だけで進めてしまうと、後になって、引き継ぎたくなかった負担まで抱え込むことになりかねません。
債務超過会社を被合併法人とする合併は、特に慎重な検討が必要
合併が節税や再生の手法として検討される場面の一つに、債務超過会社の整理があります。
債務超過会社を合併すれば、赤字会社を整理できる。グループ内の会社数を減らせる。欠損金を使える可能性がある。管理コストも減らせる。──こう見えることがあります。
しかし、債務超過会社を被合併法人とする合併は、税務だけでなく、会社法・会計・債権者対応の論点が重くのしかかってきます。
債務超過会社を被合併法人とする吸収合併については、会社法上は可能と考えられます。一方で、原則として合併法人で簡易合併を選択できないこと、株主総会における取締役の説明責任、債権者保護手続、反対株主の株式買取請求などが問題になります。また、被合併法人が債務超過であることで合併法人の債権者の利益を害するおそれがあるため、異議を述べる債権者への対応が必要になることもあります。
債務超過会社を合併する場合には、次の点を確認しておく必要があります。
- 簿価純資産だけでなく、時価純資産でも債務超過か。
- 債務超過の原因は何か。
- 金融機関借入、保証債務、未払税金、未払社会保険料はどうなっているか。
- 債権者保護手続で異議が出る可能性はあるか。
- 合併法人の株主・債権者に説明できるか。
- 会計上の受入処理をどう行うか。
- 税務上、欠損金や債務免除益、含み損の扱いをどう整理するか。
- 合併後の資金繰りに耐えられるか。
債務超過会社の合併は、単なる節税策ではなく、再生・整理・責任の引受けを伴う判断だと考えておくべきです。
救済合併は「赤字会社を助ける合併」では終わらない
実務では、グループ内の赤字会社や債務超過会社を、親会社や兄弟会社が吸収するかたちの合併が検討されることがあります。いわゆる救済合併と呼ばれるものです。
救済合併では、合併そのものの目的ははっきりして見えることが多いものです。事業の継続、雇用の維持、金融機関への対応、グループ全体の信用維持、取引先の保護、といったところです。
しかし税務の上では、救済という目的があるからといって、欠損金の引継ぎや含み損の利用が無条件に認められるわけではありません。
むしろ、救済合併では次のような点が問題になりやすくなります。
- 赤字会社の欠損金を引き継げるか。
- 債務超過に伴う評価損や含み損を利用できるか。
- 金融機関からの債権放棄やDESが絡んでいないか。
- 合併前に債務免除益が発生していないか。
- 親会社・株主・金融機関の間で、経済的利益の移転がないか。
- 株価の上昇によって、みなし贈与が生じないか。
- 合併後に、事業を本当に継続していくのか。
救済合併では、税務上の効果だけでなく、債権者・株主・金融機関・従業員に対してきちんと説明できるかどうかが問われます。
「グループ内だから」「親会社が助けるだけだから」という理解では、十分とはいえません。
少数株主がいる合併では、税務以前に会社法上の摩擦を確認する
合併は、株主構成にも大きな影響を及ぼします。
とりわけ非上場会社の合併では、少数株主がいる場合に、反対株主の株式買取請求、合併比率、公正な価格、説明資料、株主総会決議といった論点が浮かび上がります。
合併比率が不合理であれば、少数株主との紛争に発展しかねません。税務の上でも、著しく不合理な合併比率や経済的利益の移転があれば、寄附金、受贈益、みなし贈与、みなし配当といった論点につながる可能性があります。
非上場会社の組織再編では、株式の公正価値や合併比率の合理性が重要になります。株式を対価とする組織再編では、少数株主にとっての株式価値、公正な価格、ナカリセバ価格、シナジーの帰属などが問題になり得ます。
少数株主がいる場合には、次の点を整理しておくべきです。
- 合併比率は、どの評価方法に基づいているか。
- 評価基準日は適切か。
- 支配株主と少数株主とで、利害が対立していないか。
- 合併によって、誰に経済的利益が移転するか。
- 株主総会資料で、十分な説明ができるか。
- 反対株主が出た場合の買取資金を確保しているか。
- 合併後の株主構成が、事業承継やM&Aの支障にならないか。
合併を税務だけで検討すると、少数株主への対応を見落としがちです。とくに同族会社では、税務上の節税効果よりも、株主間の納得、後継者の保護、将来の売却可能性のほうが重要になることがあります。
合併時の役員退職給与・役員報酬にも注意する
合併では、役員の地位や職務内容が変わることがあります。
被合併法人の役員が退任する場合には、合併に伴って役員退職給与を支給することがあります。また、被合併法人の役員が合併法人の役員となる場合でも、打切支給が合理的と認められる場面があります。
合併に際して退職した被合併法人の役員に対する退職給与については、合併の日の前日までに具体的な金額が確定していない場合であっても、退職給与として支給すべき金額を合理的に計算し、被合併法人の合併の日の前日の属する事業年度に未払金として損金経理したときは、一定の取扱いが認められるとされています。
ただし、合併時の役員退職給与は、節税効果が大きい分だけ、次の点を慎重に確認しておく必要があります。
- 本当に退職、または職務内容の大幅な変更があるか。
- 支給額に、功績・在任期間・業績との合理性があるか。
- 過大な退職給与になっていないか。
- 支給決議、計算根拠、議事録が整っているか。
- 合併前後の役員報酬との整合性はあるか。
- 合併後も、実質的に同じ権限を維持していないか。
また、合併後に役員の職務内容が大きく変わる場合には、定期同額給与の改定理由として扱えるかどうかも確認しておきたいところです。合併に伴う職務内容の重大な変更は、役員給与の改定判断に影響し得ます。
合併は、会社どうしの統合であると同時に、役員・従業員・報酬制度の再設計でもあります。
合併日・効力発生日を軽く見てはいけない
合併税務では、合併の日が大きな意味を持ちます。
法人税基本通達では、組織再編成の日について、合併の場合には合併法人に資産・負債の移転があった日をいうとされ、その移転があった日は、合併の効力を生ずる日、新設合併の場合は新設合併設立法人の設立登記の日とされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第1章第4節 組織再編成
合併の日を誤ると、次のような処理に影響が及びます。
- 被合併法人の最後事業年度
- 合併法人の受入事業年度
- 欠損金引継ぎの判定
- 支配関係の継続期間
- 資産・負債の受入時点
- 役員退職給与の損金算入時期
- 消費税・源泉所得税・地方税の処理
- 会計上の結合日
- 税務申告の期限
合併の税務処理は、契約書を作成した日ではなく、法的に効力を生ずる日を基準に行う場面が多くなります。スケジュール管理を誤れば、適格判定、欠損金、申告期限、役員給与の処理にまで影響が出てしまいます。
合併は、消費税よりも法人税・地方税・会計処理の影響が大きい
事業譲渡では、課税資産と非課税資産の区分や、仕入税額控除など、消費税が大きな論点になります。
これに対して合併は組織再編行為であり、個別資産の売買とは性格が異なるため、事業譲渡ほど単純な消費税の課税関係で整理できるものではありません。
とはいえ、合併で消費税をまったく見なくてよい、というわけでもありません。次のような点は、合併法人に影響することがあります。
- 被合併法人の課税売上割合や課税期間
- 合併法人の課税事業者判定
- インボイス登録
- 消費税還付リスク
- 高額特定資産
- 合併前後の帳簿・請求書の保存
- 過去の仕入税額控除の否認リスク
また、法人税・地方税については、適格か非適格か、欠損金の引継ぎ、含み損の制限、事業税、住民税均等割、外形標準課税の有無などを確認する必要があります。
会計処理についても、共通支配下の取引か取得か、会計上の受入処理、のれん、税効果会計、過年度修正、仮装経理の影響などを整理しておかなければなりません。粉飾決算や仮装経理のある会社を合併する場合には、通常の申告誤りとは違い、会計、税務、金融機関対応、過年度修正が複雑に絡み合ってきます。
合併を節税の観点から判断するときには、法人税の計算だけでなく、合併後の決算書が金融機関・株主・税務署にどう映るかまで見据えておく必要があります。
合併を使った節税で税務調査が見るポイント
合併を実行した後、税務調査で問われるのは、合併契約書があるかどうかだけではありません。
調査で見られるのは、合併の目的、実態、資料、会計処理、そして資金の流れです。
- なぜ合併したのか。
- 合併以外の手法と比較したか。
- 合併による事業上の合理性はあるか。
- 欠損金や含み損の利用だけが目的になっていないか。
- 合併比率に合理性はあるか。
- 少数株主への説明は適切か。
- 被合併法人の簿外債務や過去の税務リスクを把握していたか。
- 合併後も事業が続いているか。
- 役員・従業員・主要資産・主要取引先の承継に実態があるか。
- 合併後の申告調整や別表管理が正しく行われているか。
税務調査では、原始資料、帳簿、契約書、資金移動、関係者の説明が、互いに整合しているかどうかが確認されます。申告の内容だけでなく、課税要件に該当する事実を認定するための証拠資料が重視されるわけです。
合併を節税目的で検討するのであれば、実行の前から「調査で何を聞かれるか」を思い描いておくことが大切です。
合併前に必ず整理すべき資料
合併を実行する前には、少なくとも次の資料を整えておく必要があります。
- 合併目的を整理した社内メモ
- 合併以外の手法との比較資料
- 合併契約書案
- 株主総会・取締役会の議事録
- 被合併法人と合併法人の直近の決算書・申告書
- 繰越欠損金の発生年度・内容・利用状況
- 含み益・含み損のある資産の一覧
- 主要な資産・負債の明細
- 簿外債務・保証債務・訴訟リスクの確認資料
- 金融機関借入・担保・保証の一覧
- 許認可・契約・リース・保険契約の一覧
- 役員退職給与・役員報酬改定の資料
- 従業員の労働条件・退職給付・未払賃金の確認資料
- 少数株主の有無と株式評価資料
- 合併比率の算定資料
- 税務上の適格判定資料
- 欠損金の引継ぎ・利用制限の検討資料
- 合併後の資金繰り表
- 合併後の申告・会計処理の管理表
税務上の結論そのものだけでなく、「どの資料に基づいてその判断をしたか」を残しておくことが重要です。
とくに、繰越欠損金、含み損、債務超過、少数株主、役員退職金、みなし配当が絡む場合には、専門家の側でも判断の過程を記録しておく必要があります。税務コンサルティングにおいては、リスクの説明、資料の受領、検討の過程、依頼者の判断を記録しておくことが、税賠事故を防ぐことにもつながります。
合併を節税策として検討してよい場合・慎重にすべき場合
合併を節税策として検討してよいのは、税務上の効果が事業目的と噛み合っている場合です。
たとえば、グループ内の重複機能を統合する。後継者に経営を一本化する。M&A後のPMIとして法人を一体化する。不採算事業を整理し、続けるべき事業を守る。管理コストを下げ、金融機関への説明を明確にする。こうした目的があり、その結果として損益通算や課税繰延べが生じるのであれば、合併は有効な選択肢になり得ます。
一方で、慎重に構えるべきなのは、次のような場合です。
- 欠損金を使うことだけが目的になっている。
- 含み損を実現することだけが目的になっている。
- 合併後に、事業を継続する予定がない。
- 被合併法人の簿外債務を把握していない。
- 債務超過会社を合併するのに、債権者対応が未整理のままである。
- 少数株主に十分な説明ができない。
- 合併比率の根拠がない。
- 役員退職金や報酬改定を節税目的で同時に行うが、実態が伴っていない。
- 合併契約書や議事録はあるが、事業目的を説明する資料がない。
- 基本方針が固まった後に、税務だけを後付けで確認している。
合併は、税務上の効果が大きいものだからこそ、制度の趣旨と実態とが一致していることが求められます。
まとめ
合併は、節税効果を持ち得る組織再編の手法です。
合併後の損益通算、適格合併による課税繰延べ、一定要件下での繰越欠損金の引継ぎ、管理コスト削減など、税務と経営の両面でメリットが生じることがあります。
しかし、合併は単なる税額圧縮策ではありません。
合併では、被合併法人の資産・負債・契約・税務リスク・簿外債務を、まとめて承継することになります。適格合併であっても課税が消えるわけではなく、課税関係を将来へ持ち越すにすぎません。繰越欠損金についても、合併すれば自由に使えるものではなく、支配関係、みなし共同事業要件、特定資産譲渡等損失相当額といった制限を確認しておく必要があります。
合併を節税の観点から判断するときに大切なのは、次の順番です。
まず、合併の事業目的を明確にする。次に、適格・非適格、欠損金、含み損、みなし配当を確認する。さらに、包括承継されるリスクを洗い出す。そのうえで、法務手続、会計処理、資金繰り、少数株主、金融機関対応を整理する。そして最後に、税務調査で説明できる資料を残しておく。
「合併すれば節税になるか」ではなく、「この合併は、事業目的・税務・会計・法務・資金繰りのすべてから見て、後から説明できるか」を問うこと。ここに、判断の要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、合併を含むM&A・組織再編について、税務上の適格判定、繰越欠損金・含み損の検討、合併後の申告・会計処理、少数株主や債務超過会社が絡む場合の論点整理まで、実行前の段階から検討を支援しています。
合併による節税効果だけでなく、将来の税務調査、金融機関対応、事業承継、再編後の管理まで含めて整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 判断を誤ると起こり得ること |
|---|---|---|
| 合併の目的 | 事業統合、管理コスト削減、承継、再生など、税務以外の目的があるか | 欠損金利用だけの合併と見られ、否認リスクが高まる |
| 適格合併 | 対価要件、支配関係、事業継続、従業者、主要資産等の要件を満たすか | 想定外に非適格となり、含み益課税が発生する |
| 課税繰延べ | 適格合併による帳簿価額引継ぎを、非課税と誤解していないか | 将来の課税や税効果会計を見落とす |
| 繰越欠損金 | 支配関係、みなし共同事業要件、5年超の継続、特定資産譲渡等損失を確認したか | 欠損金を使える前提で進めた合併が崩れる |
| 損益通算 | 合併後の損益通算と、過去欠損金の引継ぎを区別しているか | 節税効果を過大に見積もる |
| 包括承継 | 簿外債務、保証債務、税務リスク、労務リスクを把握したか | 合併後に想定外の負担を引き継ぐ |
| 債務超過会社 | 簡易合併の可否、債権者保護、金融機関対応、会計処理を確認したか | 法務手続や資金繰りで合併が停滞する |
| 少数株主 | 合併比率、株式評価、反対株主対応を整理したか | 株主間の紛争や、税務上の経済的利益移転が問題になる |
| 役員退職給与 | 合併に伴う退職・職務変更の実態、支給額、議事録を整備したか | 退職給与の損金性や過大性が争点になる |
| 合併日 | 効力発生日、最後事業年度、申告期限、支配関係判定を確認したか | 欠損金、役員給与、会計処理の時期を誤る |
| 税務調査対応 | 合併目的、比較検討、契約、議事録、税務試算、資金移動を残したか | 形式だけの合併と見られ、説明に窮する |