海外子会社を持つ会社では、日常的に次のような取引が起こります。
- 日本親会社の社員を、海外子会社へ出向させる
- 現地法人の立ち上げを、日本側の管理部門が支援する
- 技術者が現地工場へ出張し、製造ラインや品質管理を指導する
- 海外子会社に資金を貸し付ける
- 海外子会社の銀行借入について、日本親会社が保証する
どれも、海外事業を進めるうえでは自然な取引です。問題になりやすいのは、これらを「親子会社だから」「グループ内だから」「立ち上げ支援だから」という理由で、対価を曖昧にしたまま進めてしまうことにあります。
海外子会社との取引というと、税率差を使って利益をどちらに残すかという大きな移転価格の話が注目されがちです。しかし実際の税務調査では、日々の人件費、管理料、技術支援料、貸付利息、保証料といった処理こそが問題になります。
この記事では、海外子会社への出向・役務提供・利息・保証料について、「日本親会社が負担してよいのか」「海外子会社から対価を取るべきか」「どこからが移転価格税制や国外関連者寄附金の問題になるのか」を、実務で判断していく順番に沿って整理していきます。
「親会社が面倒を見る」は税務上の説明にならない
海外子会社は、事業のうえではグループの一部です。しかし税務上は、あくまで別法人として扱われます。
そのため、日本親会社が海外子会社のために人件費や管理費を負担したときは、それが日本親会社自身の事業のための支出なのか、それとも海外子会社が本来負担すべき費用を肩代わりしたものなのかを、分けて考えなければなりません。
ここを取り違えると、主に二つの問題が生じます。
一つは、移転価格税制の問題です。国外関連者との取引価格が独立企業間価格と異なる場合には、独立企業間価格で取引したものとして所得計算が行われることがあります。
もう一つは、国外関連者寄附金の問題です。海外子会社に対して金銭その他の資産や経済的利益を無償で供与したと評価される場合には、その金額が損金不算入となることがあります。
国税庁の移転価格事務運営指針では、国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引を行い、収益計上がない場合において、その取引が経済的利益の贈与または無償供与に該当するときは、租税特別措置法66条の4第3項の適用に留意するものとされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
また法人税の寄附金については、名義を問わず、法人が行った金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償供与を寄附金として扱う、という整理がなされています。出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算
ここで大切にしたいのは、「海外子会社を支援したい」という経営判断そのものを否定するわけではない、という点です。
支援が必要なのであれば、貸付、増資、保証、役務提供、価格改定、債権放棄のどれで行うのかを明確にし、それぞれについて税務処理と資料を整えていく。曖昧なまま親会社が費用を負担してしまうことが、結局のところ最も説明しにくい処理になります。
まず分けるべき4つの取引
海外子会社との日常取引は、まず次の4つに分けて整理していきます。
| 取引類型 | 典型例 | 税務上の主な論点 |
|---|---|---|
| 出向 | 日本親会社の社員を海外子会社に常駐させる | 出向者人件費を誰が負担すべきか、給与負担金、寄附金、個人所得税 |
| 役務提供 | 技術支援、経営管理、会計・税務・法務・IT支援 | 対価性、便益の有無、移転価格、無形資産、総原価・マークアップ |
| 貸付利息 | 親会社から海外子会社への資金貸付 | 利率、通貨、期間、信用力、返済可能性、過少資本税制など |
| 保証料 | 海外子会社の銀行借入を親会社が保証 | 保証による信用補完、保証料率、保証の法的責任、便益の有無 |
この切り分けをしないまま、「海外子会社支援費」「立替金」「本社費」「管理料」といった科目でまとめて処理してしまうと、後になって説明が難しくなります。
税務調査でも、海外子会社との取引は重点的に見られやすい領域です。実務のうえでも、海外子会社への財務支援、役務提供対価の不収受、価格設定の不自然さ、タックスヘイブン対策税制などが、国際取引における主要な否認類型として整理されています。
出向と出張は、税務上の入口が違う
海外子会社へ人を派遣するとき、最初に確認したいのは、それが「出向」なのか「出張」なのか、という点です。
出張の場合、通常は日本親会社の社員が、日本親会社の業務として海外子会社に赴き、技術指導、管理支援、現地立上げ支援などを行います。このとき、日本親会社が海外子会社に対して役務を提供している、と見られる可能性があります。
一方で出向の場合、出向者は海外子会社の指揮命令のもとで、海外子会社の業務に従事します。この場合、出向者の労務提供を受けているのは海外子会社です。そうなると、出向者の給与や賞与、社会保険料相当額、赴任手当、住宅費などを誰が負担すべきなのかが問題になってきます。
実務上も、出向と出張とでは税務上のアプローチが異なります。出張による技術支援は、親会社から子会社への役務提供として移転価格税制の検討対象になり得ます。他方、出向者が子会社の指揮命令下で労務を提供している場合には、その給与負担が寄附金課税の問題として整理されることがあります。
ここでよく見られる誤りが、「日本親会社の社員なのだから、日本親会社が給与を払っていて当然だ」と考えてしまうことです。
雇用契約上の給与支払者と、税務上その費用を最終的に負担すべき者は、必ずしも一致しません。海外子会社が出向者の労務提供を受けているのであれば、その負担関係を、出向契約や給与負担金契約できちんと整理しておく必要があります。
出向者人件費で確認すべきこと
出向者人件費については、次の順番で確認していくとよいでしょう。
まず、出向者が誰の指揮命令を受けているのかを確認します。現地法人の社長や管理者の指示のもとで日常業務を行っているのか、それとも日本親会社の指示で一時的な支援を行っているのか。ここで税務上の整理が変わってきます。
次に、出向者の業務内容を確認します。現地法人の営業、製造、管理、採用、経理、品質管理を担っているのであれば、海外子会社の業務と考えやすくなります。逆に、日本親会社の製品品質を確認するための監査、親会社の投資管理、グループ方針の伝達にとどまるのであれば、日本親会社側の業務として整理できる部分もあります。
続いて、給与負担の範囲を確認します。基本給、賞与、退職給付費用、法定福利費、赴任手当、住宅費、子女教育費、帰任費用、税負担調整といった項目を、どこまで海外子会社が負担しているのかを整理していきます。
最後に、契約と送金実績を確認します。出向契約書、給与負担金契約書、現地雇用契約、給与明細、請求書、送金記録、現地での給与課税資料が、互いに整合しているかどうかを見ます。
特に注意したいのは、給与負担金を「毎年なんとなく半分」「親会社が全額負担」「現地の資金繰りが悪いので請求しない」といった形で処理してしまうケースです。
海外子会社が負担すべき人件費を日本親会社が負担している場合、その合理的な理由を説明できなければ、海外子会社への経済的利益の供与として問題になりかねません。
出向者を通じて無形資産が移転していないか
出向者人件費は、単なる給与負担の問題にとどまりません。
出向者が、日本親会社の高度な技術、製造ノウハウ、品質管理ノウハウ、設計思想、営業ノウハウを海外子会社に移転している場合には、給与負担金だけでは足りない可能性があります。
たとえば、日本親会社の熟練技術者が長期間現地に駐在し、現地工場が独自に製造できる状態まで技術移転を行ったようなケースです。この場合、たとえ出向者人件費を海外子会社が負担していたとしても、それとは別に技術支援料やロイヤルティの問題が生じることがあります。
実務のうえでも、出向者を通じて無形資産が実質的に移転しているときには、その対価について独立企業間価格の算定・評価が必要になる、と整理されています。
つまり、出向者の人件費だけを回収しているから安全、とは言い切れません。
確認すべきなのは、出向者が現地で何をしたのか、という点です。単なる現地管理なのか、技術支援なのか、ノウハウの移転なのか、現地法人の機能を高度化させたのか。その違いによって、取るべき対価の性質も変わってきます。
役務提供は「便益があるか」で判断する
海外子会社への役務提供では、まず「海外子会社にとって経済的または商業的な価値があるか」を確認します。
国税庁の移転価格事務運営指針では、経営・技術・財務・営業上の活動などが国外関連者への役務提供に該当するかどうかは、その活動が国外関連者にとって経済的または商業的な価値を持つかどうかで判断するものとされています。具体的には、その活動がなければ国外関連者が自ら同様の活動を行う必要があるか、あるいは非関連者から同様の活動を受けた場合に対価を支払うか、が判断の要素になります。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
たとえば、次のような活動は、海外子会社に便益がある役務提供になり得ます。
- 会計、税務、法務の支援
- 資金繰りやキャッシュフローの管理
- 債権回収や与信管理
- 情報システムの運用・保守
- 採用、教育、人事管理
- 製造、購買、販売、物流、マーケティング支援
- 品質管理や製造設備の技術指導
- 現地法人の予算管理や経営改善支援
一方で、親会社自身のための活動は、必ずしも海外子会社への役務提供とはいえません。
たとえば、親会社の株主総会、親会社の上場維持、親会社の投資家向け広報、親会社の法定開示、親会社としてのグループ統制体制の整備などは、原則として親会社自身の活動として整理される場面があります。国税庁の事務運営指針でも、株主または出資者としての地位に基づく一定の活動については、国外関連者への役務提供に該当しないものとして整理されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
ですから役務提供の判断では、「親会社が何かをしたか」ではなく、「海外子会社が便益を受けたか」を見ていくことになります。
役務提供対価を取っていない場合のリスク
海外子会社への役務提供があるにもかかわらず、対価を取っていない場合には、移転価格税制または国外関連者寄附金の問題になります。
たとえば、日本親会社の技術スタッフが海外子会社に出張し、製造設備の保守・点検やオペレーターの教育を行っているのに、対価を収受していないケースです。こうした場合には、税務上、独立企業間価格に相当する対価を得ているものとして所得計算される可能性があります。
実務のうえでも、海外子会社へ社員が出張していれば、何らかの役務提供がなされている可能性がある、と見られます。そして、その役務提供について独立企業間価格に相当する対価を得ているかどうかが、調査上の着眼点になります。
なお、「部品価格に含めている」という説明をする場合にも注意が必要です。
その説明をするのであれば、部品価格の中に技術支援料相当額をどのように織り込んだのかを、価格表、原価計算、契約書、稟議書で示せる必要があります。単に「含まれているつもりだった」というだけでは、説明として弱くなってしまいます。
役務提供対価を収受する場合には、少なくとも次のような資料を残しておきたいところです。
- 役務提供契約書
- 役務内容の一覧
- 担当部署と担当者
- 作業日報、出張報告書、会議資料
- 工数記録
- 旅費、交通費、滞在費
- 担当者の人件費
- 担当部門・補助部門の間接費配賦資料
- 請求書、送金記録
- 海外子会社が受けた便益の説明資料
これらの資料がなければ、対価の妥当性はもちろん、そもそも何の役務を提供したのかすら説明できません。
低付加価値・支援的役務は「総原価+5%」の整理を確認する
企業グループ内の役務提供には、比較対象となる取引を探すことが難しいものがあります。
こうした場合、現行の移転価格事務運営指針では、一定の要件を満たす支援的な性質の役務提供について、総原価の額を合理的に配分した金額に5%を加算した金額を対価とする取扱いが示されています。要件としては、支援的な性質のもので中核的な事業活動に直接関連しないこと、無形資産を使用していないこと、重要なリスクの引受けや管理を行っていないこと、研究開発・製造・販売・物流・マーケティング・金融などの一定業務に該当しないこと、そして合理的な配賦や資料の保存があること、などが挙げられています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
ここで注意したいのは、どの役務にも一律に「原価+5%」を使えるわけではない、という点です。
たとえば、研究開発、製造、販売、マーケティング、金融、無形資産を伴う技術支援などは、支援的役務として簡単に処理できない可能性があります。
また、技術支援のように本来の業務に付随して行われた役務については、総原価を基礎にした方法が検討される場面もあります。ただし、その役務提供費用が多額であったり、無形資産を使用していたり、総原価を対価とすることが相当でない事情があったりする場合には、より慎重な検討が求められます。国税庁の事務運営指針でも、海外子会社の製造設備に対する技術指導のような例を挙げつつ、一定の場合にはその取扱いを適用しない旨が示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
したがって、役務提供対価を設計するときには、次のように整理していきます。
- 支援的なバックオフィス業務なのか
- 本来業務に付随する技術支援なのか
- 無形資産を使っているのか
- 重要なリスクを負っているのか
- 海外子会社にとって中核的な活動なのか
- 総原価にどの費用を含めるのか
- 5%加算を採用できる要件を満たすのか
この整理をせずに「本社費配賦」として一括で請求してしまうと、税務調査でその内容を分解されることになります。
貸付利息は「グループ内だから低利でよい」とは限らない
海外子会社への貸付けでは、利率が問題になります。
日本親会社が海外子会社に資金を貸し付ける際、利率をゼロにしたり、親会社の調達金利と同じ利率にしたり、すべての海外子会社に同じ利率を適用したりすることがあります。しかし税務上は、その貸付条件が第三者間で成立する条件と整合しているかどうかを検討しなければなりません。
国税庁の移転価格事務運営指針では、国外関連者との金融取引について、通貨・時期・期間その他の内容を的確に把握したうえで、移転価格税制上の問題の有無を検討することとされています。また金銭の貸借取引については、通貨、期間、信用力など、比較可能性に影響する要素が同様である市場金利などを用いて想定した取引を、比較対象取引とすることができるとされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
貸付利率を検討する際には、少なくとも次の点を確認しておきます。
- 貸付通貨
- 貸付期間
- 固定金利か変動金利か
- 返済期限
- 元本の返済方法
- 担保の有無
- 劣後性の有無
- 海外子会社の財務状況
- 海外子会社の信用力
- 所在国リスク
- 資金使途
- 同時期の第三者借入条件
- 親会社保証の有無
利息を取っていない場合、あるいは著しく低い利率で貸している場合には、独立企業間価格との差額について問題になる可能性があります。
他方で、海外子会社の再建支援として無利息貸付けなどを行う場合には、法人税基本通達9-4-2にいう相当な理由があるかどうかを確認する必要があります。移転価格事務運営指針でも、同通達の適用がある金銭の貸付けについては、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱う旨が示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
ただし、「再建支援」と言えば常に認められるわけではありません。
事業再建計画、金融機関対応、支援の必要性、支援しなかった場合に親会社が被る損失、支援後の回収可能性、取締役会決議、契約書、資金繰り表などを、あわせて整えておく必要があります。
保証料は「法的責任」と「信用補完の便益」を見る
海外子会社が現地の銀行から借入をする際に、日本親会社が保証をすることがあります。
このとき問題になるのが、保証料を取るべきかどうか、という点です。
国税庁の移転価格事務運営指針では、国外関連者との債務保証などについて、保証対象債務の性質・範囲や、その保証が法人または国外関連者に与える影響に配意することとされています。特に、保証者が債務不履行時に代わって履行する法的責任を負っているか、保証によって主たる債務者の信用力が増しているか、を検討するものとされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
つまり保証料の検討では、単に保証契約があるかどうかだけでなく、その保証によって海外子会社がどのような便益を受けたのかを見ていくことになります。
たとえば、次のような便益です。
- 親会社保証があることで、海外子会社が借入をできた
- 保証があることで、借入金利が下がった
- 保証があることで、借入限度額が増えた
- 保証があることで、担保提供が不要になった
こうした便益があるのであれば、第三者間であれば保証料を支払うかどうかを検討することになります。
一方で、単に同じ企業グループに属しているという事実から生じる信用力の向上、いわゆる付随的便益については、それ自体に対価が発生するものではない、とされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
したがって、保証料を設計するときには、次のように整理していきます。
- 保証契約があるか
- 親会社が法的に保証債務を負っているか
- 保証対象債務の金額、期間、通貨、返済条件は何か
- 保証がなければ、海外子会社はいくらで借りられたか
- 保証があることで、金利差がどの程度生じたか
- 保証によって、海外子会社の信用力はどの程度向上したか
- 保証者である親会社は、保証履行リスクをどの程度負うか
- 保証料率の算定根拠はあるか
保証料を「慣例的に取っていない」とするだけでは、説明として弱くなってしまいます。
利息・保証料は他の税制とも接続する
海外子会社との金融取引では、移転価格税制だけを見ておけば足りる、というわけではありません。
過少資本税制、過大支払利子税制、外国税額控除、源泉税、租税条約、現地国での損金算入制限などが関係してくることがあります。
たとえば、日本親会社が海外子会社へ貸し付ける場合、日本側では受取利息の水準が問題になります。一方の海外子会社側では、その支払利息が現地税務上損金になるか、源泉税が課されるか、租税条約で税率が軽減されるか、を確認する必要があります。
また、日本親会社が海外子会社から利息や保証料を受け取る場合には、現地で源泉税が差し引かれることがあります。このときは、日本側で外国税額控除の検討が必要になることもあります。
移転価格事務運営指針でも、移転価格税制と、過少資本税制・過大支払利子税制・外国税額控除との関係について、留意事項が示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
つまり利率や保証料率は、日本の法人税だけを見て決めるものではありません。
日本側の課税、現地側の損金性、源泉税、租税条約、資金繰り、為替、金融機関対応を、あわせて設計していく必要があります。
「立替金」が長期化している場合は要注意
海外子会社との取引でよく見られるのが、立替金の長期化です。
日本親会社が海外子会社の旅費、外注費、システム利用料、コンサル費、登録費用、展示会費用などを立て替えたまま、長期間回収していない、というケースです。
立替金は、本来であれば短期間で精算されるものです。長期間残っている場合には、それが次のどれに当たるのかを整理しなければなりません。
- 本当に一時的な立替金なのか
- 海外子会社への貸付金なのか
- 海外子会社への役務提供対価なのか
- 海外子会社への寄附金なのか
- 回収不能な債権なのか
- 増資や資本性資金として整理すべきものなのか
立替金のまま放置してしまうと、貸付利息、為替差損益、貸倒処理、寄附金、移転価格、現地の外為規制などが、後から問題になってきます。
特に、海外子会社の資金繰りが悪く、親会社が費用を立て替え続けているような場合は、単なる税務処理にとどまらず、資本政策と事業継続判断の問題でもあります。貸付で支えるのか、増資するのか、撤退するのか、債権放棄するのか。税務・会計・法務・現地規制まで含めて検討していく必要があります。
税務調査で見られる資料
海外子会社への出向、役務提供、利息、保証料は、税務調査で次のような資料から検証されます。
- 出向契約書、給与負担金契約書、現地雇用契約、給与明細
- 出張報告書、作業日報、工数記録、会議資料、メール
- 役務提供契約書、請求書、送金記録
- 貸付契約書、返済予定表、利息計算表
- 保証契約書、銀行借入契約書、保証料率の算定資料
- 海外子会社の財務諸表、現地申告書
- 取締役会議事録、稟議書、予算資料、資金繰り表
- 移転価格文書、ローカルファイル
国税庁の移転価格事務運営指針では、移転価格文書の提示・提出を求める場合について、ローカルファイルは45日を超えない範囲、同時文書化対象または免除国外関連取引に係る独立企業間価格算定上重要な書類は60日を超えない範囲で期日を指定する旨が示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領
税務調査が始まってから、過去数年分の工数記録や価格算定資料をつくるのは、現実的にはかなり困難です。
特にメールや稟議書は、当時の意思決定を示す資料になります。税務調査では、原始資料や現場資料から取引の実態が確認されることがあり、調査官は海外子会社への出張、無償の役務提供、費用負担の実態に着目します。
実行前に確認すべき判断順序
海外子会社への出向・役務提供・利息・保証料については、次の順番で整理していくと、判断しやすくなります。
1. 取引を棚卸しする
まず、海外子会社との取引をすべて洗い出します。
出向、出張、技術支援、経営管理、システム利用、ロイヤルティ、貸付、保証、立替、経費配賦、価格調整などを、一覧にしていきます。
ここで漏れがあると、その後の分析は意味を失ってしまいます。
2. 誰が便益を受けているかを確認する
次に、その活動によって誰が便益を受けているのかを確認します。
- 日本親会社のための活動なのか
- 海外子会社のための活動なのか
- 双方に便益がある活動なのか
- 株主活動なのか
- 重複した活動なのか
役務提供では、この便益の有無が出発点になります。
3. 誰が費用を負担すべきかを決める
便益を受けた者が費用を負担する、というのが基本です。
海外子会社の業務であれば海外子会社が負担し、日本親会社の投資管理であれば日本親会社が負担する。双方に便益があるのであれば、合理的な配賦を行う。この費用負担の考え方を、契約書、稟議書、会計処理に反映させていきます。
4. 対価をどう算定するかを決める
役務提供であれば、総原価、総原価+5%、原価基準法、取引単位営業利益法、ロイヤルティなどを検討します。
貸付であれば、通貨、期間、信用力、市場金利、保証の有無を踏まえて利率を検討します。
保証であれば、保証による金利差、期待損失、信用リスクなどを踏まえて保証料を検討します。
5. 現地税務と源泉税を確認する
日本側だけでなく、現地側の損金算入、源泉税、租税条約、間接税、外為規制も確認します。
日本で正しく処理していても、現地で損金否認や源泉税漏れが起きてしまえば、グループ全体としてはリスクが残ります。
6. 資料を残す
契約書、請求書、送金記録、工数記録、計算資料、議事録、稟議書、メールを残します。
ここで大切なのは、後からつくる資料ではなく、取引が行われた当時の判断資料である、という点です。
危険な処理の典型例
次のような処理は、税務調査で説明が難しくなりやすいものです。
- 海外子会社の立上げだから、と日本親会社が出張費を全額負担している
- 出向者が現地法人の業務をしているのに、給与負担金を請求していない
- 現地法人の赤字を避けるため、技術支援料を請求していない
- 海外子会社への貸付利率を、全拠点一律で決めている
- 返済期限のない貸付金を、長期間放置している
- 親会社保証によって現地借入が成立しているのに、保証料を取っていない
- 保証料を取らない理由が、「グループ慣行」だけである
- 本社費配賦の内訳が分からない
- 役務提供の作業記録がない
- 価格改定や費用免除の理由が、現地法人の利益調整にしか見えない
- 契約書と実態が一致していない
- 日本側の説明と現地側の説明が食い違っている
こうした処理は、単年度の税額だけでなく、将来の税務調査、現地当局との二重課税、相互協議、金融機関への説明、海外子会社の管理体制にまで影響してきます。
相談前に整理しておくべき資料
専門家に相談する前に、次の資料を整理しておくと、論点の把握が早くなります。
出向に関する資料
- 出向契約書、給与負担金契約書
- 出向者一覧、出向期間、職務内容、指揮命令系統
- 給与・賞与・手当・社会保険料の負担関係
- 現地給与課税資料、出向者の業務報告
- 日本親会社と海外子会社の負担額一覧
役務提供に関する資料
- 役務提供契約書、支援内容の一覧
- 担当部署、担当者、工数記録
- 出張報告書、作業日報、会議資料
- 旅費・滞在費、人件費計算資料、間接費配賦資料
- 請求書、送金記録
- 海外子会社が受けた便益の説明資料
貸付に関する資料
- 金銭消費貸借契約書、貸付金残高推移表
- 貸付日、通貨、期間、返済条件
- 利率設定資料、市場金利資料
- 海外子会社の財務諸表、資金使途、返済実績、利息計算表
- 再建支援の場合は、事業計画・資金繰り表・取締役会議事録
保証に関する資料
- 保証契約書、銀行借入契約書
- 保証対象債務の内容、保証期間、保証限度額
- 保証の有無による借入条件の差、保証料率の算定資料
- 海外子会社の信用力資料、保証履行リスクの検討資料
- 保証料の請求書・送金記録
共通資料
- 海外子会社の財務諸表、現地申告書
- グループ組織図、取締役会資料、稟議書、メール
- ローカルファイル
- 過去の税務調査指摘事項、現地専門家の意見書
資料を整理していくと、「対価を取るべきか」だけでなく、「そもそもどの取引が存在しているのか」「どの処理が説明しにくいのか」が見えてきます。
まとめ
海外子会社への出向・役務提供・利息・保証料は、海外事業では避けて通れない日常取引です。
しかし、日常的だからこそ、契約、請求、送金、会計処理、資料保存が曖昧になりやすい領域でもあります。
大切なのは、親会社が支援すること自体を避けることではありません。支援の内容を明確にし、それが出向者人件費なのか、役務提供なのか、貸付なのか、保証なのか、資本支援なのかを整理していくことです。
そのうえで、誰が便益を受け、誰が費用を負担し、第三者間であればどのような対価になるのかを説明できる状態にしておく。ここが要になります。
税金を減らすために海外子会社を使うのではなく、海外事業の実態に合った利益配分と資金負担を設計する。これが、国際税務における正しい節税判断の土台になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、海外子会社との出向者人件費、役務提供料、貸付利息、保証料、ローカルファイル、国外関連者寄附金リスクについて、取引実態・契約・会計処理・資金移動・税務調査対応を一体で整理する支援を行っています。海外子会社との費用負担や対価設定に不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 判断のポイント | 残すべき資料 |
|---|---|---|
| 出向と出張 | 出向は海外子会社の指揮命令下での労務提供、出張は親会社から子会社への役務提供になりやすい | 出向契約書、出張報告書、指揮命令系統、業務内容 |
| 出向者人件費 | 誰が労務の便益を受けているか、海外子会社が負担すべき費用を親会社が肩代わりしていないか | 給与負担金契約、給与明細、請求書、送金記録 |
| 無形資産の移転 | 出向者や技術者を通じてノウハウ・技術・ブランド価値が移転していないか | 技術支援資料、マニュアル、ロイヤルティ契約、稟議書 |
| 役務提供 | 海外子会社に経済的・商業的価値があるか、第三者なら対価を払うか | 役務提供契約、作業日報、工数記録、会議資料 |
| 株主活動 | 親会社自身のための活動は海外子会社への役務提供とは限らない | 親会社側の法定開示資料、投資管理資料、社内方針 |
| 本社費配賦 | 一括配賦ではなく、活動内容・便益・配賦基準を説明できるか | 配賦計算表、部門費資料、配賦基準の根拠 |
| 支援的役務 | 要件を満たす場合、総原価+5%の整理を検討できるが、無形資産や中核事業活動がある場合は慎重判断 | 総原価計算、5%加算の根拠、要件確認資料 |
| 技術支援 | 本来業務に付随する支援か、無形資産を伴う高付加価値支援かを分ける | 技術者の作業記録、出張報告、支援内容説明資料 |
| 貸付利息 | 通貨、期間、信用力、担保、返済条件、市場金利を踏まえて利率を決める | 金銭消費貸借契約、利率算定資料、返済予定表 |
| 再建支援貸付 | 無利息・低利貸付けには相当な理由と再建計画が必要 | 事業再建計画、資金繰り表、取締役会議事録 |
| 保証料 | 法的保証責任があるか、保証により借入条件が改善したかを確認する | 保証契約、銀行借入契約、保証料率算定資料 |
| 付随的便益 | グループ所属だけで信用力が上がる場合、それ自体に対価が生じるとは限らない | 信用力分析、保証有無の条件比較 |
| 立替金 | 長期化している場合、貸付・役務提供・寄附金・資本支援のいずれかを整理する | 立替明細、精算記録、契約書、残高推移表 |
| 国外関連者寄附金 | 無償供与、費用肩代わり、対価不収受は全額損金不算入リスクがある | 支援理由、契約、請求、送金、再建計画 |
| 税務調査対応 | 取引当時の契約・稟議・メール・工数・送金が整合しているかが重要 | ローカルファイル、メール、稟議書、原始資料 |