M&Aの会計処理でPPAという言葉が出てくると、実務では「評価の専門家に依頼する作業」として受け止められることが少なくありません。
たしかに、顧客関連資産、技術、商標、ソフトウェア、契約、機械設備、不動産といった対象の評価には、専門的な評価技法や外部専門家の関与が欠かせない場面が数多くあります。
しかし、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの決算実務において、PPAは評価レポートを取得すれば終わる業務ではありません。取得企業が支払った対価を、どの資産・負債に、どの根拠で、どの金額で配分するのか。そして、残余としてどの程度ののれん又は負ののれんを認識するのか。これらを財務諸表上の判断として説明していくプロセスです。
とくに日本基準では、のれんは20年以内の効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却されます。PPAで無形資産をどこまで識別し、のれんにどれだけ残すかという判断は、取得年度にとどまらず、その後の償却費、減損、税効果、KAM、投資家への説明にまで長く影響していきます。
企業結合会計基準は、取得原価を企業結合日時点の識別可能資産及び負債の時価を基礎として企業結合日後1年以内に配分し、配分純額との差額をのれん又は負ののれんとして処理する枠組みを定めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
本稿では、PPAを「評価計算」としてではなく、取得会計における判断プロセスとして整理します。中心に据える論点は、取得原価配分、識別可能無形資産、時価評価、暫定処理、税効果、のれん、開示、監査対応です。
評価モデルの詳細な計算式そのものよりも、実務でどの事実関係を確認し、どこで判断が分岐し、どの資料を残しておくべきかに重点を置いています。
PPAは「取得」と判定された企業結合で問題になる
PPAに着手する前に、まず確かめておきたいことがあります。その取引が企業結合会計上の「取得」に該当するかどうかです。
企業結合会計基準は、企業結合に該当する取引には、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引も含めて適用されるとしています。一方で、PPA、すなわち取得原価を識別可能資産及び負債へ時価配分する処理は、取得と判定された企業結合における処理です。
企業集団内の共通支配下取引では、原則として移転直前の適正な帳簿価額を基礎とする処理となりますので、外部取得と同じ意味でのPPAは通常問題になりません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
PPAの入口では、少なくとも次の順序で論点を確認していきます。
| 確認順序 | 判断内容 | PPAへの影響 |
|---|---|---|
| 1. 企業結合か | 企業又は事業が1つの報告単位に統合される取引か | 企業結合会計の適用対象になるか |
| 2. 取得か | どの企業が支配を獲得したか | 取得企業・被取得企業を決める |
| 3. 取得原価はいくらか | 現金、株式、条件付取得対価、段階取得等をどう測定するか | 配分対象となる総額が決まる |
| 4. 識別可能資産・負債は何か | 貸借対照表計上済み項目だけでなく、未認識無形資産等を含めるか | のれんに残す額が変わる |
| 5. それぞれの時価はいくらか | 市場価格、合理的評価額、評価手法、仮定 | 償却・減損・税効果に影響する |
| 6. 残余は何か | のれんか、負ののれんか | 将来損益・注記・監査論点に影響する |
この順序を飛ばして、いきなり「顧客関連資産はいくらか」「商標は何年償却か」という議論に入ってしまうと、評価結果を説明することが難しくなります。
評価対象が何かを決める前に、なぜその取引が取得であり、なぜその資産・負債が配分対象になるのか。そこを固めておく必要があります。
PPAの基本構造:取得原価を識別可能資産・負債に配分し、残余がのれんになる
PPAの基本式そのものは単純です。
取得原価
- 識別可能資産・負債へ配分された純額
= のれん又は負ののれん
ただし、実務で難しいのは、この式を構成する一つひとつの要素です。
取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します。現金対価であれば現金支出額が中心になりますが、株式対価、親会社株式、段階取得、条件付取得対価、新株予約権等が含まれる場合には、個別の測定論点が生じてきます。
また、外部アドバイザー等に支払った取得関連費用は、取得原価には含めず、発生した事業年度の費用として処理します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
一方、識別可能資産及び負債への配分については、企業結合日前の被取得企業の貸借対照表に計上されていたかどうかだけで判断するわけではありません。
取得企業がそれらに対して対価を支払って取得した場合、原則として日本基準の下で認識されるものに限られますが、貸借対照表に未計上であった無形資産であっても、法律上の権利又は分離して譲渡可能なものは識別可能資産として取り扱うことになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
PPAを図式的に整理すると、次のようになります。
| 配分前 | PPAで検討する評価 | 配分後 |
|---|---|---|
| 被取得企業の帳簿上の流動資産 | 売掛金の回収可能性、棚卸資産の時価、前払・前受の実質 | 時価又は合理的評価額へ調整 |
| 被取得企業の帳簿上の固定資産 | 不動産、機械設備、ソフトウェア、リース資産等 | 評価差額を反映 |
| 帳簿未計上の無形資産 | 顧客関連資産、技術、商標、契約、受注残等 | 識別可能な場合に資産計上 |
| 帳簿上の負債 | 借入、引当金、退職給付、リース負債等 | 必要に応じ再測定 |
| 帳簿未計上の負債 | 不利な契約、特定勘定、偶発債務等 | 認識要件を満たす場合に負債計上 |
| 税効果 | 会計・税務簿価差、繰越欠損金、DTL・DTA | 繰延税金資産・負債を認識 |
| 残余 | シナジー、超過収益力、人的資源、集合的価値 | のれん又は負ののれん |
PPAの実務では、被取得企業の帳簿上の資産・負債だけでなく、棚卸資産、土地、建物、機械設備、顧客関係、商標権、技術、前受収益、のれんなどが時価評価・配分の対象として検討されます。
製造業では、無形資産に加えて機械設備が重要な評価対象となる場面も多くあります。PPAは無形資産だけの問題ではない、ということです。
識別可能無形資産をどこまで認識するか
PPAで最も判断が難しいのは、無形資産の識別です。
企業結合会計基準では、受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合、当該無形資産を識別可能なものとして取り扱います。
適用指針では、法律上の権利として、特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の機密事項、植物の新品種等が挙げられています。
また、分離して譲渡可能な無形資産とは、取得企業に譲渡意思があるかどうかにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なものをいい、その独立した価格を合理的に算定できる必要があるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
実務上、検討対象になりやすい無形資産は次のとおりです。
| 類型 | 代表例 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| マーケティング関連 | 商標、商号、ブランド、ドメイン名 | 法的保護、使用実態、売上貢献、ライセンス取引の有無 |
| 顧客関連 | 顧客リスト、顧客との関係、顧客契約、受注残 | 契約の継続性、解約率、顧客集中、将来売上、受注残粗利 |
| 技術関連 | 特許、ノウハウ、ソフトウェア、データベース、仕掛研究開発 | 権利保護、陳腐化リスク、収益貢献、代替技術 |
| 契約関連 | フランチャイズ契約、独占販売契約、有利・不利な契約、ライセンス | 市場条件との差、残存期間、更新可能性 |
| 許認可関連 | 周波数帯、営業許認可、資源権益 | 譲渡可能性、更新可能性、規制、代替可能性 |
| 芸術関連 | 楽曲、映像、出版権、著作物 | 権利期間、利用実績、収益分配条件 |
ここで大切なのは、無形資産を多く識別すれば会計処理が高度になる、という発想ではないという点です。
識別可能性の要件を満たし、取得対価の算定基礎に含まれており、金額的な重要性があるものを、のれんに埋没させずに資産として表示すること。それがPPAの目的です。
逆に、期待シナジー、集合的な人的資源、組織文化、将来の新規顧客獲得力、PMIによる改善効果などは、個別に識別可能な資産というより、通常はのれんを構成する要素として説明されることが多い領域です。
識別可能な無形資産の例としては、マーケティング関連、顧客関連、契約関連、技術関連といった整理がなされています。たとえば、顧客との関係、顧客リスト、受注残、商標、特許技術、ソフトウェア、フランチャイズ契約、有利・不利な契約などが、PPA実務上の評価対象になります。
「買収目的」と「識別可能資産」は一致しないが、無関係ではない
PPAにおいて、買収目的の整理はきわめて重要です。
取得企業はなぜその企業を買収したのか。技術を獲得したかったのか、既存顧客基盤を取得したかったのか、ブランドを取得したかったのか。あるいは、許認可・生産能力・販売網・人材・地域シェアを取得したかったのか。
この買収目的は、識別可能資産の探索に直接影響します。
適用指針は、特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産を分離して譲渡可能なものとして取り扱い、識別可能資産として取得原価を配分することを定めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
たとえば、次のような関係です。
| 買収目的 | PPA上の検討対象 |
|---|---|
| 既存顧客基盤を取得する | 顧客関連資産、顧客契約、顧客との関係、受注残 |
| ブランドを取得する | 商標、商号、ブランド、ドメイン、ロイヤルティ免除法 |
| 技術・製品開発力を取得する | 特許技術、未特許技術、ソフトウェア、データベース、仕掛研究開発 |
| 生産能力を取得する | 機械設備、不動産、リース、保守契約、環境債務 |
| 許認可・規制上のポジションを取得する | 許認可、ライセンス、周波数帯、営業権的契約 |
| 仕入・販売条件を取得する | 有利又は不利な契約、独占販売契約、長期供給契約 |
| 人材・組織能力を取得する | 原則として個別資産ではなく、のれんを構成する要素として説明することが多い |
ここでの落とし穴は、買収時の取締役会資料や投資委員会資料で「顧客基盤」「ブランド」「技術力」を買収理由として強調していながら、PPAでは無形資産をほとんど識別せず、ほぼ全額をのれんとして処理してしまうことです。
もちろん、識別可能性や測定可能性を満たさなければ資産計上はできません。
しかし、買収目的として重要視した要素がPPAで検討されていなければ、監査人からは「取得対価の算定時に何を評価していたのか」「なぜ無形資産として識別しないのか」を問われることになります。
時価評価の基本:市場価格がなければ合理的に算定された価額を用いる
識別可能資産及び負債への取得原価の配分額は、企業結合日における時価を基礎として算定します。
適用指針は、観察可能な市場価格に基づく価額がある場合にはそれを用い、ない場合には合理的に算定された価額を用いることを示しています。その際、市場参加者が利用するであろう情報や前提が入手可能である限りそれを基礎とし、それが入手できない場合には、企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされています。
評価手法としては、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどが考えられます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
ただし、ここでいう時価評価は、金融商品の時価算定基準をそのまますべての資産に機械的に適用するという意味ではありません。
時価算定会計基準は、金融商品及びトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価に適用される基準です。同基準は、範囲に含まれる時価をどのように算定するかを定めるものであって、どのような場合に資産・負債等を時価で算定すべきかは他の会計基準の定めに従うとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第30号 時価の算定に関する会計基準
PPAにおける時価評価では、次のように対象ごとに評価アプローチを選択していきます。
| 評価対象 | 主な評価アプローチ | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 売掛金・貸付金 | 回収可能性、信用リスク、契約条件 | 貸倒引当金の見積りと整合させる |
| 棚卸資産 | 正味売却価額、販売マージン控除等 | 販売時に売上原価へ影響する |
| 土地・建物 | 不動産鑑定、取引事例、収益還元、原価法 | 固定資産減損・賃貸等不動産注記との整合 |
| 機械設備 | 再調達原価、経済的陳腐化、物理的劣化 | 製造能力、稼働率、保守状況を確認 |
| 顧客関連資産 | 超過収益法、ディストリビューター法、利益差分法 | 解約率、顧客集中、将来売上の整合性 |
| 商標・ブランド | ロイヤルティ免除法 | ロイヤルティレート、ブランド使用期間、売上基礎 |
| 技術・特許 | ロイヤルティ免除法、超過収益法、コストアプローチ | 技術陳腐化、代替技術、保護期間 |
| 受注残 | 超過収益法 | 受注残リスト、粗利、履行コスト、キャンセルリスク |
| 有利・不利な契約 | 利益差分法 | 契約条件と市場条件の差、残存期間 |
| 退職給付 | 退職給付会計基準に基づく債務・年金資産 | 未認識項目の引継ぎ可否に注意 |
| リース | 残存リース料の現在価値、市場条件との差 | 新リース基準対応後は使用権資産・リース負債も検討 |
PPA実務では、無形資産評価にインカム・アプローチが用いられる頻度が高く、超過収益法、ロイヤルティ免除法、利益差分法などが典型的に使われます。
一方で、無形資産の性質や情報入手の状況によっては、マーケット・アプローチやコスト・アプローチの採用・併用を検討することもあります。
顧客関連資産:最も争点化しやすい無形資産
顧客関連資産は、PPAのなかで最も議論になりやすい領域です。買収理由として「顧客基盤の取得」が掲げられることが多く、評価額も大きくなりやすいためです。
顧客関連資産には、顧客リスト、顧客契約、顧客との関係、受注残などがあります。ただし、単に売上先が存在するというだけでは足りません。
顧客との関係から将来キャッシュ・フローが見込まれ、それが取得企業に移転し、一定の合理性をもって測定できるか。ここを確認していきます。
実務上の検討事項は次のとおりです。
| 確認事項 | 判断への影響 |
|---|---|
| 契約の有無 | 契約に基づく顧客関係か、契約外の継続取引か |
| 顧客継続率・解約率 | 経済的耐用年数と将来売上に影響 |
| 顧客集中 | 特定顧客依存が高い場合、リスク調整が必要 |
| 受注残 | 既存契約に基づく短期収益の識別可能性 |
| 粗利率 | 顧客から得られる超過収益の基礎 |
| 貢献資産 | 運転資本、固定資産、人的資源、技術等の貢献を控除 |
| 顧客獲得コスト | コストアプローチ採用時の合理性 |
| PMI影響 | 買収後の営業方針変更で顧客流出リスクがないか |
顧客との関係の評価では、超過収益法が代表的です。事業全体から創出される税引後営業利益から貢献資産コストを控除し、残余利益を現在価値に割り引いて評価対象無形資産の価値を算定する方法です。
ただし、この手法は残余利益をすべて顧客関連資産に帰属させる前提になりやすいため、顧客関連資産が主要な無形資産でない場合には、ディストリビューター法や利益差分法等を検討することがあります。
顧客関連資産の評価で監査上問題になりやすいのは、事業計画の売上成長率、解約率、営業利益率、貢献資産コスト、割引率です。
買収時の投資委員会資料では強気な売上成長を前提にしていた一方で、PPAでは保守的な前提を採用する。あるいはその逆を行う。こうした場合には、なぜ前提が変わったのかを説明できなければなりません。
商標・ブランド:ロイヤルティ免除法を使う前に、使用実態を確認する
商標・ブランドは、法的権利に基づく典型的な識別可能無形資産です。
ただし、商標登録があるというだけで大きな価値を認識できるわけではありません。ブランドが実際に売上や利益にどの程度貢献しているか、第三者が当該ブランドを使用するためにロイヤルティを支払う合理性があるかを確認します。
商標・ブランドの評価では、ロイヤルティ免除法がよく使われます。商標やブランドを保有していなければ第三者に支払う必要があったであろうロイヤルティ、その免除される効果を価値として捉え、将来ロイヤルティの現在価値を算定する方法です。
この手法を用いるには、類似ライセンス取引、ロイヤルティレート、対象売上、使用期間、税率、割引率などの前提が必要になります。
| 論点 | 実務上の確認 |
|---|---|
| 対象売上 | ブランドが寄与する製品・サービス売上だけを対象にしているか |
| ロイヤルティレート | 類似取引との比較可能性、利益率との整合性 |
| 使用期間 | 商標権の法的期間だけでなく経済的使用可能期間を検討 |
| 成長率 | 買収時計画、業界動向、ブランド戦略と整合しているか |
| 陳腐化リスク | 事業転換、ブランド統合、製品寿命を考慮しているか |
| 税効果 | 評価モデル上のTax Amortization Benefitの扱いを理解しているか |
ブランド統合を予定している場合には、とくに注意が必要です。
買収直後は被取得企業のブランドを使うものの、数年後には取得企業ブランドへ統合する。そうした計画があるのであれば、商標の経済的耐用年数や対象売上に影響します。
PMI計画とPPAの前提が不整合になると、取得年度から減損兆候を疑われることもあります。
技術・ソフトウェア・データベース:権利性、陳腐化、収益貢献を切り分ける
技術関連資産には、特許技術、未特許技術、ノウハウ、ソフトウェア、データベース、仕掛研究開発などがあります。
技術の取得がM&Aの主目的である場合、PPA上は無形資産としての識別可能性を慎重に検討することになります。
技術評価で確認すべき事項は次のとおりです。
| 確認事項 | 判断への影響 |
|---|---|
| 法的保護 | 特許権、著作権、営業秘密、契約上の保護 |
| 代替可能性 | 競合技術、代替技術、陳腐化スピード |
| 収益貢献 | 技術が売上、原価低減、品質、参入障壁にどう貢献するか |
| 使用期間 | 法的保護期間ではなく経済的耐用年数を検討 |
| 開発段階 | 完成済み技術か、仕掛研究開発か |
| 維持コスト | 追加開発、保守、技術者確保が必要か |
| 人的依存 | 技術が人材に依存しすぎていないか |
技術や特許の評価では、ロイヤルティ免除法や超過収益法が使われることがあります。
ロイヤルティ免除法を用いる場合には、類似する特許・技術ノウハウのライセンス取引やロイヤルティレートの情報が入手できることが重要です。あわせて、代替技術による陳腐化リスクや無形資産固有のリスクを割引率に反映させる必要があります。
ここで注意しておきたいのは、技術と人的資源を混同しないことです。
技術文書、ソースコード、特許、データベースとして独立して識別できるものと、特定のエンジニアの暗黙知・開発能力・チーム力とでは、性質が異なります。後者は重要な買収理由であっても、通常は個別に識別可能な無形資産というより、のれんの構成要素として説明する領域になります。
リース、退職給付、特定勘定:負債側のPPAを軽視しない
PPAでは無形資産への配分に注目が集まりがちですが、負債側の評価も同じくらい重要です。
2024年9月13日に公表された新リース会計基準を踏まえ、企業結合適用指針には、リースに係る使用権資産及びリース負債への取得原価配分の取扱いが反映されています。
リース負債は、企業結合日現在で新規リースであったかのように残りの借手のリース料の現在価値を基礎として算定できます。使用権資産は、リース負債に、市場条件と異なる有利・不利条件や借地権設定に係る権利金等を加減して算定することができます。
少額リースや、企業結合日時点で残存リース期間が12か月以内のリースについては、取得原価を配分しないことができる取扱いも示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
また、企業結合に係る特定勘定にも目を向けておく必要があります。
取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失で、その発生可能性が取得対価の算定に反映されている場合には、負債として認識することがあります。適用指針は、その事象及び金額が契約条項等で明確である場合、又は取得対価の算定に反映されていることが取締役会議事録等で確認できる場合などを示しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
| 負債側の論点 | 検討内容 |
|---|---|
| リース負債 | 残存リース料、割引率、短期・少額リース、市場条件との差 |
| 使用権資産 | リース負債に有利・不利条件や権利金等を加減 |
| 退職給付 | 企業結合日における退職給付債務・年金資産の正味価額 |
| 不利な契約 | 市場条件との差額、残存期間、解約可能性 |
| 環境債務・除去義務 | 法律上の義務、契約上の原状回復、見積可能性 |
| 特定勘定 | 取得対価に反映された将来費用・損失か |
| 偶発債務 | 発生可能性、金額見積り、契約・訴訟・保証 |
| 税効果 | DTL・DTA、繰越欠損金、回収可能性 |
負債を過小に評価すると、のれんが過小に見えるだけでなく、取得後の損失認識が遅れる可能性があります。
反対に、取得時に将来リストラクチャリング費用を過大に負債計上すると、取得後の利益を平準化するように見えるため、監査上は慎重に検討されることになります。
税効果:無形資産を識別すると、繰延税金負債が連動する
PPAにおいて、税効果会計を後回しにすることはできません。
組織再編の形式が、合併や会社分割など事業を直接取得する取引である場合、取得企業は、企業結合日において、取得原価の配分額と課税所得計算上の資産・負債の金額との差額、及び引き継がれる税務上の繰越欠損金等に係る税金の額を、回収又は支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上します。
のれん又は負ののれんは取得原価の配分残余であるため、のれん又は負ののれんに対する税効果は認識しません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
このため、PPAで識別可能無形資産を計上した場合、税務上その資産が認識されないときには将来加算一時差異が生じ、繰延税金負債を認識することが一般的です。
すると、繰延税金負債の認識によって純資産配分額が変わり、結果としてのれんも増加することになります。
簡略化すると、次の関係です。
| 処理 | 影響 |
|---|---|
| 顧客関連資産を識別 | 無形資産が増加 |
| 税務上は当該無形資産の簿価がない | 将来加算一時差異が発生 |
| 繰延税金負債を認識 | 負債が増加 |
| 配分純額が減少 | のれんが増加 |
| 無形資産償却・のれん償却 | 将来損益へ継続影響 |
一方、繰延税金資産については回収可能性の判断が必要になります。
適用指針は、繰延税金資産の回収可能性を取得企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断し、企業結合による影響を企業結合年度から反映させるとしています。過去業績に基づいて将来課税所得を見積る場合には、取得した企業又は事業に係る過年度の業績等を取得企業の既存事業に係るものと合算したうえで見積ることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
税効果会計は、企業会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額との差異を調整し、法人税等と税引前利益を合理的に対応させる手続です。
PPAでは、評価差額、無形資産、繰越欠損金、のれんの税効果の有無が複雑に絡み合います。税務ストラクチャーと会計処理を同時に整理していく必要があります。
暫定処理:1年以内なら後で考えればよい、ではない
企業結合日から決算日までの期間が短い場合、PPAが決算までに完了しないことは珍しくありません。
日本基準は、取得原価の配分を企業結合日以後1年以内に行うことを求めています。企業結合日後の決算で配分が完了していない場合には、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づいて配分額を確定させます。
暫定処理の対象は、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金、繰延税金資産・負債など、実務上配分額の算定が困難な項目に限られます。ただし、企業結合日から最初の決算日までの期間が短い場合などには、受け入れた資産・負債のすべてを暫定処理の対象とすることも想定されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
暫定処理の実務スケジュールは、次のように設計していきます。
| 時点 | 実務対応 |
|---|---|
| 基本合意・DD段階 | プレPPAで論点候補、無形資産候補、償却影響を概算 |
| 最終契約前 | 取得対価、条件付取得対価、価格調整、税務ストラクチャーを整理 |
| クロージング直後 | 企業結合日、取得原価、取得企業、被取得企業、連結範囲を確定 |
| 初回決算前 | 暫定PPA、注記、監査人協議、重要な未確定項目を整理 |
| 1年以内 | 評価レポート、税効果、のれん償却期間、配分額を確定 |
| 確定時 | のれん・償却費・税効果を企業結合日に遡る形で会計処理 |
| 翌期比較表示 | 必要に応じ、企業結合年度の財務諸表に見直しを反映 |
暫定的な会計処理の確定により取得原価の配分額を見直した場合には、企業結合日におけるのれん又は負ののれんの額も取得原価が再配分されたものとして会計処理します。
確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合であっても、企業結合年度に確定が行われたかのように会計処理し、比較財務諸表を表示する場合には当該企業結合年度の財務諸表に反映させることになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
ここでの実務上の失敗は、「1年以内に確定すればよい」と考えて、初回決算時点で十分な暫定処理を行わないことです。
暫定処理であっても、その時点で入手可能な合理的情報に基づく必要があります。未確定項目、未確定の理由、今後の評価予定、財務諸表への影響を整理しておくべきです。
のれん・負ののれん:残余だからこそ、説明が必要になる
のれんは、単に「配分しきれなかった残り」ではありません。企業結合会計上は残余として算定されるものの、財務諸表利用者に対しては、その発生原因を説明する必要があります。
のれんは資産に計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他合理的な方法により規則的に償却します。金額に重要性が乏しい場合には発生事業年度の費用として処理できますが、のれんを企業結合日に全額費用処理することは原則としてできません。
また、のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上し、減損処理以外の理由で特別損失に計上することはできないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
のれんの発生原因として説明されることが多い要素は、次のとおりです。
| のれんの構成要素 | 説明上の注意点 |
|---|---|
| 期待シナジー | 取得企業固有のPMI効果か、被取得企業単独の価値かを区分 |
| 超過収益力 | どの事業・顧客・技術・ブランドから生じるのかを説明 |
| 人的資源 | 個別識別可能資産ではなく、のれん構成要素として整理することが多い |
| 市場参入効果 | 許認可・顧客基盤・販売網との区分を確認 |
| 将来成長 | 事業計画の成長率、投資計画、リスクと整合させる |
| 支払プレミアム | 競争入札、上場会社買収、支配プレミアムの合理性を説明 |
負ののれんが見込まれる場合には、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、取得原価の配分が適切に行われているかを見直す必要があります。見直し後もなお負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
負ののれんは、安く買えたというだけで安易に利益認識するものではありません。取得原価、識別可能資産、負債、偶発債務、特定勘定、税効果に見落としがないかを確認したうえで、なお発生するのかを検証します。
減損との接続:PPAは取得年度で終わらない
PPAで識別された無形資産やのれんは、取得年度以後の減損会計に直結します。
適用指針は、のれんの未償却残高が減損処理の対象となることを示しています。そのうえで、取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合、又は被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合等には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられることがあるとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
PPAで識別された無形資産は、減損会計上、のれんではなく通常の無形固定資産に準じて減損の要否を判断します。
子会社株式の取得や関連会社化に伴う取得原価配分で、個別財務諸表に未計上だった無形資産が連結上認識された場合であっても、減損の検討では当該資産の性質、償却期間、収益貢献、グルーピングを個別に整理していく必要があります。
| PPA項目 | 取得後の検討 |
|---|---|
| 顧客関連資産 | 顧客流出、売上未達、契約解約、収益性低下 |
| 商標・ブランド | ブランド統合、販売不振、ブランド毀損 |
| 技術 | 陳腐化、開発失敗、競合技術、収益貢献低下 |
| 受注残 | 取消、採算悪化、履行損失 |
| のれん | 買収時計画未達、PMI遅延、事業撤退、割引率上昇 |
| DTA | 課税所得見積りの下方修正 |
| 特定勘定 | 対象事象の発生・不発生、引当金への振替 |
買収時の事業計画、PPA評価モデル、のれん償却期間、減損テストの将来キャッシュ・フロー。これらがバラバラであれば、監査上の説明は困難になります。
PPAは、取得年度の会計処理ではありません。買収後の見積り管理の出発点です。
開示:PPAは注記と投資家説明に接続する
PPAの結果は、企業結合注記に影響します。
企業結合に関する注記では、企業結合の概要、取得原価及び対価の種類ごとの内訳、主要な取得関連費用、取得原価の配分に関する事項、のれんの金額・発生原因・償却方法・償却期間等を整理する必要があります。
取得原価の大部分がのれん以外の無形資産に配分された場合には、無形資産に配分された金額、主要な種類別の内訳、加重平均償却期間が重要な開示論点になります。取得原価の配分が完了していない場合には、その旨及び理由を注記することも大切です。
また、上場会社では、企業結合そのものが適時開示や臨時報告書の論点になります。
JPXは、上場会社の業務執行決定機関が株式交換、株式移転、株式交付、合併、会社分割を行うことを決定した場合、直ちに開示することを求めており、合併等の組織再編行為には適時開示上の軽微基準は設けられていません。完全子会社との組織再編や簡易・略式組織再編、休眠会社との組織再編等で業績への影響が軽微なものであっても、開示が必要とされています。
出典:日本取引所グループ|決定事実 合併等の組織再編行為
PPA単体が常に適時開示項目になるわけではありません。
しかし、PPAの結果として多額ののれん、負ののれん、無形資産償却費、減損損失、繰延税金負債、業績予想への影響が生じる場合には、決算情報・業績予想修正・企業結合注記・記述情報との整合が必要になります。
監査対応:評価専門家に任せても、経営者の判断責任は残る
PPAは、評価専門家のレポートを受け取れば完了する、という性質のものではありません。
評価専門家は評価技法、前提、算定結果を提示します。しかし、財務諸表に計上するかどうか、どの前提を採用するか、注記でどう説明するかは、最終的には経営者の会計判断です。
監査人が確認する主なポイントは次のとおりです。
| 監査上の確認事項 | 典型的な資料 |
|---|---|
| 取得企業判定 | 取引スキーム、議決権、支配関係、契約書、取締役会資料 |
| 取得原価 | SPA、支払対価、株式対価、価格調整、条件付取得対価 |
| 識別可能資産・負債 | DD資料、契約一覧、顧客リスト、技術資料、商標登録、許認可 |
| 評価前提 | 事業計画、売上成長率、利益率、解約率、割引率、ロイヤルティレート |
| 評価手法 | 評価レポート、類似取引、WACC、IRR、貢献資産コスト |
| 税効果 | 税務ストラクチャー、適格判定、繰越欠損金、DTA回収可能性 |
| 暫定処理 | 未確定項目、未確定理由、今後の評価予定 |
| のれん償却期間 | 買収目的、効果の及ぶ期間、事業計画、投資回収期間 |
| 減損兆候 | 取得後の業績、PMI進捗、事業計画との差異 |
| 開示 | 企業結合注記、適時開示、決算短信、有報記述情報 |
KAMとの関係も軽視できません。
金融庁は、KAMについて、2018年7月公表の監査基準改訂により日本の監査実務に導入され、2021年3月期から一部を除く金商法監査対象会社に監査報告書への記載が求められていると説明しています。また、KAMの記載には、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高める意義があるとされています。
出典:金融庁|「監査上の主要な検討事項(KAM)」の実務の定着と浸透に向けた取組みについて
PPAでは、取得原価配分、無形資産評価、のれん、減損、税効果が複合的に絡み合い、経営者の重要な判断と見積りの不確実性が大きくなります。
大型買収や重要な無形資産評価を伴う場合には、KAM候補として監査人と早期に協議しておくことが望まれます。
実務で起きやすい失敗
1. PPAをクロージング後の事務処理として扱う
PPAはクロージング後に実施されることが多いものの、買収価格、償却費、のれん、減損リスクを把握するには、最終契約前からプレPPA的な検討を行うことが有用です。
プレPPAは、入手可能な情報が限定されるため評価額がレンジで示されることが多く、クロージング後PPAと乖離する可能性があります。それでも、買収価格の根拠や買収後損益への影響を事前に把握するうえで重要な意味を持ちます。
2. のれんを小さくしたい、又は大きくしたいという発想で配分する
PPAは、見せたいのれん額を作る作業ではありません。識別可能資産・負債の時価を合理的に評価した結果として、のれん又は負ののれんが残ります。
無形資産を過大に識別すれば将来の償却費が増え、過小に識別すればのれんが膨らみます。いずれの場合も、買収目的、評価前提、減損リスクとの整合が問われます。
3. 評価レポートと事業計画が一致していない
PPA評価モデル、買収時バリュエーション、減損テスト、税効果の課税所得見積り、業績予想。これらが別々に作成されていると、前提の不整合が生じます。
売上成長率、利益率、設備投資、運転資本、解約率、割引率、シナジーの扱いを、横断的に照合する必要があります。
4. 税効果を最後に入れる
無形資産評価額を決めた後に、税効果を機械的に加えるだけでは不十分です。
税務上の資産認識、適格・非適格組織再編、株式取得か事業取得か、繰越欠損金、DTA回収可能性、DTLの認識。これらがPPA全体に影響します。
5. 暫定処理の注記を軽く見る
PPAが未完了の場合には、どの項目が未確定で、なぜ未確定なのか、どの程度の影響があり得るのかを説明する必要があります。
単に「取得原価の配分が未了」とだけ記載するのでは、財務諸表利用者にも監査人にも不十分です。
6. 取得年度の減損兆候を見落とす
買収直後だから減損はない、とは限りません。
取得原価のうちのれんや無形資産に配分された金額が相対的に多額な場合、多額のプレミアムを支払っている場合、買収後すぐに計画未達が判明した場合には、取得年度から減損兆候を検討する必要があります。
PPAで作成しておくべき判断メモ
PPAでは、評価レポートとは別に、会計判断メモを残しておくことが重要です。
評価レポートは評価額を説明するものです。これに対して会計判断メモは、「なぜその資産・負債を認識し、その金額を財務諸表に反映したのか」を説明するものです。
| メモ項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 取引概要 | 取得日、法形式、取得企業、被取得企業、取得比率、取得目的 |
| 取得原価 | 対価の種類、現金、株式、条件付取得対価、段階取得、価格調整 |
| PPA対象 | 識別可能資産・負債、未認識無形資産、負債、特定勘定 |
| 無形資産識別 | 法律上の権利、分離可能性、買収目的、金額的重要性 |
| 評価手法 | 資産ごとの評価アプローチ、採用理由、不採用手法の理由 |
| 評価前提 | 事業計画、解約率、ロイヤルティレート、割引率、耐用年数 |
| 税効果 | DTA・DTL、繰越欠損金、税務簿価、回収可能性 |
| 暫定処理 | 未確定項目、暫定金額、確定予定、注記方針 |
| のれん | 発生原因、償却期間、償却方法、減損兆候 |
| 開示 | 企業結合注記、適時開示、決算短信、有報、KAM可能性 |
| 監査対応 | 提出資料、評価専門家との協議、経営者確認 |
このメモがあれば、監査人との協議、経営者への説明、開示担当との連携、翌期以後の減損検討が大きく進めやすくなります。
専門家に相談すべき場面
PPAは、評価、会計、税務、開示、監査が交差する論点です。次のような場面では、早い段階で専門家を交えて整理することが望まれます。
| 相談が必要になりやすい場面 | 理由 |
|---|---|
| 買収対価が大きい | のれん、無形資産、償却費、減損リスクが重要になる |
| 顧客基盤・技術・ブランドを目的に買収する | 識別可能無形資産の検討が不可欠 |
| クロージングから決算日までの期間が短い | 暫定処理、注記、監査対応を短期間で行う必要がある |
| 株式対価・条件付取得対価がある | 取得原価の算定が複雑になる |
| 事業計画に大きな不確実性がある | 評価前提、税効果、減損、KAMに影響する |
| 税務上の繰越欠損金がある | DTA回収可能性、組織再編税制、グループ通算の検討が必要 |
| 海外子会社を取得する | 外貨換算、在外子会社ののれん、税務、評価前提が複雑になる |
| 負ののれんが見込まれる | 識別可能資産・負債の網羅性と評価額の見直しが必要 |
| 監査人と評価前提に見解差がある | 評価モデルだけでなく、会計判断の根拠資料が必要になる |
| IPO準備中に買収を行う | 過年度財務諸表、内部統制、監査証拠、開示体制に影響する |
犬飼公認会計士・税理士事務所では、PPAを「評価額の算定」だけでなく、取得会計、識別可能資産・負債、税効果、のれん償却、減損、注記、監査対応までつながる実務判断として整理することを重視しています。
買収前のプレPPA、クロージング後のPPA、暫定処理、監査人協議、企業結合注記、のれん・無形資産の減損検討について、後から説明できる形で判断資料を整えたいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上の要点 |
|---|---|
| PPAの位置づけ | 取得と判定された企業結合で、取得原価を識別可能資産・負債へ配分する手続 |
| 取得原価 | 現金、株式、段階取得、条件付取得対価等を企業結合日時点で適切に測定する |
| 取得関連費用 | 外部アドバイザー費用等は取得原価に含めず、発生年度の費用として処理する |
| 識別可能資産・負債 | 被取得企業の帳簿計上有無にかかわらず、日本基準上認識されるものを検討する |
| 無形資産の識別 | 法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産を識別する |
| 顧客関連資産 | 顧客契約、顧客との関係、解約率、将来売上、貢献資産コストが争点になる |
| 商標・ブランド | ロイヤルティ免除法を用いる場合、対象売上、ロイヤルティレート、使用期間を検討する |
| 技術・ソフトウェア | 権利性、収益貢献、陳腐化リスク、代替技術を確認する |
| リース | 新リース基準を踏まえ、使用権資産・リース負債、市場条件との差を検討する |
| 特定勘定 | 将来費用・損失が取得対価に反映されている場合に限り慎重に認識する |
| 税効果 | 無形資産の認識に伴うDTL、繰越欠損金、DTA回収可能性を同時に検討する |
| 暫定処理 | PPA未完了でも、入手可能な合理的情報に基づき暫定処理し、1年以内に確定する |
| のれん | 残余として算定されるが、発生原因、償却期間、減損リスクの説明が必要 |
| 負ののれん | 認識前に、識別可能資産・負債の網羅性と配分額を見直す |
| 減損 | PPAで認識した無形資産・のれんは、取得年度から減損兆候を検討する場合がある |
| 開示 | 企業結合注記、PPA未了注記、無形資産の内訳、のれんの発生原因を整理する |
| 監査対応 | 評価レポートに加え、経営者の会計判断メモと前提整合性が必要になる |