自由診療や自費診療、物販に力を入れたいという医療機関は、決して少なくありません。
保険診療だけでは、診療報酬改定の影響をどうしても受けやすくなります。患者さんのニーズに応じて選択肢を増やしたい、という思いもあるでしょう。美容、予防、審美、矯正、検査、栄養、サプリメント、医療機器、セルフケア用品などを組み合わせ、より付加価値の高い診療体制を整えたい――こうした方向性そのものは、医療機関の成長戦略として十分に検討に値するものです。
ただ、自由診療・自費診療・物販は、「単価が高い」「利益率がよさそうだ」という理由だけで始めてしまうと、後になって管理上の問題が表面化しやすい領域でもあります。
自由診療には、費用表示、契約、同意、治療期間、リスク説明、返金対応、広告規制、消費税、売上計上時期、未収金管理が関わってきます。物販であれば、医療法人の業務範囲、薬機法、景品表示法、健康増進法、在庫管理、棚卸、廃棄、消費税、価格設定が関係します。さらに医療法人の場合には、非営利性、剰余金配当の禁止、関係事業者取引、MS法人との取引も無視できません。
本記事では、自由診療・自費診療・物販を、単なる売上拡大策としてではなく、継続的に管理すべき収益領域として整理していきます。個別の商品販売の可否、広告文の適法性判断、個別の消費税申告書の作成、医療法人の個別認可判断までは扱いません。あくまで目的は、院長・理事長・事務長の皆さまが、自院では何を確認し、どの数字とどの資料を整えておくべきかを理解していただくことにあります。
まず「自由診療」「自費診療」「物販」を同じ箱に入れない
実務の現場では、「自由診療」「自費診療」「自費メニュー」「物販」がひとまとめに語られがちです。しかし経営管理の観点からは、これらを分けて考える必要があります。
保険診療は、診療報酬制度にもとづき、審査支払機関や窓口負担と結びついて収入が発生します。これに対して自由診療は、公的医療保険の枠外で、患者さんとの契約・説明にもとづいて対価を受け取る領域です。そして物販は、診療行為そのものではなく、商品を販売する取引にあたります。
この区分が曖昧なまま会計処理を進めてしまうと、売上の内訳、消費税、原価、未収金、広告規制、医療法人の業務範囲が、いずれも見えにくくなります。医業・歯科医業の収入は、社会保険診療収入、自由診療収入、雑収入、物販売上などに分類して管理しておく必要があります。とりわけ社会保険診療報酬の所得計算特例を検討する場合には、自由診療収入と社会保険診療収入の区分、そして共通経費の配分が重要になってきます。
最初に整えておきたいのは、次のような売上区分です。
| 区分 | 例 | 主な管理論点 |
|---|---|---|
| 社会保険診療収入 | 保険診療、保険給付部分 | レセプト、窓口負担、未収金、返戻・査定 |
| 自由診療収入 | 美容、審美、矯正、インプラント、自由診療検査等 | 契約、同意、費用表示、リスク説明、消費税、広告 |
| 保険外併用療養等 | 評価療養・選定療養等 | 制度上の位置づけ、患者説明、費用徴収 |
| 物販売上 | サプリメント、化粧品、口腔ケア用品、コンタクト関連、医療機器等 | 薬機法、景表法、在庫、棚卸、消費税 |
| 雑収入・その他収入 | 文書料、講演料、委託料等 | 所得区分、消費税、源泉徴収、契約書 |
この区分は、決算書を見栄えよく整えるためのものではありません。自院の成長領域が、どこで利益を生み、どこにリスクを抱えているのかを説明するための土台です。
自由診療は「高単価」ではなく「説明責任付きの売上」として見る
自由診療は、保険診療より単価が高く見えることがあります。しかし経営上は、単価だけで判断してはいけません。
自由診療には、診療時間やカウンセリング時間、医師・スタッフの説明負担、広告費、材料費、薬剤費、技工費、保証対応、再施術、返金、クレーム対応といったものが含まれます。売上の額が大きくても、これらを差し引いてみると、実質的な利益は思ったほど残らない、ということがしばしば起こります。
自由診療で確認しておきたい数字は、少なくとも次のとおりです。
| KPI | 確認したい内容 |
|---|---|
| 自由診療売上 | 総額だけでなく、メニュー別・医師別・拠点別に分ける |
| 自由診療比率 | 総収入に占める自費領域の割合 |
| 粗利率 | 薬剤、材料、技工、外注、決済手数料を控除した利益 |
| 時間当たり採算 | カウンセリング・施術・説明・事務を含めた採算 |
| 成約率 | 相談・カウンセリングから契約に至る割合 |
| キャンセル率 | 予約キャンセル、治療中断、返金発生の状況 |
| 未収金残高 | 分割払い、ローン、後払い、未回収の有無 |
| 広告費対売上 | 広告投資が売上・利益につながっているか |
| クレーム・返金件数 | 説明不足や期待値のずれが起きていないか |
自由診療を伸ばすうえで大切なのは、「自費率を上げる」ことではありません。自院の診療方針に合った自由診療を、患者さんに誤解なく説明し、採算と資金繰りを確かめながら継続できる状態にしておくこと――ここに尽きると考えています。
自由診療の売上計上は、入金日だけで判断しない
自由診療では、前払い、分割払い、コース契約、複数回施術、デンタルローン、クレジット決済、キャンセル料、返金保証といったものが発生します。
ここで押さえておきたいのは、入金額と売上額が常に一致するとは限らない、という点です。
たとえば患者さんから一括で入金を受けたとしても、役務の提供が複数回にわたる場合には、会計上・税務上どの時点で収益を認識すべきかを、契約内容、請求条件、提供済みの内容、返金条件などを確認したうえで判断する必要があります。歯列矯正料の収入計上時期についても、矯正装置の装着など一定の役務提供を行った時に基本料等の全額を請求し受領することとしている場合には、その一定の役務提供を了した日の属する年分の収入金額に算入する、という考え方が示されています。
出典:国税庁|歯列矯正料の収入すべき時期
自由診療の売上管理では、次の資料をセットで管理しておくと安心です。
- 見積書
- 治療計画書・施術計画書
- 契約書・申込書
- 同意書
- 請求書
- 領収書
- 入金明細
- 決済手数料明細
- ローン明細
- 施術実施記録
- 返金・キャンセル記録
- 未収金一覧
月次決算で「入金があったから売上だ」と処理しているだけでは、実態とずれてしまう可能性があります。自由診療を伸ばすほど、収益認識、前受金、返金、未収金の管理を、いっそう丁寧に行う必要が出てきます。
消費税は「保険診療は非課税」で止めない
医療機関の消費税についてよくある誤解が、「医療は非課税だから、消費税は関係ない」というものです。
社会保険医療の給付等――健康保険法や国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療など――は、非課税取引に掲げられています。一方で、美容整形や差額ベッド料金、市販されている医薬品の購入は、非課税取引には当たりません。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
つまり、自由診療・物販・一部の文書料・企業向けサービスなどが増えていく医療機関では、課税売上をきちんと把握しておかなければなりません。
確認しておきたい項目は、次のとおりです。
| 確認項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 課税売上高 | 免税事業者・課税事業者判定に影響する |
| 課税売上割合 | 仕入税額控除の計算に影響する |
| 簡易課税の選択 | 業種区分、みなし仕入率、届出期限を確認する |
| 原則課税の選択 | 設備投資や課税仕入が多い場合に影響する |
| インボイス登録 | 取引先が事業者の場合、請求・保存体制に影響する |
| 自由診療と保険診療の共通経費 | 仕入税額控除、管理会計、措置法26条に影響する |
| 物販の仕入・在庫 | 課税仕入、棚卸、廃棄ロスに影響する |
とりわけ注意したいのが、設備投資の前後です。自由診療や物販が増え、課税売上が大きくなる局面では、原則課税・簡易課税・課税事業者選択の届出が、資金繰りに影響することがあります。消費税の選択届出書は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までなど、期限管理が重要です。さらに、期限が休日であっても翌日に延長されない類型がある点には、注意しておく必要があります。
自由診療を伸ばす医療機関にとって、消費税を決算時に初めて確認するのでは、もう遅すぎます。新メニューの開始前、設備投資の前、法人化の前、分院の前――こうした節目ごとに、消費税の課税関係と届出期限を確認しておくことをお勧めします。
措置法26条を使う医院では、自由診療割合が税務判断に直結する
個人で医業・歯科医業を営む場合には、社会保険診療報酬の所得計算の特例、いわゆる租税特別措置法26条の論点が出てきます。
社会保険診療報酬が5,000万円を超える場合、または医業及び歯科医業から生ずる収入金額が7,000万円を超える場合には、この方法を選択できないとされています。あわせて、自由診療と社会保険診療に共通する必要経費を計算し、自由診療分と社会保険診療分とに明確に区分できる経費を整理しておく、という考え方が示されています。
出典:国税庁|所得税青色申告決算書(一般用)付表《医師及び歯科医師用》記載要領
自由診療が増えると、措置法26条の適用可否や、有利・不利の判断に影響してきます。
たとえば、社会保険診療報酬が5,000万円以下であっても、自由診療を含めた総収入が7,000万円を超えると、特例を使えない可能性があります。また、特例を使う場合でも、自由診療に係る必要経費を区分しておかなければなりません。自由診療の材料費、広告費、カウンセリング人件費、決済手数料、貸倒損失、共通経費の配分が曖昧なままだと、税務上の説明が難しくなってしまいます。
ここで申し上げたいのは、自由診療を抑えるべきだ、という話ではありません。自由診療を伸ばすのであれば、税務上の区分管理を同時に整えておく必要がある、ということです。
医療広告では、費用表示だけでなくリスク・副作用・治療期間まで整える
自由診療を伸ばすには、公式サイトやSNS、Google、院内掲示、パンフレットなどでの情報発信が重要になります。しかし医療機関の広告は、一般企業の広告と同じ感覚では運用できません。
医療広告等の規制については、医療法だけでなく、景品表示法や医薬品医療機器等法など、他の法令も関係してきます。他法令等に抵触する内容や、広告規制の趣旨に反する広告は行わないものとされています。
出典:厚生労働省|医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針
さらに、虚偽広告、比較優良広告、誇大広告、体験談広告、患者を誤認させるおそれのある治療前後写真等の広告については、禁止・制限されています。その一方で、一定の要件を満たす場合には、ウェブサイト等で広告可能事項以外の広告に関する限定解除が認められる、という整理がなされています。
出典:厚生労働省|糖尿病治療薬等の適応外使用に関連した注意喚起の取組等
自由診療のページでは、少なくとも次の情報を確認しておきましょう。
- 自由診療であること
- 公的医療保険が適用されないこと
- 標準的な費用
- 治療内容
- 治療期間
- 治療回数
- 主なリスク
- 主な副作用
- 追加費用が発生する場合の条件
- 返金・中断時の取扱い
- 未承認医薬品・未承認医療機器を使う場合の説明
- 国内承認品の有無
- 入手経路
- 諸外国での安全性情報
ビフォーアフター写真については、通常必要とされる治療内容、費用、主なリスク、副作用等の詳細情報の掲載場所を、患者に分かりやすく配慮する必要があります。利点や長所と比べて、これらの情報を極端に小さい文字で掲載するような形式は認められていません。
出典:厚生労働省|医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)
広告は、売上を伸ばすためだけのものではありません。患者さんが納得して選択するための、説明資料でもあります。自由診療の広告を強化するほど、広告規制への対応と患者説明の水準も、あわせて引き上げていく必要があります。
物販は「診療の延長」か「独立した小売」かを見極める
医療機関の物販には、さまざまな形があります。
皮膚科でスキンケア用品を販売する。歯科で歯ブラシや口腔ケア用品を扱う。眼科でコンタクト関連商品を取り扱う。美容クリニックで化粧品やサプリメントを販売する。整形外科やリハビリ系クリニックでサポーターや運動器具を紹介する。いずれもよく見られる形です。
まず確認しておきたいのは、その販売が診療に付随するものなのか、それとも独立した小売事業として展開しているのか、という点です。
診療の説明に必要な範囲で患者さんに用品を案内する場合と、ECサイトやSNSを使って広く商品販売を行う場合とでは、管理すべき法務・税務・広告のリスクが異なってきます。とりわけ医療法人の場合には、法人の業務範囲に照らした慎重な確認が欠かせません。
医療法人は、病院、医師または歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設等の開設を目的として設立される法人です。医療法第42条各号に掲げる附帯業務は、開設する病院等の業務に支障のない限り、定款または寄附行為の定めるところにより行うことができます。また、本来業務を行わず附帯業務のみを行うことは、医療法人の運営として不適当とされています。
出典:厚生労働省|医療法人の業務範囲
医療法人は、利益を出してはいけない法人ではありません。ただし医療法第54条では、医療法人は剰余金の配当をしてはならないと定められています。自由診療や物販で利益が出ること自体が問題なのではなく、その利益を法人内でどのように管理し、医療提供体制、人材、設備、将来の投資へとどう使っていくか――そこが問われます。
出典:e-Gov法令検索|医療法
サプリメント・健康食品の販売では、表示が医療機関の信用に直結する
サプリメントや健康食品を扱う場合には、医療機関としての信用が、商品の表示や説明に影響を及ぼします。
健康保持増進効果等について、著しく事実に相違する表示や、著しく人を誤認させる表示をする場合には、虚偽誇大表示に該当します。疾病の治療または予防を目的とする効果、身体の組織機能の一般的な増強・増進を主たる目的とする効果などの表示には、とりわけ注意が必要です。
出典:消費者庁|健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
医療機関がサプリメントを販売するとき、患者さんは「医師が勧めているのだから、治療効果があるのだろう」と受け止める可能性があります。だからこそ一般企業以上に、説明の正確性、表示の根拠、利益相反、価格の妥当性に気を配る必要があります。
確認しておきたい項目は、次のとおりです。
- 医薬品のような効能効果をうたっていないか
- 疾病の治療・予防を断定していないか
- 患者さんに購入を事実上強制していないか
- 価格設定の根拠を説明できるか
- 仕入先との関係を説明できるか
- 院内掲示・Web表示・SNS投稿が過大になっていないか
- 在庫、廃棄、期限切れを管理しているか
- 医療法人の業務範囲との関係を確認しているか
サプリメント販売を「少額だから」「患者サービスの一環だから」と軽く扱うべきではありません。医療機関の説明には、一般の物販よりも強い信頼が乗っているからです。
医療機器等の販売・貸与は、許可・届出・管理者要件を確認する
医療機器や医療関連用品を販売・貸与する場合には、商品の分類によって、薬機法上の許可・届出が関わってくることがあります。
医療機器の製造販売については、患者へのリスクの高さに応じて、一般医療機器、管理医療機器、高度管理医療機器などに分類され、手続が異なります。
出典:PMDA|医療機器
高度管理医療機器または特定保守管理医療機器の販売業者・貸与業者については、一定の資格要件を満たした営業所管理者を置き、保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な措置を講ずることとされています。
出典:厚生労働省|医療機器販売業者等の営業所管理者の資格要件に係る講習
また、業として高度管理医療機器・特定保守管理医療機器を販売または貸与するには許可を受ける必要があり、管理医療機器を販売・貸与するには届出が必要です。許可権者・届出先は、都道府県知事等とされています。
出典:厚生労働省|行政手続コスト削減のための基本計画
医療機関が患者さんに医療機器等を案内する場合には、単に「仕入れて売る」だけでは済みません。次の観点をあわせて確認しておくべきです。
- その商品は医薬品・医療機器・化粧品・健康食品のどれに該当するか
- 医療機器の場合、分類は何か
- 販売・貸与に許可または届出が必要か
- 営業所管理者が必要か
- 仕入先は適法な業者か
- 中古品やレンタル品の取扱いはないか
- 患者さんへの説明資料は適切か
- Web販売や通信販売を行うのか
- 医療法人の業務範囲に照らして問題がないか
個別商品の販売可否は、商品分類、販売形態、販売主体、表示内容によって変わってきます。少なくとも医療機関の会計・税務管理においては、「物販」として売上・仕入・在庫・消費税を分けておくことが必要です。
物販では、在庫管理が利益と税務の両方に効く
物販を始めると、売上だけでなく在庫が発生します。
在庫管理が甘いと、利益が正しく見えなくなります。仕入れた時点で全額を費用にしていると、期末に残っている商品まで費用化されすぎてしまうことがあります。反対に、期限切れ品や滞留品を在庫として残したままにしていると、実態より利益が高く見えてしまうこともあります。
医療機関では、医薬品、診療材料、販売用商品、サプリメント、化粧品、コンタクト関連品、口腔ケア用品など、在庫の性質がそれぞれ異なります。実地棚卸、期限管理、廃棄記録、滞留在庫の把握、入出庫記録は、会計・税務・内部管理の基礎です。高額な医薬品・診療材料等については、保管管理、払出記録、診療・請求データとの照合、差異が生じた際の原因分析が重要になります。
物販の管理で整えておきたい資料は、次のとおりです。
| 資料 | 管理目的 |
|---|---|
| 商品マスタ | 商品名、分類、税率、仕入先、販売価格を管理する |
| 仕入明細 | 仕入先、数量、単価、消費税、納品日を確認する |
| 販売明細 | 患者別・日別・商品別の販売実績を確認する |
| 在庫表 | 期末在庫、月末在庫、期限切れ、滞留品を確認する |
| 廃棄記録 | 廃棄理由、数量、承認者を残す |
| 値引・返品記録 | 値引理由、返品理由、承認者を残す |
| 表示資料 | 院内掲示、パンフレット、Web表示、SNS投稿を保存する |
物販は、会計ソフトの勘定科目を1つ増やせば管理できる、というものではありません。収益管理、在庫管理、広告表示、税務処理を、一体として整えていく必要があります。
自由診療・物販の価格設定は、利益だけでなく説明可能性で見る
自由診療・物販では、価格設定も重要なテーマです。
安ければよいわけではありません。かといって、高ければ利益が残るわけでもありません。医療機関として、なぜその価格なのかを説明できることが求められます。
価格設定で見ておきたい項目は、次のとおりです。
- 直接原価
- 医師・スタッフの時間
- カウンセリング時間
- 使用設備
- 広告費
- 決済手数料
- 保証・再施術コスト
- キャンセル・返金リスク
- 在庫廃棄リスク
- 消費税
- 競合価格
- 患者さんへの説明しやすさ
自由診療や物販は、患者さんが全額を負担する領域です。価格が不明確であったり、追加費用が分かりにくかったり、リスク説明が不十分だったり、効果が過大に見えたりする――こうした状態では、短期的に売上が増えても、長期的な信頼を損なってしまいます。
価格は、マーケティングの問題であると同時に、説明責任の問題でもあるのです。
医療法人が物販・自費領域を伸ばすときは、関係事業者取引にも注意する
自由診療や物販を伸ばしていく過程では、MS法人や関連会社を使うことがあります。
たとえば、化粧品やサプリメントの販売をMS法人で行う。医療法人は診療を担い、関連会社が商品を仕入れて販売する。あるいは、医療法人からMS法人へ広告業務や管理業務を委託する。こうした設計そのものが、常に否定されるわけではありません。ただし、実態、価格、契約、業務内容、役員関係を、いずれもきちんと説明できることが必要です。
医療法人の経営の透明性や、関係事業者取引の管理は、内部統制の面からも、外部への説明の面からも重要です。関係事業者との取引状況の報告、医療法人の非営利性、役員等への特別の利益供与、税務調査リスクを踏まえて、管理しておくべき領域だといえます。
MS法人を使う場合には、次の点を確認しておきましょう。
- 医療法人とMS法人の役員・株主関係
- 取引内容の実態
- 契約書の有無
- 取引価格の妥当性
- 相見積りや市場価格との比較
- 業務実績の記録
- 請求書・支払記録
- 医療法人の承認記録
- 関係事業者取引報告の要否
- 消費税・法人税・源泉徴収の処理
短期的な節税や利益移転を目的に設計してしまうと、将来の承継・M&A・税務調査の場面で、大きな問題につながりかねません。自由診療・物販の収益を伸ばすほど、関連取引は慎重に管理しておくべきです。
月次で見るべき自由診療・物販の管理表
自由診療・物販を経営判断に活かすには、月次で、同じ前提に立った数字を確認していく必要があります。
最低限、次の管理表を整えておくと、判断の質が変わってきます。
| 管理表 | 内容 |
|---|---|
| 自由診療売上管理表 | メニュー別、担当者別、拠点別の売上 |
| 契約・同意管理表 | 契約日、説明日、同意書、施術開始日 |
| 前受金・未収金管理表 | 入金済み、未実施、返金、未回収 |
| 消費税区分表 | 非課税、課税、対象外、軽減税率の区分 |
| 広告費管理表 | 媒体別広告費、初診数、成約数、売上 |
| 物販売上・在庫表 | 商品別売上、仕入、在庫、廃棄 |
| クレーム・返金管理表 | 発生原因、金額、再発防止策 |
| 自由診療割合表 | 措置法26条、消費税、管理会計に活用 |
ここで大切なのは、表を作ること自体ではありません。
毎月、院長・事務長・会計担当・外部専門家が同じ数字を見て、次の問いに答えられる状態をつくることです。
- どの自由診療メニューが利益を生んでいるか
- 売上は増えているが、広告費や返金が増えていないか
- 課税売上が増え、消費税負担が変わっていないか
- 未収金や前受金が膨らんでいないか
- 物販在庫が滞留していないか
- 表示・広告・説明資料は最新か
- 医療法人の業務範囲に照らして無理がないか
自由診療・物販は、伸び始めてから管理を整えるのでは、間に合わないことがあります。始める前に管理単位を決め、毎月の数字で検証していくことが重要です。
自由診療・物販は「攻め」だが、守りの仕組みがなければ続かない
自由診療・自費診療・物販は、医療機関の成長戦略になり得ます。
ただし、自由診療を伸ばすのであれば、費用表示、同意書、広告規制、消費税、売上計上、返金対応を整える必要があります。物販を始めるのであれば、薬機法、景表法、健康増進法、在庫、棚卸、消費税、医療法人の業務範囲を確認しておく必要があります。
売上だけを見ていると、収益性があるように映ります。ところが、広告費、説明負担、在庫廃棄、返金、消費税、事務負担、関連取引リスクまで含めてみると、実際の採算は変わってきます。
自由診療・物販を「攻め」として使うためには、守りの仕組みを先に置いておく必要があります。
ここでいう守りとは、成長を止めることではありません。患者さんに説明でき、行政に説明でき、税務調査に説明でき、金融機関に説明でき、後継者や買い手にも説明できる――そうした状態をつくることです。
自由診療・物販を伸ばす医療機関ほど、月次決算、管理会計、消費税区分、契約書、同意書、広告チェック、在庫管理、法人運営を、一体として整えておくべきだと考えています。
この記事の振り返り
| 論点 | 確認すべきこと | 経営判断への意味 |
|---|---|---|
| 売上区分 | 保険診療、自由診療、物販、雑収入を分ける | 利益構造と税務処理を説明できる |
| 自由診療の採算 | 単価ではなく粗利、時間、広告費、返金を確認する | 本当に伸ばすべきメニューを判断できる |
| 売上計上 | 入金日、契約日、役務提供日、返金条件を確認する | 前受金・未収金・収益認識の誤りを防ぐ |
| 消費税 | 非課税、課税、簡易課税、原則課税、届出期限を確認する | 設備投資や自由診療拡大時の資金影響を把握できる |
| 措置法26条 | 社会保険診療報酬5,000万円、総収入7,000万円、自由診療経費区分を確認する | 個人開業医の所得計算と自由診療割合の影響を把握できる |
| 医療広告 | 費用、期間、回数、リスク、副作用、未承認品情報を整える | 集患と説明責任を両立できる |
| 物販 | 診療付随か独立小売か、医療法人の業務範囲を確認する | 法務・税務・法人運営リスクを整理できる |
| サプリメント | 疾病予防・治療効果を過大に表示していないか確認する | 医療機関としての信用を守る |
| 医療機器等 | 商品分類、許可・届出、営業所管理者、記録を確認する | 薬機法上の販売・貸与リスクを把握できる |
| 在庫管理 | 棚卸、期限、廃棄、滞留、返品を管理する | 利益と税務申告の正確性を高める |
| 医療法人 | 剰余金配当禁止、非営利性、関係事業者取引を確認する | 自費領域拡大と法人運営の整合性を保てる |
| 月次管理 | 自由診療売上、前受金、未収金、広告費、在庫を毎月確認する | 成長投資・撤退判断・税務対応に使える |
自由診療・自費診療・物販は、医療機関の収益構造を広げる、重要な選択肢です。その一方で、消費税、広告規制、薬機法、景品表示法、健康増進法、医療法人の業務範囲、在庫管理、収益認識が複雑に絡み合うため、感覚的に始めてしまうと、後から整理するのが難しくなります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、自由診療・物販を含む医療機関の月次決算、消費税区分、自由診療割合、収益管理表、在庫管理、医療法人運営、広告・契約資料の管理体制について、経営判断に使える形での整理を支援しています。自院の自由診療・物販を「売上を伸ばす施策」から「説明できる収益構造」へと変えていきたいとお考えの場合は、現在の試算表、売上区分、自由診療メニュー、物販一覧、消費税の処理状況を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。