不動産管理会社・法人化を検討する前に整理すべき論点|管理委託料・サブリース・役員報酬・資産移転の判断軸

不動産収入が増えてくると、「不動産管理会社を作った方がよいのではないか」「法人化すれば節税できるのではないか」という話を耳にする機会が増えてきます。

たしかに、不動産管理会社や法人化には、所得分散、管理体制の明確化、相続・承継対策、金融機関への説明、事業用資産の整理など、検討に値する場面があります。

ただ、ここで最初に確認すべきなのは、「法人を作るかどうか」ではありません。

先に確認していただきたいのは、どの不動産について、誰が所有し、誰が管理し、誰がリスクを負い、誰が収益を得ているのかという実態です。

不動産オーナーは、外から見ると資産を多く持っているように映ります。しかし実際には、固定資産税、都市計画税、修繕費、管理費、借入返済、空室リスク、相続への不安を抱え、資金繰りに追われていることも少なくありません。

不動産の有効活用によって収入が増えても、所得税、消費税、事業税、借入返済が増え、手元資金が思ったほど残らないという構造もあります。

その状態で、法人化を「節税策」としてだけ導入すると、かえって税務リスクや資金負担が増えることがあります。

この記事では、不動産管理会社・法人化を検討する前に整理すべき論点を、管理委託料、サブリース、役員報酬、資産移転、時価、消費税、相続・承継、金融機関対応まで含めて整理します。

目次

この記事で扱う範囲

この記事で扱うのは、個人が不動産収入を得ている場合に、不動産管理会社や法人化を検討する前の税務判断です。

具体的には、次の論点を扱います。

  • 不動産管理会社を作る目的の整理
  • 管理委託方式、サブリース方式、不動産所有方式の違い
  • 管理委託料やサブリース賃料の相当性
  • 役員報酬、家族への給与、業務実態
  • 個人所有不動産を法人へ移す場合の譲渡所得・時価・登録免許税等
  • 法人化後の消費税、インボイス、社会保険、届出
  • 共有不動産、相続、承継への影響
  • 税務署、金融機関、将来の相続人に説明できる資料整理

一方で、法人設立登記の手順、定款作成の細かな実務、法人設立代行の比較、個別の税額シミュレーションまでは扱いません。

法人を作る手続よりも先に、取引実態と税務判断の前提を整えること。それが、この記事の目的です。

不動産管理会社は「節税の箱」ではない

不動産管理会社を作ると、個人の所得を法人に移せる、家族に役員報酬を払える、法人税率を使える、相続対策になる、と説明されることがあります。

しかし、法人は単なる節税の箱ではありません。

法人は、契約主体となり、帳簿を作り、税務申告をし、資金を管理し、必要に応じて社会保険や源泉徴収の義務を負う独立した主体です。

形式だけ法人を作っても、実際には個人がすべて管理し、法人には実態がなく、管理委託料や役員報酬だけが支払われている。そうした状態では、税務上の説明は難しくなります。

とくに不動産オーナーがご自身や家族で設立した会社は、いわゆる同族会社になることが多く、個人と法人の取引条件に合理性があるかを確認されやすい領域です。

実際、不動産貸付業を営む個人が、本人と配偶者が株式を持つ不動産賃貸・不動産管理会社との賃貸借取引について、所得税の負担を不当に減少させる結果となるかどうかが争点となった事例もあります。

不動産管理会社を検討するときは、「法人を作れば税金が下がるか」ではなく、次の順番で考えるべきです。

確認順序確認すること判断のポイント
1何を目的に法人を使うのか管理実態、承継、所得分散、資金管理、共有解消など
2不動産の所有者を変えるのか管理会社なのか、所有法人なのかで税務が大きく変わる
3法人が何の業務を行うのか集金、契約、修繕手配、入退去管理、借入管理など
4法人にいくら支払うのか管理料、サブリース賃料、役員報酬の相当性
5個人と法人の資金を分けられるか通帳、契約、帳簿、貸付金、仮払金、役員借入金
6将来の出口をどうするか売却、相続、贈与、株式承継、借入返済、清算

まず整理すべき3つの形態

不動産管理会社と一口に言っても、実務上は大きく3つに分かれます。

1つ目は、個人が不動産を所有したまま、法人に管理業務を委託する「管理委託方式」です。

2つ目は、個人が法人に物件を一括して貸し、法人が入居者に転貸する「サブリース方式」または「一括転貸方式」です。

3つ目は、個人から法人へ不動産を売却・現物出資などにより移し、法人自体が物件を所有する「不動産所有方式」です。

それぞれ、所得の移り方、税務リスク、資金負担、承継効果が異なります。

方式不動産の所有者法人の収入主なメリット主な注意点
管理委託方式個人管理委託料比較的導入しやすい。所有権移転を伴わない管理料の相当性、業務実態、契約書が重要
サブリース方式個人転貸差益法人に空室・集金・運営リスクを一定程度移せる実際に法人がリスクを負っているかが重要
不動産所有方式法人家賃収入資産管理・承継を法人単位で設計しやすい譲渡所得、登録免許税、不動産取得税、借入承継、消費税が重い

この3つを混同すると、判断を誤ります。

「管理会社を作る」と言いながら、実際には不動産を法人に売却する話をしているのか。

それとも、所有権は個人のままで管理料だけ法人に支払う話なのか。

あるいは、法人が一括借上げをして入居者に転貸する話なのか。

この違いを曖昧にしたまま税額比較をしても、実務判断には使えません。

管理委託方式で確認すべきこと

管理委託方式では、個人が不動産を所有したまま、同族法人に管理業務を委託します。

個人は入居者からの家賃収入を不動産所得として申告し、法人に支払う管理委託料を必要経費として計上する構造です。法人側は管理委託料を売上として計上し、役員報酬や事務費などを支払います。

この方式で最も重要なのは、法人が実際に管理業務を行っているかです。

管理委託契約書があるだけでは足りません。土地や建物の管理では、地代・家賃の集金、契約更新、物件状態の維持、修繕対応など、委託する管理の内容を明確にする必要があります。

管理委託方式で確認すべき業務実態は、たとえば次のようなものです。

  • 入居者募集の窓口を法人が担っているか
  • 賃貸借契約の更新管理を法人が行っているか
  • 家賃の入金確認や滞納督促を法人が行っているか
  • 修繕業者の選定、見積取得、発注管理を法人が行っているか
  • 退去立会い、原状回復、敷金精算に関与しているか
  • 管理会社や仲介会社との連絡窓口になっているか
  • 物件ごとの収支資料を法人が作成しているか
  • 法人の通帳、会計帳簿、請求書、契約書が整っているか
  • 役員や従業員が実際に業務を行っているか

管理委託料は、「払いたい金額」ではなく、「業務内容に見合う金額」でなければなりません。

外部の不動産管理会社に委託した場合の相場、業務範囲、物件数、入居者数、空室対応の負担、修繕管理の実態、法人側の人員体制を踏まえて、説明できる金額にする必要があります。

管理実態が乏しいのに、家賃収入の一定割合を高額に法人へ移しているだけであれば、所得分散のための形式的な支払と見られるリスクがあります。

サブリース方式で確認すべきこと

サブリース方式では、個人が所有する物件を法人に貸し、法人が入居者へ転貸します。

個人は法人から賃料を受け取り、法人は入居者からの家賃収入と個人へ支払う賃料との差額を収益とします。

この方式では、法人が本当に転貸人としてリスクを負っているかが重要です。

たとえば、次のような実態があるかを確認します。

  • 法人が入居者と賃貸借契約を締結しているか
  • 法人が空室リスクを負う契約になっているか
  • 法人が滞納リスクや回収業務を負っているか
  • 法人が修繕や原状回復の一定負担を負っているか
  • 法人が入居者募集や管理会社対応を行っているか
  • 個人へ支払うマスターリース賃料が合理的に設定されているか
  • 契約変更時の意思決定が適切に行われているか

サブリース方式では、個人から法人へ支払われるものではなく、法人が個人に賃料を支払います。そのため、管理委託方式よりも所得の移り方が大きくなりやすい一方、契約条件が不自然だと税務上の説明が難しくなります。

また、共有不動産では、サブリース契約の賃料変更が共有者全員の権利に大きく影響することがあります。

一般的な賃貸借契約の賃料変更は管理行為と整理される場面がありますが、大規模な共有不動産のマスターリース契約における賃料変更は、賃貸人である共有者全員の同意を要する変更行為に該当すると整理されることがあります。

サブリース方式は、税務だけでなく、共有者間の同意、金融機関との契約、賃貸借契約、借地借家法上の関係まで確認すべき方式です。

不動産所有方式は、税務コストと出口戦略を先に見る

不動産所有方式では、個人が所有する不動産を法人へ売却または現物出資し、法人が物件を所有します。法人が家賃収入を得て、法人税等を申告し、役員報酬や配当を通じて個人や家族へ資金を移す構造です。

この方式は、資産管理や承継を法人単位で設計しやすくなる一方、導入時の税務コストが大きくなりやすい方式でもあります。

法人に不動産を現物出資した場合も、資産の譲渡になり、所得税の課税対象となります。

現物出資による譲渡収入金額は、出資した不動産の時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価とされます。ただし、その価額が出資した不動産の時価の2分の1未満である場合には、不動産の時価が収入金額とみなされます。出典:国税庁|No.3117 不動産を法人に現物出資したとき

また、譲渡所得では、法人に対する現物出資も資産の譲渡に含まれます。法人に対する贈与や遺贈、時価の2分の1未満の価額による譲渡があった場合には、時価で譲渡があったものとされます。出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

さらに、法人に対して時価の2分の1以上の対価で譲渡している場合であっても、その譲渡が所得税法157条の同族会社等の行為又は計算の否認に該当するときは、税務署長の認めるところにより、時価相当額で譲渡所得等を計算できるとされています。出典:国税庁|法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

つまり、「2分の1以上なら常に安全」という理解は誤りです。

不動産所有方式では、少なくとも次のコストを検討します。

  • 個人側の譲渡所得税・住民税
  • 建物譲渡に伴う消費税の有無
  • 法人側の不動産取得税
  • 登録免許税
  • 司法書士報酬
  • 金融機関の担保変更・債務引受・借換え
  • 譲渡代金の資金手当て
  • 将来の売却時の法人税・配当課税
  • 法人株式の相続税評価
  • 法人清算時の課税関係

共有不動産を資産管理会社に移す方法は、共有持分を株式に置き換えることで、共有物分割請求リスクを抑え、共同管理状態を固定化しやすくする効果があります。

一方で、現物出資や売却には通常の売買と同じように登録免許税や譲渡所得税が課され、さらに配当には法人・個人の双方で課税が生じる、いわゆるダブルタックスにも注意が必要です。

税率比較だけで法人化を決めない

法人化の検討では、個人の所得税率と法人税率を比較する表がよく使われます。

所得税の税率は、分離課税等を除き、課税所得に応じて5%から45%までの7段階に区分されています。出典:国税庁|No.2260 所得税の税率

法人税については、法人の区分に応じて税率が定められ、資本金1億円以下の普通法人などでは、年800万円以下の部分について一定の軽減税率が設けられています。出典:国税庁|No.5759 法人税の税率

ただし、これだけで法人化を判断してはいけません。

法人化後は、法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、消費税、源泉所得税、社会保険料、税理士報酬、登記費用、会計ソフト費用、銀行口座管理、法人維持コストが発生します。

たとえば、法人市民税には、法人税額に応じて算出される法人税割だけでなく、従業者数などによって算出される均等割があり、事務所等を有する法人は法人税割と均等割を納める構造になっています。出典:さいたま市|法人市民税の概要

つまり、個人の所得税が高いから法人化すれば有利、とは単純には言えません。

税額だけではなく、法人維持費、社会保険、資金繰り、借入返済、相続時の株式評価まで含めて比較する必要があります。

役員報酬は「払えば経費」ではない

不動産管理会社を作ると、本人、配偶者、子どもに役員報酬を支払う設計を考えることがあります。

役員報酬は、所得分散や家族の関与を明確にする手段になり得ます。しかし、役員報酬も「払えば経費」ではありません。

法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金算入できません。また、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分は損金算入できません。出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与

役員報酬で確認すべきなのは、次の点です。

  • 役員が実際に職務を行っているか
  • 職務内容が具体的に説明できるか
  • 報酬額が職務内容、法人収益、同業類似水準から見て過大でないか
  • 株主総会議事録、取締役決定書、報酬改定資料があるか
  • 毎月同額で支払われているか
  • 法人の通帳から本人の口座へ実際に支払われているか
  • 源泉徴収、年末調整、法定調書、社会保険の処理がされているか
  • 家族役員が名義だけになっていないか

役員報酬については、業務内容や役割、法人の収益等との関係が重要です。毎月決まった報酬を支給する必要があることや、業務内容・役割と比較して過大でないかが問題になります。

家族に報酬を出す場合も、「家族だから払える」のではありません。「その法人のために職務を行っているから、その対価として払える」と考えます。

管理料・役員報酬・配当の違いを整理する

法人化で個人や家族に資金を移す方法には、管理料、役員報酬、給与、業務委託料、配当などがあります。

それぞれ税務上の意味が異なります。

支払項目支払先税務上の性質注意点
管理委託料個人オーナーから法人個人の不動産所得の必要経費、法人の売上管理業務の実態と金額の相当性
サブリース賃料法人から個人オーナー個人の不動産所得、法人の原価法人が空室・滞納リスクを負うか
役員報酬法人から役員法人の損金、個人の給与所得定期同額給与、過大役員給与、源泉徴収、社会保険
業務委託料法人から個人・外注先法人の経費、受取側の事業所得・雑所得等雇用か外注か、源泉徴収、消費税
配当法人から株主法人税後利益の分配、個人の配当所得法人・個人で二重課税が生じやすい

とくに不動産所有法人では、法人の利益を株主へ配当する場合、法人段階で課税された後、個人株主側でも配当所得として課税される構造になります。

共有不動産を法人に移して株式化する場合にも、配当による資金還流にはダブルタックスの問題が生じ得る点に注意が必要です。

法人化後の資金移動は、税額だけでなく、資金の性質を明確にすることが重要です。

個人と法人の資金を混ぜない

不動産管理会社を作った後に問題になりやすいのが、個人と法人の資金混同です。

典型的には、次のような状態です。

  • 法人の通帳から個人の生活費を支払っている
  • 個人所有物件の修繕費を法人が負担している
  • 法人所有物件の固定資産税を個人が支払っている
  • 管理料を毎月支払わず、決算時にまとめて計上している
  • 役員貸付金、役員借入金、仮払金、未払金が増え続けている
  • 契約書はあるが、実際の入出金と一致していない
  • 法人の資金を相続人間で「家のお金」として扱っている

金融機関への説明でも、法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること、経営者への地代・家賃・役員報酬・配当等が合理性のある金額であることは、重要な確認事項になります。

不動産管理会社を作るなら、少なくとも次の状態を整える必要があります。

  • 法人名義の銀行口座を使う
  • 個人名義口座と法人名義口座を分ける
  • 契約書どおりに毎月入出金する
  • 管理料、賃料、役員報酬、立替金を帳簿上も区分する
  • 役員貸付金や仮払金を放置しない
  • 物件ごとの収支を作る
  • 法人の支出と個人の生活費を混在させない
  • 株主総会議事録、取締役決定書、稟議書を保存する

法人化とは、税率を変えることではなく、取引主体と資金管理を分けることです。

消費税・インボイスの判断も変わる

法人化では、消費税の判断も重要です。

消費税の納税義務の有無は事業者単位で判定されるため、法人成り前の個人と法人成り後の法人は別々に判断されます。

法人成りした場合、個人事業者の前々年の課税売上高が1,000万円を超えていても、一定の新設法人に該当する場合等を除き、法人側には前々事業年度の課税売上高がないため納税義務は生じません。ただし、法人成りした年の個人事業者であった期間については、個人側の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば納税義務は免除されません。出典:国税庁|個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定

ただし、新設法人だから必ず免税になるわけではありません。

新たに設立された法人で基準期間がない場合は原則として納税義務が免除されますが、資本金または出資金が1,000万円以上である場合、特定新規設立法人に該当する場合、インボイス登録をしている場合などは、免税にならないことがあります。出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき

不動産管理会社では、次のような消費税論点が生じます。

  • 事務所、店舗、駐車場など課税売上があるか
  • 住宅賃貸など非課税売上が多いか
  • 管理委託料は課税売上か
  • サブリース収入は課税・非課税のどちらか
  • 管理会社がインボイスを発行する必要があるか
  • 管理会社が媒介者交付特例を使う場面があるか
  • 不動産取得や建物譲渡に消費税が関係するか
  • 簡易課税、2割特例、3割特例の適用余地があるか
  • 消費税の届出期限を逃していないか

不動産管理会社が集金代行や請求書発行事務を行う場合には、一定の要件を満たせば、賃貸人に代わって不動産管理会社が自社の名称・登録番号を記載したインボイスを発行できる場面があります。

また、課税事業者が事業用資産を譲渡した場合、その譲渡は事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡として消費税等が課税されます。ただし、土地や借地権の譲渡は非課税です。出典:国税庁|No.6931 消費税等と譲渡所得

法人化は、所得税だけでなく、消費税の事業者判定、インボイス対応、資産移転時の課税にも影響します。

社会保険の負担を見落とさない

法人化を検討するとき、意外に見落とされるのが社会保険です。

株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含め、厚生年金保険の適用事業所になります。出典:日本年金機構|適用事業所と被保険者

また、常時従業員を使用する法人事業所は、厚生年金保険および健康保険の加入が法律で義務付けられており、新規適用届は事実発生から5日以内に提出することとされています。出典:日本年金機構|新規適用の手続き

法人化で役員報酬を設定すると、所得税だけでなく社会保険料の負担が発生します。

これは節税効果を大きく左右します。

所得税・住民税だけを比較して法人化を決めると、社会保険料を含めた手取りが想定より少なくなることがあります。

相続・承継対策として見る場合の注意点

不動産管理会社や資産管理会社は、相続・承継対策として検討されることがあります。

たしかに、不動産を法人所有にすることで、不動産そのものではなく法人株式を承継対象にできる場合があります。共有不動産を法人に移せば、共有持分が株式に置き換わり、共有物分割請求のリスクを抑えられることもあります。

しかし、相続対策として法人化する場合は、次の点を慎重に確認します。

  • 法人株式の相続税評価
  • 株主構成と議決権
  • 配偶者、子、孫への株式移転
  • 代表者死亡時の経営権
  • 借入金の保証人
  • 法人所有不動産の売却方針
  • 配当政策
  • 役員退職金の支給可能性
  • 相続人間の公平性
  • 遺言、民事信託、任意後見との関係

法人化は、不動産を分けやすくすることもありますが、逆に株式をめぐる争いを生むこともあります。

たとえば、親が100%株主の法人に不動産を移した場合、相続時には不動産そのものではなく株式が相続財産になります。

株式の分け方、議決権の集中、代表者の選任、役員報酬、配当方針が整理されていなければ、相続人間の紛争が形を変えて残ります。

法人化は、相続対策そのものではなく、相続対策の道具の一つです。

法人化した方がよい可能性があるケース

法人化を検討する価値があるのは、たとえば次のようなケースです。

  • 不動産所得が継続的に大きい
  • 複数物件があり、管理業務が実際に発生している
  • 家族が実際に管理業務に従事している
  • 外部管理会社とのやり取りや修繕判断が多い
  • 個人の所得税率が高く、所得分散を検討する余地がある
  • 相続人が複数いて、将来の共有化を避けたい
  • 不動産の売却ではなく長期保有を前提としている
  • 法人として借入、修繕、資金管理を行う必要がある
  • 管理帳簿、契約書、通帳、請求書を継続的に整えられる
  • 税務だけでなく、承継・資金繰り・経営管理を一体で見たい

この場合でも、すぐ法人を設立するのではありません。まずは個人の不動産収支を物件別に整理し、管理業務の内容、家族の関与、将来の承継方針を明確にします。

法人化を慎重に考えるべきケース

一方で、次のような場合は、法人化を急がない方がよいことがあります。

  • 物件数が少なく、管理業務の実態が乏しい
  • 家族役員が名義だけで、業務に関与していない
  • 個人と法人の資金を分ける体制がない
  • 法人維持費や社会保険料を考慮していない
  • 将来、近いうちに物件を売却する予定がある
  • 含み益の大きい不動産を法人へ移そうとしている
  • 借入金や担保権の整理ができていない
  • 相続人間の方針が一致していない
  • 「節税できるらしい」という理由だけで進めようとしている
  • 管理料や役員報酬の根拠を説明できない

とくに、含み益の大きい不動産を法人へ移す場合は、譲渡所得税等の初期負担が大きくなることがあります。

移転後に法人が物件を売却すれば法人税がかかり、その後に個人へ配当すれば配当課税も問題になります。

「いずれ売る物件」なのか、「長期保有して次世代に引き継ぐ物件」なのか。それによって、法人化の意味は大きく変わります。

相談前に整理すべき資料

不動産管理会社や法人化を相談する前に、次の資料を整理しておくと、判断の質が大きく上がります。

物件・権利関係

  • 物件一覧
  • 登記事項証明書
  • 固定資産税課税明細書
  • 共有者一覧
  • 相続関係図
  • 賃貸借契約書
  • 管理委託契約書
  • サブリース契約書
  • 借入契約書
  • 抵当権設定契約書
  • 修繕履歴
  • 過去の売買契約書
  • 取得費資料

収入・経費・資金関係

  • 過去3年分程度の不動産所得の決算書
  • 家賃明細
  • 管理会社の収支報告書
  • 通帳
  • 借入返済予定表
  • 固定資産税、保険料、修繕費の明細
  • 物件別収支表
  • 空室率、滞納状況
  • 大規模修繕計画
  • 納税額と納税資金の推移

法人化検討資料

  • 法人化の目的
  • 誰を株主にするか
  • 誰を役員にするか
  • 役員ごとの業務内容
  • 管理委託業務の範囲
  • 外部管理会社に委託した場合の見積り
  • 法人へ移す予定の資産
  • 法人へ移さない資産
  • 資産の時価資料
  • 消費税の課税売上高
  • インボイス登録の有無
  • 社会保険加入の想定
  • 相続・承継の希望

相談前にこれらを整理しておくことで、「法人化すべきかどうか」ではなく、「どの形で法人を使うなら説明可能か」を検討できます。

不動産管理会社・法人化の判断は、単年の節税ではなく長期設計で見る

不動産管理会社や法人化は、うまく設計すれば、不動産収入の管理、家族の役割分担、承継、資金繰り、金融機関対応を整える有効な手段になり得ます。

しかし、実態のない管理会社、根拠のない管理料、名義だけの家族役員、過大な役員報酬、時価を無視した不動産移転は、後から説明が難しくなります。

不動産管理会社を検討する前に、少なくとも次の問いに答えられる状態にしておきましょう。

  • 法人は何の業務をするのか
  • その業務にいくらの対価が妥当なのか
  • 役員は何をしているのか
  • 個人と法人の資金は分かれているのか
  • 不動産を法人へ移す必要が本当にあるのか
  • 移転時の税金を払えるのか
  • 消費税や社会保険を含めても有利なのか
  • 相続人に説明できる設計なのか
  • 金融機関に説明できる資金の流れなのか
  • 税務調査で契約と実態を説明できるのか

法人化の成否は、設立登記ではなく、その後の運用で決まります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

不動産管理会社や法人化は、節税だけで判断すると失敗しやすいテーマです。

管理委託方式にするのか、サブリース方式にするのか、不動産所有法人にするのか。

管理料や役員報酬は説明できる金額か。

不動産を法人へ移す場合、譲渡所得、時価、消費税、登録免許税、借入、相続にどのような影響があるのか。

これらは、個別の物件、契約、家族関係、借入、将来方針を見なければ判断できません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産所得の申告だけでなく、管理会社・法人化・資産移転・消費税・相続承継まで含めて、後から説明できる不動産オーナーの税務整理を支援しています。

「不動産管理会社を作るべきか迷っている」「管理料や役員報酬の金額に不安がある」「法人へ不動産を移す前に税務リスクを確認したい」という方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

出典・参考情報

重要ポイントの振り返り

論点判断のポイント確認すべき資料注意点
法人化の目的節税だけでなく、管理、承継、資金管理、共有対策を整理する物件一覧、家族関係図、収支表目的が曖昧な法人化は運用が崩れやすい
管理委託方式法人が実際に管理業務を行うか管理委託契約書、業務記録、請求書管理料の相当性が重要
サブリース方式法人が空室・滞納・運営リスクを負うかマスターリース契約、転貸契約、入金明細形式だけの一括借上げは説明が難しい
不動産所有方式法人へ資産を移す必要があるか売買契約書、現物出資資料、時価資料譲渡所得、登録免許税、不動産取得税が重い
管理料業務内容と金額が対応しているか外部管理料の見積り、業務一覧家賃の一定率だけでは根拠として弱い場合がある
役員報酬職務内容と金額が相当か議事録、職務分掌、支払記録定期同額給与・過大役員給与に注意
家族への支払名義だけでなく実際に業務をしているか勤務実態、メール、日報、業務記録所得分散ありきの支払は否認リスクがある
個人・法人の資金分離口座、帳簿、契約が分かれているか通帳、総勘定元帳、契約書生活費や個人支出の混在に注意
消費税個人と法人を事業者単位で判定する課税売上高、届出書、インボイス登録新設法人でも免税にならない場合がある
インボイス誰が賃借人に請求書を発行するか契約書、登録番号、精算書管理会社の媒介者交付特例も検討対象
社会保険法人事業所として加入義務が生じるか役員報酬、従業員状況税額比較だけでなく社会保険料を含める
法人住民税利益がなくても均等割が発生し得る所在地、資本金、従業者数自治体ごとに税額が異なる
相続・承継不動産を株式化する意味があるか株主構成、遺言、相続関係図株式承継の設計を怠ると別の争いが生じる
共有不動産共有持分を株式化するか、信託等を使うか共有者一覧、同意書、契約書税務コストと共有者間合意を同時に確認
金融機関対応借入・担保・保証をどう扱うか借入契約書、抵当権資料、返済予定表法人移転には金融機関の承諾が必要なことがある
相談前整理物件別収支と将来方針を先に作る決算書、家賃明細、修繕履歴法人設立前の整理が最も重要
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