不動産活用による相続対策の考え方|賃貸住宅建築・借入金・評価減を税額だけで判断しないために

「更地に賃貸アパートを建てれば相続税が下がる」

相続対策を考えはじめると、こうした提案を受ける場面が少なくありません。確かに、不動産を活用することで相続税評価額が下がることはあります。現預金を不動産に組み替える、貸家や貸家建付地として評価する、借入金を債務控除する、小規模宅地等の特例を検討する。こうした仕組みは、いずれも相続税の計算に影響を与えます。

ただ、不動産活用は「評価額が下がるから有利」と、それほど単純に判断できるものではありません。

賃貸経営は、建物を建てた後も長く続いていく事業です。そこには、空室、修繕、金利上昇、賃料下落、災害、管理の負担、借入金の返済、相続人どうしの不公平感、共有化、そして将来の売却の難しさといった現実が伴います。相続税は確かに下がったけれど、相続人の手元には重い借入金と収益性の低い不動産だけが残ってしまう。そうした結果になることもあるのです。

相続対策では、相続税対策だけを先に走らせるのではなく、争族の防止、納税資金の確保、税額の軽減を、一体のものとして考えていく必要があります。とりわけ、借入金による賃貸不動産の建築は、税額軽減の効果が目に見えやすい一方で、借入金の返済や経営の負担がそのまま相続人へ引き継がれます。だからこそ、慎重な検討が欠かせません。

この記事では、不動産活用による相続対策を考えるとき、どのような順序で確認し、何を比較し、どこまでのリスクを受け入れるべきなのかを整理していきます。

目次

不動産活用は「節税策」ではなく「長期の経営判断」

不動産活用による相続対策で、最初に確かめておきたいのは「相続税がいくら下がるか」ではありません。

まず向き合うべきは、次のような問いです。

  • その土地は、本当に活用に向いているか
  • 賃貸需要は今後も見込めるか
  • 借入金を返済できるだけの収益性があるか
  • 相続人は、その事業を引き継げるか
  • 共有になったとき、意思決定が止まってしまわないか
  • 相続税の納税資金は、別に確保できているか
  • 申告のあと、評価の根拠をきちんと説明できるか
  • 税制や市場環境が変わっても、耐えられる計画か

土地活用は、たとえ相続対策が目的であっても、実行してしまえばそこから先は不動産賃貸業そのものになります。建物を建てれば、入居者の募集、賃貸借契約、修繕、原状回復、管理会社とのやり取り、固定資産税、損害保険、借入金の返済、所得税の申告が、ずっと続いていきます。

「相続税評価額が下がる」という効果は、あくまで税務上の一側面にすぎません。実務の感覚としては、経営として成り立つ土地活用を行った結果として相続対策にもなる、という順序で考えるのが自然です。土地活用は相続対策そのものが一番の目的なのではなく、有利な土地活用を行った結果として相続対策にもつながる。この順序を取り違えて、本末転倒に陥らないよう気をつけたいところです。

なぜ賃貸住宅を建てると相続税評価が下がるのか

不動産活用による相続税対策の典型は、更地にアパートや賃貸マンションを建てる方法です。

このとき、相続税評価のうえでは、おもに次のような効果が生じます。

ひとつ目は、土地が自用地ではなく、貸家建付地として評価される可能性があることです。貸家建付地とは、土地の所有者が建てたアパートやビルなどを他人に貸し付けている場合の、その貸家の敷地をいいます。貸家建付地の価額は、自用地価額から、自用地価額に借地権割合・借家権割合・賃貸割合を乗じた金額を差し引いて評価します。

出典:国税庁|No.4614 貸家建付地の評価

ふたつ目は、建物が貸家として評価される可能性があることです。課税時期に貸家の用に供されている家屋は、固定資産税評価額から、固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を差し引いて評価します。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

みっつ目は、借入金を相続財産から控除できる場合があることです。相続税を計算するときには、被相続人が残した借入金などの債務を、遺産総額から差し引くことができます。

出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務

よっつ目は、貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例を検討できる場合があることです。貸付事業用宅地等に該当すれば、一定の限度面積まで評価減の対象となります。ただし、貸付事業用宅地等には、取得者、事業承継、保有継続、3年以内貸付宅地等の除外といった要件があります。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

このように、賃貸住宅の建築による評価減は、土地・建物・借入金・特例が組み合わさって生まれてきます。借入金で賃貸物件を建てる相続対策では、土地が貸家建付地となること、建物が貸家評価となること、借入金が債務控除されることなどによって、相続税評価額が下がる仕組みが説明されます。

もっとも、評価減の仕組みがあることと、その活用を実際に行うべきかどうかは、まったく別の問題です。

「評価額が下がる」と「財産価値が増える」は違う

不動産活用でよく見られる誤解は、相続税評価額が下がることを、そのまま経済的な成功だと受け取ってしまうことです。

相続税評価額は、あくまで相続税を計算するための評価額です。土地は原則として地目ごとに評価し、路線価方式または倍率方式によって評価します。家屋は、原則として固定資産税評価額に1.0を乗じて評価します。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

一方で、賃貸不動産としての経済的な価値は、賃料収入、空室率、修繕費、管理費、立地、築年数、出口価格、金利、借入期間、地域の人口動向など、さまざまな要素に左右されます。

たとえば、相続税評価額が大きく下がったとしても、賃料収入が想定を下回り、修繕費がかさみ、借入の返済が重ければ、相続人にとっては負担の大きい資産になります。逆に、評価減の効果がそれほど大きくなくても、立地がよく、長期的な収益性と流動性のある不動産であれば、承継する財産として十分な意味を持つこともあります。

不動産活用では、次のふたつを切り分けて考える必要があります。

見るべき価値内容主な判断目的
相続税評価額相続税申告で用いる評価額税額試算、評価根拠、特例判定
経済的価値実際の市場価値・収益価値投資判断、借入返済、将来売却、承継可能性

相続税対策としての不動産活用は、評価額を下げるための作業ではありません。相続人が無理なく引き継げる資産と負債の形へと変えていく、そのための判断なのです。

借入金を使う場合に必ず確認すべきこと

借入金による賃貸住宅の建築では、その借入金が相続税の債務控除となるため、相続税額を下げる効果が生じる場合があります。

けれども、借入金は相続税評価を下げるための道具ではありません。相続が起きたあとも返し続けなければならない、現実の負債です。そして、その返済を担うのは相続人です。

借入金を使うのであれば、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。

  • 返済期間中の賃料収入で、元利の返済ができるか
  • 空室率が上がった場合でも、返済を続けられるか
  • 金利が上昇したときの返済額まで試算しているか
  • 修繕費、大規模修繕、原状回復費を織り込んでいるか
  • 建築後10年・20年・30年の収支を見ているか
  • 相続人が連帯保証人や担保提供者になる可能性はないか
  • 相続人のうち、誰が管理と返済を引き継ぐのか
  • 返済の途中で売却が必要になった場合、残債を完済できるか

借入金で賃貸物件を建てる場合、当初は減価償却費や支払利息によって所得が圧縮されます。しかし時間が経つにつれて減価償却費や支払利息は減っていき、不動産所得と税負担はむしろ増えていくことがあります。その結果として、借入金の返済が次第に厳しくなるケースもあるのです。

相続税額だけに目を向けた提案では、こうした「建築後の時間経過にともなう収支の変化」が、どうしても軽く扱われがちです。

空室リスクは評価にも税務にも影響する

賃貸住宅を建てさえすれば必ず貸家建付地評価が使える、というわけではありません。

貸家建付地評価は、借家権の目的となっている家屋の敷地であることが前提となります。国税庁は、以前は貸家であっても、課税時期に空き家となっている家屋の敷地は自用地価額で評価するとしています。また、賃貸用として新築された家屋であっても、課税時期に現実に貸し付けられていない家屋の敷地については、自用地として評価するとされています。

出典:国税庁|貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価

その一方で、共同住宅の一部に一時的な空室がある場合には、継続的に賃貸されてきたもので、課税時期にたまたま賃貸されていなかったと認められる各独立部分について、賃貸割合の計算上、賃貸されている部分に含めて差し支えないとされています。

出典:国税庁|貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲

この違いは、決して小さくありません。

単なる空室と、一時的な空室とでは、評価上の扱いが変わる可能性があります。相続開始のときに入居者を募集していたか、その募集条件は適正だったか、退去から次の入居までの期間が通常の募集期間に収まっていたか、管理会社との契約が続いていたか。こうした事実を資料できちんと説明できるかどうかが、実務上の焦点になります。

不動産活用を行うのであれば、建築のときだけでなく、将来の相続税申告のときに次の資料を残せるよう、あらかじめ備えておく必要があります。

  • 賃貸借契約書
  • 入居者一覧
  • 家賃の入金履歴
  • 管理会社との契約書
  • 募集広告、募集条件、募集期間の資料
  • 退去日、原状回復、再募集の記録
  • サブリース契約書
  • 空室の理由を説明できる資料

空室リスクは、収益性の問題であると同時に、相続税評価の問題でもあるのです。

小規模宅地等の特例は「貸していれば使える」ではない

賃貸不動産を相続対策に組み込む場面では、貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例を検討することがあります。

貸付事業用宅地等は、相続開始の直前に被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等について、一定の要件を満たす場合に適用の対象となります。ここでいう貸付事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業が含まれます。ただし、相当の対価を得て継続的に行うものに限られ、使用貸借による貸付けは対象になりません。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

さらに、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として貸付事業用宅地等の対象から除かれます。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた場合には、一定の取扱いが設けられています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

ですから、高齢になってから急いで貸付用の不動産を取得・建築すればよい、という判断には危うさがあります。

小規模宅地等の特例では、次の点を確認しておきたいところです。

  • 貸付けが、相当の対価を得て継続的に行われているか
  • 使用貸借や、名目的な貸付けになっていないか
  • 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等に該当しないか
  • 取得者が、相続税の申告期限まで貸付事業を引き継いでいるか
  • 申告期限まで、その貸付事業を継続しているか
  • 賃貸借契約、入金履歴、管理資料を説明できるか
  • 他の宅地等との選択適用について、有利・不利を比較しているか

不動産活用の提案では、小規模宅地等の特例を当然に見込んだ税額試算が示されることがあります。けれども、特例は要件を満たして初めて使えるものです。申告のときには、取得者、利用状況、継続要件、添付書類を、ひとつずつ確かめなければなりません。

建築中・完成直後の相続にも注意する

不動産活用を進めている、まさにその途中で相続が発生することもあります。

建築中の家屋には、まだ固定資産税評価額が付されていないことがあります。この場合、建築中の家屋は、課税時期までに投下された建築費用を課税時期の価額に引き直した費用現価の70%相当額で評価します。

出典:国税庁|No.4629 建築中の家屋の評価

また、建物が完成していても、相続開始のときにまだ賃貸されていなければ、貸家評価や貸家建付地評価が予定どおりには使えない可能性があります。単に建築が完了したというだけでは足りず、課税時期における賃貸の実態が問われるからです。

高齢の親が借入金をして賃貸住宅を建てる場合には、次のようなタイミングのリスクを検討しておく必要があります。

状況税務上の検討事項実務上の注意点
建築契約前土地は更地、自用地評価が基本そもそも活用すべきかを判断する段階
建築中建築中家屋の評価、借入金、未払金相続発生時の評価と債務資料を整理
完成後・未入居貸家・貸家建付地評価が使えるか慎重判断入居募集資料、賃貸実態が重要
入居開始後貸家評価、貸家建付地評価、賃貸割合空室、一時的空室、契約実態を記録
相続後取得者、分割、特例、賃貸継続誰が管理・返済・申告を担うか

相続対策は、生前に実行すれば、それで終わりというものではありません。実行した対策が相続発生の時点でどのような状態にあるか。それによって、申告の実務は大きく変わってきます。

行き過ぎた不動産活用が問題になる場面

不動産活用による相続対策でとりわけ注意したいのは、税額の軽減だけを目的として、経済合理性に乏しい取引を行ってしまう場合です。

たとえば、次のようなケースが挙げられます。

  • 高齢で、判断能力や健康状態に不安がある段階で、多額の借入を行う
  • 賃貸需要の乏しい地域に、大型の賃貸住宅を建てる
  • 相続人が賃貸経営を望んでいないのに建築する
  • 借入返済の見込みよりも、評価減を優先する
  • 相続発生の直前に、短期間で不動産を取得する
  • 親族間・同族会社間で、時価確認の不十分な取引を行う
  • 土地の分割・建築計画が、税務上の評価減だけを狙っている
  • 特例の適用を前提にしているが、要件の確認が不十分である

財産評価基本通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とする定めがあります。

出典:国税庁|財産評価 第1章 総則

また、相続税における財産評価をめぐっては、評価通達による画一的な評価の必要性がある一方で、通達評価によることが著しく不適当と認められる特別の事情が問題となることがあります。国税庁の税務大学校論叢でも、財産評価基本通達および同通達6項の意義、通達評価の画一性と例外的な判断が整理されています。

出典:国税庁 税務大学校論叢|財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について

不動産活用をすれば必ず総則6項が問題になる、というわけではありません。しかし、相続税負担の軽減だけを明らかな目的として、経済合理性や資金計画を欠いた取引を行う場合には、申告のあとに評価の根拠を説明できるかどうかを、慎重に考えておく必要があります。

親族間・同族会社を使った不動産活用の注意点

不動産活用では、同族会社を使うこともあります。

たとえば、不動産管理会社を設立して管理業務を委託する、建物を法人所有にする、同族会社へ土地を貸す、同族会社へ不動産を移転する、といった方法です。同族会社を活用すれば、管理窓口の整理、所得の分散、後継者への管理移転に役立つことがあります。収益不動産の共有化を避けるため、管理委任契約、同族会社、民事信託、代償分割などを組み合わせるという選択肢もあります。

ただし、同族会社を使う場合には、また別の税務論点が生まれてきます。

  • 管理料は適正か
  • 実際に管理業務を行っているか
  • 役員報酬が過大になっていないか
  • 土地の賃貸借が、使用貸借か賃貸借か
  • 無償返還届出が必要か
  • 相当地代の検討が必要か
  • 法人への低額譲渡や贈与がないか
  • 株式評価に、不動産価値がどう反映されるか
  • 特定同族会社事業用宅地等の適用可能性があるか

個人間の負担付贈与や、対価を伴う取引によって土地・家屋等を取得した場合には、通常の取引価額に相当する金額によって評価するという取扱いがあります。また、その対価が通常の取引価額より著しく低いときには、みなし贈与等の問題が生じることがあります。

出典:国税庁|No.4426 負担付贈与に対する課税
出典:国税庁|負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について

同族会社を使う不動産活用には、所得税、法人税、相続税、贈与税、不動産登記、会社法、金融機関対応が、いくつも絡んできます。「法人を作れば節税になる」と単純化せず、実態と資料できちんと説明できる設計にしておくことが大切です。

相続人が引き継ぎたくない不動産を作っていないか

不動産活用の判断で見落とされやすいのが、相続人の意思です。

親の世代にとっては「土地を守るため」「相続税を下げるため」の建築であっても、相続人の側から見れば、遠方の賃貸物件、築年数の経過したアパート、借入金の付いた土地、入居者対応の必要な収益物件になってしまうことがあります。

とりわけ、次のような場合は注意が必要です。

  • 相続人が、不動産経営に関心を持っていない
  • 相続人が、遠方に住んでいる
  • 相続人どうしの関係が、良好とはいえない
  • 相続人のうち、一人だけが管理の負担を負う
  • 賃料収入の分配と修繕費の負担で、不満が生まれる
  • 共有で承継する予定になっている
  • 将来の売却に、相続人全員の合意が必要になる

共有の収益不動産では、賃料収入、経費の負担、管理の方法、売却の方針をめぐって、紛争が起こりやすくなります。使われていない共有不動産であっても、コストの負担や活用方法をめぐる問題が生じます。

相続対策として不動産を建てるのであれば、建築の前に、次の点を家族のなかで整理しておくべきです。

  • 誰が取得するのか
  • 共有にするのか、単独取得にするのか
  • 管理者は誰か
  • 借入金の返済は、誰が負担するのか
  • 賃料収入は、誰に帰属するのか
  • 修繕費は、誰が負担するのか
  • 代償金を支払う資金はあるか
  • 将来売却する場合の方針はあるか
  • 二次相続で、共有者がさらに増えないか

不動産活用によって相続税を下げられたとしても、相続人のあいだの納得感を失ってしまえば、相続対策として成功したとはいえません。

納税資金を減らす活用になっていないか

不動産活用では、現預金を建築資金にあてることがあります。

現預金を不動産に組み替えれば、相続税評価額が下がる可能性があります。しかし、それと同時に、納税資金として使える現預金は減っていきます。相続税は、原則として申告期限までに金銭で一括して納める必要があります。相続財産のうち不動産や同族会社株式の割合が大きいと、納税資金が不足してしまうことがあるのです。

相続税評価額を下げる目的で現預金を不動産に変えた結果、肝心の相続税の支払いに困る。そうした事態も起こり得ます。しかも、不動産は申告期限までに希望する額で売却できるとは限りません。売却を急げば、価格が下がることもあります。

不動産活用を検討するときには、次の順序で資金計画を確認していきます。

  1. 現在の財産構成を確認する
  2. 相続税の概算額を試算する
  3. 納税資金として残すべき現預金を算定する
  4. 建築後の借入金返済予定を確認する
  5. 空室・修繕・金利上昇を織り込んだ資金繰りを確認する
  6. 相続開始後10か月以内の納税に、支障がないか確認する
  7. 二次相続のときの納税資金も確認する

相続税対策で大切なのは、税額を下げることだけではありません。きちんと納税できること、相続人が困らないこと、そして資産を維持できること。そこまで含めて考える必要があります。

認知症・判断能力低下との関係も無視できない

高齢期に不動産活用を行う場合には、本人の意思能力・判断能力もまた重要になります。

賃貸住宅の建築、借入契約、土地の売買、建築請負契約、管理委託契約、信託契約、法人設立。これらはいずれも、本人の意思に基づく法律行為です。認知症が疑われる段階で、家族や事業者の主導によって大きな不動産取引を進めてしまうと、後日、契約の有効性、親族間の不信感、税務上の実質判断が問題になることがあります。

収益不動産のオーナーが認知症になると、入出金の管理、新規の建築、不動産の売買、修繕契約、大規模修繕、請負契約、賃貸借契約、賃料その他の条件決定などが難しくなる、と整理されています。民事信託や任意後見は、そうした財産管理のリスクへの備えとして検討されることがあります。

不動産活用を生前対策として行うのであれば、税額の試算だけでなく、本人の意思、判断能力、そして将来の財産管理の体制まで確認しておきたいところです。

  • 本人が、活用の目的を理解しているか
  • 借入金や空室のリスクを理解しているか
  • 建築後の管理方針を、本人が望んでいるか
  • 家族が、本人の意思を代弁しているだけになっていないか
  • 遺言、任意後見、家族信託との整合性があるか
  • 金融機関や建築会社との説明記録が残っているか

相続対策とは、本人の財産を、本人の意思に基づいて整理していくものです。本人の意思確認があいまいなまま大きな不動産活用を進めることは、税務以前に、法務や親族関係の面でリスクを抱え込むことになります。

不動産活用を検討する実務手順

不動産活用による相続対策は、次の順序で検討していくと、税額に偏った判断を避けやすくなります。

1. 目的を整理する

まず、何のために不動産活用を行うのかを、はっきりさせます。

相続税を下げたいのか、納税資金を作りたいのか、土地を維持したいのか、将来の収益を確保したいのか、相続人に管理を引き継がせたいのか。目的があいまいなまま建築計画だけが進んでしまうと、判断の軸がぶれていきます。

2. 財産全体と相続税を試算する

不動産だけでなく、現預金、有価証券、生命保険、同族会社株式、債務、生前贈与、名義財産まで含めて、財産の全体を確認します。

不動産活用による評価減の効果は、財産全体のなかで見なければ意味を持ちません。

3. 土地の活用可能性を確認する

接道、用途地域、建ぺい率、容積率、高さ制限、開発許可、道路後退、私道、上下水道、境界、地積、越境、土壌汚染、埋設物、農地法などを確認します。建築の視点からは、登記簿面積と実測面積の違い、道路後退、私道の所有形態、インフラ整備の必要性も重要になります。

4. 収益性を確認する

賃料相場、空室率、管理費、修繕費、広告費、原状回復費、固定資産税、保険料、借入金の返済を織り込んで、保守的な収支を確認します。

この段階では、楽観的な満室想定だけでなく、空室・賃料下落・金利上昇・修繕の増加といったシナリオを作っておくことが大切です。

5. 税務上の評価と特例を確認する

貸家評価、貸家建付地評価、賃貸割合、空室、小規模宅地等の特例、借入金の債務控除、消費税、不動産所得、減価償却、相続後の譲渡所得を確認します。

とりわけ、小規模宅地等の特例や貸家建付地評価は、将来の申告時点における事実関係に左右されます。

6. 相続人の取得・管理方針を決める

誰が不動産を取得するのか、共有にするのか、法人や信託を使うのか、代償金を支払えるのかを整理します。

不動産活用は、遺産分割と切り離して考えることはできません。収益物件を共有にすると、将来の管理・売却・修繕で、意思決定が難しくなることがあります。

7. 納税資金と二次相続を確認する

建築後の現預金残高、生命保険金、売却可能な資産、延納・物納の候補、二次相続のときの税額と資金を確認します。

一次相続で税額が下がっても、配偶者や後継者に不動産と借入金が偏ってしまうと、二次相続のときに資金が不足することがあります。

8. 説明資料を残す

不動産活用の目的、税額の試算、収支計画、家族の合意、建築計画、査定資料、賃貸需要、借入条件、評価の根拠、リスクの説明を、記録として残します。

申告のあとに問われるのは、「なぜその活用をしたのか」「評価の根拠は何か」「実態はあるのか」です。後から説明できる資料を残しておくこと。それが、税務調査のリスクを下げる実務につながります。

実行前に確認したいチェックリスト

不動産活用を相続対策として検討しているなら、少なくとも次の点は確認しておいてください。

確認項目具体的な確認内容
目的節税、納税資金、土地維持、収益確保、承継のどれを優先するか
財産構成不動産、現預金、保険、株式、債務、贈与履歴を把握しているか
相続税試算活用前後の相続税額を比較しているか
納税資金建築後も相続税を納める現金が残るか
土地条件接道、用途地域、建ぺい率、容積率、私道、境界を確認したか
建築計画過大な建築規模になっていないか
賃貸需要周辺相場、空室率、競合物件を確認したか
収支空室・修繕・金利上昇を織り込んだか
借入金返済可能性、金利、担保、保証人を確認したか
評価減貸家・貸家建付地評価の要件を理解しているか
空室一時的空室か、実質的な未賃貸かを説明できるか
小規模宅地等貸付事業用宅地等の要件、3年以内貸付宅地等を確認したか
相続人誰が取得・管理・返済するか決まっているか
共有共有化による将来の意思決定リスクを検討したか
二次相続次の相続時の税額・納税資金も見ているか
認知症対策本人意思、判断能力、財産管理体制を確認したか
税務調査評価根拠、賃貸実態、取引目的を説明できる資料があるか

まとめ|不動産活用は「相続税が下がるか」ではなく「承継に耐えられるか」で判断する

不動産活用による相続対策は、適切に設計すれば、相続税評価の圧縮、収益の確保、土地の承継、管理体制の整理に役立つことがあります。

しかし、税額の軽減だけを目的にしてしまうと、次のような問題が生じます。

  • 借入金の返済が、相続人の負担になる
  • 空室や修繕費で、収支が悪化する
  • 納税資金が不足する
  • 貸家建付地評価や小規模宅地等の特例が、想定どおりには使えない
  • 相続人のあいだで、管理負担や収益分配をめぐって揉める
  • 共有化によって、将来の売却や建替えが難しくなる
  • 税務調査で、評価の根拠や取引の目的を説明できない

不動産活用を検討するときは、「できるか」だけでなく、「行うべきか」「家族に説明できるか」「相続人が引き継げるか」「申告のあとにも説明できるか」を確かめておく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産活用を相続税額だけで判断することなく、土地評価、貸家建付地評価、小規模宅地等の特例、借入金、納税資金、遺産分割、二次相続、税務調査リスクを、一体のものとして整理しています。

賃貸住宅の建築や土地活用の提案を受けている方は、契約前の段階で、固定資産税資料、登記事項証明書、公図、建築計画、収支シミュレーション、借入条件、相続人関係、現在の財産一覧を整理したうえでご相談いただくと、税務と経営の両面から判断しやすくなります。判断に迷う段階で、ぜひお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点重要な判断軸注意点
不動産活用の目的税額軽減、収益確保、土地承継、納税資金のどれを優先するか目的が曖昧だと建築計画だけが先行する
評価減の仕組み貸家、貸家建付地、借入金、小規模宅地等仕組みがあることと実行すべきことは別
借入金債務控除と返済負担を分けて考える相続人が長期返済を引き継ぐ
収益性空室、賃料下落、修繕費、金利上昇を織り込む満室前提の試算だけで判断しない
空室一時的空室か、未賃貸状態かを確認する貸家建付地評価に影響する可能性
小規模宅地等貸付事業用宅地等、継続要件、3年以内貸付宅地等を確認「貸している」だけでは足りない
建築中の相続建築中家屋の評価、債務、未払金を整理相続発生時点の状態で評価が変わる
総則6項・評価リスク経済合理性、取引目的、資金計画を説明できるか税額軽減だけを目的にした取引は慎重に検討
同族会社活用管理料、役員報酬、土地賃貸、株式評価を確認所得税・法人税・相続税が横断的に問題になる
相続人負担誰が取得・管理・返済するか相続人が望まない不動産を残さない
共有リスク管理、修繕、売却、賃料分配の意思決定共有化は将来のデッドロックにつながる
納税資金建築後も現金納付できるか評価減と引き換えに現預金を減らしすぎない
二次相続次の相続時の税額・納税資金・分割を確認一次相続だけで判断しない
認知症対策本人意思、判断能力、財産管理体制高齢期の大規模取引は記録化が重要
相談前資料固定資産税資料、登記、建築計画、収支、借入条件資料があるほど判断の精度が高まる
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