親族間・同族会社間の不動産売買で注意すべき税務|低額譲渡・高額取得・みなし贈与・受贈益の判断軸

親族間や同族会社間で不動産を売買すること自体は、禁じられているわけではありません。

親から子へ不動産を移す。個人所有の賃貸建物を同族会社へ売却する。オーナー個人が持つ土地を、自分の会社へ譲渡する。法人所有の不動産を役員や親族へ売る。グループ会社の間で不動産を移す。

こうした取引の背景には、相続対策、資産管理、事業承継、資金繰り、金融機関対応、賃貸経営の整理といった、実務上の目的があることも少なくありません。

問題になりやすいのは、「身内だから価格は自由に決めてよい」と考えてしまうところです。

第三者同士の売買であれば、価格は交渉のなかで決まります。買主はできるだけ安く買いたい。売主はできるだけ高く売りたい。その綱引きのなかで成立した価格には、一定の客観性が備わります。

ところが親族間や同族会社間では、価格交渉が形式的になりがちです。売主と買主の利害が実質的に一致していたり、税負担を減らす目的で価格が決められたりすることがあります。だからこそ税務上は、「その売買価格は時価と比べて合理的か」「価格差によって誰に経済的利益が移ったのか」が問われます。

本記事では、親族間・同族会社間の不動産売買について、個人間、個人から法人、法人から個人、法人間の取引に分けたうえで、低額譲渡・高額取得・みなし譲渡・受贈益・みなし贈与の判断軸を整理していきます。

なお、本記事では、不動産管理会社の設立・運営全体や、相続税評価通達・鑑定評価・総則6項の詳細までは扱いません。これらは別記事で整理することとし、ここでは「不動産を売買する価格そのもの」に焦点を当てます。

目次

親族間・同族会社間の不動産売買では、まず「誰から誰へ売るのか」を分ける

不動産売買の税務を考えるとき、最初に確認したいのは、売主と買主の組み合わせです。

同じ不動産を、同じ金額で売買したとしても、売主・買主が誰であるかによって課税関係は変わってきます。

大きく分けると、次の4つです。

売主買主主に問題になる税務
個人個人贈与税、譲渡所得税
個人法人所得税のみなし譲渡、法人税の受贈益、株主へのみなし贈与
法人個人法人税、役員給与・給与課税・一時所得等、消費税
法人法人法人税、寄附金、受贈益、グループ法人税制

この切り分けをしないまま、「時価の何割なら大丈夫か」「路線価なら問題ないか」と考えると、判断を誤ります。

とりわけ注意したいのが、所得税でいう「時価の2分の1」という基準と、贈与税でいう「著しく低い価額」の判断を混同してしまうことです。

土地や建物を法人に売却する場合、売却価額が時価の2分の1を下回ると、所得税では時価を収入金額として譲渡所得を計算する取扱いがあります。売却先が法人で、売却価額が時価の2分の1を下回るときには、実際の売却価額ではなく時価を収入金額として譲渡所得を計算する、という整理です。
出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

一方で、個人から個人へ著しく低い価額で財産を譲り受けた場合の贈与税では、その判断は個々の具体的な事案に基づいて行われます。法人に対する低額譲渡でいう「時価の2分の1に満たない金額」という基準とは、性質が異なるのです。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

つまり、「時価の2分の1以上なら贈与税も問題ない」と単純に考えるわけにはいきません。

低額譲渡とは何か

低額譲渡とは、一般に、時価より低い価額で財産を譲渡することをいいます。

ただし、税務上の問題は「安く売った」という一言では片づきません。誰が安く売ったのか、誰が安く買ったのか、その価格差によって誰が利益を得たのか。これらを分けて考える必要があります。

不動産の時価がある程度客観的に把握できる場合に、売買価額がそれを下回っていると、次のような課税関係が問題になります。

売主側では、本来得られるはずの譲渡益を少なく申告していないかが問われます。

買主側では、時価より安く取得したことによる経済的利益を受けていないかが問われます。

さらに、買主が法人である場合には、その法人の株主の株式価値が上昇し、株主に経済的利益が移っていないかも問われます。

ここが、親族間・同族会社間取引の難しいところです。

売主と買主だけを見て終わり、とはいきません。法人が関係する場合には、法人そのもの、役員、株主、親族、後継者まで視野に入れて、利益移転の有無を確かめる必要があります。

個人間の不動産売買では、買主側の贈与税が問題になりやすい

親から子へ、あるいは兄弟間や親族間で不動産を売買する場合、まず表面化しやすいのは買主側の贈与税です。

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたときは、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額が、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

ここで押さえておきたいのは、贈与税では「時価の2分の1未満ならアウト、2分の1以上ならセーフ」といった機械的な線引きにはならない、という点です。

不動産の種類、権利関係、売買の時点、利用状況、資金決済、親族関係、売買の必要性、価格決定の資料などを、総合して判断することになります。

たとえば、親族間で相続税評価額を基準に売買したとしても、その評価額が通常の取引価額と大きくかけ離れていれば、低額譲受けとして贈与税が問題になる余地があります。逆に、相続税評価額を使ったからといって直ちに贈与税が課されるわけでもありません。大切なのは、なぜその金額を採用したのかを、後から説明できることです。

また、売主である個人には譲渡所得税の問題があります。個人間売買では通常、実際の売買価額を収入金額として譲渡所得を計算します。ただし、あまりに低い価格で移転すると、その前に買主側の贈与税の問題が顔を出します。

個人間取引で特に確認しておきたい点は、次のとおりです。

確認項目確認すべき内容
売買価額時価、相続税評価額、固定資産税評価額、近隣取引、鑑定評価との関係
代金決済実際に買主が支払っているか、資金の出どころはどこか
契約実態売買契約書、登記、引渡し、固定資産税負担の変更があるか
利用状況売買後に誰が使用・賃貸・管理しているか
将来影響相続時に他の相続人へ説明できるか

親族間売買では、契約書を作れば足りるというものではありません。実際に代金が支払われ、所有権が移り、その後の管理・収益・税負担も買主に移っていること。ここが肝心です。

親族名義の財産であっても、実質的に被相続人の財産と認定されるものは相続財産に加算され得る、という整理は、相続税調査でも重要な論点です。贈与の意思、受諾、名義変更、管理状況、その後の収益の帰属などが確認されるため、不動産売買でも「名義だけ移した」形になっていないかを、あらためて見ておく必要があります。

個人から法人へ不動産を売る場合は、所得税・法人税・株主課税を同時に見る

個人が同族会社へ不動産を売却する場面は、実務でよく見かけます。

個人所有の賃貸建物を不動産管理会社へ移すとき、個人所有の土地を事業会社へ譲渡するとき、オーナー個人の資産を法人へ集約するときなどです。

こうした場面では、税務上、少なくとも3つの視点が欠かせません。

1つ目は、売主である個人の譲渡所得税です。

土地や建物を法人へ時価より著しく低い価額で売却した場合、所得税法上、時価で譲渡したものとして譲渡所得を計算することがあります。売却先が法人で、売却価額が時価の2分の1を下回るときには、時価を収入金額として譲渡所得を計算する、という取扱いです。
出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

2つ目は、買主である法人の法人税です。

法人が時価より低い価額で資産を取得すると、時価と取得価額との差額について、受贈益として益金の額に算入する問題が生じます。時価100百万円の減価償却資産を80百万円で譲り受けた場合、その差額20百万円を取得価額に加算し、同額を受贈益として益金の額に加算する、という例が示されています。
出典:国税庁|譲渡損益調整資産(減価償却資産)を簿価で譲り受けた場合の譲受法人の申告調整

3つ目は、法人の株主への利益移転です。

個人が同族会社へ不動産を低額で譲渡すると、法人は時価より安く資産を取得することになります。その結果、法人の純資産価値が増え、株主の株式価値が上昇することがあります。株主が売主以外の親族であれば、売主から株主へ経済的利益が移ったと見られ、相続税法9条のみなし贈与が問題になる可能性があります。

著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合、個人であれば相続税法7条により贈与税が課され、法人であれば受贈益として法人税が課税されます。さらに、法人の株主が株式価値の増加という利益を得るときには、法人を利用した相続税の租税回避を防ぐために、相続税法9条の規定が問題になる。こうした整理がなされています。
出典:国税庁|相続税法第9条の「みなし贈与」について

このように、個人から法人への不動産売買では、「個人に譲渡所得が出るか」だけを見ていては不十分です。

法人側の受贈益、株主側のみなし贈与、将来の株価、相続税、事業承継まで、連動して動きます。

とりわけ、不動産管理会社や資産管理会社を使う場合には、建物の売買価額を未償却残高などを参考に決めることがあります。ただし、建物を法人へ売却するときは、所得分散や長期的な相続対策としての効果だけでなく、借地権の認定課税、土地評価、消費税、将来の相続税評価への影響までを確認しておく必要があります。

「時価の2分の1以上なら大丈夫」とは限らない

個人から法人への売買では、「時価の2分の1」という基準が登場します。

ただ、ここには注意が要ります。

所得税基本通達59-3では、山林または譲渡所得の基因となる資産を法人に対し時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、所得税法59条1項2号の適用はないとされています。もっとも、時価の2分の1以上の対価による法人への譲渡であっても、その譲渡が同族会社等の行為計算否認に該当するときには、税務署長の認めるところにより、時価相当額で所得を計算できるとされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

つまり、2分の1以上であれば、所得税法59条の低額譲渡規定の直接適用は避けられるとしても、同族会社等の行為計算否認の問題は残り得ます。

くわえて、法人側の受贈益や、株主側のみなし贈与の問題が消えるとも限りません。

さらに、1つの契約で土地と建物など複数の資産を譲渡する場合には、所得税基本通達59-4により、低額譲渡の判定を、個々の資産ごとではなく、契約により譲渡したすべての資産の対価の額の合計額を基として行うこととされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

ただし、これはあくまで所得税法59条の低額譲渡判定の話です。消費税、法人税、贈与税、相続税の判断まで同じように処理できる、という意味ではありません。

実務では、「2分の1を超えているか」だけでなく、そもそもの時価をどう算定したのか、価格決定に合理性があるのか、売買の必要性があるのか、税負担の軽減だけが目的になっていないか。そこまで確認しておく必要があります。

法人から個人へ不動産を売る場合は、役員給与・所得税・消費税にも注意する

法人が所有する不動産を、役員、株主、親族、従業員などの個人へ売却する場合も、注意が必要です。

この場面では、法人側と個人側とで課税関係が分かれます。

法人側では、時価より低い価額で不動産を売却すると、本来得られるはずの収益との差額が問題になります。相手が役員やその親族であれば、その差額部分が役員給与、役員賞与、経済的利益、寄附金などとして問われる可能性があります。

個人側では、法人から財産を受け取る場合、贈与税ではなく所得税が問題になります。贈与税は個人から贈与により財産を取得したときにかかる税金であり、法人から贈与により財産を取得したときは、贈与税ではなく所得税がかかる、という整理です。
出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合

さらに、消費税の問題もあります。

消費税では、土地の譲渡は原則として非課税取引です。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引

一方で、事業として対価を得て行う建物などの資産の譲渡は、原則として消費税の課税対象になります。売買、代物弁済、交換、現物出資などにより資産の所有権を他人に移転することは資産の譲渡に該当し、建物などの売却も、その具体例として挙げられています。
出典:国税庁|No.6145 資産の譲渡の具体例

また、法人がその役員に対して資産を著しく低い金額で譲渡した場合、消費税では、実際に役員から受領した金額ではなく、その資産を譲渡した時の時価に相当する金額を課税標準として課税される取扱いがあります。
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

そのため、法人から役員や親族へ不動産を売却する場合には、「法人税だけ」「所得税だけ」「消費税だけ」と切り離して見るのではなく、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。

視点確認すべき内容
法人税時価との差額が収益計上・寄附金・役員給与等として問題にならないか
所得税個人側に経済的利益が生じていないか
消費税土地・建物の区分、役員への低額譲渡、課税標準の取扱い
会社法利益相反取引、取締役会・株主総会等の手続が必要か
証拠資料評価資料、契約書、議事録、決済記録、売買理由

法人所有の不動産をオーナー個人へ移す場合は、とりわけ「会社の財産を個人へ移した」取引として見られます。価格の合理性と手続の適正性は、実行前に整えておきたいところです。

法人間の不動産売買では、寄附金・受贈益・グループ法人税制を確認する

法人から法人へ不動産を売買する場合も、時価から離れた価格で取引すると問題が生じます。

売主法人が時価より低い価格で売却すれば、差額部分について寄附金や利益移転の問題が生じ得ます。買主法人では、時価より低く取得した差額について受贈益が問題になります。

法人税法22条2項は、益金の額について、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡、無償による資産の譲受けなどの取引に係る収益の額を益金に含める旨を定めています。同条2項は、無償による資産の譲渡や無償による資産の譲受けを含む、無償取引に関する規定として整理されています。
出典:国税庁|益金が生ずる無償取引について

完全支配関係がある法人間では、グループ法人税制の影響も確かめなければなりません。受贈益や寄附金について、一般の法人間取引とは異なる取扱いになる場合があります。また、不動産が譲渡損益調整資産に該当するときには、譲渡損益の繰延べや取得価額の調整が問題になることもあります。

ここで気をつけたいのは、グループ内だからといって価格を自由に決めてよいわけではない、ということです。

会計上、税務上、金融機関への説明上、M&Aや事業承継上、その不動産をいくらで移したのかは、後で必ず確認されます。グループ内再編や資産整理の一環であっても、取引目的、価格決定の方法、資金決済、会議体の承認、将来の利用計画を残しておく必要があります。

高額取得も危険である

低額譲渡ばかりが注目されますが、親族間・同族会社間取引では「高すぎる価格で買う」ことも問題になります。

たとえば、会社がオーナー個人から不動産を時価より高く買い取れば、会社からオーナー個人へ経済的利益が移ります。

このとき法人側では、時価を超える部分について、役員給与、寄附金、損金不算入、資産計上額の適正性などが問われ得ます。個人側では、実際の譲渡価額をもとに譲渡所得が計算されるため、一見すると税金を払っているように映ります。しかし、法人側で過大な取得価額を計上し、それがその後の減価償却や売却原価に反映されると、将来の法人税にも影響が及びます。

逆に、法人が個人へ高く売る場合には、個人が時価を超える負担をしていないか、資金の出どころに問題はないか、親族間で実質的な資金贈与が隠れていないかを確認する必要があります。

高額取得は、低額譲渡と同じくらい注意が要ります。

「安すぎる価格」だけでなく、「高すぎる価格」もまた、利益移転の手段になり得るからです。

不動産売買で時価を説明するために確認すべき資料

親族間・同族会社間の不動産売買で最も大切なのは、価格を決めた根拠を残しておくことです。

契約書だけでは足りません。契約書は、当事者がその金額で合意したことを示す資料です。しかし税務上問われるのは、その金額が客観的に見て合理的かどうかです。

確認すべき資料は、少なくとも次のようなものです。

資料確認する目的
登記事項証明書所有者、権利関係、担保権、共有持分の確認
固定資産税評価証明書固定資産税評価額、土地・建物の基礎情報の確認
路線価図・評価倍率表相続税評価額の基礎確認
不動産鑑定評価書客観的な時価説明資料としての活用
不動産会社の査定書市場価格の参考情報
近隣売買事例類似取引価格の確認
賃貸借契約書収益物件の場合の賃料・契約条件の確認
収支実績収益還元的な価値の検討
修繕履歴・建物資料建物価値、劣化状況、将来修繕負担の確認
売買契約書取引条件、引渡し、危険負担、特約の確認
決済記録実際に代金が支払われたことの確認
議事録・稟議書法人の意思決定と取引目的の確認

評価資料は、1つあれば足りるとは限りません。

固定資産税評価額、路線価、鑑定評価、不動産会社の査定、収益還元的な見方は、それぞれ目的が異なります。税務上は、評価資料の種類だけでなく、その資料が売買時点の価格を説明するものか、評価対象の権利関係を正しく反映しているか、売買の目的に合っているか、が問われます。

土地と建物を一括売買する場合は、按分にも注意する

土地と建物をまとめて売買する場合、総額だけでなく、土地部分と建物部分の按分も重要になります。

土地の譲渡は消費税の非課税取引です。一方で、建物の譲渡は、事業者が事業として行う場合には、原則として消費税の課税対象になります。
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
出典:国税庁|No.6145 資産の譲渡の具体例

そのため、土地建物の総額は適正でも、建物価格を不自然に低くしたり高くしたりすると、消費税や減価償却費に影響が出ます。

不動産業では、消費税の仕入税額控除を多く計上するために、土地部分と建物部分の割合を操作するような処理が、調査上の着眼点になることがあります。

親族間・同族会社間の売買では、土地・建物の按分についても、固定資産税評価額比、鑑定評価、建物簿価、再調達原価、収益性など、合理的な根拠を残しておく必要があります。

「相続対策だから安く売る」は危険である

親族間・同族会社間の不動産売買は、相続対策として行われることがあります。

たしかに、不動産を生前に移転しておくことで、将来の相続財産の構成を変えたり、収益を後継者や法人へ移したり、納税資金を準備したりできる場合があります。

しかし、相続対策であっても、時価を無視してよいわけではありません。

むしろ、相続対策として行うからこそ、税務調査では取引の目的、時期、価額、資金の流れ、家族間の利益移転が確認されやすくなります。

相続対策では、相続税の軽減だけでなく、争族の防止と納税資金の対策が重要です。相続税が軽減されたように見えても、借入返済や管理負担が相続人に残るのであれば、全体として望ましい対策とはいえないこともあります。

不動産売買を相続対策として行う場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。

確認項目確認すべき内容
売買の目的相続税軽減だけでなく、管理、収益移転、納税資金、承継の目的があるか
価格の妥当性時価と売買価額の関係を説明できるか
資金決済買主に実際の支払能力があるか
家族間公平他の相続人に説明できるか
将来の税負担将来売却時の譲渡所得、法人税、相続税への影響を見ているか
維持管理固定資産税、修繕費、借入返済、空室リスクを負担できるか

税額を下げることだけを目的にすると、後になって家族間の不信、納税資金の不足、税務調査、法人側の資金繰り悪化につながることがあります。

税務調査では何を見られるか

親族間・同族会社間の不動産売買では、税務調査で次のような点が確認されます。

まず、取引の存在です。

契約書はあるか。登記は移っているか。代金は支払われているか。固定資産税や賃料収入の帰属は変わっているか。売買後も売主が従前どおり管理・使用していないか。

次に、価格の合理性です。

売買価額はどの資料を根拠に決めたのか。時価との差はどの程度か。鑑定評価や査定書は取引時点のものか。土地建物の按分は合理的か。賃貸中の不動産であれば、収益性を反映しているか。

さらに、意思決定の経緯です。

なぜこの時期に売買したのか。なぜこの相手に売ったのか。法人であれば、取締役会や株主総会、稟議などの手続はあるか。利益相反取引として必要な承認を受けているか。金融機関や後継者に説明できる資料があるか。

最後に、利益移転の有無です。

誰が得をしたのか。売主から買主へ経済的利益が移っていないか。法人の株主価値が上昇していないか。役員や親族に経済的利益が移っていないか。

税務調査では、申告書だけでなく、契約書、帳簿、原始資料、資金移動、取引の背景まで確認されます。税務調査手続の実務においても、証拠の収集・保全と的確な事実認定が重要とされています。

だからこそ、売買後に「そういうつもりだった」と説明するのではなく、売買の前から資料を整えておくことが大切です。

実行前に整理すべき判断順序

親族間・同族会社間で不動産売買を検討する場合、次の順序で整理していくと、論点が見えやすくなります。

1. 取引目的を明確にする

最初に確認したいのは、なぜ売買するのか、です。

相続対策なのか、資金繰りの改善なのか、法人への事業資産の集約なのか、後継者への承継準備なのか、借入の整理なのか、不動産管理の効率化なのか。

目的が曖昧なまま価格だけを決めてしまうと、税務調査で説明しにくくなります。

2. 売主・買主の組み合わせを整理する

個人間なのか、個人から法人なのか、法人から個人なのか、法人間なのかを確認します。

この段階で、所得税、法人税、贈与税、相続税、消費税、会社法の手続のうち、どれが関係してくるかを洗い出しておきます。

3. 対象不動産の権利関係を確認する

土地か建物か、貸地か、自用地か、借地権があるか、共有か、担保があるか、賃貸中か、使用貸借か。ここを確認します。

とりわけ親族間では、使用貸借が絡むことがあります。土地を無償で使わせている場合、権利関係と評価の整理を誤ると、時価判断が大きくずれてしまいます。

4. 複数の評価資料を確認する

固定資産税評価額、路線価、鑑定評価、不動産会社の査定、近隣取引、収益還元、建物簿価などを確認します。

どれか1つの評価額をそのまま使うのではなく、売買の目的と財産の状況に照らして、どの資料を重視するのかを整理します。

5. 資金決済と取得後の管理を確認する

買主は本当に代金を支払えるのか。支払資金は誰が出すのか。売買後の賃料収入、固定資産税、修繕費、借入返済は、誰が負担するのか。

資金の流れが不自然であれば、形式上は売買であっても、実質的には贈与や利益移転と見られる可能性があります。

6. 実行後の税負担を確認する

売買時の税金だけでなく、将来の税金も確認します。

買主の取得価額、減価償却、将来売却時の譲渡所得、法人税、相続税評価、株価、消費税、登録免許税、不動産取得税まで含めて見ておきます。

節税は、売買の時点で終わりではありません。むしろ不動産は、長期にわたって税務・資金繰り・承継に影響し続けます。

専門家に相談すべき場面

次のような場合には、実行の前に専門家へ相談する価値が高いといえます。

相談すべき場面理由
親子・兄弟・親族間で不動産を売買する贈与税、譲渡所得、相続時の説明が問題になりやすい
個人所有の不動産を同族会社へ売却する所得税のみなし譲渡、法人税の受贈益、株主へのみなし贈与が絡む
法人所有不動産を役員・親族へ売却する役員給与、所得税、法人税、消費税、会社法手続が問題になりやすい
土地と建物を一括売買する消費税、土地建物按分、減価償却に影響する
相続対策として売買する税額軽減だけでなく、争族防止・納税資金・将来売却を確認する必要がある
評価額に大きな差がある路線価、固定資産税評価額、鑑定評価、実勢価格のどれを使うか整理が必要
会社の株主構成が親族間で分かれている法人を通じた株式価値移転がみなし贈与になる可能性がある
税務調査で説明できる資料が不足している実行後に資料を整えても説明力が弱くなることがある

親族間・同族会社間の不動産売買は、売買価格だけでなく、取引の目的、資金の流れ、税目間の関係、そして将来の相続・承継まで含めて整理する必要があります。

まとめ:親族間・同族会社間の売買は「安く移せるか」ではなく「説明できるか」で判断する

親族間や同族会社間の不動産売買では、価格を自由に決められるように見えます。

しかし税務上は、時価と売買価額の差、その差によって誰に利益が移ったのか、取引に合理的な目的があるのか、が確認されます。

個人間では、買主側の贈与税が問題になりやすくなります。

個人から法人への売買では、売主の所得税、法人の受贈益、株主へのみなし贈与が連動します。

法人から個人への売買では、法人税、役員給与・所得税、消費税が問題になり得ます。

法人間の売買では、寄附金、受贈益、グループ法人税制を確認する必要があります。

節税のために不動産を移すこと自体が、悪いわけではありません。

ただし、正しい節税とするためには、実態、時価、資料、資金決済、将来影響を整えておく必要があります。

「税金を減らせるか」だけでなく、「その価格を税務署に説明できるか」「金融機関や後継者に説明できるか」「将来の相続や売却で問題を残さないか」まで確認しておきたいところです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、親族間・同族会社間の不動産売買、不動産管理会社への資産移転、相続・事業承継を見据えた不動産整理について、税額だけでなく、時価、資金繰り、証拠資料、将来の説明可能性を踏まえた論点整理を重視しています。

不動産を親族や同族会社へ移す前に、「この価格で進めてよいのか」「低額譲渡やみなし贈与の問題はないか」「法人側や株主側に想定外の課税が出ないか」を整理しておきたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点確認すべきこと
親族間売買時価との差額が贈与税の対象にならないか
個人から法人への売買所得税のみなし譲渡、法人税の受贈益、株主へのみなし贈与を確認する
法人から個人への売買法人税、個人側の所得税、役員給与、消費税を確認する
法人間売買寄附金、受贈益、完全支配関係、譲渡損益調整を確認する
時価の2分の1基準所得税法59条の判断であり、贈与税や法人税の安全基準ではない
高額取得時価より高く買う場合も、利益移転や過大な取得価額が問題になる
土地建物一括売買土地・建物の按分が消費税や減価償却に影響する
証拠資料鑑定評価、査定書、契約書、議事録、決済記録、収支資料を残す
相続対策との関係税額軽減だけでなく、争族防止・納税資金・将来管理まで確認する
相談のタイミング契約締結後ではなく、価格決定前・資金決済前に整理する

主な出典

出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
出典:国税庁|所得税基本通達 法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係
出典:国税庁|益金が生ずる無償取引について
出典:国税庁|譲渡損益調整資産(減価償却資産)を簿価で譲り受けた場合の譲受法人の申告調整
出典:国税庁|相続税法第9条の「みなし贈与」について
出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い
出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引
出典:国税庁|No.6145 資産の譲渡の具体例

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