M&A、事業承継、組織再編、株主整理。こうした局面では、「少数株主にいくら支払えばよいのか」という問いが避けて通れないことがあります。
なかでも次のような場面では、単なる交渉価格ではなく、会社法上の「公正な価格」が正面から問題になります。
| 場面 | 典型的な問題 |
|---|---|
| 合併・会社分割・株式交換・株式移転に反対する株主がいる | 反対株主の株式買取請求にどう対応するか |
| M&A前に少数株主を整理したい | 買主が100%取得を求める場合に、少数株主へいくら支払うか |
| 株式併合で少数株主を退出させたい | 端数となる株式について、どの価格が公正か |
| 特別支配株主の株式等売渡請求を使いたい | 売渡株主から価格決定申立てを受ける可能性をどう見るか |
| 支配株主が従属会社を完全子会社化する | 支配株主・少数株主間の利益相反をどう抑えるか |
| 非上場会社で株主間対立がある | 税務評価額だけで買取価格を決めてよいか |
ここで押さえておきたいのは、会社法上の「公正な価格」が、M&Aで買主と売主が合意する取引価格とも、相続税評価額とも、法人税・所得税上の時価とも同じではない、という点です。同じ「株式の値段」でありながら、目的が違えば中身も違ってきます。
この記事では、株式買取請求、スクイーズアウト、公正価格の考え方を、非上場会社のM&A・承継・資本政策の実務判断に使える形で整理します。訴訟・非訟手続そのものの細部には深入りしません。あくまで「なぜその価格が問題になるのか」「どの資料と前提を整えておかなければならないのか」に焦点を当てていきます。
会社法上の公正価格は「少数株主を退出させる場面」で問題になる
会社法上の公正価格が問題になるのは、株主が売るか売らないかを自由に決められる通常の株式売買とは、性質の異なる場面です。
典型的なのは、多数決や会社法上の制度によって、反対株主・少数株主の地位が大きく変わってしまうケースです。こうした場合には、反対株主に会社から退出する機会を与えたうえで、退出するのであれば不当に低い価格で排除されないよう配慮する必要があります。
会社法には、こうした保護のための制度がいくつも用意されています。たとえば、吸収合併等に反対する株主の株式買取請求、株式移転に反対する株主の株式買取請求、株式併合により端数が生じる場合の反対株主の株式買取請求、特別支配株主の株式等売渡請求における売買価格決定申立てなどです。
会社法182条の4は、株式併合によって1株に満たない端数が生じる場合に、反対株主がその端数となる株式の全部を「公正な価格」で買い取るよう請求できる旨を定めています。
出典:日本法令外国語訳データベースシステム|Companies Act Article 182-4
「株式買取請求」と「スクイーズアウト」は同じではない
実務では、株式買取請求とスクイーズアウトが同じものとして語られることがあります。しかし、両者の性質は異なります。
株式買取請求は、組織再編等に反対する株主に、会社から退出する権利を与える制度です。反対株主が所定の手続に従って請求し、会社との協議が調わなければ、裁判所に価格決定を申し立てる、という流れをたどります。
これに対してスクイーズアウトは、支配株主や会社が少数株主を退出させ、株式を集約するための手法です。上場会社の非公開化、親会社による完全子会社化、M&A前の100%化、非上場会社の株主整理といった場面で用いられます。
主な手法を整理すると、次のとおりです。
| 手法 | 概要 | 価格論点 |
|---|---|---|
| 株式併合 | 少数株主の保有株式が1株未満になるよう併合し、端数処理で退出させる | 反対株主の株式買取請求、公正価格 |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 原則として総株主の議決権の90%以上を有する特別支配株主が、他の株主に売渡しを請求する | 売買価格決定申立て |
| 全部取得条項付種類株式 | 種類株式化したうえで会社が全部取得し、少数株主に金銭等を交付する | 取得価格決定申立て |
| 株式交換・株式移転 | 組織再編により完全親子会社関係を作る | 反対株主の株式買取請求、比率の公正性 |
| TOB後の二段階買収 | 公開買付け後、株式併合等で残存株主を退出させる | TOB価格とスクイーズアウト価格の整合性 |
非上場会社でも、少数株主整理のために株式併合や株式等売渡請求を検討する場面はあります。ただし、少数株主がいること自体が不都合だからといって、自由に低い価格で退出させてよいわけではありません。問われるのは、その手法が使えるかどうかだけではなく、決めた価格と踏んだ手続を、後から筋道立てて説明できるかどうかです。
「公正な価格」は税務上の時価や相続税評価額とは違う
非上場株式の価格判断では、複数の「時価」や「価格」が並び立ちます。
| 価格・評価額 | 主な目的 |
|---|---|
| M&A取引価格 | 売主・買主の交渉により決まる取引条件 |
| 税務上の時価 | 法人税・所得税・相続税・贈与税の課税関係を判断するための価格 |
| 財産評価基本通達による評価額 | 相続税・贈与税評価における原則的な評価額 |
| 配当還元価額 | 一定の少数株主等について、配当期待に着目する税務評価 |
| 会社法上の公正価格 | 反対株主・少数株主を保護するため、裁判所が決定し得る価格 |
| 株式価値算定書の評価レンジ | 評価目的・前提資料・採用手法に基づく判断材料 |
このうち会社法上の公正価格は、少数株主がその意思に反して、あるいは多数決によって、株主としての地位を失う場面で問題になる価格です。ですから、「相続税評価額で評価したのだから公正価格としても問題ない」「配当還元価額で買い取れば少数株主なのだから十分だ」と言い切ることはできません。
とりわけスクイーズアウトでは、少数株主は自由な売却交渉のテーブルについているわけではありません。会社法上の価格判断では、対象会社の客観的価値、取引による企業価値の増加、支配株主との利益相反、そして手続の公正性が、いずれも問われることになります。
最高裁は、公正価格を「裁判所が形成する価格」と捉えている
会社法上の公正価格は、過去のある時点の株価を機械的に確認すれば済む、というものではありません。
最高裁は、吸収合併等に反対する株主に「公正な価格」での買取請求権を認める趣旨について、次のように述べています。会社組織の基礎に本質的な変更をもたらす行為を多数決で可能にする反面、反対株主には退出の機会を与え、組織再編がなかった場合と経済的に同等の状況を確保する。さらに、シナジーその他の企業価値の増加が生じる場合には、これを適切に分配することによって、反対株主の利益を一定範囲で保障する——というものです。
加えて最高裁は、裁判所による買取価格の決定について、客観的に定まっている過去の株価を確認するものではなく、制度趣旨に従って「公正な価格」を形成するものであり、合理的な裁量に委ねられるとしています。
この捉え方は、実務判断のうえでも見過ごせません。
公正価格は、「再編前の株価」「簿価純資産」「税務評価額」「直近取引価格」のいずれか一つに自動的に落ち着くものではないからです。どの基準日で見るのか、再編によって価値が増加したのか、少数株主にどこまで分配されるべきか、手続は公正だったのか。こうした要素を踏まえて判断されていきます。
「ナカリセバ価格」と「シナジー分配価格」を分けて考える
会社法上の公正価格を理解するうえで、実務でよく使われるのが「ナカリセバ価格」と「シナジー分配価格」という整理です。
ナカリセバ価格とは、平たくいえば「その組織再編等がなかったならば、その株式が有していたであろう価格」を指します。
たとえば、組織再編によって会社の価値が増加しない場合、反対株主には、少なくとも「その取引がなかった場合と経済的に同等の状態」を確保しなければなりません。このとき、公正価格はナカリセバ価格を基礎に考えられます。
一方、合併・株式交換・株式移転等によってシナジーやその他の企業価値の増加が生じる場合には、その増加価値を誰にどう分配するかが問題になります。少数株主が退出する場合であっても、取引によって生じた企業価値増加の一部を受け取るべき場面があるのです。
最高裁は、株式移転の事案において、反対株主に公正価格での買取請求権を付与した趣旨として、退出機会の確保、株式移転がされなかった場合と経済的に同等の状態の確保、そしてシナジー効果その他の企業価値増加の適切な分配を挙げています。そのうえで、シナジー効果等の企業価値増加が生じない場合には原則としてナカリセバ価格をいうものとし、それ以外の場合には、株式移転比率が公正であったならば買取請求日にその株式が有していたと認められる価格をいう、と整理しています。
この考え方は、非上場会社の株主整理においても参考になります。会社の将来価値、M&Aによる上乗せ、支配権取得による価値、少数株主の退出対価——これらを混ぜ合わせず、何を、誰に分配する価格なのかを切り分けて考える必要があります。
スクイーズアウト価格では「手続の公正性」が価格判断に影響する
スクイーズアウトでは、価格そのものだけでなく、その価格が決まるまでの手続も重みを持ちます。
支配株主による完全子会社化やMBOでは、買収者側が対象会社の情報を多く握り、対象会社の経営陣と利害を共有していることがあります。少数株主の側は、十分な情報も交渉力も持ちにくく、結果として価格が低く設定されるリスクを抱えます。
経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」は、MBOおよび支配株主による従属会社の買収を中心に、主として手続面から公正なM&Aの在り方を示すことを目的としています。この指針は、新たな規制を課すものではなく、企業社会におけるベストプラクティスとして位置付けられるものです。とはいえ、構造的な利益相反や情報の非対称性をはらむ取引では、説明責任を果たすうえで重要な参照点になります。
同指針では、公正性担保措置として、独立した特別委員会、外部専門家の助言・株式価値算定書等、マーケット・チェック、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件、一般株主への情報提供、強圧性の排除などが整理されています。
非上場会社では、上場会社のように特別委員会や公開買付けをそのまま設計できないこともあります。それでも、利益相反がある場面では、次のような実務対応が大切になります。
| 公正性を高めるための対応 | 非上場会社での実務上の意味 |
|---|---|
| 利害関係者を除いた検討 | 支配株主・買取側に近い役員だけで価格を決めない |
| 第三者評価の取得 | 税務評価だけでなく、会社法上説明できる評価レンジを整理する |
| 評価前提の開示・説明 | 少数株主に、なぜその価格になるのかを説明する |
| 交渉経緯の記録 | 一方的な押し付けではなく、協議の経過を残す |
| 同一価格・同一条件の整理 | 株主間で不合理な差を設けない |
| M&A予定の有無の整理 | 将来の売却価格を隠して安く買い取ったと見られないようにする |
| 取締役会・株主総会資料の整備 | 後から経営判断の合理性を説明できるようにする |
公正な価格は、算定式だけで守られるものではありません。その価格が公正であることを支える手続が、合わせて求められます。
非上場会社では、市場株価がないため評価の難度が高い
上場会社であれば、市場株価が一つの重要な参照点になります。もっとも最高裁も、市場株価が企業の客観的価値を反映していない事情がない限り、公正価格算定の基礎資料として市場株価を用いることには合理性があるとしています。そのうえで、偶発的要素による変動を排除するために一定期間の平均値を用いることも、裁判所の合理的裁量の範囲内にあると述べています。
ところが、非上場株式には市場株価がありません。そのため、次のような評価手法を組み合わせて検討していくことになります。
| 評価手法 | 見ているもの | 公正価格判断での注意点 |
|---|---|---|
| DCF法 | 将来キャッシュ・フロー | 事業計画、割引率、継続価値の前提に強く左右される |
| 類似会社比較法 | 上場類似会社の倍率 | 類似性、規模差、流動性、支配権の違いを調整する必要がある |
| 類似取引比較法 | 過去のM&A取引倍率 | 取引時期、買主属性、支配プレミアム、開示情報の限界に注意する |
| 時価純資産法 | 資産・負債の時価 | 不動産・有価証券・簿外債務・税効果・清算前提との違いを確認する |
| 配当還元法 | 配当期待 | 税務評価では使われるが、会社法上の退出対価として常に十分とは限らない |
| 過去取引価格 | 実際の売買事例 | 関係者間取引、時期、株数、支配権の有無を確認する必要がある |
非上場会社の公正価格判断では、単一の評価方式だけで結論を出すよりも、複数手法の結果を見比べながら、対象会社の事業実態にもっとも整合するレンジを探っていくほうが現実的です。
少数株主だからディスカウントしてよい、とは単純に言えない
非上場株式の評価では、少数持分ディスカウントや非流動性ディスカウントが論点になります。
少数持分は経営支配権を持たず、単独では配当政策や役員選任を決められません。また、非上場株式は市場で簡単に売却できず、流動性が低いという特徴があります。そのため評価実務では、少数持分や非流動性を反映したディスカウントが議論されることがあります。
ただし、スクイーズアウトの場面は事情が異なります。少数株主は、自ら市場で株式を売るのではなく、支配株主側の都合によって強制的に退出させられるからです。この場面で、少数株主だから当然に大幅なディスカウントをしてよいと考えるのは、危うい発想だといえます。
とりわけスクイーズアウトでは、支配株主が100%支配を実現し、少数株主持分を自らに取り込むことになります。取得後の株式は、支配株主にとって支配権の一部を構成します。だからこそ、少数株主持分だから低く評価するのか、それとも100%化によって増加する価値を少数株主にも分配すべきなのかを、きちんと検討しなければなりません。
非上場会社では、税務上の配当還元価額を根拠に低い価格を提示したくなる場面もあるでしょう。しかし会社法上の公正価格判断では、少数株主を退出させるという制度目的を踏まえ、税務評価とは別に説明できる評価が求められます。
M&A前のスクイーズアウトでは、将来の売却価格をどう扱うかが問題になる
実務でとりわけ気をつけたいのが、M&A前に少数株主を整理する場面です。
たとえば、支配株主が少数株主から低い価格で株式を買い集め、その直後に第三者へ高い価格で会社を売却したとします。すると少数株主から、「その売却予定を知っていれば、その価格では売らなかった」と主張される可能性が出てきます。
もちろん、将来のM&Aが不確実な段階で、その期待価値をすべて現在の買取価格に反映すべきだとは限りません。それでも、少なくとも次の点は整理しておきたいところです。
| 確認すべき論点 | なぜ重要か |
|---|---|
| M&A交渉はどの段階か | 単なる検討か、具体的な買主候補・価格提示があるかで期待価値が異なる |
| 少数株主にどこまで説明したか | 重要情報の非対称性が強いと、価格の公正性が争われやすい |
| 買取価格と将来売却価格の差 | 差額の理由を説明できなければ、利益移転と見られる可能性がある |
| 100%化がM&A成立条件か | 少数株主整理による価値増加を誰に帰属させるかが問題になる |
| 取得主体は誰か | 会社、支配株主、買主候補、SPCのいずれが買うかで税務・法務が変わる |
| 第三者評価の基準日はいつか | 重要事象を評価に反映すべきかどうかが変わる |
「M&A前だから安く買っておこう」という発想で進めるのではなく、M&Aによる期待価値、支配権の価値、少数株主の退出対価、税務上の時価を、それぞれ切り分けて整理する必要があります。
会社法上の公正価格と税務上の時価は、必ず別々に検討する
株式買取請求やスクイーズアウトでは、会社法上の公正価格だけでなく、税務上の課税関係も問題になります。
たとえば自己株式取得であれば、みなし配当が問題になり得ます。株式交換・株式移転に伴う反対株主の株式買取請求では、株主側にみなし配当や譲渡損益が生じる場面があります。さらに株式併合や特別支配株主の株式等売渡請求では、発行会社が買い取るのか、支配株主が買い取るのかによって、税務処理が変わってきます。
ここで生じやすい誤解を、整理しておきます。
| 誤解 | 問題点 |
|---|---|
| 会社法上の公正価格であれば税務上も安全 | 税務上の時価、低額譲渡・高額譲渡、みなし配当等は別途検討が必要 |
| 税務評価額であれば会社法上も公正 | 少数株主保護・手続公正性・シナジー分配の観点が抜ける可能性がある |
| 裁判で決まった価格なら税務上もそのまま使える | 税務上の取扱いは取引内容・当事者関係・法令通達に照らして別途判断される |
| M&A価格があるから公正価格も同じ | M&A価格には買主固有シナジー、支配プレミアム、交渉条件が含まれ得る |
会社法上の公正価格は、少数株主を保護するための価格です。税務上の時価は、課税関係を判断するための価格です。目的が違う以上、結果として同じ金額になることはあっても、当然に一致するものではありません。
公正価格を検討するときの実務ステップ
非上場会社で株式買取請求やスクイーズアウトを見据えるなら、価格計算に取りかかる前に、次の順序で論点を整理しておくのが望ましいといえます。
1. 取引の目的を明確にする
株主整理なのか、M&A前の100%化なのか、組織再編なのか、事業承継なのか。どれを目的とするかによって、価格判断の意味合いが変わってきます。
「少数株主を減らしたい」というだけでは足りません。なぜ今その株主を退出させる必要があるのか、それが会社価値の維持・向上とどう結びつくのかを、説明できるようにしておきます。
2. 取得主体と手法を選ぶ
会社が自己株式取得するのか、支配株主個人が買うのか、持株会社が買うのか。あるいは株式併合を使うのか、株式等売渡請求を使うのか。選択によって、会社法手続・税務・資金負担が変わります。
手法ありきで進めるのではなく、目的、株主構成、取得割合、資金原資、税務影響を並べて比較することが大切です。
3. 評価基準日を決める
基準日が変われば、決算、事業計画、後発事象、M&A交渉状況、業績見通しも変わってきます。
公正価格において、基準日は非常に重要です。株式買取請求の日、効力発生日、取引公表日、評価報告書作成日——これらを混同してはいけません。
4. 評価手法を選ぶ
非上場会社では、DCF、時価純資産、類似会社比較、配当還元、過去取引価格などを比較します。
事業会社として継続していくなら、収益価値が重要になります。不動産・余剰資産の多い会社なら、時価純資産も見逃せません。配当実績にしか少数株主の価値がない、と整理するのであれば、その理由を説明できるようにしておく必要があります。
5. 手続の公正性を確保する
支配株主が価格を決め、その支配株主が利益を受ける取引には、利益相反があります。
第三者評価、独立した検討、株主への説明、議事録、交渉記録、専門家意見を整え、公正な手続を踏んだことを記録として残します。
6. 税務上の時価・課税関係を別途確認する
会社法上の価格判断と、税務上の時価判断は分けて考えます。
個人株主、法人株主、同族関係者、相続人、自己株式取得、株式譲渡、組織再編では、それぞれ課税関係が異なります。価格が決まってから税務処理を確認するのでは、手遅れになる場合があります。
少数株主側が確認すべきこと
少数株主の立場では、提示価格に納得できない場合でも、感情的に反対するだけでは判断材料になりません。次の点を確認しておくことが大切です。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 取引目的 | なぜ組織再編・スクイーズアウトが必要なのか |
| 価格算定資料 | DCF、純資産、類似会社、配当還元など、何を根拠にしているか |
| 事業計画 | 楽観的・保守的すぎないか、過去実績と整合するか |
| 非事業資産 | 余剰現預金、不動産、有価証券が価格に反映されているか |
| 負債・簿外債務 | 価格を下げる前提が具体的か |
| M&A予定 | 将来売却や買主候補の存在が価格に反映されているか |
| 手続 | 利害関係者だけで価格を決めていないか |
| 請求期限 | 株式買取請求・価格決定申立てには厳格な期間制限がある |
とくに会社法上の手続では、反対通知、株主総会での反対、請求期間、価格決定申立ての期間などが厳格に定められています。価格の妥当性を検討する前に、まずは権利行使の期限を逃さないことが重要です。
会社側・支配株主側が準備すべき資料
会社側・支配株主側は、「この価格で進めたい」という結論から逆算するのではなく、次の資料を地道に整える必要があります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 株主名簿・議決権割合表 | 少数株主の範囲、反対可能性、売渡請求の可否を確認する |
| 定款 | 種類株式、譲渡制限、株式併合、自己株式取得等の前提を確認する |
| 直近決算書・税務申告書 | 純資産、利益水準、税務上の基礎情報を確認する |
| 月次試算表 | 基準日近辺の財務状況を把握する |
| 事業計画 | DCFや将来価値判断の基礎にする |
| 株式価値算定書 | 採用手法、評価レンジ、前提条件を明確にする |
| 不動産・有価証券等の時価資料 | 非事業資産・含み損益を確認する |
| M&A交渉資料 | 将来売却価格や買主候補の存在を整理する |
| 取締役会・株主総会資料 | 経営判断と手続の公正性を記録する |
| 少数株主への説明資料 | 情報の非対称性を抑え、後日の紛争リスクを下げる |
評価書だけを作っても、前提資料が弱ければ説明力は高まりません。大切なのは、評価結果と取引背景、手続、税務処理が一本の筋で通っていることです。
公正価格の判断で避けるべき対応
会社法上の公正価格が問題になる場面では、次のような対応は避けるべきです。
| 避けるべき対応 | 問題点 |
|---|---|
| 相続税評価額だけで価格を決める | 会社法上の少数株主保護の観点が抜ける |
| 支配株主に都合のよい評価手法だけを採用する | 手法選択の恣意性を疑われやすい |
| M&A予定を伏せたまま少数株主から買い取る | 情報の非対称性・利益相反が強くなる |
| 低い純資産だけを示し、収益価値を無視する | 継続企業としての価値を説明できない |
| 楽観的な事業計画を買主向けに使い、少数株主向けには保守的にする | 前提の一貫性を欠く |
| 少数株主だから大幅ディスカウントしてよいと考える | スクイーズアウトの制度趣旨と衝突し得る |
| 価格交渉の記録を残さない | 後から手続の公正性を説明できない |
| 税務上の時価確認を後回しにする | 低額譲渡・高額譲渡・みなし配当等のリスクが残る |
公正価格の議論では、安いこと自体が問題なのではありません。高いこと自体が問題なのでもありません。問われるのは、その価格が、評価目的、会社の実態、少数株主の地位、取引背景、手続の公正性に照らして説明できるかどうかです。
まとめ|公正価格は「少数株主にいくら払うか」だけの問題ではない
株式買取請求やスクイーズアウトの公正価格は、単なる価格交渉ではありません。
少数株主は、会社の支配権を持たない一方で、会社法上、一定の場面では不当に低い価格で退出させられない利益を持っています。支配株主や会社側は、株式を集約する必要があるとしても、その価格と手続を説明する責任を負います。
公正価格を考えるうえで鍵になるのは、次の切り分けです。
| 切り分けるべき概念 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 価値と価格 | 評価額は判断材料、取引価格は交渉・手続・条件の結果 |
| M&A価格と公正価格 | M&A価格には買主固有シナジーや交渉条件が含まれ得る |
| 税務時価と会社法上の公正価格 | 課税目的と少数株主保護目的は異なる |
| ナカリセバ価格とシナジー分配価格 | 取引がなかった場合の価値と、取引による増加価値の分配を分ける |
| 評価額と手続の公正性 | 計算が正しくても、手続が不公正なら説明力は弱くなる |
| 支配株主価値と少数株主価値 | 支配権取得・100%化による価値を誰に帰属させるかを検討する |
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場会社の株式買取請求、スクイーズアウト、少数株主整理、M&A前の100%化、組織再編に伴う株式評価について、会社法上の公正価格、税務上の時価、株式価値算定、説明資料の整備を一体で検討します。
「少数株主に提示する価格をどう決めるべきか」「配当還元価額や相続税評価額だけで説明できるのか」「M&A前に株主を整理したいが、将来売却価格との関係が不安だ」「株式併合や売渡請求を使う前に、評価面を整理しておきたい」。こうしたお悩みがあれば、当事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。価格を一つに決めるだけでなく、後から税務・会社法・株主説明に耐えうる判断材料を整えることを重視して対応します。
振り返り|株式買取請求・スクイーズアウト・公正価格の重要ポイント
| 論点 | 重要事項 |
|---|---|
| 公正価格の位置づけ | 会社法上、反対株主・少数株主を保護するための価格判断 |
| M&A価格との違い | 交渉価格や買主固有シナジーを含む取引価格とは一致しない |
| 税務評価との違い | 相続税評価額・配当還元価額・税務上の時価とは目的が異なる |
| 株式買取請求 | 組織再編等に反対する株主に退出機会を与える制度 |
| スクイーズアウト | 少数株主を退出させ、株式を集約する手法 |
| 株式併合 | 端数となる株式について公正価格が問題になる |
| 株式等売渡請求 | 特別支配株主による売渡請求では売買価格決定申立てが問題になる |
| ナカリセバ価格 | 取引がなかったならば有していたであろう価格 |
| シナジー分配 | 組織再編等で企業価値が増加する場合、その増加価値の分配が問題になる |
| 手続の公正性 | 利益相反がある取引では、第三者評価、独立検討、情報提供が重要 |
| 非上場株式評価 | DCF、時価純資産、類似会社、配当還元等を目的に応じて検討する |
| ディスカウント | 少数持分・非流動性を機械的に控除してよいとは限らない |
| M&A前整理 | 将来売却価格、買主候補、100%化の必要性を価格説明に反映する |
| 相談前資料 | 株主名簿、定款、決算書、事業計画、評価資料、M&A交渉資料を整理する |