納税者・居住者・非居住者・納税地の基本|転居・出国・死亡がある年の確定申告で最初に確認すべきこと

確定申告というと、どうしても売上や経費、控除、税額の計算に意識が向かいがちです。ただ、その計算に入る前に、必ず確認しておきたい前提があります。

それは、誰が納税者なのか、所得税法上の居住者なのか非居住者なのか、そして申告書をどこの税務署に提出するのか、という点です。

この前提を取り違えると、たとえば次のような迷いや誤りが生じます。

  • 海外勤務になった年に、日本でどこまで申告すべきか分からない
  • 住民票を抜いたので、日本の所得税はもう関係ないと思い込んでいる
  • 海外に住んでいるが、日本国内の不動産収入を申告していない
  • 転居後、旧住所地と新住所地のどちらの税務署に申告するか迷う
  • 自宅とは別に事業所があり、どこを納税地にすべきか分からない
  • 亡くなった家族の確定申告を、相続人の住所地で提出しようとしている
  • 出国前に納税管理人を選任すべきか、判断がつかない
  • 海外資産や国外株式の売却があり、居住者区分の判断に不安がある

確定申告は「いくら納めるか」を決めるだけの手続ではありません。税務上は、その前に、誰に、どの範囲の所得が課税され、どこで手続を行うのかを定めておく必要があります。

本記事では、個人の所得税申告における「納税者」「居住者」「非居住者」「非永住者」「納税地」の基本を、転居・出国・死亡があった年の実務判断につなげながら整理していきます。

目次

この記事で扱う範囲

本記事では、所得税の確定申告を行う前提として、次の論点を取り上げます。

  • 所得税における納税者・納税義務者の基本
  • 居住者・非居住者・非永住者の違い
  • 住所・居所・生活の本拠の考え方
  • 居住者区分によって変わる課税所得の範囲
  • 納税地の基本
  • 転居した場合の申告先
  • 海外勤務・出国・納税管理人の基本
  • 亡くなった方の準確定申告と納税地

一方で、国別の租税条約の詳細、外国税額控除の具体的な計算、国外転出時課税の詳細な計算、国際相続税の細目、海外法人や海外信託を用いた高度な国際税務までは、本記事では扱いません。

ここでの狙いは、申告書の作成に入る前に、申告の前提条件を取り違えないための判断軸を整えておくことにあります。

まず確認したいのは「誰の所得を、誰が申告するのか」

個人の確定申告は、基本的には本人が、自分の所得について申告します。ただ、実務では、本人以外が手続に関わる場面も少なくありません。

たとえば、亡くなった方の所得については、相続人等が準確定申告を行います。海外へ出国する方については、納税管理人を選任したうえで、申告や納付の手続を進めることがあります。給与や報酬の支払者についても、本人の所得税とは別に、源泉徴収義務者としての責任が問われる場面があります。

このとき混同しやすいのが、次の3つです。

区分意味実務上の注意点
納税義務者所得税法上、所得税を負担する主体居住者か非居住者かによって課税範囲が変わる
申告書を提出する人実際に申告手続を行う人本人・相続人・納税管理人など、場面により異なる
納税地申告書を提出する税務署を決める場所住所地・居所地・事業所所在地・死亡時の納税地などで判断する

「自分が払う税金だから、自分の住所地で出せばよい」で済む場面もあります。しかし、転居・出国・死亡・不動産所得・複数拠点・海外勤務といった事情があるときは、この前提から確認しておく必要があります。

居住者・非居住者・非永住者の基本

所得税法では、個人をまず「居住者」と「非居住者」に分けています。

居住者とは、日本国内に住所がある方、あるいは現在まで引き続いて1年以上、居所がある方をいいます。そして、居住者以外の個人が非居住者です。
出典:国税庁|No.2010 納税義務者となる個人

さらに居住者は、「非永住者以外の居住者」と「非永住者」に分かれます。

非永住者とは、居住者のうち、日本国籍がなく、かつ過去10年以内に日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人を指します。非永住者については、国外源泉所得以外の所得と、国外源泉所得のうち日本国内で支払われたもの、または日本国内へ送金されたものが課税対象になります。
出典:国税庁|No.2010 納税義務者となる個人

整理すると、次のようになります。

区分基本的な定義所得税の課税範囲
非永住者以外の居住者国内に住所がある、または1年以上居所がある個人のうち、非永住者以外国内外で生じたすべての所得
非永住者居住者のうち、日本国籍がなく、過去10年以内の国内住所・居所期間が5年以下の個人国外源泉所得以外の所得、国外源泉所得のうち国内支払・国内送金分
非居住者居住者以外の個人国内源泉所得

ここで押さえておきたいのは、居住者か非居住者かは、住民票の有無だけで決まるわけではないという点です。

住民票を抜いた、海外に住所を移した、外国に長く滞在した——こうした事情はいずれも重要な要素ですが、それだけで所得税法上の居住者・非居住者が機械的に決まるものではありません。

「住所」は生活の本拠で判断する

所得税法上の居住者判定で中心になるのは、「住所」が日本国内にあるかどうかです。

ここでいう「住所」とは、その人の生活の本拠を指します。そして、生活の本拠にあたるかどうかは、客観的な事実によって判定されます。一方の「居所」は、生活の本拠とまではいえないものの、その人が現実に居住している場所とされています。
出典:国税庁|No.2875 居住者と非居住者の区分

では、その生活の本拠は、何をもって判断するのでしょうか。

複数の滞在地がある方の場合、住所は、住居・職業・資産の所在・親族の居住状況・国籍等といった客観的な事実に照らして判断することになります。
出典:国税庁|No.2012 居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

実務では、次のような事実を総合して判断していきます。

  • どこに継続して住んでいるか
  • 仕事の本拠はどこか
  • 配偶者や子どもはどこに住んでいるか
  • 生活費の支払、預金、資産管理をどこで行っているか
  • 国内外の滞在日数はどうか
  • 日本国内の住宅を維持しているか、賃貸しているか、処分しているか
  • 海外勤務の予定期間はどの程度か
  • 帰国予定が明確か
  • 国内に事業所・不動産・金融資産・管理拠点が残っているか

「1年の半分以上を海外で過ごしているから非居住者だ」と単純に判断するのは危険です。居住者かどうかは滞在日数だけで決まるものではなく、外国に183日以上滞在していても、なお日本の居住者と判断される場合があります。
出典:国税庁|No.2012 居住者・非居住者の判定(複数の滞在地がある人の場合)

海外勤務・出国で非居住者になるとは限らない

海外勤務になると、所得税法上の居住者区分が変わることがあります。

日本国内の会社に勤める給与所得者が、1年以上の予定で海外の支店などに転勤する場合、一般的には日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上は非居住者として扱われます。
出典:国税庁|No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任

ただ、ここでいう「一般的には」という言葉が、実務ではとても重要です。

海外勤務の辞令が出たから必ず非居住者になる、住民票を抜いたから必ず非居住者になる、というわけではありません。実際には、家族の居住状況、国内住宅の状況、勤務の予定期間、国内資産、生活の実態などを、一つひとつ確認していきます。

反対に、海外に住んでいる期間があったとしても、日本国内に生活の本拠があると評価されれば、居住者と判断される可能性があります。

海外勤務、留学、二拠点生活、海外法人勤務、海外フリーランス、あるいはノマド的な働き方——こうした働き方では、表面的な滞在先ではなく、生活と仕事の実態こそを整理する必要があります。

非居住者でも日本で申告が必要になることがある

非居住者になったからといって、日本の所得税から完全に離れられるわけではありません。

非居住者は、日本国内で生じた所得、すなわち国内源泉所得について課税されます。非居住者となった方であっても、日本国内で発生した一定の所得については、引き続き日本の所得税が課され、確定申告が必要になる場合があります。
出典:国税庁|No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任

典型的には、次のような所得です。

  • 日本国内にある不動産の賃貸収入
  • 日本国内にある資産の譲渡所得
  • 日本国内にある資産の運用や保有により生じる所得
  • 日本国内にある営業所等を通じた事業所得
  • 国内源泉所得に該当する報酬・使用料・利子・配当等
  • 国内にある不動産を売却した場合の譲渡所得

とりわけ注意しておきたいのが、日本の自宅を海外赴任中に賃貸するケースです。

海外赴任により非居住者となった場合でも、日本国内の不動産貸付による所得があれば、日本で確定申告が必要になることがあります。国内不動産の貸付けによる所得や、国内資産の譲渡による所得などがある方は、この点を見落とさないようにしたいところです。
出典:国税庁|No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合

「海外に住んでいるから、日本の確定申告は不要」と考えるのではなく、日本国内に発生源泉のある所得が残っていないかを、あらためて確認しておく必要があります。

非永住者は「外国人だから有利」という単純な制度ではない

外国籍の方が日本で働き始めた場合、「非永住者」に該当することがあります。

非永住者は、居住者ではあるものの、国外源泉所得について課税範囲が一定の範囲に限定されます。ただし、非永住者に該当するかどうかは、日本国籍の有無、過去10年以内の国内居住期間、国外源泉所得の性質、国内支払や国内送金の有無を踏まえて判断します。

気をつけたいのは、非永住者も、あくまで「居住者」の一類型だという点です。

つまり、非居住者とは立場が異なります。日本国内で働いて得た給与、日本国内の事業所得、日本国内の不動産所得などは、通常、日本での課税関係を確認する必要があります。

また、国外所得、外貨建て報酬、海外口座への入金、海外株式、ストックオプション、RSU、海外不動産収入などがある場合には、非永住者としての課税範囲の確認が重要になります。制度が有利か不利かだけで判断するのではなく、入金経路、所得の発生地、送金の有無、契約関係を、丁寧に整理していくことが欠かせません。

租税条約が関係する場合は国内法だけで終わらない

日本と外国の双方で、居住者と判定されてしまう場合があります。

このようなときは、租税条約があれば、その規定に従って、どちらの国の居住者にあたるかを判定することになります。個人については、たとえば恒久的住居の場所、利害関係の中心がある場所、常用の住居の場所、国籍という順序で判定していく例があります。
出典:国税庁|No.2875 居住者と非居住者の区分

本記事では租税条約の詳細までは踏み込みませんが、次のような場合は、国内法だけで判断しないほうがよい場面です。

  • 日本と海外の双方で給与や事業収入がある
  • 海外勤務先で現地課税されている
  • 海外居住中に日本国内の不動産所得がある
  • 外国で居住者証明や納税証明を求められている
  • 海外株式・海外不動産・海外年金・外国法人からの報酬がある
  • 日本と外国の両方から申告を求められている
  • 外国税額控除や二重課税の問題がある

国際税務では、「日本ではこう見える」という判断と、「相手国ではどう扱われるか」という判断が、食い違うことがあります。早い段階で、国・期間・所得の種類・支払者・入金口座・源泉徴収の有無を整理しておくことが大切です。

納税地とは何か

納税地とは、平たくいえば、所得税の確定申告書をどこの税務署に提出するかを決める場所のことです。

所得税の確定申告書は、提出時の納税地を所轄する税務署長に提出します。国内に住所がある方は住所地が納税地となり、国内に住所がなく居所がある方は居所地が納税地になります。また、亡くなった方の所得税の確定申告をする場合には、相続人の納税地ではなく、その方の死亡時の納税地が基準となります。
出典:国税庁|No.2029 確定申告書の提出先(納税地)

基本形は、次のとおりです。

状況原則的な納税地
国内に住所がある住所地
国内に住所はないが居所がある居所地
死亡した方の準確定申告死亡した方の死亡時の納税地
国内に住所・居所がなく、日本国内に事業所等がある事業所等の所在地など
国内に住所・居所がなく、日本国内の不動産貸付収入がある一定の場合、不動産所在地など

ここで意識しておきたいのは、納税地は、実際に住んでいる場所、住民票、事業所、出国後の状況、死亡時の状況によって変わり得るという点です。

申告書の提出先を誤ると、税務署間で書類が移送されることもあります。それだけでなく、期限管理や納付、還付、税務署からの連絡、税務調査への対応にも影響しますので、最初に確認しておきたいところです。

自宅以外を納税地にできる場合

納税地は、常に住所地に限られるわけではありません。

国内に住所のほかに居所がある方は、住所地に代えて居所地を納税地とすることができます。さらに、住所または居所のほかに事業所などがある場合には、その事業所などの所在地を納税地とすることも可能です。
出典:国税庁|No.2029 確定申告書の提出先(納税地)

個人事業者の場合、自宅と店舗・事務所が別の場所にあることは珍しくありません。

たとえば、次のようなケースです。

  • 自宅は神奈川県、店舗は東京都にある
  • 自宅とは別に事務所を借りている
  • 自宅を転居したが、事業所は従前の地域にある
  • 不動産所得の管理拠点が自宅とは別にある
  • もとは自宅兼事務所だったが、途中から事務所を独立させた

こうした場合、どこを納税地とするかによって、税務署とのやり取り、届出書の提出先、青色申告承認申請書、消費税関係の届出、源泉所得税関係の届出、税務調査時の連絡先などに影響が及ぶことがあります。

もっとも、事業所所在地を納税地にすること自体が目的ではありません。大切なのは、申告・届出・資料保存・税務署対応を、一貫して管理できる場所を選ぶことです。

転居した年の納税地

転居した年は、旧住所地と新住所地のどちらで申告するかが問題になります。

所得税の確定申告書は、提出時の納税地を所轄する税務署長に提出します。そのため、通常は、申告書を提出する時点の住所地が納税地になります。

ただし、年の途中で納税地の異動や変更があった場合には、申告書に異動後または変更後の納税地を記載することで手続を進めます。納税地に異動があるときは、異動後の納税地を記載した所得税または消費税の申告書を提出します。あわせて、年の途中で国税当局からの各種文書の送付先を異動・変更後の納税地としたいときは、申出書を提出することもできます。
出典:国税庁|A1-6 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続

転居した年に確認しておきたいのは、次の点です。

  • 申告書提出時点の住所地はどこか
  • 旧住所地に郵便物が届く状態になっていないか
  • 事業所所在地を納税地としていたか
  • 青色申告・消費税・源泉所得税・給与支払事務所の届出先に影響しないか
  • 振替納税の口座や通知先に影響しないか
  • 過年度の修正申告や更正の請求を行う場合、どの税務署が関係するか
  • 住民税の課税自治体との関係を混同していないか

所得税の納税地と、住民税における1月1日時点の住所地の考え方は、そもそも異なります。転居のあった年は、所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料の通知先を、それぞれ分けて確認しておく必要があります。

出国する年に確認しておきたいこと

海外勤務、海外移住、留学、長期滞在などで出国する年は、通常の年とは違った確認が必要になります。

主な論点は、次のとおりです。

  • 出国により、居住者から非居住者に変わるか
  • 出国日までの給与・退職金・事業所得・不動産所得をどう整理するか
  • 出国後も日本国内源泉所得があるか
  • 納税管理人を選任する必要があるか
  • 出国前に確定申告と納税を済ませる必要があるか
  • 予定納税・振替納税・還付金の受領に影響しないか
  • 国外転出時課税の対象になる資産があるか
  • 日本国内の不動産・証券口座・事業用資産をどう管理するか

納税管理人を選任する場合には、納税管理人を定めたとき、または出国の日までに、所得税・消費税の納税管理人の選任届出(または解任届出)の手続を行う必要があります。
出典:国税庁|A1-7 所得税・消費税の納税管理人の選任届出又は解任届出手続

納税管理人とは、本人に代わって、確定申告書の提出や税金の納付などを行う人のことです。法人でも個人でも差し支えありません。
出典:国税庁|No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合

ただし、納税管理人を置いたからといって、その方の住所地が申告先になるわけではありません。申告や納税の手続は、あくまで納税者本人の納税地を所轄する税務署に対して行います。
出典:国税庁|No.2029 確定申告書の提出先(納税地)Q1

この点を取り違えると、申告先や連絡先の管理が曖昧になってしまいます。

出国時に高額な有価証券等がある場合

海外移住や長期の出国では、国外転出時課税制度にも注意が必要です。

国外転出をする時点で1億円以上の有価証券等を所有等している場合には、所得税の確定申告等の手続が必要になります。
出典:国税庁|国外転出時課税制度

これは、一般的な給与所得者や、少額の資産しかお持ちでない方には関係しないことも多い制度です。

ただ、次のような方は、出国前に確認しておく必要があります。

  • 上場株式や投資信託を多額に保有している
  • 非上場株式を保有している
  • ストックオプションやRSUがある
  • 暗号資産や国外金融資産を含めて資産規模が大きい
  • 創業者・経営者・資産家・海外移住予定者である
  • 家族を含めて、国外移住や資産移転を検討している

出国時の税務判断は、申告期限の直前になってから確認したのでは間に合わない場合があります。出国日、居住者区分、納税管理人、保有資産、含み益、納税猶予、帰国予定まで含めて、あらかじめ整理しておくことが大切です。

亡くなった方の確定申告は「相続人の住所地」ではない

年の途中で納税者が亡くなった場合、その年の1月1日から死亡日までの所得について、準確定申告が必要になることがあります。

準確定申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行います。申告書には付表を添付し、被相続人が死亡した当時の納税地を所轄する税務署長に提出します。
出典:国税庁|No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

ここでよくある誤りが、相続人の住所地で提出しようとしてしまうことです。

亡くなった方の所得税申告では、相続人の納税地ではなく、その方の死亡時の納税地が基準になります。
出典:国税庁|No.2029 確定申告書の提出先(納税地)

準確定申告で確認しておきたいのは、次の点です。

  • 亡くなった方に確定申告義務があったか
  • 事業所得・不動産所得・年金所得・給与所得・譲渡所得があるか
  • 医療費控除・社会保険料控除・生命保険料控除などをどう扱うか
  • 死亡日までに発生した収入・経費はどこまでか
  • 相続開始後の賃料収入は誰に帰属するか
  • 青色申告特別控除や専従者給与の扱いに注意が必要か
  • 還付金がある場合、誰が受領するか
  • 相続税申告と所得税申告の資料が混在していないか

死亡があった年は、所得税・相続税・住民税・固定資産税・不動産収入の帰属が交差します。

準確定申告は、相続税申告とは別の手続です。しかし、用いる資料や事実関係は重なります。所得税だけを単独で処理するのではなく、不動産収入、事業資産、金融資産、保険金、相続人間の管理状況まで含めて整理していく必要があります。

納税地の判断を誤りやすいケース

次のようなケースでは、納税地の確認を後回しにしないほうがよいでしょう。

自宅と事業所が別にある

住所地で申告するのか、事業所所在地を納税地にするのかを整理します。青色申告・消費税・源泉所得税の届出と整合しているかも、あわせて確認します。

年の途中で転居した

申告書提出時点の納税地、税務署からの通知先、振替納税、過年度手続の提出先を確認します。住民税の課税自治体とは考え方が異なる点にも注意が必要です。

海外赴任中に国内不動産を貸している

非居住者であっても、日本国内の不動産所得については、日本で確定申告が必要になる場合があります。納税管理人と申告先の整理が欠かせません。

海外移住後も日本に資産がある

国内不動産、国内証券口座、国内事業、貸付金、役員報酬、退職金などがある場合には、国内源泉所得や源泉徴収の確認が必要です。

亡くなった方に事業・不動産・資産売却がある

準確定申告の期限、提出先、所得の発生時期、相続開始後の収入の帰属を整理する必要があります。

住民票と生活実態がずれている

住民票は重要な資料ですが、所得税法上の住所判定は、生活の本拠を客観的な事実によって判断します。住民票だけで結論を出さないほうが安全です。

判断に必要な資料

納税者、居住者区分、納税地を判断するには、次の資料を整理しておきます。

  • 住民票の異動履歴
  • 転居日・出国日・帰国予定日
  • パスポートの出入国履歴
  • 海外勤務の辞令、雇用契約書、赴任期間が分かる資料
  • 国内外の賃貸借契約書、住宅の所有・賃貸状況
  • 配偶者・子ども・扶養親族の居住状況
  • 国内外の給与明細、源泉徴収票、現地給与資料
  • 日本国内の不動産賃貸契約、家賃入金明細、管理会社の精算書
  • 国内外の証券口座、年間取引報告書、残高資料
  • 事業所・店舗・事務所の所在地資料
  • 青色申告承認申請書、開業届、消費税届出書
  • 納税管理人の届出書
  • 過年度の確定申告書、住民税通知書
  • 亡くなった方の収入資料・経費資料・通帳、相続人関係資料

とくに、海外勤務、二拠点生活、出国、相続、不動産収入がある場合は、一つの資料だけで判断することはできません。

「税務署に出す申告書を作る」その前に、生活実態・契約・資産・入金・家族の状況を整理しておくことが大切です。

自分で判断する場合の確認フロー

申告の前には、次の順番で確認していくと、整理しやすくなります。

1. まず本人の状態を確認する

その年の1月1日から12月31日までの間に、転居・出国・帰国・死亡・開業・廃業がなかったかを確認します。

2. 居住者区分を確認する

国内に住所があるか、1年以上の居所があるか、海外勤務の期間、生活の本拠、家族の居住状況、資産の所在を確認します。

3. 課税される所得の範囲を確認する

居住者であれば原則として国内外の所得、非永住者であれば国外源泉所得の支払・送金の関係、非居住者であれば国内源泉所得を確認します。

4. 納税地を確認する

住所地、居所地、事業所所在地、出国後の国内不動産所在地、死亡時の納税地などを確認します。

5. 申告者・手続者を確認する

本人が申告するのか、納税管理人が手続するのか、相続人が準確定申告を行うのかを確認します。

6. 申告期限と届出期限を確認する

通常の確定申告期限、出国前の手続、納税管理人の届出、準確定申告の4か月の期限、各種届出の期限を確認します。

7. 翌年以降への影響を確認する

居住者区分、納税地、青色申告、消費税、住民税、国民健康保険料、金融機関への説明資料に影響しないかを確認します。

専門家に相談したい場面

次のような場合は、ご自身だけで結論を急がないほうがよい場面です。

  • 海外勤務・出国・帰国がある
  • 日本と海外の双方に滞在地がある
  • 海外に給与・役員報酬・事業収入・不動産収入がある
  • 日本国内の不動産を、海外居住中に貸している
  • 海外赴任中に、日本の自宅を売却する
  • 外国籍で日本勤務を開始し、非永住者に該当する可能性がある
  • 海外株式・海外不動産・外貨建て資産・暗号資産がある
  • 国外転出時課税が問題になり得る資産規模がある
  • 亡くなった方に事業所得・不動産所得・譲渡所得がある
  • 相続開始後の賃料収入の帰属が曖昧である
  • 住民票・実際の居住地・事業所所在地が一致していない
  • 過年度の申告で、居住者区分や納税地を誤った可能性がある

居住者区分や納税地は、形式だけで判断しづらい論点です。結論を出すには、取引実態、生活実態、家族、資産、契約、入出金、そして過去からの継続性を確認する必要があります。

納税者・居住者区分・納税地の整理に不安がある方へ

確定申告で最初に確認すべきなのは、税額計算そのものではありません。

誰が納税者なのか、居住者か非居住者か、非永住者に該当するか、どこの税務署に申告するのか、本人が申告するのか、それとも相続人や納税管理人が関与するのか。ここを取り違えると、その後の所得区分、控除、損益通算、源泉徴収、住民税、資料保存、税務調査への対応にまで影響が及びます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、確定申告を単なる申告書の作成としてではなく、納税者、居住者区分、納税地、収入の帰属、資料保存、そして将来の説明可能性まで含めた税務判断として整理することを大切にしています。

  • 「海外勤務や出国がある年の申告が不安」
  • 「日本と海外の所得が混在している」
  • 「転居後の申告先や届出が分からない」
  • 「亡くなった家族の準確定申告と相続関係の整理が必要」
  • 「不動産収入や資産売却があり、誰がどこで申告すべきか判断しきれない」

こうした場合は、申告期限の直前に数字だけを集計するのではなく、まず前提となる事実関係を整理しておくことが重要です。必要な判断を早い段階で整えておきたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点確認すべきポイント
納税者誰の所得について所得税を負担・申告するのかを確認する
申告手続を行う人本人・納税管理人・相続人など、場面により手続者が変わる
居住者国内に住所がある、または現在まで引き続いて1年以上居所がある個人
非居住者居住者以外の個人。日本では原則として国内源泉所得が課税対象
非永住者居住者のうち、日本国籍がなく、過去10年以内の国内住所・居所期間が5年以下の個人
住所生活の本拠。住民票だけではなく、客観的な事実で判断する
居所生活の本拠ではないが、現実に居住している場所
課税範囲居住者・非永住者・非居住者で、日本の所得税が及ぶ範囲が変わる
海外勤務1年以上の海外勤務予定では非居住者と推定されることがあるが、生活実態の確認が必要
非居住者の国内所得国内不動産収入や国内資産の譲渡などは、日本で申告が必要になる場合がある
納税地原則は住所地。居所地・事業所所在地・死亡時の納税地などの特例も確認する
転居申告書提出時点の納税地、通知先、事業所所在地、住民税との違いを確認する
出国居住者区分、納税管理人、国内源泉所得、国外転出時課税を確認する
納税管理人出国等で国内に住所を有しない場合、申告・納付等のため選任が必要になることがある
死亡時準確定申告は相続開始を知った日の翌日から4か月以内。提出先は死亡した方の死亡時の納税地
相談前資料住民票、出入国履歴、勤務契約、家族の居住状況、国内外資産、過年度申告書を整理する
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