三様監査は、会議を開催すれば機能するというものではありません。
監査役等、内部監査、会計監査人が定期的に集まり、監査計画や監査結果を報告し合うこと。これ自体は、もちろん重要です。しかし、それだけで監査品質や財務報告の信頼性が高まるとは限りません。
三様監査が形だけになっている会社では、次のような状態がしばしば見られます。
- 会議体は存在していても、重要なリスクが共有されていない
- 内部監査の指摘事項が、会計監査人のリスク評価に反映されていない
- 監査役等が把握している経営者の懸念事項が、監査計画に接続されていない
- 会計監査人のKAM候補が、会社の注記や監査役等の監査計画に十分に活かされていない
つまり、情報交換はあるが、監査判断には反映されていない。そうした状態です。
三様監査の本質は、監査役等・内部監査・会計監査人という異なる監査機能が、それぞれの責任を維持したまま、財務報告に関する重要なリスク、内部統制の不備、改善状況、開示上の論点を共有し、各自の監査判断に反映することにあります。
本記事では、三様監査の実効性を高めるためのコミュニケーションを、監査計画、リスク共有、指摘事項、改善状況、監査調書、KAM候補、期末報告という観点から整理します。
三様監査とは何か
三様監査とは、一般に、監査役等による監査、内部監査、会計監査人による監査の三つを指します。ただし、この三つは同じ種類の監査ではありません。
内部監査は、会社内部の機能として、業務、リスク管理、内部統制、コンプライアンス、財務報告プロセスなどを評価し、改善を促す役割を担います。その基本的な流れは、業務の計画、業務の実施、結果の報告、継続的な監視というプロセスで整理できます。
監査役等は、取締役等の職務執行を監査し、会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断します。あわせて、財務報告プロセスや内部統制システムの整備・運用を監視する立場にあります。
会計監査人は、財務諸表等について監査基準に基づく監査を実施し、十分かつ適切な監査証拠に基づいて監査意見を形成します。内部監査、監査役・監査委員監査、会計士監査は、目的、対象領域、根拠、報告先が異なる監査機能として整理されます。
したがって、三様監査は「三者が同じ作業を分担する仕組み」ではありません。むしろ、同じ財務報告リスクを、異なる責任と視点から確認するための仕組みです。
会計監査人が、財務諸表監査のために見るリスク。
内部監査が、業務プロセスと内部統制の改善のために見るリスク。
監査役等が、取締役等の職務執行とガバナンスの観点から見るリスク。
この三つを接続すること。そこに、三様監査の意味があります。
三様監査の目的は「情報交換」ではなく「監査判断への反映」である
三様監査の会議では、各監査機能が監査計画や監査結果を報告します。しかし、単に資料を共有するだけでは、実効性は高まりません。
重要なのは、その情報が、誰のどの判断に影響するのかを明確にすることです。
内部監査が販売プロセスの承認不備を指摘したとします。それは、内部監査上の改善事項にとどまるのか。収益認識、売掛金、カットオフ、不正リスクに関する会計監査人のリスク評価に影響するのか。あるいは、監査役等が経営者に改善を求めるべき内部統制上の問題なのか。
会計監査人が、会計上の見積りをKAM候補としている場合はどうでしょうか。それは監査報告書の記載候補にとどまるのか。それとも、会社の注記の充実、監査役等の監査計画、内部監査による基礎データ・業務プロセスの点検にまで影響するのか。
監査役等が、経営者の説明に違和感を持っている場合も同じです。それは監査役等内部の懸念にとどまるのか。会計監査人の不正リスク評価や、内部監査の監査対象選定に影響するのか。
三様監査では、この接続が必要です。
情報交換の場ではなく、監査判断を更新する場。これが、実効的な三様監査の出発点です。
三様監査におけるコミュニケーションの前提
三様監査を機能させるためには、まず、三者の責任の違いを曖昧にしないことが必要です。
内部監査が実施したからといって、そのまま会計監査人の監査証拠になるとは限りません。会計監査人が監査したからといって、監査役等の監査責任がなくなるわけでもありません。監査役等に報告したからといって、会計監査人の追加手続が不要になるわけでもないのです。
監査基準報告書260は、監査人と監査役等との有効な双方向のコミュニケーションの重要性を明示しています。そこでは、監査人が監査役等から監査に関連する情報を入手すること、そして監査役等が財務報告プロセスを監視する責任を果たすことに資する、という点が示されています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書260 監査役等とのコミュニケーション
同時に、監査人によるコミュニケーションが、経営者または監査役等の責任を代替するものではないことも、あわせて明確にされています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書260 監査役等とのコミュニケーション
三様監査も、同じです。
三者が連携するほど、責任の境界は曖昧になりやすくなります。だからこそ、役割分担を明確にしたうえで、重要情報を共有する必要があるのです。
内部統制の観点から見た三様監査
三様監査は、財務報告に係る内部統制とも密接に関係します。
内部統制は、業務の有効性・効率性、報告の信頼性、法令等の遵守、資産の保全という目的を達成するために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスです。そして、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応という基本的要素から構成されます。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
このうち、三様監査と特に関係が深いのは、「情報と伝達」と「モニタリング」です。
情報と伝達では、必要な情報が識別・把握・処理され、組織内外および関係者相互に正しく伝えられることが求められます。単に伝達されるだけでなく、受け手に正しく理解され、必要とする組織内の者に共有されることが重要になります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
モニタリングは、内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスです。ここには、日常的モニタリングと、業務から独立した視点による独立的評価があります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
内部監査は、この独立的評価の中心的な担い手になり得ます。一方で監査役等は、取締役会・経営者・内部監査人等との間で適時かつ適切な意思疎通が図られているか、指摘事項が組織で適切に取り扱われているかを含めて、モニタリング機能の有効性を見ることになります。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
三様監査は、内部統制の外にある会議体ではありません。財務報告に係る内部統制の「情報と伝達」と「モニタリング」を、ガバナンス上実効化するための重要な接点です。
実効的な三様監査で共有すべき情報
三様監査で共有すべき情報は、監査スケジュールや実施状況に限られません。少なくとも、次の情報が監査判断に接続される必要があります。
- 監査計画
- リスク評価
- 重点監査項目
- 内部統制不備
- 内部監査の指摘事項
- 改善状況
- 未修正虚偽表示
- 会計上の見積り
- 不正リスク
- 経営者との見解相違
- 開示上の論点
- KAM候補
- 監査報告書に影響する事項
- 監査調書・内部監査調書の水準
- グループ会社・子会社に関する情報
- IT統制・決算財務報告プロセスに関する課題
日本監査役協会と日本公認会計士協会の共同研究報告も、監査計画の策定時に情報交換・意見交換すべき事項として、監査人による監査計画、監査上の重要課題、特別な検討を必要とするリスク、KAM候補、内部統制上の重要な不備、内部統制評価の方法・時期、監査スケジュールなどを例示しています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
また、期末監査時については、監査計画からの相違、特別な検討を必要とするリスクへの対応、会計・監査上の検討事項、内部統制の開示すべき重要な不備または重要な不備の内容と改善状況、未修正虚偽表示、監査報告書の記載内容、KAMとして選定された事項などが例示されています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
ここから分かるのは、三様監査で共有すべき情報は「実施報告」ではなく「判断に影響する情報」だということです。
監査計画の共有は、日程共有ではない
三様監査の初期段階でよく行われるのが、監査計画の共有です。しかし、ここで失敗しやすいのが、監査計画を日程表として共有してしまうことです。
会計監査人がいつ往査するか。
内部監査がどの部門をいつ見るか。
監査役等がいつ取締役会や重要会議に出席するか。
これらは必要な情報です。ただ、三様監査の実効性を高めるには、それだけでは足りません。
監査計画で共有すべき中心は、日程ではなくリスクです。
会計監査人は、重要性、重要な虚偽表示リスク、特別な検討を必要とするリスク、内部統制への依拠、会計上の見積り、KAM候補、不正リスク、グループ監査上のリスクを説明する必要があります。監査基準報告書260でも、監査人は、計画した監査の範囲と実施時期の概要を監査役等とコミュニケーションし、そこに識別された特別な検討を必要とするリスクを含めることが求められています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書260 監査役等とのコミュニケーション
内部監査は、年度監査計画、重点監査項目、リスクアセスメント、対象部門、監査範囲、監査手続、フォローアップ予定を共有する必要があります。内部監査においては、監査対象業務・部門を事前に調査し、重点分野を識別したうえで、監査目的、監査範囲、監査方法、実施予定日、監査資源を含めた監査計画を文書化しておくことが重要です。
監査役等は、監査方針、重点監査項目、取締役会・経営会議等で把握しているリスク、子会社・グループ会社に関する懸念、内部通報や不正疑義、経営者の姿勢に関する情報を共有します。
三様監査の計画共有では、三者が同じリスク地図を持つこと。それが何より重要です。
リスク共有で重要なのは「同じ言葉で話す」こと
三様監査のコミュニケーションでは、同じ言葉を使っていても、意味がずれていることがあります。
会計監査人がいう「重要な虚偽表示リスク」。
内部監査がいう「業務リスク」。
監査役等がいう「経営上のリスク」。
経営者がいう「事業リスク」。
これらは重なる部分がありますが、完全には一致しません。
たとえば、収益認識に関するリスクを考えてみます。会計監査人は、契約識別、履行義務、取引価格、期間帰属、カットオフ、不正リスクを中心に見るでしょう。内部監査は、受注、出荷、検収、請求、入金、マスタ管理、権限、例外処理、システム処理を見ます。監査役等は、売上目標、経営者のプレッシャー、取締役会での業績説明、子会社管理、内部通報、外部環境を見ます。
同じ収益認識リスクでも、見ている入口が違うのです。
三様監査では、この違いを前提に、リスクを次のように翻訳する必要があります。
- 事業上のリスクが、どの勘定科目や開示に影響するか
- 業務プロセス上の不備が、どのアサーションに影響するか
- 内部監査の指摘事項が、会計監査上のリスク評価に影響するか
- 監査役等の懸念が、不正リスクや経営者バイアスの評価に影響するか
- 会計監査人のKAM候補が、会社の注記や取締役会での説明に影響するか
この翻訳ができていない三様監査では、三者がそれぞれ正しいことを話していても、監査判断にはつながりません。
内部監査の指摘事項は、原因・影響・改善状況まで共有する
三様監査で内部監査結果を共有する場合、指摘事項一覧を配布するだけでは不十分です。重要なのは、発見事項の背景です。
- 何が起きたのか
- なぜ起きたのか
- どの業務プロセスで起きたのか
- どの統制が効いていなかったのか
- 発生頻度はどの程度か
- 影響額または潜在的影響はどの程度か
- 財務報告に関係するか
- 補完統制はあるか
- 改善策は原因に対応しているか
- 改善は完了しているか
- 完了後に再発していないか
内部監査の流れでは、発見事項・指摘事項の作成、改善提案、監査報告書、改善状況の確認、フォローアップが一連のプロセスとして整理されます。
会計監査人にとって、内部監査の指摘は、リスク評価や内部統制評価に影響し得るものです。内部監査人の作業を監査証拠として利用する場合には、内部監査機能の客観性、能力、そして専門職としての規律ある姿勢と体系的な手法を評価する必要があります。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書610 内部監査人の作業の利用
そして、内部監査人の作業を利用したとしても、監査意見に対する会計監査人の責任が軽減されるわけではありません。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書610 内部監査人の作業の利用
したがって、三様監査で内部監査結果を共有する際には、内部監査報告書の結論だけでなく、監査調書の水準、手続、証拠、例外事項、改善状況まで確認することが必要になります。
改善状況の共有は、監査上のリスクを更新するために行う
三様監査では、過去の指摘事項の改善状況がしばしば議題になります。しかし、「改善済」「対応中」「未対応」という管理表だけでは、監査上の判断にはつながりにくいものです。
重要なのは、改善状況がリスク評価をどう変えるかです。
改善が完了していない場合、会計監査人は統制リスクを見直す必要があるかもしれません。実証手続の範囲を拡大する必要があるかもしれません。内部統制監査上、不備の重要性評価に影響することもあり得ます。
改善が完了している場合でも、設計だけが完了したのか、運用まで確認されているのかを分けて考える必要があります。規程を改定しただけで、現場運用が変わっていなければ、統制の有効性は回復していません。
改善が繰り返し遅れている場合はどうでしょうか。それは単なる個別不備ではなく、経営者の統制意識、管理者の責任、取締役会・監査役等への報告体制、モニタリングの弱さを示している可能性があります。
三様監査で改善状況を共有する目的は、進捗確認ではありません。リスク評価を更新することです。
監査調書の相互理解は、監査品質を高める
三様監査において、監査調書そのものを無制限に共有することは、通常は想定されません。守秘義務、監査人の独立性、監査調書の所有・管理、監査法人の方針など、留意すべき点があるからです。
しかし、監査調書の相互理解は重要です。
ここでいう相互理解とは、三者が互いの調書様式を把握することではありません。どのような判断過程を、どの程度文書化しているかを理解することです。
内部監査は、監査目的、範囲、手続、証拠、例外事項、原因分析、改善提案、フォローアップをどのように残しているか。
監査役等は、取締役会、経営者面談、内部監査報告、会計監査人報告をどのように監査調書に残しているか。
会計監査人は、リスク評価、監査手続、証拠評価、見積り判断、KAM候補、未修正虚偽表示、内部統制不備をどのように監査調書に残しているか。
外部監査人が内部監査人の作業を利用する場合には、その作業が適切に計画、実施、監督、査閲、文書化されているか、合理的な結論を導く十分かつ適切な証拠が入手されているか、内部監査の結論が状況に照らして妥当かを評価する必要があります。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書610 内部監査人の作業の利用
三様監査で監査調書の相互理解を行うことは、単なる品質点検ではありません。重要論点について、後から説明できる状態を三者で整えることです。
KAM候補は、期末に突然出すものではない
KAMは、三様監査の実効性が表れやすい領域です。
監査基準報告書701は、KAMの報告目的を、実施された監査に関する透明性を高め、財務諸表利用者に対して、当年度の財務諸表監査において監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項を理解するための追加情報を提供することにある、としています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書701 独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告
また、KAMの報告は、財務諸表の表示・注記の代替でも、除外事項付意見の代替でも、個別事項への意見表明でもありません。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書701 独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告
KAM候補は、会計監査人が単独で文章を作る段階になって、初めて議論するものではありません。
会計上の見積り、収益認識、不正リスク、減損、税効果、金融商品の時価、連結範囲、継続企業の前提など、KAM候補になり得る論点は、監査計画段階から監査役等や内部監査と共有されるべきものです。
監査基準報告書701の適用指針でも、監査人は、計画した監査の範囲と実施時期についてコミュニケーションを行う際、通常、KAMとなる可能性がある事項についてもコミュニケーションを行い、監査上の発見事項を報告する際にさらにコミュニケーションを行うとされています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書701 独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告
KAMは、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から決定されます。であればこそ、KAM候補を含むリスク情報等について監査人とコミュニケーションをとっておくことが、監査役等の監査計画の作成や修正にも役立つ。私はそう考えています。
したがって、三様監査では、KAM候補を次のように扱う必要があります。
- 監査計画段階で、KAM候補になり得る重要論点を共有する
- 期中で、会社の対応、内部統制、開示案、監査手続の進捗を確認する
- 期末で、監査上の対応、注記との整合、監査報告書の記載内容を確認する
- 必要に応じて、内部監査が基礎データや業務プロセスの整備状況を確認する
- 監査役等が、経営者に対して注記や説明の充実を促す
KAM候補は、監査報告書の文章の問題ではありません。監査上の重要判断を、財務諸表利用者に説明できる状態に整えるプロセスです。
不正リスクは、随時共有すべき事項である
三様監査で最も形式化してはいけないのが、不正リスクの共有です。
不正リスクは、期首の監査計画に一度記載すれば足りるものではありません。経営環境、業績目標、資金繰り、経営者のプレッシャー、内部統制の不備、内部通報、子会社管理、関連当事者取引、期末仕訳、会計上の見積りの変化に応じて、常に更新されるべきものです。
内部統制基準においても、不正に関するリスクの評価では、動機とプレッシャー、機会、姿勢と正当化を考慮することが重要とされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
会計不正は、取引スキームを熟知した人物が内部統制の欠陥を突いて行うことが多いものです。不正実行者以外が取引の詳細を把握しておらず、モニタリングが不十分な場合もあります。
三様監査では、次の情報を随時共有すべきです。
- 経営者による不正またはその疑い
- 内部統制上重要な役割を担う従業員による不正またはその疑い
- 財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある不正またはその疑い
- 内部通報、コンプライアンス違反、重大な規程違反
- 期末近くの異常な取引、非定型取引、関連当事者取引
- 会計上の見積りにおける楽観的または恣意的な仮定
- 過年度訂正、内部統制不備、開示漏れにつながる可能性のある事象
共同研究報告でも、随時の連携事項として、不正の発見または疑い、監査上の発見事項、会計上の変更および誤謬の訂正、KAM候補の追加・除外、監査計画の重要な修正などが例示されています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
不正リスクの共有は、誰かを疑うために行うものではありません。重要な虚偽表示リスクを見逃さないためです。
三様監査でよくある失敗
三様監査が形骸化するときには、典型的なパターンがあります。
1. 会議が報告会になっている
各者が資料を読み上げ、質疑なく終了する状態です。
この場合、情報は共有されていますが、判断は共有されていません。何が重要なのか、誰の監査計画に影響するのか、どの改善状況を次回確認するのかが曖昧なまま終わってしまいます。
2. 内部監査の指摘事項が会計監査と接続されていない
内部監査が多くの指摘事項を出していても、それが財務報告リスク、勘定科目、アサーション、内部統制監査に接続されていない状態です。
たとえば、販売管理の承認不備が、収益認識や売掛金の実在性・期間帰属に関係するか。棚卸管理の不備が、棚卸資産の実在性・評価に関係するか。IT権限管理の不備が、仕訳入力やマスタ変更リスクに関係するか。
この接続がなければ、内部監査結果は会計監査に活かされません。
3. 監査役等の問題意識が監査計画に反映されていない
監査役等は、取締役会、経営会議、代表取締役面談、内部監査報告、内部通報、子会社往査などから、会計監査人とは異なる情報を得ています。
しかし、その問題意識が会計監査人や内部監査に伝わらなければ、監査計画は会社の実態からずれていきます。
共同研究報告でも、監査役等が監査人の監査に影響を及ぼすと判断した事項として、事業上のリスク、監査人に追加手続の実施を要請する領域、法令等の遵守状況、内部統制の整備・運用状況、不正および不正発生の可能性などが例示されています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
4. KAM候補が期末の文案調整になっている
KAM候補の検討が期末の監査報告書文案の段階で始まると、会社の注記、監査役等の理解、内部監査の確認、監査調書の整合性が追いつかないことがあります。
KAM候補は、期首・期中から監査上の重要論点として共有し、会社の開示や監査役等の監査計画と接続すべきものです。
5. 改善状況が「完了」表示だけで終わっている
改善完了と表示されていても、統制の運用実績がない、証跡が残っていない、現場に定着していない、再発防止が不十分ということがあります。
三様監査では、改善完了の意味を明確にする必要があります。
設計完了なのか。運用開始なのか。運用評価済みなのか。再発防止まで確認済みなのか。
三様監査のコミュニケーションを年間プロセスで設計する
三様監査は、期末だけで行うものではありません。年間を通じて、次のような流れで設計する必要があります。
期首・監査計画段階
この段階では、三者の監査計画をすり合わせます。
会計監査人は、監査上の重要性、重要な虚偽表示リスク、特別な検討を必要とするリスク、内部統制への依拠、KAM候補、監査スケジュールを共有します。
内部監査は、年度内部監査計画、重点監査項目、リスク評価、J-SOX評価との関係、前期指摘事項のフォローアップ計画を共有します。
監査役等は、監査方針、重点監査項目、取締役会・経営者面談で把握しているリスク、子会社・グループ監査上の懸念、内部統制に関する問題意識を共有します。
この段階の目的は、三者の監査計画を同じ方向に揃えることではありません。重要リスクに対する監査上の空白と重複を把握することです。
期中・内部統制評価段階
期中では、内部統制評価、内部監査指摘、J-SOX評価、IT統制、決算・財務報告プロセス、改善状況を中心に共有します。
この段階で重要なのは、期末に持ち越す論点を明確にすることです。
- 内部統制不備が財務諸表監査の手続に影響するか
- 改善未了事項が期末決算に影響するか
- 内部監査指摘がKAM候補や開示上の論点に関係するか
- J-SOX上の不備評価に影響する可能性があるか
- 不正リスク評価を更新すべき兆候があるか
期中の三様監査は、期末監査の前倒しではありません。期末に論点が爆発しないよう、リスクと改善状況を更新する場です。
四半期・中間段階
2024年以降の四半期開示制度の見直しを踏まえると、四半期・中間段階でのコミュニケーションも、レビューの有無だけで判断すべきではありません。
共同研究報告は、任意の四半期財務諸表等に対する期中レビューの有無にかかわらず、監査人の監査実施状況、KAM候補、特別な検討を必要とするリスク、内部統制の重要な不備と改善状況、監査役等の監査実施状況などをコミュニケーションすることが考えられるとしています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
四半期・中間の三様監査では、早期に異常を拾うことが重要です。
とりわけ、業績予想、資金繰り、棚卸、売上カットオフ、見積り、後発事象、適時開示、内部統制不備の改善状況。これらは、年度末まで待つべきではありません。
期末監査段階
期末では、論点を収束させます。
- 未修正虚偽表示
- 会計上の見積り
- 経営者確認書
- 後発事象
- 継続企業の前提
- 開示の十分性
- 内部統制不備
- KAM
- 監査報告書
- 監査役等の監査報告
この段階で重要なのは、「結論」だけでなく「結論に至る判断過程」を共有することです。
- なぜその見積りを許容したのか
- 未修正差異は、量的重要性だけでなく質的重要性の観点から問題ないのか
- 内部統制不備は、開示すべき重要な不備に該当しないのか
- KAMの記載は、注記と整合しているのか
- 監査報告書に影響する未解決事項はないのか
期末の三様監査は、監査報告書の直前に形式的な合意を得る場ではありません。それぞれの責任に基づき、監査報告に耐える判断過程を確認する場です。
監査終了後・次年度計画段階
監査終了後の三様監査も重要です。
当年度の監査で識別された課題を、次年度の監査計画、内部監査計画、監査役等の重点監査項目に反映する必要があります。
- 内部監査の対象を見直すべきか
- 会計監査人のリスク評価を見直すべきか
- 監査役等が経営者に改善を求めるべき事項は何か
- J-SOX評価範囲を見直すべきか
- 開示プロセスや決算スケジュールを改善すべきか
- KAM候補や見積り注記の検討を早期化すべきか
監査終了後の振り返りがない三様監査では、毎年同じ問題が繰り返されます。
三様監査の実効性を高めるための議題設計
三様監査を実効的にするには、会議の議題を「誰が何を報告するか」ではなく、「どの判断を更新するか」で設計する必要があります。
たとえば、次のような議題設定が考えられます。
- 監査計画上の重要リスクに変化はあるか
- 内部監査の指摘事項は、会計監査人のリスク評価に影響するか
- 監査役等の懸念事項は、内部監査計画または会計監査計画に反映すべきか
- 前期からの改善未了事項は、内部統制監査上どのように評価されるか
- KAM候補について、会社の注記、監査対応、監査役等の理解は整合しているか
- 不正リスクに関する新たな情報はあるか
- 決算・開示プロセスに、期末監査や適時開示に影響する課題はあるか
- 未修正虚偽表示や開示修正事項について、監査役等が理解すべき質的重要性はあるか
- グループ会社・子会社に関する監査上の空白はないか
- 監査調書・内部監査調書・監査役等調書に、後から説明できる判断過程が残っているか
このように議題を設計すると、三様監査は報告会ではなく、監査判断の更新会議になります。
三様監査における「監査役等」の役割
三様監査において、監査役等が単なる参加者になってはいけません。
監査役等は、取締役等の職務執行を監査し、会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断する立場にあります。共同研究報告でも、監査役等と監査人はコーポレート・ガバナンスの一翼を担い、それぞれの職務を通じて企業活動の健全化を図り、企業価値の向上に貢献するものと整理されています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
監査役等は、三様監査において、少なくとも次の役割を担います。
- 会計監査人の監査計画とリスク認識を理解する
- 内部監査の指摘事項と改善状況を把握する
- 経営者の説明と、各監査機能から得た情報の整合性を確認する
- 必要に応じて、経営者に説明や改善を求める
- KAM候補や開示上の重要論点について、会社の注記・記述情報の充実を促す
- 会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断するための情報を入手する
- 取締役会や監査役会等に、重要な監査論点を適切に報告する
監査役等が受け身でいると、三様監査は会計監査人と内部監査の報告会になってしまいます。監査役等が主体的に論点を整理してはじめて、三様監査はガバナンス機能になります。
会計監査人が三様監査で果たすべき役割
会計監査人は、三様監査において、監査上の専門的判断を説明可能な形で共有する必要があります。
重要なのは、監査手続の詳細をすべて説明することではありません。監査判断の根拠を説明することです。
- なぜその領域を重要リスクと評価したのか
- 内部統制にどの程度依拠するのか
- 内部監査の指摘事項をどのように評価したのか
- 未修正虚偽表示をどのように評価したのか
- 見積りの仮定にどのような不確実性があるのか
- KAM候補をどのように絞り込んでいるのか
- 開示の十分性をどのように評価しているのか
- 監査報告書に影響する可能性がある事項は何か
監査基準報告書260は、監査人が監査役等に対して、会計方針、会計上の見積り、財務諸表の表示・注記事項を含む会計実務の質的側面のうち重要なもの、監査期間中に直面した困難な状況、経営者と協議・伝達した重要事項、監査報告書の様式・内容に影響する状況などをコミュニケーションすることを求めています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書260 監査役等とのコミュニケーション
会計監査人は、監査役等や内部監査に迎合する必要はありません。しかし、重要な監査判断を、後から説明できる形で共有する必要があります。
内部監査が三様監査で果たすべき役割
内部監査は、三様監査において、会社内部のリスクと統制の実態をつなぐ役割を担います。
内部監査は、経営者と外部監査人との間の調整役・連絡役として機能し、会計プロセスの独立的評価者としても機能し得ると整理されています。
ただし、内部監査が単なる資料収集係や外部監査対応窓口になってはいけません。
内部監査が三様監査で共有すべきなのは、次のような情報です。
- 年度内部監査計画
- リスクアセスメント
- 監査対象部門の選定理由
- 内部監査手続
- 発見事項・指摘事項
- 原因分析
- 改善提案
- 改善期限
- フォローアップ結果
- 未改善事項
- 経営者・取締役会への報告状況
- J-SOX評価との関係
- 不正リスクや内部通報に関する情報
- IT統制・決算財務報告プロセスに関する課題
内部監査は、会社内部の実態に最も近い情報を持っています。その情報を、会計監査人のリスク評価、監査役等のガバナンス監査、経営者の改善活動に接続すること。それが重要です。
三様監査を監査調書にどう残すか
三様監査の実効性は、調書化にも表れます。
「三様監査会議を実施した」とだけ記録しても、意味はありません。記録すべきなのは、次の点です。
- どのリスクを共有したのか
- どの情報が新たに提供されたのか
- 誰の監査計画に影響するのか
- 内部監査の指摘事項はどのように評価されたのか
- 監査役等からどのような懸念が示されたのか
- 会計監査人はリスク評価や監査手続を見直したのか
- KAM候補に変更はあったのか
- 内部統制不備の評価や改善状況に関する認識差異はあるか
- 次回までに誰が何を確認するのか
- 未解決事項は何か
特に、内部監査人の作業を会計監査人が利用する場合には、内部監査機能の客観性・能力・体系的手法の評価、利用する作業の種類と範囲、その決定根拠、利用する作業の適切性評価に関して実施した監査手続を、監査調書に記載する必要があります。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書610 内部監査人の作業の利用
三様監査の調書化は、会議録を残すことではありません。監査判断への反映を残すことです。
三様監査を実効化するための判断軸
三様監査が機能しているかどうかは、次の問いで判断できます。
- 三者がそれぞれの責任を理解したうえで参加しているか
- 会議が報告会ではなく、リスク評価を更新する場になっているか
- 内部監査の指摘事項が、財務報告リスクに接続されているか
- 監査役等の問題意識が、会計監査人や内部監査に伝わっているか
- 会計監査人の重要リスク・KAM候補が、監査役等の監査計画や会社の開示に接続されているか
- 内部統制不備の改善状況が、設計・運用・再発防止の水準で確認されているか
- 不正リスクに関する情報が、随時共有されているか
- 期末に初めて重要論点が表面化していないか
- 三様監査で得た情報が、それぞれの監査調書に反映されているか
- 監査終了後の振り返りが次年度計画に反映されているか
この問いに答えられない三様監査は、形式としては存在していても、実効性には課題があります。
三様監査は「協調」と「緊張感」の両方が必要である
三様監査では、協調が必要です。しかし、協調だけでは不十分です。緊張感もまた必要になります。
監査役等、内部監査、会計監査人は、互いに協力しながらも、互いの責任を代替しません。相手の説明をそのまま受け入れるのではなく、必要な質問を行い、根拠を確認し、判断の前提を明確にする必要があります。
共同研究報告も、監査役等と監査人の適切な連携には、相互の信頼関係を基礎としながら、相互の改善点などについて随時意見交換を行う、緊張感のある協力関係の下での有効な双方向コミュニケーションが必要であると整理しています。
出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
三様監査の目的は、仲良く情報交換することではありません。財務報告の信頼性を高めることです。
必要な場面では、監査役等が経営者に改善を求める。
内部監査が現場の不備を明確に指摘する。
会計監査人が追加手続や開示修正を求める。
三者が互いの判断根拠を確認する。
この緊張感があって初めて、三様監査は監査品質につながります。
まとめ|三様監査を「会議」から「判断プロセス」へ変える
三様監査の実効性は、会議の開催回数では決まりません。
- どのリスクを共有したか
- どの指摘事項を監査判断に反映したか
- どの改善状況を確認したか
- どのKAM候補を早期に議論したか
- どの不正リスクを随時共有したか
- どの監査調書に判断過程を残したか
これらによって決まります。
監査役等、内部監査、会計監査人は、それぞれ異なる責任を持ちます。だからこそ、同じ情報を持つだけでは足りません。同じ情報を、それぞれの監査判断にどう反映するかを明確にする必要があります。
三様監査を形式的な会議で終わらせるか。監査品質と財務報告の信頼性を高める判断プロセスにできるか。
その違いは、コミュニケーションの設計にあります。
主な出典・根拠
- 出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書260 監査役等とのコミュニケーション
- 出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書610 内部監査人の作業の利用
- 出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書701 独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告
- 出典:日本監査役協会・日本公認会計士協会|監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告
- 出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
- 出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
三様監査・内部統制・監査役等対応で判断に迷う場合
三様監査は、会議体を設けるだけでは機能しません。
監査計画、リスク評価、内部監査指摘、内部統制不備、改善状況、KAM候補、不正リスク、開示論点。これらを、誰がどの責任で判断し、どの資料に残し、どのタイミングで経営者・監査役等・会計監査人に説明するかを整理する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法定監査、内部統制、J-SOX、監査役等対応、内部監査体制、KAM候補整理、監査対応資料の整備について、会計・監査・内部統制・開示を横断した論点整理を支援しています。
三様監査が形式的な報告会にとどまっている。内部監査指摘が監査対応に活かされていない。監査役等への説明や会計監査人との協議事項を整理したい。そうした場合は、現状の資料と未解決論点を整理したうえで、ご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 実務上のポイント |
|---|---|
| 三様監査の本質 | 監査役等・内部監査・会計監査人が、それぞれの責任を維持したまま、重要リスクを監査判断に反映する仕組みである。 |
| 情報交換と判断反映 | 資料を共有するだけでは不十分であり、共有情報が誰のどの監査判断に影響するかを明確にする必要がある。 |
| 監査計画の共有 | 日程共有ではなく、重要性、リスク、内部統制、KAM候補、不正リスクを共有することが重要である。 |
| リスク共有 | 事業リスク、業務リスク、重要な虚偽表示リスクを、勘定科目・アサーション・開示に翻訳する必要がある。 |
| 内部監査指摘 | 指摘事項の有無だけでなく、原因、影響、補完統制、改善状況、財務報告への影響まで共有する。 |
| 改善状況 | 「改善済」の表示だけでなく、設計・運用・再発防止のどの段階まで確認されたかを明確にする。 |
| 監査調書 | 三様監査の実施記録ではなく、共有情報が監査判断にどう反映されたかを残す必要がある。 |
| KAM候補 | 期末の文案調整ではなく、計画段階から監査役等・内部監査・経営者との対話に接続する。 |
| 不正リスク | 期首に一度確認するだけでなく、随時共有し、監査計画・手続・内部統制評価を更新する。 |
| 実効性の判断 | 会議回数ではなく、重要リスク、指摘事項、改善状況、KAM候補、開示論点が各監査判断に反映されているかで判断する。 |