相続対策と聞くと、生前贈与、不動産の活用、生命保険、相続税の試算といったものが、まず頭に浮かぶかもしれません。
ただ、私が実務の現場で感じるのは、相続対策の出発点は、必ずしも「税額をいくら下げるか」ではない、ということです。
相続が起きたとき、誰が、どの財産を、どのような理由で受け取るのか。その分け方を、相続人が納得して受け入れられるのか。申告期限までに遺産分割がまとまるのか。納税資金は確保できるのか。さらに二次相続や将来の資産管理まで見渡したとき、無理のない承継になっているのか。
こうした論点を整理していくうえで、遺言は非常に大きな役割を果たします。
遺言は、単に「財産の渡し先を書き留めておく書面」ではありません。相続人どうしの話し合いに委ねるだけではまとまりにくい財産の承継について、被相続人本人の意思をはっきりと残し、相続開始後の手続と税務判断を前へ進めていくための、いわば設計図です。
もっとも、遺言さえ作ればすべて解決する、というわけでもありません。遺留分、相続税の特例、財産評価、納税資金、相続登記、遺言執行、そして遺言と異なる遺産分割。実務では、慎重に確認すべき論点がいくつも存在します。
この記事では、遺言が相続対策で果たす役割を、法務と税務の両面から整理していきます。
遺言は「法定相続分どおりに分けるか」を決めるためだけのものではない
遺言がない場合、相続財産の分け方は、原則として相続人全員による遺産分割協議で決めることになります。
民法上、共同相続人は、遺言で分割が禁止されている場合などを除き、協議によって遺産を分割することができます。また被相続人は、遺言で遺産分割の方法を定めることも、その指定を第三者に委ねることもできます。
ここで押さえておきたいのは、法定相続分はあくまで「相続人どうしで分け方が決まらない場合の基準」であって、常にそのとおりに分けなければならないという意味ではない、という点です。
相続では、財産の中身が均一ではありません。預貯金のように分けやすいものもあれば、自宅、賃貸不動産、農地、同族会社株式、事業用資産のように、単純に人数で割ることが難しいものもあります。
ですから遺言の役割は、法定相続分と異なる割合を指定することだけにとどまりません。具体的には、次のような役割を担います。
| 遺言の役割 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 財産の取得者を明確にする | 誰がどの財産を取得するかを事前に定める |
| 遺産分割協議の負担を減らす | 相続人全員の合意が必要な場面を減らす |
| 相続人以外への財産承継を可能にする | 内縁関係者、孫、親族以外、法人等への遺贈を検討できる |
| 遺言執行者を指定する | 預貯金、不動産、有価証券等の手続を進めやすくする |
| 相続税申告の前提を整える | 特例適用、取得財産、納税資金の見通しを立てやすくする |
| 本人の意思を残す | 相続人が分け方の背景を理解しやすくなる |
遺言は、財産を「誰に渡すか」だけでなく、「なぜそのように渡すのか」「相続が始まった後にどう実行するのか」というところまで見据えて作る必要があります。
遺言がないと、相続税申告までの時間が足りなくなることがある
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。相続や遺贈で取得した財産などの価額の合計額が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告が必要になります。
10か月という期間は、一見すると長いように思えます。けれども実務では、決して余裕があるとは限りません。
相続が起きた後には、戸籍の収集、相続人の確定、財産調査、預貯金や証券口座の確認、不動産の評価、生命保険金の確認、債務・葬式費用の整理、過去の贈与の確認、遺産分割協議、相続税申告書の作成、納税資金の準備と、やるべきことが次々と続きます。
とりわけ、相続人どうしで財産の分け方が決まらない場合には、相続税申告に大きな影響が及びます。
配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した財産をもとに計算されます。申告期限までに分割されていない財産は、原則として、この税額軽減の対象になりません。
小規模宅地等の特例も同様です。未分割の財産については当初申告の時点では適用できず、申告期限後3年以内の分割見込書を添付したうえで、その後に更正の請求を行うといった手続が必要になる場合があります。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
つまり、遺言によって取得者や分割方針がはっきりしていることは、相続人どうしの話し合いを減らすだけにとどまりません。相続税申告のスケジュール、特例の適用、納税額、納税資金にまで関わってくるのです。
遺言は「争族防止」の中心的な手段になる
相続争いは、財産額が大きい場合にだけ起きるものではありません。
むしろ、財産の大半が自宅不動産である、預貯金が少ない、相続人の生活状況に差がある、生前贈与の有無に差がある、介護や家業への貢献に対する受け止め方が異なる。こうした「分けにくい事情」があるときにこそ、起こりやすくなります。
遺言がなければ、相続人は、被相続人の意思を推し量りながら話し合いを進めることになります。
- 「親はこう考えていたはずだ」
- 「自分はこれだけ面倒を見た」
- 「生前にあの人は多くもらっている」
- 「自宅を売るべきではない」
- 「事業を継ぐ人が株式を持つべきだ」
こうした主張は、どれも一方的に否定できるものではありません。だからこそ、相続人どうしの協議だけで整理しようとすると、感情と金銭の問題が重なり合い、話し合いがなかなか前へ進まなくなることがあります。
遺言があれば、少なくとも被相続人本人の意思は明確になります。有効な遺言がある場合、遺言相続は法定相続に優先します。遺留分にも配慮された内容であれば、遺言者の意思に沿って遺産を承継させることができます。
とはいえ、遺言が相続人の感情まで消し去ってくれるわけではありません。特定の相続人に多くの財産を承継させる場合、その理由を他の相続人が理解できなければ、遺留分侵害額請求や遺言無効の主張につながることもあります。
その意味で、遺言は「争いを封じ込める書面」というより、「争いが起きにくいように、本人の意思とその判断の理由を残しておく手段」と捉えるのが、実務感覚に近いように思います。
遺言でできること、遺言だけでは解決できないこと
遺言では、主に次のような事項を定めることができます。
| 遺言で定められる主な事項 | 相続対策上の意味 |
|---|---|
| 相続分の指定 | 法定相続分と異なる承継割合を定める |
| 遺産分割方法の指定 | 特定の財産を特定の相続人に取得させる |
| 遺贈 | 相続人以外の人や法人等へ財産を承継させる |
| 遺言執行者の指定 | 遺言内容を実現する人を指定する |
| 推定相続人の廃除・取消し | 一定の場合に相続人から除外する手続につなげる |
| 認知 | 一定の身分関係に関する効力を発生させる |
| 未成年後見人の指定 | 未成年の子がいる場合の備えになる |
| 祭祀承継者の指定 | 墓・仏壇等の承継を明確にする |
ただし、遺言なら何でも自由に決められる、というわけではありません。
とりわけ注意したいのが、遺留分です。これは、一定の相続人に最低限の取得利益を保障する制度です。現在の民法では、遺留分を侵害された相続人は、受遺者や受贈者に対して、原則として遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。
したがって、「全財産を特定の人に渡す」といった遺言を作っても、遺留分権利者がいる場合には、相続開始後に金銭請求が生じる可能性が残ります。
ここで大切なのは、遺留分を避けるために形式的な工夫を凝らすことではありません。遺留分が問題になり得るのであれば、その侵害額を支払う資金をどう確保するか、生命保険や代償金をどう設計するか、付言事項で意思や背景をどう説明するか、過去の生前贈与や特別受益をどう整理するか。こうした点を、あらかじめ検討しておくことが必要です。
付言事項そのものに法的拘束力はありません。それでも、遺言者の思いや分け方の理由を相続人に伝え、紛争の回避や遺言の円滑な実現に役立つことがあります。特に、法定相続分と大きく異なる遺言をする場合には、寄与、扶養、生活状況、生前贈与といった背景を、できるだけ具体的に残しておくことが、実務上は重要になります。
遺言は、相続人以外へ財産を残すためにも必要になる
遺言が特に重みを増すのは、財産を残したい相手が法定相続人ではないときです。
法定相続人でない人は、原則として、遺産分割協議によって当然に財産を取得できる立場にはありません。相続人以外に財産を承継させたいのであれば、遺贈、死因贈与、信託といった方法を検討する必要があります。
その代表的な手段が、遺言による遺贈です。
ただし、相続人以外への遺贈には、税務上の注意点があります。
相続や遺贈によって財産を取得した個人は、相続税の納税義務者となります。さらに、配偶者および一親等の血族など一定の者以外が財産を取得する場合には、相続税額の2割加算の対象になることがあります。遺言や遺産分割協議による財産の移転では、財産の種類、取得者、取得方法によって、相続税だけでなく譲渡所得税や法人税など、複数の税目の課税関係が生じることもあります。
たとえば、法人や公益法人等へ不動産・有価証券を遺贈する場合には、相続税の非課税規定や、所得税のみなし譲渡課税が問題となることがあります。個人間の相続とは異なる税務判断が求められる場面です。
「相続人以外に財産を残したい」という意思があるとき、遺言はたしかに有効な手段です。ただ、その意思を実現するには、遺留分、相続税、所得税、法人税、登記、遺言執行まで含めて確認しておく必要があります。
遺言執行者の指定は、手続の円滑化に直結する
遺言を作っても、相続開始後にその内容を実行できなければ意味がありません。
そこで重要になるのが、遺言執行者の存在です。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な行為をする権利義務を持ちます。また遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができます。
実務では、預貯金の解約・払戻し、不動産の名義変更、有価証券の移管、貸金庫の開扉、受遺者への財産移転と、遺言内容を実現するために数多くの手続が発生します。
なかでも、次のような場合には、遺言執行者の指定が重要になります。
| 遺言執行者を指定すべき場面 | 理由 |
|---|---|
| 相続人以外への遺贈がある | 遺贈の履行を円滑に進める必要がある |
| 相続人間の関係が複雑 | 相続人任せでは手続が止まりやすい |
| 不動産・有価証券・同族会社株式がある | 名義変更や評価・権利関係の整理が必要 |
| 換価して分配する遺言がある | 売却、登記、代金分配の実行者が必要 |
| 海外居住者・判断能力に不安がある相続人がいる | 署名押印や意思確認が難しい場合がある |
| 遺言内容を確実に実現したい | 手続主体を明確にしておく必要がある |
清算型の遺言や換価分割を予定する遺言では、遺言執行者が指定されているかどうかが、遺言内容を実現できるかどうかに大きく関わります。指定がない場合は相続人全員の協力が必要となり、相続人間の対立や不在、判断能力の問題によって、手続が止まってしまうこともあります。
遺言は、作成した時点で完結するものではありません。相続が始まった後に、誰が、どの資料を使って、どの手続を進めるのか。そこまで想定しておくことが大切です。
遺言は、相続税特例の適用にも影響する
遺言の内容は、相続税の特例適用にも影響を及ぼします。
その代表が、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。
配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した財産をもとに計算されます。遺言で配偶者の取得財産が明確になっていれば、相続税申告に向けた整理も進めやすくなります。逆に、遺言がなく、申告期限までに遺産分割がまとまらなければ、当初申告で特例を適用できない財産が生じることがあります。
小規模宅地等の特例も、誰が土地を取得するか、その取得者が要件を満たすか、申告期限までに分割されているかが重要になります。たとえ遺言で取得者を指定していても、その人が特例要件を満たさなければ、期待していた減額を受けられないこともあります。
自宅敷地、事業用宅地、貸付事業用宅地、同族会社に貸している土地などは、利用状況や取得者によって適用の可否が変わります。遺言で「誰に取得させるか」を決める際には、家族の納得だけでなく、特例要件との整合性も確認しておく必要があります。
遺言を作成する段階で確認しておきたい税務上の視点は、少なくとも次のとおりです。
| 確認すべき視点 | 確認内容 |
|---|---|
| 配偶者の取得財産 | 配偶者軽減を前提にしすぎて二次相続で不利にならないか |
| 自宅・事業用土地の取得者 | 小規模宅地等の特例要件と整合しているか |
| 不動産の評価 | 分割方法によって評価単位や評価額に影響がないか |
| 納税資金 | 財産を取得する人が相続税を納められるか |
| 代償金 | 不動産を取得する人が他の相続人に支払う資金を確保できるか |
| 遺留分 | 金銭請求が発生した場合に対応できるか |
| 二次相続 | 一次相続だけでなく次の相続まで見て無理がないか |
税務上は有利に見える遺言であっても、納税資金が足りなかったり、遺留分侵害額を支払えなかったり、二次相続で税負担が重くなったりすることがあります。
相続税対策としての遺言は、税額だけでなく、実行できるかどうかまで見据えて判断する必要があります。
不動産がある場合、遺言の重要性はさらに高まる
不動産は、相続のなかでも最も分けにくい財産の一つです。
預貯金であれば金額で分けられますが、不動産はそうはいきません。所在地、面積、利用状況、収益性、接道、共有関係、建築制限、賃貸借契約、借入金、将来売却できるかどうか。こうした要素が複雑に絡み合います。
自宅を誰が取得するのか。賃貸不動産の賃料収入を誰が管理するのか。共有にしてよいのか。売却して分けるのか。一人が取得して代償金を支払うのか。相続登記をどう進めるのか。
これらを、相続が始まった後の話し合いだけで決めていくのは、決して簡単なことではありません。
加えて、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の登記が求められ、正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
遺言で不動産の取得者を明確にしておけば、相続登記やその後の管理・売却の方向性も整理しやすくなります。
ただし、不動産を遺言で承継させる場合には、税務と登記だけでなく、現実にその不動産を維持できるかどうかも確認すべきです。固定資産税、修繕費、借入金、空室リスク、共有化リスク、管理負担、そして将来売却したときの譲渡所得税。ここまで含めて検討しておかなければ、取得者に過大な負担を残してしまうことがあります。
同族会社株式・事業用資産がある場合、遺言は支配権承継の手段になる
被相続人が同族会社の株式を持っている場合、遺言の役割はいっそう大きくなります。
非上場株式は、上場株式のように簡単に換金できるとは限りません。その一方で、議決権を通じて会社の支配権に直結します。
後継者に株式を集中させなければ、会社経営が不安定になりかねません。反対に、後継者へ集中させると、他の相続人との公平性や遺留分が問題になることがあります。
こうした場合、遺言は単なる相続対策にとどまらず、事業承継の基盤になります。
ただし、同族会社株式を遺言で承継させる際には、次の点を確認しておく必要があります。
| 論点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 株式評価 | 相続税評価額がどの程度になるか |
| 議決権 | 後継者が経営に必要な議決権を確保できるか |
| 遺留分 | 他の相続人から金銭請求を受ける可能性があるか |
| 納税資金 | 換金しにくい株式に対する相続税をどう納めるか |
| 会社財務 | 役員貸付金・借入金・不動産保有などが評価に影響しないか |
| 事業承継税制 | 納税猶予制度を検討する必要があるか |
公認会計士・税理士の立場から見ると、同族会社株式を含む遺言は、相続法務だけで完結するものではありません。会社の決算書、株主構成、議決権、純資産、含み益、不動産の保有状況、役員貸付金、納税資金。ここまで確認して、はじめて実行可能な承継方針を描くことができます。
遺言の方式選択も大切だが、この記事の中心は「中身の設計」にある
遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言といった方式があります。
自筆証書遺言は、本人が遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印する方式です。平成31年1月13日以降は、これに添付する財産目録について、自書によらない方法も認められるようになりました。
また、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局で遺言書が保管され、紛失・亡失や改ざん等のリスクを抑えることができます。相続開始後の家庭裁判所での検認も不要です。ただし、この制度は遺言内容の有効性を保証するものではなく、内容について相談に応じる制度でもありません。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、形式面の不備や紛失・改ざんのリスクを抑えやすい方式です。実務では、相続人間の関係が複雑な場合、不動産や同族会社株式がある場合、遺留分への配慮が必要な場合、判断能力について将来争われるリスクがある場合などに、検討する価値が高いといえます。
もっとも、方式を選んだだけでは十分とはいえません。
形式的に有効な遺言であっても、財産の記載が不明確であったり、遺留分を大きく侵害していたり、納税資金が確保されていなかったり、小規模宅地等の特例を考慮していなかったりすれば、相続開始後に別の問題が生じます。
遺言で重要なのは、方式だけでなく、その中身なのです。
遺言を作成する前に整理しておくこと
遺言を作る前には、少なくとも次の情報を整理しておく必要があります。
| 整理項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 相続人の範囲 | 遺留分、法定相続分、相続税計算の前提になる |
| 財産一覧 | 遺言に記載すべき財産と評価額を把握する |
| 債務・保証・借入金 | 納税資金や承継後の負担に影響する |
| 過去の贈与 | 特別受益、相続税の生前贈与加算、名義財産に関係する |
| 生命保険 | 納税資金、代償金、みなし相続財産に関係する |
| 不動産の利用状況 | 評価、小規模宅地等、共有化リスクに関係する |
| 同族会社関係 | 株式評価、議決権、事業承継に関係する |
| 相続人の生活状況 | 分割の納得感、遺留分、付言事項に関係する |
| 二次相続 | 配偶者への集中承継が将来不利にならないか確認する |
| 遺言執行体制 | 相続開始後に遺言を実行できるか確認する |
これらを整理しないまま遺言を作ると、「とりあえず財産の渡し先は書いたものの、税務上・実務上はうまく機能しない」という状態になりかねません。
相続対策としての遺言は、財産の一覧表に相続人の名前を並べる作業ではありません。財産評価、納税、遺留分、相続税特例、登記、将来の管理まで見据えて、分け方そのものを設計する作業です。
遺言を作成しても、定期的な見直しが必要になる
遺言は、一度作れば終わり、というものではありません。
相続までの間に、家族関係、財産の内容、税制、評価通達、不動産の利用状況、会社の株主構成、相続人の生活状況は変わっていきます。
特に、次のような変化があったときには、遺言の見直しを検討すべきです。
| 見直しが必要になりやすい変化 | 理由 |
|---|---|
| 相続人・受遺者が死亡した | 遺言どおりに財産を承継できない可能性がある |
| 不動産を売却・購入した | 遺言に記載した財産が存在しない、または不足する可能性がある |
| 同族会社の株式数や評価が変わった | 納税資金や支配権承継に影響する |
| 生前贈与を行った | 特別受益や相続税計算に影響する |
| 相続人との関係が変化した | 付言事項や分け方の合理性に影響する |
| 税制改正があった | 相続税・贈与税の計算や特例適用に影響する |
| 認知症リスクが高まった | 遺言能力が後日争われる可能性がある |
古い遺言が残っていると、現在の財産構成や家族関係と合わなくなっていることがあります。複数の遺言が存在する場合には、どの範囲で前の遺言が撤回されたのかが問題になることもあります。
遺言は、本人の意思を固定するためのものです。しかし、現実に合わなくなった遺言は、かえって紛争の火種になってしまうことがあるのです。
遺言を相続対策として考えるときの判断軸
遺言を作成すべきかどうか、どのような内容にすべきか。これを考える際には、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。
1. まず、何を守りたいのかを明確にする
自宅を残したいのか。配偶者の生活を守りたいのか。後継者へ事業を承継させたいのか。相続人間の公平感を重視したいのか。納税資金を確保したいのか。特定の人に感謝を伝えたいのか。
目的が曖昧なまま遺言を作れば、財産の分け方もまた曖昧になってしまいます。
2. 次に、相続人と財産の全体像を確認する
誰が相続人になるのか。遺留分権利者は誰か。財産のなかに不動産、同族会社株式、農地、借地権、生命保険、国外財産があるか。債務や保証はあるか。過去の贈与はあるか。
これらは、遺言の内容だけでなく、相続税申告の前提にもなります。
3. そのうえで、分け方と税務上の影響を確認する
誰がどの財産を取得するかによって、相続税額、特例の適用、納税資金、二次相続、将来売却したときの税務が変わってきます。
「この人にこの財産を渡したい」という意思があっても、その取得者に納税資金がなければ、相続開始後に資産の売却を迫られることもあります。
4. 最後に、実行体制を整える
遺言執行者を指定するか。遺言書をどこに保管するか。財産目録をどう更新するか。相続が始まった後、誰が必要な資料を把握できるか。相続人にどこまで事前に説明しておくか。
遺言は、書いて終わりではありません。実行できる状態にして、はじめて相続対策として機能します。
まとめ|遺言は、相続税対策ではなく「承継の意思決定」を形にするもの
遺言は、相続対策のなかでも非常に重要な手段です。ただし、その本質は、単なる節税ではありません。
遺言が果たす役割は、被相続人の意思を明確にし、相続人どうしの協議負担を減らし、相続手続を円滑にし、相続税申告の前提を整え、納税資金や二次相続まで見据えた承継を可能にすることにあります。
一方で、遺言には限界もあります。遺留分を無視することはできません。相続税の特例は、遺言を書いただけで当然に適用されるものではありません。不動産や同族会社株式がある場合には、評価、登記、支配権、納税資金まで確認しておかなければなりません。
大切なのは、「遺言を書くかどうか」ではなく、「その遺言が、家族関係・財産内容・税務・法務・納税資金・将来の承継に耐えられる内容になっているか」です。
遺言を相続対策として活かすには、財産の棚卸し、相続税の概算、遺留分の確認、特例適用の見通し、納税資金、遺言執行体制を、一体のものとして整理することが欠かせません。
遺言・相続税対策のご相談について
犬飼公認会計士・税理士事務所では、遺言を単独の書面作成としてではなく、相続税申告、財産評価、遺産分割、納税資金、二次相続、同族会社株式や不動産の承継まで含めた意思決定として整理いたします。
遺言を作るべきか迷っている場合、すでに遺言があるものの税務上の影響が不安な場合、不動産や同族会社株式があって分け方に悩んでいる場合は、まず現在の財産構成と相続人関係を整理することから始めるのが大切です。
相続・贈与・遺言に関するご相談は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご連絡ください。
「遺言を書いたほうがよいか」だけでなく、「その遺言が相続税申告や将来の承継に耐えられるか」という観点から、論点を整理してまいります。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 遺言の基本的役割 | 財産の取得者を明確にし、遺産分割協議の負担を減らす |
| 争族防止 | 本人の意思と分け方の理由を残すことで、相続人間の納得形成につながる |
| 遺留分 | 遺言で自由に分けられても、一定の相続人から金銭請求を受ける可能性がある |
| 遺言執行者 | 預貯金、不動産、有価証券、遺贈などの手続を円滑に進めるために重要 |
| 相続税特例 | 配偶者軽減や小規模宅地等の特例は、取得者・分割・申告期限と密接に関係する |
| 不動産承継 | 共有化、登記、評価、納税資金、将来売却まで確認が必要 |
| 同族会社株式 | 株式評価、議決権、後継者、遺留分、納税資金を一体で検討する |
| 遺言方式 | 自筆証書遺言・公正証書遺言・保管制度の違いを理解し、内容設計を重視する |
| 見直し | 家族関係、財産内容、税制、相続人の状況が変われば遺言も見直す |
| 専門家相談 | 法務・税務・財産評価・納税資金を横断して整理することが重要 |