スキーム選択が価格に与える影響|税務・会計・リスク承継まで含めて見る

同じ会社、同じ事業を対象にしていても、最終的な価格判断は一つに定まりません。株式譲渡で売買するのか、事業譲渡で一部の事業だけを移すのか、会社分割を使うのか。あるいは合併、株式交換、自己株式取得を選ぶのか。その違いによって、見るべき価格は変わってきます。

ここで誤解されやすいのが、「事業そのものの価値が同じなら、どのスキームでも価格は同じになるはずだ」という考え方です。

たしかに、対象事業が将来生み出すキャッシュ・フローは、スキームを変えただけで突然増えたり減ったりするものではありません。しかし、実際の取引価格は、事業価値だけで決まるわけではないのです。誰が何を取得するのか、どの負債や偶発債務を引き継ぐのか、税務コストが誰に生じるのか、会計上ののれんや損益はどう出るのか、契約でどこまでリスクを遮断できるのか。これらによって、受け入れ可能な価格は動きます。

つまりスキーム選択とは、単なる「手続の選択」ではなく、価格の前提条件そのものを変える判断なのです。

本稿では、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、自己株式取得といった手法の違いを取り上げます。ただしM&A全体の設計論ではなく、企業価値評価と取引価格の判断に必要な範囲に絞って整理していきます。

目次

スキームは「何に対して価格を払うのか」を変える

企業価値評価では、まず評価対象を定義することから始まります。

株式譲渡の場合、買主が取得するのは原則として会社の株式です。会社の法人格はそのまま残り、資産・負債・契約・許認可・従業員・税務ポジション・偶発債務も、すべて会社に残ったままになります。したがって価格判断は、「会社全体の株主価値」を基礎として行われます。

一方、事業譲渡では事情が異なります。買主が取得するのは会社そのものではなく、特定の事業に必要な資産・負債・契約などを選別したものです。会社分割であれば、対象事業に関する権利義務の全部または一部を、承継会社に移す形をとります。会社法上、合併、会社分割、株式交換、株式移転などは組織再編の主要な類型として位置づけられており、どの行為を使うかによって、権利義務の承継範囲や手続が変わってきます。

出典:e-Gov法令検索|会社法

こうして、価格判断の出発点は次のように変わります。

スキーム価格判断の出発点価格に織り込む主な項目
株式譲渡会社全体の株主価値ネットデット、非事業資産、簿外債務、税務リスク、価格調整
事業譲渡譲渡対象事業の価値移転資産・負債、契約承継、運転資本、譲渡対象外リスク
会社分割切り出す事業の価値承継資産負債、共通費、スタンドアロンコスト、適格・非適格税務
合併結合後企業における相対価値合併比率、承継リスク、繰越欠損金、会計処理、統合コスト
株式交換・株式移転株式対価による相対価値交換比率、支配権、少数株主、会計上の取得企業判定
自己株式取得株主整理・資本政策上の株式価値財源規制、みなし配当、少数株主・同族株主の評価、資金流出

同じEBITDA、同じ純資産、同じ将来キャッシュ・フローを眺めていたとしても、取得する対象が会社全体なのか、事業だけなのか、株式なのか、交換比率なのか。それによって、価格として見るべき数字は変わってくるのです。

「企業価値」は同じでも、「株式譲渡価格」はスキームで変わる

たとえば、対象会社の事業価値が5億円と評価されたとしましょう。

株式譲渡であれば、ここから有利子負債を控除し、余剰現金や非事業資産を加算し、簿外債務や税務リスクを調整したうえで株式価値を考えます。価格の議論は、企業価値から株式譲渡価格へと橋渡しする作業になっていきます。

これが事業譲渡になると、対象会社の借入金を買主が引き受けない設計もあり得ます。その場合、事業価値5億円という評価自体は同じでも、譲渡対象に含める在庫、売掛金、買掛金、固定資産、契約、許認可、従業員、運転資本の範囲によって、譲渡価格は変わってきます。

会社分割であれば、移転する権利義務を包括的に承継できる場合がある一方で、どの資産・負債を承継対象にするか、切り出した後の事業が単独で成立するか、共通費や本社機能をどう扱うかが、価値判断に影響します。

ですから、「対象事業の価値はいくらか」と「このスキームで支払う価格はいくらか」は、分けて考える必要があります。

実務では、DDで発見されたリスクが価格調整では処理しきれない場合、株式取得から事業譲渡や会社分割へ設計を変更し、対象事業以外の税務リスクや偶発債務を引き継がないようにすることがあります。リスクへの対応は、単純な減額だけではありません。スキームの変更、表明保証、補償条項など、複数の手段を組み合わせて処理していくものです。

承継リスクが違えば、買主の許容価格は変わる

スキーム選択が価格に与える影響のうち、最も大きなものの一つがリスク承継です。

株式譲渡では、会社の法人格がそのまま残ります。そのため買主は、対象会社の過去の税務リスク、労務リスク、訴訟リスク、環境リスク、契約違反、簿外債務、保証債務などを、会社ごと引き受けることになります。買主の立場からすれば、見えないリスクが残る分だけ、価格減額、表明保証、補償、エスクロー、価格調整を求めやすくなります。

事業譲渡であれば、譲渡対象を選別できますから、不要な負債や偶発債務を除外しやすくなります。ただし、契約・許認可・従業員・取引先関係を個別に移転する必要が生じることもあり、承継できない契約や許認可がある場合には、事業価値そのものが下がってしまいます。

会社分割は、一定の権利義務を包括承継できる点で、事業譲渡より効率的な場面があります。とはいえ承継対象の設計を誤れば、本来は遮断したかった負債や契約上の制約が残ってしまうこともあります。合併の場合は、権利義務の全部承継が基本ですから、スピードや統合効果が期待できる反面、不要なリスクまで一体で引き受ける構造になりやすいといえます。

この違いは、単なる法務上の論点にとどまりません。

買主が将来キャッシュ・フローを評価するとき、引き継ぐリスクが大きければ、それは将来CFの減額、割引率の上昇、価格調整、補償条項、支払留保、アーンアウトといった形で価格条件に反映されます。逆に、リスクを切り離せるスキームであれば、買主は事業価値そのものに近い価格を提示しやすくなる場合があるのです。

税務コストは、価格そのものではなく「手取り」と「支払余力」を変える

スキームを選ぶうえで、税務コストは無視できません。

売主にとって重要なのは、額面の譲渡価格ではなく税引後の手取りです。買主にとって重要なのは、支払価格だけではなく、買収後に減価償却できる資産の取得価額、繰越欠損金の利用可能性、含み益・含み損の取扱い、そして将来の税負担まで含めたキャッシュ・フローです。

組織再編税制については、財務省が次のような考え方を示しています。資産移転の時点では、移転資産の譲渡損益に課税するのが原則です。しかし、組織再編成の前後で経済実態に実質的な変更がなく、移転資産に対する支配が再編成後も継続していると認められる場合には、一定の要件のもとで課税を繰り延べる、という整理です。

出典:財務省|組織再編税制に関する資料

このため、会社分割、合併、株式交換、株式移転などでは、適格組織再編成に該当するのか、非適格組織再編成になるのかによって、譲渡損益、株主課税、資産・負債の税務上の引継価額、繰越欠損金の取扱いなどが大きく変わってきます。整理しておくと、適格組織再編成では資産・負債を簿価で移転し、非適格組織再編成では時価で移転する、というのが制度の基本的な枠組みです。

ここで気をつけたいのは、「税務上有利なスキーム=高い価格でよい」と短絡しないことです。

税務コストが下がれば、たしかに売主の手取りは増えます。しかし、買主が承継するリスクが増えたり、会計上ののれんが大きくなったり、将来の税務調査リスクが残ったりすれば、買主の許容価格はかえって下がります。逆に、売主側に税務コストが大きいスキームであっても、買主側でリスクを切り離せるのであれば、交渉上の価格水準が維持されることもあるのです。

税務は、価格を一方向に動かす要素ではありません。誰に、いつ、どの税負担が生じるのか。そしてその税負担を価格に含めるのか、契約で分担するのか。ここを整理しておく必要があります。

会計処理は、買収後の利益・純資産・説明責任に影響する

M&Aの価格判断では、会計処理も見過ごせません。

会計上、企業結合に該当する取引では、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引といった分類が問題になります。企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、企業結合に該当する取引には共同支配企業の形成や共通支配下の取引も含めて同基準を適用するとされ、「取得」は、ある企業が他の企業または事業に対する支配を獲得することと定義されています。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準

取得とされた企業結合では、取得原価を、被取得企業から受け入れた識別可能資産・負債の企業結合日時点の時価を基礎として配分します。ここで、取得原価の配分が論点になってきます。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準

一方、共通支配下の取引では、企業結合の前後で同一の株主によって最終的に支配されているか、そしてその支配が一時的でないかが問題になります。グループ内再編のように、外部から新たに事業を買う取引ではなく、内部の組替えに近い取引であれば、会計上の見え方は通常の買収とは異なってきます。共通支配下の取引は、親会社から見れば企業集団内の内部取引です。個別財務諸表上は移転元の適正な帳簿価額を基礎として会計処理され、連結財務諸表上は内部取引として消去される。この整理が、実務上は重要になります。

事業を分離する側、つまり事業譲渡や会社分割における会計処理も、価格判断に関係してきます。企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」では、事業分離は会社分割、事業譲渡、現物出資等の形式をとり、分離元企業が事業を分離先企業に移転して対価を受け取るもの、と整理されています。現金等のみを対価として、子会社・関連会社以外へ事業分離する場合には、受け取った現金等は原則として時価で計上され、移転した事業に係る株主資本相当額との差額は、原則として移転損益として認識されます。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第7号 事業分離等に関する会計基準

会計上の損益やのれんは、取引価格そのものを直接決めるものではありません。しかし、買収後の利益、純資産、金融機関への説明、株主への説明、減損リスクには影響します。とりわけ買主が上場会社であったり、金融機関からの借入を伴う会社であったりすれば、会計上の見え方は価格上限の判断に関わってくるのです。

価格調整と契約保護を前提にすると、スキームごとの「同じ価格」はあり得ない

M&Aの最終価格は、評価額だけで決まるものではなく、契約条件と一体になって決まります。

たとえば株式譲渡であれば、クロージング時のネットデット、運転資本、未払税金、役員貸付金、関連当事者取引、偶発債務をどう扱うか。これらが価格調整条項に反映されます。対象会社を丸ごと取得する以上、表明保証と補償条項の重要性も高まります。

事業譲渡であれば、譲渡対象に含める資産・負債を明確にしたうえで、在庫評価、売掛金の回収リスク、買掛金・未払費用の帰属、従業員・契約・許認可の承継を、価格条件に反映していきます。対象外のリスクを切り離せる一方で、承継できないものがあれば、その分だけ価格を下げる必要があります。

会社分割であれば、承継資産負債の範囲、税制適格性、債権者保護、労務・契約の承継、分割後のスタンドアロンコストを織り込んでいくことになります。

つまり、同じ評価レンジが出ていたとしても、次のような条件によって価格は変わります。

  • 表明保証が広く、補償上限も十分にあるのか
  • 補償期間は短いのか、長いのか
  • エスクローや支払留保があるのか
  • ネットデット調整や運転資本調整があるのか
  • 譲渡対象からリスク資産を除外できるのか
  • 税務調査リスクを売主が負担するのか
  • 従業員・取引先・金融機関の承諾が前提条件になっているのか

価格だけを見て「高い」「安い」と判断してはいけません。同じ1億円であっても、リスクをすべて買主が引き受ける1億円と、売主補償・価格調整・対象外資産の設計が整った1億円とでは、経済的な意味がまったく違うからです。

DDで定量化が可能で、かつ顕在化する可能性の高いリスクは価格調整に織り込む。定量化が難しいリスクは表明保証や補償条項で対応する。このように、リスクの性質に応じて、価格と契約を切り分けていく必要があります。

スキーム別に見る価格判断の実務ポイント

株式譲渡|会社全体を買うため、株主価値とリスク控除が中心になる

株式譲渡では、価格判断の中心は株主価値です。

事業価値に非事業資産や余剰現金を加算し、有利子負債や負債類似項目を控除して、株式価値を見ていきます。さらに、DDで発見された簿外債務、未払税金、労務リスク、保証債務、訴訟リスク、関連当事者取引を、価格調整または契約保護に反映します。

株式譲渡は、手続が比較的シンプルに見えます。しかし実態は、会社の過去を丸ごと引き受けるスキームです。したがって買主の価格目線は、対象会社の正常収益力だけでなく、見えないリスクをどこまで受け入れるかによって変わってきます。

事業譲渡|対象外リスクを切り離せるが、移転できるものだけが価値になる

事業譲渡では、対象事業に必要な資産・負債・契約を切り出したうえで価格を決めます。買主にとっては、不要な負債や過去のリスクを避けやすい反面、契約や許認可が承継できなければ、期待した事業価値を取得できません。

ですから事業譲渡価格を考えるときは、譲渡対象資産負債のリスト、運転資本、契約承継、従業員の移籍、取引先の同意、許認可、在庫評価、売掛金の回収可能性を確認していきます。リスクを切り離せるからこそ高く買える場合もあれば、承継の不確実性があるからこそ低くなる場合もあります。

会社分割|包括承継とリスク切り分けの中間にある

会社分割は、事業譲渡よりも包括的に権利義務を移せる場合があり、株式譲渡よりも不要なリスクを切り離しやすい場面があります。

とはいえ、万能ではありません。分割対象事業の財務実態を管理会計上どう切り分けるか、共通費をどう配賦するか、切り出した後に必要となる本社機能・管理部門・システム・人員をどう見積もるか。これらによって価値は変わってきます。

また、適格組織再編成か非適格組織再編成かによって税務影響が変わりますから、価格判断にあたっては「税務上は簿価移転なのか、時価移転なのか」を確認しておかなければなりません。

合併|全部承継の効果と、不要リスクの承継を同時に見る

合併は、複数の会社を一つにまとめるスキームです。管理コストの削減、シナジー、損益通算、グループ内再編の簡素化などを目的に使われることがあります。

ただし合併では、権利義務の包括承継が基本となるため、不要なリスクや過去の問題まで取り込みやすくなります。価格判断では、単独の株式価値や事業価値だけでなく、合併後の相対価値、合併比率、繰越欠損金の引継制限、特定資産譲渡等損失、会計上の取得企業判定、のれん・負ののれんの影響を確認していきます。

合併を「一体化できるから価値が高い」と単純にとらえるのではなく、「一体化によって引き受けるリスクが、価格に見合っているか」という視点で見る必要があります。

株式交換・株式移転|現金価格ではなく、交換比率と支配権の問題になる

株式交換・株式移転では、現金で価格を支払うのではなく、株式を対価として完全親子会社関係や持株会社体制を作ることがあります。

この場合に問題となるのは、「何円で買うか」ではありません。「どの株式価値を基礎として、どの交換比率が妥当か」です。交付する側の株式価値、受け取る側の株式価値、支配権の移動、少数株主への影響、会計上の取得企業判定を整理していきます。

企業結合会計基準では、株式が主な対価である企業結合の場合、通常は株式を交付する企業が取得企業となります。ただし、必ずしも株式を交付した企業が取得企業になるとは限りません。議決権比率、主要株主、取締役会の構成、相対的な規模、株式交換の条件などを総合的に勘案することが求められます。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準

自己株式取得|M&A価格ではなく、株主整理と資本政策の価格になる

自己株式取得は、株式譲渡や事業譲渡とは性質が異なります。会社が自社株を買い取ることで、株主構成を整理し、事業承継やM&A前の資本政策を整えるために使われるものです。

この場合の価格判断では、会社全体の株主価値だけでなく、少数株主か同族株主か、財源規制、みなし配当、税務上の時価、残る株主への価値移転、後継者の支配権、会社の資金繰りを確認します。

自己株式取得は、株主整理の手段として有効です。その一方で、会社資金を使って特定の株主から株式を買い取る取引であるため、価格が高すぎても低すぎても問題が生じます。

「税務上有利」「手続が簡単」だけでスキームを選んではいけない

スキーム選択で失敗しやすいのは、次のような判断です。

  • 税務上有利だから、そのスキームにする
  • 手続が簡単だから、株式譲渡にする
  • 不要なリスクを避けたいから、事業譲渡にする
  • グループ内だから、会社分割でよい
  • 現金を使いたくないから、株式交換にする
  • 株主整理だから、自己株式取得でよい

これらは、一部の視点としては正しいことがあります。しかし、価格判断としては不十分です。

税務上有利であっても、買主が過去のリスクを引き受けるなら、価格は下がります。手続が簡単であっても、簿外債務があれば、株式譲渡価格は下がります。事業譲渡でリスクを切り離せても、主要な契約が承継できなければ、事業価値は下がります。会社分割で事業を移せても、切り出した後のスタンドアロンコストを見落とせば、価値を過大に評価してしまいます。

この点について、中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版でも、中小M&Aに先立つ事前準備として「見える化」「磨き上げ」が示されており、株式・事業用資産等の整理・集約が、重要な準備事項として位置づけられています。スキームを選ぶ前に、何を売るのか、何を残すのか、どのリスクを誰が負うのかを見える化しておくことが欠かせません。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン

スキーム選択を価格判断に接続するための実務手順

スキームを検討するときは、最初から「どの手続がよいか」を考えるのではなく、価格に影響する論点から逆算していきます。

1. 評価対象を定義する

会社全体なのか、一部の事業なのか、株式なのか、事業用資産なのか、少数株主持分なのかを明確にします。ここが曖昧なまま倍率やDCFを使っても、価格判断には使えません。

2. 譲渡範囲を特定する

移す資産、移さない資産、引き継ぐ負債、引き継がない負債を整理します。とりわけ、現預金、借入金、役員貸付金、未払税金、リース、保証、退職給付、在庫、売掛金、買掛金、契約上の地位は、しっかり確認しておきたいところです。

3. 承継リスクを洗い出す

株式譲渡なら会社全体の過去リスク、事業譲渡なら個別承継の可否、会社分割なら承継対象の設計、合併なら全部承継の影響を確認します。

4. 税務コストを当事者別に整理する

売主、買主、対象会社、株主に分けて、譲渡益課税、みなし配当、適格・非適格、繰越欠損金、消費税、不動産取得税・登録免許税、将来の税負担を確認します。税務上の結論は個別の事情と最新の法令に左右されますから、必ず現行制度で確認することが必要です。

5. 会計インパクトを確認する

取得なのか、共通支配下の取引なのか、共同支配企業の形成なのか。のれんは生じるのか。移転損益は出るのか。PPAが必要になるのか。そして、買収後の利益・純資産・金融機関への説明にどう影響するのか。これらを確認します。

6. 価格調整と契約保護を設計する

ネットデット調整、正常運転資本調整、価格減額、アーンアウト、表明保証、補償、エスクロー、支払留保、前提条件を組み合わせます。価格で処理すべきリスクと、契約で守るべきリスクを切り分けることが重要です。

7. 最終的な「説明可能な価格レンジ」に落とし込む

最後に、評価額、税務コスト、会計影響、承継リスク、契約保護を踏まえ、どの価格レンジであれば意思決定できるかを整理します。

このとき大切なのは、単純に「一番高く売れるスキーム」「一番安く買えるスキーム」を選ばないことです。後から税務当局、金融機関、株主、後継者、買主、売主に説明できる価格でなければ、取引後に問題が残ってしまいます。

相談前に整理しておきたい事項

スキーム選択と価格判断を専門家に相談する前に、少なくとも次の事項を整理しておくと、検討の精度が上がります。

整理事項確認すべき内容
取引目的事業承継、M&A、グループ再編、株主整理、事業切出し、経営統合のどれか
評価対象会社全体、株式、一部事業、資産負債、少数持分、交換比率のどれか
希望スキーム株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、自己株式取得など
譲渡範囲移す資産・負債、残す資産・負債、非事業資産、借入、保証
財務実態正常収益力、運転資本、設備投資、簿外債務、未払税金
税務論点適格・非適格、譲渡益、みなし配当、繰越欠損金、消費税、不動産関連税
会計影響のれん、PPA、移転損益、取得企業判定、共通支配下取引
契約保護価格調整、表明保証、補償、エスクロー、前提条件
説明先株主、金融機関、後継者、社内役員、買主、売主、税務当局

これらを整理しないまま「どのスキームなら得か」を尋ねても、正しい価格判断にはつながりません。スキーム選択とは、税務・会計・法務・交渉条件を一体で見たうえで、価格レンジに落とし込んでいく作業なのです。

まとめ|スキームは価格の前提を変える

スキーム選択は、M&Aの形式を選ぶだけの作業ではありません。

株式譲渡なら、会社全体を引き受ける価格になります。事業譲渡なら、譲渡対象の資産・負債を切り分けた価格になります。会社分割なら、切り出した事業の価値と承継リスクを見た価格になります。合併なら、全部承継と相対価値を前提にした価格になります。株式交換・株式移転なら、現金価格ではなく交換比率の判断になります。そして自己株式取得なら、資本政策と株主間の調整を踏まえた価格になります。

同じ事業価値を出発点にしても、税務コスト、会計影響、リスク承継、価格調整、契約保護が違えば、最終的な取引価格は変わってきます。

ですから価格判断では、「この会社はいくらか」だけを問うのでは足りません。「このスキームで、何を取得し、何を引き継ぎ、何を遮断し、誰にどの税務・会計影響が生じるのか」を確認する必要があります。

スキームを変えても価値は同じ、とは限りません。より正確に言えば、事業価値の出発点は同じでも、取引価格として受け入れられる金額は、スキームによって変わるのです。

スキーム選択と価格判断を切り離さずに検討したい場合はご相談ください

株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、自己株式取得。このいずれを選ぶかによって、評価対象、税務コスト、会計処理、承継リスク、価格調整、契約保護は変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A・事業承継・組織再編・株主整理における企業価値評価、株式価値評価、スキーム別の価格論点、税務・会計影響の整理を支援しています。

すでに提示価格がある場合でも、これからスキームを検討する段階でも、まずは「何を評価対象にしているのか」「その価格は、どのリスクと税務・会計影響を前提にしているのか」を整理することが重要です。

スキーム選択と取引価格の妥当性について、数字と事実に基づいて整理したいとお考えでしたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

本記事の振り返り

論点重要な考え方
スキーム選択の意味手続選択ではなく、価格の前提条件を変える判断である
評価対象会社全体、事業、資産負債、株式、交換比率のどれを評価するかで価格が変わる
株式譲渡会社全体を取得するため、ネットデット、簿外債務、税務リスクが価格に影響する
事業譲渡対象外リスクを切り離せるが、契約・許認可・従業員承継の可否が価値に影響する
会社分割包括承継とリスク切り分けの中間にあり、適格・非適格税務や切出しコストが重要になる
合併全部承継の効果と不要リスクの承継を同時に見る必要がある
株式交換・株式移転現金価格ではなく、相対価値と交換比率を判断する
自己株式取得株主整理・資本政策として、財源規制、みなし配当、株主間価値移転を確認する
税務コスト売主手取り、買主の将来CF、対象会社の課税関係を当事者別に整理する
会計影響のれん、PPA、移転損益、取得企業判定、共通支配下取引が説明責任に影響する
価格調整ネットデット、運転資本、未払税金、偶発債務を価格または契約に反映する
契約保護表明保証、補償、エスクロー、前提条件で価格だけでは処理できないリスクに対応する
最終判断「一番高い・安い」ではなく、後から説明できる価格レンジを構築することが重要である
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次