法人版事業承継税制を検討していると、「都道府県の認定さえ受ければ、納税猶予が使える」と理解されている方に出会うことがあります。
ただ、実務の感覚からいえば、それだけでは足りません。
都道府県の認定は、あくまで経営承継円滑化法上の認定手続です。贈与税・相続税の納税猶予を税務上適用するためには、これとは別に、税務署への申告、必要書類の添付、猶予税額の計算、そして担保提供までを整える必要があります。
法人版事業承継税制とは、後継者である受贈者または相続人等が、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を贈与や相続等によって取得した場合に、その株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予する制度です。後継者の死亡等によって、猶予されていた税額の納付が免除され得る仕組みになっています。平成30年度税制改正で創設された特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、納税猶予割合も100%とされました。
もっとも、これは「税金が当然にゼロになる制度」ではありません。
申告期限までに必要な手続を済ませ、担保を提供し、その後も継続届出等をきちんと管理して、はじめて納税猶予が維持されるものです。
本記事では、法人版事業承継税制の特例措置を中心に、贈与・相続による自社株承継の後に必要となる税務署への申告、添付書類、担保提供について、実務判断の流れに沿って整理していきます。
都道府県の認定と税務署への申告は、別の手続です
事業承継税制の手続は、大きく分けると「都道府県での認定手続」と「税務署での申告手続」の二つに分かれます。
| 区分 | 手続の性格 | 主な提出先 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 特例承継計画 | 特例措置を利用するための事前計画 | 都道府県 | 後継者、承継時期、経営見通し、承継後計画を確認する |
| 認定申請 | 贈与または相続後の円滑化法認定 | 都道府県 | 会社・先代・後継者・株式等の要件を確認する |
| 贈与税申告 | 贈与税の納税猶予を税務上適用する申告 | 税務署 | 贈与税額、猶予税額、添付書類、担保提供を確認する |
| 相続税申告 | 相続税の納税猶予を税務上適用する申告 | 税務署 | 相続税額、猶予税額、遺産取得、添付書類、担保提供を確認する |
| 継続届出 | 猶予継続のための税務手続 | 税務署 | 適用後も要件が維持されていることを届け出る |
特例措置については、令和9年9月30日までに特例承継計画を都道府県へ提出し、令和9年12月31日までに贈与・相続によって会社の株式を取得することが前提とされています。そして、認定書の写しとともに、相続税の申告書等を提出することが求められます。
つまり、都道府県認定は「税務署への申告に進むための重要な前提」ではあるものの、それ自体が税務申告の代わりになるわけではありません。
認定書を受け取ったうえで、税務申告書への記載、添付書類、担保提供までを整えて、ようやく納税猶予の適用手続が実務上完結します。
税務署への申告で確認される、中心の論点
税務署への申告では、都道府県認定とは異なる視点から、納税猶予の税務上の適用要件が確認されます。
主な論点は、次のとおりです。
| 論点 | 税務上の確認内容 |
|---|---|
| 期限内申告 | 贈与税または相続税の申告期限内に申告しているか |
| 適用意思の記載 | 申告書に納税猶予の適用を受ける旨が記載されているか |
| 認定書の添付 | 都道府県知事の認定書等の写しが添付されているか |
| 対象株式の明細 | どの株式について納税猶予を受けるのか明確か |
| 猶予税額の計算 | 対象株式に対応する猶予税額が正しく計算されているか |
| 自社株評価 | 相続税評価額・贈与税評価額の前提が適切か |
| 担保提供 | 申告期限までに必要な担保を提供しているか |
| 添付書類 | 国税庁チェックシートや必要書類に漏れがないか |
| 適用後管理 | 継続届出・取消事由を見据えた資料管理ができるか |
このなかでも、実務上とりわけ問題になりやすいのは、期限内申告、添付書類、担保提供の三つです。
自社株評価や猶予税額の計算に時間がかかると、都道府県認定を受けていても、税務署への申告期限までに必要書類が間に合わないことがあります。
ですから、贈与または相続を実行する時期を決める段階で、申告期限から逆算したスケジュールを組んでおくことが欠かせません。
贈与税申告の期限と注意点
生前贈与によって後継者が自社株式を取得し、贈与税の納税猶予を受ける場合には、贈与税申告が必要になります。
贈与税の申告と納税は、原則として、財産をもらった方が、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行います。
事業承継税制の贈与税納税猶予では、通常の贈与税申告に加えて、納税猶予の適用を受けるための記載や計算明細、都道府県の認定書、対象株式の明細、担保提供関係書類などがそろって必要になります。
| 項目 | 実務上の注意点 |
|---|---|
| 申告者 | 原則として株式の贈与を受けた後継者 |
| 申告期限 | 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで |
| 都道府県認定との関係 | 認定書の交付が申告期限に間に合うか確認する |
| 自社株評価 | 贈与時点の評価額を基礎に贈与税・猶予税額を計算する |
| 添付書類 | 認定書、計算書、対象株式明細、チェックシート等を整える |
| 担保提供 | 申告期限までに担保提供を完了させる必要がある |
実務では、贈与を実行したあとに都道府県認定を申請し、認定書が交付されてから税務署へ申告する、という流れになります。
都道府県側の審査や追加資料への対応、株価評価、申告書の作成、担保提供までを考えると、翌年3月15日までの時間は、決して長くありません。
特に、贈与日を年末近くに設定すると、都道府県認定と税務申告の準備期間がそれだけ短くなります。
税額の大きさだけを見て贈与時期を決めるのではなく、認定申請から認定書の交付、税務申告、担保提供まで、実行できる見通しが立つかを確認したうえで、贈与日を決めていただきたいところです。
相続税申告の期限と注意点
相続によって後継者が自社株式を取得し、相続税の納税猶予を受ける場合には、相続税申告が必要です。
相続税の申告書の提出期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内とされています。申告期限が土曜日、日曜日、祝日等に当たるときは、その翌日が期限となります。
なお、相続財産がまだ分割されていない場合であっても、相続税の申告期限が延びるわけではありません。未分割のままであっても、原則として期限内の申告・納税が求められます。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
事業承継税制を使う場合には、相続税の申告期限だけでなく、都道府県への相続認定申請の期限も意識しておく必要があります。
相続が起きてから「相続税の申告までに考えればよい」と構えていると、認定申請や遺産分割の期限管理で行き詰まってしまうことがあります。
| 項目 | 実務上の注意点 |
|---|---|
| 申告期限 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 認定申請 | 相続開始後、都道府県への認定申請期限が先に到来する |
| 遺産分割 | 対象株式を後継者が取得できる状態に整える必要がある |
| 自社株評価 | 相続開始時点の株式評価額を基礎に相続税額を計算する |
| 添付書類 | 認定書、計算書、明細書、遺産取得関係資料等を整える |
| 担保提供 | 相続税申告期限までに担保提供を完了させる必要がある |
相続税納税猶予の申告では、相続税全体の申告と、対象株式に係る猶予税額の計算とが、同時に進むことになります。後継者以外の相続人がいる場合には、遺産分割、代償金、遺留分、納税資金までを並行して整理しなければなりません。
また、相続税納税猶予を使うとしても、後継者以外の相続人の相続税や、後継者が取得する自社株以外の財産に係る税額まで、当然に猶予されるわけではありません。
そのため、制度を適用するかどうかとあわせて、相続税全体の納税資金まで見渡しておく必要があります。
贈与税猶予から相続税猶予へ切り替える場合も、税務署手続が必要です
生前贈与によって贈与税納税猶予を受けていた先代経営者が亡くなった場合、贈与税の猶予は免除されますが、その一方で、対象株式は相続税の課税関係へとつながっていきます。
このとき後継者は、一定の要件のもとで、相続税の納税猶予へ切り替えることを検討することになります。
実務上は、先代死亡時の相続税申告、対象株式の扱い、猶予税額の計算、そして都道府県・税務署への手続を、あらためて整理する必要があります。
国税庁の法人版事業承継税制のページでは、特例措置に係る「非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例」について、その適用要件や提出書類チェックシートも掲載されています。
この切替えの場面では、通常の相続税申告に加えて、贈与税猶予の適用履歴、先代死亡による免除、みなし相続取得、相続税猶予の選択といった点を整理する必要があります。
過去の贈与時の申告書、認定書、継続届出書、株式数の推移などが不明確だと、相続税申告のときの確認に、それだけ時間を要することになります。
添付書類は「形式書類」ではなく、制度適用の証拠です
税務署への申告で添付する書類は、単なる形式的な書類ではありません。
後になって税務署、都道府県、金融機関、相続人、株主に対して説明するための、証拠資料にもなるものです。
主な添付・確認資料は、次のように整理できます。
| 書類・資料 | 主な役割 |
|---|---|
| 都道府県知事の認定書の写し | 円滑化法上の認定を受けていることを示す |
| 贈与税または相続税申告書 | 納税猶予の適用を税務上申告する |
| 猶予税額の計算書 | どの税額が猶予対象となるかを明らかにする |
| 対象株式等の明細書 | 納税猶予の対象株式数・種類・取得経緯を示す |
| 株価評価資料 | 非上場株式の評価額の根拠を示す |
| 株主名簿 | 議決権、同族関係、筆頭株主要件を確認する |
| 定款 | 譲渡制限、種類株式、議決権制限、拒否権付株式を確認する |
| 登記事項証明書 | 会社、代表者、役員、資本金等の状況を確認する |
| 贈与契約・遺産分割・遺言関係資料 | 後継者が対象株式を取得した根拠を示す |
| 担保提供関係書類 | 納税猶予税額等に見合う担保を提供したことを示す |
| チェックシート | 適用要件・提出書類の確認漏れを防ぐ |
国税庁は、法人版事業承継税制の適用にあたって、贈与税・相続税それぞれについて、特例措置・一般措置別の「適用要件及び提出書類チェックシート」を公表しています。
実務では、このチェックシートを単なる添付書類と捉えるのではなく、申告の品質を管理するための一覧表として使うことをおすすめします。
とりわけ、複数株主からの贈与、複数後継者、種類株式、名義株、自己株式、資産管理会社判定が絡む案件では、資料どうしの整合性が重要になってきます。
猶予税額の計算は、「自社株評価」と「相続・贈与全体の税額計算」をつなぐ作業です
納税猶予を受けるためには、対象株式に係る猶予税額を計算する必要があります。
この計算は、単純に「自社株の評価額に税率を掛ける」というものではありません。
贈与税または相続税の税額計算のなかで、対象株式に対応する部分を区分し、猶予の対象となる税額と、実際に納付すべき税額とを整理していく作業です。
| 区分 | 確認事項 |
|---|---|
| 自社株評価額 | 類似業種比準方式、純資産価額方式、特定評価会社判定等を確認する |
| 対象株式数 | 納税猶予を受ける株式数・議決権制限の有無を確認する |
| 贈与税額・相続税額 | 通常の税額計算を行う |
| 猶予税額 | 対象株式等に対応する税額を計算する |
| 猶予対象外税額 | 自社株以外の財産や対象外部分に係る納付額を確認する |
| 担保必要額 | 猶予税額と利子税相当額を踏まえて確認する |
| 取消時負担 | 将来の猶予取消時に必要となる資金を想定する |
ここで大切なのは、制度の効果を「猶予される税額」だけで判断しないことです。
納税猶予を受けたとしても、猶予対象外の贈与税・相続税、他の相続人の納税資金、代償金、金融機関からの借入、経営者保証、退職金支給による会社資金の流出などは、別途検討しておかなければなりません。
そして、制度適用後に猶予が取り消されれば、猶予税額の納付や利子税が問題になります。
ですから、申告の段階で「現時点の納税額」だけでなく、「取消時の資金負担」までを試算しておくことが望ましいといえます。
担保提供は、申告期限までに必要です
事業承継税制では、納税猶予を受ける税額について、申告期限までに担保を提供しなければなりません。
国税庁の担保提供に関するQ&Aによれば、非上場株式等に係る相続税の納税猶予の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに、対象非上場株式等についての納税猶予に係る相続税額に相当する担保を提供する必要があるとされています。担保としては、納税猶予の対象となる認定承継会社の対象非上場株式等のほか、不動産、国債・地方債、税務署長が確実と認める有価証券、税務署長が確実と認める保証人の保証などが挙げられています。
出典:国税庁|非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予(担保の提供に関するQ&A)
担保提供の基本的な構造は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提供期限 | 贈与税または相続税の申告期限まで |
| 必要担保額 | 原則として猶予税額と猶予期間中の利子税額に見合う金額 |
| 担保財産 | 対象非上場株式等、不動産、国債・地方債、有価証券、保証人の保証等 |
| 重要な特例 | 対象非上場株式等の全部を担保提供する場合のみなす充足 |
| 注意点 | 担保手続が申告期限までに完了するよう事前準備が必要 |
担保提供は、税務署への申告と同じ時期に行うものですから、申告書作成の最後になって考え始めると、間に合わないことがあります。
特に、自社株式を担保にする場合には、株券発行会社か株券不発行会社かによって手続が変わってきます。定款、株券発行の有無、株主名簿、質権設定書類、印鑑証明書などを、早めに確認しておく必要があります。
対象株式の全部を担保提供する場合の「みなす充足」
事業承継税制の担保提供で、実務上とりわけ重要になるのが、対象非上場株式等の全部を担保提供する場合の「みなす充足」です。
国税庁のQ&Aによれば、対象非上場株式等の全部を担保として提供した場合には、非上場株式等についての納税猶予の適用について、必要担保額に見合う担保提供があったものとみなされるとされています。これにより、担保として提供している対象非上場株式等の価額が下落したとしても、担保の全部または一部に変更があった場合を除いて、追加の担保提供は求められないという取扱いが示されています。
出典:国税庁|認定承継会社の対象非上場株式等の全部を担保として提供した場合のみなす充足の取扱い
ただし、ここでいう「全部」とは、制度の適用を受ける対象非上場株式等の全部を意味します。
対象外の株式まで常に担保提供しなければならないという意味ではありませんが、制度適用を受ける株式の一部だけを担保提供する形では、みなす充足の扱いを受けられない可能性があります。
| 担保の出し方 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 対象株式の全部を担保提供 | みなす充足の適用が検討できる |
| 対象株式の一部のみを担保提供 | 必要担保額を満たすか別途確認が必要 |
| 不動産等を担保提供 | 猶予税額・利子税相当額に見合う価額が必要 |
| 複数会社の株式を担保提供 | 会社ごとの対象株式・担保関係を整理する |
| 担保提供後に組織再編等がある | 担保変更・増担保・解除手続を確認する |
自社株式を担保にするということは、後継者がその対象株式を保有し続けることが前提になります。
将来、株式譲渡、自己株式取得、組織再編、株式交換、会社分割、合併、持株会社化などを検討する場合には、この担保の扱いが、実行可能性に影響することがあります。
株券発行会社と株券不発行会社では、担保手続が異なります
認定承継会社の非上場株式を担保提供する場合、その会社が株券発行会社か株券不発行会社かによって、手続が変わってきます。
国税庁のQ&Aでは、認定承継会社が株券発行会社である場合には、非上場株式の株券を法務局に供託し、供託書の正本を税務署長に提出すること、株券不発行会社である場合には、税務署長が質権を設定することについて承諾した旨を記載した書類や印鑑証明書等を税務署に提出することが示されています。
出典:国税庁|認定承継会社の非上場株式を担保として提供する場合の手続
| 会社の状態 | 担保提供の主な流れ | 注意点 |
|---|---|---|
| 株券発行会社 | 株券を法務局に供託し、供託書正本を税務署へ提出 | 株券の現物、供託手続、日数管理が重要 |
| 株券不発行会社 | 質権設定承諾書、印鑑証明書、株主名簿記載事項証明書等を提出 | 会社側の書類作成、代表者印、株主名簿整備が重要 |
| 持分会社 | 持分への質権設定関係書類を提出 | 株式会社と手続が異なるため個別確認が必要 |
非上場会社のなかには、定款上は株券発行会社のままになっているものの、実際には株券を発行していない、という会社も少なくありません。
このような場合には、担保提供の段階で、定款、株券発行の有無、過去の株式移転手続、株主名簿の整備状況を確認する必要があります。
税務署への申告期限の直前になって株券発行会社であることが判明すると、供託手続が間に合わないおそれがあります。
事業承継税制を使う可能性がある会社では、贈与または相続の前の段階で、株券発行会社かどうかを確認しておくことが大切です。
担保提供後も、組織再編や株式の変更には注意が必要です
担保提供は、申告の時点で終わる論点ではありません。
適用後に会社の組織や株式に変更が生じる場合には、その担保の扱いが問題になります。
国税庁のQ&Aでは、担保として提供されている非上場株式等について、合併による消滅、株式交換等による完全子会社化、組織変更、株式併合・株式分割、株式無償割当て、株券差替えが必要となる事由、担保財産の変更等があった場合などには、みなす充足の取扱いが適用されなくなる場面があることが示されています。
出典:国税庁|対象非上場株式等の全部を担保として提供した後に担保の全部又は一部に変更があった場合
これは、将来の経営判断に直結する点です。
たとえば、承継後に持株会社化したい、グループ内で再編を行いたい、兄弟会社を整理したい、事業部門を会社分割したい、M&Aに備えて株式交換を検討したい——こうした場面では、税務上の組織再編論点だけでなく、納税猶予の担保関係についても確認しておく必要があります。
事業承継税制を適用する前に、「今後5年から10年の間に、会社の売却・廃業・再編・持株会社化を行う可能性があるか」を確認しておくべき理由は、まさにここにあります。
担保提供は、資金繰りの判断でもあります
担保提供は、税務手続上の要件であると同時に、会社と後継者にとっての資金繰りの判断でもあります。
納税猶予を受けるということは、現時点で納付しない税額について、将来の取消の可能性を抱え続けるということでもあります。
担保提供によって、税務署は猶予税額を保全します。しかし後継者の側から見れば、その担保は、将来の資金調達や資本政策に影響しうるものです。
| 担保提供が影響し得る事項 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 後継者個人の資金調達 | 自社株式や不動産を別の借入担保に使う予定がないか |
| 会社の金融機関対応 | 金融機関が株式担保や経営者保証をどう見るか |
| 自己株式取得 | 担保提供中の株式を会社が取得できるか |
| 組織再編 | 合併・分割・株式交換で担保変更が必要にならないか |
| 取消時資金 | 猶予税額・利子税を納付できる資金見通しがあるか |
| 相続人間調整 | 他の相続人への代償金や納税資金に影響しないか |
「納税猶予を使えば資金の問題は解決する」と考えるのは、危険です。
猶予対象外の税額、担保提供、取消時の納税、利子税、代償金、役員退職金、自己株式取得まで含めて、後継者個人と会社の資金繰りを確認しておく必要があります。
税務署への申告で、よく起こる実務上のミス
税務署への申告段階では、次のようなミスが起こりやすくなります。
| ミス | 影響 |
|---|---|
| 認定書の交付が申告期限に間に合わない | 申告書添付ができず、適用に支障が出る |
| 申告書に納税猶予の適用を受ける旨の記載がない | 制度適用の意思表示が不十分となる |
| 猶予税額の計算書に誤りがある | 猶予税額・納付税額の誤りにつながる |
| 対象株式数が認定申請書と申告書で一致しない | 株式数・議決権・担保範囲の説明が困難になる |
| 株主名簿と実態が合わない | 名義株・過去の移転・同族判定に疑義が生じる |
| 担保提供書類が不足している | 申告期限内の担保提供ができない |
| 株券発行会社であることを見落とす | 供託手続が間に合わない |
| 猶予対象外税額の納付資金を見落とす | 申告期限に納付資金が不足する |
| 継続届出の管理体制を決めていない | 適用後の猶予継続に支障が出る |
| 将来の再編予定を確認していない | 適用後の担保変更・取消リスクが顕在化する |
事業承継税制の申告は、通常の贈与税・相続税申告よりも、税務署、都道府県、会社法資料、株価評価、担保提供が、複雑に絡み合います。
担当者任せにしたり、期限の直前に着手したり、一人だけのチェックで済ませたりすると、見落としが起きやすい領域です。
申告後は、継続届出まで見据えて資料を保存する
税務署への申告と担保提供が完了しても、事業承継税制はそこで終わりではありません。
国税庁は、法人版事業承継税制のページにおいて、納税猶予の継続届出手続、免除届出、取りやめ届出、倒産等の場合の免除申請、事業継続困難事由が生じた場合の差額免除申請など、適用後の各種手続を掲載しています。
中小企業庁も、認定後は都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を提出する必要があるとし、税務申告後5年以内は毎年、6年目以後は税務署にのみ3年に一度、継続届出書を提出する流れを示しています。
申告後に保存しておきたい資料は、次のとおりです。
| 保存資料 | 保存する目的 |
|---|---|
| 特例承継計画・変更届 | 承継方針と後継者計画を確認する |
| 都道府県認定申請書・認定書 | 認定内容と申告内容の整合性を確認する |
| 贈与税・相続税申告書 | 猶予税額、対象株式、納付税額を確認する |
| 添付書類一式 | 後日の照会・継続届出・税務調査に備える |
| 担保提供関係書類 | 担保設定・供託・質権設定の状況を確認する |
| 株主名簿 | 議決権・同族関係・株式保有状況を継続確認する |
| 議事録・登記資料 | 代表者、役員、組織再編、資本政策を確認する |
| 決算書・申告書 | 資産管理会社判定、雇用、事業継続を確認する |
| 継続届出書・年次報告書の控え | 提出漏れ防止と履歴管理に使う |
| 判断メモ | 適用判断、リスク説明、関係者合意を後から説明する |
事業承継税制では、「提出したかどうか」だけでなく、「なぜその判断をしたのか」「どの資料を前提にしたのか」「関係者にどこまで説明したのか」が重要になります。
後継者、他の相続人、金融機関、税務署、都道府県に対して、後からきちんと説明できるよう、申告時点の判断記録を残しておく。それが、承継後のトラブルを防ぐことにつながります。
税務署への申告前に確認しておきたいチェックポイント
税務署への申告の前に、次の事項を確認しておくと、手続の漏れや判断の漏れを防ぎやすくなります。
| 確認事項 | 確認内容 |
|---|---|
| 制度区分 | 特例措置か一般措置か |
| 承継方法 | 贈与、相続、贈与者死亡による切替えのいずれか |
| 申告期限 | 贈与税は翌年3月15日、相続税は相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 認定書 | 都道府県認定書が申告期限までに取得できるか |
| 対象株式 | 株式数、種類、議決権、取得日、取得原因が明確か |
| 株価評価 | 評価方式、評価会社区分、特定評価会社判定を確認したか |
| 猶予税額 | 猶予対象税額と納付すべき税額を区分したか |
| 添付書類 | 国税庁チェックシートに沿って不足がないか |
| 担保提供 | 自社株担保か、不動産等か、みなす充足を使うか |
| 株券発行の有無 | 株券発行会社なら供託手続が必要か |
| 納税資金 | 猶予対象外税額、代償金、他相続人の税額を確認したか |
| 継続管理 | 年次報告・継続届出の担当者と期限管理を決めたか |
| 将来方針 | 売却、廃業、組織再編、持株会社化の可能性を確認したか |
これらは、「申告書を作成するための確認事項」であると同時に、「そもそもこの制度を使うべきか」を再確認するための判断軸でもあります。
まとめ
事業承継税制は、都道府県の認定を受けただけでは完成しません。
贈与税または相続税の申告期限までに、税務署へ適切な申告を行い、必要書類を添付し、猶予税額を計算し、担保を提供する必要があります。さらに、申告後も継続届出、年次報告、代表者要件、株式保有、議決権、資産管理会社化、組織再編時の担保変更などを、管理し続けることになります。
税額だけを見れば、特例措置は大きな効果を持ち得る制度です。
しかし、制度適用後の制約、将来の取消リスク、担保提供、納税資金、株主構成、相続人間の合意形成まで含めて判断しなければ、かえって後継者の経営判断を難しくしてしまうこともあります。
税務署への申告は、単なる最終手続ではありません。
事業承継税制を本当に適用すべきか、適用後も維持できるか、そして後から説明できるか——それを確認する、重要な節目だといえます。
振り返り
| 項目 | 重要ポイント |
|---|---|
| 都道府県認定 | 税務署申告の前提であり、認定だけでは納税猶予は完成しない |
| 税務署申告 | 贈与税・相続税の申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載する |
| 贈与税申告期限 | 原則として贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで |
| 相続税申告期限 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 添付書類 | 認定書、猶予税額計算書、対象株式明細、評価資料、チェックシート等を整える |
| 猶予税額 | 対象株式に対応する税額と猶予対象外税額を区分する |
| 担保提供 | 申告期限までに猶予税額等に見合う担保提供が必要 |
| みなす充足 | 対象非上場株式等の全部を担保提供する場合、必要担保額を満たすものと扱われる |
| 株券発行会社 | 株券供託等の手続が必要になり、期限管理に注意が必要 |
| 株券不発行会社 | 質権設定承諾書、印鑑証明書、株主名簿記載事項証明書等を確認する |
| 資金繰り | 猶予対象外税額、代償金、取消時資金、利子税を検討する |
| 継続届出 | 申告後5年間は毎年、その後は3年ごとの税務署手続を管理する |
| 将来の再編 | 合併、分割、株式交換、持株会社化等は担保・取消リスクに影響する |
| 証拠化 | 申告書、添付書類、担保資料、判断メモ、提出控えを保存する |
税務署への申告、添付書類、担保提供は、事業承継税制の適用を税務上完成させる、中核となる手続です。
特に、自社株評価、猶予税額、担保提供、継続届出、さらには将来の組織再編の可能性まで含めて整理しようとすると、税務・財務・会社法・相続実務を横断した確認が欠かせません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、都道府県認定後の税務署申告、添付書類の整理、猶予税額の試算、担保提供、そして申告後の継続管理まで、後からきちんと説明できる形で、事業承継税制の実行支援を行っています。
自社株の贈与・相続を予定されている方、あるいは認定は進めているものの、税務署への申告・担保提供に不安をお持ちの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。