自社株評価を考えるとき、決算書の純資産や利益だけを眺めていても、承継税額の全体像はなかなか見えてきません。
非上場会社では、工場、店舗、倉庫、事務所、賃貸物件、駐車場、社宅、あるいは役員所有の土地の上に建つ会社建物など、事業と不動産が密接に結びついているケースが少なくありません。しかも中小企業の場合、会社が使っている土地や建物を、会社自身が所有しているとは限りません。経営者個人、配偶者、親族、あるいは資産管理会社が所有し、会社はそれを賃借したり、無償で使用したりしている。実務ではこうした例によく出会います。
このような事業用不動産・事業用資産は、二つのルートで承継判断に影響してきます。
一つは、会社が所有する不動産・設備が、自社株評価に反映されるルートです。 もう一つは、経営者個人や個人事業主が所有する事業用資産そのものが、相続税・贈与税、個人版事業承継税制、小規模宅地等の特例の判断対象になるルートです。
つまり、事業用不動産の評価は「土地の評価額を計算する作業」で終わるものではありません。自社株評価、納税猶予額、猶予対象外税額、後継者の納税資金、親族間の財産配分、金融機関への説明、さらには将来の売却・廃業・組織再編まで含めて整理しておくべき論点なのです。
中小企業の事業承継では、経営者個人が所有する土地の上に会社が建物を建てていたり、会社が経営者個人の資産を使用していたりすることが頻繁にあります。だからこそ、検討の入口では、経営者個人の資産・負債、会社との賃貸借契約、無償返還届出書、担保提供の状況まで、ひととおり確認しておく必要があります。
事業用不動産評価は「法人版」と「個人版」で意味が違う
まず押さえておきたいのは、法人版事業承継税制と個人版事業承継税制とでは、評価対象の位置づけがまったく異なるという点です。
法人版事業承継税制の対象は、非上場会社の株式等です。会社が所有する土地・建物・機械装置は、原則として、その会社の株価評価を通じて承継税額に影響します。会社所有の不動産そのものを後継者が直接取得する制度ではない、ということです。
一方、個人版事業承継税制では、個人事業主の事業用資産そのものが対象になります。ここでいう特定事業用資産とは、先代事業者の事業の用に供され、前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていた宅地等、建物、一定の減価償却資産等を指します。宅地等は400㎡まで、建物は床面積800㎡までが対象です。
出典:国税庁|No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)
整理すると、次のようになります。
| 区分 | 評価対象 | 承継判断への影響 |
|---|---|---|
| 法人版事業承継税制 | 非上場会社株式等 | 会社所有不動産・設備は自社株評価を通じて影響 |
| 個人版事業承継税制 | 個人事業主の特定事業用資産 | 土地・建物・一定の減価償却資産そのものが納税猶予の対象 |
| 小規模宅地等の特例 | 一定の事業用・居住用・貸付用宅地等 | 相続税の課税価格を一定割合減額 |
| 通常の相続・贈与 | 個別の土地・建物・設備 | 相続税・贈与税、遺産分割、納税資金に影響 |
この区分を取り違えると、「会社の土地だから法人版事業承継税制で直接猶予される」「個人所有でも会社が使っている土地なら、当然に自社株評価だけ見ればよい」といった誤解が生まれてしまいます。
土地評価の基本は、地目・評価単位・路線価方式・倍率方式
相続税・贈与税における土地評価では、原則として、宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価していきます。評価方法には、路線価方式と倍率方式の二つがあります。
路線価方式は、路線価を土地の形状等に応じた補正率で補正し、地積を乗じて評価する方法です。倍率方式は、路線価が定められていない地域の土地について、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する方法です。
ただ、実務で難しいのは、計算式そのものよりも、その前段階だと感じています。
たとえば、同じ敷地内に工場、倉庫、役員社宅、従業員駐車場、貸付用駐車場、未利用地が混在している場合、どの土地を一つの評価単位として見るのか。登記簿上の地目と現況が食い違う場合、どちらの地目で評価するのか。相続直前に分筆しているなら、その分割が合理的といえるのか。こうした判断ひとつで、評価額が大きく動くことがあります。
土地評価の実務では、地目判定、評価単位、公簿面積と実測面積、路線価方式・倍率方式、貸宅地、貸家建付地、使用貸借、仮換地、私道、がけ地、土砂災害区域など、確認すべき事項が数多くあります。評価単位や地目判定、使用貸借、貸宅地、貸家建付地、宅地造成費、地積規模の大きな宅地といったあたりは、いずれも判断を誤りやすい主要論点です。
本記事では、土地評価の全論点を網羅するのではなく、事業承継の判断で特に問題になりやすい次の論点に絞ってお話しします。
| 論点 | 事業承継で問題になる理由 |
|---|---|
| 会社所有土地 | 自社株評価、特定評価会社判定、資産管理会社判定に影響 |
| 経営者個人所有土地 | 後継者への承継、遺産分割、会社の使用権確保に影響 |
| 貸宅地 | 借地権割合、無償返還届出、自社株評価に影響 |
| 貸家建付地 | 会社や個人が賃貸建物を所有している場合の評価に影響 |
| 使用貸借 | 評価減の有無、小規模宅地等、会社使用権の安定性に影響 |
| 事業用建物 | 固定資産税評価額、自社株純資産、個人版の対象資産に影響 |
| 個人版対象資産 | 納税猶予対象範囲、継続要件、取消リスクに影響 |
会社所有不動産は、自社株評価に反映される
法人が土地・建物を所有している場合、その不動産はあくまで会社の財産です。
後継者が承継するのは、不動産そのものではなく会社株式です。しかし、株式評価のなかには、その会社が所有する不動産の価額が反映されてきます。
とくに純資産価額方式では、会社の資産・負債を相続税評価額ベースで評価し直すため、帳簿価額と相続税評価額との差が問題になります。古くから所有している土地では、帳簿価額が低く、相続税評価額がそれを大きく上回ることがあります。反対に、近年取得した不動産や特殊な土地では、評価通達上の評価額と時価・鑑定評価額との乖離が論点になることもあります。
さらに、不動産保有割合が高い会社では、土地保有特定会社や資産管理会社の問題が生じます。不動産投資を利用した株価対策を講じても、土地保有特定会社に該当すると、株式評価が相対的に高くなりやすい純資産価額方式中心になる場合があります。つまり、不動産の取得が必ずしも株価対策として機能するわけではない、ということです。
ここで重要なのは、法人版事業承継税制を使うかどうかを考える前に、会社の不動産がどの評価方式で株価に反映されるのかを、まず確認しておくことです。
| 会社所有不動産の状態 | 株価評価上の主な確認事項 |
|---|---|
| 自社工場・店舗・事務所 | 土地・建物の相続税評価額、純資産価額への反映 |
| 賃貸物件 | 貸家建付地、貸家評価、賃貸割合、収益性 |
| 遊休地 | 事業用資産か特定資産か、資産管理会社判定 |
| 投資用不動産 | 土地保有特定会社、資産保有型会社の判定 |
| 近年取得した不動産 | 評価通達6項、時価との乖離、取得目的の説明可能性 |
| 担保不動産 | 金融機関説明、担保解除、承継後資金繰り |
事業承継税制は、納税猶予を通じて承継時の税負担を軽減する制度です。ただ、会社財務の健全性まで自動的に整えてくれる制度ではありません。不動産を多く持つ会社では、株価評価と同時に、金融機関から見た担保価値、借入返済能力、将来の売却可能性も確認しておく必要があります。
経営者個人所有の事業用不動産は、会社の使用権と相続の両方を見る
中小企業では、会社が使っている土地や建物を、経営者個人が所有していることがあります。典型的なのは、先代経営者所有の土地の上に、会社が工場や店舗を建てているケースです。
この場合、相続が発生すると、その土地は経営者個人の相続財産として遺産分割の対象になります。後継者が会社株式を承継しても、肝心の土地を別の相続人が取得してしまえば、会社の使用関係が不安定になりかねません。
オーナー所有の事業用不動産を後継者へ承継する方法としては、生前贈与、売買、遺言、会社による買取り、信託などが考えられます。ただ、それぞれに贈与税、譲渡所得税、購入資金、遺留分、会社資金の流出といった論点がついてまわります。オーナー個人所有の土地の上に会社建物があるなら、建築当時の権利金支払、相当の地代、無償返還届出書の提出状況を確認しておくべきです。
確認すべき関係は、次のように整理できます。
| 所有・利用関係 | 主な論点 |
|---|---|
| 経営者個人所有土地を会社が無償使用 | 使用貸借、評価減の有無、会社の使用権確保 |
| 経営者個人所有土地を会社が賃借 | 地代、借地権、無償返還届出、貸宅地評価 |
| 経営者個人所有建物を会社が使用 | 賃貸借契約、賃料水準、相続時の取得者 |
| 会社所有建物が個人土地上にある | 借地契約、権利金、相当の地代、無償返還届出 |
| 親族所有土地を会社が使用 | 後継者以外の相続人との利害調整 |
| 個人所有不動産を担保提供 | 金融機関対応、保証解除、担保差替え |
会社が所有権を持たない動産・不動産を使っている場合は、事業承継後も引き続き使用できるのかを確認しておく必要があります。もし使用権がないのであれば、賃貸借契約の締結や買取りを検討することになります。中小企業では、経営者所有の動産・不動産を会社が無償で使用していることもあり、承継のタイミングで契約を再整備しておくのが望ましいといえます。
貸宅地の評価と、借地権割合の確認
貸宅地とは、借地権など宅地の上に存する権利の目的となっている宅地をいいます。借地権の目的となっている宅地は、原則として、自用地としての価額から、自用地価額に借地権割合を乗じた金額を控除して評価します。借地権割合は路線価図・評価倍率表で確認しますが、借地権の取引慣行がない地域では20%として計算する取扱いがあります。
事業承継で問題になりやすいのは、第三者への一般的な貸地ではなく、同族会社への貸付です。
たとえば、先代経営者が所有する土地を同族会社に貸し、その上に会社が店舗や工場を建てているとします。この場合、土地所有者側では貸宅地評価が問題になり、会社株式側では借地権相当額をどう扱うかが問題になります。
とりわけ、「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているかどうかで、評価と課税関係が変わってきます。
無償返還届出書は、提出の有無だけでなく「使用貸借か賃貸借か」を見る
土地の無償返還に関する届出は、借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められているときに行う手続です。この届出を行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととされています。
ただし、無償返還届出書があるからといって、すべてのケースで土地が自用地の80%評価になるわけではありません。実務上は、少なくとも次の区分が重要になります。
| 利用態様 | 土地所有者側の評価の考え方 | 小規模宅地等・承継判断での注意 |
|---|---|---|
| 使用貸借・地代なし | 自用地評価となる整理が問題になる | 特定同族会社事業用宅地等に該当しない可能性 |
| 賃貸借・地代あり・無償返還届出あり | 自用地価額の80%相当額で貸宅地評価となる整理 | 特定同族会社事業用宅地等の検討対象になり得る |
| 無償返還届出なし | 借地権認定課税・借地権評価が問題化 | 過去経緯、契約、地代、税務処理の確認が必要 |
小規模宅地等の特例の場面でいえば、無償返還届出書を提出していても、使用貸借で地代の支払がないケースでは、土地評価は自用地100%となり、特定同族会社事業用宅地等には該当しないと整理されます。一方、地代の支払がある借地権設定であれば、貸地として20%控除され、特定同族会社事業用宅地等の検討対象になり得ます。
さらに、自社株評価では別の調整が必要になることがあります。
無償返還届出書が提出されている借地契約では、相続等のときに借地権価額を0として取り扱う一方、土地所有者側の貸宅地評価では自用地価額の80%相当額で評価される場面があります。ただし、被相続人が同族株主となっている同族会社に土地を貸している場合には、個人と法人を通じて土地価額が100%顕現するよう、会社株式の純資産価額方式上、自用地価額の20%相当額を借地権相当額として資産に算入する取扱いが問題になります。
この点は、事業承継税制の検討で見落とされやすい論点です。土地所有者個人の相続税評価だけを見ていると、会社株式側に反映すべき借地権相当額を取りこぼしてしまうおそれがあります。
貸家建付地は、実際に貸しているかを確認する
会社や個人が賃貸用の建物を所有している場合、その土地は貸家建付地として評価されることがあります。
貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地をいいます。たとえば、自分が所有する土地にアパートや賃貸ビルを建て、第三者に貸しているときの敷地がこれにあたります。評価は、自用地価額から「自用地価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」を控除して計算します。
ここで注意したいのは、課税時期に実際に貸し付けられているかどうかです。
以前は貸家であっても、課税時期に空き家となっている家屋の敷地は、原則として自用地価額で評価します。賃貸用として新築された建物であっても、課税時期に現実に貸し付けられていない場合には、貸家建付地評価を行わない取扱いが示されています。
出典:国税庁|貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価
事業承継では、賃貸不動産を「節税目的の資産」とだけ見てしまうのは危険です。賃貸割合、空室、契約書、賃料水準、管理実態、金融機関借入、将来の修繕費、売却可能性まで確認しておかないと、株価評価と資金繰りの両面で見誤ることになりかねません。
事業用建物の評価は固定資産税評価額が入口になる
家屋の相続税・贈与税評価では、固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価します。したがって、自用家屋の評価額は固定資産税評価額と同じになります。
ただし事業承継では、建物の評価額だけでなく、次のような点が重要になってきます。
| 建物の状態 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 会社所有建物 | 自社株評価上の純資産、償却、修繕予定、担保 |
| 経営者個人所有建物 | 相続財産、会社との賃貸借、後継者への承継方法 |
| 個人事業用建物 | 個人版事業承継税制の対象資産該当性 |
| 賃貸建物 | 貸家評価、敷地の貸家建付地評価、賃貸割合 |
| 建築中・増改築直後 | 固定資産税評価額が付されていない場合の個別評価 |
| 老朽建物 | 解体費、使用継続可能性、金融機関評価、廃業時コスト |
建物は土地より評価額が小さいこともありますが、事業継続への影響はむしろ大きい資産です。工場建物、店舗建物、診療所、旅館、倉庫、作業場などは、後継者が事業を続けていくための物理的な基盤そのものです。評価額が低くても、所有者が後継者以外の相続人になれば、会社の使用権や将来の改修判断に問題が残ります。
個人版事業承継税制では「評価額」だけでなく「対象資産の全体」を見る
個人版事業承継税制では、青色申告に係る一定の事業用資産が納税猶予の対象になります。これは、個人事業主の特定事業用資産の承継に伴う贈与税・相続税の負担を実質ゼロとする特例措置です。適用にあたっては、令和10年9月30日までに個人事業承継計画を提出し、令和10年12月31日までに事業承継を実施する必要があります。
また、個人版事業承継税制の認定を受けるためには、平成31年4月1日から令和10年9月30日までの間に、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた旨を記載した個人事業承継計画を提出する必要があります。
個人版の検討では、対象資産の評価額だけでなく、対象資産の範囲を取り違えないことが重要です。
| 資産区分 | 個人版での主な確認事項 |
|---|---|
| 宅地等 | 400㎡まで、事業用性、所有者、生計一親族所有の可能性 |
| 建物 | 床面積800㎡まで、事業用部分、固定資産税評価額 |
| 機械装置・器具備品 | 青色申告貸借対照表計上、固定資産税課税対象 |
| 車両運搬具 | 営業用標準税率、事業用性 |
| 生物・果樹等 | 事業用資産該当性 |
| 特許権等 | 無形固定資産としての対象性 |
| 借入・担保 | 納税猶予対象外の資金負担、金融機関対応 |
なお、特例事業用資産を事業の用に供さなくなった場合などには、猶予税額の全部または一部について納税猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付しなければならないとされています。
出典:国税庁|No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)
ここで大切なのは、個人版事業承継税制は「事業用資産を評価して終わり」ではない、ということです。対象資産を後継者が取得し、事業の用に供し続け、青色申告や届出・継続管理を行う体制を整えておく必要があります。
小規模宅地等の特例との関係を混同しない
個人事業用の土地については、小規模宅地等の特例との関係も重要になります。
小規模宅地等の特例では、相続開始の直前に被相続人等の事業の用または居住の用に供されていた一定の宅地等について、限度面積まで相続税の課税価格を減額します。特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額、特定同族会社事業用宅地等も400㎡まで80%減額、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額とされています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
一方、個人版事業承継税制は、宅地等だけでなく、建物や一定の減価償却資産も対象とし得る納税猶予制度です。ただし、特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例の適用を受ける者がある場合には、個人版事業承継税制の適用に制限が生じます。特定事業用宅地等について小規模宅地等の特例を受ける者がある場合には、個人版事業承継税制の適用を受けることができないとされている点に注意が必要です。
出典:国税庁|No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)
実務上は、次のように比較していきます。
| 比較項目 | 個人版事業承継税制 | 小規模宅地等の特例・特定事業用宅地等 |
|---|---|---|
| 対象 | 宅地等、建物、一定の減価償却資産 | 宅地等のみ |
| 効果 | 納税猶予・一定事由で免除 | 課税価格の減額 |
| 承継原因 | 贈与・相続等 | 相続等 |
| 事前計画 | 個人事業承継計画が必要 | 不要 |
| 事業継続 | 長期継続管理が必要 | 原則として申告期限までの継続要件 |
| 取消・納付リスク | あり | 納税猶予制度ではないため取消構造は異なる |
| 判断の難所 | 対象資産全体・継続管理 | 宅地の利用区分・取得者要件 |
「80%減額」と「100%納税猶予」という数字だけを並べると、個人版事業承継税制が常に有利に見えるかもしれません。しかし、個人版には長期の事業継続・資産保有・届出管理が伴います。後継者が将来、廃業・法人成り・資産売却を行う可能性があるなら、単純な税額比較だけで判断するのは禁物です。
不動産・事業用資産評価で見落としやすい実務リスク
事業用不動産の評価では、計算に入る以前に、資料と事実関係が整理されていないこと自体が大きなリスクになります。
特に次のようなケースでは、早めの確認をおすすめします。
| リスク | 具体例 | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 所有者不明確 | 先代名義、共有、未登記建物、相続未登記 | 登記簿、固定資産税課税明細、相続関係の確認 |
| 使用契約不明 | 会社が個人所有土地を無償使用 | 賃貸借契約、使用貸借、地代、無償返還届出の確認 |
| 担保関係未整理 | 経営者個人土地が会社借入の担保 | 金融機関説明、担保差替え、保証解除方針 |
| 評価単位誤り | 工場・駐車場・賃貸部分が混在 | 利用区分ごとの評価単位整理 |
| 貸家建付地誤り | 空室・社宅・一時利用を貸家建付地評価 | 賃貸契約、入居状況、賃貸割合の確認 |
| 小規模宅地等との混同 | 個人版と特定事業用宅地等を重複検討 | 適用制度の選択、限度面積、取得者要件の確認 |
| 株価評価への反映漏れ | 無償返還届出ありの借地権相当額を見落とす | 土地所有者と株主関係、自社株純資産計算の確認 |
| 将来出口の未検討 | 売却・廃業・法人成り・組織再編予定あり | 適用後の取消リスク、納付資金、再編税務の確認 |
相続・贈与税の実務では、土地や株式の評価誤りが税賠リスクにつながりやすく、実際にも重要な事故類型のひとつとされています。
事業承継税制を利用する場合、評価誤りは単に税額が変わるだけでは済みません。特例承継計画、認定申請、申告書、担保提供、継続届出、関係者への説明資料、その前提までも揺らがせてしまうことがあります。
相談前に整理すべき資料
事業用不動産・事業用資産の評価を検討する前に、少なくとも次の資料を整理しておくと、初期判断の精度がぐっと上がります。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 固定資産税課税明細書・評価証明書 | 土地・建物の固定資産税評価額、地目、地積、家屋番号 |
| 登記事項証明書 | 所有者、共有持分、抵当権、地上権、賃借権登記 |
| 公図・地積測量図・建物図面 | 評価単位、利用状況、隣接地、分筆状況 |
| 路線価図・倍率表 | 路線価方式・倍率方式、借地権割合、借家権割合 |
| 賃貸借契約書 | 地代・賃料、契約期間、更新、用途、無償返還条項 |
| 土地の無償返還に関する届出書 | 提出有無、対象土地、契約内容、連名提出 |
| 会社決算書・勘定科目内訳書 | 会社所有不動産、借地権、減価償却資産、借入担保 |
| 青色申告決算書・貸借対照表 | 個人版対象資産の計上状況 |
| 固定資産台帳 | 機械装置、車両、器具備品、償却資産の把握 |
| 金融機関借入資料 | 担保、保証、返済計画、財務制限条項 |
| 相続関係資料 | 後継者以外の相続人、遺留分、代償資金 |
| 事業計画・廃業可能性 | 事業継続、法人成り、売却、組織再編の予定 |
大切なのは、土地・建物を「評価対象」としてだけでなく、「事業継続に不可欠な経営資源」として捉え直しておくことです。
まとめ
事業用不動産・土地・事業用資産の評価は、自社株評価の裏側にある、見過ごせない論点です。
会社が所有している土地・建物は、自社株評価を通じて承継税額に影響します。経営者個人が所有し、会社が使っている土地・建物は、会社の使用権、遺産分割、後継者への承継、金融機関対応に影響します。そして個人事業主の土地・建物・設備は、個人版事業承継税制や小規模宅地等の特例との選択判断に直結します。
特に、貸宅地、使用貸借、無償返還届出、貸家建付地、事業用建物、個人版の特定事業用資産は、形式だけで判断すると誤りやすい論点です。契約書、届出書、地代、賃貸実態、所有者、株主関係、青色申告貸借対照表、固定資産税評価額をそろえたうえで、税額試算と承継後の経営判断を同時に確認していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、自社株評価、事業用不動産評価、個人版・法人版事業承継税制の適用判断、納税猶予額・猶予対象外税額の試算、関係者説明資料の整理まで、税務と経営判断を一体で検討しています。
会社所有不動産、オーナー個人所有土地、無償返還届出、個人事業用資産、小規模宅地等との選択関係に不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、現在の所有関係とご相談内容をお知らせください。評価額だけでなく、承継後に会社を守れる設計になっているかどうかを、ご一緒に整理してまいります。
重要事項の振り返り
| 論点 | 要点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 法人版と個人版の違い | 法人版は株式、個人版は特定事業用資産が中心 | 会社所有資産か個人所有資産かを区分する |
| 土地評価の基本 | 路線価方式または倍率方式で評価 | 地目、評価単位、地積、補正率を確認する |
| 会社所有不動産 | 自社株評価に反映される | 純資産価額、特定評価会社、資産管理会社判定を確認する |
| 経営者個人所有土地 | 相続財産であり、会社の使用権にも関係する | 賃貸借、使用貸借、担保、後継者への承継方法を確認する |
| 貸宅地 | 借地権の目的となる宅地は権利関係に応じて評価 | 借地権割合、地代、契約、無償返還届出を確認する |
| 無償返還届出 | 権利金認定課税や貸宅地評価、自社株評価に影響 | 提出有無だけでなく、使用貸借か賃貸借かを確認する |
| 貸家建付地 | 実際に貸家の敷地として使われているかが重要 | 賃貸割合、空室、一時的空室、社宅該当性を確認する |
| 事業用建物 | 自用家屋は固定資産税評価額が基本 | 建築中、増改築、賃貸建物、老朽化を確認する |
| 個人版事業承継税制 | 宅地等、建物、一定の減価償却資産が対象 | 青色申告貸借対照表計上、事業用性、全資産承継を確認する |
| 小規模宅地等との関係 | 個人版と特定事業用宅地等は選択関係が問題になる | 税額だけでなく継続管理・取消リスクも比較する |
| 資料整理 | 評価誤りは申告・認定・説明資料の前提を崩す | 固定資産資料、登記、契約、届出、決算書をそろえる |