自社株の評価額が高い会社では、事業承継の検討が始まると、必ずといってよいほど「株価を下げられないか」という相談が出てきます。
この問い自体は、決して不自然なものではありません。非上場会社の株式は自由に換金できるとは限らないにもかかわらず、相続税や贈与税の課税対象になります。内部留保が厚く、利益が安定し、土地や有価証券を多く抱える会社ほど、後継者が株式を引き継ぐときの税負担は重くなりやすいからです。
ただ、株価引下げ策を「評価額を下げる技術」としてだけ捉えてしまうと、思わぬ落とし穴があります。
検討の俎上に載りやすいのは、たとえば次のような施策です。
- 役員退職金を支給する
- 不動産を取得する
- 含み損のある資産を売却する
- 配当を止める
- 会社規模や業種目が変わるように組織再編を行う
- 従業員持株会や持株会社を使う
いずれも、一定の条件のもとで自社株評価に影響し得る施策です。しかしその一方で、経済合理性を欠く対策、相続・贈与の直前だけを狙った対策、会社の財務安全性を損なう対策、関係者へ説明できない対策は、税務否認や追加課税、親族間の紛争、金融機関対応の悪化といった形で跳ね返ってきます。
本記事で扱うのは、個別スキームの提案ではありません。株価引下げ策を検討するときに、その対策がどの評価要素に効いているのか、どこから否認リスクが高まるのか、そして事業承継税制を使う前後で何を「説明できる状態」にしておくべきか。この三点を、実務の視点から整理していきます。
事業承継税制を使う場合でも、株価対策の検討は不要にならない
法人版事業承継税制の特例措置では、一定の非上場株式等に係る贈与税・相続税について、納税猶予・免除の仕組みが設けられています。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで、株式取得の期限は令和9年12月31日まで。特例措置では対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合も100%とされています。
こうした制度があると、「事業承継税制を使えば株価を下げる必要はない」と考えたくなるかもしれません。しかし、実務はそれほど単純ではありません。
第一に、事業承継税制は非課税制度ではなく、あくまで納税猶予制度です。適用後も、代表者要件、株式保有、報告・届出、組織再編、資産管理会社化、売却・廃業といった場面で継続管理が必要になります。認定後は都道府県への年次報告書と税務署への継続届出書の提出が求められ、後継者が対象株式を継続して保有すること等も要件となります。
第二に、株価は猶予税額、担保、取消時の資金負担、そして関係者への説明に直結します。「猶予されているから関係ない」のではなく、むしろ「どれだけの税額を猶予しているのか」「取消時にどれだけの資金負担が生じ得るのか」を把握するためにこそ、適正な株価評価が欠かせません。
第三に、株価を下げるための施策そのものが、事業承継税制の継続要件や会社財務に影響することがあります。不動産取得で資産構成が変わる、退職金支給で資金が流出する、組織再編で届出や認定承継の問題が生じる、といった具合です。
ですから、事業承継税制を使う場合であっても、株価対策は「税額を下げる作業」ではなく、「適用前後のリスクを数字で管理する作業」として位置づけるべきだと考えています。
自社株評価は、どの評価要素に効いているかを分解して見る
株価引下げ策を検討する前に、まずは自社株評価の構造を確認しておく必要があります。
取引相場のない株式は、取得者が同族株主等かそれ以外の株主かによって、原則的評価方式または特例的評価方式(配当還元方式)で評価されます。原則的評価方式では、会社を大会社・中会社・小会社に区分したうえで、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用方式で評価する構造になっています。
株価対策は、おおむね次のどこかに作用します。
| 評価方式・判定 | 株価に影響する主な要素 | 株価引下げ策として検討されやすいもの |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 配当、利益、簿価純資産、類似業種株価 | 配当政策、役員退職金、特別償却、損失計上 |
| 純資産価額方式 | 相続税評価額ベースの資産・負債 | 不動産取得、含み損資産の売却、債務整理 |
| 会社規模判定 | 総資産、従業員数、取引金額 | 事業拡大、組織再編、事業譲受 |
| 特定評価会社判定 | 土地・株式等の保有割合、比準要素数 | 資産構成変更が逆にリスクになる |
| 配当還元方式 | 配当金額 | 少数株主株式では低評価になり得るが、後継者株式には通常そのまま使えない |
類似業種比準方式では、配当金額、利益金額、純資産価額の3要素が重要です。これは、類似業種の株価を基にして、評価会社の1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額という3つの要素で比準していく方法です。
一方、純資産価額方式では、会社の資産・負債を原則として相続税評価額に洗い替えます。土地、有価証券、借地権、保険積立金、役員貸付金、未払金などが評価額に影響してきます。
ここで大切なのは、「何となく株価が下がりそう」という発想を手放すことです。どの評価方式で、どの評価要素が、どの決算期を基準に、どの程度変動するのか。これを確認しないことには、対策の効果もリスクも判断のしようがありません。
役員退職金は有効な場合があるが、過大支給・形式退任には注意する
株価引下げ策としてよく検討されるのが、先代経営者への役員退職金です。
役員退職金を支給すると、会社の利益や純資産が減少するため、類似業種比準価額や純資産価額に影響する可能性があります。実際、役員退職金や特別償却、オペレーティングリース等による損失計上を通じて、類似業種比準価額における利益金額や簿価純資産価額が下がり、株価の引下げ効果が期待できる場面はあります。
ただ、退職金は「株価を下げるための支出」ではありません。退職という事実、職務内容、在任期間、報酬水準、同業他社の水準、支給規程、株主総会または取締役会の決議、支払資金、退任後の関与状況。これらが整って初めて、税務上・会社法上の説明が成り立ちます。
特に注意したいのは、次のようなケースです。
| リスクのあるケース | 問題点 |
|---|---|
| 代表を退任したが、実質的には従前どおり経営している | 退職の実態が疑われる |
| 支給額が同業・在任期間・功績に照らして過大 | 過大役員退職給与として損金不算入リスク |
| 株主総会決議・退職金規程・議事録がない | 会社法・税務上の根拠が弱い |
| 支給資金を会社借入で無理に調達する | 財務安全性・金融機関説明に影響 |
| 後継者の経営開始直前に多額の資金流出がある | 承継後の資金繰りを圧迫する |
役員退職金の支払いには、社員総会・株主総会・理事会等の決議や議事録、そして規程の整備が欠かせません。税務上の適正額を超える支給では、超過部分が損金不算入となる可能性があります。医療法人の役員退職金を扱う場面でも、退職金規程や議事録、税務上の適正額、完全退職か分掌変更か、そして資金の流れまでをシミュレーションしておくことが重要になります。
退職金対策は、後継者の納税資金や先代の老後資金にも関わってきます。ですから「株価が下がるか」だけでなく、「会社がその支出に耐えられるか」「金融機関に説明できるか」「後継者の経営開始を妨げないか」というところまで、あわせて確認しておきたいところです。
含み損資産の売却や不良債権処理は、損失の実在性が前提になる
含み損のある不動産や有価証券を売却する、不良債権を貸倒処理する、不要資産を整理する。こうした方法も株価引下げ策として検討されます。
このような資産・負債の整理は、事業承継対策として合理性がある場合もあります。長期滞留債権について税務上認められる貸倒損失を計上したり、含み損のある不動産・有価証券の売却損を計上したりすることで利益や簿価純資産が減少し、類似業種比準価額を引き下げる効果が期待できる、というわけです。
ただし、損失計上には、損失の実在性と税務上の損金性が前提になります。
| 対策 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 含み損不動産の売却 | 売却先、売却価格、時価根拠、売却理由 |
| 有価証券の売却 | 時価、売買時期、関係者間取引かどうか |
| 不良債権の貸倒れ | 回収不能事実、法的整理、債務者の状況 |
| 子会社債権の債務免除 | 再建・整理の合理性、寄附金認定リスク |
| 遊休資産の整理 | 事業上不要である理由、売却後の資金使途 |
問題になるのは、損失計上が「承継直前に株価を下げるためだけ」に行われたように見える場合です。経営改善のために不要資産を処分した、回収不能債権を整理した、事業再編の一環として資産を入れ替えた。そうした実態と記録があれば、説明はしやすくなります。
反対に、売却先が同族関係者である、価格根拠が薄い、すぐに買い戻している、事業上の意味が乏しい、といった場合には、低額譲渡、寄附金、みなし贈与、行為計算否認といった問題が顔を出してきます。
不動産取得は「節税商品」ではなく、事業投資として説明できるかを見る
借入れで不動産を取得し、相続税評価額と時価・取得価額との差を利用して株価を下げる。この方法も、古くから検討されてきました。
会社が不動産を取得すると、純資産価額方式では不動産の評価額と借入金が影響します。一定期間が経過すれば、土地は路線価方式等、建物は固定資産税評価額を基礎とする評価になるため、時価や取得価額との差が株価に反映されることがあるからです。
ただし、取引相場のない株式の純資産価額方式では、課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等について、通常の取引価額相当額で評価する取扱いがあります。つまり、不動産取得から3年以内は通常の取引価格(一般には帳簿価額)で評価されるため、3年を超えて保有していない限り、路線価方式や固定資産税評価額を基にした評価にはならないということです。
さらに、不動産取得には看過できない副作用があります。
| 不動産取得による株価対策の副作用 | 内容 |
|---|---|
| 土地保有特定会社化 | 土地等の保有割合が高まると、評価方式が不利になる可能性 |
| 資産保有型会社・資産運用型会社判定 | 事業承継税制の適用除外・取消リスクに関係 |
| 借入負担 | 後継者の財務運営、金融機関評価、返済原資に影響 |
| 流動性低下 | 将来の売却・廃業・組織再編時の選択肢を狭める |
| 評価通達6項リスク | 相続・贈与直前の租税負担軽減目的が強い場合に問題化 |
| 空室・修繕・賃料下落 | 投資採算が崩れると会社財務を傷める |
不動産投資そのものは、本業の安定収益や事業用地の確保、余剰資金の運用として合理性がある場合もあります。しかし、相続・贈与の直前に、税額圧縮だけを目的として、多額の借入れを伴って行うのであれば、相応の注意が必要です。
この点で押さえておきたいのが、最高裁令和4年4月19日判決です。この判決では、相続税法22条の時価、評価通達による評価、そして評価通達6項の位置づけが問題となりました。
判決は、評価通達6が「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」について国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めていることを前提としています。そのうえで、特定の財産だけを通達評価額を上回る価額で評価することは、合理的な理由がない限り平等原則に反するとしつつ、画一的な評価がかえって実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、合理的な理由があると判示しました。
出典:裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日第三小法廷判決
この判決では、不動産の購入・借入れによって相続税負担が著しく軽減されること、被相続人らがその効果を知り、期待して、あえて企画・実行したこと、といった事情が重視されています。
出典:裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日第三小法廷判決
これは不動産評価の事案ではありますが、自社株対策においても、評価通達6項のリスクを考えるうえで重要な意味を持ちます。とりわけ、会社の資産構成を急激に変える対策、相続・贈与直前に評価差だけを狙う対策、金融機関資料や社内資料に「相続税対策」という目的が前面に出ている対策では、後からの説明可能性が厳しく問われることになります。
利益調整は「通常の経営判断」と「課税所得操作」を分ける
利益を下げれば、類似業種比準価額が下がる可能性があります。そのため、次のような施策が検討されることがあります。
| 利益に影響する施策 | 合理性がある場合 | リスクが高い場合 |
|---|---|---|
| 役員賞与・役員報酬改定 | 事前確定届出、職務対価、業績連動の説明がある | 税務手続漏れ、過大報酬、承継直前だけの調整 |
| 修繕費 | 実際に必要な修繕で、資本的支出との区分が明確 | 本来資本的支出を修繕費処理 |
| 設備投資・特別償却 | 事業上必要な設備投資 | 税効果だけを狙い、稼働実態が乏しい |
| 広告宣伝・採用投資 | 将来成長に向けた投資 | 決算対策だけで支出の必要性が薄い |
| 売上時期の変更 | 契約・検収・引渡しの実態に沿う | 恣意的な売上繰延べ |
| 費用計上 | 債務確定・役務提供の実態がある | 架空費用、関係者への利益移転 |
株価対策として利益を下げること自体が、直ちに否認されるわけではありません。問われるのは、それが会社の通常の経営判断として説明できるかどうかです。
たとえば、後継者体制に移る前に老朽設備を更新する、退職予定の先代に適正な退職金を支給する、回収不能債権を整理する、将来の採用強化のために広告宣伝を行う。こうした施策には、いずれも事業上の意味があります。
逆に、承継直前の一時的な利益圧縮だけが目的で翌期には元に戻る、契約実態と会計処理が合わない、関係者間で不自然な取引が行われている、という場合には、税務調査の場で説明に窮することになります。
組織再編・資本政策による株価対策は、効果が大きい分だけ検証も重い
合併、会社分割、株式交換、持株会社化、従業員持株会、種類株式、自己株式取得。これらも、事業承継の場面で検討されることがあります。
いずれも、株価評価、議決権、株主構成、資金調達、後継者の支配権確保に大きな影響を与える手法です。高株価企業における親族内承継や親族外承継では、経済合理性のある株価引下げ、従業員持株会、自己株式取得、持株会社方式などが検討対象として挙がってきます。
ただし、組織再編や資本政策は、単なる株価対策ではありません。事業構造、資産保有関係、支配権、少数株主、組織再編税制、会社法手続、そして事業承継税制の継続要件にまで影響が及びます。
| 手法 | 株価・承継への影響 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 持株会社化 | 後継者法人を通じた支配権移転 | 株式譲渡時価、組織再編税制、借入返済 |
| 合併・分割 | 会社規模・資産構成・事業単位を変更 | 適格要件、簿価引継ぎ、取消事由、少数株主対応 |
| 株式交換・株式移転 | グループ再編、完全親子会社化 | 株式評価、対価設計、税制適格、将来出口 |
| 従業員持株会 | 安定株主化、株式分散の設計 | 規約、退会時買取、配当政策、実質支配 |
| 種類株式 | 議決権・配当・拒否権の設計 | 評価、遺留分、税制要件、少数株主保護 |
| 自己株式取得 | 株式集約、相続人への納税資金 | 財源規制、みなし配当、時価、株主平等 |
組織再編を使った株価対策では、税務上の形式要件を満たすだけでは十分ではありません。なぜその再編を行うのか、事業上の目的は何か、後継者体制にとってどのような意味があるのか、そして将来のM&A・廃業・グループ再編を過度に制約しないか。ここまで踏み込んで検討する必要があります。
評価通達6項は「評価額が低いから否認」ではない
評価通達6項は、株価対策を検討するうえで避けて通れない論点です。
ただし、これを「税務署が気に入らなければ否認できる規定」と理解するのも、「通達どおりなら絶対に安全」と理解するのも、どちらも正確ではありません。
最高裁令和4年4月19日判決は、通達評価額と鑑定評価額に大きな乖離があるという一事だけで、直ちに評価通達による評価を排除したわけではありません。判決は、乖離だけでは足りないとしたうえで、購入・借入れによる相続税負担の著しい軽減、その効果を知り期待して企画・実行したという事情、他の納税者との看過し難い不均衡などを重視しています。
出典:裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日第三小法廷判決
非上場株式についても、評価通達6項が問題となった裁決があります。相続開始の直前に行われた新株発行や資産運用に係る一連の行為が、相続税の課税価格を圧縮して負担を大きく軽減することを直接の主たる目的としたものであり、資産構成の変動に合理的な理由を認めることが困難だ、と整理された事例です。
評価通達6項のリスクを考えるときは、次の観点が手がかりになります。
| 観点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 評価差の大きさ | 通達評価額と時価・鑑定評価額・取引価額との乖離 |
| 行為の時期 | 相続・贈与・承継直前に集中していないか |
| 行為の目的 | 事業上の必要性があるか、税額圧縮だけが主目的に見えないか |
| 経済合理性 | 第三者でも同じ行為を行う合理性があるか |
| 資金・リスク | 借入、資金流出、投資リスクに会社が耐えられるか |
| 記録 | 事業計画、取締役会議事録、金融機関資料に整合性があるか |
| 他の納税者との公平 | 特定の評価差を利用して過度な税負担軽減になっていないか |
株価引下げ策は、評価通達6項だけでなく、相続税法64条の同族会社等の行為計算否認とも関わってきます。相続税法64条1項の適用要件としては、対象法人が同族会社等であること、対象となる行為・計算が同族会社等のものであること、その行為・計算を容認すると同族会社等の株主等の相続税等の負担を減少させること、そしてその減少が不当と認められること、が挙げられています。
出典:国税庁税務大学校|相続税法64条と財産評価基本通達6項との関係について―取引相場のない株式を中心として―
税務否認リスクは、評価通達6項だけではない
「否認リスク」というと評価通達6項に目が行きがちですが、実際にはいくつもの層があります。
| リスクの層 | 典型例 | 問題になるポイント |
|---|---|---|
| 財産評価の否認 | 評価通達6項、時価評価 | 通達評価が著しく不適当か |
| 行為計算否認 | 相続税法64条、法人税法132条、所得税法157条 | 同族会社等を使った不自然・不合理な行為か |
| 個別税目の否認 | 過大役員退職金、寄附金、低額譲渡、みなし贈与 | 取引価格・損金性・受贈益 |
| 会社法上の問題 | 自己株式取得、種類株式、第三者割当 | 手続、財源規制、株主平等、公正性 |
| 事業承継税制上の問題 | 資産管理会社化、株式譲渡、組織再編 | 認定取消、猶予取消、届出漏れ |
| 相続法務上の問題 | 遺留分、特別受益、代償資金 | 後継者以外の相続人との合意 |
たとえば、株価を下げるために先代へ退職金を支払ったとします。評価上は利益・純資産が下がるかもしれません。しかし、税務上は過大役員退職金、会社法上は決議・規程、相続法務上は後継者以外の相続人への説明、財務上は資金流出と、いくつもの論点が同時に立ち上がります。
また、会社が経営者個人から資産を低額で取得すれば、会社側の受贈益、株主へのみなし贈与、個人側の譲渡所得、法人税・相続税の評価問題が一度に発生し得ます。不動産や非上場株式の同族関係者間取引では、時価、著しく低い価額、みなし贈与、受贈益、株価上昇に伴う課税といった問題が、繰り返し論点になってきました。
つまり、株価対策は「株価計算だけ」の問題ではありません。税務、会社法、財務、相続法務、金融機関対応を、同じテーブルの上で見渡す必要があるのです。
株価対策がかえって不利になる場面
株価引下げ策は、実行すれば必ず有利になる、というものではありません。むしろ、対策によって評価方式が不利になったり、承継後の自由度が下がったりすることもあります。
特に注意したいのは、次のような場面です。
| 場面 | かえって不利になる理由 |
|---|---|
| 損失計上で比準要素がゼロになる | 比準要素数1の会社に該当し、類似業種比準方式の利用が制限される可能性 |
| 不動産取得で土地保有割合が高まる | 土地保有特定会社に該当し、純資産価額方式中心になる可能性 |
| 株式・有価証券保有が増える | 株式等保有特定会社に該当する可能性 |
| 遊休不動産・賃貸資産が増える | 事業承継税制上の資産管理会社判定に影響 |
| 借入により財務が悪化する | 金融機関評価、承継後資金繰り、返済能力に影響 |
| 退職金で現預金が減る | 納税資金・運転資金・設備投資余力が減る |
| 株式を分散させる | 後継者の議決権確保、少数株主対策が難しくなる |
比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前・休業中・清算中の会社については、「特定の評価会社」として、通常とは異なる評価方法が定められています。
株価を下げるはずの対策が、特定評価会社判定によって逆効果になる。これは決して珍しいことではありません。「対策後の評価方式」までシミュレーションしておかなければ、対策の成否は判断できないのです。
後から説明できる株価対策の条件
実務で株価対策を検討するときには、次の6つの条件を満たすかどうかを確認します。
| 条件 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1. 事業目的がある | 税額圧縮以外に、事業上・財務上の合理的目的がある |
| 2. 時期が自然である | 相続・贈与直前に不自然に集中していない |
| 3. 金額が相当である | 退職金、売買価額、賃料、利率などが第三者目線で説明できる |
| 4. 会社財務に無理がない | 借入、資金流出、返済、運転資金に耐えられる |
| 5. 承継設計と整合する | 後継者の議決権、親族合意、納税資金と矛盾しない |
| 6. 記録が残っている | 議事録、契約書、評価資料、事業計画、専門家検討メモがある |
なかでも重要なのが、意思決定の記録です。
株価対策を実行した時点では問題がないように見えても、税務調査や相続人間の紛争は、数年後に起きることがあります。そのとき、なぜその時期に実行したのか、なぜその金額なのか、税負担以外にどのような経営目的があったのか。これらを説明できなければ、対策全体の信頼性が揺らいでしまいます。
記録として残しておきたい資料は、次のようなものです。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 株価試算資料 | 対策前後の評価方式・評価額を確認する |
| 事業計画 | 不動産取得、設備投資、退職金支給等の事業目的を示す |
| 資金繰り表 | 支給・投資・借入が会社財務に与える影響を示す |
| 取締役会・株主総会議事録 | 会社としての意思決定を示す |
| 退職金規程・支給計算書 | 支給根拠と相当性を示す |
| 不動産鑑定・査定資料 | 取引価額・投資判断の根拠を示す |
| 金融機関説明資料 | 借入・担保・返済計画の合理性を示す |
| 専門家検討メモ | 税務・法務リスクを検討した経緯を示す |
| 親族説明資料 | 後継者以外の相続人への説明材料を残す |
相続・贈与税の分野では、土地や株式の評価誤りが、税賠リスクとしても問題になります。実際、相続・贈与税における土地や株式の評価誤りは、重要な事故類型の一つとして数えられています。
だからこそ、株価対策は「計算結果」だけでなく、「検討過程」まで残しておく必要があるのです。
事業承継税制を使う場合の株価対策は、取消リスクと一体で見る
事業承継税制を使う場合には、株価対策の検討はさらに慎重さを要します。
株価を下げるために資産構成を変えた結果、適用時または適用後に、資産保有型会社・資産運用型会社の問題が出てくることがあります。株価を下げるために株式を分散させた結果、後継者の議決権要件や筆頭株主要件に影響が及ぶこともあります。不動産や有価証券を増やした結果、将来の売却・廃業・組織再編の場面で、納税猶予の取消や一部納付が問題になることもあります。
そのため、事業承継税制を前提とする株価対策では、次の順序で検討を進めます。
| 検討順序 | 内容 |
|---|---|
| 1. 現状株価を把握する | 評価方式、会社規模、特定評価会社、株主区分を確認 |
| 2. 制度適用の要件を確認する | 会社、先代、後継者、株式、資産管理会社判定を確認 |
| 3. 株価対策案を試算する | 対策前後の株価、猶予税額、対象外税額を比較 |
| 4. 否認リスクを確認する | 評価通達6項、相続税法64条、個別税目の問題を確認 |
| 5. 承継後管理を確認する | 継続届出、年次報告、資産構成、組織再編予定を確認 |
| 6. 家族・金融機関説明を準備する | 親族合意、納税資金、借入返済、担保を整理 |
| 7. 実行時期を決める | 贈与・相続・計画提出・決算期との関係を調整 |
株価引下げ策だけを先に決めてしまい、その後で事業承継税制に当てはめていく。この順序は危険です。制度適用、株価評価、議決権、資金繰り、相続法務を同時に見渡してこそ、承継後に会社を守れる設計になります。
まとめ
株価引下げ策は、事業承継において有効な検討テーマです。しかし、その目的は「とにかく評価額を下げること」ではありません。
後継者が株式を承継し、経営権を安定させ、会社の財務を守り、他の相続人や金融機関にきちんと説明できる状態をつくること。これこそが、本来の目的です。
役員退職金、不動産取得、含み損資産の売却、利益調整、組織再編、従業員持株会、自己株式取得。いずれも、状況によっては有効な手法です。しかし、経済合理性を欠く場合、相続・贈与直前の税額圧縮だけを狙った場合、会社財務を過度に傷める場合には、評価通達6項や相続税法64条、個別税目の否認リスクが一気に高まります。
株価対策を実行する前に、自分自身へ問い直しておきたいことがあります。
- この対策は、後から税務署・相続人・金融機関・後継者に説明できるか
- 株価が下がった後も、会社は安全に経営を続けられるか
- 事業承継税制の適用後も、取消リスクを管理できるか
犬飼公認会計士・税理士事務所では、自社株評価、株価引下げ策の実行可否、評価通達6項・相続税法64条のリスク整理、事業承継税制の適用判断、納税猶予額・取消時負担の試算、関係者への説明資料の作成まで、税務と経営判断を一体で検討しています。
株価対策を進める前に、現在の株価、資産構成、後継者体制、資金繰り、そして将来の売却・廃業の可能性まで整理しておきたいという場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。単に株価を下げるのではなく、承継後も会社を守れる対策になっているかどうかを、ご一緒に確認していきます。
重要事項の振り返り
| 論点 | 要点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 株価引下げ策の位置づけ | 節税技術ではなく、承継設計の一部 | 税額、議決権、資金繰り、将来出口を同時に見る |
| 類似業種比準方式 | 配当・利益・簿価純資産が影響 | 退職金、損失計上、配当政策の効果と副作用を確認 |
| 純資産価額方式 | 資産・負債を相続税評価額ベースで見る | 不動産、有価証券、借入、含み損益を確認 |
| 役員退職金 | 株価引下げ効果があり得る | 退職実態、適正額、規程、決議、資金繰りを確認 |
| 含み損資産の整理 | 損失計上により株価が下がる場合がある | 時価根拠、売却理由、関係者間取引、損金性を確認 |
| 不動産取得 | 評価差を通じて株価に影響する場合がある | 3年以内取得、借入、投資採算、土地保有特定会社を確認 |
| 利益調整 | 通常の経営判断と課税所得操作を分ける | 契約実態、債務確定、事業目的、継続性を確認 |
| 組織再編・資本政策 | 効果が大きい分、税務・会社法リスクも大きい | 適格要件、時価、少数株主、事業承継税制への影響を確認 |
| 評価通達6項 | 通達評価が著しく不適当な場合に問題化 | 乖離、時期、目的、租税負担公平、記録を確認 |
| 相続税法64条 | 同族会社等の不自然・不合理な行為計算が問題 | 経済合理性、第三者性、税負担減少の不当性を確認 |
| 特定評価会社 | 株価対策が逆効果になることがある | 土地・株式保有割合、比準要素数、休業・清算状態を確認 |
| 説明可能性 | 最終的に最も重要な防御線 | 議事録、試算資料、契約書、事業計画、専門家メモを残す |