事業承継税制を適用した会社では、どうしても承継後の代表者要件や株式保有、雇用、年次報告、継続届出といった手続面に意識が向きがちです。
ただ、実務で本当に見落としやすいのは、もう少し地味なところにあります。承継後に会社の資産構成がどう変わっていくか、という点です。
たとえば、こうした場面を思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。
- 工場跡地を賃貸不動産に転用した
- 余剰資金で有価証券運用を始めた
- 本業の売上が落ち、賃貸収入や配当収入の比率が高くなった
- 借入金で一時的に現預金が大きく増えた
- 事業用資産を売却し、売却代金が会社に残った
- 保険金を受け取ったが、設備投資や事業再構築にまだ使っていない
- グループ会社株式や関係会社貸付金が増えた
- 後継者や同族関係者への貸付金・未収金が残っている
これらは、経営の観点からはごく自然な意思決定であることも少なくありません。
しかし、事業承継税制を適用した後の管理においては、会社が「資産保有型会社」または「資産運用型会社」に該当しないかを、継続的に確認しておく必要があります。該当してしまうと、認定の取消しや納税猶予の期限確定につながる可能性があるためです。
法人版事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社株式等について、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税猶予や免除を認める制度です。特例措置では対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合も100%とされていますが、適用したあとは年次報告や継続届出を含む管理を継続していかなければなりません。
本記事では、法人版事業承継税制を適用した後に問題となりやすい「資産管理会社化」と「特定資産管理」の継続確認について整理します。
なお、制度を適用する時点での対象会社要件そのものは別記事で扱います。ここでは、承継後に会社の財務行動や資産構成が変化した場合の、実務上の管理に焦点を当てていきます。
事業承継税制は「事業会社」を前提にしている
事業承継税制は、単に株式を移しさえすれば税負担が猶予される、という制度ではありません。
その根底にあるのは、後継者が実体のある事業を引き継ぎ、その事業を継続していくという考え方です。ですから、会社が実質的に不動産や有価証券、現預金などを保有・運用するだけの状態に近づいてくると、制度の前提とのあいだにずれが生じてきます。
ここで問題になるのが、資産保有型会社と資産運用型会社という考え方です。
資産保有型会社とは、特定資産の保有割合が高い会社を指します。一方の資産運用型会社は、特定資産から得られる運用収入の割合が高い会社を指します。
いずれも、「事業承継税制の適用対象としてふさわしい事業会社といえるか」という観点から設けられた判定です。
注意していただきたいのは、資産管理会社化のリスクが、制度を適用する時点だけの話ではないという点です。
適用後の5年間の事業継続期間、さらにその後の継続届出期間も含めて、会社の資産構成や収入構成は少しずつ変化していきます。
承継した時点では製造業や建設業、卸売業、小売業といった事業会社であっても、数年後に遊休不動産や現預金、有価証券、貸付金が増えていけば、判定上のリスクが生じてくることになります。
資産保有型会社とは何か
資産保有型会社の判定は、おおまかにいえば、特定資産の帳簿価額の合計額が、資産の帳簿価額の総額に占める割合で見ていきます。
実際の判定はもう少し丁寧で、特定資産の帳簿価額の合計額に、本人および同族関係者へ支払われた配当や、損金不算入となる役員給与を加えた金額を分子とします。そして、資産の帳簿価額の総額にも同様の金額を加えたうえで、その割合が70%以上となるかどうかを確認していく形になります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
実務上のイメージとしては、次のように整理できます。
| 判定項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 特定資産の帳簿価額の合計額など |
| 分母 | 資産の帳簿価額の総額など |
| 基準 | おおむね70%以上か |
| 注意点 | 帳簿価額ベースで確認する。配当や損金不算入役員給与の加算にも注意する |
ここで「帳簿価額で見る」という点は、押さえておきたいところです。相続税評価額や時価評価額ではなく、制度上の判定では貸借対照表上の帳簿価額を基礎に確認する場面があるためです。
ただし、決算書の総資産と現預金・有価証券だけを眺めればよい、というわけではありません。特定資産の範囲、配当や役員給与の加算、特別子会社株式の扱い、事業実態要件、やむを得ない事由による除外期間などを、あわせて確認しておく必要があります。
資産運用型会社とは何か
資産運用型会社は、資産の「保有割合」ではなく、収入の構成に着目した判定です。
この判定は各事業年度の終了時点で行います。総収入金額としては、損益計算書上の売上高、営業外収益、特別利益の合計額を用います。このとき、資産の譲渡によるものについては、譲渡益ではなく、その資産の譲渡価額に置き換えて考える点が特徴です。特定資産の運用収入には、配当金や受取利息、受取家賃、そして特定資産の譲渡価額などが含まれます。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
実務で特に気をつけたいのは、特定資産を売却した場合です。
通常の損益感覚では、つい「売却益がいくら出たか」を見てしまいがちです。ところが資産運用型会社の判定では、特定資産の譲渡について、譲渡益ではなく譲渡価額そのものが運用収入に含まれる場面があります。
たとえば、帳簿価額9,000万円の賃貸不動産を1億円で売却し、売却益は1,000万円しか出ていないとします。それでも、判定上は1億円という譲渡価額が影響することがあります。その結果、その事業年度だけ運用収入割合が大きく跳ね上がる、という事態も起こり得るのです。
| 判定項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 特定資産の運用収入 |
| 分母 | 総収入金額 |
| 基準 | おおむね75%以上か |
| 注意点 | 特定資産の譲渡は譲渡益ではなく譲渡価額で見る場面がある |
こうした事情があるため、不動産の売却、有価証券の売却、保険金の受領、資産の入替えなどを行う前には、税額だけでなく、事業承継税制の継続要件への影響もあわせて確認しておく必要があります。
特定資産の範囲を正しく理解する
資産管理会社化の判定では、「特定資産」に何が含まれるのか、という点が出発点になります。
特定資産として整理されているのは、有価証券等、現に自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権等、絵画・貴金属等、そして現預金その他これらに類する資産などです。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
代表的なものを挙げると、次のような資産です。
| 特定資産の類型 | 実務上の例 |
|---|---|
| 有価証券等 | 上場株式、投資信託、国債、社債、関係会社株式など |
| 自ら使用していない不動産 | 遊休地、賃貸不動産、駐車場、販売用不動産など |
| 会員権等 | ゴルフ会員権、リゾート会員権、スポーツクラブ会員権など |
| 絵画・貴金属等 | 絵画、骨董品、金、宝石など |
| 現預金等 | 現金、預金、保険積立金、同族関係者への貸付金・未収金など |
ここで誤解が生じやすいのが、不動産です。
「不動産賃貸業を営んでいるのだから、賃貸不動産は事業用資産であって特定資産ではない」とは、単純にはいえません。第三者に賃貸している不動産や駐車場は、「現に自ら使用していない不動産」に該当するとされているからです。
一方で、不動産賃貸業を主たる事業とする会社が、形式上は資産保有型会社に該当してしまう場合であっても、一定の事業実態要件を満たせば、資産保有型会社に該当しないものとみなされる場合があります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
つまり、賃貸不動産があるからといって、直ちに制度アウトになるという話ではありません。
ただ、その一方で、賃貸不動産を本業資産とまったく同じ感覚で無条件に扱うこともできません。制度上は、形式判定と事業実態要件を分けて確認していく必要があるのです。
現預金も特定資産になり得る
承継後の管理で特に注意しておきたいのが、現預金です。
現預金は、会社の安全性を高める大切な資産です。金融機関への対応、仕入資金、設備投資、賞与、退職金、災害対応、事業再構築——こうした場面に備えて一定の現預金を持っておくことは、経営上むしろ当然のことです。
ところが、資産保有型会社の判定では、現金・預金その他これらに類する資産が特定資産に含まれます。保険積立金なども、現金・預金と同視し得るものとして該当する場合があります。さらに、代表者や同族関係者に対する貸付金・未収金なども含まれるものとされています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
このため、次のような会社では注意が必要です。
- 利益が蓄積し、現預金が過大になっている会社
- 設備投資の前に借入を実行し、一時的に現預金が増えた会社
- 不動産の売却代金が現預金として残っている会社
- 保険の解約返戻金や保険金が入金された会社
- 後継者・同族関係者への貸付金が残っている会社
- 役員退職金の支払前に資金を積み上げている会社
現預金を持つこと自体が問題なのではありません。問題になるのは、その現預金が事業継続に必要な資金として説明できるかどうか、そして判定上の割合をどの程度押し上げているか、という点です。
「資金繰りを守るための現預金」と「税制上の特定資産」とでは、見ている目的がそもそも違います。だからこそ、財務の安全性と制度の維持を、同時に管理していく必要があるのです。
事業実態要件を満たせば、形式的に該当しても除外される場合がある
資産保有型会社・資産運用型会社の判定は、形式的な割合だけで結論づけてはいけません。
贈与の時、または相続開始の時において、会社が資産保有型会社または資産運用型会社の基準に該当する場合であっても、一定の事業実態要件をすべて満たすときは、これらに該当しないものとみなされるとされています。事業実態要件として挙げられているのは、常時使用する従業員が5人以上であること、事務所・店舗・工場等を所有または賃借していること、贈与日または相続開始日まで引き続き3年以上にわたり商品販売等の業務を行っていること、などです。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
整理すると、次のようになります。
| 事業実態要件 | 主な内容 |
|---|---|
| 従業員要件 | 常時使用する従業員が5人以上。ただし、後継者と生計を一にする親族は含められない |
| 事業拠点要件 | 事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有または賃借している |
| 業務継続要件 | 贈与日または相続開始日まで引き続き3年以上、商品販売等の業務を行っている |
| 注意点 | 後継者や同族関係者への資産貸付は、商品販売等の事業活動に該当しない場合がある |
この要件は、単なる救済規定というわけではありません。
「形式上は資産保有・運用の割合が高いものの、実体としては従業員や事業拠点、継続的な事業活動を備えている会社」を、制度の対象から外してしまわないための考え方です。
ただ、ここにも実務上の落とし穴があります。たとえば、次のような点です。
- 従業員5人を形式的に満たしていても、後継者と生計を一にする親族を含めてしまっていないか
- 事務所や店舗の実態があるか
- 同族関係者への貸付や不動産利用が、事業活動といえるか
- 3年以上の業務継続を証明できるか
- 組織再編があった場合に、旧会社の業務期間を通算できるか
このうち組織再編については、業務継続期間の取扱いに注意が必要です。組織再編があった場合、旧会社における業務期間は通算されないと整理されています。ただし、組織変更や種類変更のように法人格の同一性が維持される場合には取扱いが異なるため、個別の確認が欠かせません。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
「やむを得ない事由」による一時的な該当にも注意する
資産管理会社化の判定では、事業活動上生じた偶発的な事由によって一時的に基準へ該当してしまった場合に、一定期間、資産保有型会社または資産運用型会社に該当しないものとみなされることがあります。
具体的には、事業活動上の偶発的な事由により特定資産の割合が70%以上となった場合や、特定資産の運用収入割合が75%以上となった場合に、一定の期間、これらに該当しないものとみなされる旨が示されています。資産保有型会社についていえば、事業活動のための資金借入れ、事業用資産の譲渡、損害に基因した保険金の取得などにより特定資産割合が70%以上となった場合には、やむを得ない事由が生じた日から6か月を経過する日までの期間は、該当しないものとみなされる場合があります。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第7章 用語・定義
ここで大切なのは、「一時的なことだから大丈夫だろう」と自己判断で済ませないことです。少なくとも、次の点は確認しておきたいところです。
- やむを得ない事由に該当するか
- いつ事由が発生したか
- どの期間が除外されるか
- その後、資金が事業用に使用されたか
- 報告書・継続届出書にどのように反映するか
- 都道府県や税務署への説明資料をどう残すか
これらを時系列で整理しておかなければ、後から経緯を説明することができなくなってしまいます。
たとえば、災害によって事業用建物が損壊し、保険金を受け取った場合を考えてみます。その保険金が現預金として残っている期間だけを切り取って見れば、特定資産割合は上がることになります。ただ、その資金が復旧工事や事業再建のためのものであれば、単なる資産運用目的とは性質が異なります。
逆に、保険金や売却代金を長期間にわたって事業に使わず、運用資産として残し続けている場合には、制度上の説明はどうしても難しくなってきます。
承継後に資産管理会社化しやすい典型場面
資産管理会社化のリスクは、会社が急に不動産管理会社へ変わってしまうような、分かりやすい場面だけに潜んでいるわけではありません。
中小企業の場合、日常的な経営判断の積み重ねによって、気づかないうちに特定資産割合や運用収入割合が高くなっていくことがあります。
1. 本業が縮小し、賃貸収入が相対的に大きくなる
創業時は製造業や卸売業だった会社が、工場の一部を賃貸に回し、本業の売上は少しずつ縮小していく——そんなケースです。
賃貸収入が安定した収益になっているため、経営者としては「会社は安定している」と感じやすい場面でもあります。ところが事業承継税制の観点からは、特定資産からの運用収入割合が高くなっていく可能性があります。
2. 事業用不動産を売却し、現預金が残る
老朽化した工場や倉庫を売却し、その売却代金を会社に残しておくケースです。
売却そのものは合理的な経営判断であることも少なくありません。ただ、売却した不動産が特定資産に該当する場合、資産運用型会社の判定では譲渡価額が運用収入に含まれる可能性があります。さらに、売却代金が現預金として残れば、資産保有型会社の判定にも影響してきます。
3. 余剰資金で有価証券運用を始める
後継者が財務効率を高めようと、余剰資金で投資信託や上場株式を購入するケースです。
会社財務の上では資金運用の一環であっても、特定資産割合や運用収入割合を押し上げる可能性があります。特に本業の利益が小さい会社では、配当や売却による収入の比率が大きくなりやすい点に注意が必要です。
4. 同族関係者への貸付金・未収金が残る
先代経営者や後継者、親族、関連会社に対する貸付金や未収金が残っているケースです。
「昔からある役員貸付金だから」とそのままにしておくと、特定資産に含まれてしまう可能性があります。会社の資金繰り、役員報酬、退職金、相続対策、金融機関対応とも関わってくるため、承継後の早い段階で整理の方針を決めておきたい論点です。
5. グループ会社株式が増える
承継後に、持株会社化や子会社化、株式交換、株式移転などを検討する場面です。
特別子会社株式の扱いは、その子会社が資産保有型子会社・資産運用型子会社に該当するかどうかによって変わってきます。「子会社株式だから事業資産」と単純に扱うことはできません。
承継後の組織再編は別途詳しく扱う論点ですが、資産管理会社化の判定とも強く結びついています。
年次報告・継続届出との関係
資産管理会社化の確認は、社内だけで完結する管理ではありません。都道府県への年次報告、そして税務署への継続届出と連動しています。
特例措置では、認定を受けたあと、都道府県庁へ年次報告書を、税務署へ継続届出書を提出する必要があります。税務申告後の5年以内は毎年提出し、6年目以後は税務署に対してのみ、3年に一度継続届出書を提出していく流れです。
資産保有型会社・資産運用型会社への該当は、認定の取消事由にも関わってきます。贈与税の納税猶予制度については、一の日において資産保有型会社に該当した場合、また贈与認定申請基準日以後のいずれかの事業年度において資産運用型会社に該当した場合に、認定が取り消されると整理されています。相続税の納税猶予制度についても同様に、資産保有型会社・資産運用型会社への該当が取消事由として整理されています。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)マニュアル 第4章 認定の取消しについて
こうした事情から、毎年の決算後には、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- 貸借対照表上の特定資産の帳簿価額
- 現預金、有価証券、不動産、貸付金、保険積立金の内訳
- 損益計算書上の売上高、営業外収益、特別利益
- 特定資産からの配当、利息、賃料、譲渡収入
- 同族関係者への配当、損金不算入役員給与の有無
- 特別子会社株式・持分の扱い
- 事業実態要件の充足状況
- やむを得ない事由の有無
- 年次報告書・継続届出書への反映
決算書が完成してから形式的に確認するだけでは、十分とはいえません。不動産の売却、投資有価証券の購入、大口の借入、保険金の受領、事業からの撤退、グループ再編——こうした意思決定を行う前に、制度への影響を試算しておくことが大切です。
「資産管理会社化を避けるための対策」は慎重に考える
資産保有型会社・資産運用型会社への該当を避けようとして、資産構成を操作しようとする発想には、注意が必要です。
たとえば、次のような対応です。
- 決算日前に一時的に資産を移す
- 形式的に事業用資産を取得する
- 親族・関連会社との取引で収入構成を調整する
- 有価証券や不動産を短期的に売買する
- 役員貸付金を別の名目に振り替える
- 実態の乏しい事務所・従業員体制を整える
これらは、制度を維持するための合理的な事業判断というよりも、説明の難しい形式調整と見られてしまう可能性があります。
事業承継税制を適用した後の管理で重要なのは、判定値を一時的に下げることではありません。会社の事業実態、資金の使途、資産を保有する目的、財務の安全性、そして後継者の経営方針を、整合的に説明できることです。
特に、同族関係者との取引、不動産の売買・賃貸、役員貸付金、グループ会社株式、保険積立金といった項目は、税務上の時価、法人税、所得税、贈与税、相続税、会社法、金融機関対応にまで波及していきます。
「制度を維持するために何を動かすか」ではなく、「会社を守るための資産保有・資金運用として説明できるか」を、まず先に確認しておく必要があります。
管理資料は「決算書」だけでは足りない
資産管理会社化の継続確認は、決算書だけを見ていても足りません。
最低限、次の資料は毎年整理しておきたいところです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 貸借対照表・勘定科目内訳書 | 現預金、有価証券、不動産、貸付金、保険積立金の残高 |
| 固定資産台帳 | 事業用不動産、自用不動産、賃貸不動産、遊休不動産の区分 |
| 不動産一覧 | 使用状況、賃貸状況、自己使用部分・賃貸部分の面積 |
| 有価証券明細 | 投資目的、特別子会社株式、上場株式、投資信託の区分 |
| 貸付金・未収金明細 | 同族関係者、役員、関連会社への残高・返済状況 |
| 損益計算書・総勘定元帳 | 売上高、営業外収益、特別利益、受取配当金、受取利息、賃料収入 |
| 資産売却資料 | 譲渡価額、帳簿価額、譲渡目的、資金使途 |
| 借入契約書 | 借入目的、実行日、資金使途、未使用残高 |
| 保険金・補助金資料 | 受領理由、使途、復旧計画、設備投資計画 |
| 従業員数資料 | 事業実態要件の確認 |
| 事務所・店舗・工場の賃貸借契約書 | 事業拠点要件の確認 |
| 年次報告書・継続届出書の控え | 過年度からの継続確認 |
特に不動産については、「自ら使用しているかどうか」が重要になります。次のような場面を思い浮かべていただくと、判断の難しさが伝わるかと思います。
- 工場の一部を自社で使い、一部を外部に賃貸している
- 本社ビルの一部を関連会社に貸している
- 倉庫として使っていた土地が、現在は駐車場になっている
- 従業員社宅と役員住宅が混在している
- 遊休地に太陽光発電設備を設置している
こうした場合には、床面積割合その他の合理的な割合による按分、利用実態の確認、賃貸借契約の整理が必要になってきます。
資産管理会社化のリスクは、金融機関説明にも影響する
資産管理会社化の確認は、税務上の取消リスクだけにとどまる話ではありません。会社の財務方針や、金融機関への説明にも関わってきます。
金融機関は、後継者へ承継したあとの会社について、事業継続力、キャッシュフロー、借入返済能力、資産保全、経営者保証、設備投資計画といった点を見ています。
もし会社の資産が現預金や有価証券、賃貸不動産に偏っていくと、金融機関の側からは、それが事業会社としての成長投資なのか、それとも資産管理会社化なのかを、確認したくなる場面が出てきます。
一方で、事業承継税制の側でも、実体のある事業を継続しているかどうかが問われます。
そのため、後継者には次の点を説明できることが求められます。
- なぜその不動産を保有しているのか
- なぜその有価証券運用が必要なのか
- 現預金の水準は、運転資金・設備投資・借入返済に照らして合理的か
- 賃貸収入は本業を補完するものなのか、それとも主たる収益源になっているのか
- 事業用資産を売却した後の資金は、何に使う予定なのか
- 資産の売却や投資判断は、事業承継税制の維持にどう影響するのか
税務と金融機関対応は、決して別物ではありません。資産構成の変化を「後から説明できる」資料として残しておくことが、制度の維持と信用の維持の両方に役立ちます。
承継後に確認すべき実務チェック
資産管理会社化のリスクを避けるには、毎年の決算時はもちろん、重要な資産移動の前に確認しておくことが大切です。
毎年の決算時に確認すること
- 特定資産の帳簿価額割合が、70%に近づいていないか
- 特定資産からの運用収入割合が、75%に近づいていないか
- 現預金の増加理由を説明できるか
- 有価証券・投資信託の取得目的を説明できるか
- 不動産の使用状況に変化がないか
- 同族関係者への貸付金・未収金が増えていないか
- 事業実態要件を満たしているか
- 年次報告・継続届出に必要な資料が揃っているか
資産移動の前に確認すること
- 不動産を売却する前
- 賃貸用不動産を取得する前
- 余剰資金で有価証券運用を始める前
- 大口の借入を実行する前
- 保険金や補助金を受け取る前後
- 役員貸付金を整理する前
- 子会社株式を取得・売却する前
- 会社分割、合併、株式交換、株式移転を行う前
- 事業の廃止・撤退・M&Aを検討する前
この確認を事前に行っておくことで、取引が終わった後になって「制度上の問題に気づいた」という事態を避けやすくなります。
資産保有型会社・資産運用型会社の判定は、評価上の特定評価会社とは別物
ここで、混同しやすい論点に触れておきます。
事業承継税制における資産保有型会社・資産運用型会社と、非上場株式評価における特定評価会社は、別の論点です。
非上場株式評価では、土地保有特定会社、株式等保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社、休業中の会社、清算中の会社といった、評価方式に関わる判定があります。これは、相続税評価額や贈与税評価額を算定するための論点です。
一方の資産保有型会社・資産運用型会社は、事業承継税制の認定・継続に関わる論点です。
もちろん、両者がまったく無関係というわけではありません。不動産や有価証券が多い会社では、株価評価上の特定評価会社判定と、事業承継税制上の資産管理会社判定の両方が問題になりやすくなります。
しかし、判定の目的、計算の構造、基準、影響は、それぞれ異なります。
「株価評価ではこうだったのだから、事業承継税制でも同じだろう」と考えるのは危険です。承継後の管理では、評価上の判定とは別に、制度継続のための判定表を作っておく必要があります。
資産管理会社化が疑われる場合の対応
資産保有型会社・資産運用型会社に該当する可能性が見えてきたとき、まず行うべきは、慌てて資産を動かすことではありません。
次の順序で整理していきます。
- 適用している制度区分を確認する 特例措置か一般措置か、贈与税猶予か相続税猶予か、第一種か第二種か、複数の後継者がいるかを確認します。
- 判定対象期間・基準日を確認する 資産保有型会社は、一の日における該当が問題になり得ます。資産運用型会社は、認定申請基準日以後の各事業年度における該当が問題になります。贈与と相続で表現が異なるため、該当する認定類型に即して確認します。
- 特定資産を洗い出す 現預金、有価証券、不動産、貸付金、保険積立金、会員権、絵画・貴金属、特別子会社株式を整理します。
- 70%・75%判定を試算する 帳簿価額、総収入金額、特定資産の運用収入、配当・役員給与の加算を確認します。
- 事業実態要件を確認する 従業員5人以上、事業拠点、3年以上の業務継続を、資料で確認します。
- やむを得ない事由の有無を確認する 借入、事業用資産の売却、損害保険金、事業活動上の偶発的事由などを整理します。
- 年次報告・継続届出への反映を確認する 都道府県への報告、税務署への継続届出、添付資料、提出控えを整理します。
- 取消リスクと資金負担を試算する 万一取消となった場合の猶予税額、利子税、納付資金、担保への影響を検討します。
ここで大切なのは、税務判断だけで完結させないことです。資産構成の見直しは、資金繰り、金融機関への説明、株価、相続人間の合意、将来の売却・廃業・組織再編にまで影響していきます。
早めに専門家へ確認すべき場面
次のような会社は、資産管理会社化のリスクを早めに確認しておきたいところです。
- 不動産や有価証券が、総資産の中で大きな割合を占めている
- 本業の売上よりも、賃貸収入・配当収入・利息収入が目立つ
- 大口の現預金が積み上がっている
- 保険積立金や保険金の受領額が大きい
- 役員貸付金、同族関係者への貸付金、未収金が残っている
- 事業用不動産を売却する予定がある
- 工場・倉庫・社宅・遊休地の利用状況が変わっている
- 不動産賃貸業への転換を検討している
- 会社分割、合併、株式交換、株式移転を検討している
- 後継者がM&A、廃業、事業縮小を視野に入れている
- 年次報告書や継続届出書の控えが整理されていない
こうした場面では、単に「70%未満か」「75%未満か」を見るだけでは十分ではありません。制度上の判定、会計上の帳簿価額、税務上の収入構成、資金使途、事業実態、報告・届出の整合性を、一体として確認していく必要があります。
会社を守るための資産管理と、制度維持のための資産管理を一致させる
資産管理会社化のリスクを恐れるあまり、会社が必要な現預金を持たない、合理的な不動産売却をしない、資産の入替えを避ける——そうした判断は、本末転倒です。
事業承継税制は、会社を縛るための制度ではありません。後継者が事業を継続し、雇用や技術、取引先、信用を次の世代へ引き継いでいくための制度です。
だからこそ、制度を適用した会社では、財務の判断を制度の管理と切り離してはいけません。次のような問いに、自分の言葉で答えられる状態にしておきたいところです。
- 現預金はなぜ必要なのか
- 不動産は事業にどう関係しているのか
- 有価証券運用はどの程度まで許容するのか
- 売却代金は何に使うのか
- 同族関係者への貸付金はいつ整理するのか
- 後継者の事業計画と資産構成は整合しているのか
これらを数字と資料で説明できる状態にしておくこと——それが、承継後の管理という実務です。
制度を使う前の判断も重要ですが、制度を使った後の財務行動は、それ以上に重要です。資産管理会社化の確認は、単なる取消リスクのチェックにとどまりません。後継者が会社をどの方向へ進めていくのかを、可視化していく作業でもあるのです。
資産管理会社化・特定資産管理に不安がある場合
資産保有型会社・資産運用型会社の判定は、決算書を眺めただけでは判断できないことがあります。
特定資産の範囲、帳簿価額、譲渡価額、総収入金額、事業実態要件、同族関係者、特別子会社、やむを得ない事由、そして年次報告・継続届出との関係まで確認して、はじめて制度維持の可否を整理することができます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制を単なる納税猶予の手続としてではなく、後継者の経営判断、株式・議決権、会社財務、資産構成、年次報告、継続届出、取消リスクまでを一体で整理することを大切にしています。
承継後に不動産・有価証券・現預金・貸付金が増えている場合、あるいは不動産の売却、資産運用、組織再編、廃業・売却などを検討している場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。決算書、固定資産台帳、勘定科目内訳書、年次報告書、継続届出書を確認しながら、資産管理会社化のリスクと、今後の管理方針を整理してまいります。
重要事項の振り返り
| 項目 | 内容 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 資産管理会社化の本質 | 会社が実体ある事業会社として継続しているかを確認する論点 | 適用時だけでなく、承継後も継続確認が必要 |
| 資産保有型会社 | 特定資産の帳簿価額割合が高い会社 | おおむね70%基準。現預金、不動産、有価証券、貸付金に注意 |
| 資産運用型会社 | 特定資産からの運用収入割合が高い会社 | おおむね75%基準。譲渡益ではなく譲渡価額が影響する場面がある |
| 特定資産 | 有価証券等、自ら使用していない不動産、会員権、絵画・貴金属、現預金等 | 賃貸不動産や駐車場、同族関係者への貸付金も注意 |
| 現預金 | 財務安全性には必要だが、特定資産に含まれ得る | 借入、売却代金、保険金、退職金準備の使途を説明できるようにする |
| 不動産 | 自己使用か、賃貸・遊休かで判定が変わる | 一棟建物の一部使用・一部賃貸は按分資料を残す |
| 事業実態要件 | 従業員5人以上、事業拠点、3年以上の業務継続など | 後継者と生計を一にする親族を従業員に含められない点に注意 |
| やむを得ない事由 | 借入、事業用資産売却、保険金取得等で一時的に該当する場合の取扱い | 自己判断せず、発生日・期間・資金使途を資料化する |
| 年次報告・継続届出 | 都道府県への年次報告、税務署への継続届出と連動 | 決算後だけでなく、資産移動前に判定する |
| 取消リスク | 資産保有型会社・資産運用型会社への該当は認定取消事由になり得る | 取消時の猶予税額、利子税、納付資金まで確認する |
| 評価上の特定評価会社との違い | 非上場株式評価上の判定とは別の制度管理論点 | 株価評価と事業承継税制の継続判定を混同しない |
| 管理資料 | 決算書、内訳書、固定資産台帳、不動産一覧、貸付金明細、提出控え等 | 後から説明できる形で毎年保存する |