相続財産に含まれるもの・含まれないもの|民法上の遺産と相続税上の課税財産を分けて整理する

相続が始まったとき、多くの方が最初に立ち止まるのは、「そもそも何を遺産として扱えばよいのか」という点ではないでしょうか。

不動産、預貯金、有価証券あたりは比較的わかりやすいものです。一方で、生命保険金、死亡退職金、未支給年金、名義預金、借入金、保証債務、葬儀費用、仏壇・お墓といったものは、扱いを誤りやすい財産だといえます。

ここでまず意識していただきたいのは、「相続財産」という言葉を一つの意味で使わないことです。相続の実務では、少なくとも次の三つを分けて考える必要があります。

区分何を判断するか典型例
民法上の遺産遺産分割協議の対象になるか不動産、預貯金、株式、貸付金、借入金など
相続税上の課税財産相続税の申告・計算に入れるか民法上の遺産、死亡保険金、死亡退職金、一定の生前贈与など
手続上確認すべき財産・権利名義変更、請求、解約、納税資金に関係するか未支給年金、保険金、共済金、祭祀財産、デジタル資産など

民法上の遺産ではないものでも、相続税の対象になることがあります。反対に、被相続人の死亡をきっかけに遺族が受け取るものであっても、相続税の対象にならないものもあります。

この切り分けをしないまま遺産分割や相続税申告を進めてしまうと、「分けるべき財産を漏らしていた」「申告すべき財産を申告していなかった」「相続人の間に不公平感が残ってしまった」といった問題につながりかねません。

目次

まず押さえておきたい基本:民法上の遺産と相続税上の課税財産は一致しない

民法では、相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものとされています。ただし、被相続人の一身に専属したものは承継されません。

出典:e-Gov法令検索|民法第896条

これが、民法上の相続財産を考える際の出発点になります。

一方、相続税では、相続や遺贈によって取得した本来の相続財産だけでなく、死亡保険金、死亡退職金、一定の生前贈与財産、相続時精算課税適用財産なども課税の対象に含まれます。相続税がかかる財産は、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋、貸付金、特許権、著作権など、「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」とされており、その範囲はかなり広いと考えておくのが実務上の感覚です。

出典:国税庁|No.4105 相続税がかかる財産

実務では、おおむね次のように整理しています。

財産・権利民法上の遺産分割対象相続税上の課税対象実務上の注意点
被相続人名義の不動産原則対象原則対象評価、登記、共有、売却方針が問題になる
被相続人名義の預貯金原則対象原則対象死亡前後の引出し、名義預金の確認が重要
有価証券原則対象原則対象評価時点、配当、証券口座の把握が必要
借入金・未払金権利義務として承継債務控除の対象になり得る確実な債務か確認する
生命保険金原則として受取人固有財産被相続人が保険料負担ならみなし相続財産遺産分割対象外でも相続税対象になる
死亡退職金規程・支給趣旨により遺産性を検討死亡後3年以内に支給確定なら原則みなし相続財産会社規程、受取人、支給決議を確認
未支給年金公的年金は原則として遺族固有の請求権公的年金の未支給分は相続税対象外、受給者の一時所得年金の種類により異なる
祭祀財産遺産分割対象外日常礼拝用は非課税骨とう的価値・商品性がある場合は別途検討
名義預金・名義株式名義だけでは判断しない実質が被相続人財産なら課税対象資金原資、管理、贈与の証拠を確認

この表のとおり、「分ける財産」と「申告する財産」は重なる部分もありますが、完全に一致するわけではありません。

相続財産の整理は、遺産分割協議書を作るためだけの作業ではありません。相続税申告の正確性、納税資金の見通し、そして税務調査での説明可能性まで確保するための作業でもあるのです。

民法上の遺産に含まれるもの

民法上の遺産とは、基本的には、被相続人が死亡時に有していた財産的な権利義務を指します。

典型的には、次のような財産です。

分類主な内容確認資料
不動産土地、建物、共有持分、借地権、底地、未登記建物登記事項証明書、固定資産税課税明細書、名寄帳、賃貸借契約書
金融資産預貯金、定期預金、外貨預金、証券口座、投資信託、上場株式残高証明書、通帳、取引履歴、証券会社残高報告書
事業・同族関係資産非上場株式、出資金、役員貸付金、事業用資産決算書、申告書、株主名簿、勘定科目内訳書
債権貸付金、未収金、売掛金、損害賠償請求権、立替金契約書、借用書、入出金記録、請求書
動産・その他自動車、貴金属、骨董品、家財、著作権、特許権登録資料、鑑定資料、購入資料、契約書
債務借入金、未払金、未払税金、未払医療費、保証債務の一部金銭消費貸借契約書、残高証明、請求書、納税通知

民法上は、プラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も承継されます。ですから、相続財産を整理するときには、「何があるか」だけでなく、「何を支払う必要があるか」も同時に確認しておくことが大切です。

とりわけ、不動産、非上場株式、同族会社への貸付金、親族間の貸借、名義預金がある相続では、財産の有無と評価額が、相続税額だけでなく遺産分割の納得感にも直結してきます。実務上も、課税財産には、現金・預貯金・有価証券・土地・家屋だけでなく、貸付金、信託受益権、電話加入権、営業権、未登記建物、建築途中の家屋、同族会社への貸付金、さらには実質的に被相続人の預貯金である親族名義の財産まで含まれ得るものとして、幅広く確認していきます。

民法上の遺産に含まれないもの

民法上の遺産に含まれない代表例として、次の三つが挙げられます。

一身専属的な権利義務

一身専属的な権利義務とは、その人本人に強く結び付いており、相続人が承継することになじまないものをいいます。

たとえば、扶養を受ける権利、一定の資格・地位、本人の能力や信頼関係を前提とする契約上の地位などが、ここで問題になります。

ただし、「一身専属」といえるかどうかは、権利や契約の内容によって判断が分かれることがあります。被相続人が個人事業者、不動産賃貸業者、同族会社役員、士業、医療関係者などであった場合には、契約上の地位が当然に承継されるのか、契約終了となるのか、それとも別途承諾が必要なのかを、個別に確認していく必要があります。

祭祀財産

系譜、祭具、墳墓などの祭祀に関する権利は、民法上、通常の相続財産とは別に扱われます。慣習または被相続人の指定により、祭祀を主宰すべき者が承継するものとされています。

出典:e-Gov法令検索|民法第897条

つまり、お墓、仏壇、位牌などは、通常の遺産分割で「法定相続分に応じて分ける」性質のものではありません。

相続税上も、墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など、日常礼拝をしている物は、主な非課税財産とされています。ただし、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものについては、相続税がかかる可能性があります。

出典:国税庁|No.4108 相続税がかからない財産

実務上は、祭祀財産そのものよりも、「誰が墓を守るのか」「墓じまいの費用を誰が負担するのか」「生前に購入した墓地・墓石の未払金があるか」といった点が問題になることがあります。

なお、被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など、非課税財産に関する債務は、相続税の債務控除の対象にならない点にも注意が必要です。

出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務

受取人固有の権利として発生する財産

生命保険金、死亡退職金、小規模企業共済金、未支給年金などは、被相続人の死亡をきっかけに遺族が受け取るため、一見すると「遺産」のように見えます。

しかし、これらは法律や契約、会社規程によって、受取人に固有の権利として発生する場合があります。その場合には、民法上の遺産分割の対象にはなりません。

ただ、ここが相続実務の難所です。

民法上の遺産ではないからといって、相続税の対象外とは限らないのです。生命保険金や死亡退職金は、民法上の遺産ではない場合でも、相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象に含まれることがあります。生命保険の受取金は指定受取人の固有財産となり、遺産分割をしなくても受取人が受け取れる一方で、相続税法上は非課税枠を超える部分がみなし相続財産として課税対象に入る——これが実務上の基本的な整理です。

相続税上の課税財産に含まれるもの

相続税上は、民法上の遺産よりも広い範囲を確認していきます。

主な課税財産は、次の三層で整理すると見通しがよくなります。

内容典型例
本来の相続財産相続や遺贈で取得した財産不動産、預貯金、有価証券、貸付金、著作権など
みなし相続財産民法上の遺産ではないが、相続税法上は相続等で取得したものとみなす財産生命保険金、死亡退職金、一定の年金受給権など
加算対象財産生前贈与などだが、相続税計算上加算する財産暦年課税贈与の加算対象財産、相続時精算課税適用財産など

相続税がかかる財産には、本来の相続財産のほか、死亡退職金、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金、一定の教育資金・結婚子育て資金の管理残額、加算対象期間内の暦年課税贈与財産、相続時精算課税適用財産などが含まれます。

出典:国税庁|No.4105 相続税がかかる財産

このため、相続税申告では、遺産分割協議書に載る財産だけを集計しても足りません。

たとえば、相続人の一人だけが生命保険金を受け取っている場合、その保険金は遺産分割協議書には記載されないことがあります。しかし、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金であれば、相続税申告の場面では確認が欠かせません。

不動産:登記名義だけでなく、現況・権利関係・未登記も確認する

不動産は、民法上の遺産にも相続税上の課税財産にも含まれる、代表的な財産です。

ただし、単に登記簿を見れば終わり、というものではありません。

確認すべき点は、少なくとも次のとおりです。

確認項目実務上の意味
登記名義被相続人単独か、共有か、先代名義のままか
固定資産税資料市区町村が把握している課税物件を確認する
未登記建物登記されていなくても課税財産になり得る
建築中の建物相続開始時点の権利・支払状況を確認する
売買契約中の不動産引渡し前か後か、売買代金債権か不動産かを確認する
賃貸借関係貸宅地、貸家建付地、借地権、使用貸借を確認する
担保権抵当権、根抵当権、債務者、保証関係を確認する

不動産は、相続税評価額だけでなく、分け方、登記、売却可能性、納税資金、二次相続にまで影響します。

たとえば、自宅の敷地を長男が取得し、預貯金を他の相続人が取得するという分割では、相続税評価額と実際の換金価値との間に差が出ることがあります。賃貸不動産であれば、借入金と収益性に加えて、修繕負担や空室リスクも併せて承継することになります。

不動産を「相続財産に含まれるか」という一点だけで見てしまうと、将来の管理負担や売却の困難さを見落としかねません。とりわけ共有で取得する場合は、次世代でさらに共有者が増え、売却や建替えの意思決定が難しくなっていくことがあります。

預貯金:名義・死亡前後の入出金・実質所有者を確認する

被相続人名義の預貯金は、原則として相続財産です。

相続税申告では、死亡日時点の残高証明書を取得するだけでなく、過去の入出金履歴まで確認することが重要になります。預貯金には、次のような論点があるためです。

論点確認すべきこと
死亡前の多額引出し医療費、介護費、生活費、贈与、現金保管、使途不明金のいずれか
死亡後の引出し葬儀費用、相続人の立替、遺産の処分行為に該当しないか
家族名義口座への送金贈与か、名義預金か、貸付か
現金残高自宅保管現金、貸金庫、財布、事業用現金
口座漏れネット銀行、休眠口座、外貨預金、証券連携口座

特に名義預金は、税務調査で問題になりやすい項目です。

家族名義の口座であっても、資金の原資が被相続人であり、通帳・印鑑・キャッシュカードを被相続人が管理し、名義人が自由に使っていなかったような場合には、実質的に被相続人の財産と判断される可能性があります。親族名義の財産でも、実質的に被相続人の財産と認められるものは相続税の対象になる——この実務上の確認は、非常に重要です。

「子どもの名義だから相続財産ではない」と即断するのではなく、贈与契約の有無、資金移動の経緯、管理の状況、名義人の使用実態、贈与税申告の有無を、一つずつ確認していきます。

有価証券・投資信託:証券口座だけでなく配当・外貨・未上場株式を確認する

被相続人名義の上場株式、投資信託、債券、外貨建て資産は、原則として相続財産です。

金融機関から残高証明書や取引残高報告書を取得し、死亡日時点の保有銘柄、数量、評価額、未収配当、経過利息などを確認していきます。

注意したいのは、次のような財産です。

財産注意点
上場株式評価方法、配当期待権、相続後売却の譲渡所得
投資信託基準価額、解約請求中かどうか
債券経過利息、償還差益、外貨換算
外国株式・海外口座国外財産、為替換算、現地手続
非上場株式株主判定、会社規模、議決権、事業承継
従業員持株会・未名義書換株式実質所有者と手続の確認

非上場株式は、単なる金融資産ではありません。会社支配権、後継者、納税資金、遺留分にまで関わってきます。相続財産に含まれるかを確認したうえで、誰が取得するのか、議決権が分散しないか、会社からの配当や自己株式の取得で納税資金を確保できるかを、あわせて検討する必要があります。

債務:相続するかどうか、相続税で控除できるかを分けて考える

借入金、未払金、未払医療費、未払固定資産税、未払所得税などは、被相続人の債務として相続の対象になります。

相続税では、被相続人が死亡したときに現に存在した債務で、確実と認められるものは、遺産総額から差し引くことができます。死亡後に相続人が納付することになった被相続人に係る所得税なども、一定の場合には債務として控除できます。

出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務

ただし、民法上の債務と、相続税上の債務控除とは、完全には一致しません。

項目民法上の扱い相続税上の扱い
銀行借入金原則として承継確実な債務として控除対象になり得る
未払医療費原則として承継控除対象になり得る
未払税金原則として承継一定の税金は控除対象になり得る
保証債務保証人の地位は問題になり得る原則控除不可、例外的に弁済不能等を確認
墓地・墓石の未払金支払義務は問題になり得る非課税財産に関する債務として控除不可
相続人の責任による延滞税・加算税相続開始後の事情控除不可

なかでも保証債務は、特に注意が必要です。保証人であったからといって、直ちに相続税の債務控除が認められるわけではありません。原則として、保証債務は確実な債務とはいえないため控除の対象外です。ただし、主債務者が弁済不能で、保証人が履行しなければならず、求償しても回収の見込みがないといった場合には、例外的に控除対象となる余地があります。

出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務/保証債務の債務控除

債務が多い場合には、単純承認、限定承認、相続放棄の判断にもつながっていきます。財産の一覧だけでなく、債務・保証・連帯債務・事業借入を早期に調べておくことが重要です。

生命保険金:遺産分割対象外でも、相続税の対象になることがある

生命保険金は、相続実務のなかで最も誤解されやすい財産の一つです。

死亡保険金は、保険契約で指定された受取人が、自己の権利として受け取るものです。そのため、受取人が指定されている生命保険金は、原則として民法上の遺産分割の対象にはなりません。

しかし、相続税上は別の話になります。

被相続人の死亡によって取得した生命保険金や一定の損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。受取人が相続人である場合には、「500万円×法定相続人の数」までの非課税限度額がありますが、相続人以外が受け取った死亡保険金には、この非課税の適用はありません。

出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

ここで確認すべきなのは、契約者名義だけではありません。

確認項目なぜ重要か
被保険者誰の死亡で保険金が支払われるか
受取人民法上の取得者・相続税上の取得者を確認する
保険料負担者相続税、贈与税、所得税の分岐に影響する
契約者変更履歴名義変更時の課税関係を確認する
契約者貸付金保険金から控除される場合がある
受取人死亡・同時死亡誰が受け取るか再確認が必要
他の相続人との公平性特別受益や代償分割の検討につながる

生命保険は、納税資金や代償金の準備に有効な場面があります。その一方で、特定の相続人だけが多額の保険金を受け取ると、遺産分割では分けない財産であっても、他の相続人に不公平感が残ることがあります。

「保険金は遺産ではないから話し合わなくてよい」とだけ考えるのではなく、相続税、納税資金、遺留分、特別受益、そして家族間の納得まで含めて整理しておくことが大切です。

死亡退職金:会社規程・支給時期・受取人で扱いが変わる

死亡退職金も、生命保険金と同じく、民法上の遺産と相続税上の課税財産がずれやすい財産です。

会社の退職金規程などで受取人が定められている場合には、死亡退職金はその受取人固有の財産と整理され、民法上の遺産分割の対象にならないことがあります。反対に、受取人を定める規程がない場合や、支給の趣旨が明確でない場合には、遺産性の検討が必要になります。死亡退職金や小規模企業共済、生命保険金については、民法上の相続財産なのか、受取人固有の財産なのか、税法上のみなし相続財産なのかを、分けて検討していく必要があります。

相続税上は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与は、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。相続人が受け取った死亡退職金等については、「500万円×法定相続人の数」までの非課税限度額があります。

出典:国税庁|No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

実務では、次のような資料を確認します。

資料確認する内容
退職金規程死亡退職金の支給根拠、受取人、算定方法
役員退職慰労金規程同族会社役員の場合の支給基準
株主総会議事録・取締役会議事録役員退職金の支給決議
源泉徴収票・支払通知支給額、支給日、名目
会社の決算書未払計上、役員貸付金・借入金との関係
受取人の資料相続人か否か、非課税枠の適用可否

同族会社のオーナー経営者が亡くなった場合、死亡退職金は、遺族の生活保障、納税資金、会社の資金繰り、法人税上の損金性、非上場株式評価にまで影響します。単に「相続税の非課税枠があるから有利」と考えるのではなく、会社財務と相続税申告を一体で確認することが欠かせません。

未支給年金:公的年金、企業年金、個人年金で扱いが違う

未支給年金は、とりわけ誤解の多い項目です。

年金を受けている方が亡くなったとき、まだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振り込まれた年金のうち亡くなった月分までの年金については、未支給年金として、その方と生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。

出典:日本年金機構|年金を受けている方が亡くなったとき

公的年金の未支給年金は、通常の預貯金残高とは性質が異なります。一定の遺族が自己の名で請求する権利として整理され、民法上の遺産分割対象とは異なる扱いになります。

税務上も、公的年金の未支給年金については、その遺族の一時所得となり、相続税はかかりません。

出典:国税庁|No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権

ただし、すべての年金が同じというわけではありません。

年金の種類相続税上の基本的な見方
国民年金・厚生年金などの公的年金の未支給分遺族の一時所得、相続税対象外
遺族年金原則として所得税・相続税とも非課税
企業年金・退職金由来の年金死亡退職金等として相続税対象になる場合がある
個人年金保険の保証期間内年金年金受給権として相続税対象になる場合がある
保険料負担者が別人の個人年金贈与税・所得税との分岐も確認する

被相続人の死亡により取得する年金受給権については、年金の種類によって相続税の課税が異なります。在職中の死亡による退職金として支払われる年金や、個人年金保険契約の保証期間内に遺族が受け取る年金受給権は、相続税の対象となる場合があります。

出典:国税庁|No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権

ですから、「未支給年金」と聞いただけで一律に判断するのではなく、公的年金なのか、企業年金なのか、個人年金なのか、退職金由来なのか、保険契約に基づくものなのかを確認していきます。

損害賠償金:死亡後に遺族が受け取るものと、生前に確定した債権を分ける

交通事故などの損害賠償金も、相続財産に含まれるかどうかで迷いやすい財産です。

被害者が死亡したことに対して遺族が受け取る損害賠償金は、相続税の対象とはなりません。一方で、被相続人が損害賠償金を受け取ることが生存中に決まっていたものの、受け取らないうちに死亡した場合には、その損害賠償金を受け取る権利、つまり債権が相続財産となり、相続税の対象になります。

出典:国税庁|No.4111 交通事故の損害賠償金

この考え方は、他の未収金や保険金の判断にも通じます。

相続開始の時点で、すでに被相続人本人の債権として具体化していたのか。それとも、死亡によって、遺族固有の権利として新たに発生したのか。

ここを分けて確認することが、何より重要です。

相続財産に「含まれるか」を判断する実務手順

財産ごとに個別の判断が必要になりますが、実務では次の順序で整理していくと、混乱を避けやすくなります。

STEP1 相続開始時に被相続人に帰属していたかを確認する

まず、死亡日の時点で、被相続人に権利義務が帰属していたかを確認します。

不動産、預貯金、有価証券、貸付金、未収金、借入金、未払金などは、ここで確認します。

資料としては、登記事項証明書、固定資産税課税明細書、通帳、残高証明書、証券会社資料、契約書、請求書、借用書、決算書などを集めていきます。

STEP2 受取人固有の財産かを確認する

次に、死亡保険金、死亡退職金、共済金、未支給年金などについて、受取人固有の権利として発生するものかを確認します。

この段階では、民法上の遺産分割の対象かどうかを整理します。

ただし、ここで「遺産ではない」と判断したとしても、相続税申告から除外できるとは限りません。

STEP3 相続税上のみなし相続財産かを確認する

死亡保険金、死亡退職金、一定の年金受給権などは、民法上の遺産ではなくても、相続税上はみなし相続財産として課税の対象になることがあります。

保険料負担者、受取人、支給確定日、会社規程、契約内容を確認します。

STEP4 非課税財産かを確認する

祭祀財産、生命保険金・死亡退職金の非課税枠、一定の公益目的財産などは、相続税がかからない財産、あるいは非課税枠の対象になる場合があります。

ただし、日常礼拝用の仏具と骨とう的価値のある仏像、受取人が相続人である死亡保険金と相続人以外が受け取る死亡保険金など、条件によって扱いが変わってきます。

STEP5 生前贈与・名義財産を確認する

相続税申告では、被相続人名義の財産だけでなく、生前贈与や名義財産も確認します。

令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、相続税の課税価格に加算される対象期間が、段階的に7年へと見直されています。令和6年1月1日以後の暦年課税贈与により取得した財産については、相続開始前7年以内が加算対象期間となります。

出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

また、相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与財産は、相続税の計算上、一定の金額を相続財産に加算して計算します。令和6年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額を加算する仕組みが導入されています。

出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

このため、生前贈与は「もう渡したから関係ない」とは言い切れません。贈与契約、贈与税申告、資金移動、受贈者の管理状況を整理しておく必要があります。

「遺産分割で分ける財産」と「相続税で申告する財産」を混同しない

相続財産の整理で特に重要なのは、次のように目的別にリストを分けておくことです。

リスト目的載せるべきもの
遺産分割対象財産リスト誰が何を取得するか決める不動産、預貯金、有価証券、貸付金、債務など
相続税申告用財産リスト相続税の課税価格を計算する遺産分割対象財産、みなし相続財産、加算対象贈与、名義財産など
手続・請求管理リスト名義変更・請求漏れを防ぐ保険金、未支給年金、共済金、公共料金、デジタル資産など
納税資金リスト相続税をどう支払うか検討する現預金、保険金、売却可能資産、退職金、借入可能性など

生命保険金は、遺産分割対象財産リストには載らないことがあります。しかし、相続税申告用財産リストや納税資金リストには載ってきます。

未支給年金は、遺産分割対象財産リストには載らないことがありますが、手続・請求管理リストには載ります。

祭祀財産は、通常の遺産分割の対象にはなりません。それでも、誰が承継し、関連する費用を誰が負担するかは、家族間の納得に関わってきます。

このように、財産を一つの表にまとめるだけでなく、「何のための表か」を分けておくことが、実務では非常に重要になります。

相続財産の確認で見落としやすいもの

相続税申告や遺産分割で見落としやすい財産には、次のようなものがあります。

見落としやすい財産確認方法
名義預金家族名義口座、通帳管理、資金原資、贈与契約を確認
ネット銀行・ネット証券メール、スマートフォン、郵便物、確定申告書を確認
外貨預金・海外証券口座国外送金、CRS情報、国外財産資料を確認
貸付金同族会社決算書、勘定科目内訳書、借用書を確認
未収家賃・未収配当賃貸契約、入金履歴、配当通知を確認
保険契約に関する権利契約者、被保険者、受取人、解約返戻金を確認
未登記建物固定資産税資料、現地確認、建築請負契約を確認
農地・山林・雑種地名寄帳、農地台帳、現況、賃貸借・使用貸借を確認
デジタル資産暗号資産取引所、ウォレット、ポイント、電子マネーを確認
死亡前後の現金引出し使途、残額、葬儀費用、贈与の有無を確認

「通帳に残っている金額だけ」「登記されている不動産だけ」を見て相続財産を判断してしまうと、申告漏れや家族間の不信感につながりかねません。

相続財産の確認は、残高を拾う作業ではありません。資金の流れ、権利関係、契約関係、そして名義と実質を整理していく作業なのです。

相談前に整理しておきたい資料

相続財産の範囲を整理するうえで、相談前に次の資料を準備しておくと、判断が進みやすくなります。

分類資料
相続人関係戸籍、法定相続情報一覧図、相続関係図
不動産固定資産税課税明細書、名寄帳、登記事項証明書、公図、測量図、賃貸借契約書
預貯金残高証明書、通帳、取引履歴、定期預金証書
有価証券証券会社残高証明書、取引報告書、配当通知
保険保険証券、契約内容のお知らせ、支払通知、契約者変更履歴
退職金・共済退職金規程、支給通知、議事録、小規模企業共済資料
年金年金証書、未支給年金請求書、企業年金資料、個人年金契約書
債務借入金残高証明、返済予定表、保証契約、未払請求書
贈与贈与契約書、贈与税申告書、送金記録、受贈者管理資料
同族会社決算書、申告書、株主名簿、勘定科目内訳書、役員貸付金資料
その他遺言書、葬儀費用資料、貸金庫資料、デジタル資産メモ

資料が完全にそろっていなくても、心配はいりません。どの財産がありそうか、どの親族が管理していたか、どの金融機関を使っていたかを整理しておくだけでも、初期の判断はずいぶん進めやすくなります。

相続財産の範囲を誤ると、何が起こるか

相続財産の範囲を誤ると、単に相続税額が変わるだけにとどまりません。

次のような実務上の影響が出てきます。

誤り起こり得る影響
遺産分割対象財産の漏れ協議のやり直し、相続人間の不信感
みなし相続財産の申告漏れ修正申告、過少申告加算税、延滞税
名義預金の見落とし税務調査での指摘、説明資料不足
債務の過大控除税務否認、修正申告
保険金の扱い誤り非課税枠の誤適用、相続人間の不公平感
未支給年金の誤処理相続税・所得税の区分誤り
祭祀財産の誤認家族間の感情的対立
不動産の未確認登記未了、売却困難、納税資金不足

相続税申告では、申告期限内に提出することももちろん大切です。しかしそれ以上に、申告後に説明できることが重要になります。財産の範囲、評価、取得者、債務、非課税財産、みなし相続財産をどのように判断したのか——その記録を残しておく必要があります。

相続財産の整理は、税額計算の前に行うべき判断である

相続税申告というと、どうしても税額の計算や評価額の算定に目が向きがちです。

しかし、計算の前にまず必要なのは、「そもそも何を財産として扱うのか」という範囲の確定です。

民法上の遺産に含まれるか。 相続税上の課税財産に含まれるか。 遺産分割の対象になるか。 非課税財産か。 債務控除できるか。 受取人固有の財産か。 生前贈与として加算対象になるか。 名義と実質が一致しているか。

こうした確認を丁寧に重ねていくことで、遺産分割の納得感、相続税申告の正確性、税務調査での説明可能性、そして納税資金の見通しが、大きく変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続財産を単なる財産一覧として捉えるのではなく、民法上の遺産、相続税上の課税財産、遺産分割対象、納税資金、申告後リスクに分けて整理することを大切にしています。

生命保険金や死亡退職金をどう扱えばよいか、未支給年金や名義預金が相続財産に入るのか、不動産や同族会社資産も含めて申告漏れがないか——こうした点に不安がある場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。相続税申告だけでなく、財産の範囲、分割方針、評価根拠、納税資金まで含めて、後から説明できる形で論点を整理いたします。

重要ポイントの振り返り

論点基本的な考え方実務上の注意点
民法上の遺産被相続人の財産に属した権利義務を承継する一身専属的な権利義務は除かれる
相続税上の課税財産金銭に見積もることができる経済的価値ある財産が対象みなし相続財産や生前贈与加算も確認する
不動産原則として遺産・課税財産に含まれる未登記建物、共有、賃貸借、売買契約中の権利を確認
預貯金被相続人名義の残高は原則対象死亡前後の引出し、名義預金、現金残高を確認
有価証券株式・投資信託・債券等は原則対象外貨、未収配当、非上場株式、証券口座漏れに注意
債務借入金・未払金などは承継される相続税で控除できるのは確実な債務が中心
葬式費用民法上の債務とは別に整理する相続税では一定の範囲で控除可能
生命保険金原則として受取人固有財産被相続人が保険料負担なら相続税上はみなし相続財産
死亡退職金規程や支給趣旨により遺産性を確認死亡後3年以内に支給確定したものは相続税対象になり得る
未支給年金公的年金は遺族固有の請求権として扱われる年金種類により相続税・所得税の扱いが異なる
祭祀財産通常の遺産分割対象外日常礼拝用は非課税、骨とう的価値があれば要検討
名義財産名義だけで判断しない資金原資、管理、贈与契約、使用実態を確認
生前贈与すでに渡した財産でも相続税計算に影響する場合がある暦年課税加算、相続時精算課税、贈与証拠を確認
実務上の整理遺産分割用・申告用・手続用・納税資金用に分ける一つの財産一覧だけで判断しない
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