旧民法・応急措置法・現行民法で相続人が変わる場合|古い相続・未登記不動産の相続人確定

「祖父名義のままになっている土地を整理したい」 「登記簿を見ると、明治・大正・昭和初期の名義人のまま残っている」 「今の民法で相続人を考えてよいのか分からない」 「相続人が何十人にも増えていて、誰の同意が必要なのか分からない」

古い相続が残ったままの不動産では、こうしたご相談が少なくありません。

現在の相続実務では、配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹という現行民法の相続人順位を前提に考えるのが一般的です。しかし、古い相続には、現在の民法をそのまま当てはめることができません

相続人や相続分は、原則として「その被相続人が亡くなった時点の法律」によって決まります。明治民法の時代に発生した相続、昭和22年の応急措置法の時代に発生した相続、そして昭和23年以後の現行民法下の相続では、相続人の範囲も相続分も異なる場合があるのです。明治時代から相続登記がされていない不動産であれば、法定相続の定めは原則として被相続人の死亡時の規定に従うことになるため、まず旧法を確認する必要があります。

この記事では、旧民法・応急措置法・現行民法で相続人がどのように変わるのかを、古い相続・未登記不動産・数次相続・相続登記・相続税申告という実務の場面と結び付けながら整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

論点実務上の判断ポイント
どの法律を使うか原則として、各被相続人の相続開始日、通常は死亡日で判断する
明治民法戸主の相続は家督相続、戸主以外は遺産相続となり、現行民法と大きく異なる
応急措置法昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までの暫定法。家督相続を排し、遺産相続に一本化した
現行民法昭和23年1月1日以後。ただし、昭和37年改正、昭和55年改正、非嫡出子相続分改正などに注意
数次相続1人の名義人について現在法だけで計算せず、死亡者ごとにその死亡時の法律を当てはめる
未登記不動産登記簿、旧土地台帳、戸籍、除籍、改製原戸籍、住民票除票、戸籍附票、廃棄証明書等を組み合わせる
相続税相続税計算の基礎控除、法定相続分による相続税総額の計算に影響する
相続登記令和6年4月1日から義務化。古い相続も対象になるため、放置リスクが高まっている

この分野で最も危険なのは、登記簿上の名義人が古いからといって、いま生きている親族だけで話し合いを進めてしまうことです。

相続人を1人でも見落とせば、遺産分割協議は無効になりかねません。相続分を誤れば、登記、売却、共有解消、相続税申告、さらには将来の二次相続にまで影響が及びます。

なぜ「相続開始時点の法律」が重要なのか

相続は、死亡によって開始します。現行民法でも、相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した権利義務を承継するものとされています。出典:e-Gov法令検索|民法

そのため、相続人の範囲や相続分を考えるときは、「今の法律で誰が相続人か」と問うのではなく、まず次の順序で確認していきます。

確認順序内容
1登記名義人・表題部所有者が誰かを確認する
2その人がいつ亡くなったかを確認する
3その死亡日に施行されていた相続法を確認する
4その時点の相続人と相続分を確定する
5その相続人のうち、さらに亡くなっている人について次の相続をたどる
6現在生存している権利者まで連鎖を整理する

たとえば、登記名義人Aが昭和19年に死亡し、Aの相続人Bが昭和45年に死亡し、Bの相続人Cが平成10年に死亡しているとします。この場合、Aの相続には明治民法、Bの相続には当時の現行民法、Cの相続には平成時代の現行民法を、それぞれ適用して検討することになります。

一つの不動産であっても、相続が複数回発生していれば、相続人の確定は「一回の計算」では終わりません。死亡者ごとに、死亡日・戸籍・適用法・相続分を、丁寧に積み上げていく必要があります。

時代別に見る相続法の大枠

古い不動産の相続人確定では、まず大きく次の時代区分で整理します。

相続開始時期適用される主な制度実務上の特徴
明治31年7月16日〜昭和22年5月2日明治民法、いわゆる旧民法家督相続と遺産相続がある
昭和22年5月3日〜昭和22年12月31日応急措置法家督相続を排し、遺産相続に一本化
昭和23年1月1日〜昭和37年6月30日現行民法初期現在と相続分・代襲相続の扱いが異なる
昭和37年7月1日〜昭和55年12月31日昭和37年改正後代襲相続の扱い等に注意
昭和56年1月1日以後昭和55年改正後の現行相続分配偶者相続分が現在の水準に
平成25年9月5日以後を中心とする非嫡出子相続分改正非嫡出子と嫡出子の相続分同等化既に確定した法律関係への影響に注意

現行の法定相続分は、昭和55年改正民法によっていまの形になりました。ただし、それ以前にも複数回の改正を経ています。古い相続では、現在の法定相続分表だけで判断することはできない、という点を押さえておきたいところです。

明治民法の相続|家督相続と遺産相続

明治民法は、現在のように「配偶者と子が共同で相続する」という仕組みを、そのまま想定してはいませんでした。相続は大きく、家督相続遺産相続に分かれます。

明治31年に制定された明治民法は、この二つの方式を採用しており、被相続人が戸主であるか、戸主以外の家族であるかによって、扱いが異なりました。

家督相続とは

家督相続は、被相続人が「戸主」である場合の相続です。

項目家督相続の特徴
対象戸主の死亡、隠居等による相続
基本構造原則として1人が単独で承継
実務上のイメージ長男が単独で承継することが多い
承継対象戸主としての地位、戸主財産、祭祀財産等
注意点現在の法定相続分で単純に分けない

明治民法下の家督相続では、第1順位の相続人は家族である直系卑属でした。そのうえで、親等の近さ、男子優先、嫡出子優先、年長者優先といったルールにより、最優先者が単独で家督相続人になると整理されます。一般には「長男が単独で相続する」というイメージで理解されますが、個別の戸籍関係によって結論が変わる点には注意が必要です。

ここで大切なのは、現在の感覚で「長男だけが取得するのは不公平だ」と感じたとしても、明治民法時代にすでに家督相続が開始していれば、当時の法制度に従って権利が移転している可能性がある、ということです。

遺産相続とは

明治民法下であっても、被相続人が戸主でない場合には、家督相続ではなく遺産相続が問題になります。

順位明治民法下の遺産相続の大枠
第1順位直系卑属
第2順位配偶者
第3順位直系尊属
第4順位戸主

明治民法下の遺産相続では、戸主以外の者の財産のみが対象となり、第1順位は直系卑属です。配偶者は現在のように常に共同相続人となるわけではなく、直系卑属がいる場合には相続人にならない場面がありました。

したがって、たとえば昭和初期に祖母が亡くなった土地を整理するときには、「夫と子が相続したはずだ」と単純に考えるわけにはいきません。その方が戸主だったのか、戸主以外だったのか、当時の戸籍上どのような地位にあったのかを、一つひとつ確認していく必要があります。

応急措置法の相続|昭和22年5月3日から昭和22年12月31日まで

応急措置法は、正式には「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」といいます。日本国憲法の施行に伴い、個人の尊厳や両性の平等に反する旧民法の制度を、一時的に調整するための時限立法でした。

この法律は、戸主・家族その他「家」に関する規定を適用しないものとし、家督相続に関する規定も適用しないものとしています。出典:e-Gov法令検索|日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律

実務上は、昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までの間に死亡した方については、明治民法の家督相続をそのまま使うのではなく、応急措置法による相続人・相続分を確認することになります。

項目応急措置法の特徴
期間昭和22年5月3日〜昭和22年12月31日
制度趣旨日本国憲法に合うよう民法改正まで暫定対応
家制度戸主・家族その他「家」に関する規定を適用しない
家督相続適用しない
配偶者常に相続人となる方向へ大きく転換
注意点期間が短いため見落とされやすい

昭和22年中の相続は、わずか8か月ほどの短い期間にすぎません。それでも、古い不動産では実際に問題になることがあります。とりわけ、終戦直後に亡くなった祖父母・曽祖父母の相続が未整理のまま残っている場合には、この応急措置法の時期に該当するかどうかを、必ず確認しておきたいところです。

現行民法の相続|昭和23年以後も改正時期に注意する

昭和23年1月1日以後は、現行民法を前提に考えます。ただし、ひとくちに現行民法といっても、相続分や代襲相続の扱いはその後改正されてきました。

現在の基本構造

現在の民法では、配偶者は常に相続人となり、血族相続人は子・直系尊属・兄弟姉妹の順で相続人になります。法定相続分は、子と配偶者であれば各2分の1、配偶者と直系尊属であれば配偶者3分の2・直系尊属3分の1、配偶者と兄弟姉妹であれば配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1です。出典:e-Gov法令検索|民法

ただし、相続開始日が昭和55年改正前であれば、現在の配偶者相続分をそのまま使うことはできません。

昭和55年改正前後で配偶者相続分が変わる

相続開始時期配偶者と子配偶者と直系尊属配偶者と兄弟姉妹
昭和55年改正前の旧相続分配偶者1/3・子2/3配偶者1/2・直系尊属1/2配偶者2/3・兄弟姉妹1/3
昭和56年1月1日以後の現行相続分配偶者1/2・子1/2配偶者2/3・直系尊属1/3配偶者3/4・兄弟姉妹1/4

昭和55年改正により、配偶者の相続分と遺留分が引き上げられました。あわせて、兄弟姉妹の代襲相続人の範囲も、兄弟姉妹の子、すなわち甥姪に限定されています。

この違いは、古い相続の共有持分を計算するときに大きく影響します。たとえば、昭和50年に亡くなった父の相続であれば、現在の「配偶者2分の1・子2分の1」ではなく、当時の「配偶者3分の1・子3分の2」を前提に検討すべき場面があるのです。

数次相続では「死亡者ごと」に法律を変えて計算する

古い相続でとりわけ複雑になるのが、数次相続です。

数次相続とは、ある相続が未整理のまま、相続人の一部がさらに死亡し、その次の相続が重なっていく状態をいいます。

たとえば、次のような場面です。

出来事適用を検討する法律
昭和19年登記名義人Aが死亡明治民法
昭和45年Aの相続人Bが死亡昭和55年改正前の現行民法
平成20年Bの相続人Cが死亡平成時代の現行民法
令和6年以後現在の相続人が登記整理を検討相続登記義務化も考慮

この場合、令和の時代に登記をするからといって、最初から現在の民法で相続人を決めることはできません。

まずAの死亡時点で、誰がAの権利を承継したかを確定します。次に、その承継者Bが死亡した時点で、Bの持分を誰が承継したかを確定します。そして、その後の死亡者ごとに、同じ作業を繰り返していきます。

この積み上げを誤ると、次のような問題が起こります。

誤り生じるリスク
最初の相続を現在法で処理する本来の相続人・持分を誤る
戸主か戸主以外かを確認しない家督相続か遺産相続かを誤る
昭和55年改正前の相続に現行相続分を使う配偶者・子・兄弟姉妹の持分を誤る
代襲相続の範囲を現在法で固定する甥姪、さらに下の世代の扱いを誤る
相続放棄の有無を確認しない協議参加者や持分を誤る
既に死亡した相続人の相続を追わない現在の権利者が漏れる

遺産分割の場面では、相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の有効性、遺産評価、特別受益、寄与分など、多くの争点が重なり合うことがあります。古い相続が絡む場合、最初の相続人確定の段階でつまずくと、その後の分割・評価・税務判断まで不安定になってしまいます。

未登記不動産・古い登記で特に注意すべき資料

古い不動産の相続人確定では、戸籍だけでなく、登記・土地台帳・固定資産税資料・地域情報を組み合わせていきます。

とりわけ、次のような不動産では調査が難しくなります。

不動産の状態注意点
明治・大正・昭和初期の登記名義のまま名義人の住所・本籍・戸籍の連続性を確認する
表題部だけで権利部がない表題部所有者の記載は所有権登記ではないが、所有者確認の資料になる
住所が古い地名・屋号・通称に近い住民登録上の住所と一致しない可能性がある
登記簿上の住所が現在の住民票で追えない戸籍附票、除票、旧土地台帳、聞き取りが必要
共有者に「外何名」とある共有者全員の特定が難しい
未登記土地・無番地現地調査、固定資産課税台帳、旧土地台帳等の確認が必要
休眠担保権が付いている相続登記だけでなく担保権抹消の検討が必要

表題部しかない土地では、表題部所有者の記載は所有権の権利登記ではなく、第三者対抗力もありません。それでも、真の所有者を確定するための有効な資料の一つにはなります。表題部所有者がすでに死亡している場合には、本籍記載の住民票除票等から本籍情報をたどり、法定相続人の調査へと進んでいきます。

また、昭和32年3月31日以前の所有権登記では、登記申請に住所証明書の添付が不要でした。そのため、登記簿上の住所が、必ずしも住民登録上の住所とは限りません。古い登記名義人を追うときには、この点を前提に調査を進める必要があります。

戸籍が取れない場合・廃棄されている場合の考え方

相続人確定の基本は、やはり戸籍です。しかし、古い相続では、除籍謄本や改製原戸籍がすでに廃棄されていることがあります。

住民票の除票・戸籍の附票の除票については、令和元年6月20日施行の住民基本台帳法施行令改正により、保存期間が150年に延長されました。ただし、改正前にすでに保存期間を経過していたものは、取得できない可能性があります。除籍簿・改製原戸籍簿についても、平成22年6月1日施行の戸籍法施行規則改正によって保存期間が150年に改められましたが、すでに廃棄されたものは、廃棄証明書の取得にとどまることがあります。

なお、令和6年3月1日からは、戸籍法の一部改正により、本籍地以外の市区町村窓口でも戸籍証明書・除籍証明書を請求できる広域交付が始まっています。ただし、コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍などは、対象外となります。出典:法務省|戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)

古い相続で戸籍が不足する場合には、次のような資料を組み合わせていきます。

資料役割
除籍謄本・改製原戸籍出生、婚姻、死亡、養子縁組、家督相続等を確認
戸籍附票・除票住所の連続性を確認
住民票除票登記簿上の住所と本人の同一性を確認
廃棄証明書戸籍が取得不能であることを説明
旧土地台帳所有者、地番、沿革を確認
固定資産税課税台帳課税上の所有者・納税者を確認
登記簿・閉鎖登記簿所有権移転、住所、持分、担保権を確認
過去帳・墓碑・地域資料戸籍以外で死亡・親族関係を補う資料
聞き取り記録所在不明者、旧住所、親族関係の補助資料

戸籍だけでは完結しない場合には、どの資料でどの事実を補ったのかを、記録として残しておくことが大切です。これは登記だけの話ではありません。将来の相続税申告、税務調査、そして親族間での説明にも関わってきます。

相続登記義務化により、古い相続の放置リスクは高まっている

令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続開始があったことを知り、かつ不動産所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なくこれを怠った場合には、10万円以下の過料の対象となります。出典:法務省|相続登記の申請義務化について

ここで重要なのは、義務化前に開始した相続も対象になる、という点です。法務省は、令和6年4月1日より前に開始した相続によって不動産を取得した場合であっても、相続登記をしていなければ義務化の対象となり、一定の場合を除き、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があると説明しています。出典:法務省|相続登記の申請義務化について

もっとも、古い相続では、相続人が極めて多数に上り、戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握に時間を要することがあります。法務省は、こうした事情がある場合には、相続登記をしないことについて、一般に「正当な理由」があると認められる場合があるとしています。出典:法務省|相続登記の申請義務化について

とはいえ、正当な理由があり得るからといって、何もしなくてよいわけではありません。調査を始めていること、戸籍収集が難航していること、相続人が多数であること、争いがあることなどを、後から説明できる形で残しておく必要があります。

相続人申告登記は「仮の対応」であって、権利関係の整理ではない

相続登記義務化に伴い、相続人申告登記という制度が設けられました。

相続人申告登記は、期限内に相続登記を申請することが難しい場合に、簡易に申請義務を履行できる仕組みです。相続登記を申請するには、本来、被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本等を収集し、法定相続人の範囲や法定相続分を確定する必要があります。法務省は、この確定が間に合わず期限内の相続登記が難しい場合の仕組みとして、相続人申告登記を設けたと説明しています。出典:法務省|相続人申告登記について

相続人申告登記には、次のような特徴があります。

項目内容
目的相続登記の基本的義務を簡易に履行する
申出者特定の相続人が単独で申出可能
法定相続人全員の確定不要
法定相続分の確定不要
登録免許税かからない
権利関係の公示不動産の権利関係を確定的に公示するものではない
売却・担保設定別途、正式な相続登記が必要
遺産分割後の追加的義務相続人申告登記では履行できない

出典:法務省|相続人申告登記について

古い相続で相続人確定に時間がかかる場合、相続人申告登記は一つの選択肢になります。ただし、これは共有解消・売却・担保設定・遺産分割の完成を意味するものではありません。あくまで義務履行のための暫定的な制度であって、最終的には相続人・持分・分割方針を整理する必要が残ります。

相続税申告への影響|法定相続人を誤ると税額計算も誤る

旧民法・応急措置法・現行民法の違いは、登記だけの問題ではありません。相続税申告にも影響します。

相続税では、基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。さらに、相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分どおりに取得したものと仮定して計算します。出典:国税庁|財産を相続したとき

つまり、法定相続人や法定相続分を誤ると、次のような税務上の誤りにつながってしまいます。

誤り相続税への影響
法定相続人の人数を誤る基礎控除額を誤る
相続放棄者の扱いを誤る基礎控除・生命保険非課税枠等に影響
代襲相続人を見落とす法定相続人の数・相続税総額計算に影響
昭和55年改正前の相続分を誤る過去相続の持分、現在の取得財産を誤る
非嫡出子の相続分を誤る法定相続分・持分計算に影響
数次相続を整理しない誰がどの財産を取得したか不明確になる

相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。出典:国税庁|相続税の申告期限

ただし、古い相続が残っている不動産を現在の相続税申告に含める場合、過去の相続人確定が終わらないと、現在の被相続人がどの持分を有していたのかが確定しないことがあります。これは、土地評価や小規模宅地等の特例の適用以前の問題です。

「評価額をいくらにするか」を考える前に、まず「そもそも誰の財産なのか」「被相続人の持分はいくらなのか」を確定しなければなりません。

実務で使う判断手順

古い相続が残っている不動産では、次の順序で整理していくと、論点の抜け漏れを減らせます。

1 対象不動産を特定する

まずは、登記事項証明書、閉鎖登記簿、旧土地台帳、固定資産税課税明細書、公図、地積測量図などを確認します。

確認資料見るべき点
登記事項証明書名義人、住所、持分、登記原因、受付年月日
閉鎖登記簿過去の所有者、旧住所、旧地番
旧土地台帳戦前・戦後初期の所有者、地番、地目
固定資産税資料課税上の納税義務者、共有代表者
公図・測量図隣接地、分筆・合筆、地番の変遷
権利証・登記識別情報過去の移転原因や関係者

2 最初の登記名義人の死亡日を確認する

次に、最初に相続が発生した登記名義人について、死亡日を確認します。死亡日が分からなければ、どの法律を適用するかも決まりません。

死亡日は、戸籍・除籍・改製原戸籍・住民票除票・戸籍附票などで確認します。これらが取得できない場合には、廃棄証明書や他の資料による補完が必要になります。

3 死亡日時点の法律を当てはめる

死亡日が分かったら、その死亡日時点の相続法を当てはめます。

死亡日確認する法律
昭和22年5月2日以前明治民法
昭和22年5月3日〜昭和22年12月31日応急措置法
昭和23年1月1日以後現行民法。ただし改正時期に注意

明治民法の場合には、まず戸主か戸主以外かを確認します。ここを誤ると、家督相続と遺産相続の選択そのものを誤ってしまいます。

4 次の相続をたどる

最初の相続人が現在まで全員生存していることは、ほとんどありません。相続人のうち亡くなっている方については、さらにその方の相続をたどっていきます。

この作業を、現在生存している相続人、または権利承継者にたどり着くまで続けます。

5 相続放棄・遺言・養子縁組・婚姻関係を確認する

古い相続では、次の事実が相続人確定に影響します。

確認事項影響
相続放棄相続人でなかったものとして扱われる
遺言法定相続と異なる承継が起こり得る
養子縁組親族関係・相続人順位に影響
離婚・再婚配偶者・子の範囲に影響
認知子としての相続権に影響
廃除・欠格相続権の有無に影響
代襲相続次世代が相続人になる可能性

ここでは、戸籍の知識だけでなく、法律の知識も求められます。相続人確定には、戸籍の読解と法律判断の両方が欠かせない、という点が実務上は重要です。

6 共有解消・売却・利用方針を決める

相続人が確定しても、それで問題が終わるわけではありません。現在の権利者が多数いる場合には、不動産をどう整理するかが次の論点になります。

方針注意点
法定相続分で登記共有者が多数化し、将来さらに複雑になる
遺産分割で特定者に集約全員の合意、代償金、税務判断が必要
売却して換価分割譲渡所得税、取得費、売却実務が問題
共有持分売買譲渡税、価格妥当性、共有者間の公平に注意
共有物分割法務・税務の両面で検討が必要
相続土地国庫帰属制度要件・負担金・対象土地の制限に注意

共有不動産では、使用方法、収益の分配、経費負担、売却、共有関係の解消をめぐって、紛争が起こりやすくなります。共有のまま放置するという判断には、将来世代へ問題を先送りするリスクが伴います。

古い相続を整理するときに避けたい短絡的判断

古い相続や未登記不動産では、次のような判断は避けるべきです。

短絡的判断なぜ危険か
今の民法で相続人を出せばよい相続開始時点の法律と異なる可能性がある
長男が住んでいたから長男のもの居住・管理と所有権は別問題
固定資産税を払っている人が所有者納税者と所有者は一致しないことがある
戸籍が一部ないから諦める廃棄証明書、旧土地台帳、聞き取り等で補完できる場合がある
相続人申告登記をすれば整理完了権利関係を確定する登記ではない
共有登記にすれば公平将来の管理・売却・二次相続で問題が拡大することがある
税額が小さいから調査不要財産の帰属・持分を誤ると、後日の説明が困難になる

古い相続では、「登記が動けばよい」というだけでは足りません。税務の面でも、被相続人の財産としてどこまで評価すべきか、誰が取得したのか、申告後に説明できるのかを、あわせて確認しておく必要があります。

相談前に準備しておきたい資料

古い相続・未登記不動産・所有者不明土地のご相談では、次の資料をできる範囲で整理しておくと、初期の判断が進みやすくなります。

分類準備したい資料
不動産登記事項証明書、閉鎖登記簿、旧土地台帳、公図、地積測量図、固定資産税課税明細書
名義人登記名義人の戸籍、除籍、改製原戸籍、住民票除票、戸籍附票
相続関係相続関係図、法定相続情報一覧図、相続放棄申述受理証明書、遺言書
税務固定資産税評価証明書、過去の相続税申告書、贈与税申告書、取得費資料
管理状況固定資産税の納付者、賃貸借契約、管理費用負担、使用者、占有者
紛争状況親族間の協議記録、所在不明者、連絡不能者、反対者の有無
補完資料廃棄証明書、過去帳、墓碑、地域資料、聞き取り記録
今後の方針売却、共有解消、特定相続人への集約、土地利用、相続税申告への反映

すべてを最初から完璧に集める必要はありません。ただし、「登記名義人が誰か」「いつ亡くなったか」「戸主か戸主以外か」「次の相続がどこまで発生しているか」の4点は、最初に確認すべき重要事項です。

まとめ:古い相続は、現在の常識ではなく「当時の法律」から始める

旧民法・応急措置法・現行民法が絡む相続では、現在の相続人順位や相続分だけを前提にしてはいけません。

明治民法では、戸主の相続は家督相続として単独承継が問題になり、戸主以外の相続は遺産相続として別の順位で処理されます。昭和22年の応急措置法では家督相続が排され、相続制度が大きく転換しました。昭和23年以後の現行民法でも、昭和37年改正、昭和55年改正、非嫡出子相続分改正などにより、時期によって相続人・相続分の判断が変わります。

古い不動産の整理では、相続人確定、登記、共有解消、売却、相続税申告、納税資金、将来の二次相続が、一体となって問題になります。相続開始時点の法律を確認しないまま登記や分割を進めてしまうと、後から説明できない権利関係を作り出してしまうおそれがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、古い相続が残る不動産、数次相続、未登記不動産、共有不動産、相続税申告における持分確認などについて、税務と法務の接点を丁寧に整理することを大切にしています。

「祖父母・曽祖父母名義の土地が残っている」「相続人が多すぎて分からない」「相続登記義務化を機に整理したい」「相続税申告に含めるべき持分が分からない」——こうしたお悩みがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。戸籍・登記・固定資産資料・税務資料を確認しながら、後から説明できる整理の進め方を、ご一緒に検討してまいります。

重要ポイントの振り返り

項目振り返り
基本原則相続人・相続分は、原則として各被相続人の死亡時の法律で判断する
明治民法戸主なら家督相続、戸主以外なら遺産相続を検討する
家督相続原則として1人が単独承継するため、現行法の共同相続と大きく異なる
遺産相続明治民法下では、配偶者が常に共同相続人になるわけではない
応急措置法昭和22年5月3日から昭和22年12月31日までの暫定法。家督相続を排した
現行民法昭和23年以後でも、昭和37年改正・昭和55年改正・非嫡出子相続分改正に注意
数次相続死亡者ごとに適用法を変えて、現在の権利者まで順にたどる
未登記不動産登記簿、旧土地台帳、戸籍、固定資産資料、聞き取りを組み合わせる
戸籍不足廃棄証明書や補完資料で説明可能性を確保する
相続登記義務化令和6年4月1日から開始。古い相続も対象になる
相続人申告登記義務履行の簡易制度であり、権利関係を確定する登記ではない
相続税申告法定相続人の数、法定相続分、被相続人の持分を誤ると税額計算に影響する
共有化リスク共有登記は一見公平でも、将来の管理・売却・二次相続で問題が拡大しやすい
相談前資料戸籍、登記、固定資産資料、相続関係図、相続放棄・遺言の有無を整理する
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