相続税計算の全体の流れ|課税価格・課税遺産総額・相続税の総額・各人の納付税額まで

相続税は、「遺産総額に税率を掛けるだけ」で求められる税金ではありません。 かといって、「自分が取得した財産に直接税率を掛ければ、自分の相続税額が分かる」という仕組みでもありません。

実際の計算は、もう少し段階を踏みます。 まず、財産を取得した人ごとに課税価格を計算し、それを合計したうえで基礎控除額を差し引きます。次に、いったん法定相続分で取得したものと仮定して「相続税の総額」を計算し、最後に、その総額を実際の取得割合に応じて各人へ割り振っていきます。

この流れを押さえておかないと、次のような誤解が生まれやすくなります。

  • 「配偶者が全部取得すれば、最初から相続税はかからない」
  • 「法定相続分どおりに分けないと、相続税計算ができない」
  • 「小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、同じように税額を下げる制度である」
  • 「遺産分割が終わっていなければ、相続税申告も後回しにできる」
  • 「税率表だけ見れば、自分の税額が分かる」

実際の相続税計算は、財産評価、債務控除、贈与加算、相続人の範囲、遺産分割、特例、税額控除といった要素が、一定の順序で組み合わさる構造になっています。

本記事では、その全体像を、申告実務で迷いやすいポイントに絞って整理します。 個別財産の評価方法、申告書の具体的な記載方法、特例ごとの詳細要件については別記事で扱うこととし、ここではあくまで「相続税額がどのような順序で決まっていくのか」を俯瞰します。

目次

相続税計算は大きく6段階で考える

相続税計算の流れは、次の6段階に分けて捉えると、ずいぶん整理しやすくなります。

段階計算・判断の内容実務上の意味
1各人の課税価格を計算する誰が、どの財産を、どの価額で取得したかを整理する
2課税価格の合計額を計算する相続税計算の対象となる正味の遺産額を把握する
3基礎控除額を差し引く相続税がかかる部分である課税遺産総額を出す
4法定相続分で取得したものとして相続税の総額を計算する遺産全体に対する相続税の総額を算定する
5実際の取得割合で各人に按分する各相続人等の税額を割り振る
62割加算・税額控除等を反映する各人の最終的な納付税額を計算する

相続税の一般的な計算順序も、各人の課税価格の計算、相続税の総額の計算、各人ごとの相続税額の計算、各人の納付税額の計算という流れで整理されています。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

この流れの中で、まず押さえておきたいのが、「実際の遺産分割」と「相続税の総額計算」は同じではない、という点です。

相続税の総額は、実際に誰がどの財産を取得したかを直接の前提として計算するわけではありません。いったん法定相続分で取得したものと仮定して総額を求め、そのうえで、実際の取得割合に応じて各人へ配分していきます。

つまり相続税計算には、次の2つの視点が併存しています。

視点内容
遺産全体の視点この相続全体で、相続税はいくら発生するのか
各人の視点その相続税を、誰がいくら負担するのか

この2つを切り分けて理解することが、相続税計算を読み解く入口になります。

第1段階:各人の課税価格を計算する

最初に行うのは、財産を取得した人ごとの「課税価格」の計算です。

ここでいう「各人」は、相続人だけに限られません。 遺言によって財産を取得した受遺者、生命保険金等を取得した人、相続時精算課税の適用を受けていた人なども、相続税計算上の対象者になることがあります。

各人の課税価格は、概念的には次のように整理できます。

相続・遺贈により取得した財産 + みなし相続財産 − 非課税財産 + 相続時精算課税に係る贈与財産 − 債務・葬式費用 + 一定の暦年課税贈与財産 = 各人の課税価格

各人の課税価格は、相続または遺贈により取得した財産に、みなし相続財産や相続時精算課税に係る贈与財産、相続開始前の一定期間内の暦年課税贈与財産を加え、そこから非課税財産や債務・葬式費用を差し引いて求めます。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

財産評価はここで効いてくる

相続税計算の入口では、まず財産を相続税評価額で把握する必要があります。

不動産、非上場株式、貸付金、生命保険、有価証券、同族会社関係資産、国外財産などは、名義や額面だけでは判断できないことが少なくありません。

特に土地は、路線価や倍率を当てはめれば終わり、というわけにはいかない場合があります。地目、評価単位、利用状況、貸付関係、接道、形状、面積、都市計画、権利関係によって、評価額は変わってきます。 非上場株式も同様で、会社規模、株主判定、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社への該当性などによって、評価が大きく動きます。

相続税の計算式そのものを理解することはもちろん大切です。しかし、その前提となる財産評価が誤っていれば、計算結果も当然にずれてしまいます。

相続税申告を、単なる計算作業として扱えない理由が、まさにここにあります。

債務と葬式費用は課税価格を下げる要素になる

被相続人の借入金、未払金、未払税金など、確実と認められる債務は、相続財産から控除できる場合があります。被相続人が残した借入金などの債務は、相続税を計算する際に遺産総額から差し引くことができます。

出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務

また、一定の相続人や包括受遺者が負担した葬式費用も、相続税計算上、遺産総額から差し引くことができます。

出典:国税庁|No.4129 相続財産から控除できる葬式費用

ただし、支払ったものがすべて控除できるわけではありません。

たとえば保証債務は、原則として債務控除の対象になりません。主たる債務者が弁済不能で、求償しても弁済を受ける見込みがない、といった事情がある場合に限って問題になります。 葬式費用についても、葬儀に通常必要な費用と、香典返し・墓石購入費用・法事費用などとを、分けて考える必要があります。

相続税計算では、財産を拾い上げるだけでなく、控除できるものと控除できないものをきちんと区別することが重要になります。

小規模宅地等の特例は「税額控除」ではなく「財産価額の減額」

相続税計算で混同されやすいのが、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減です。

小規模宅地等の特例は、一定の宅地等について、課税価格に算入する価額を減額する制度です。 税額を直接差し引く制度ではなく、相続税計算の入口にあたる「財産の価額」を下げる仕組みである、という点がポイントです。

小規模宅地等の特例等を適用した財産については、その特例を適用して減額した後の価額を基に計算することとされています。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

このため小規模宅地等の特例は、「誰がその宅地を取得するか」「相続開始の前後にどのように利用していたか」「申告期限まで保有・居住・事業継続等の要件を満たすか」といった、遺産分割や事実関係と密接に関係します。

「自宅の土地だから使える」「賃貸不動産だから使える」と、単純に判断してしまうのは危険です。

第2段階:課税価格の合計額を出す

各人の課税価格を計算したら、それらを合計します。

各人の課税価格の合計額 = 課税価格の合計額

この課税価格の合計額が、相続税計算上の「正味の遺産額」に相当します。

この段階では、単に被相続人名義の財産を足し合わせるだけでは足りません。 死亡保険金や死亡退職金などのみなし相続財産、相続時精算課税適用財産、加算対象となる暦年課税贈与財産、さらには名義財産として問題になり得る財産まで、あわせて確認しておく必要があります。

なかでも特に注意したいのが、過去の贈与です。

暦年課税贈与の加算

暦年課税による贈与については、相続または遺贈等により財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に贈与を受けていた場合、その贈与時の価額を相続税の課税価格に加算します。

令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、加算対象期間が、相続開始前7年以内へと段階的に延長されています。具体的には、相続開始日が令和8年12月31日以前の場合は相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの場合は令和6年1月1日から死亡日まで、令和13年1月1日以後の場合は相続開始前7年以内が、加算対象期間とされています。

出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

つまり相続税の計算では、相続開始時点の財産だけでなく、一定期間内の生前贈与までさかのぼって確認する必要があるということです。

「相続開始時の財産は基礎控除以下だから申告は不要」と思っていても、生前贈与を加算した結果、基礎控除を超えることもあります。

相続時精算課税適用財産の加算

相続時精算課税を選択していた場合、その適用財産は相続税の課税価格に算入されます。

令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税適用財産については、贈与を受けた年分ごとに、贈与時の価額の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額を、相続税の課税価格に算入する取扱いとなっています。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

相続時精算課税は、贈与の時点だけで完結する制度ではありません。 将来の相続税計算に戻ってくることを前提に、贈与する財産、時期、評価額、そして相続時の分割や納税資金への影響まで見据えて検討する必要があります。

第3段階:基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算する

課税価格の合計額から基礎控除額を差し引くと、課税遺産総額が出ます。

課税価格の合計額 − 基礎控除額 = 課税遺産総額

基礎控除額は、次の算式で計算します。

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

課税遺産総額は、この課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて求めます。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

法定相続人の数は正確に確認する

基礎控除額は、法定相続人の数によって変わります。

配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、子、直系尊属、兄弟姉妹の順で相続人になります。子がすでに死亡している場合には、代襲相続が問題になることもあります。相続人の範囲と法定相続分は、この配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹という順位で整理されています。

出典:国税庁|No.4132 相続人の範囲と法定相続分

また、基礎控除額を計算するときの法定相続人の数については、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の人数で計算します。 一方で、養子がいる場合には、相続税計算上、法定相続人の数に含められる養子の数に制限があります。実子がいる場合は養子のうち1人まで、実子がいない場合は養子のうち2人までを、法定相続人に含めることとされています。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

法定相続人の確認は、単なる家族関係の確認にとどまりません。 基礎控除額はもちろん、生命保険金・死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額計算、2割加算の判断にまで影響します。

だからこそ、相続税の試算や申告の場面では、戸籍に基づく相続人の確定を軽んじることはできません。

第4段階:法定相続分で取得したものとして相続税の総額を計算する

課税遺産総額が出たら、次は「相続税の総額」を計算します。

ここが、相続税計算の中でも最も誤解されやすい部分です。

相続税の総額は、実際の遺産分割どおりに計算するわけではありません。 課税遺産総額を、各法定相続人が民法上の法定相続分に従って取得したものと仮定し、それぞれの取得金額に税率を掛けて、その税額を合計して求めます。

実際の計算にあたっては、課税遺産総額を法定相続分に従って取得したものと仮定し、各法定相続人ごとの法定相続分に応ずる取得金額を算定したうえで、速算表に当てはめて算出した税額を合計したものが、相続税の総額となります。

出典:国税庁|No.4155 相続税の税率

流れは、次のとおりです。

課税遺産総額 × 各法定相続人の法定相続分 = 法定相続分に応ずる取得金額

法定相続分に応ずる取得金額 × 税率 − 控除額 = 各法定相続人ごとの算出税額

各法定相続人ごとの算出税額の合計 = 相続税の総額

相続税の速算表

相続税の速算表は、法定相続分に応ずる取得金額に対して用います。 各人が実際に取得した財産額に、そのまま掛ける表ではない、という点に注意してください。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%なし
1,000万円超 3,000万円以下15%50万円
3,000万円超 5,000万円以下20%200万円
5,000万円超 1億円以下30%700万円
1億円超 2億円以下40%1,700万円
2億円超 3億円以下45%2,700万円
3億円超 6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

相続税の税率は、このように法定相続分に応ずる取得金額に速算表を当てはめて計算します。

出典:国税庁|No.4155 相続税の税率

この仕組みのため、相続税の総額は、実際の分け方だけで直接決まるのではなく、法定相続人の構成と課税遺産総額によって、まず決まることになります。

とはいえ、実際の分け方が相続税に無関係というわけではありません。 小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、納税資金、二次相続、代償金、換価分割、相続人間の公平感などは、実際の遺産分割によって大きく変わってきます。

第5段階:相続税の総額を実際の取得割合で各人に按分する

相続税の総額を計算したら、その総額を、財産を取得した各人に割り振ります。

計算式は、次のとおりです。

相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額 = 各相続人等の税額

相続税の総額は、財産を取得した各人の課税価格に応じて割り振り、各人ごとの税額を計算します。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

ここで使うのは、法定相続分ではなく、各人の課税価格です。 したがって、実際に多くの財産を取得した人は、原則としてより多くの相続税を負担することになります。

この按分の段階で、遺産分割の内容が各人の税負担に反映される、という構造です。

実際の取得割合は、納税資金にも直結する

相続税計算上の各人の税額が出たとしても、それを支払えるかどうかは、また別の問題です。

不動産や非上場株式を多く取得した人は、相続税額が大きくても、手元の現金が不足することがあります。 反対に、金融資産や生命保険金を取得した人は、納税資金を確保しやすい場合があります。

相続税計算では、税額だけでなく、誰がどの財産を取得し、どの財産から納税するのかまで確認しておく必要があります。

特に、同族会社株式、自宅不動産、農地、貸地、共有不動産など、換金しにくい財産が多い場合には、税額計算と納税資金の検討を、同時に進めておくべきです。

第6段階:2割加算と税額控除を反映する

各人ごとの相続税額を計算したら、最後に、2割加算や税額控除を反映します。

各人の納付税額の計算では、各相続人等の税額に2割加算を行ったうえで、暦年課税分の贈与税額控除、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除などを差し引いていきます。

出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

主な調整項目は、次のとおりです。

項目内容
相続税額の2割加算配偶者・一親等の血族等以外が取得する場合に税額が加算されることがある
暦年課税分の贈与税額控除相続税に加算された暦年贈与について、対応する贈与税額を控除する
配偶者の税額軽減配偶者が実際に取得した財産額に応じて税額を軽減する
未成年者控除一定の未成年者が相続人である場合の控除
障害者控除一定の障害者が相続人である場合の控除
相次相続控除短期間に相続が続いた場合の一定の控除
外国税額控除国外財産について外国で相続税等が課された場合の一定の調整
相続時精算課税分の贈与税相当額控除相続時精算課税により納付した贈与税相当額を控除する

2割加算は、取得者の立場によって判断する

相続税額の2割加算は、相続、遺贈、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族および配偶者以外の人である場合に問題になります。 代襲相続人となった孫には一定の扱いがありますが、孫養子などについては注意が必要です。

出典:国税庁|No.4157 相続税額の2割加算

たとえば、遺言で孫、兄弟姉妹、甥姪、内縁関係の人、法人などに財産を承継させる場合には、相続税額だけでなく、2割加算の有無もあわせて確認する必要があります。

遺言や生前対策で「誰に渡すか」を考える際には、民法上の承継設計だけでなく、相続税上の取得者区分まで見ておかなければなりません。

配偶者の税額軽減は、相続税が自動的にゼロになる制度ではない

配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、1億6,000万円、または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからない、という制度です。

出典:国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減

ただし、この制度は、あくまで配偶者が実際に取得した財産を基に計算されます。

申告期限までに分割されていない財産は、原則として税額軽減の対象になりません。 一定の手続を経て、申告期限後3年以内の分割を前提に、後日適用できる場合はあります。それでも、「配偶者がいるから申告しなくてよい」「配偶者に全部渡す予定だから期限を気にしなくてよい」と考えるのは危険です。

また、一次相続で配偶者に多くを承継させると、一次相続の税額は抑えられても、二次相続で相続人の数、基礎控除、財産構成、納税資金が変わり、結果として家族全体の負担が大きくなってしまう場合があります。

配偶者の税額軽減は、たしかに強力な制度です。 しかし、二次相続、納税資金、遺産分割の納得感まで含めて判断する必要があります。

申告要否と納税期限も計算の一部として捉える

相続税の申告と納税は、原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行います。相続や遺贈により取得した財産等の価額の合計額が基礎控除額を超える場合に申告が必要となり、その期限は、通常、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内とされています。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

相続税計算は、机上の税額を出して終わり、というものではありません。 期限までに、相続人を確定し、財産を調査し、評価し、遺産分割の方向性を整理し、特例適用の可否を確認し、納税資金を準備する。そうした一連の作業が必要になります。

遺産分割がまとまらない場合でも、申告期限は原則として延びません。 未分割のまま申告する場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例に制約が生じることがあります。

そう考えると、相続税計算の全体像を理解しておくことは、税額を知るためだけでなく、期限内に何を判断すべきかを把握するうえでも、大きな意味を持ちます。

相続税計算で誤解しやすいポイント

相続税計算の全体像を理解するうえで、特に誤解されやすい点を整理しておきます。

1. 実際の取得財産に直接税率を掛けるわけではない

相続税は、各人が実際に取得した財産に直接税率を掛けて計算するものではありません。

まず課税遺産総額を法定相続分で分けたものとして相続税の総額を計算し、その後、実際の取得割合で各人に按分します。

このため、税率表だけを見て、自分の税額を判断することはできません。

2. 法定相続分どおりに分ける必要があるわけではない

相続税の総額計算では法定相続分を使いますが、遺産分割そのものを、必ず法定相続分どおりに行わなければならないわけではありません。

法定相続分は、相続人間で遺産分割の合意ができなかったときの持分であり、必ずこの相続分で遺産を分割しなければならない、というものではありません。

出典:国税庁|No.4132 相続人の範囲と法定相続分

実際の分割では、生活保障、事業承継、不動産の利用、納税資金、代償金、遺留分、そして二次相続まで考慮する必要があります。

3. 特例ごとに効く場所が違う

相続税計算では、制度によって、反映される場所が異なります。

制度・項目計算上の位置づけ
債務控除課税価格を計算する段階で差し引く
葬式費用課税価格を計算する段階で差し引く
小規模宅地等の特例対象宅地等の価額を減額する
暦年課税贈与加算課税価格に加算する
相続時精算課税課税価格に算入し、納付済み贈与税相当額を後で控除する
配偶者の税額軽減各人の税額を計算した後、配偶者の税額を軽減する
2割加算各人の税額に加算する
未成年者控除・障害者控除等各人の税額から控除する

この位置づけを混同すると、試算結果を誤りやすくなります。

たとえば、小規模宅地等の特例は財産評価の段階で影響しますが、配偶者の税額軽減は税額計算後に影響します。 どちらも税負担を下げる可能性のある制度ですが、適用要件も、計算上の位置も、申告実務上の注意点も異なります。

4. 税額がゼロでも申告が必要な場合がある

基礎控除額を超える場合でも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用することで、最終的な納税額がゼロになることがあります。

しかし、納税額がゼロになることと、申告が不要であることは、同じではありません。

特例を適用するためには、申告が必要になる場合があります。相続税の申告と納税の要否は、小規模宅地等の特例等を適用しない場合における課税価格の合計額を前提に、基礎控除額と比較して判断する考え方が示されています。

出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

「特例を使えば税額が出ないから申告しない」という判断は、後になって大きなリスクになることがあります。

5. 相続税計算は遺産分割と切り離せない

相続税の総額は法定相続分を使って計算しますが、各人の納付税額、特例の適用、納税資金、二次相続への影響は、実際の遺産分割に左右されます。

特に、次のような財産がある場合には、税額計算と分割設計を、同時に考える必要があります。

財産・事情注意すべき点
自宅不動産小規模宅地等、配偶者居住権、二次相続、居住継続
賃貸不動産評価、収益性、共有リスク、納税資金
非上場株式評価、議決権、後継者、納税資金、遺留分
農地・生産緑地評価、納税猶予、農業承継、転用・売却
生命保険みなし相続財産、非課税枠、受取人、納税資金
名義預金実質所有者、贈与証拠、税務調査
生前贈与暦年加算、相続時精算課税、特別受益、遺留分
国外財産納税義務者、財産所在地、外貨換算、外国税額控除

相続税計算は、数字だけを積み上げる作業ではありません。 家族関係、財産構成、過去の贈与、遺言、分割方針、納税資金を踏まえた、総合的な判断です。

相続税計算のために早めに整理すべき資料

相続税の計算を正確に進めるためには、資料の整理が欠かせません。

資料・情報確認する目的
戸籍関係資料法定相続人、代襲相続、相続分、基礎控除額を確認する
遺言書財産の取得者、遺贈、遺言執行、分割方針を確認する
固定資産税課税明細書不動産の所在、地目、地積、評価の入口を確認する
登記事項証明書・公図・測量図所有者、権利関係、地積、評価単位を確認する
預貯金・証券資料金融資産、入出金履歴、名義財産、納税資金を確認する
保険証券・支払通知死亡保険金、受取人、保険料負担者、非課税枠を確認する
借入金・未払金資料債務控除、納税資金、相続放棄等の判断材料を確認する
葬式費用資料控除できる費用とできない費用を区別する
贈与契約書・贈与税申告書暦年贈与加算、相続時精算課税、名義財産リスクを確認する
同族会社資料非上場株式、役員貸付金、土地貸付、退職金等を確認する

資料が不足していると、財産の拾い漏れ、評価誤り、特例適用漏れ、税務調査での説明不足につながりかねません。

特に、不動産、非上場株式、名義財産、過去の贈与がある場合には、早い段階で資料を集め、論点を整理しておくことが重要です。

相続税計算は「税額を出す作業」ではなく「判断の順序を整える作業」

相続税計算の流れを、一言でまとめると、次のようになります。

財産を評価し、各人の課税価格を出し、基礎控除を差し引き、法定相続分で相続税の総額を計算し、実際の取得割合で按分し、各人ごとの加算・控除を反映する。

この流れ自体は、制度上、決まっています。

しかし、実務で難しいのは、計算式そのものよりも、計算式に入れる前提を正しく整えることです。

  • どの財産を相続税の対象に含めるのか。
  • その財産をいくらで評価するのか。
  • 誰が取得したものとして整理するのか。
  • どの債務や葬式費用を控除できるのか。
  • 過去の贈与をどこまで加算するのか。
  • 小規模宅地等の特例を、誰の取得財産に適用できるのか。
  • 配偶者の税額軽減を使うとして、二次相続まで見て妥当なのか。
  • 税額を期限内に納める資金はあるのか。
  • 申告後に税務署へ説明できる根拠は残っているのか。

これらを確認しないまま計算結果だけを出しても、実務上は十分とはいえません。

相続税計算は、申告書を作るためだけの作業ではなく、家族の財産をどのように承継し、どのリスクを受け入れるかを整理するための、土台となるものです。

相続税額の試算・申告要否・遺産分割を整理したい方へ

相続税の計算は、表面的には、順番どおりに進めればよいように見えます。

しかし実際には、財産評価、相続人の確定、過去の贈与、名義財産、保険金、債務、遺産分割、特例、納税資金が、相互に関係し合っています。

特に、不動産、非上場株式、同族会社関係財産、農地、貸地、名義預金、相続時精算課税、複数年にわたる生前贈与がある場合には、概算だけで判断すると、申告要否や納税額を誤る可能性があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税額の試算、申告要否の確認、財産評価、遺産分割と税額の関係、納税資金、二次相続までを含めて、資料と事実関係に基づいて整理します。

  • 「相続税がどのくらいかかるのか知りたい」
  • 「配偶者や子にどう分けると、税務上・家族関係上の負担が少ないのか整理したい」
  • 「不動産や会社株式があり、自分たちだけで評価や分割を判断するのが不安」
  • 「申告が必要かどうか、特例を使えるかどうかを、早めに確認したい」

こうした場合は、財産一覧、相続人関係、固定資産税資料、金融資産資料、保険資料、贈与履歴などを整理したうえで、ご相談ください。

相続税計算の全体像を早い段階で把握しておくことは、申告期限に追われながら判断する事態を避け、後から説明できる相続を進めるための、第一歩になります。

重要事項の振り返り

項目重要ポイント
相続税計算の基本各人の課税価格、課税価格の合計、基礎控除、相続税の総額、各人への按分、税額控除の順で考える
各人の課税価格相続財産、みなし相続財産、非課税財産、債務、葬式費用、贈与加算を整理する
財産評価土地、非上場株式、名義財産などは計算結果に大きく影響する
基礎控除3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人戸籍確認が必要で、基礎控除・非課税枠・相続税の総額計算に影響する
相続税の総額課税遺産総額を法定相続分で取得したものと仮定して計算する
税率表の使い方実際の取得額ではなく、法定相続分に応ずる取得金額に適用する
各人への按分相続税の総額を、各人の課税価格の割合に応じて割り振る
2割加算配偶者・一親等の血族等以外が取得する場合に問題となる
配偶者の税額軽減強力な制度だが、申告・分割・二次相続への影響を確認する必要がある
小規模宅地等の特例税額控除ではなく、対象宅地等の価額を減額する制度
贈与加算暦年贈与や相続時精算課税は、相続税計算に戻ってくることがある
申告期限原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内
実務上の本質税額を出すだけでなく、財産・分割・納税資金・説明可能性を整えることが重要
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