評価通達によらない評価が問題となる場合|総則6項・著しい乖離・租税回避と相続税申告の注意点

相続税申告では、多くの財産を国税庁の財産評価基本通達に沿って評価していきます。

土地であれば路線価方式や倍率方式、非上場株式であれば原則的評価方式や配当還元方式というように、実務で用いる評価方法が体系的に整えられています。実際の申告も、その多くはこの通達評価を前提に進んでいきます。

ただ、財産評価基本通達のとおりに評価すれば常に問題が生じない、とまでは言い切れません。かといって、通達評価額より低い鑑定評価額や売却見込額があるからといって、納税者が自由に通達評価を離れてよいわけでもないのです。

この「通達評価のままでよいのか」「通達評価によらない評価を検討すべきなのか」という論点こそ、財産評価基本通達総則6項、いわゆる「総則6項」の問題です。

まず押さえるべきこと実務上の意味
原則は相続税法上の時価相続税法22条は、取得時の時価を評価原則としている
通常は評価通達により評価公平・安定・予測可能性のため、通達評価が実務の中心になる
通達評価にも限界がある個別事情により、通達評価が著しく不適当となることがある
乖離だけでは足りない通達評価額と鑑定評価額・取引価額の差だけで直ちに例外評価とはならない
説明可能性が重要評価方法だけでなく、取引経緯、資料、目的、相続人間の納得まで整理する必要がある

この記事では、評価通達によらない評価が問題となる場面を、総則6項、著しい乖離、租税回避、判例・裁決の考え方、そして申告実務での判断順序に分けて整理していきます。

目次

相続税評価の出発点は「時価」だが、実務は通達評価を中心に動く

相続税法22条は、相続、遺贈または贈与によって取得した財産の価額について、特別の定めがあるものを除き、取得時の時価によると定めています。相続であれば、原則として相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点が評価のタイミングになります。

出典:e-Gov法令検索|相続税法

とはいえ、実際の相続税申告では、すべての財産について個別に売買事例を集め、鑑定評価や収益還元分析を行うわけではありません。不動産、株式、保険、動産、債権、借地権といった多様な財産を、限られた申告期限のなかで公平かつ安定的に評価していく必要があります。

そこで実務上の標準的なものさしとして働くのが、財産評価基本通達です。

財産評価基本通達の総則では、時価について次のように整理されています。課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は原則として通達の定めによって評価する、という考え方です。

そして同じ総則のなかには、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産については、国税庁長官の指示を受けて評価するという規定も置かれています。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

ここで意識しておきたいのが、相続税法上の時価と、財産評価基本通達との関係です。

通達評価は、あくまで時価を把握するための実務上のものさしにすぎません。通達評価額そのものが、あらゆる場面で個別財産の客観的交換価値を完全に言い表しているわけではない、という点は押さえておく必要があります。

総則6項は「通達評価を自由に外す規定」ではない

総則6項は、評価通達による評価が著しく不適当と認められる場合に、通達評価以外の合理的な評価を行うための規定です。

ただ、これは納税者や課税庁が、自分にとって都合のよい評価額を選ぶための規定ではありません。

総則6項は、評価通達による画一的な評価を補完するもの、と理解するのが実務上の出発点になります。評価通達は、多数の納税者へ公平かつ安定的に適用するための評価基準ですが、すべての個別事情を完全に反映できるわけではありません。だからこそ、通達評価額が財産の客観的交換価値を著しく適切に表していない場合に、例外的な調整が問題になるのです。

この構造を整理すると、次のようになります。

区分意味
相続税法22条財産の価額は取得時の時価によるという法律上の原則
財産評価基本通達時価を実務上算定するための標準的・画一的な評価基準
総則6項通達評価が著しく不適当な場合に、個別評価を行うための補完規定
鑑定評価・取引事例等通達評価によらない場合に検討される評価資料
税務調査上の争点通達評価から離れる合理的理由があるかどうか

総則6項は、評価通達の例外であると同時に、評価通達そのものの信頼性を保つための規定でもあります。

通達評価が明らかに実態から外れているのに、機械的に通達評価だけを当てはめてしまえば、かえって課税の公平を損なうことがあります。逆に、総則6項が安易に持ち出されれば、今度は納税者の予測可能性や法的安定性が揺らいでしまいます。

だからこそ、総則6項の適用には、常に慎重な検討が求められるのです。

最高裁令和4年4月19日判決が示した重要な整理

総則6項を考えるうえで、最高裁令和4年4月19日判決は避けて通れません。

この判決は、相続財産である不動産について、納税者が評価通達に基づいて申告したところ、課税庁が「評価通達による評価は著しく不適当である」として、不動産鑑定評価額をもとに更正処分等を行った事案です。被相続人は相続開始前に借入れを行って不動産を取得しており、その不動産については、通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離が生じていました。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

最高裁は、まず相続税法22条の時価を客観的交換価値と整理したうえで、評価通達はあくまで行政内部の通達であり、国民を直接拘束するものではない、としました。したがって、評価通達による評価額を上回る評価額であっても、それが客観的交換価値としての時価を上回らない限り、ただちに相続税法22条に違反するわけではない、と述べています。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

その一方で、課税庁が特定の納税者についてのみ通達評価額を上回る価額で評価することは、合理的な理由がない限り平等原則に反する、ともしています。そして、評価通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情があるときには、その合理的理由が認められる、という整理を示しました。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

とりわけ重要なのは、最高裁が「通達評価額と鑑定評価額との大きな乖離」だけでは足りない、とした点です。判決は、乖離があること自体は認めつつも、それだけで例外評価を正当化してはいません。そのうえで、相続税負担の著しい軽減、近い将来の相続を見据えた購入・借入れの企画実行、他の納税者との看過し難い不均衡といった事情を総合して、通達評価を上回る評価を認めました。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

この判決が実務に投げかける意味は、次のように整理できます。

最高裁判決から読み取るべき点実務上の意味
時価は客観的交換価値通達評価額ではなく、法律上は時価が最終基準
通達は直接の法的拘束力を持たないただし実務上は課税庁も納税者も通達評価を基礎にする
通達評価から外れるには合理的理由が必要課税庁が恣意的に高い評価を選べるわけではない
乖離だけでは足りない通達評価額と鑑定評価額の差だけで総則6項適用とはならない
租税負担の公平が中心相続直前の取引経緯、節税意図、他の納税者との不均衡が問題になる
説明資料が不可欠取引目的、資金調達、相続開始時点の状況を記録しておく必要がある

評価通達によらない評価が問題となりやすい場面

評価通達によらない評価が問題になる場面は、大きく二つに分かれます。

一つは、納税者の側が通達評価より低い評価を主張したい場面です。たとえば、土地に特殊な制約があり、通達評価では実態を反映できないとして、鑑定評価を検討するようなケースです。

もう一つは、課税庁の側が通達評価より高い評価を問題にする場面です。たとえば、相続直前の不動産取得や借入れによって、通達評価と実勢価額に大きな乖離が生じ、相続税の負担が著しく軽くなっているようなケースが典型です。

場面誰が問題にしやすいか主な論点
相続直前の不動産取得・借入れ課税庁租税負担軽減目的、通達評価と時価の乖離、他の納税者との公平
通達補正では個別事情を反映できない土地納税者無道路地、長大地、造成費、がけ地、利用制限など
相続開始前後に売買契約や基本合意がある財産課税庁・納税者双方取引価格を時価の参考にすべきか
非上場株式のM&A・基本合意がある場合課税庁・納税者双方通達評価と具体的取引価額の乖離
親族間・同族会社間売買課税庁相続税評価額を取引時価として使えるか、みなし贈与・法人税課税
土地分割・評価単位の操作課税庁不合理分割、経済合理性、将来利用可能性

それぞれの判断ポイントを、以下で順に確認していきます。

相続直前の不動産取得・借入れは特に慎重に見る

総則6項のリスクが最も意識されやすいのは、相続の直前に借入れをして収益不動産を取得し、通達評価額を大きく下げるような場面です。

不動産は、もともと購入価額や鑑定評価額と相続税評価額との間に差が出やすい財産です。とくに賃貸不動産では、土地の貸家建付地評価、建物の固定資産税評価、借入金の債務控除が組み合わさるため、相続税評価のうえでは大きな圧縮効果が生じることがあります。

しかし、次のような事情が重なる場合には、そのまま通達評価で申告してよいか、慎重に検討する必要があります。

確認すべき事情なぜ重要か
被相続人の年齢・健康状態近い将来の相続を見込んだ取引かどうかが問題になる
取引時期相続開始直前か、長期保有を前提とした投資か
借入金の規模相続税負担軽減のための債務形成と見られないか
購入価額と通達評価額の差著しい乖離があるか
収益性・経済合理性相続税以外の合理的な投資目的があるか
相続後の売却予定・売却実績短期売却が予定されていたか
相続人の関与相続税負担軽減を期待して企画した事情があるか

相続税対策として不動産を取得すること自体が、ただちに否定されるわけではありません。不動産投資、賃貸経営、資産の組換え、事業承継、生活保障など、税務以外の合理的な目的が存在することも当然あります。

ただし、相続税評価額が下がる効果だけを前面に出し、収益性、借入返済、管理負担、空室リスク、相続人の承継意思を十分に確認しないまま進める対策は危険です。

相続対策では、相続税の軽減そのものよりも、まず争族の防止と納税資金の確保を優先し、その結果として税額の軽減にもつながっていく——そうした順序で考えることが大切だと、実務のなかで感じています。借入れを伴う不動産対策であれば、相続人が長期にわたって返済や管理を担っていく点まで含めて検討しておく必要があります。

通達評価が個別事情を反映しきれない土地では、納税者側から個別評価を検討することがある

評価通達によらない評価は、課税庁が高い評価を主張する場面だけの問題ではありません。

納税者の側が、通達評価では土地の特殊事情を適切に反映できないとして、鑑定評価や個別評価を検討することもあります。

たとえば、次のような土地です。

土地の事情通達評価で問題になりやすい点
無道路地通達上の補正だけでは市場性低下を十分に反映できない場合がある
極端に奥行が長い土地奥行価格補正率表の想定を超える場合がある
多額の造成費が必要な土地宅地造成費控除だけでは実態を反映しにくい場合がある
がけ地・傾斜地利用可能部分、造成可能性、安全性が問題になる
土壌汚染地除去費用、利用制限、買主の限定が問題になる
埋蔵文化財包蔵地発掘費用・開発制限が価値に影響する
高圧線下地建築制限、利用制約、地役権等が問題になる
特殊な権利関係のある土地借地権、使用貸借、共有、担保権などが評価に影響する

裁判例や裁決例を見ると、通達評価によるべきとされた事案がある一方で、極端な奥行、無道路、多額の造成費といった事情から、通達の補正だけでは土地の実態を十分に反映できないとして、鑑定評価が相当とされた事案もあります。奥行が評価通達の想定を大きく超える土地、無道路地、多額の宅地造成費を要する農地などで、個別事情に基づく評価が問題となった例が見られます。

ただし、「鑑定評価額が通達評価額より低い」というだけでは足りません。

東京地裁平成30年10月30日判決では、鑑定意見書による評価方法が一般に是認でき、算出された価格が客観的交換価値といえるとしても、その価格が通達評価額を下回るというだけでは、通達評価によるべきでない特別の事情があるとはいえない、と整理されています。

つまり、納税者の側から通達評価を離れようとする場合には、次の二段階の説明が必要になります。

段階説明すべき内容
第1段階なぜ通達評価では、その財産の客観的交換価値を適切に表せないのか
第2段階採用する鑑定評価・個別評価が、相続開始時点の客観的交換価値を合理的に示しているのか

「評価額を下げたい」という目的が先に立ってしまうと、税務調査の場で説明が弱くなりがちです。まず確認すべきは、土地の現況、法規制、権利関係、利用可能性、取引市場、そして評価の時点です。

売買契約・基本合意・相続後売却価格がある場合

相続開始時点の前後に、対象となる財産について売買契約、基本合意、あるいは相続後の短期売却がある場合も、評価通達によらない評価が問題になりやすい場面です。

とくに、実際に第三者との取引価格が存在しているときは、その価格が相続開始時点の客観的交換価値を示す資料になり得ます。

ただし、売買価格があるからといって、常にその価格をそのまま相続税評価額とするわけではありません。

確認事項実務上の意味
売買契約の成立時期相続開始前か後か、価格交渉はいつ行われたか
売主・買主の関係第三者間取引か、親族・同族関係者間取引か
価格決定過程競争入札、相見積り、仲介、鑑定などがあるか
特殊事情売り急ぎ、買い急ぎ、債務整理、関係者間調整がないか
引渡条件解体、測量、境界確定、賃借人退去などが価格に反映されているか
相続開始時点との距離相続開始時の状況をどこまで反映しているか

非上場株式についても同じことがいえます。M&Aの基本合意価格や具体的な譲渡交渉があり、評価通達による株式評価額との間に大きな乖離があるときには、通達評価だけでよいかが問題になることがあります。裁決例のなかにも、基本合意価格と通達評価額との著しい乖離が、評価通達以外の方法による評価を検討すべき事情として整理された例があります。

私たち公認会計士・税理士事務所としては、非上場株式について、相続税評価額だけでなく、会社法上の株式価値、M&A上の企業価値、所得税・法人税上の時価、そして少数株主持分か支配株主持分かを分けて整理していく必要があると考えています。非上場株式の評価では、その目的に応じてインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチなどを使い分けることが問題になり、相続税評価方式だけですべての時価を説明できるわけではありません。

親族間・同族会社間の売買では「相続税評価額=取引時価」と考えない

評価通達によらない評価の問題は、相続税申告だけにとどまりません。

親族間売買、同族会社との不動産売買、非上場株式の譲渡、債務免除、低額譲渡などの場面では、「時価」が複数の税目にまたがって問題になります。

相続税評価額は、あくまで相続税・贈与税の課税価格を計算するための評価額です。これをそのまま所得税法上の時価、法人税法上の時価、会社法上の公正価値として使えるとは限りません。

取引類型問題となる税務リスク
親から子への不動産売買低額譲受によるみなし贈与
個人から同族会社への不動産売却みなし譲渡所得課税、法人側の受贈益
同族会社から個人への低額譲渡役員給与・賞与、受贈益、みなし贈与等
非上場株式の親族間売買相続税法上の評価と所得税・法人税上の時価の違い
債務免除みなし贈与、法人税、所得税の関係

親族間や同族関係者間の取引では、相続税評価額で売買したから安全、とはいえません。裁判例・裁決例でも、不動産や非上場株式の時価をめぐって、相続税評価額、通常の取引価額、法人税・所得税上の時価、みなし贈与における「著しく低い価額」の判定が、それぞれ別々に問題になっています。

この論点は、総則6項そのものとは少し性質が異なります。けれども、根っこにあるものは同じです。

財産評価基本通達による評価額は、あくまで相続税・贈与税の申告における標準的な評価額であって、あらゆる取引の「時価」として万能なものではない、ということです。

評価通達によらない評価について誤解しやすいこと

総則6項をめぐっては、どうしても極端な理解が生まれがちです。

「通達評価で申告しても否認されるのなら、いったい何を信じればよいのか」という不安が出てくる一方で、「鑑定さえ取れば通達評価を下げられる」という短絡的な発想もまた危ういものです。

実務のなかで、とくに誤解されやすい点を整理しておきます。

誤解正しい整理
通達評価額と時価に差があれば総則6項が適用される乖離だけでは足りず、実質的な租税負担の公平に反する事情などを総合して判断する
通達評価なら必ず安全相続直前取引、借入、短期売却、節税目的が強い場合は説明が必要
鑑定評価額が低ければ採用できる通達評価によるべきでない特別事情と、鑑定評価の合理性の両方が必要
節税目的が少しでもあれば否認される節税目的だけで直ちに否認されるわけではなく、取引全体の経済合理性や公平性が問題になる
総則6項は課税庁だけが使うもの納税者側が通達評価の限界を主張する場面でも、通達評価によらない評価が問題になる
評価額だけを比較すれば判断できる取引経緯、資金調達、財産の現況、相続人の関与、相続後の処分まで確認する

総則6項の適用は、租税法律主義、平等原則、予測可能性との関係のなかで、慎重に考えるべき論点です。評価通達の個別規定で対応できる問題を総則6項で安易に処理してしまうことには、予測可能性や平等原則とのバランス上の課題が残る、という整理もあります。

通達評価で申告してよいかを判断する順序

相続税申告の実務では、いきなり「総則6項が適用されるかどうか」と考えるよりも、次の順序で整理していったほうが、判断が進めやすくなります。

判断順序確認事項実務上のポイント
1評価対象を特定する土地、建物、株式、権利、共有持分などを正確に分ける
2評価時点を確認する相続開始時点の現況に基づいているか
3通達評価を正しく行う地目、評価単位、権利関係、補正、株主判定等を確認する
4通達評価と外部価額を比較する購入価額、売却価額、鑑定評価額、M&A価格等との乖離を見る
5乖離の理由を分析する通達の制度的差異か、個別事情か、取引操作か
6取引経緯を確認する相続直前取引、借入、売却予定、節税目的、相続人関与を確認する
7通達評価の限界を検討する通達補正で実態を反映できない事情があるか
8採用評価額の根拠を整理する鑑定評価、取引事例、収益性、専門家意見を記録する
9税務調査での説明可能性を確認する後日説明できる資料と判断メモを残す
10家族・資金・将来承継への影響を確認する税額だけでなく、遺産分割、納税資金、二次相続も見る

とくに不動産では、通達評価を正しく行うための前提として、地目、地積、評価単位、接道、建築制限、権利関係を確認しておく必要があります。評価単位や地目判定を誤れば、それは総則6項以前の、評価そのものの誤りになってしまいます。土地評価では、評価単位、地目判定、利用状況、都市計画法・建築基準法上の制限が、評価額に大きく影響してきます。

生前対策では「後から説明できるか」を先に確認する

相続対策でよくある失敗は、「評価額が下がるかどうか」だけに目が向いてしまうことです。

不動産取得、賃貸建物の建築、借入金の活用、土地分割、非上場株式の移転、親族間売買——これらはいずれも評価額を動かす力を持っています。けれども、評価額を動かす力が大きい対策ほど、将来の申告・税務調査・遺産分割の場面で、その理由の説明が求められます。

生前対策の場面確認すべきこと
借入れによる不動産取得収益性、返済可能性、相続人の管理負担、相続時期との関係
賃貸物件建築空室リスク、修繕負担、相続後の運営者、土地利用の合理性
土地分割不合理分割、建築可能性、将来売却、二次相続への影響
非上場株式移転支配権、後継者、株価変動、M&A予定、納税資金
親族間売買取引価格の合理性、資金決済、みなし贈与、所得税・法人税
生前贈与贈与契約、管理、相続財産加算、遺留分、名義財産リスク

相続対策では、税額の軽減、争族の防止、納税資金、申告実務を、一体のものとして考える必要があります。節税効果だけが先行してしまうと、相続人の手元には借入返済や管理負担だけが残る、ということにもなりかねません。

評価通達によらない評価が問題になるかどうかは、申告のときになって初めて考えるのでは遅い場合があります。生前対策を設計する段階で、将来の申告書にどのような評価根拠を添付し、税務調査でどのように説明できるのかまで、あらかじめ確認しておくべきです。

税務調査で問われるのは「評価額」だけではない

総則6項や通達評価の限界が問題になる事案では、税務調査で単に評価額の計算式だけが見られるわけではありません。

むしろ確認されるのは、その評価額にたどり着くまでの事実関係と、意思決定の過程です。

税務調査で問われやすい事項確認される資料・事実
不動産取得の目的稟議書、提案書、金融機関資料、相続税試算、家族会議メモ
借入金の内容金銭消費貸借契約、返済予定、担保、保証、返済原資
購入価額の合理性売買契約、重要事項説明書、鑑定、収益計画、近隣取引
通達評価額の根拠評価明細、路線価、地積、補正、賃貸借契約、固定資産税資料
相続開始時点の現況現地写真、賃貸状況、空室、建物状態、法規制
相続後の処分売却契約、売却価格、売却時期、売却理由
相続人の関与取引決定者、相続税試算の共有、資産承継方針
鑑定評価の前提価格時点、評価対象、前提条件、取引事例、収益性

相続・贈与税の分野は、土地や株式の評価誤り、特例の適用誤り、資料受領の不備、税務調査リスクの説明不足といった点が、専門家側の品質管理のうえでも問題になりやすい領域です。

「通達どおりに計算したから大丈夫」ではなく、「なぜその通達を適用できるのか」「なぜ例外評価を検討しないのか」「外部価額との違いをどう説明するのか」を記録に残しておくことが大切になります。

鑑定評価を検討する場合の注意点

通達評価によらない評価を検討するとき、不動産鑑定評価が有力な資料になることがあります。

ただし、鑑定評価は万能ではありません。

鑑定評価で確認すべき点実務上の意味
鑑定の目的相続税申告用か、売買用か、担保用か、訴訟用か
価格時点相続開始時点と一致しているか
評価対象土地・建物・権利関係が申告上の評価対象と一致しているか
前提条件賃貸借、共有、借地権、法規制、造成費が反映されているか
通達評価との差異どの個別事情により差が生じたのか
採用可能性税務調査・審査請求・訴訟で説明できる水準か
費用対効果税額影響、争点化リスク、申告期限との関係

鑑定評価を使う目的は、「評価額を下げること」ではありません。

通達評価では客観的交換価値を適切に表せない事情があるときに、その事情を合理的に説明すること——そこに本来の目的があります。

ですから、鑑定評価を取得する前に、まずは通達評価を正しく計算し、そのうえで通達評価では反映しきれない個別事情を特定しておく必要があります。

課税庁から総則6項を問題にされやすい事案のチェック視点

相続税申告や生前対策の段階で、次のような事情がいくつも重なっている場合には、総則6項のリスクを検討しておくべきです。

チェック項目該当する場合の注意点
被相続人が高齢または健康状態に不安があった相続開始が近いことを見据えた対策と見られやすい
相続開始前数年以内に大型不動産を取得した相続税評価額との乖離が問題になりやすい
多額の借入金を伴う債務控除と評価減が組み合わさる
取得価額と通達評価額の差が大きい乖離の理由を説明する必要がある
相続後短期間で売却している相続開始時の時価を示す資料と見られる可能性がある
相続税試算を前提に取引している節税目的の企画性が問題になり得る
収益性が弱い税務以外の経済合理性が説明しにくい
相続人が主導している被相続人本人の意思や投資目的の整理が必要
金融機関や業者の提案資料に相続税圧縮効果が強調されている税務調査で重要資料になり得る

ただし、これらに当てはまるからといって、ただちに通達評価が否認されるわけではありません。

大切なのは、複数の事情を組み合わせたうえで、通達評価による画一的な評価が、実質的な租税負担の公平に反するといえるかどうか、という視点です。

相談前に整理しておきたい資料

評価通達によらない評価が問題になりそうな場合、専門家へ相談する前に次の資料を整理しておくと、論点の把握がぐっと進みやすくなります。

資料確認する内容
固定資産税課税明細書評価対象財産、固定資産税評価額、地目、地積
登記事項証明書所有者、取得時期、担保権、権利関係
公図・地積測量図評価単位、接道、形状、面積
売買契約書取得価額、売却価額、取引条件
重要事項説明書法規制、道路、インフラ、権利制限
借入契約書借入額、返済条件、担保、保証
賃貸借契約書賃貸状況、賃料、契約期間、空室
不動産鑑定評価書価格時点、評価対象、評価手法
収支計画・提案資料投資目的、収益性、節税効果の説明内容
相続税試算資料取引前後の課税価格・税額の変化
相続後の売却資料売却価格、売却理由、売却時期
家族間の協議メモ誰が何を判断したか、相続人の意向

資料が十分にそろっていない場合でも、早い段階で論点を整理しておくことは可能です。ただ、評価通達の例外が問題になる事案では、最終的にはやはり資料に基づく説明が必要になります。

専門家に相談すべき場面

次のような場合には、相続税申告の前、あるいは生前対策を実行する前に、評価通達によらない評価の可能性やリスクを確認しておくことをおすすめします。

相談すべき場面理由
相続開始前に大型不動産を取得している総則6項の検討が必要になる可能性がある
多額の借入れを伴う不動産対策を行っている債務控除と評価減の組合せが問題になりやすい
取得価額・売却価額と相続税評価額が大きく違う乖離の理由を説明する必要がある
相続後すぐに不動産売却を予定している売却価格が時価資料として問題になる可能性がある
鑑定評価額で申告したい通達評価によらない特別事情の整理が必要
非上場株式についてM&A交渉がある通達評価と企業価値の乖離が問題になり得る
親族間・同族会社間で売買を予定している相続税評価額を取引時価として使えるか慎重な検討が必要
評価額をめぐって相続人間で意見が分かれている遺産分割上の評価と相続税評価を区別する必要がある

総則6項の問題は、申告書に並ぶ数字だけで判断できるものではありません。

財産の性質、取引の経緯、家族関係、納税資金、相続後の管理・売却、そして税務調査での説明可能性まで含めて判断していく必要があります。

相談をご検討の方へ

評価通達によらない評価が問題となる場合、それは「通達評価でよいか」「鑑定評価を使えるか」という単純な二択では整理できません。

通達評価が原則であることを前提に、どの個別事情が通達評価に反映されていないのか、外部価額との乖離はなぜ生じているのか、取引の経緯に相続税負担の軽減を目的とした企画性があるのか、そして税務調査でどこまで説明できるのか——こうした点を一つひとつ順番に確認していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や生前対策における財産評価について、通達評価の適用関係、総則6項のリスク、鑑定評価の必要性、非上場株式や不動産の時価判断、そして申告後の説明可能性まで含めて整理いたします。

相続直前の不動産取得、借入れを伴う相続対策、通達評価額と売買価格の大きな乖離、鑑定評価の活用、非上場株式のM&A予定など、ご不安のある方は、お問い合わせページよりご相談ください。

この記事の振り返り

重要事項押さえるべきポイント
評価の原則相続税法上は、取得時の時価が評価原則
通達評価の位置づけ財産評価基本通達は、時価を実務上算定するための標準的な評価基準
総則6項通達評価が著しく不適当な場合に、例外的に個別評価を行うための規定
最高裁令和4年判決乖離だけでは足りず、実質的な租税負担の公平に反する事情が重要
相続直前対策高齢期の不動産取得、借入れ、短期売却、節税目的の企画性に注意
納税者側の個別評価通達評価では個別事情を反映できない理由と、代替評価の合理性が必要
鑑定評価鑑定額が低いだけでは足りず、通達評価によらない特別事情が必要
非上場株式M&A価格や基本合意がある場合、通達評価との乖離を確認する
親族間取引相続税評価額をそのまま取引時価として使えるとは限らない
実務対応評価額、取引経緯、資料、意思決定過程を記録し、税務調査で説明できる状態にする
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