相続税申告や生前贈与のご相談をお受けしていると、評価の判断が難しくなりやすい財産がいくつかあります。その代表が、不動産と非上場株式です。
預貯金であれば、相続開始日の残高を確認すれば、評価の出発点は比較的はっきりしています。上場株式にも、取引所価格という外部の市場価格があります。
ところが、不動産と非上場株式は事情が異なります。同じ「時価」という言葉を使っていても、誰が、いつ、どの目的で、どの前提で評価するのかによって、検討すべき内容が大きく変わってくるのです。
不動産は、一つとして同じものがありません。形状、接道、地積、利用状況、賃貸借、共有、建築制限、周辺環境、将来の売却可能性──こうした要素が、それぞれ価格に影響します。
非上場株式に至っては、そもそも自由に売買される市場がありません。会社の財務内容はもちろん、株主構成、議決権、同族株主か少数株主か、後継者が誰か、会社が保有する不動産や貸付金、さらには過去の同族間取引まで確認しなければ、評価の判断には踏み込めません。
この記事では、個別の評価計算式に深入りするのではなく、「なぜ時価判断が難しくなるのか」「どのような場面で税務リスクが高まるのか」「専門家に相談する前に何を整理しておくとよいのか」を、相続税申告・贈与・同族間取引・税務調査の視点から整理してみます。
まず押さえておきたい前提──「時価」と「評価通達」は同じではない
相続税では、相続などによって取得した財産の価額は、原則として、その財産を取得した時の時価によります。最高裁令和4年4月19日判決も、相続税法22条にいう「時価」とは、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されると示しています。
出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日第三小法廷判決
とはいえ、申告の現場で、すべての財産について個別に売買価格や鑑定評価額を求めるのは現実的ではありません。そこで実務では、財産評価基本通達に基づいて評価するのが通常です。
ここで気をつけたいのは、財産評価基本通達による評価額は、相続税・贈与税の申告実務における重要な基準ではあるものの、あらゆる税目・あらゆる取引場面における「時価」と常に一致するわけではない、という点です。
たとえば、相続税申告での評価、不動産の売買、法人への低額譲渡、自己株式の取得、遺産分割における合意価額。同じ財産を見ていても、評価の目的はそれぞれ違います。
| 場面 | 問題になる価額 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続税申告 | 相続開始時の相続税評価額 | 原則として財産評価基本通達に基づく |
| 贈与税申告 | 贈与時の相続税評価額等 | 低額譲渡・負担付贈与では別途注意が必要 |
| 親族間売買 | 通常の取引価額・時価 | 著しく低い対価かどうかが問題になる |
| 個人から法人への譲渡 | 所得税法上の時価 | みなし譲渡課税の検討が必要になる場合がある |
| 法人間取引 | 法人税法上の時価 | 寄附金・受贈益・役員給与等の論点が生じ得る |
| 遺産分割 | 相続人間の合意価額 | 税務評価額と一致しないことがある |
| 納税資金・売却判断 | 売却可能額 | 相続税評価額より高い・低いことがある |
ですから、「相続税評価額があるのだから、それが常に売買時価だ」「固定資産税評価額があるのだから、それで公平に分けられる」と考えてしまうと、実務判断を誤ることがあります。
不動産の時価判断が難しい理由
不動産の評価が難しい最大の理由は、価格を決める要素が多く、しかも一つひとつの土地・建物に強い個別性があることです。
同じ町内の土地であっても、前面道路の幅員、接道状況、間口、奥行、形状、高低差、用途地域、建築制限、賃貸借の有無、地積、共有関係、隣地との関係。こうした条件の違いによって、評価は変わってきます。
不動産には「同じもの」が存在しない
金融商品であれば、同じ銘柄の上場株式は、同じ市場価格で取引されます。ところが不動産には、同じ所在地、同じ形状、同じ権利関係、同じ利用状況のものが二つと存在しません。
| 価格に影響する要素 | 具体例 |
|---|---|
| 物理的条件 | 地積、形状、間口、奥行、高低差、がけ、地盤、土壌汚染 |
| 法的条件 | 都市計画、用途地域、建ぺい率、容積率、接道義務、セットバック |
| 権利関係 | 所有権、借地権、貸宅地、使用貸借、共有、抵当権 |
| 利用状況 | 自宅、賃貸アパート、駐車場、空き家、農地、資材置場 |
| 収益性 | 賃料水準、空室、サブリース、修繕負担、将来賃貸需要 |
| 流動性 | 売却しやすさ、買主層、再建築可否、分割可能性 |
| 相続上の事情 | 誰が取得するか、代償金、二次相続、納税資金 |
ですから、路線価や倍率を確認するだけでは足りません。相続開始時点の現況、利用単位、権利関係、法令制限、将来の処分可能性まで確認して、ようやく評価判断の入口に立つ、というのが実際のところです。
国税庁の財産評価基準書では、路線価図・評価倍率表が年分ごとに公表されています。実際の申告では、相続開始日または贈与日の属する年分の基準書を確認する必要があります。
公的評価が複数あり、それぞれ目的が違う
不動産には、相続税評価額、固定資産税評価額、地価公示価格、都道府県地価調査価格、不動産鑑定評価額、売却査定額など、複数の価額があります。
これらはいずれも「不動産の価額」ではあるのですが、目的が異なります。
| 価額の種類 | 主な目的 |
|---|---|
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税の財産評価 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税・都市計画税等の課税 |
| 地価公示価格 | 一般の土地取引の指標等 |
| 不動産鑑定評価額 | 鑑定評価基準に基づく個別評価 |
| 売却査定額 | 売却活動における見込み価格 |
| 遺産分割上の合意価額 | 相続人間の公平・納得のための価額 |
相続税評価額が低いからといって、その価格で売却できるとは限りません。逆に、売却査定額が高いからといって、相続税評価をそのまま引き上げる必要があるわけでもありません。
実務では、「どの価額を、どの目的で使っているのか」を、きちんと分けて整理しておく必要があります。
賃貸不動産は、評価減と実態確認がセットになる
賃貸アパート、賃貸マンション、貸家建付地、貸宅地などは、所有者が自由に使える自用地とは違い、借主の権利や賃貸の実態を考慮して評価します。
ただし、ここでも「貸しているから評価が下がる」と単純に考えることはできません。
| 確認すべき事項 | 税務上の意味 |
|---|---|
| 賃貸借契約書があるか | 賃貸関係の形式確認 |
| 実際に賃料が支払われているか | 契約実態の確認 |
| 空室は一時的か、恒常的か | 賃貸割合・貸家建付地評価への影響 |
| 親族・同族会社への貸付か | 使用貸借・低額賃貸・同族取引の検討 |
| サブリース契約の内容 | 実質的な収益性・契約解除リスク |
| 建物と敷地の所有者が一致しているか | 貸家建付地評価の前提確認 |
とりわけ、親族や同族会社に貸している不動産では、契約書の有無だけでなく、賃料水準、入金実績、契約の継続性、使用実態までを確認する必要があります。形だけ整えても、実態が伴っていなければ、税務調査の場で評価減の根拠を問われることになります。
不動産は遺産分割・納税資金にも直結する
不動産評価が難しいのは、税額計算だけで完結しないからでもあります。
不動産は分けにくく、換金にも時間がかかります。相続人の一人が自宅や賃貸物件を取得するとなれば、他の相続人への代償金、納税資金、将来の管理負担、共有化のリスクまで、あわせて検討しなければなりません。
たとえば、相続税評価額では8,000万円の不動産でも、売却見込み額は1億2,000万円ということがあります。相続人の間で、どちらの価額を前提に代償金を決めるかによって、納得感は大きく変わってきます。
税務上の評価額と、家族の間で公平と感じられる価額は、必ずしも一致しません。このずれを説明しないまま分割を進めると、後になって「安く取得した」「高く評価された」という不満につながりがちです。
非上場株式の時価判断が難しい理由
非上場株式は、取引所で売買されていない株式です。国税庁のタックスアンサーでも、取引相場のない株式は、その株式を取得した株主が同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または特例的評価方式である配当還元方式により評価すると説明されています。
非上場株式の難しさは、計算が複雑だということに尽きません。株式の価値が、会社そのものの価値だけでなく、その株式を持つ人の立場によっても変わる──ここに本質があります。
同じ株式でも、支配株主と少数株主では意味が違う
非上場株式では、誰がその株式を取得するのかが重要になります。
| 株主の立場 | 株式の実質的な意味 |
|---|---|
| 後継者・支配株主 | 経営権、議決権、配当政策、役員人事、会社支配 |
| 同族株主グループ | 支配権維持、株式分散防止、事業承継 |
| 少数株主 | 配当を受ける権利、限定的な議決権、換金困難な財産 |
| 従業員持株会 | 福利厚生・安定株主対策としての性格 |
| 会社自身 | 自己株式取得、資本政策、相続人への資金提供 |
同じ1株でも、会社を支配する後継者にとっての価値と、経営に関与できない少数株主にとっての価値は、同じではありません。
そのため相続税評価では、同族株主等に当たるかどうか、中心的な同族株主に該当するか、議決権割合はどうか、未分割株式をどう扱うか、種類株式や自己株式があるか、といった点を確認していくことになります。
会社規模・業種・財務内容によって評価方式が変わる
非上場株式の原則的評価方式では、評価会社を、総資産価額、従業員数、取引金額により、大会社・中会社・小会社に区分し、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用によって評価します。国税庁は、令和7年分の類似業種比準価額の計算に必要となる業種目別の配当金額、利益金額、簿価純資産価額、株価等についても、法令解釈通達として公表しています。
出典:国税庁|令和7年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について
つまり非上場株式の評価には、少なくとも次のような資料の確認が欠かせません。
| 確認資料 | 確認する理由 |
|---|---|
| 株主名簿 | 同族株主判定・議決権割合の確認 |
| 定款 | 株式譲渡制限、種類株式、議決権制限の確認 |
| 決算書・申告書 | 会社規模、利益、配当、純資産、税務調整の確認 |
| 勘定科目内訳書 | 役員貸付金、借入金、不動産、関係会社株式の確認 |
| 固定資産台帳 | 会社所有資産の内容確認 |
| 不動産資料 | 会社所有土地・建物の相続税評価 |
| 議事録 | 配当、増資、自己株式取得、役員報酬等の確認 |
| 過去の株式移動資料 | 売買実例、贈与、持株会取引の妥当性確認 |
非上場株式の評価は、単なる株価計算ではなく、会社の会計・税務・資本関係・株主関係を確認していく作業なのです。
会社が不動産を持っていると、難しさが重なる
同族会社が土地や賃貸不動産を多く保有している場合、非上場株式の評価のなかに、不動産評価が入り込んできます。
たとえば、被相続人が同族会社株式を保有していて、その会社が賃貸マンション、貸地、駐車場、遊休地を所有しているとします。株式評価では会社の純資産価額を確認する必要があり、そのとき、会社所有不動産をどう評価するかが株価に影響します。
論点は、次のように連鎖していきます。
| 会社側の財産・取引 | 株式評価への影響 |
|---|---|
| 会社所有の土地 | 純資産価額に反映 |
| 賃貸不動産 | 貸家建付地・賃貸割合・収益性の確認 |
| 役員貸付金 | 個人側では債権、会社側では負債として整理 |
| 役員借入金 | 会社側では負債、相続財産側では貸付金として問題 |
| 関係会社株式 | 連鎖的に株式評価が必要になる場合がある |
| 土地保有割合が高い会社 | 土地保有特定会社の判定が問題になる |
| 株式保有割合が高い会社 | 株式等保有特定会社の判定が問題になる |
不動産と非上場株式は、一見すると別々の財産に見えても、同族会社を通じて一体化していることが少なくありません。
こうした場合には、土地評価に強いだけでも、会計に強いだけでも十分とはいえません。不動産評価、法人税、相続税、会社法、株主関係を横断して確認していく必要があります。
同族取引では、時価判断のリスクがさらに高まる
不動産や非上場株式の時価判断が特に難しくなるのは、親族間、同族会社間、会社と役員間で取引が行われる場面です。
第三者間の取引であれば、通常は売主と買主の利害が対立し、価格交渉を通じて一定の客観性が生まれます。ところが、親族や同族会社の間では、価格を自由に決められるように見えるため、税務上は恣意性を疑われやすくなるのです。
低額譲渡・みなし贈与の問題
個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされることがあります。国税庁は、著しく低い価額に当たるかどうかは、個々の具体的な事案に基づいて判定すると説明しています。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
とりわけ不動産については、国税庁は、時価とは通常の取引価額に相当する金額であると説明しています。相続税評価額で売買すれば必ず安全、とはいえないのです。
| 取引例 | 想定される税務論点 |
|---|---|
| 親から子へ不動産を安く売る | みなし贈与、譲渡所得、登録免許税、不動産取得税 |
| 親族間で非上場株式を低額売買する | みなし贈与、株式価値移転、同族株主判定 |
| 個人が同族会社へ不動産を低額譲渡する | みなし譲渡、法人側の受贈益、株主への利益移転 |
| 同族会社が役員へ資産を低額譲渡する | 役員給与、法人税、所得税 |
| 会社が自己株式を低額取得する | みなし配当、譲渡所得、資本政策上の論点 |
| 会社への貸付金を放棄する | 債務免除益、みなし贈与、株価上昇 |
このような取引で、「家族内だから自由に決めてよい」「会社と社長の間だから問題ない」という発想は、危険です。
むしろ、親族・同族会社間の取引だからこそ、価格決定の過程、評価資料、取引の目的、資金決済、契約書、取締役会・株主総会等の手続を、丁寧に残しておく必要があります。
評価通達どおりなら常に安全、とはいえない
相続税申告では、財産評価基本通達に基づいて評価するのが通常です。しかし、最高裁令和4年4月19日判決は、評価通達による価額を上回る鑑定評価額を基礎とした課税処分について、一定の事情のもとで適法と判断しました。
同判決では、評価通達は相続財産の価額評価の一般的な方法を定めたものではあるものの、通達にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有するものではない、とされています。そのうえで、評価通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、評価通達の評価額を上回る価額によることにも合理的な理由がある、と示されました。
出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件 令和4年4月19日第三小法廷判決
もっとも、この判決から「通達評価より時価が高ければ、いつでも総則6項が適用される」と読み取るのは、行き過ぎです。
同判決は、通達評価額と鑑定評価額に大きな乖離があるというだけで、直ちに問題があるとはしていません。重視されたのは、近い将来の相続を見据えた不動産の購入・借入れによって相続税負担が著しく軽減され、他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じる、という事情でした。
ここから得られる実務上の教訓は、次のように整理できます。
| 誤った理解 | 実務上の正しい理解 |
|---|---|
| 通達評価なら必ず安全 | 通常は重要な基準だが、著しく不適当な事情があれば問題になる |
| 時価との乖離だけで否認される | 乖離だけでなく、取得経緯、目的、借入、売却、租税負担の公平などを総合的に見る |
| 不動産を買えば必ず相続税対策になる | 収益性、借入返済、相続人負担、説明可能性を確認する必要がある |
| 鑑定評価を取れば必ず有利になる | 鑑定の前提、採用理由、通達評価との関係を説明できる必要がある |
| 評価額を下げることが専門性 | 根拠を積み上げ、後から説明できる判断を行うことが専門性 |
不動産や非上場株式では、評価額の低さよりも、評価根拠の合理性のほうが重要になります。
不動産と非上場株式の難しさを比較する
不動産と非上場株式は、どちらも市場価格が明確でない財産ですが、難しさの質は少し違います。
| 比較項目 | 不動産 | 非上場株式 |
|---|---|---|
| 市場価格 | 個別売買はあるが、同一物件の市場はない | 原則として公開市場がない |
| 価値の主な構成要素 | 土地・建物の個別性、法規制、利用状況、権利関係 | 会社財務、収益力、純資産、株主構成、支配関係 |
| 評価で見る資料 | 登記、公図、測量図、固定資産税資料、契約書、現地写真 | 決算書、申告書、株主名簿、定款、議事録、内訳書 |
| 判断が分かれやすい点 | 評価単位、地目、貸家建付地、借地権、特殊事情 | 同族株主判定、会社規模、特定評価会社、配当還元方式 |
| 税務調査で問われやすい点 | 評価減の根拠、賃貸実態、現況、役所確認 | 株主判定、会社資料、役員貸付金、同族間株式移動 |
| 家族間で問題になる点 | 分けにくい、売りにくい、共有化しやすい | 後継者への集中、遺留分、納税資金、支配権 |
| 経営判断との関係 | 賃貸経営、売却、活用、修繕 | 事業承継、資本政策、自己株式、後継者支配 |
不動産は「その財産自体の個別性」が、難しさの中心にあります。非上場株式は「会社と株主の関係性」が、難しさの中心にあります。
そして、同族会社が不動産を保有している場合には、この両方の難しさが重なってくるのです。
時価判断で避けたい短絡的な判断
不動産と非上場株式の時価判断では、次のような考え方は避けるべきです。
「固定資産税評価額で分ければ公平」と考える
固定資産税評価額は、固定資産税等の課税を目的とした評価です。遺産分割や相続税評価の参考にはなりますが、そのまま公平な分割価額になるとは限りません。
「相続税評価額で売買すれば贈与税はかからない」と考える
相続税評価額は、相続税・贈与税の評価実務では重要な基準です。しかし、不動産売買や同族間取引では、通常の取引価額との差が問題になることがあります。
「配当還元方式で安く移せる」と考える
非上場株式では、誰が取得するかによって評価方式が変わります。経営支配力を持つ同族株主が取得する株式について、少数株主向けの評価感覚で判断してしまうと、リスクが高くなります。
「鑑定評価を取れば必ず有利」と考える
鑑定評価は有力な資料になり得ますが、相続税申告で常に採用されるわけではありません。鑑定評価を用いる場合も、なぜ通達評価ではなく鑑定評価によるのか、鑑定の前提は妥当か、他の資料と整合するか、を検討する必要があります。
「同族会社内の取引だから問題ない」と考える
同族会社と役員、株主、親族との間の取引は、法人税、所得税、贈与税、相続税が同時に関係することがあります。会社側では受贈益や寄附金、個人側ではみなし贈与や譲渡所得、他の株主には株式価値の移転といった問題が生じることもあります。
後から説明できる時価判断のための確認順序
不動産と非上場株式の評価では、いきなり「いくらになるか」を計算しに行くのではなく、次の順序で確認していくことが大切です。
| 順序 | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 評価の目的を確認する。相続税申告、贈与、売買、遺産分割、事業承継のどれか |
| 2 | 評価時点を確認する。相続開始日、贈与日、売買日、分割協議時点など |
| 3 | 評価対象を確定する。不動産の範囲、株式数、権利関係、共有持分など |
| 4 | 法務上の権利関係を確認する。登記、契約、株主名簿、議決権など |
| 5 | 税務上の評価方法を確認する。評価通達、特例、例外評価の余地 |
| 6 | 外部価額との関係を確認する。売買事例、鑑定、査定、公的評価など |
| 7 | 同族・親族間取引の有無を確認する。価格決定の恣意性、利益移転の有無 |
| 8 | 税目横断の影響を確認する。相続税、贈与税、所得税、法人税、地方税 |
| 9 | 家族・経営への影響を確認する。遺産分割、納税資金、二次相続、支配権 |
| 10 | 判断根拠を記録する。評価明細、判断メモ、資料、説明記録 |
この順序を踏むことで、評価額という結論だけでなく、「なぜその評価にしたのか」まで説明できるようになります。
相談前に整理しておきたい資料
不動産や非上場株式がある場合、専門家に相談する前に資料を整理しておくと、初期判断の精度が大きく上がります。
不動産について整理したい資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 固定資産税課税明細書・名寄帳 | 評価対象不動産の漏れを防ぐ |
| 登記事項証明書 | 所有者、地目、地積、権利関係を確認する |
| 公図・地積測量図 | 形状、接道、隣地関係、評価単位を確認する |
| 賃貸借契約書 | 貸家建付地、貸宅地、借地権の確認 |
| レントロール・入金資料 | 賃貸実態、空室状況を確認する |
| 都市計画・道路資料 | 建築制限、接道、セットバックを確認する |
| 現地写真 | 相続開始時点の現況を記録する |
| 売却査定・鑑定資料 | 相続税評価額との違いを整理する |
非上場株式について整理したい資料
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 株主名簿 | 同族株主判定、議決権割合を確認する |
| 定款 | 株式譲渡制限、種類株式、議決権制限を確認する |
| 直近数期の決算書・申告書 | 会社規模、利益、純資産を確認する |
| 勘定科目内訳書 | 役員貸付金、関係会社、保有不動産を確認する |
| 固定資産台帳 | 会社所有資産の内容を確認する |
| 不動産資料 | 会社所有不動産の評価に使う |
| 配当・増資・自己株式取得の議事録 | 資本政策・株価形成の経緯を確認する |
| 過去の株式売買・贈与資料 | 売買実例や価額決定の妥当性を確認する |
資料がそろわないうちに評価額だけを求めようとすると、重要な論点を見落としやすくなります。
専門家への相談が必要になりやすい場面
次のような場合は、自己判断や簡易な評価だけで進めるのは避けたほうがよいでしょう。
| 場面 | 専門家確認が必要な理由 |
|---|---|
| 賃貸不動産が複数ある | 評価単位、賃貸割合、空室、契約実態が絡む |
| 親族・同族会社に土地を貸している | 使用貸借、相当の地代、無償返還届出等の確認が必要 |
| 不動産を相続前に購入・借入している | 総則6項や納税資金、収益性の検討が必要 |
| 土地を分割・分筆して承継する | 不合理分割、建築制限、二次相続に影響する |
| 非上場株式がある | 株主判定、会社規模、特定評価会社の確認が必要 |
| 同族会社が不動産を保有している | 不動産評価と株式評価が連動する |
| 後継者に株式を集中させたい | 遺留分、代償金、納税資金、議決権を整理する必要がある |
| 親族間で売買・贈与を予定している | 低額譲渡、みなし贈与、法人税・所得税の確認が必要 |
| 相続人間で評価額に不満が出ている | 税務評価と分割評価を分けて説明する必要がある |
不動産と非上場株式は、評価額を下げることだけを目的にしてしまうと、後から税務調査や家族間のトラブルにつながることがあります。
本当に大切なのは、「その評価額で申告できるか」だけではありません。「その評価額を相続人に説明できるか」「税務署に根拠を示せるか」「将来の売却・二次相続・事業承継にも耐えられるか」──ここまで見据えておけるかどうかです。
相談をご検討の方へ
不動産や非上場株式の時価判断は、相続税申告のなかでも、特に専門的な検討を要する領域です。
土地の評価単位、賃貸実態、同族会社への貸付、会社所有不動産、非上場株式の同族株主判定、役員貸付金、過去の株式移動、親族間売買──こうした要素が絡んでくると、評価額の計算だけでなく、法務・会計・税務・家族関係・納税資金を一体で整理する必要が出てきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産と非上場株式を含む相続税申告・生前贈与・事業承継について、資料確認、評価方針の整理、税務リスクの説明、そして申告後の説明可能性を重視した支援を行っています。
「不動産の相続税評価額と売却見込み額が大きく違う」「同族会社株式をどう評価すべきか分からない」「親族間で不動産や株式を移したいが、税務リスクが不安」「後継者に会社を承継させたいが、遺留分や納税資金も気になる」。そうした場合は、お問い合わせページよりご相談ください。
この記事の振り返り
| 重要事項 | 振り返りポイント |
|---|---|
| 不動産と非上場株式が難しい理由 | 市場価格が明確でなく、個別事情や支配関係によって価値判断が変わる |
| 時価の基本 | 相続税法上の時価は、取得時における客観的な交換価値を基礎に考える |
| 評価通達の位置づけ | 相続税・贈与税評価の重要基準だが、常にすべての取引時価と一致するわけではない |
| 不動産評価の難所 | 地目、評価単位、接道、賃貸借、共有、建築制限、売却可能性 |
| 非上場株式評価の難所 | 同族株主判定、会社規模、純資産、類似業種、配当還元、支配権 |
| 同族会社保有不動産 | 不動産評価と株式評価が連動し、論点が重なる |
| 同族取引のリスク | 親族間・会社役員間では、低額譲渡、みなし贈与、受贈益、寄附金等が問題になる |
| 総則6項・裁判例の示唆 | 通達評価との乖離だけでなく、取得経緯や租税負担の公平が重視される |
| 遺産分割との関係 | 税務評価額と家族間で公平と感じる価額は一致しないことがある |
| 納税資金との関係 | 評価額が低くても、現金で納付できるとは限らない |
| 相談前資料 | 不動産資料、会社資料、株主資料、契約書、過去取引資料を整理する |
| 実務上の判断軸 | 「安く評価できるか」ではなく、「後から説明できるか」を重視する |