土壌汚染・埋蔵文化財・高圧線下地など特殊土地の相続税評価|除去費用・利用制限・説明根拠の整理

相続財産のなかに土地がある場合、その評価は「路線価×面積」だけで完結するとは限りません。たとえば、次のような土地です。

特殊事情評価で問題になりやすい点
土壌汚染がある土地浄化・改善費用、使用収益制限、心理的要因による減価
埋蔵文化財包蔵地発掘調査費用、工事制限、開発時の行政協議
地中埋設物がある土地旧建物基礎、地下タンク、廃材、井戸等の撤去費用
高圧線下地建築制限、地役権、区分地上権に準ずる地役権
騒音・振動・臭気・墓地近接利用価値の著しい低下、取引価格への影響
土砂災害特別警戒区域・がけ地建築制限、通常利用できない部分、災害リスク
高圧ガス導管・地下鉄等の地下利用権地下・空間利用制限、権利の評価と控除

こうした土地は、評価額が下がる可能性を持っています。ただし、「何となく使いにくい」「売りにくそう」という感覚だけで評価減を行うことはできません。

特殊土地の評価で大切なのは、評価額を下げること自体ではなく、次の3点をそろえることです。

まず、課税時期にその特殊事情が実際に存在していたこと。次に、その事情が土地の通常利用や取引価額に具体的な影響を与えること。そして、見積書、行政資料、契約書、図面、現地写真などにより、申告後にきちんと説明できる根拠があることです。

この記事では、土壌汚染、埋蔵文化財、地中埋設物、高圧線下地、騒音・忌み、土砂災害区域など、相続税評価で判断が難しくなりやすい特殊土地について、評価に反映するための考え方と、実務上の確認順序を整理していきます。

目次

まず結論|特殊事情は「実在・負担・影響・根拠」で判断する

特殊土地の評価では、次の順序で整理していくと、判断がぶれにくくなります。

判断順序確認すること
1. 評価単位を確定する1筆単位ではなく、利用単位・地目・権利関係により評価単位を判定する
2. 通常の評価額を出す特殊事情がないものとして、路線価方式・倍率方式・宅地比準等で評価する
3. 特殊事情の存在を確認する課税時期に土壌汚染、文化財、地役権、土砂災害区域等が存在していたか
4. 誰が負担するかを確認する除去費用・発掘費用・対策費を相続人側が負担する蓋然性があるか
5. 評価への反映方法を選ぶ通達上の補正、個別減価、費用控除、権利控除、鑑定評価等を検討する
6. 二重控除を避ける路線価、固定資産税評価額、倍率に既に反映されていないか確認する
7. 申告後の説明資料を残す評価明細、判断メモ、役所調査、見積書、写真、専門家資料を保存する

財産評価基本通達では、財産の価額は課税時期の現況に応じた時価によるものとされ、評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するとされています。つまり、特殊事情は評価に反映し得るものの、その反映には事実と根拠が欠かせない、ということです。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

特殊土地評価の出発点は「評価単位」と「通常評価額」

特殊事情を検討する前に、まずはその土地をどの単位で評価するかを確定します。

相続税評価では、宅地は「1画地の宅地」、すなわち利用の単位となっている1区画ごとに評価します。雑種地であれば、同一の目的に供されている一団の雑種地を評価単位とします。また、地目は登記簿上の地目ではなく、課税時期の現況によって判定します。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第2章 第1節 通則

たとえば、同じ敷地内に自宅、月極駐車場、未利用地、汚染が疑われる旧工場跡が混在しているとします。この場合、全体を当然に一体評価するのではなく、現況地目、利用目的、権利関係、建築可能性、分割後の合理性を一つひとつ確認していきます。

特殊事情による減価は、通常、次のような構造で検討します。

特殊事情がないものとした価額 - 特殊事情による合理的な減価 = 特殊事情を反映した評価額

ここでいう「特殊事情がないものとした価額」は、まず路線価方式、倍率方式、宅地比準方式など、通常の評価方法によって算定します。最初から「売れにくそうだから半額」といった評価を置くわけではありません。

評価に反映できる事情・できない事情

特殊土地で評価減を検討する場合、次の線引きが重要になります。

評価に反映しやすい事情評価に反映しにくい事情
課税時期に行政指定・台帳・契約・調査結果がある相続後に初めて疑いが出ただけ
除去費用や発掘費用を土地所有者が負担する蓋然性が高い行政や第三者が負担する可能性が高い
建築制限、使用制限、形質変更制限が具体的にある近隣で似た事例があるというだけ
専門業者の見積書、指定調査機関の資料がある口頭説明や概算メモしかない
路線価等に反映されていない個別事情である既に路線価・固定資産税評価額・倍率に織り込まれている
その土地の標準的な利用に支障がある現況利用にも標準的利用にも支障がない

評価減ができるかどうかは、「その土地に問題があるか」ではなく、「相続税評価上、その問題をどのような根拠と方法で反映できるか」という問いに置き換えて考える必要があります。

土壌汚染地の評価|可能性だけではなく、汚染状態の確認が必要

土壌汚染地は、特殊土地評価のなかでも、とりわけ資料と専門判断が問われる分野です。

国税庁は令和6年6月21日付で「土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)」を公表し、土壌汚染地および埋蔵文化財包蔵地の評価の考え方を整理しています。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)

土壌汚染地として評価する土地とは、課税時期において、特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認められる土地です。単に「昔、工場だった」「ガソリンスタンド跡地だから汚染がありそう」という潜在的な段階だけでは、土壌汚染地として評価することはできません。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)別添

土壌汚染地の基本算式

国税庁が整理している考え方では、土壌汚染地の価額は、原則として次のように整理します。

項目内容
汚染がないものとした場合の価額汚染がないものとして、路線価等に基づき評価した価額
浄化・改善費用に相当する金額土壌汚染の除去措置または封じ込め等の措置に係る費用の見積額の80%相当額
使用収益制限による減価封じ込め等により利用制限が残る場合に個別検討
心理的要因による減価土壌汚染に起因する心理的嫌悪感による減価。ただし数値化は困難で、基本的には考慮しない整理
評価額の下限控除額の合計が汚染がないものとした場合の価額を上回る場合、その価額を限度とする

土壌汚染地の価額 = 汚染がないものとした場合の価額 - 浄化・改善費用に相当する金額 - 使用収益制限による減価に相当する金額 - 心理的要因による減価に相当する金額

浄化・改善費用の見積額は、課税時期において最も合理的と認められる措置に基づいて算定する必要があります。指定調査機関による複数の見積りを求めるなどして、措置内容の合理性を検証しておくことが望ましいとされています。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)別添

要措置区域・形質変更時要届出区域の場合

土壌汚染対策法上、土壌の汚染状態が指定基準に適合しない土地は、要措置区域または形質変更時要届出区域として指定されることがあります。

区域実務上の意味
要措置区域健康被害のおそれがあり、汚染除去等計画や措置が問題となる区域
形質変更時要届出区域土地の形質変更時に届出が必要となる区域
台帳都道府県等により区域指定の台帳が整備され、閲覧できる場合がある

環境省も、土壌汚染対策法に基づく区域指定や指定調査機関に関する情報を公表しています。

出典:環境省|土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)
出典:環境省|土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)

相続税申告では、区域指定の有無、指定解除の有無、台帳、調査報告書、汚染物質の種類、措置方法、見積書を確認していきます。

浄化費用が確定している場合は「土地評価」ではなく債務控除の検討になることもある

課税時期において、都道府県知事から汚染除去等の命令が出され、費用額が確定している場合や、既に浄化・改善措置中で費用額が確定している場合があります。こうしたケースでは、その未払額は土地評価額から控除するのではなく、「確実と認められる債務」として債務控除を検討する整理になります。

この場合、土地自体は浄化・改善措置を終えたものとして評価するのが相当とされています。つまり、同じ費用を土地評価と債務控除の双方で二重に反映することはできません。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)別添

埋蔵文化財包蔵地の評価|「周知の包蔵地」だけで終わらせない

埋蔵文化財包蔵地もまた、相続税評価で見落とされやすい特殊土地です。

文化庁は、埋蔵文化財を「土地に埋蔵されている文化財」と説明しています。そのうえで、周知の埋蔵文化財包蔵地で土木工事などの開発事業を行う場合には、文化財保護法に基づく届出等が必要になること、また新たに遺跡を発見した場合にも届出等が必要になることを示しています。

出典:文化庁|埋蔵文化財

国税庁の整理では、埋蔵文化財包蔵地として評価する土地とは、課税時期において埋蔵文化財を包蔵する土地を指します。埋蔵文化財を包蔵する可能性があるという潜在的な段階だけでは、埋蔵文化財包蔵地として評価することはできません。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)別添

埋蔵文化財包蔵地の基本算式

埋蔵文化財包蔵地の価額は、次のように整理します。

埋蔵文化財包蔵地の価額 = 文化財がないものとした場合の価額 - 発掘調査費用に相当する金額

発掘調査費用に相当する金額は、発掘調査費用の見積額の80%相当額です。ただし、土地所有者に発掘調査費用の負担が生じない場合や、発掘調査費用が生ずる蓋然性が低い場合には、発掘調査費用に相当する金額はないものとして取り扱われます。

出典:国税庁|土壌汚染地等の評価の考え方について(情報)別添

「包蔵地だから必ず評価減」ではない

埋蔵文化財包蔵地であっても、次のような場合には、発掘調査費用の控除が認められにくくなります。

状況評価上の注意
現在の利用を継続するだけで、発掘調査が想定されない費用発生の蓋然性が低い可能性
個人の自己専用住宅で、公費負担となる可能性が高い土地所有者負担がない可能性
周辺で同種建物が発掘調査なしに建築されている同種利用では費用発生が低い可能性
試掘調査だけで足りる本発掘費用全額を見込めない可能性
文化財への影響を避ける工法が可能発掘費用が不要または限定的になる可能性
既に調査済み新たな発掘費用が発生しない可能性

一方で、事業用開発や賃貸建物建築、宅地造成など、地域の標準的な利用を実現するために発掘調査費用を土地所有者が負担する蓋然性が高い場合には、評価に反映する余地があります。

地中埋設物がある土地|一律の控除率ではなく、除去の必要性と負担を確認する

地中埋設物には、旧建物の基礎、コンクリートガラ、産業廃棄物、地下タンク、井戸、浄化槽、古い配管などがあります。

こうした地中埋設物がある土地では、次のような影響が出てきます。

影響内容
工事費の増加建替え・造成時に撤去費用がかかる
建築計画の制約杭、基礎、地盤改良に支障が出る
売却価格への影響買主が撤去費用や不確実性を価格交渉に反映する
土壌汚染との接点地下タンクや廃棄物から汚染問題に発展することがある
遺産分割の不公平取得者だけが将来の撤去負担を負う可能性がある

ただし、地中埋設物は、土壌汚染地や埋蔵文化財包蔵地のように、国税庁が一律の標準算式を明示している分野ではありません。そのぶん、評価に反映するには、より丁寧な資料化が求められます。

確認すべき資料は、次のとおりです。

資料確認する内容
既存建物の図面・解体資料地下構造物、基礎、杭、地下室の有無
地歴資料工場、ガソリンスタンド、倉庫、駐車場等の利用履歴
試掘・地中探査資料埋設物の位置、深さ、範囲
撤去見積書撤去方法、処分費、搬出費、仮設費
土壌調査報告書汚染の有無、汚染物質、区域指定の有無
売買交渉資料買主が撤去費用を考慮しているか
現地写真地上から確認できる構造物、井戸、配管等

「地中に何かありそう」という段階で控除するのではなく、課税時期に撤去等の必要性が合理的に見込まれ、かつその負担が土地所有者側にあることを示す必要があります。金額が大きい場合には、不動産鑑定士や専門調査会社の資料を組み合わせ、評価根拠を残しておくべきです。

高圧線下地の評価|建築制限と地役権の内容を確認する

高圧線下地では、土地の上空に送電線が通っていることにより、建物の高さ、構造、用途などに制限が生じることがあります。

相続税評価では、単に「高圧線が見える」というだけでは足りません。確認すべきなのは、土地のどの部分に、どのような権利または制限があり、建築・利用にどれほど影響しているか、という点です。

財産評価基本通達上の「区分地上権に準ずる地役権」とは、特別高圧架空電線の架設、高圧ガス導管の敷設、飛行場の設置、建築物の建築その他の目的のため、地下または空間について上下の範囲を定めて設定された地役権で、建造物の設置を制限するものをいいます。登記の有無は問わないとされています。

出典:国税庁|区分地上権に準ずる地役権の意義

高圧線下地の評価の基本

国税庁の質疑応答事例では、特別高圧架空電線の架設を目的とする地役権が設定されている宅地について、承役地部分を含め全体を1画地として評価した価額から、承役地部分に係る区分地上権に準ずる地役権の価額を控除して評価する考え方が示されています。

建築制限の内容区分地上権に準ずる地役権の割合
家屋の建築が全くできない場合50%と承役地に適用される借地権割合のいずれか高い割合
家屋の構造・用途等に制限を受ける場合30%

出典:国税庁|区分地上権に準ずる地役権の目的となっている宅地の評価

実務では、次の資料を確認していきます。

資料確認する内容
登記事項証明書地役権、区分地上権、送電線に関する登記
電力会社等との契約書承役地の範囲、建築制限、補償金
図面・測量図高圧線下地の範囲、鉄塔敷、保安距離
建築制限資料建物高さ、構造、用途制限
都市計画・建築資料本来建築可能な建物と制限後の建物の差
現地写真鉄塔、架空線、標識、管理用地

高圧線下地は、土地全体が評価減の対象になるとは限りません。承役地部分、鉄塔敷部分、保守通路部分など、制限の及ぶ範囲を具体的に把握する必要があります。

騒音・振動・臭気・墓地近接など|10%控除を安易に使わない

国税庁のタックスアンサーでは、利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下している宅地について、一定の場合、その低下部分の面積に対応する価額に10%を乗じた金額を控除できるとしています。

対象例には、著しい高低差、甚だしい地盤の凹凸、震動、騒音、日照阻害、臭気、忌み等により取引金額に影響を受けると認められるものが含まれます。ただし、路線価、固定資産税評価額または評価倍率がその状況を考慮して付されている場合には、しんしゃくしないとされています。

出典:国税庁|No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価

この10%控除は、特殊土地で頻繁に問題になりますが、使い方には注意が必要です。

誤りやすい判断正しい確認
墓地が近いから必ず10%減取引価格に影響する程度か、周辺の状況はどうかを確認
幹線道路沿いだから必ず10%減路線価に既に反映されていないかを確認
騒音が気になるから減額騒音の程度、利用状況、周辺比較を確認
高低差があるから重複して控除がけ地補正や造成費控除等との重複を確認
低下部分が全体に及ぶと決める影響を受ける部分の面積を合理的に判定

「近くに嫌悪施設がある」「音が気になる」といった主観だけでは足りません。近隣土地との比較、現地写真、用途地域、路線価設定状況、不動産業者の査定、行政資料などを確認し、なぜその土地の利用価値が著しく低下しているといえるのかを、きちんと説明できるようにしておく必要があります。

土砂災害特別警戒区域・がけ地の評価

土砂災害リスクのある土地では、災害リスクそのものだけでなく、法令上の区域指定、建築制限、通常利用できない部分の存在が、評価に影響してきます。

土砂災害防止法は、土砂災害から国民の生命・身体を保護するため、土砂災害のおそれがある区域を明らかにし、警戒避難体制の整備や一定の開発行為の制限、建築物の構造規制等を定めています。特別警戒区域は、建築物に損壊が生じ、住民等の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある区域として指定されるものです。

出典:e-Gov法令検索|土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律

財産評価基本通達では、がけ地等で通常の用途に供することができないと認められる部分を有する宅地について、がけ地補正率を用いる評価が定められています。また、土砂災害特別警戒区域内となる部分を有する宅地については、その部分の地積割合に応じて特別警戒区域補正率表に定める補正率を乗じて評価する定めがあります。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第2章 第2節 宅地及び宅地の上に存する権利

実務上は、次の点に注意します。

論点確認すること
がけ地補正通常の用途に供することができない部分の地積割合と方位
土砂災害特別警戒区域区域内となる部分の範囲、地積割合、補正率
土砂災害警戒区域特別警戒区域と異なり、評価通達20-6の対象かを確認
宅地造成費宅地比準評価で造成費控除を検討する場合の重複
建築制限開発許可、建築確認、構造規制、擁壁等の必要性
売却可能性ハザード情報、買主の融資、保険、将来管理負担

がけ地補正、特別警戒区域補正、利用価値低下の10%控除、宅地造成費控除などは、同じ事情を重複して評価減することがないよう、整理しておく必要があります。

特殊事情がある土地の遺産分割で注意すべきこと

特殊土地は、相続税評価額だけで分けてしまうと、家族間に不満が残りやすい財産です。

たとえば、土壌汚染地の評価額が下がったとしても、その土地を取得した相続人は、将来の浄化費用、売却交渉、行政対応、近隣説明、管理責任を負うことになります。反対に、評価減を過大に見込めば、他の相続人から「安く評価して取得した」と見られることもあります。

遺産分割上の論点判断の視点
誰が取得するか利用予定、管理能力、費用負担能力
代償金をどう決めるか相続税評価額だけでなく実勢価格・撤去費用・売却リスクを考慮
共有にしてよいか費用負担、売却判断、行政手続が止まらないか
売却して分けるか申告期限、売却価格、譲渡所得税、買主調査
納税資金換金までの期間、費用先行負担、延納・物納適格性
二次相続問題土地を次世代へ先送りしないか

特殊事情のある土地は、評価額が低いから取得しやすい財産、というわけではありません。むしろ、将来の管理責任や費用負担を伴う財産です。遺産分割の場面では、税務上の評価額と実際の承継負担を分けて説明することが欠かせません。

小規模宅地等の特例との関係

特殊事情のある土地でも、要件を満たせば小規模宅地等の特例の対象となる可能性があります。

ただし、この特例は「土地の利用状況」「取得者」「継続要件」「申告手続」によって判断する制度です。土壌汚染や埋蔵文化財があるから特例が使えない、あるいは必ず使える、というものではありません。

実務上は、まず特殊事情を反映した評価額を検討し、そのうえで小規模宅地等の特例の適用可否、限度面積、選択順序を検討していきます。特例適用後の税額だけでなく、実際にその土地を取得する相続人が、将来の費用負担に耐えられるかどうかも確認しておくべきです。

税務調査で問われやすいポイント

特殊土地の評価では、税務調査で次のような点が確認されやすくなります。

確認されやすい事項準備すべき資料
課税時期に特殊事情が存在したか行政台帳、指定通知、調査報告書、契約書
評価単位は適切か公図、地積測量図、利用状況図、現地写真
通常評価額は正しいか路線価図、倍率表、評価明細、画地補正資料
費用負担の蓋然性があるか見積書、行政協議記録、工事計画、開発計画
費用見積は過大でないか複数見積、専門業者資料、指定調査機関資料
同じ事情を二重に控除していないか評価メモ、補正の対応関係
路線価等に反映済みでないか路線価設定状況、近隣比較、固定資産税資料
相続後の売却価格と乖離していないか売買契約、査定書、売却時資料
特例適用との整合性小規模宅地等の適用資料、取得者の利用状況

特殊土地評価では、申告書に添付する評価明細だけでなく、判断メモが重要な意味を持ちます。なぜ評価減を行ったのか、なぜその金額なのか、なぜ他の補正を重複適用していないのか。これらを、第三者が読んでも分かる形で残しておく必要があります。

避けたい短絡的判断

「問題がありそうだから評価を下げる」

土壌汚染も埋蔵文化財も、可能性だけでは足りません。課税時期における汚染状態、包蔵の事実、行政資料、調査結果、費用負担の蓋然性を確認します。

「見積額をそのまま全額控除する」

土壌汚染地の浄化・改善費用、埋蔵文化財包蔵地の発掘調査費用については、国税庁の整理では見積額の80%相当額を用いる考え方が示されています。費用額が確定している場合には、債務控除との関係も確認します。

「10%控除をどの特殊土地にも使う」

利用価値が著しく低下している宅地の10%控除は、すべての特殊事情に使える汎用的な割引ではありません。対象事情、影響部分、路線価等への反映の有無を確認する必要があります。

「高圧線があるから土地全体を減額する」

高圧線下地では、地役権の内容、承役地の範囲、建築制限の程度を確認します。土地全体に同じ制限が及ぶとは限りません。

「評価額が低いから特定の相続人に取得させればよい」

特殊土地は、取得後の費用負担や管理責任が重い場合があります。相続税評価額だけでなく、将来の売却可能性、管理負担、代償金の公平性まで整理しておくべきです。

「専門家に依頼すれば必ず評価減できる」

専門家の役割は、評価額を機械的に下げることではありません。資料を確認し、評価減できる事情とできない事情を切り分け、申告後に説明できる評価根拠を整えることにあります。

相談前に整理しておきたい資料

特殊土地の評価を相談する場合、次の資料をできる範囲で整理しておくと、判断が進めやすくなります。

資料主な確認内容
固定資産税課税明細書・名寄帳所在、地目、地積、固定資産税評価額
登記事項証明書所有者、地目、地積、地役権、区分地上権、抵当権
公図・地積測量図形状、筆界、道路、隣接地、評価単位
路線価図・倍率表通常評価額、地区区分、倍率
都市計画資料用途地域、建ぺい率、容積率、開発規制
土壌汚染台帳・調査報告書要措置区域、形質変更時要届出区域、汚染物質
指定調査機関・専門業者見積浄化・改善費用、撤去費用、工法
文化財包蔵地照会資料周知の埋蔵文化財包蔵地、試掘・発掘の要否
行政協議記録役所の指導、届出、費用負担、工事制限
高圧線・導管等の契約書承役地、建築制限、補償金、使用制限
現地写真高低差、がけ、鉄塔、墓地、騒音源、埋設物の痕跡
不動産査定書実勢価格、売却可能性、買主側の減価認識
遺産分割案誰が取得するか、代償金、売却予定
納税資金資料現預金、保険、売却予定、費用負担

資料が不足している場合には、評価額を無理に決めようとするのではなく、どの資料が判断に必要かを整理することが先決です。

まとめ|特殊土地の評価は「下げる技術」ではなく「説明できる評価」の実務

土壌汚染、埋蔵文化財、高圧線下地、地中埋設物、騒音、墓地近接、土砂災害区域などの特殊土地は、相続税評価額に大きく影響することがあります。

しかし、特殊事情があるからといって、当然に評価額を下げられるわけではありません。評価に反映するには、課税時期の事実、利用制限、費用負担、取引価格への影響、そして資料の裏付けが必要です。

また、評価額が下がることは、必ずしも相続人にとって有利とは限りません。問題のある土地を取得する相続人は、将来の管理・売却・除去費用・行政対応を背負うことになります。遺産分割、納税資金、二次相続まで含めて、誰がどのリスクを引き受けるのかを話し合っておく必要があります。

特殊土地の評価は、単なる計算ではなく、財産評価、法務、行政手続、建築・不動産実務、家族間の公平をつなぐ判断です。申告後に説明できる評価根拠を残しておくことが、税務リスクと家族間リスクの双方を抑えるうえで大きな意味を持ちます。

特殊事情のある土地の相続税評価でお悩みの方へ

犬飼公認会計士・税理士事務所では、特殊事情のある土地について、評価額だけを切り出すのではなく、評価単位、現況、権利関係、行政資料、費用見積、遺産分割、納税資金、税務調査での説明可能性まで含めて整理することを大切にしています。

土壌汚染が疑われる土地、埋蔵文化財包蔵地、高圧線下地、地中埋設物のある土地、災害区域内の土地、売却や分割に不安がある土地を相続する場合には、早い段階で資料をそろえ、評価に反映できる事情とできない事情を切り分けておくことが大切です。

「評価額を下げられるか」だけでなく、「その評価を後から説明できるか」「相続人間で納得できる分け方になるか」「納税や将来売却まで見通せるか」を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り|特殊土地評価の重要ポイント

論点振り返り
基本姿勢特殊土地評価は、評価額を下げる作業ではなく、事実と根拠を評価に反映する作業
評価単位1筆単位ではなく、利用単位、地目、権利関係で判定する
課税時期相続開始日または贈与日に特殊事情が存在していたかを確認する
通常評価額まず特殊事情がないものとして、路線価方式・倍率方式等で評価する
土壌汚染地汚染可能性だけでは足りず、基準不適合や区域指定、調査結果を確認する
土壌汚染の控除浄化・改善費用見積額の80%相当額、使用収益制限、心理的要因を検討する
確定費用費用額が確定している場合は、土地評価ではなく債務控除との関係を確認する
埋蔵文化財包蔵の可能性だけではなく、発掘調査費用の負担と蓋然性を確認する
埋蔵文化財の控除発掘調査費用見積額の80%相当額を検討するが、所有者負担がない場合は控除しない
地中埋設物一律控除ではなく、撤去の必要性、範囲、費用、負担者を資料で確認する
高圧線下地区分地上権に準ずる地役権、承役地の範囲、建築制限を確認する
高圧線の割合建築不可なら50%と借地権割合の高い方、構造・用途制限なら30%が目安となる場合がある
騒音・忌み等利用価値の著しい低下がある場合に10%控除を検討するが、路線価等への反映済みに注意
土砂災害区域がけ地補正、土砂災害特別警戒区域補正、建築制限を整理する
二重控除同じ事情を複数の補正や費用控除で重複反映しない
遺産分割評価額だけでなく、取得後の管理・除去費用・売却困難性を考慮する
納税資金特殊土地は換金に時間がかかるため、申告期限までの資金確保を確認する
税務調査評価明細、行政資料、見積書、写真、判断メモを残すことが重要
専門家連携税理士だけでなく、不動産鑑定士、調査会社、司法書士、弁護士等との連携が必要になることがある
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