貸付事業用宅地等の要件と不動産賃貸|賃貸アパート・駐車場で小規模宅地等の特例を使う前に確認すべきこと

賃貸アパートや賃貸マンション、貸家、貸地、月極駐車場、コインパーキングといった不動産を相続したとき、小規模宅地等の特例のうち「貸付事業用宅地等」として、一定の面積まで評価額を50%減額できる場合があります。

ただ、ここで一つ注意していただきたいことがあります。貸付事業用宅地等は、「賃貸物件であれば当然に使える特例」ではありません。

確認すべき点は、決して少なくありません。

  • 相続開始の直前に、本当に貸付事業の用に供されていたか
  • 相当の対価を得て、継続的に貸し付けていたか
  • 使用貸借や、親族への無償利用になっていないか
  • 相続開始前3年以内に、新たに貸付を始めた土地ではないか
  • 空室や建替え中の物件を、どう説明するか
  • 駐車場は、建物または構築物の敷地といえるか
  • 誰が取得し、申告期限まで所有と貸付を続けるのか
  • 他の宅地との選択適用や遺産分割に、無理が生じていないか

これらを確かめないまま、「賃貸不動産だから50%減額」と考えてしまうと、いざ申告のとき、あるいは税務調査の場で、説明に窮することがあります。

この記事では、貸付事業用宅地等の要件について、制度の説明にとどまらず、不動産賃貸の実態、空室や駐車場の扱い、3年以内貸付、遺産分割、そして納税資金まで含めて整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

貸付事業用宅地等は、次のように項目を分けて眺めてみると、判断がしやすくなります。

確認項目実務上の意味
減額効果200㎡まで50%評価減の対象となり得る
対象となる貸付不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業
準事業事業と称する規模でなくても、相当の対価を得て継続的に行う貸付
使用貸借相当の対価がないため、原則として対象外
取得者被相続人の親族が相続または遺贈で取得することが前提
被相続人の貸付事業取得者が申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで貸付事業と所有を継続する
生計一親族の貸付事業その生計一親族が取得し、相続開始前から申告期限まで貸付事業と所有を継続する
3年以内貸付相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則対象外
3年以内貸付の例外相続開始日まで3年超、特定貸付事業を継続していた被相続人等の貸付事業用宅地等は対象となる余地がある
空室一時的な空室なら対象に含められる余地があるが、募集状況・空室期間・他用途利用の有無を確認する
駐車場貸付事業に含まれるが、建物または構築物の敷地といえるか、貸付実態があるかを確認する
遺産分割対象宅地の選択には取得者・共同相続人の同意・分割状況が重要
税務調査契約書、入金履歴、募集資料、管理委託契約、現地写真などで説明できる状態にする

貸付事業用宅地等は、節税効果の大きさだけを見て判断する特例ではありません。不動産賃貸を将来も続けていけるのか、相続人がきちんと管理できるのか、他の相続人との公平性をどう保つのか。そこまで含めて考える必要があります。

貸付事業用宅地等とは何か

貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等のうち、一定の要件を満たすものをいいます。

国税庁のタックスアンサーでは、小規模宅地等の特例について、相続開始直前の利用区分ごとに限度面積と減額割合が整理されています。貸付事業用宅地等は、そのうち200㎡まで50%の減額対象とされています。特定居住用宅地等の330㎡・80%、特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等の400㎡・80%と比べると、減額割合も限度面積も抑えられているのが特徴です。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

対象になり得る代表的な土地としては、次のようなものが挙げられます。

不動産の種類貸付事業用宅地等として検討する土地
賃貸アパート・賃貸マンション建物敷地、入居者専用駐車場の敷地など
貸家貸家の敷地
貸店舗・貸事務所賃貸建物の敷地
貸地借地権等の目的となっている土地
月極駐車場アスファルト舗装等の構築物がある駐車場敷地など
コインパーキング駐車場設備・賃貸借・運営契約の実態を確認
自転車駐車場駐輪場設備、管理形態、対価の有無を確認
同族会社への貸付貸付先法人の事業内容により、貸付事業用宅地等か特定同族会社事業用宅地等かを分けて検討

ここでいう「宅地等」とは、土地または土地の上に存する権利を指します。もっとも、小規模宅地等の特例の対象となるのは、建物または構築物の敷地の用に供されている宅地等に限られます。農地・採草放牧地、棚卸資産およびこれに準ずる資産は除かれます。

したがって、たとえ賃貸用であっても、販売用の不動産や、単なる未利用地のようなものについては、慎重に区分しておく必要があります。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

「貸付事業」と「準事業」を正しく分ける

貸付事業用宅地等でいう貸付事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業のほか、「準事業」が含まれます。

準事業とは、事業と称するには至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で、相当の対価を得て継続的に行うものをいいます。国税庁も、事業的規模でない不動産の貸付けであっても、相続開始直前に被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものは、貸付事業用宅地等として特例の対象になると説明しています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)Q&A

つまり、賃貸アパートを何棟も持っていなければ特例の対象にならない、というわけではありません。小規模な貸家が1棟、貸駐車場の一部、あるいは貸地であっても、相当の対価を得て継続的に貸し付けている実態があれば、貸付事業用宅地等として検討する余地が出てきます。

一方で、次のようなケースには注意が必要です。

利用形態判断上の注意点
親族に無償で住まわせている使用貸借であれば、相当の対価を得ていないため原則対象外
親族会社に無償で使わせている貸付事業用宅地等ではなく、使用貸借・同族会社関係・特定同族会社事業用宅地等の論点を確認
名目的に賃貸契約書だけ作っている実際の賃料支払、入金管理、契約実態を確認
固定資産税程度の負担だけ相当の対価といえるか慎重に検討
一時的な貸付継続性があるかを確認
賃貸募集だけで未入居原則として準備行為にとどまる場合は対象外になり得る

とりわけ親族間や同族会社間での不動産利用では、ご本人は「賃貸しているつもり」でも、税務上は使用貸借や実質的な無償利用と見られてしまうことがあります。賃貸借契約書、賃料の入金履歴、賃料の水準、更新の履歴、管理の方法。こうした点を一つずつ確認しておくことが大切です。

貸付事業用宅地等には2つの類型がある

貸付事業用宅地等は、誰が貸付事業を行っていたかによって、大きく2つの類型に分かれます。

類型相続開始直前の利用者土地の取得者主な要件
被相続人の貸付事業用宅地等被相続人本人貸付事業を引き継ぐ親族申告期限までに貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業と所有を継続
生計一親族の貸付事業用宅地等被相続人と生計を一にしていた親族その生計一親族相続開始前から申告期限まで貸付事業を継続し、申告期限まで所有

国税庁の説明でも、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等については、取得した親族がその貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行い、かつ宅地等を申告期限まで有していることが要件とされています。生計一親族の貸付事業の用に供されていた宅地等については、その親族が相続開始前から申告期限まで貸付事業を行い、宅地等を申告期限まで有していることが要件です。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

実務では、まず対象地・貸付事業者・取得者という三者の関係から整理していきます。小規模宅地等の特例では、利用の状況だけでなく「誰が取得するか」が要件に直結するためです。貸付事業用宅地等についても、被相続人による貸付事業と生計一親族による貸付事業の二つの態様を、分けて検討していくことになります。

申告期限までの「保有継続」と「貸付継続」が必要

貸付事業用宅地等では、原則として、相続税の申告期限まで対象の宅地を所有し続け、貸付事業を継続していることが求められます。

相続税の申告期限は、通常、相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期間中に対象の不動産を売却したり、貸付をやめたり、自用に転用したりすると、特例の適用に影響が及ぶことがあります。

相続後の行動特例への影響
取得者が賃貸アパートを申告期限まで保有し賃貸継続要件を満たす方向
申告期限前に売却保有継続要件を満たさない可能性
申告期限前に貸付を終了し自宅・倉庫等に転用貸付継続要件を満たさない可能性
入居者退去後、速やかに募集し再賃貸一時的空室として整理できる余地
建替えのため一時休業通達上の取扱い・事実関係を確認
一部だけ売却・転用残部分について部分適用できるか検討
相続人間で共有取得取得者ごとの要件・持分割合を確認

「相続税を納めるために売る予定なので、申告期限前に売却したい」というご相談は、決して珍しくありません。しかし、申告期限前の売却は、貸付事業用宅地等の保有継続要件に影響することがあります。納税資金の確保と特例の適用は、切り離さず、同時に検討しておくべきところです。

3年以内貸付宅地等の適用制限

貸付事業用宅地等を考えるうえで、とりわけ重要になるのが「3年以内貸付宅地等」の制限です。

相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として貸付事業用宅地等の対象から除かれます。これは、相続の直前に空き地を急いで貸付用へと変え、50%の減額を受けようとする対策を制限する、という趣旨を含んだ取扱いです。

ただし、ここには例外があります。相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等について、その特定貸付事業の用に供された宅地等は、3年以内貸付宅地等には該当しないとされています。国税庁のタックスアンサーでも、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として対象外である一方、相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を継続していた被相続人等の貸付事業用宅地等は、3年以内貸付宅地等に該当しないと説明されています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

整理すると、次のようになります。

貸付開始の状況判断の方向性
相続開始前3年超から同じ宅地を貸付準事業でも対象となる余地がある
相続開始前3年以内に新たに貸付開始原則として対象外
相続開始前3年超から事業的規模で貸付事業を行い、3年以内に新たな物件を貸付例外的に対象となる余地
事業的規模でない貸付をしていた人が3年以内に新たな物件を貸付原則としてその新規物件は対象外
賃貸借契約の更新新たな貸付には該当しない
継続賃貸物件の一時的空室・建替え・災害休業後の再開条件を満たせば新たな貸付に該当しない余地
未利用地に駐車場設備を設けて新規貸付3年以内貸付宅地等に該当する可能性

国税庁の通達では、「新たに貸付事業の用に供された」とは、貸付事業以外の用に供されていた宅地等が貸付事業の用に供された場合や、何ら利用されていなかった宅地等が貸付事業の用に供された場合をいうとされています。これに対して、賃貸借契約等の更新は、新たに貸付事業の用に供された場合には該当しないとされています。

出典:国税庁|租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて 69の4-24の3

この3年以内貸付の制限は、生前対策を考えるうえで非常に重要です。相続の直前に賃貸物件を建てる、空き地を駐車場にする、親族会社へ貸し始める。こうした対応は、収益性や資産管理の観点では意味があっても、貸付事業用宅地等の特例という面では、期待どおりには使えないことがあるのです。

特定貸付事業と事業的規模

3年以内貸付宅地等の例外を考えるときに登場するのが、「特定貸付事業」という概念です。

特定貸付事業とは、貸付事業のうち準事業以外のものをいいます。国税庁の通達では、準事業以外の貸付事業に当たるかどうかは、社会通念上、事業と称するに至る程度の規模で貸付事業が行われていたかによって判定するとされています。

出典:国税庁|租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて 69の4-24の4

不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについて、国税庁の所得税のタックスアンサーでは、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかによって実質的に判断するとされています。建物の貸付けについては、貸間・アパート等がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けがおおむね5棟以上であれば、原則として事業として行われているものとして取り扱うと説明されています。

出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

ただ、この5棟10室基準は、あくまで判定の一つの目安にすぎません。規模、収入、管理体制、人的・物的設備、借入・修繕・募集の状況などから、社会通念上、事業といえるかどうかを確認していくことになります。とりわけ貸付事業用宅地等の3年以内貸付では、「従前から事業的規模で貸付事業を行っていたか」が分かれ目になります。

空室がある賃貸物件の扱い

賃貸アパートや賃貸マンションでは、相続開始の日に一部が空室であることは、決して珍しいことではありません。

貸付事業用宅地等では、相続開始の時点で現実に貸付事業の用に供されていたかどうかが基本になります。もっとも、国税庁の通達では、貸付事業に係る建物等のうち、相続開始の時点で一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合には、その部分に係る宅地等も貸付事業の用に供されていた宅地等に含まれるとされています。

出典:国税庁|租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて 69の4-24の2

一時的な空室と整理できるかどうかは、次のような事実から確認していきます。

確認項目実務上の意味
相続開始前の賃貸実績継続的に賃貸されていた部屋か
退去日相続開始直前にたまたま退去したのか
募集開始時期退去後速やかに募集しているか
募集資料募集広告、管理会社とのやり取り、媒介契約
空室期間地域相場・物件状態から通常の空室期間といえるか
他用途利用物置、親族利用、自用倉庫などに使っていないか
相続後の入居相続後の賃貸が一時的・形式的なものではないか
修繕・原状回復賃貸再開のための合理的準備が行われているか

評価の実務でも、「一時的に賃貸されていなかった」といえるかどうかは、単に空室期間の長短だけで決まるものではありません。過去の賃貸実績、募集の状況、他用途利用の有無、相続後の賃貸の継続性などを総合して判断していく論点です。長期にわたる空室や高い空室率がある場合、通常の入居者の入替えと同じように扱えるかどうかは、慎重に確かめる必要があります。

反対に、次のような場合には注意が必要です。

状況リスク
長期間空室で募集もしていない貸付事業の用に供されていたと説明しにくい
相続開始前から物置や親族利用に転用貸付事業以外の用に供されていた可能性
老朽化で実質的に賃貸不能継続的な貸付事業といえるか疑問
相続後に形式的に短期賃貸しただけ一時的空室としての説明が弱い
建替え予定で全室退去済み建替え中・準備段階の取扱いを別途確認

空室があるからといって、ただちに特例が使えなくなるわけではありません。とはいえ、「空室でも大丈夫」と一般化してしまうのは危険です。空室になった理由と、賃貸を再開している実態を、資料としてきちんと残しておくことが欠かせません。

建替え中・災害休業中の賃貸物件

賃貸物件では、老朽化による建替え、大規模修繕、災害による一時休業といった事情が生じることがあります。こうした場合も、相続開始の時点で現実に貸し付けられていなかったからといって、ただちに対象外になるとは限りません。

国税庁の通達では、継続的に賃貸されていた建物等について、賃借人の退去後に速やかに新たな賃借人の募集が行われ賃貸された場合、建替え後に速やかに募集・賃貸された場合、災害による休業後に修繕等の準備が行われ貸付事業が再開された場合などは、一定の条件のもとで「何らの利用がされていない場合」には該当しないとされています。

出典:国税庁|租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて 69の4-24の3

ただし、建替え中であれば必ず適用できる、というわけではありません。

場面確認すべきこと
建替え前から継続賃貸されていたもともと貸付事業用だったか
建替え後速やかに募集している賃貸継続の意思と実行があるか
建替え後に賃貸されている実際に貸付事業が再開しているか
建替え後に自用・親族利用へ変更貸付継続要件に影響
建替え前より敷地が拡大拡大部分は新たに貸付事業用に供された部分となる可能性
災害休業中修繕、募集、再開の資料を残す

建替えや災害休業は、単なる「空白期間」としてではなく、その間も貸付事業が継続していたと評価できるかどうか、という問題として捉える必要があります。建築請負契約、解体・建築の工程表、管理会社との募集資料、入居申込書、賃貸借契約書など。こうした書類を確認し、申告の後でもきちんと説明できるよう備えておきます。

駐車場で貸付事業用宅地等を使う場合

駐車場業は、貸付事業用宅地等の対象となる貸付事業に含まれます。したがって、月極駐車場やコインパーキングも検討の対象になります。

ただし、駐車場については、次の2つを分けて考える必要があります。

1つ目は、貸付事業としての実態です。賃料を相当の対価として継続的に受け取っているか、契約や利用規約があるか、管理の実態があるか。この点を確認します。

2つ目は、その土地が、小規模宅地等の特例の対象となる「建物または構築物の敷地」といえるかどうかです。単なる青空駐車場で、舗装・フェンス・精算機・区画設備などが何もない場合には、構築物の敷地といえるかどうかが問題になってきます。

国税庁の質疑応答事例では、従来は空き地であった土地にアスファルト舗装等を施し、駐車場経営を開始した事案について、その駐車場用地は事業用宅地、具体的には貸付事業用宅地として小規模宅地等の特例の対象になるとされています。

出典:国税庁|小規模宅地等の特例の対象となる宅地等の範囲(財産管理人の事業)

駐車場については、次のような資料を確認していきます。

資料・事実確認する内容
駐車場契約書月極契約、利用規約、契約期間、賃料
入金履歴賃料が継続的に支払われているか
現地写真舗装、区画線、車止め、フェンス、精算機、看板
管理委託契約管理会社・運営会社との契約内容
固定資産税資料地目・課税状況
収支資料駐車場収入・管理費・修繕費
近隣利用状況実際に駐車場として利用されているか
相続後の継続申告期限まで貸付と所有を継続しているか

また、賃貸アパートの入居者専用駐車場と、外部貸しの駐車場・コインパーキングが混在している場合には、評価単位、貸家建付地評価、貸付事業用宅地等の対象範囲を、それぞれ丁寧に分ける必要があります。実務では、建物と駐車場の物理的な一体性、契約上の一体性、外部利用者の有無、駐車場の台数と建物規模のバランス、現地での行き来などを確認しながら判断していきます。

貸家建付地評価と貸付事業用宅地等は別の判断

賃貸不動産では、「貸家建付地評価」と「貸付事業用宅地等」を混同してしまいがちです。

貸家建付地評価とは、土地の相続税評価額を計算する段階で、土地の上の貸家に借家人の権利が付着していることを反映させる評価方法です。一方の貸付事業用宅地等は、小規模宅地等の特例として、要件を満たす宅地等について、課税価格に算入する価額を一定の割合で減額する制度です。

項目貸家建付地評価貸付事業用宅地等
位置づけ財産評価の問題小規模宅地等の特例の問題
主な確認借家権、賃貸割合、土地評価貸付事業、取得者、継続要件、申告要件
空室の影響賃貸割合・貸家建付地評価に影響貸付事業の用に供されていたかに影響
駐車場の影響評価単位・貸家建付地評価の範囲に影響貸付事業用宅地等の対象範囲に影響
申告手続評価明細・根拠資料計算明細書、選択同意、分割資料、添付書類

貸家建付地として評価できるからといって、当然に貸付事業用宅地等も使える、とは限りません。逆に、貸付事業用宅地等の対象になり得るからといって、土地評価の段階で必ず貸家建付地評価になるとも限りません。土地の評価と特例の適用とでは、そもそも判断の目的が異なるのです。

同族会社への貸付は区分に注意する

被相続人が所有する土地や建物を同族会社に貸している場合、それを貸付事業用宅地等として考えるのか、特定同族会社事業用宅地等として考えるのかを、分けて判断する必要があります。

たとえば、被相続人の土地を同族会社に貸し、その会社が本業の店舗・工場・事務所として使っている場合には、一定の要件を満たせば特定同族会社事業用宅地等を検討することになります。特定同族会社事業用宅地等であれば、400㎡まで80%の減額となる可能性があります。

一方、同族会社自身が不動産貸付業を営んでいる場合や、貸付先となる法人の事業内容が貸付事業である場合には、貸付事業用宅地等の側の論点になります。

貸付先・利用状況主に検討する区分
同族会社が店舗・工場・事務所として使用特定同族会社事業用宅地等
同族会社が不動産貸付業に使用貸付事業用宅地等
被相続人が賃貸建物を所有し第三者へ賃貸貸付事業用宅地等
親族会社に無償で使用させている使用貸借・同族会社税務・評価上の論点を確認
個人所有土地に会社所有建物がある賃貸借、無償返還届出、相当地代、株式評価も確認

国税庁のタックスアンサーでも、貸付事業用宅地等には、一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業の用に供されている宅地等や、被相続人等の貸付事業の用に供されている宅地等が含まれるとされています。これに対して特定同族会社事業用宅地等は、一定の法人の事業用宅地等として、別の区分で整理されています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

同族会社が関わってくる場合には、土地の評価だけでなく、非上場株式の評価、役員・株主の構成、地代の水準、無償返還届出、賃貸借契約書、会社の決算書まで、あわせて確認しておく必要があります。

未分割の場合は原則として特例適用に支障が出る

貸付事業用宅地等を含む小規模宅地等の特例では、申告の手続そのものも重要です。

国税庁は、小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告書に特例を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等に係る計算明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付する必要があるとしています。さらに、特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、特例を受けようとする宅地等の選択について全員が同意しており、原則として申告期限までに分割されていることが必要とされています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

賃貸不動産は、現金に比べて、どうしても分けにくい財産です。相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人は金融資産や代償金を取得する。そうした形に整えておかないと、管理・売却・修繕といった意思決定が難しくなることがあります。

遺産分割上の選択注意点
賃貸不動産を一人が取得他の相続人への代償金・金融資産配分を検討
共有で取得管理、修繕、売却、次世代承継で紛争化しやすい
売却して換価分割申告期限前売却と特例要件、譲渡所得税を確認
配偶者が取得二次相続、管理能力、将来売却を確認
賃貸事業を継ぐ相続人が取得納税資金・借入金・修繕負担を確認
未分割のまま申告期限到来特例適用・後日の更正請求等の手続を確認

相続対策では、相続税額を軽くすることだけでなく、「争族」の防止、納税資金、税額の軽減、申告の実務までを、一体のものとして考えていくことが重要です。とりわけ賃貸不動産は、相続の後も管理・修繕・入居者対応・借入の返済が続いていきます。誰が持つべきかを、税額だけで決めてしまうのは避けたいところです。

相続前の賃貸不動産活用は慎重に判断する

貸付事業用宅地等があるからといって、相続税対策として、安易に賃貸アパートを建てる、借入金で不動産を取得する、空き地を急いで駐車場化する。こうした判断には危うさがあります。

不動産の活用にあたっては、次のような観点を確認していきます。

観点確認する内容
税務小規模宅地等、貸家建付地、債務控除、3年以内貸付、総則6項リスク
収益性空室率、賃料下落、修繕費、管理費、借入返済
法務賃貸借契約、共有、遺言、遺留分、相続登記
納税資金現金納付、売却可能性、延納・物納の現実性
家族関係誰が管理するか、誰が負担するか、他の相続人への公平性
将来管理認知症、施設入所、次世代承継、空き家化
申告後リスク評価根拠、特例要件、税務調査での説明可能性

賃貸不動産を建てれば、土地の評価や小規模宅地等の特例によって、一定の評価減が生じることがあります。しかし、借入金、空室、修繕、相続人の管理負担まで考えると、それが相続人にとって望ましい対策だとは限りません。

税額が下がることと、家族にとって残す価値のある資産になること。この二つは、別の話なのです。

申告実務で準備すべき資料

貸付事業用宅地等を適用する場合には、次のような資料を整えておくと、判断と説明の精度が高まります。

資料確認する内容
登記事項証明書土地・建物の所有者、地番、権利関係
固定資産税課税明細書・名寄帳対象不動産の把握、評価対象
公図・地積測量図・建物図面土地と建物・駐車場の対応関係
賃貸借契約書賃借人、賃料、契約期間、更新状況
管理委託契約書管理会社の関与、募集・管理状況
家賃・賃料の入金履歴相当の対価と継続性
所得税確定申告書・青色申告決算書貸付事業の収入・経費・規模
空室一覧・退去日・入居日一時的空室かどうか
募集広告・媒介契約空室募集の実態
修繕・建替え資料継続貸付のための準備状況
駐車場の現地写真舗装、区画、精算機、看板、構築物
借入金資料債務控除、納税資金、返済負担
遺産分割協議書・遺言書誰が対象宅地を取得するか
小規模宅地等の計算明細選択宅地、限度面積、併用調整
共同相続人の同意資料選択適用の同意関係

税務調査では、申告書に記された結論だけでなく、その結論に至るまでの事実関係が確認されます。貸付事業用宅地等では、「賃貸物件であること」ではなく、「要件を満たす貸付事業用宅地等であること」を、資料によって示していく必要があるのです。

判断手順|貸付事業用宅地等を検討する流れ

実務では、次の順番で確認していきます。

1. 対象土地が建物・構築物の敷地かを確認する

賃貸アパート、貸家、貸店舗、駐車場設備などがあるかを確認します。未利用地、販売用の土地、単なる青空駐車場などは、慎重に判定します。

2. 貸付事業の実態を確認する

不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業のいずれに該当するかを確認します。相当の対価、継続性、契約、入金、管理の実態を見ていきます。

3. 取得者と貸付事業者の関係を確認する

被相続人の貸付事業なのか、それとも生計一親族の貸付事業なのかを整理します。取得者が要件を満たす親族かどうかを確認します。

4. 申告期限までの保有・貸付継続を確認する

相続後に売却、転用、廃止、共有解消が予定されていないかを確認します。納税資金のために売却の予定がある場合には、その売却時期と特例の要件とを照らし合わせます。

5. 3年以内貸付宅地等を確認する

相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等に当たらないかを確認します。該当する場合には、特定貸付事業の例外が使えるかどうかを確認します。

6. 空室・建替え・駐車場の特殊論点を確認する

一時的空室、建替え、災害休業、駐車場設備、外部貸し駐車場、コインパーキングなどを、個別に確認していきます。

7. 他の小規模宅地等との選択を比較する

特定居住用宅地等、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等との併用調整を行います。貸付事業用宅地等が入ると、限度面積の調整計算が必要になります。そのため、単純に評価額の高い土地から選べばよい、とは限りません。

8. 遺産分割・納税資金・二次相続を確認する

誰が取得すべきか、共有を避けるべきか、代償金を用意できるか、配偶者が取得した後の二次相続でどうなるか。こうした点を整理していきます。

まとめ|貸付事業用宅地等は「賃貸物件の特例」ではなく、貸付実態と承継判断の特例

貸付事業用宅地等は、賃貸不動産を所有している相続において、重要な意味を持つ特例です。しかし、その判断は決して単純ではありません。

賃貸アパートがある。駐車場として貸している。家賃収入がある。貸家建付地評価をしている。──これだけでは、まだ足りないのです。

確認すべきことは、いくつもあります。

  • 相当の対価を得て、継続的に貸し付けているか
  • 使用貸借になっていないか
  • 相続開始前3年以内に、新たに貸付を始めていないか
  • 空室を、一時的なものと説明できるか
  • 駐車場は、建物または構築物の敷地といえるか
  • 取得者が申告期限まで保有し、貸付事業を継続するか
  • 他の宅地との選択適用で、本当に有利になるか
  • 相続人間の納得感、納税資金、将来の管理に、無理が生じていないか

貸付事業用宅地等の判断は、土地評価、不動産賃貸、遺産分割、申告手続、税務調査への対応を横断する、総合的な実務判断だといえます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、賃貸アパート、貸家、貸地、月極駐車場、コインパーキング、同族会社への貸付不動産などについて、貸付事業用宅地等の適用可否だけにとどまらず、土地評価、空室や駐車場の取扱い、3年以内貸付、遺産分割、納税資金までを含めて整理いたします。賃貸不動産の相続税申告や生前対策にあたって、後からきちんと説明できる判断材料を整えておきたいという方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点確認すべきポイント
減額割合・限度面積貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額
対象となる貸付不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業
準事業事業的規模でなくても、相当の対価を得て継続的に行う貸付は対象となる余地
使用貸借無償利用や相当対価のない貸付は原則対象外
被相続人の貸付事業取得者が申告期限までに引き継ぎ、貸付と所有を継続
生計一親族の貸付事業その生計一親族が取得し、相続開始前から申告期限まで貸付と所有を継続
3年以内貸付宅地等相続開始前3年以内に新たに貸付を始めた宅地等は原則対象外
特定貸付事業3年以内貸付の例外では、相続開始日まで3年超の事業的規模の貸付継続が重要
空室一時的空室なら対象に含める余地があるが、募集状況・空室期間・他用途利用を確認
建替え・災害休業継続貸付の実態、再開準備、募集・賃貸実績を確認
駐車場貸付事業に含まれるが、建物または構築物の敷地か、相当対価・継続性があるかを確認
同族会社貸付貸付事業用宅地等か特定同族会社事業用宅地等かを区分
貸家建付地評価との違い土地評価の問題と小規模宅地等の特例適用は別判断
未分割原則として申告期限までの分割、選択同意、添付書類が必要
遺産分割賃貸不動産の共有は管理・売却・次世代承継で紛争化しやすい
申告後の説明契約書、入金履歴、募集資料、現地写真、管理契約、評価根拠を残す
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