海外に不動産や預金口座、証券口座、外国法人株式、信託財産がある相続では、日本国内だけで考えていると思わぬところで手続が止まることがあります。
日本の相続人全員で遺産分割協議書を作成した。日本の相続税申告も進めている。それなのに、海外の銀行や登記機関から「現地裁判所の許可」「Grant of Probate」「Letters of Administration」「認証済みの翻訳」「現地弁護士の書類」を求められ、名義変更や払戻しが一向に進まない。国際相続の現場では、こうした場面が少なくありません。
このとき大切になるのは、日本の相続税申告・日本の遺産分割・海外財産の現地手続を、ひとまとめに扱わないという視点です。
国際相続では、納税義務者や国外財産評価、外国税額控除といった課税の論点だけでなく、国際私法、相続に関する準拠法、海外相続手続、遺言、プロベートの問題が同時に立ち上がってきます。日本の課税関係をどう整理するかに加えて、海外財産の名義変更や現地手続をどう進めるかが、実務では大きな論点になります。
これまで本シリーズでは、国際相続で最初に確認すべきこと、相続税・贈与税の納税義務者と課税財産の範囲、国外財産の評価・外貨換算・資料収集、外国税額控除と二重課税の整理について順に取り上げてきました。本記事では、それらを踏まえながら、海外相続手続・プロベート・海外遺言の基本を整理していきます。
海外財産がある相続では、3つの問題を分けて考える
海外財産がある相続では、まず次の3つを切り分けて整理することから始めます。
| 区分 | 何を決める問題か | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 準拠法 | 誰が、どのような相続権を持つか | 国際私法、日本法、現地法 |
| 現地手続 | 海外財産を誰が管理・換価・名義変更できるか | 現地裁判所、銀行、登記機関、現地専門家 |
| 日本の税務 | 日本で相続税・贈与税の申告が必要か | 相続税法、国税庁情報、日本の税理士 |
この3つは、結論が一致することもありますが、いつも同じになるとは限りません。
たとえば、日本法のもとで相続人全員の遺産分割協議によって海外財産の取得者を決めたとしても、海外の金融機関や登記機関が、その協議書だけで名義変更に応じてくれるとは限りません。現地の裁判所が任命した遺言執行者や遺産管理人の権限証明を求められることもあります。
逆に、海外でプロベートが終わったからといって、日本の相続税申告が不要になるわけでもありません。日本の相続税では、相続人や被相続人の住所、国籍、日本居住履歴、財産の所在地などに応じて、日本国外の財産まで課税対象になることがあります。相続人が外国に居住している場合でも、一定の要件に当てはまれば、国外財産が日本の相続税の課税対象に含まれます。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき
国際相続の失敗は、その多くが「日本で分け方が決まったのだから海外でも動くはずだ」「海外で手続中なのだから日本の申告も待ってもらえるはずだ」という思い込みから生まれます。
準拠法とは何か|日本法だけで相続関係を決められない場合
準拠法とは、ある法律問題について、どこの国の法律を適用するのかという問題です。
日本では、相続に関して「法の適用に関する通則法」が関係してきます。同法36条は、相続は被相続人の本国法によると定めています。
出典:e-Gov法令検索|法の適用に関する通則法
たとえば被相続人が日本国籍であれば、日本の国際私法上は、原則として日本法が相続の準拠法になります。とはいえ、これだけで海外財産の手続が完結するわけではありません。
海外の不動産登記、裁判所手続、金融機関の払戻し、遺言の検認、遺産管理人への権限付与などは、いずれも財産所在地国の制度に従って進むからです。日本側で「誰が相続するか」を整理できたとしても、現地側で「誰に管理権限を与えるか」「どの書類を受け付けるか」は、それとは別の問題として残ります。
国際相続では、複数の国の法律の適用関係を調整するために国際私法が問題になります。日本では「法の適用に関する通則法」や「遺言の方式の準拠法に関する法律」などを手がかりに、問題となる法律関係に適用される法律を確認していきます。
実務では、次のように分解して確認します。
| 確認事項 | 典型的な論点 |
|---|---|
| 被相続人の国籍 | 日本法が相続準拠法になるか |
| 被相続人の最後の住所・常居所 | 現地裁判所・税務当局がどう見るか |
| 財産の所在地 | 不動産、預金、株式、信託財産の所在判定 |
| 遺言の有無 | 日本遺言、海外遺言、複数遺言の関係 |
| 現地の相続手続 | プロベート、遺産管理人、登記・払戻手続 |
| 日本の相続税 | 国内財産・国外財産の課税範囲 |
「準拠法」と「手続法」と「税法」を混同しないこと。これが、国際相続の入口になります。
プロベートとは何か
プロベートは、国や地域によって制度の中身が異なりますが、一般には、亡くなった方の財産を管理・清算・分配するために、裁判所などが遺言の有効性や遺産管理権限を確認し、遺言執行者や遺産管理人に権限を与える手続を指します。
英国政府の説明では、probateは、亡くなった方の財産・金銭・所持品であるestateを扱うための法的権限とされています。
出典:GOV.UK|Applying for probate: What is probate
シンガポール裁判所も、probate and administrationについて、亡くなった方のestateを管理する者を選任する法的手続だと説明しています。有効な遺言があり、遺言で指定されたexecutorが申請する場合はGrant of Probate、遺言がない場合などはGrant of Letters of Administrationが問題になる、という整理です。
出典:Singapore Courts|Probate and administration
米国でも州によって制度は異なりますが、カリフォルニア州裁判所の案内では、probateは亡くなった方の財産を移転・承継するために必要となる法的プロセスであり、財産の種類や金額によって、裁判所手続が必要かどうかが変わると説明されています。
出典:California Courts Self-Help Guide|Guide to property after someone dies
つまりプロベートは、単なる「名義変更手続」にとどまりません。多くの法域では、次のような機能を担っています。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 遺言の確認 | 遺言が有効か、誰がexecutorかを確認 |
| 遺産管理権限の付与 | executorやadministratorに法的権限を与える |
| 財産・債務の把握 | estateの財産、債務、費用をリストアップ |
| 債務・税金の清算 | 債権者対応、税務申告、費用精算 |
| 受益者・相続人への分配 | 遺言または法定相続に従い分配 |
| 金融機関・登記機関への提示 | GrantやLettersを使って払戻し・名義変更 |
海外の手続では、遺言がある場合に、遺言書に記載された遺言執行人が財産・債務をリストアップし、estateとして管理したうえで、裁判所から執行権限の付与を受けて進めていく、という流れになることがあります。
日本の相続手続とプロベートの違い
日本の相続では、相続開始によって相続人が包括的に権利義務を承継し、その後、遺言や遺産分割協議によって財産の取得者を確定していく、という構造が基本です。預貯金や不動産、有価証券などは、戸籍、遺産分割協議書、印鑑証明書、遺言書、遺言執行者の資料などをそろえて名義変更を進めます。
一方、プロベート制度のある法域では、相続人が当然に金融機関へ出向いて財産を引き出せるわけではありません。裁判所から権限を付与されたexecutorやadministratorが、遺産管理を担うことになります。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | 日本の相続手続 | プロベート型の手続 |
|---|---|---|
| 財産管理の中心 | 相続人、遺言執行者 | 裁判所が認めたexecutor・administrator |
| 遺言の扱い | 公正証書遺言、自筆証書遺言、検認等 | 裁判所が遺言と執行者を確認することが多い |
| 財産の払戻し | 金融機関所定書類で進むことが多い | GrantやLettersの提示を求められることがある |
| 債務・税金 | 相続人・遺言執行者等が整理 | estateの清算手続の中で整理 |
| 手続期間 | 財産や分割状況により異なる | 数か月から1年以上かかる場合もある |
| 公開性 | 日本では協議内容は通常非公開 | 遺言・財産情報の一部が公開記録になる国もある |
日本の相続人全員が合意していても、現地の裁判所や金融機関がその合意書をそのまま受け入れてくれるとは限りません。逆に、現地のプロベートが終わっていても、日本の相続税申告では、相続税法上の評価額、取得者、債務控除、外国税額控除などを、日本のルールであらためて整理し直す必要があります。
プロベートが必要になる財産・不要になることがある財産
プロベートが必要かどうかは、国・州・財産の種類・名義・金額・契約内容によって変わります。
一般に、次のような財産は、プロベートが必要になりやすい傾向があります。
| 財産 | 注意点 |
|---|---|
| 被相続人単独名義の海外不動産 | 現地登記移転にGrantや裁判所書類が必要になることがある |
| 被相続人単独名義の海外預金口座 | 銀行がGrant、Letters、死亡証明、相続関係書類を求めることがある |
| 海外証券口座 | ブローカーやカストディアンの所在地・口座契約により手続が異なる |
| 海外法人株式 | 株主名簿の書換え、会社法、定款、現地税務が絡む |
| 遺言で海外財産を指定している場合 | 遺言の形式・翻訳・現地裁判所の確認が必要になることがある |
反対に、次のような財産は、プロベートを経ずに移転できる場合があります。ただし、それで日本の税務・贈与税・遺留分・家族間公平の問題まで消えるわけではありません。
| プロベート不要となり得る仕組み | 注意点 |
|---|---|
| Joint Tenancyなどの共同保有 | 生前設定時に贈与税・みなし贈与・取得者課税の論点が生じる可能性 |
| Payable on Death、Transfer on Death | 指定受取人の税務、遺留分、相続税評価を確認 |
| beneficiary指定の生命保険・退職口座 | 日本の相続税上のみなし相続財産や課税関係を確認 |
| Living Trustなどの信託 | 信託設定時・受益権移転時・相続時の日本税務を確認 |
| 少額財産手続 | 国・州・金融機関ごとに上限や要件が異なる |
たとえば英国政府は、共同所有の株式・金銭や、joint tenantsとして所有される土地・建物は、原則として生存所有者へ移るため、probateが不要となる場合があると説明しています。
出典:GOV.UK|Applying for probate: What is probate
シンガポール裁判所も、CPF口座、一定の保険、joint tenancyの不動産、一定の共同銀行口座などについて、grantが不要となる場合があると説明しています。
出典:Singapore Courts|Probate and administration
米国の実務でも、Joint Tenancy、Living Trust、Transfer-on-Death Deed、Pay-on-Death指定などによって、プロベート回避が検討されることがあります。ただし、共同保有の設定には日本の贈与税の論点が生じる可能性があり、単に「プロベートを避けられるから有利」と言い切ることはできません。
海外遺言を作るべきか|一通の遺言で足りるとは限らない
国外財産がある場合、遺言の設計はとても重要になります。
日本国内の財産しかないのであれば、日本の公正証書遺言や自筆証書遺言を中心に考えることが多いでしょう。しかし、海外不動産、海外口座、外国法人株式があるとなれば、その日本の遺言が現地でそのまま使えるのかを、あらかじめ確認しておく必要があります。
遺言については、次の3つを分けて考えます。
| 区分 | 確認する内容 |
|---|---|
| 方式の有効性 | 署名、証人、日付、作成方法など形式面が有効か |
| 内容の有効性 | 誰に何を取得させるかが、準拠法・遺留分・強行法規に反しないか |
| 執行可能性 | 金融機関、登記機関、裁判所がその遺言で手続を進められるか |
日本には「遺言の方式の準拠法に関する法律」があり、遺言の方式については、行為地法、遺言者の国籍国法、住所地法、常居所地法、不動産所在地法など、一定の法のいずれかに適合すれば方式上有効とされる枠組みが設けられています。
出典:e-Gov法令検索|遺言の方式の準拠法に関する法律
ただし、方式上有効であることと、海外の銀行・登記機関・裁判所で手続が円滑に進むことは、別の話です。
たとえば、日本語の公正証書遺言が方式上は有効であっても、現地では次のような追加対応を求められることがあります。
- 認証済み英訳または現地語訳
- アポスティーユまたは領事認証
- 現地弁護士による法意見書
- 日本法が相続準拠法であることの説明書
- 日本の遺言執行者の権限を示す資料
- 現地裁判所でのGrant取得
- 現地法上のexecutorの指定
- 現地の相続税・遺産税申告
ですから、国外財産がある場合には、「日本の遺言を作ったから安心」ではなく、その遺言で海外財産が実際に動くのかまで確認しておくことが欠かせません。
海外遺言を別に作る場合の注意点
海外財産については、財産所在地国の法制度に合わせた遺言を別途作成することがあります。たとえば、日本財産には日本の公正証書遺言を、米国不動産には米国州法に合わせたWillまたはTrustを、シンガポール資産には現地Willを準備する、といった設計です。
この方法には、現地手続を進めやすくなるという利点があります。一方で、見落としてはならない注意点もあります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 遺言の撤回条項 | 後に作った海外遺言が、日本の遺言まで撤回する書き方になっていないか |
| 財産範囲の重複 | 同じ財産について複数の遺言で異なる指定をしていないか |
| executorの不一致 | 日本の遺言執行者と海外のexecutorの役割が矛盾しないか |
| 遺留分・強行法規 | 日本の遺留分、現地のforced heirship等を確認 |
| 税務上の取得者 | 遺言上の取得者と日本の相続税申告上の取得者が一致するか |
| 翻訳・保管 | 相続発生後に発見・提出できる状態か |
| 口座・不動産の変動 | 作成後に資産を売却・移管した場合の影響 |
とりわけ危ういのが、海外の専門家が作成したWillに「I revoke all prior wills.」のような包括的な撤回文言が入っているケースです。これによって、日本で作成した遺言まで撤回されたと解釈される余地が生まれると、国内財産の承継設計まで崩れてしまうおそれがあります。
海外遺言を作る際には、「この遺言は、どの国のどの財産を対象にするのか」をはっきりさせ、日本の遺言との関係を必ず確認しておく必要があります。
日本の遺言執行者は海外財産にも当然に権限を持つのか
日本の遺言で遺言執行者を指定しておくことは、国内手続では非常に重要です。
遺言執行者が指定されていれば、遺言の執行に必要な財産は遺言執行者の管理下に置かれ、遺言内容を実現するための実務が進めやすくなります。とくに清算型・換価型の遺言では、遺言執行者が不動産を売却して換価金を分配するため、遺言執行者の指定が大きな意味を持ちます。
また、遺言執行者が有価証券や不動産を換価し、その換価金を相続人へ分配する遺言では、相続税だけでなく、換価時の譲渡所得税も問題になります。遺言・遺産分割による財産移転では、相続税と譲渡所得税等の課税関係を切り離さずに確認しておく必要があります。
もっとも、日本の遺言執行者が、海外の金融機関や登記機関に対して当然に権限を行使できるとは限りません。
現地側からは、次のような反応が返ってくることがあります。
- 日本の遺言執行者ではなく、現地裁判所が認めたexecutorを求める
- 日本の遺言書に現地でのprobateを求める
- 日本の家庭裁判所や公証人の制度説明を求める
- 遺言執行者の権限証明に翻訳・認証を求める
- 現地弁護士経由でなければ受理しない
- 日本法に基づく相続人全員の同意書を追加で求める
そのため、海外財産がある場合の遺言では、遺言執行者を指定するだけでなく、現地で実際に財産を動かせる体制まで考えておく必要があります。海外に相続人がいる場合や、遠方に子がいる場合には、手続を円滑に進めるうえで遺言執行者の指定が重要になることがあります。
日本の遺産分割協議書だけで海外財産を動かせるか
日本で作成した遺産分割協議書が、海外財産の名義変更に使えるかどうかは、国・財産・金融機関・登記機関によって異なります。
海外の金融機関や登記機関から求められる可能性のある資料には、次のようなものがあります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 死亡証明書 | 被相続人の死亡確認 |
| 戸籍謄本・除籍謄本 | 相続人関係の確認 |
| 法定相続情報一覧図 | 日本側の相続関係の整理 |
| 遺産分割協議書 | 誰が取得するかの確認 |
| 署名証明・印鑑証明 | 相続人の意思確認 |
| 遺言書 | 財産承継者・executorの確認 |
| 遺言書検認済証明書 | 自筆証書遺言等の手続確認 |
| 公正証書遺言の謄本 | 遺言内容の証明 |
| Grant of Probate / Letters | 現地での管理権限確認 |
| 翻訳証明 | 提出先言語での確認 |
| アポスティーユ・領事認証 | 公文書の真正性確認 |
| 現地弁護士の意見書 | 日本法・相続関係の説明 |
海外に住む日本人相続人が日本の遺産分割協議書に署名する場合、日本の印鑑証明書を取得できないことがあります。このときは、在外公館で署名証明を取得する方法があります。外務省は、署名証明について、日本に住民登録をしていない海外在留者に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続のために発給するものであり、申請者の署名が領事の面前でなされたことを証明するものと説明しています。
出典:外務省|在外公館における証明
ただし、海外財産の手続では、日本の在外公館の署名証明だけで足りるとは限りません。現地公証人によるnotarization、現地弁護士のcertification、裁判所発行のgrant、アポスティーユなどを、あわせて求められることがあります。
翻訳・認証・アポスティーユは早めに確認する
国際相続では、書類そのものよりも、その書類を提出先が受け付ける形に整えることに時間がかかります。
日本の戸籍、死亡届関係書類、遺言書、家庭裁判所書類、公正証書、登記事項証明書などを海外へ提出する場合、提出先の国や機関によって、翻訳、アポスティーユ、公印確認、領事認証を求められることがあります。
外務省は、公印確認とアポスティーユについて、日本の官公署・自治体等が発行する公文書に対する外務省の証明であり、外国での各種手続のために日本の公文書を提出する必要があって、提出先機関や駐日大使館・領事館から求められた場合に必要になると説明しています。
出典:外務省|公印確認・アポスティーユとは
整理すると、次のようになります。
| 手続 | 主な場面 |
|---|---|
| 翻訳 | 日本語書類を英語・現地語で提出する場合 |
| 翻訳証明 | 翻訳内容が原文に対応していることを示す場合 |
| アポスティーユ | ハーグ条約締約国へ日本の公文書を提出する場合 |
| 公印確認 | 領事認証を受ける前提として外務省証明が必要な場合 |
| 領事認証 | 提出先国の大使館・領事館で認証を受ける場合 |
| 現地公証 | 現地で署名・宣誓・コピー証明を求められる場合 |
| certified copy | 裁判所・登記機関・銀行が認証済み写しを求める場合 |
外務省は、アポスティーユについて、1961年10月5日のハーグ条約に基づく証明であり、提出先国はハーグ条約締約国に限られると説明しています。取得すれば、日本にある大使館・領事館の領事認証があるものと同等のものとして、提出先国で使用できます。ただし、締約国であっても提出先機関が領事認証を求める場合があるため、事前の確認が欠かせません。
出典:外務省|公印確認・アポスティーユとは
国際相続では、「この書類は日本では有効です」と説明しても、提出先の海外機関が受け付けてくれなければ手続は前に進みません。まずは提出先に対して、必要書類、翻訳要件、認証要件、有効期限、原本の要否、電子提出の可否を確認しておくことが重要です。
日本の相続税申告期限は、海外手続を待ってくれない
海外相続手続でもっとも注意したいのが、日本の相続税申告期限です。
日本の相続税申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません。
出典:国税庁|B1-2 相続税の申告手続
海外のプロベートに1年近くかかる場合や、海外不動産の評価、現地税務申告、財産債務リストの作成に時間を要する場合でも、日本の相続税申告期限が自動的に延びることはありません。
しかも日本の相続税申告は、遺産分割が終わっていない場合でも、期限までに行う必要があります。国税庁は、相続財産が分割されていない場合でも、相続税の申告と納税は期限までにしなければならず、分割されていないことを理由に申告期限が延びることはないと説明しています。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
海外財産がある場合には、次のような対応が必要になります。
| 状況 | 日本側の実務対応 |
|---|---|
| 海外財産の評価資料が未入手 | 合理的に入手可能な資料で評価根拠を整理 |
| プロベートが未了 | 日本の取得者・評価・未分割申告の要否を検討 |
| 海外税額が未確定 | 外国税額控除を後日反映する可能性を検討 |
| 遺産分割が未了 | 法定相続分等による申告、後日の更正の請求等を検討 |
| 現地財産の換価予定あり | 相続税評価と譲渡所得税・現地税の関係を整理 |
| 海外資料の翻訳が未了 | 重要書類から優先して翻訳・要約を準備 |
「現地手続が終わってから日本の申告を考える」という進め方では、間に合わなくなることがあります。相続開始後は、国内資料と海外資料を同時並行で集めていく姿勢が求められます。
海外不動産がある場合の注意点
海外不動産は、国際相続のなかでも、もっとも手続が複雑になりやすい財産です。
税務評価だけでなく、現地の登記、所有形態、相続法、不動産法、固定資産税、賃貸借契約、管理会社、売却規制などが、いずれも関わってくるためです。
確認しておきたい主な事項は、次のとおりです。
| 確認事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 所有形態 | 単独所有、joint tenancy、tenancy in common、法人所有、信託所有 |
| 登記名義 | 被相続人名義か、共有名義か、法人・信託名義か |
| 現地手続 | Grant、裁判所命令、登記申請、notary関与の有無 |
| 評価資料 | 現地評価書、固定資産税評価、売買事例、鑑定資料 |
| 債務 | モーゲージ、管理費、固定資産税、修繕費 |
| 賃貸状況 | 賃料収入、賃貸借契約、敷金、管理委託 |
| 売却予定 | 相続税評価、譲渡所得、現地キャピタルゲイン税 |
| 日本の申告 | 国外財産として課税対象になるか、外貨換算、資料保存 |
海外不動産には、日本の財産評価基本通達をそのまま当てはめられないことがあります。現地評価資料、取引事例、固定資産税評価、鑑定評価、売却予定価格などを総合して、日本の相続税申告で説明できる評価根拠を組み立てていく必要があります。
また、現地で売却して納税資金に充てる場合には、日本の相続税申告だけでなく、現地譲渡税、日本の譲渡所得税、取得費、為替差、外国税額控除といった論点も生じてきます。
海外預金・海外証券口座がある場合の注意点
海外口座では、銀行や証券会社ごとに手続が大きく異なります。
日本の戸籍や遺産分割協議書をそのまま受け付けてくれるとは限らず、次のような資料を求められることがあります。
- 死亡証明書
- パスポートコピー
- 相続人の本人確認書類
- 日本の戸籍の翻訳
- 遺言書の翻訳
- Grant of ProbateまたはLetters of Administration
- Tax clearance関係書類
- FATCA・CRS関連書類
- 相続人の居住地国の納税者番号
- 現地弁護士またはnotaryの証明
海外口座は、相続税申告でも見落としやすい財産です。日本の税務当局は、国外送金等調書、国外財産調書、CRSによる金融口座情報の自動的交換などを通じて、海外資産に関する情報を把握する可能性があります。国際相続では、海外資産を漏れなく正しく申告することが大切です。
海外口座は、「少額だから」「現地で凍結されていて動かないから」という理由で、日本の相続税申告から外せるとは限りません。相続開始日の時点で経済的価値のある財産であれば、課税対象に含めるかどうかを検討する必要があります。
海外遺言・信託・共同名義を生前対策に使う場合
海外財産がある場合、相続発生後のプロベートを避ける目的で、生前から次のような対策が検討されることがあります。
| 対策 | 期待される効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 海外財産用の現地遺言 | 現地手続を進めやすくする | 日本遺言との抵触、撤回条項、遺留分 |
| Living Trust | プロベート回避、管理承継 | 日本の信託税務、受益権評価、贈与税 |
| Joint Tenancy | 死亡時に生存者へ移転 | 設定時の贈与税、家族間不公平、二次相続 |
| POD・TOD指定 | 口座・証券・不動産の承継簡略化 | 日本の相続税、受取人間の公平 |
| beneficiary指定 | 生命保険・年金等の受取人明確化 | みなし相続財産、遺留分、納税資金 |
| 現地法人保有 | 管理・承継を法人株式で整理 | 非上場外国株式評価、法人税務、現地法務 |
ここで押さえておきたいのは、海外手続を簡略化する対策が、日本の税務上も有利とは限らないという点です。
たとえば共同名義にすれば、プロベートを避けられる場合があります。しかし、生前に持分を追加した時点で、贈与税やみなし贈与の問題が生じることがあります。信託を設定すれば現地手続が簡略になる場合もありますが、その一方で、日本の相続税・贈与税・所得税の観点から、受益者、受益権、信託財産の帰属を慎重に確認しなければなりません。
海外対策は、「現地手続を楽にする」「税金を下げる」「家族で揉めない」「将来管理しやすい」のどれを優先するかによって、選ぶべき選択肢が変わってきます。
現地専門家と日本側専門家の役割分担
国際相続では、日本の税理士だけで完結しない論点が数多くあります。
とくにプロベート、海外遺言、海外不動産登記、現地相続税・遺産税、現地信託、現地不動産売却については、現地の弁護士、solicitor、notary、tax adviser、accountant、不動産専門家との連携が必要になることがあります。
役割分担を整理すると、次のとおりです。
| 専門家 | 主な役割 |
|---|---|
| 日本の税理士 | 日本の相続税・贈与税、国外財産評価、外貨換算、外国税額控除 |
| 日本の弁護士 | 遺産分割紛争、遺留分、相続人間の法的調整 |
| 日本の司法書士 | 国内不動産登記、法定相続情報、相続登記 |
| 現地弁護士 | プロベート、現地遺言、現地法務、裁判所手続 |
| 現地税務専門家 | 現地相続税・遺産税・所得税・譲渡税 |
| 現地不動産専門家 | 不動産評価、売却、管理、登記実務 |
| 翻訳者・認証機関 | 法律文書・税務資料の翻訳、認証対応 |
日本側の専門家に求められるのは、現地法を断定することではありません。日本の税務申告、相続人関係、財産評価、納税資金、遺産分割の論点を整理し、現地専門家へ確認すべき事項を明確にすることです。
逆に、現地専門家が、日本の相続税や遺留分、二次相続、日本の贈与税リスクまで当然に把握しているとは限りません。国際相続では、双方の専門家がそれぞれの前提を共有しておかないと、手続は進んでも、税務や家族関係に問題が残ってしまうことがあります。
海外相続手続で避けたい短絡的判断
海外相続では、次のような判断は避けたいところです。
「日本の遺産分割協議書があるから海外手続も当然にできる」
現地の銀行・登記機関・裁判所が、日本の協議書だけで財産移転を認めてくれるとは限りません。Grant、翻訳、認証、現地弁護士の書類が必要になることがあります。
「プロベートを避けられるなら共同名義にすればよい」
共同名義の設定には、贈与税、みなし贈与、相続税評価、将来の共有リスク、離婚・債権者リスクが伴うことがあります。
「海外で手続中だから日本の申告は後でよい」
日本の相続税申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。海外手続が遅れたからといって、日本の期限まで延びるわけではありません。
「海外遺言を作れば日本の遺言は不要」
海外遺言の対象財産、撤回条項、日本の遺留分、日本財産の承継、相続税上の取得者を確認しておかなければ、国内外の遺言が矛盾してしまう可能性があります。
「現地専門家に任せれば日本税務も解決する」
現地専門家は現地手続には詳しくても、日本の相続税・贈与税・国外財産評価・外国税額控除までカバーしているとは限りません。
海外相続手続で最初に整理したい資料
実際に相談を始める前に、次の資料を整理しておくと、論点の把握が早くなります。
| 分類 | 整理したい資料 |
|---|---|
| 人の情報 | 被相続人・相続人の国籍、住所履歴、在留資格、日本居住履歴 |
| 相続関係 | 戸籍、法定相続情報、家族関係図、婚姻・離婚・養子関係 |
| 遺言 | 日本遺言、海外遺言、信託契約、撤回条項、保管場所 |
| 海外財産 | 不動産登記、固定資産税資料、銀行・証券口座、外国法人株式 |
| 負債 | 海外ローン、未払税金、管理費、保証債務 |
| 現地手続 | プロベート申立書、Grant、Letters、現地弁護士資料 |
| 税務資料 | 現地相続税・遺産税申告書、納税通知、外国税額控除資料 |
| 翻訳・認証 | 翻訳書、アポスティーユ、公印確認、領事認証 |
| 分割方針 | 誰が海外財産を取得するか、誰が現地費用を負担するか |
| 納税資金 | 日本の相続税、現地税、換価予定、送金可否 |
海外相続では、資料がそろわないこと自体が、ひとつの論点になります。すべての資料が完全に集まるのを待つのではなく、何が不足しているのか、不足している資料を誰がどこで取得するのか、申告期限までにどこまで合理的に確認できるのかを整理していくことが大切です。
海外相続手続・プロベート・海外遺言に不安がある場合
海外財産がある相続では、日本の相続税申告と海外相続手続を、それぞれ別々に進めるだけでは十分とはいえません。
日本の遺産分割協議書で誰が取得するかを決めること。海外の裁判所や金融機関がその取得者を認めること。日本の相続税申告でその財産を適切に評価し、期限内に申告すること。そして、現地税務や外国税額控除を整理すること。
これらは、それぞれ別の論点でありながら、最終的には一つの相続として整合させていく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、国外財産を含む相続について、日本の相続税申告、国外財産評価、外貨換算、外国税額控除、海外手続に必要な資料整理、現地専門家との連携事項の洗い出しを支援しています。
海外不動産や海外口座の名義変更が進まない、プロベートが必要かどうか分からない、日本の遺言と海外遺言をどう整合させればよいか迷っている、日本の相続税申告期限までに海外資料がそろわない。こうした場合は、早い段階で、財産一覧・遺言・現地資料・相続人情報を整理したうえでご相談ください。
振り返り|海外相続手続・プロベート・海外遺言の基本
| 論点 | 重要ポイント | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 基本整理 | 日本税務、準拠法、現地手続を分ける | 相続人、財産所在地、現地手続 |
| 準拠法 | 日本では相続は原則として被相続人の本国法による | 通則法、現地国際私法、反致 |
| プロベート | 海外で遺産管理権限を得る手続 | Grant of Probate、Letters of Administration |
| 日本の協議書 | 海外財産が必ず動くとは限らない | 翻訳、認証、現地弁護士書類 |
| 海外遺言 | 方式有効性と執行可能性は別問題 | 日本遺言との整合、撤回条項 |
| 遺言執行者 | 日本では重要でも海外で当然に通用するとは限らない | 現地executor、administrator |
| プロベート回避 | 共同名義・信託・受取人指定で回避できる場合がある | 贈与税、相続税、遺留分 |
| 翻訳・認証 | 提出先が求める形式に整える必要がある | アポスティーユ、公印確認、領事認証 |
| 申告期限 | 海外手続中でも日本の期限は原則10か月 | 未分割申告、更正の請求 |
| 海外不動産 | 登記、評価、売却、現地税務が絡む | 所有形態、評価資料、債務 |
| 海外口座 | 金融機関ごとに必要書類が異なる | Grant、本人確認、税務情報 |
| 専門家連携 | 日本側と現地側の役割分担が重要 | 税理士、弁護士、司法書士、現地専門家 |
| 説明可能性 | 申告後に根拠を説明できる状態にする | 財産資料、翻訳、判断メモ |