個人事業や副業を始めたとき、多くの方がまず気にされるのは、「開業届を出すべきか」「青色申告にした方がよいか」「どこまで経費にできるか」といった点ではないでしょうか。
もちろん、これらはいずれも大切な論点です。
ただ、税務の観点から言えば、開業届を出したかどうかだけで全体が決まるわけではありません。実務のなかで本当に最初に整理しておきたいのは、次のような問いです。
- 自分の収入は、事業所得なのか、雑所得なのか
- 給与や報酬と混在していないか
- 売上はいつ計上すべきか
- 経費は、事業と家計を分けて説明できるか
- 青色申告を選ぶだけの帳簿体制を整えられるか
- 消費税やインボイス、源泉徴収まで確認する必要があるか
- 翌年以降の納税資金や税務調査に耐えられる資料を残せるか
個人事業・副業の税務は、単に確定申告書を作る作業ではありません。収入、契約、入出金、資料、事業実態、そして生活費との境界を、後から説明できる形に整えていく作業です。
この記事では、個人事業・副業を始めたときに最初に押さえておきたい税務の全体像を整理します。業種ごとの許認可や行政手続の詳細には立ち入らず、所得税・消費税・源泉徴収・帳簿保存を中心に、税務判断の土台を確認していきます。
まず確認したいのは「収入の性質」
個人が新しく収入を得始めたからといって、その収入がすぐに「事業所得」になるとは限りません。
所得税では、収入の内容に応じて所得区分を分けて考えます。個人事業や副業で特に問題になりやすいのは、事業所得、雑所得、給与所得の区分です。
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生じる所得を指します。ただし、不動産の貸付けによる所得は原則として不動産所得、山林の譲渡による所得は原則として山林所得となり、事業所得とは別に整理します。事業所得の金額は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します
出典:国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
ここで大切なのは、「屋号を付けたから事業所得」「開業届を出したから事業所得」「副業だから雑所得」といった、形式だけの判断ではないという点です。
事業所得か雑所得かを考えるときは、少なくとも次のような観点を確認します。
- 継続的に収入を得る活動か
- 営利性があるか
- 自分の計算と責任で行っているか
- 帳簿や請求書、契約書、入出金記録を残しているか
- 収入規模や活動実態から、社会通念上「事業」といえるか
- 赤字の場合、その赤字を解消するための取組があるか
国税庁の所得税基本通達の改正資料でも、帳簿書類の保存がない場合には、一般的に営利性、継続性、企画遂行性を有しているとは認め難く、原則として事業所得には区分されないものと考えられる旨が示されています。ただし、収入金額が300万円を超えるような規模で行っている場合には、帳簿書類の保存がないことだけで判定するのではなく、事業所得と認められる事実があるかを個別に判断するという整理になっています。
出典:国税庁|法第35条《雑所得》関係 所得税基本通達の改正について
したがって、個人事業・副業を始めた段階でまずすべきことは、「何所得にしたいか」を決めることではありません。取引実態、契約、請求、入金、支出、活動の継続性、帳簿保存の有無を確認し、どの所得区分として説明できるかを整理することです。
所得区分を誤ると、必要経費、青色申告、損益通算、消費税、税務調査対応にまで影響が及びます。とりわけ、事業所得として赤字を他の所得と通算したい場合や、青色申告特別控除を受けたい場合には、事業として説明できる実態と帳簿が重要になります。
開業届は「事業を始めたことを届ける手続」であり、事業所得の証明そのものではない
個人が新たに事業を開始した場合、所得税、源泉所得税、消費税に関する各種届出が必要になることがあります。国税庁は、代表的な届出として、個人事業の開業・廃業等届出書、所得税の青色申告承認申請書、青色事業専従者給与に関する届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書などを案内しています。
出典:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
このうち個人事業の開業・廃業等届出書は、新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき、または事業を廃止したときの手続です。現行の手続案内では、事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出することとされています。
ただし、開業届の提出は、税務上「事業を開始したことを届け出た」という意味を持つにとどまります。開業届を出しさえすれば、どのような副業でも当然に事業所得になる、というものではありません。
実務のうえでは、開業届を出す前に、次のような点を整理しておくことが重要です。
- 事業内容を具体的に説明できるか
- 収入の相手先、契約形態、請求方法が整理されているか
- 売上用の口座や決済手段を把握できるか
- 経費にする支出と生活費が混在していないか
- 継続的に記帳できるか
- 従業員、外注先、家族への支払があるか
- 消費税やインボイス登録の検討が必要か
開業届は、あくまで税務管理の入口です。税務判断の本体は、その後の取引実態と資料の保存にあります。
青色申告は「節税制度」ではなく、帳簿を前提とする制度
個人事業を始めると、多くの方が青色申告を検討されます。
青色申告には、青色申告特別控除、青色事業専従者給与、純損失の繰越控除といったメリットがあります。ただ、青色申告は「出せば得をする制度」というより、一定の帳簿と資料保存を行うことを前提に、税務上の特典が認められる制度だとお考えください。
所得税の青色申告承認申請書は、原則として青色申告書による申告をしようとする年の3月15日までに提出します。その年の1月16日以後に新たに事業を開始したり、不動産の貸付けを開始したりした場合には、その事業開始等の日から2か月以内に提出する必要があります。
青色申告特別控除のうち55万円控除を受けるためには、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、その所得に係る取引を正規の簿記の原則、一般的には複式簿記により記帳し、貸借対照表・損益計算書等を確定申告書に添付して期限内に申告することなどが必要です。一定の要件を満たす場合は65万円控除、簡易な帳簿の場合は10万円控除となります。
さらに、令和9年分以後の所得税については、事業所得または不動産所得に係る取引を簡易な簿記で記録している方のうち、前々年分の不動産所得または事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える方は、10万円の青色申告特別控除を適用できなくなる旨が案内されています。一方で、一定の要件を満たす優良な電子帳簿を作成・保存する場合には、最大75万円の控除が示されています。
出典:国税庁|簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ
青色申告を選ぶかどうかは、控除額の大きさだけで判断すべきではありません。むしろ、次のような状態を整えられるかどうかが鍵になります。
- 売上、入金、未収入金を記録できるか
- 経費、未払金、カード決済を整理できるか
- 事業用と家計用の支出を区分できるか
- 固定資産、減価償却、棚卸がある場合に管理できるか
- 電子データや紙の証憑を保存できるか
- 確定申告期限までに決算書を作成できるか
青色申告は、税務上有利な制度である一方で、数字を整える責任も伴います。帳簿が整っていないまま控除や赤字だけを主張すると、後から説明に苦労することがあります。
売上は「入金された日」だけで判断しない
個人事業・副業を始めたばかりの方が間違えやすいのが、売上の計上時期です。
銀行口座に入金された日を売上の日として処理したくなりますが、所得税では、年末までに実際に金銭を受け取っていなくても、「収入すべき権利の確定した金額」がその年の収入金額になります。国税庁のタックスアンサーでも、実際に金銭等を受領したか、代金を請求したかにかかわらず、取引の内容や性質、契約の取決め、慣習などによって収入すべき時期を判定する旨が示されています。
たとえば、役務提供が完了して請求権が確定しているのに、入金が翌年になる場合があります。反対に、入金は受けていても、まだサービス提供前で前受金として整理すべき場合もあります。
そのため、開業の時点から、次のような資料を分けて保管しておく必要があります。
- 契約書や申込書
- 見積書、注文書、発注書
- 納品書、業務完了報告書
- 請求書
- 入金明細
- 返金、値引き、キャンセルに関する記録
売上とは、単に「通帳に入った金額」ではありません。どの取引について、いつ権利が確定し、いくらを収入にすべきかを整理する必要があります。
これは税務調査への備えだけでなく、資金繰りの管理にも関わってきます。入金ベースだけで数字を見ていると、未収入金、前受金、未払金、消費税、源泉徴収後の入金額などを誤って理解してしまうことがあります。
必要経費は「払ったか」ではなく「事業との関係」と「説明可能性」で判断する
個人事業・副業で最もご相談が多いのが、必要経費です。
必要経費に算入できる金額は、総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用、そしてその年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用です。必要経費となる金額は、原則としてその年に債務が確定した金額であり、支払済みか未払かだけで判断するものではありません。
経費にできるかどうかは、「事業のために払ったつもり」という主観だけでは足りません。少なくとも、次の観点から説明できる必要があります。
- その支出は、どの収入を得るために必要だったのか
- 支出の相手先、内容、金額、日付を資料で確認できるか
- 私的な支出と混在していないか
- 同じような支出を、継続的に同じ基準で処理しているか
- 事業規模や収入内容に照らして不自然ではないか
特に注意しておきたいのが、家事関連費です。
自宅兼事務所の家賃、水道光熱費、通信費、車両費、パソコン、スマートフォン、書籍、交際費などは、事業にも生活にも関係することがあります。こうした支出は、全額が当然に経費になるわけではありません。
国税庁は、家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限られるとしています。
ですから、開業の時点から、「何を経費にするか」だけでなく、「どう区分し、どう証明するか」まで決めておく必要があります。
たとえば、自宅を仕事に使うのであれば、面積、使用時間、利用実態などをもとに、合理的な按分基準を決めて継続的に用います。車両を使うのであれば、走行距離、訪問記録、用途を残します。通信費であれば、事業利用と私用利用の実態を踏まえます。
大切なのは、税務署に対してだけでなく、将来の自分にも説明できるようにしておくことです。開業直後は小さな支出でも、年数が経てば記憶は薄れていきます。資料と処理基準を残しておくことが、後日のリスクを大きく減らしてくれます。
帳簿保存は、白色申告でも必要になる
「青色申告にしなければ帳簿はいらない」とお考えの方がいますが、これは誤解です。
白色申告であっても、事業所得、不動産所得または山林所得を生ずべき業務を行うすべての方が、記帳・帳簿等の保存制度の対象になります。所得税等の申告が必要ない方も、この制度の対象とされています。
出典:国税庁|個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
白色申告の場合でも、売上げなどの収入金額、仕入れや経費に関する事項について、取引年月日、相手方の名称、金額、日々の売上げ・仕入れ・経費の金額等を帳簿に記載する必要があります。収入金額や必要経費を記載した法定帳簿は7年、請求書・納品書・領収書などの書類は原則として5年保存する必要があります。
出典:国税庁|個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
また、令和4年以降は、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える方について、その業務に係る現金預金取引等関係書類を保存する必要があります。つまり、雑所得であっても、一定規模を超える業務については資料の保存が求められるということです。
出典:国税庁|個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
帳簿保存は、税務署に見せるためだけのものではありません。事業を始めたばかりの時期こそ、次のような判断の材料になります。
- どの取引先から収入が増えているか
- どの支出が利益を圧迫しているか
- 売上はあるのに現金が残らない原因は何か
- 消費税の課税事業者になる可能性があるか
- 法人成りを検討すべき段階に近づいているか
- 金融機関や専門家に数字を説明できるか
帳簿は、単なる申告資料ではなく、事業判断の基盤なのです。
電子取引は、データ保存のルールも確認する
最近は、請求書、領収書、契約書、明細書をPDFやメール、クラウドサービスで受け取ることが一般的になりました。この場合、電子帳簿保存法の確認も必要になります。
電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律であり、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法も定めています。国税庁は、所得税法・法人税法上の保存義務者となる方に対して、特に電子取引について確認するよう案内しています。
電子取引関係のページでは、令和6年1月以降の電子取引データの保存方法やチェックシートなどが案内されています。
実務上は、次のような資料を受け取ったときに注意が必要です。
- メール添付の請求書PDF
- クラウド請求書サービス上の請求書
- ECサイトの購入明細
- クレジットカード利用明細
- オンライン決済の取引履歴
- 電子契約書
- チャットや管理画面上で発行される取引データ
紙で受け取った領収書を保管する感覚だけでは、電子取引には対応しきれません。開業の時点から、電子データをどこに、どの名前で、どのように保存するかを決めておくことが大切です。
クラウド会計を使う場合も、連携されたデータがあるだけでは足りません。請求書、領収書、契約書、取引内容を確認できる資料を保存し、帳簿と紐づけられる状態にしておく必要があります。
消費税は「最初は関係ない」と決めつけない
個人事業・副業を始めたばかりの段階では、どうしても所得税だけを考えがちです。
しかし、事業内容や取引先によっては、消費税とインボイスの検討が早い段階で必要になることがあります。
消費税では、個人事業者または法人のその課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合、原則として納税義務が免除されます。個人事業者の基準期間は前々年です。新たに開業した個人事業者のように、その課税期間について基準期間における課税売上高がない場合は、原則として納税義務が免除されますが、一定の場合には免除されません。
出典:国税庁|No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
国税庁の「暮らしの税情報」でも、消費税について、新規開業年とその翌年は原則として免税事業者となること、ただし免税事業者でも課税事業者を選択できること、また適格請求書発行事業者の登録を受けている間は免税事業者になれないことが案内されています。
したがって、開業直後であっても、次のような場合には消費税を早めに確認しておくべきです。
- 取引先からインボイス登録を求められている
- 売上規模が短期間で大きくなりそうである
- 設備投資や高額な仕入れがある
- 課税売上と非課税売上が混在する
- 業務委託、物販、店舗、不動産賃貸など複数の収入がある
- 将来的に法人成りを検討している
インボイス制度は、令和5年10月1日から始まりました。国税庁は、この制度を、複数税率に対応し、事業者が消費税を正確に納めるために必要な制度として説明しています。インボイスは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝える書類またはデータであり、インボイス発行事業者として登録を受けると、課税事業者として消費税の申告が必要になります。
インボイスの保存がない仕入れや経費については、原則として仕入税額控除ができません。ただし、簡易課税制度や2割特例・3割特例などを使うことで、受け取ったインボイスを保存しなくても仕入税額控除を受けられる場合があること、令和13年9月末までは経過措置があることも案内されています。
また、2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった方を対象とする負担軽減措置で、適用できる期間は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間とされています。
出典:国税庁|2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
ここで大切なのは、「免税事業者だから消費税は考えなくてよい」と決めつけないことです。インボイス登録をするかどうかは、税額だけでなく、取引先との関係、価格交渉、請求書の発行、経理の負担、将来の課税事業者化まで含めて判断する必要があります。
源泉徴収は「引かれる側」だけでなく「支払う側」の義務も確認する
副業・個人事業では、報酬を受け取るときに源泉徴収されることがあります。
一方で、自分が誰かに給与や報酬を支払う側になると、源泉徴収義務者としての対応が必要になる場合があります。
国税庁は、会社や個人が人を雇って給与を支払ったり、税理士、弁護士、司法書士などに報酬を支払ったりする場合には、その支払の都度、支払金額に応じた所得税および復興特別所得税を差し引くことになっていると説明しています。差し引いた税額は、原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納める必要があります。
また、源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、支払を受ける者が居住者か内国法人かによって異なります。居住者に対する代表的な対象としては、原稿料や講演料、弁護士・公認会計士・司法書士等の特定資格者への報酬、芸能関係の報酬などが挙げられています。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
開業時に特に注意しておきたいのは、次の場面です。
- 従業員を雇って給与を支払う
- 家族に給与を支払う
- 外注先に報酬を支払う
- 税理士、弁護士、司法書士、デザイナー、ライター、講師などに報酬を支払う
- 源泉徴収された報酬を自分の売上として計上する
受け取る側の場合、源泉徴収後の入金額だけを売上にすると誤りになることがあります。売上は原則として源泉徴収前の総額で把握し、差し引かれた源泉所得税は確定申告で精算する形になります。
支払う側の場合は、源泉徴収の有無、納付期限、納期の特例、支払調書、年末調整などを確認する必要があります。源泉徴収は、所得税の確定申告とは別の義務です。開業直後は見落とされやすいため、外注や給与の支払を始める前に整理しておくことが重要です。
事業用口座・カード・決済手段は、税務判断の精度を左右する
個人事業・副業では、事業と家計が混ざりやすいことが最大の難点です。
税法上、個人の財布が一つであること自体が問題なのではありません。問題は、後から事業取引と私的支出を区分できなくなることです。
開業の時点で、できるだけ次のような運用を整えておくと、後の申告がぐっと楽になります。
- 事業収入を受ける口座を決める
- 事業用のクレジットカードや決済手段を分ける
- 現金取引をできるだけ減らす
- 請求書番号や取引先名を統一する
- レシートは撮影・保存だけでなく、内容を帳簿と紐づける
- プライベート支出を事業口座から払った場合の処理ルールを決める
- 事業用資産の購入日、取得価額、使用開始日を記録する
ここで目的とすべきなのは、見た目のきれいな会計データを作ることではありません。取引の流れを説明できるようにしておくことです。
- 入金がどの請求に対応するのか
- カード明細がどの領収書に対応するのか
- 現金で支払った経費の相手先と内容は何か
- 事業用と私用が混在する支出をどう按分したのか
- 固定資産をいつ取得し、いつ使い始めたのか
これらを説明できる状態にしておくことが、申告の正確性だけでなく、納税資金の見通し、金融機関への説明、将来の法人成りの判断にもつながっていきます。
開業初年度に確認したい主要な税務論点
個人事業・副業の開業初年度は、申告期限の直前になって慌てるより、早い段階で次の論点を確認しておくことが大切です。
所得区分
- 事業所得として申告できる実態があるか
- 雑所得として整理すべき収入ではないか
- 給与所得との境界は明確か
- 業務委託契約でも、実態が雇用に近くないか
- 不動産収入や資産売却が混在していないか
届出
- 開業届を提出する必要があるか
- 青色申告承認申請書の期限に間に合うか
- 青色事業専従者給与の届出が必要か
- 棚卸資産や減価償却資産の届出を検討すべきか
- 給与支払事務所等の開設届出書が必要か
- 消費税課税事業者選択届出書やインボイス登録を検討すべきか
収入
- 売上計上時期は入金日でよいのか
- 未収入金や前受金がないか
- 源泉徴収前の総額を把握しているか
- 売上以外の雑収入、リベート、補助金、保険金などがないか
- プラットフォーム手数料控除後の入金だけを売上にしていないか
経費
- 事業関連性を説明できるか
- 家事関連費の按分基準があるか
- 領収書、請求書、契約書、支払記録がそろっているか
- 固定資産として処理すべき支出を一括経費にしていないか
- 生計を一にする親族への支払を安易に経費にしていないか
帳簿・資料
- 会計ソフトの入力ルールを決めているか
- 紙資料と電子データの保存場所を分けて管理しているか
- 売上、経費、未収入金、未払金、固定資産を確認できるか
- 電子取引データをデータのまま保存できているか
- 確定申告期限までに決算書を作れる状態か
消費税・インボイス
- 現在は免税事業者か
- インボイス登録を受ける必要があるか
- 取引先が課税事業者か、消費者向けか
- 課税売上、非課税売上、不課税取引を区分できるか
- 簡易課税や2割特例などの検討が必要か
- 設備投資や不動産取得があるか
源泉徴収
- 自分の報酬が源泉徴収されているか
- 支払調書がなくても売上を把握できるか
- 従業員や外注先への支払があるか
- 源泉徴収が必要な報酬・料金等を支払っていないか
- 源泉所得税の納付期限や納期の特例を確認しているか
納税資金
- 所得税だけでなく、住民税、個人事業税、国民健康保険、消費税への影響を見ているか
- 利益が出ているのに資金が残らない構造になっていないか
- 源泉徴収後の入金額を手取り利益と誤解していないか
- 翌年以降の予定納税や消費税申告の可能性を見込んでいるか
「とりあえず確定申告」ではなく、開業時点で判断の前提を整える
個人事業・副業の税務は、申告時期になってから一年分の資料をまとめて集めると、どうしても判断が粗くなりがちです。
特に、次のような状態になっている場合は、申告書を作る前に、前提の整理が必要です。
- 事業所得か雑所得か迷っている
- 副業の赤字を給与所得と通算したい
- 経費にしたい支出の私用部分が大きい
- 事業用口座と生活費の口座が混在している
- 領収書や請求書が不足している
- インボイス登録を求められている
- 従業員、家族、外注先への支払がある
- 消費税の課税事業者になる可能性がある
- 売上は増えているが資金が残らない
- 将来的に法人化や不動産活用を考えている
このような場合に必要なのは、「税額を少し下げる方法」だけではありません。収入、経費、帳簿、資料、消費税、源泉徴収、納税資金を一体で見て、事業として説明できる状態を作ることです。
開業直後は、税務判断の土台を整える最も重要な時期です。ここで処理方法を曖昧にしてしまうと、後から何年分もの修正が必要になることがあります。反対に、最初にしっかり整理しておけば、確定申告、資金繰り、事業拡大、法人成り、不動産活用などの判断がしやすくなります。
専門家に相談するなら、結論より先に「事実関係」を整理する
税理士に相談するとき、「経費にできますか」「青色申告にした方がよいですか」「インボイス登録すべきですか」と、結論だけを聞きたくなるかもしれません。
しかし、適切な判断には前提が必要です。
- どのような事業をしているのか
- 契約は雇用か、請負か、業務委託か
- 収入は誰から、どのように入金されるのか
- 請求書や契約書はあるか
- 事業に使う資産は何か
- 自宅や車両、通信費をどの程度使っているか
- 家族や外注先に支払う予定があるか
- 取引先からインボイス登録を求められているか
- 将来、法人化や不動産投資を考えているか
これらの事実が整理されていないと、税務判断はどうしても一般論にとどまってしまいます。
反対に、事実と資料が整理されていれば、どこにリスクがあるのか、どこまで自分で対応できるのか、どこから専門家が関与すべきなのかが明確になります。
個人事業・副業の税務は、単年の申告だけで終わるものではありません。始めた年の判断が、翌年以降の青色申告、損益通算、消費税、インボイス、源泉徴収、納税資金、税務調査対応にまで影響していきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
個人事業や副業を始めた段階で、所得区分、開業届、青色申告、帳簿保存、必要経費、消費税、インボイス、源泉徴収まで整理しておきたい方は、早い段階で事実関係と資料を確認しておくことが重要です。
特に、事業所得と雑所得の区分に迷う場合、経費と家計の線引きに不安がある場合、青色申告やインボイス登録を検討している場合、外注・給与・家族への支払がある場合は、申告期限の直前ではなく、取引が動き始めた段階で整理しておく方が安全です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、単に申告書を作成するだけではなく、取引実態、契約、入出金、証憑、帳簿、そして将来の税務リスクを踏まえ、後から説明できる形で個人の税務判断を整える支援を行っています。
個人事業・副業の始め方や、初年度から整えておくべき税務体制についてご相談されたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。
この記事の振り返り
| 論点 | 開業時に確認すべきこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 所得区分 | 事業所得、雑所得、給与所得のどれに当たるか | 開業届を出しただけで事業所得になるわけではない |
| 開業届 | 個人事業の開業・廃業等届出書の提出要否と期限 | 届出は入口であり、実態と帳簿が重要 |
| 青色申告 | 青色申告承認申請書の期限、帳簿体制、控除要件 | 控除額だけでなく、複式簿記・資料保存が前提 |
| 売上 | 入金日ではなく、収入すべき権利の確定時期を確認 | 未収入金、前受金、源泉徴収後入金に注意 |
| 必要経費 | 事業関連性、支出内容、証憑、債務確定を確認 | 私的支出や家事関連費は合理的な区分が必要 |
| 帳簿保存 | 白色申告でも記帳・帳簿保存が必要 | 申告不要の場合でも保存制度の対象になり得る |
| 電子取引 | PDF、メール、クラウド明細などの保存方法を確認 | 電子データは保存ルールを開業時から決める |
| 消費税 | 免税事業者か、課税事業者か、インボイス登録が必要か | 登録を受けると消費税申告が必要になる |
| 源泉徴収 | 自分が引かれる側か、支払う側かを確認 | 給与や一定の報酬を支払う場合は納付義務に注意 |
| 納税資金 | 所得税、住民税、事業税、国保、消費税まで見込む | 売上と手元資金は一致しない |
| 相談前整理 | 契約、請求、入出金、領収書、事業内容を整理 | 結論だけでなく、判断の前提を専門家と確認する |