親族間・法人間の低額譲渡と時価の税務リスク|みなし譲渡・みなし贈与・同族会社取引の判断軸

親子の間で不動産を安く売る。個人事業で使っていた資産を、自分が設立した法人へ移す。会社が所有する車両や建物を、役員や親族に低い価格で譲る。あるいは、同族会社に不動産を集約して、将来の相続や管理をしやすくしておく。

こうした取引では、「家族の間なのだから自由に決めてよい」「自分の会社なのだから簿価で移せばよい」「固定資産税評価額や路線価を使っておけば問題ない」と考えてしまいがちです。

ところが税務の世界では、売買契約書に書いた金額だけで話が完結するとは限りません。取引価額が時価から大きく離れていると、売った側に譲渡所得課税が生じることもあれば、買った側に贈与税・法人税・所得税が生じることもあります。さらに、同族会社の株主にまでみなし贈与の問題が波及することもあります。

低額譲渡の怖さは、「安く売ったのだから税金も少なくて済む」という単純な話にはならない点にあります。形式のうえでは売買であっても、時価との差額については、別の利益移転があったものとして整理される場合があるのです。

この記事では、親族間・法人間の低額譲渡について、時価、みなし譲渡、みなし贈与、法人税、同族会社株主への波及、そして確認しておきたい資料を順に整理していきます。

なお本稿では、個人の所得税・贈与税・法人税・消費税が交差する低額譲渡の判断軸を扱います。不動産鑑定評価の詳細な手法、非上場株式評価の詳細な計算、組織再編税制、グループ通算制度、国際税務、訴訟戦略までは対象としていません。実際の取引にあたっては、その時点の法令や通達、評価資料、契約の実態を確認する必要があります。

目次

低額譲渡は「安く売った取引」ではなく、時価との差額をどう説明するかの問題

低額譲渡とは、一般に、資産を時価より低い価額で譲渡することをいいます。

もっとも、税務上の論点は「時価より少しでも安ければ直ちに課税される」という単純なものではありません。問われるのは、誰から誰へ、どの資産を、どのような関係・目的・価格根拠のもとで移したのか、という点です。

まず確認しておきたいのは、次の3点です。

確認事項なぜ重要か
取引当事者個人間、個人から法人、法人から個人、法人間で課税関係が変わる
対象資産不動産、株式、事業用資産、棚卸資産、車両、会員権などで評価・所得区分が変わる
時価と譲渡価額の差みなし譲渡、みなし贈与、受贈益、役員給与、寄附金等の判断に影響する

ここでいう「時価」は、固定資産税評価額、路線価、帳簿価額、相続税評価額のいずれか一つを機械的に当てはめれば済むものではありません。

税務上の時価は、取引の種類、資産の内容、当事者の関係、利用状況、権利関係、評価の目的によって、確認すべき資料が変わってきます。とりわけ親族間や同族会社間では、第三者どうしのような価格交渉が働きにくいため、なぜその価額で取引したのかを後から説明できる資料が重要になります。

まず押さえておきたい4つの取引パターン

低額譲渡は、当事者の組み合わせによって、税務上の見え方が大きく変わります。

取引パターン主な税務リスク
個人から個人買主側の贈与税、売主側の譲渡所得
個人から法人売主個人のみなし譲渡、法人側の受贈益、同族会社株主へのみなし贈与
法人から個人法人側の法人税・役員給与・寄附金等、個人側の給与所得・一時所得等
法人から法人売主・買主双方の法人税、寄附金、受贈益、グループ内取引の整理

同じ「時価1億円の土地を4,000万円で売る」という取引であっても、買主が子なのか、子が経営する会社なのか、自分自身の会社なのか、あるいは第三者法人なのかによって、税務上の結果はまったく違ってきます。

ですから低額譲渡を考えるときは、いきなり「いくらなら大丈夫か」と尋ねるのではなく、「誰から誰へ、何を、何のために、どの根拠で移すのか」を先に整理しておく必要があります。

個人から個人への低額譲渡|買主側にみなし贈与が生じる可能性

親から子へ不動産を安く売る。兄弟の間で共有持分を安く売る。親族の間で非上場株式を低い価額で売る。こうした個人どうしの取引では、まず買主側の贈与税を確認します。

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。この判定は、あくまで個々の具体的な事案に即して行われます。出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

ここで押さえておきたいのは、個人間のみなし贈与について「時価の2分の1以上なら必ず安全」という一律の基準があるわけではない、という点です。

法人に対する資産移転で時価譲渡とみなされる「時価の2分の1に満たない金額」という基準と、個人間の贈与税における「著しく低い価額」の判定基準とは、そもそも性質が異なります。出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

たとえば、時価1億円の土地を親から子へ6,000万円で売ったとしても、「2分の1以上だから贈与税はない」と言い切ることはできません。時価の算定根拠、土地の利用状況、借地権・地上権・共有持分といった権利関係、売主・買主それぞれの資力、代金決済の実態、売却の必要性などを、あわせて確認する必要があります。

個人間取引で確認すべきこと

個人間の低額譲渡では、少なくとも次の点を確認しておきます。

確認事項実務上のポイント
時価の根拠不動産鑑定、近隣売買事例、公示価格、路線価、固定資産税評価額、収益価格等をどう使ったか
売買価額の決定過程誰が価格を決めたか、第三者評価を取ったか、価格交渉があったか
代金決済実際に代金が支払われたか、通帳で確認できるか、分割払いなら返済実績があるか
買主の資力代金を支払える収入・預金・借入があるか
契約書売買契約書、決済日、引渡し、所有権移転登記が整合しているか
利用実態売買後に誰が使い、誰が収益を得ているか
固定資産税等売買後の負担者が買主に変わっているか

「契約書だけは作った」「代金は後で払う予定」「実際には親がそのまま使っている」「固定資産税も親が払い続けている」──こうした状態では、売買としての実態が弱くなります。税務の現場では、名義だけでなく、資金の流れ、利用の実態、収益の帰属までが確認されます。

個人から法人への低額譲渡|時価の2分の1未満なら、売主個人にみなし譲渡課税

個人が土地や建物などを法人へ低額で譲渡する場合は、所得税上のみなし譲渡に注意が必要です。

土地や建物を売却したときは、実際の売却価額を収入金額として譲渡所得を計算するのが原則です。ところが、売却先が法人で、その価額が時価の2分の1を下回る場合には、実際の売却価額ではなく、その土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得を計算することになります。出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

たとえば、同族会社の代表者個人が時価1億円の土地を会社へ4,000万円で売った場合、4,000万円ではなく1億円が譲渡所得の収入金額となります。出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

これは、非常に重要なところです。

自分の会社に安く売ったからといって、売主個人の譲渡所得までが安くなるとは限りません。時価1億円の不動産を4,000万円で会社に売った場合、個人は4,000万円しか受け取っていないにもかかわらず、所得税では1億円で売ったものとして計算される可能性があるのです。

そうなると、実際の入金額に比べて、納税に充てる資金が重くのしかかります。低額譲渡は、節税どころか、かえって納税資金の不足を招くことすらあります。

時価の2分の1以上なら必ず安全か

個人から法人への譲渡では、時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、所得税法59条1項2号の低額譲渡規定は適用されないとされています。

ただし、同族会社等に対する低額譲渡については、時価の2分の1以上であっても、その譲渡が所得税法157条の同族会社等の行為・計算の否認に該当する場合には、税務署長の認めるところにより、時価相当額で譲渡所得等を計算することができるとされています。出典:国税庁|法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

つまり、「2分の1以上だから絶対に問題ない」とは言い切れません。

とりわけ次のような取引では、価格だけでなく、取引の目的と実態についての説明が求められます。

  • 代表者個人の土地を同族会社へ移す
  • 親の不動産を子が経営する法人へ低額で売る
  • 個人事業の資産を、法人成りに伴って法人へ移す
  • 賃貸不動産を不動産管理会社へ移す
  • 相続対策として同族会社に不動産を集約する
  • 含み益の大きい資産を法人へ移し、将来の譲渡益を抑えようとする

法人化や不動産管理会社の活用では、資産移転そのものが重い税務論点になります。税率の比較や所得分散だけを見て判断してしまうと、移転時の時価課税によって、想定外の税負担が生じることがあります。

個人から法人への低額譲渡は、法人側・株主側にも波及する

個人から法人へ低額で資産を譲渡した場合、影響が及ぶのは売主個人だけではありません。買主となる法人や、その株主にまで税務上の影響が生じることがあります。

法人が時価より低い金額で資産を取得すれば、時価と支払対価との差額について、法人側で受贈益などの法人税課税が問題になり得ます。さらに、その法人が同族会社であれば、会社の純資産が増え、株式の価値が上昇することもあります。

相続税法基本通達9-2では、同族会社の株式または出資の価額が、会社に対する無償の財産提供、時価より著しく低い価額での現物出資、会社への債務免除、会社に対する著しく低い価額での財産譲渡などによって増加した場合、その株主等が株式価値の増加部分を一定の者から贈与により取得したものとして取り扱うこととされています。出典:国税庁|第9条《その他の利益の享受》関係

たとえば、父が時価1億円の土地を、子が株主となっている同族会社へ4,000万円で譲渡したケースを考えてみます。

この場合、父には個人の譲渡所得課税が問題になります。会社には低額取得による受贈益等が生じる可能性があります。そして、会社の株式価値が上昇すれば、株主である子が経済的利益を受けたものとして、みなし贈与の問題まで出てくることになります。

このように、同族会社への低額譲渡は、売主・会社・株主の三者を同時に見ておく必要があるのです。

法人から個人への低額譲渡|役員給与・給与所得・一時所得・消費税に注意

法人が個人へ資産を低額で譲渡する場合も、税務上の扱いは単純ではありません。

とくに、相手が役員なのか、役員の親族なのか、従業員、株主、取引先関係者なのかによって、税務上の性質が変わってきます。

法人が役員や特殊関係使用人に対して資産を時価より低額で譲渡した場合、その時価と譲渡価額との差額は、法人の行為によって実質的に給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらすものとして、経済的利益に該当することがあります。出典:国税庁|No.5202 役員等に対する経済的利益

法人税基本通達9-2-9でも、役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合の資産価額と譲渡価額との差額は、役員給与等に係る経済的利益に該当する例として挙げられています。出典:国税庁|第2款 経済的な利益の供与

このとき法人側では、役員給与として損金算入できるか、定期同額給与に該当するか、不相当に高額でないか、源泉徴収が必要か、といった論点が出てきます。個人側では、給与所得として課税される可能性があります。

一方、相手が役員でも従業員でもない個人であれば、差額が寄附金、交際費、販売促進費、利益供与などとして整理される余地があり、個人側では一時所得、雑所得、給与所得、配当的な性質などを検討することになります。ここは、取引関係と利益供与の理由を確認しなければ、判断のしようがありません。

消費税の低額譲渡にも注意する

法人が役員に対して資産を著しく低い価額で譲渡した場合、消費税でも時価課税が問題になることがあります。

消費税では、原則として課税資産の譲渡等の対価の額を課税標準とし、時価より低い価額で譲渡しても、通常は実際の取引価額をもとに計算します。ただし、法人が役員に対して通常の価額より著しく低い価額で譲渡等をした場合などには、時価を対価の額とみなして税額を算出します。出典:国税庁|No.6305 商品の安売りや下取りがあるとき

法人が資産を役員に対して低額譲渡した場合、資産の時価のおおむね50%に満たない金額による譲渡は、消費税上も著しく低い金額による譲渡として取り扱われます。なお、一定の棚卸資産や、役員・使用人全体に合理的な基準で行われる値引きについては、別途の取扱いがあります。出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

不動産取引では、土地の譲渡は原則として消費税が非課税ですが、建物、設備、車両、機械、備品などは課税資産に該当することがあります。法人が所有する資産を役員や親族へ低額で移すときは、所得税・法人税だけでなく、消費税についても別立てで確認しておく必要があります。

法人から法人への低額譲渡|寄附金・受贈益・グループ内取引の整理が必要

法人から法人への低額譲渡では、売主法人と買主法人の双方に、法人税の問題が生じます。

たとえば、法人Aが時価1億円の土地を法人Bへ4,000万円で譲渡した場合を考えます。法人Aでは、時価との差額が寄附金、低額譲渡損、関係会社支援、役員・株主への利益供与などとして問題になり得ます。法人Bでは、時価より低く資産を取得したことによる受贈益が問題になる可能性があります。

法人税法22条2項は、益金の額について、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡、無償による資産の譲受けなど、資本等取引以外の取引に係る収益の額を益金とする旨を定めています。無償による資産の譲渡・譲受けといった無償取引から益金が生じるという点は、税務大学校の論稿でも理論的に検討されています。出典:国税庁 税務大学校|益金が生ずる無償取引について―無償による役務の享受の取扱いに関する理論的検討―

法人間取引では、次の点を確認します。

確認事項実務上の注意点
資本関係親子会社、兄弟会社、同族会社、完全支配関係の有無
取引目的経営支援、資産整理、事業譲渡、グループ再編、債務整理など
譲渡価額時価との差額をどう説明するか
会計処理売却損益、受贈益、寄附金、資本取引の区分
税務調整寄附金損金不算入、受贈益、グループ法人税制、寄附修正など
消費税課税資産・非課税資産、課税標準、インボイス、仕入税額控除
株主への波及同族会社株式価値の増加が個人株主に影響しないか

グループ内だから価格は自由に決めてよい、という整理は危険です。法人間では、会計上の仕訳、法人税上の益金・損金、寄附金の制限、消費税、そして株主への経済的利益までが連動して動きます。

時価は「都合のよい評価額を選ぶ」ものではない

低額譲渡で最も争点になりやすいのが、時価です。

時価をめぐっては、「固定資産税評価額なら低いから使いたい」「路線価なら相続税でも使うから安全だろう」「帳簿価額なら過去からの数字だから説明しやすい」と、つい考えてしまいがちです。

しかし税務上の時価は、評価の目的と取引の内容によって、確認すべきものが変わってきます。

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合の贈与税では、土地や借地権、家屋、構築物などの時価は、通常の取引価額に相当する金額とされています。出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

一方、非上場株式を個人から法人へ贈与・低額譲渡する場合の所得税法59条の「その時における価額」については、所得税基本通達59-6により、一定の条件のもとで、財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価の例によって算定することが示されています。出典:国税庁|株式等を贈与等した場合の『その時における価額』

つまり、不動産と非上場株式とでは、時価の検討方法そのものが異なります。さらに不動産の中でも、土地、建物、借地権、底地、貸家建付地、共有持分、賃貸中の物件、自用の物件、事業用の物件では、それぞれ見方が変わってきます。

不動産の時価で確認する資料

不動産の時価を検討するときは、次のような資料を総合的に見ていきます。

資料位置づけ
不動産鑑定評価書専門的評価資料。金額規模が大きい取引では有力な根拠になる
近隣の成約事例実際の市場価格に近いが、条件の補正が必要
公示価格・基準地価公的価格。時点や地点差の補正が必要
路線価相続税・贈与税評価で使われるが、通常取引価額そのものではない
固定資産税評価額固定資産税の評価額であり、売買時価そのものではない
収益還元資料賃貸物件では賃料、空室、利回り、修繕、管理費等を反映
建物再調達価額・減価資料建物評価や残存価値の検討に利用
借地契約・賃貸借契約権利関係による価値減少・制約を確認
測量図・境界資料面積、越境、私道負担、利用制限を確認
都市計画・用途地域資料建築制限、再建築可否、容積率等を確認

親族間や同族会社間では、第三者との価格交渉がありません。それだけに、通常の売買以上に、価格根拠の資料が重みを持ちます。

「路線価の80%だから大丈夫」「固定資産税評価額と同じだから安全」といった判断ではなく、その資産を第三者に売るとしたらどの程度の価格が合理的か、を説明できるかどうかが問われます。

帳簿価額・簿価で移すことのリスク

法人成りや同族会社間の資産移転では、「帳簿価額で売れば利益は出ない」と考えることがあります。

しかし帳簿価額は、会計上・税務上の過去の取得価額や減価償却を反映した金額にすぎず、現在の時価と一致するとは限りません。

たとえば、長く保有している土地は、帳簿価額が非常に低くても、時価が大きく上昇していることがあります。逆に、減価償却を終えた建物であっても、実際には市場価値や収益価値が残っていることもあります。

簿価のまま移転した結果、時価との差額について、次のような問題が生じることがあります。

取引起こり得る問題
個人から法人へ簿価で譲渡個人のみなし譲渡、法人の受贈益、株主へのみなし贈与
法人から役員へ簿価で譲渡役員給与、法人税の損金不算入、源泉徴収、消費税
法人から関係会社へ簿価で譲渡寄附金、受贈益、グループ法人税制、消費税
親から子へ簿価相当で譲渡子へのみなし贈与、将来譲渡時の取得費整理

簿価は出発点にはなりますが、低額譲渡の判断では、あくまで時価との比較が欠かせません。

親族間売買で特に問題になりやすい場面

親から子へ不動産を安く売る

親が相続対策や生活資金の確保のために、子へ不動産を安く売るケースです。

この場合、親は譲渡所得を計算する必要があります。子のほうは、時価より著しく低い価額で取得していれば、時価との差額について贈与税が問題になります。

代金を分割払いにするのであれば、契約書だけでなく、実際の返済、利息の有無、返済原資、返済が遅れたときの対応まで整えておく必要があります。実際には返済されていない、親が返済を求めていない、親が固定資産税を払い続けている──そうした状態では、売買としての説明が弱くなってしまいます。

共有持分を親族へ安く移す

相続後の共有不動産や、兄弟の間で共有している不動産の持分を、安く売るケースです。

共有持分は、単独所有の不動産に比べて流通性が低く、評価に一定の制約を反映する余地があります。とはいえ、「共有持分だから半額でよい」「身内だから自由に割り引いてよい」ということにはなりません。

持分の売買では、第三者への売却可能性、共有者間の利用状況、管理費・固定資産税の負担、将来の共有解消、売買後の収益帰属などを確認します。

借地権・使用貸借が絡む土地を売る

親の土地を子が使っている、親の土地に子の建物が建っている、会社が代表者の土地を無償で使っている──こうした場合は、単純な更地価格だけでは判断できません。

借地権が成立しているのか、使用貸借なのか、権利金や地代の授受があるのか、無償返還届出があるのか、土地の利用実態はどうか。こうした点を一つずつ整理していく必要があります。

同族会社との取引で特に問題になりやすい場面

代表者個人の土地を会社へ売る

代表者個人が所有する土地を、自分が代表を務める会社へ売るケースです。

会社の事業用地として使う目的があったとしても、売買価額が時価から大きく離れていれば、個人の譲渡所得、法人の受贈益、他の株主へのみなし贈与が問題になります。

とくに、株主が代表者本人だけでなく、配偶者、子、兄弟、持株会社などに分かれている場合には、株式価値の移転がないかを確認しておく必要があります。

法人成りで個人事業用資産を会社へ移す

個人事業を法人化するとき、個人が使っていた設備、車両、在庫、建物、営業権などを法人へ移すことがあります。

このとき、どの資産を売買するのか、どの資産を賃貸するのか、どの資産を個人に残すのか。この切り分けを、あらかじめ整理しておかなければなりません。

設備や車両を低い価額で法人へ移せば、個人側の譲渡所得・事業所得・消費税、法人側の取得価額・減価償却・仕入税額控除に影響します。不動産を移す場合は、金額規模が大きくなるため、時価評価と納税資金の検討がとりわけ重要になります。

会社所有資産を役員・親族へ安く売る

会社が所有する車両、社宅、不動産、備品、会員権などを、役員や親族へ安く売るケースです。

差額が役員給与や経済的利益とされる場合には、法人税の損金算入制限、源泉所得税、個人側の給与所得が問題になります。また、その資産が課税資産であれば、消費税の時価課税も確認します。

「古い車だから安く売った」「使っていないから簿価で売った」という説明だけでは足りません。中古車市場価格、査定書、走行距離、修理履歴、不動産であれば査定書・鑑定書などを、証跡として残しておく必要があります。

非上場株式の低額譲渡は、特に慎重に扱う

非上場株式の親族間売買や同族会社間取引は、低額譲渡の中でも難易度の高い領域です。

非上場株式には、上場株式のような市場価格がありません。そのため、純資産価額、類似業種比準価額、配当還元価額、会社規模、同族株主かどうか、議決権割合、土地・有価証券の含み益、役員退職金、保険、借入金といった要素を確認していきます。

個人から法人へ非上場株式を低額譲渡・贈与する場合の所得税法59条の時価については、所得税基本通達59-6により、一定の読み替えをしたうえで、財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価の例によることが示されています。出典:国税庁|株式等を贈与等した場合の『その時における価額』

非上場株式では、次のような安易な判断が問題になります。

  • 額面金額で売買する
  • 直近決算の簿価純資産だけで判断する
  • 赤字会社だから価値ゼロとする
  • 配当がないから価値がないとする
  • 親族間だから任意の価格でよいとする
  • 少数株式だから一律に大幅割引する
  • 自己株式取得を通常の株式売買と同じ感覚で扱う

非上場株式は、所得税、贈与税、法人税、みなし配当、同族株主判定、事業承継税制への影響が絡み合います。低額譲渡かどうか以前に、何の目的で、誰が、どの立場で株式を移転するのかを整理しておくことが欠かせません。

「時価との差額」はどの税目で課税されるのか

低額譲渡では、時価との差額がどの税目で扱われるのかを整理しておく必要があります。

時価との差額が生じる場面主な税務上の見方
個人から個人へ低額譲渡買主側のみなし贈与
個人から法人へ時価の2分の1未満で譲渡売主個人のみなし譲渡
個人から同族会社へ低額譲渡法人の受贈益、株主へのみなし贈与が波及する可能性
法人から役員へ低額譲渡役員給与・経済的利益、法人税、源泉徴収
法人から個人へ低額譲渡個人側の給与所得・一時所得等、法人側の寄附金・交際費等
法人から法人へ低額譲渡売主側の寄附金等、買主側の受贈益等
事業用資産の移転消費税、減価償却、取得価額、固定資産台帳にも影響

この整理をしないまま「売買契約なのだから譲渡所得だけ見ればよい」と考えてしまうと、贈与税や法人税を見落とします。反対に、「贈与税だけ払えばよい」と考えれば、売主側の譲渡所得や法人側の受贈益を取りこぼすことになります。

低額譲渡を検討する前に確認すべき資料

低額譲渡のご相談では、次の資料をそろえておくと、判断の精度が大きく上がります。

資料確認する内容
売買契約書案目的物、価格、決済日、引渡日、特約
登記事項証明書所有者、取得日、担保、共有持分
固定資産税通知書地番、家屋番号、評価額、課税関係
取得時の契約書・領収書取得費、取得時期、譲渡所得計算
不動産査定書・鑑定評価書時価の根拠
近隣取引事例市場価格の補足
賃貸借契約書借地権、貸家、賃料、収益性
測量図・境界資料面積、越境、利用制限
法人の決算書法人側の受贈益、取得価額、株式価値
株主名簿同族会社株主への波及
非上場株式評価資料株式移転時の時価判断
取締役会・株主総会議事録法人の意思決定、利益相反取引の整理
通帳・借入契約書代金決済、返済能力、資金移動
固定資産台帳簿価、減価償却、法人側処理
消費税申告関係資料課税事業者、課税資産、仕入税額控除
親族関係図贈与税、株式価値移転の確認
取引目的のメモなぜその取引が必要かを説明する資料

とくに同族会社取引では、契約書だけでなく、法人の意思決定に関する資料が重要になります。役員との取引では、利益相反取引として会社法上の承認が必要になる場合もあり、税務以前に、法務資料の整備が求められます。

低額譲渡で避けたい典型的な判断ミス

固定資産税評価額や路線価を「そのまま時価」と考える

固定資産税評価額や路線価は、重要な参考資料ではあります。ただ、低額譲渡の時価を、常にその金額で説明できるとは限りません。

とくに親族間売買や同族会社間売買では、「なぜその評価額を使ったのか」「通常の取引価額との乖離をどう見たのか」を、自分の言葉で説明できる必要があります。

時価の2分の1以上なら必ず問題ないと考える

個人から法人へのみなし譲渡では、時価の2分の1未満かどうかが重要な基準になります。しかし、個人間のみなし贈与では、一律に2分の1基準で判断されるわけではありません。

また、個人から同族会社への譲渡では、2分の1以上であっても、同族会社等の行為・計算の否認、法人側の受贈益、株主へのみなし贈与などを、あわせて検討する必要があります。

簿価で移せば税金が出ないと考える

簿価は、現在の時価ではありません。とくに土地、非上場株式、長期間保有してきた資産、賃貸不動産、営業権が絡む資産では、簿価と時価が大きく乖離することがあります。

代金を実際に払っていない

契約書のうえでは売買でも、代金の支払いがない、返済実績がない、支払能力がない場合には、売買としての実態が弱くなります。親族間では、通帳で確認できる資金移動と返済計画が、とりわけ重要になります。

法人側の処理を見ていない

個人の譲渡所得だけを計算して、法人側の受贈益、役員給与、寄附金、消費税を見落としてしまうケースです。法人が絡む低額譲渡では、売主側・買主側・株主側を同時に確認します。

株主へのみなし贈与を見落とす

同族会社に低額で資産を移すと、会社の価値が増えます。その結果、譲渡した本人以外の株主が、経済的利益を受けたものとされることがあります。とくに、親が子の会社へ資産を移す、兄弟が株主となっている会社へ資産を移す場合には、慎重に検討します。

申告後の説明資料を残していない

低額譲渡は、申告書だけでは判断の全体像が見えにくい取引です。時価の算定根拠、価格決定の経緯、契約、決済、法人側処理、株主構成を残しておかなければ、税務調査の際に説明が難しくなります。

低額譲渡を行うなら「価格」より先に設計すべきこと

低額譲渡を検討するときは、価格を先に決めてしまうのではなく、次の順番で整理していくことが大切です。

順番検討内容
1取引目的を明確にする
2売主・買主・株主・親族関係を整理する
3対象資産の権利関係・利用実態を確認する
4時価の根拠資料を集める
5譲渡価額を決める前に税目別の影響を試算する
6契約書・議事録・決済資料を整える
7譲渡所得、贈与税、法人税、消費税、住民税への波及を確認する
8納税資金を確保する
9申告書添付資料・保存資料を整備する
10将来売却・相続・事業承継への影響を確認する

低額譲渡は、単年の節税策ではなく、資産の保有者そのものを変える取引です。いったん移してしまえば、将来の所得税、相続税、贈与税、法人税、固定資産税、消費税、そして金融機関への対応にまで影響が及びます。

説明できる取引と、否認されやすい取引の違い

説明できる低額譲渡には、少なくとも次のような特徴があります。

説明できる取引否認されやすい取引
時価の根拠資料がある価格の根拠がない
取引目的が事業・資産管理上合理的税額を下げることだけが目的に見える
契約書・議事録・決済資料が整っている契約書だけで入金がない
価格決定過程を説明できる後から都合よく価格を決めている
法人側・個人側・株主側の税務を見ている片側の税金だけ見ている
将来の取得費・相続・売却まで整理している今年の税額だけを見ている
実態と名義が一致している名義だけ動かして利用実態が変わらない

税務署に説明できる取引とは、「課税されない取引」のことではありません。課税されるべきものはきちんと課税したうえで、なぜその価額・処理・申告になったのかを、資料と事実で説明できる取引のことです。

重要事項の振り返り

論点重要ポイント
低額譲渡の基本時価より低い価額で資産を移すと、時価との差額が別の課税関係を生む
個人から個人買主側にみなし贈与が生じる可能性がある
個人間のみなし贈与「時価の2分の1以上なら必ず安全」という一律基準ではない
個人から法人時価の2分の1未満で譲渡すると、売主個人に時価で譲渡したものとして所得税が課税される場合がある
2分の1以上の法人譲渡所得税法59条の適用外でも、同族会社等の行為・計算の否認や法人側課税を確認する
同族会社への譲渡法人の受贈益、株主へのみなし贈与が波及する可能性がある
法人から役員時価との差額が役員給与・経済的利益となる可能性がある
法人から個人相手の立場により給与所得、一時所得、寄附金、交際費等の整理が変わる
法人から法人寄附金、受贈益、グループ内取引、消費税を確認する
消費税法人が役員に課税資産を著しく低額で譲渡した場合、時価課税が問題になる
時価固定資産税評価額、路線価、簿価を機械的に使えばよいわけではない
非上場株式同族株主判定、純資産、類似業種、議決権、株式価値上昇を確認する
資料保存評価資料、契約書、議事録、決済資料、通帳、株主名簿を残す
実務判断価格だけでなく、目的、関係者、税目横断、将来影響を整理する

親族間・同族会社間の資産移転を検討している方へ

親族間や法人間の低額譲渡は、単に「いくらで売ればよいか」を決めるだけの問題ではありません。

売主が個人か法人か、買主が親族か同族会社か、資産が不動産か株式か事業用資産か、時価をどう説明するか、差額が誰の利益になるか。そのどれによっても、所得税、贈与税、法人税、消費税、源泉徴収、住民税にまで影響が及びます。

とくに、次のような場合には、取引前の段階で専門家に相談されることをおすすめします。

  • 親から子へ不動産を安く売りたい
  • 共有持分を親族へ移したい
  • 個人所有の不動産を同族会社へ売却したい
  • 法人成りに伴い、個人事業用資産を法人へ移したい
  • 会社所有資産を役員や親族へ譲渡したい
  • 非上場株式を親族間・法人間で売買したい
  • 固定資産税評価額、路線価、簿価のどれを使うべきか迷っている
  • 将来の相続・事業承継を見据えて資産移転を検討している
  • 申告後に税務署へ説明できる資料を整えたい

犬飼公認会計士・税理士事務所では、取引の目的、当事者の関係、時価資料、契約、入出金、法人側の処理、株主構成、そして将来の相続・売却への影響までを確認し、低額譲渡の税務リスクを整理します。

親族間売買や同族会社との資産移転を検討されている方は、お問い合わせページから、現在の状況とお手元の資料をお知らせください。取引後の申告だけでなく、取引前に価格・契約・資金・資料の保存を整えておくことで、後から説明できる資産移転を設計しやすくなります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次