資産を売却して損失が出たとき、「この損失を給与所得や事業所得と相殺できるのか」「確定申告をすれば税金が戻るのか」「損失を翌年以降に繰り越せるのか」と考える方は少なくありません。
けれども、譲渡損失は、資産売却で損をしたという事実だけで税務上の扱いを判断できるものではありません。
まず確認したいのは、何を売ったのか、という点です。土地建物なのか、マイホームなのか、上場株式なのか、未上場株式なのか、あるいは事業用資産、生活用動産、ゴルフ会員権や貴金属なのか。売却した資産の種類によって、損益通算できる範囲は大きく変わってきます。
所得税の損益通算で対象になり得るのは、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得の損失です。ただし、譲渡所得の損失であっても、生活に通常必要でない資産に係る損失のように、他の所得と通算できないものがあります。出典:国税庁|No.2250 損益通算
譲渡損失を考えるうえで大切なのは、「損をしたのだから控除できるはずだ」という発想ではありません。資産の種類、所得区分、課税方式、特例要件、申告手続、資料の保存を、順を追って確認していく姿勢です。
まず「譲渡損失」として扱える損失なのかを確認する
譲渡損失を検討する前に、そもそもその売却が譲渡所得の対象になるのかを確かめておく必要があります。
譲渡所得は、資産の譲渡によって生じる所得です。ただし、商品や棚卸資産の販売、事業として反復継続して行う売買、給与や報酬として受け取るものなどは、譲渡所得ではなく、事業所得や雑所得、給与所得といった別の所得区分になることがあります。
また、譲渡所得に当たる場合でも、課税されないものがあります。たとえば、家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服など、生活に通常必要な動産の譲渡による所得は、原則として非課税です。もっとも、貴金属、宝石、書画、骨とうなどで、1個または1組の価額が30万円を超えるものの譲渡は、この非課税の対象から除かれます。出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
ここで気をつけたいのは、非課税とされる生活用動産です。利益が出ても課税されない一方で、損失が出ても、他の所得と相殺するという発想にはなりにくい性質を持っています。
たとえば、通勤用の自動車を購入価額より安く売ったとしても、その損失を給与所得と相殺することは、通常できません。日常的に使っていた家具や衣服も同じです。
譲渡損失を検討するときは、まず次の順番で整理してみてください。
- 売却した資産は何か
- その売却は譲渡所得か、それとも事業所得・雑所得等か
- 課税対象の譲渡所得か、非課税の譲渡か
- 総合課税か、分離課税か
- 損益通算できる損失か、通算に制限がある損失か
- 繰越控除や特例の対象になるか
- 申告書・明細書・添付資料を準備できるか
この段階を飛ばして「損をしたのだから申告すれば戻る」と考えてしまうと、申告誤りや還付の過大につながりかねません。
譲渡所得は「総合課税」と「分離課税」で扱いが異なる
譲渡所得は、資産の種類によって課税方式が分かれます。
国税庁は、土地・建物等の譲渡、株式等の譲渡、その他の資産の譲渡などを、総合課税と分離課税に区分して整理しています。分離課税は、譲渡所得金額に対する税額を、事業所得や給与所得など他の所得とは区別して計算する方式です。これに対して総合課税は、他の所得と合計したうえで、累進税率によって計算する方式になります。出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
おおまかには、次のように整理できます。
| 売却した資産 | 主な課税方式 | 損失の扱いで注意すべき点 |
|---|---|---|
| 土地・建物・借地権等 | 申告分離課税 | 原則として給与所得・事業所得とは損益通算不可 |
| マイホーム | 申告分離課税 | 一定の譲渡損失は特例により損益通算・繰越控除可 |
| 上場株式等 | 申告分離課税 | 上場株式等の配当等との通算・3年繰越が可能な場合あり |
| 一般株式等・未上場株式 | 申告分離課税 | 上場株式等とは原則として別区分 |
| ゴルフ会員権等 | 総合課税となる場合あり | 損失は原則として給与所得等と通算不可 |
| 事業用の機械・車両等 | 総合課税となる場合あり | 資産の用途・事業実態・帳簿管理が重要 |
| 家具・衣服・通勤用自動車など | 非課税となる場合あり | 生活用動産の損失は通常、他所得と通算しない |
譲渡損失を判断するときは、「譲渡所得」という言葉でひとくくりにせず、資産ごとの課税方式を丁寧に切り分けていくことが欠かせません。
土地・建物の譲渡損失は、原則として給与所得・事業所得と通算できない
土地や建物を売却して損失が出た場合、まず押さえておきたい結論があります。その損失は、原則として給与所得や事業所得など他の所得と損益通算できない、という点です。
個人が土地や建物を譲渡して譲渡損失が生じたとき、その損失は、他の土地や建物の譲渡所得の金額からは控除できます。しかし、そこで控除しきれなかった損失を、事業所得や給与所得など他の所得と損益通算することはできません。出典:国税庁|No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合
たとえば、次のようなケースを考えてみます。
土地Aの譲渡益が500万円、土地Bの譲渡損失が800万円だったとします。
この場合、同じ土地建物等の譲渡所得の枠内で、土地Aの利益500万円と土地Bの損失800万円を通算できる可能性があります。しかし、通算後になお残る300万円の損失を、給与所得や事業所得と相殺することは、原則としてできません。
ここは、不動産売却において非常に誤解されやすいところです。
不動産所得の赤字とは違い、土地建物等の譲渡損失は、他の所得へ広くぶつけられるものではありません。土地建物等は分離課税で扱われますから、給与所得や事業所得の税額を直接下げられると当然視するのは禁物です。
マイホームの譲渡損失には例外的な特例がある
土地・建物の譲渡損失は原則として他所得と通算できませんが、マイホームについては例外が設けられています。
代表的なものは、次の二つです。
- マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除
- 住宅ローンが残っているマイホームを売却した場合の、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除
マイホームを買い換えた場合、旧居宅の譲渡によって損失が生じ、一定の要件を満たせば、その譲渡損失を給与所得や事業所得など他の所得から控除できることがあります。控除しきれなかった損失は、翌年以後3年内に繰り越せる場合もあります。出典:国税庁|No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき
また、住宅ローンが残っているマイホームを、住宅ローン残高を下回る価額で売却して譲渡損失が生じた場合にも、一定の要件を満たせば、買換資産を取得しないときでも損益通算・繰越控除の特例を適用できることがあります。出典:国税庁|No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき
なお、これらの居住用財産の譲渡損失に関する特例は、令和8年度税制改正によって適用期限が令和9年12月31日まで2年延長されています。あわせて、買換資産が令和10年1月1日以後に居住の用に供される一定の新築未使用家屋で、災害危険区域等に関係する場合には、買換資産の範囲から除外するという改正も行われています。出典:国税庁|令和8年5月 土地・建物等を譲渡した場合の特例についての改正(主なもの)
マイホームの譲渡損失特例は納税者に有利な制度ですが、適用要件は細かく、次の点を一つずつ確認していく必要があります。
- 売却した資産が居住用財産に該当するか
- 売却した年の1月1日における所有期間が5年を超えているか
- 買換えを伴う特例か、住宅ローン残高がある特例か
- 売却契約日の前日に住宅ローン残高があるか
- 譲渡価額、住宅ローン残高、譲渡損失額の関係
- 居住実態を資料で説明できるか
- 過去に同様の特例を使っていないか
- 繰越控除を受ける年の合計所得金額等の要件
- 確定申告書、明細書、計算書、登記事項証明書、売買契約書、住宅ローン残高証明書などの資料
とりわけ、住民票上の住所と売却物件の所在地が異なる場合には、居住実態を示す資料が重要になります。
マイホームを買い換えた場合の特例では、居住用財産の譲渡損失の明細書、損益通算・繰越控除対象額の計算書、登記事項証明書や売買契約書などの添付が求められます。出典:国税庁|No.3379 「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けるための申告手続と添付書類等
住宅ローンが残っているマイホームの特例でも、特定居住用財産の譲渡損失の明細書、対象金額の計算書、所有期間や住宅借入金等の残高を明らかにする書類が必要です。さらに繰越控除を受けるには、譲渡損失が生じた年分について期限内申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出しなければなりません。出典:国税庁|No.3393 「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けるための申告手続と添付書類
「自宅なのだから使えるはずだ」と考えるのではなく、居住実態、所有期間、住宅ローン、買換え、申告手続を、一つずつ確認していくことが大切です。
投資用不動産・事業用不動産の譲渡損失は、マイホーム特例と混同しない
投資用マンション、賃貸アパート、貸店舗、駐車場用地、遊休地、事業用の土地建物などを売却して損失が出た場合は、マイホームの譲渡損失特例とは切り離して考えます。
これらの土地建物等の譲渡損失は、原則として土地建物等の譲渡所得の枠内でしか通算できず、給与所得や事業所得とは通算できません。
たとえば、給与所得者が投資用ワンルームマンションを売却して損失を出したとき、その損失を給与所得と相殺できると考えるのは危険です。不動産所得の赤字と、不動産を売却したことによる譲渡損失とでは、税務上の制度そのものが異なります。
不動産の税務は、取得、保有・運用、譲渡という各場面で、それぞれ別の税目・制度が関係してきます。資産を売却した場面だけを切り取るのではなく、取得時の資料、保有中の減価償却、借入、修繕、そして売却時の譲渡費用まで、一連の流れとして整理する必要があります。
上場株式等の譲渡損失は、給与所得や不動産所得とは通算できない
上場株式等を売却して損失が出た場合も、「損をしたのだから給与所得と相殺できる」とはなりません。
上場株式等の譲渡損失は、一定の場合に、上場株式等の配当等に係る利子所得・配当所得と損益通算できます。通算しきれなかった損失は、翌年以後3年間にわたり、上場株式等に係る譲渡所得等および上場株式等に係る配当所得等から繰越控除できることがあります。出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
ただし、通算できる相手は限られています。
上場株式等の譲渡損失は、給与所得、事業所得、不動産所得、雑所得などと直接通算するものではありません。繰り越された上場株式等の譲渡損失を、一般株式等に係る譲渡所得等の金額から控除することもできません。また、NISA口座内の上場株式等を譲渡して生じた損失は、損益通算も繰越控除もできません。出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
実務のうえで、特に注意しておきたいのは次の点です。
- 上場株式等の損失を申告するかどうか
- 特定口座の源泉徴収あり・なし
- 一般口座の取引が混在していないか
- 配当所得について申告分離課税を選択するか
- 配当控除を受ける総合課税との比較
- 住民税・国民健康保険料等への影響
- NISA口座内の損失を混ぜていないか
- 翌年以後も連続して確定申告する必要があるか
上場株式等の損失は、申告すれば必ず有利になるとは限りません。とりわけ、配当所得を申告することで住民税や国民健康保険料などに影響が及ぶ可能性があるため、所得税だけを見て判断しないことが重要です。
一般株式等・未上場株式の譲渡損失は、上場株式等とは別区分で考える
未上場株式や一般株式等の譲渡損失は、上場株式等の損失と同じようには扱えません。
国税庁は、上場株式等に係る譲渡所得等の赤字を一般株式等に係る譲渡所得等の黒字から控除することはできず、一般株式等に係る譲渡所得等の赤字も、一定の特定中小会社の発行株式に係る譲渡損失の場合を除いて、上場株式等に係る譲渡所得等の黒字から控除できないと説明しています。出典:国税庁|No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い
未上場株式の売買では、さらに次のような論点が重なってきます。
- 取得価額の資料が残っているか
- 相続・贈与で取得した株式か
- 同族会社株式か
- 親族間・会社関係者間の売買か
- 売買価額が時価として説明できるか
- 自己株式取得に該当しないか
- みなし配当の問題がないか
- 贈与税・法人税への波及がないか
親族間・同族関係者間の売買では、譲渡者だけでなく、譲受者側の贈与税や法人税、株価上昇による関係者への波及まで問題になることがあります。裁決や判決でも、不動産や非上場株式の時価、低額譲渡、みなし贈与、法人側の受贈益などが争点となってきました。
未上場株式の損失を「売却損」として処理する前に、まず本当に第三者間取引として説明できる価格なのか、誰に譲渡したのか、法的・経済的な実態があるのかを確認しておく必要があります。
総合課税の譲渡損失でも、生活に通常必要でない資産は通算制限がある
土地建物や株式以外の資産の譲渡所得は、総合課税になる場合があります。総合課税の譲渡所得は、短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けて計算し、長期譲渡所得については2分の1が課税対象となります。出典:国税庁|No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)
もっとも、総合課税の譲渡所得だからといって、その損失を自由に給与所得や事業所得と通算できるわけではありません。
生活に通常必要でない資産に係る損失は、競走馬の譲渡に係る一定の場合を除き、他の各種所得と損益通算できません。ここでいう生活に通常必要でない資産には、主として趣味、娯楽、保養、鑑賞の目的で所有する不動産、ゴルフ会員権等、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう等が含まれます。出典:国税庁|No.2250 損益通算
たとえば、次のような損失は、他所得との損益通算について慎重な判断が求められます。
- ゴルフ会員権の売却損
- 別荘の売却損
- 趣味で所有していた美術品の売却損
- 高額な貴金属・宝石の売却損
- 保養目的で所有していた不動産の売却損
ゴルフ会員権の譲渡による所得は総合課税の対象となる場合がありますが、その譲渡によって生じた損失は、原則として給与所得など他の所得と損益通算できません。出典:国税庁|No.3158 ゴルフ会員権の譲渡による所得
「総合課税なら給与と合算するのだから、損失も給与から引けるはずだ」と考えるのは危険です。その資産が、生活に通常必要なものなのか、それとも趣味・娯楽・保養・鑑賞を目的としたものなのかを、しっかり確認する必要があります。
事業用資産の譲渡損失は、所得区分と資産管理が重要になる
個人事業で使用していた機械、車両、工具、備品などを売却して、損失が出ることもあります。この場合は、資産の種類や取引の実態に応じて、事業所得の収入・経費として整理するのか、譲渡所得として整理するのかを確認します。
事業用資産については、次の点を確かめておきます。
- 棚卸資産ではないか
- 事業用固定資産か
- 減価償却資産として台帳管理しているか
- 取得価額、減価償却累計額、未償却残高が分かるか
- 売却価額を第三者に説明できるか
- 廃棄、下取り、売却、法人への移転のいずれか
- 消費税の課税売上に該当しないか
- 家事共用資産の場合、事業使用割合をどう考えるか
特に、個人事業を法人化する前後や、廃業時には、資産移転、時価、消費税、減価償却、譲渡所得の整理が重要になります。資産の譲渡は、単に現金化したというだけの話ではなく、取得・保有・譲渡という流れのなかで税務処理が変わってくるものだからです。
事業用資産の損失は、事業の実態、帳簿、固定資産台帳、売買資料、下取り明細といった裏づけがなければ、後から説明しづらくなります。
譲渡損失を判断するときの実務フロー
譲渡損失の扱いは複雑ですが、実務では次の順番で確認していくと、頭のなかを整理しやすくなります。
1. 売却した資産を分類する
まず、売却した資産を分類します。
- 土地・建物・借地権等
- マイホーム
- 投資用不動産
- 上場株式等
- 一般株式等・未上場株式
- 事業用資産
- 生活用動産
- 貴金属、書画、骨とう、美術品
- ゴルフ会員権、リゾート会員権
- 国外資産
資産の分類を誤ると、課税方式、損益通算、繰越控除、添付資料、税率まで、すべてが誤ってしまう可能性があります。
2. その売却が譲渡所得かを確認する
同じ「売却」でも、譲渡所得に当たらない場合があります。
たとえば、商品販売であれば事業所得や雑所得に、継続的・営利的に売買していれば事業所得や雑所得になります。給与や報酬の性格を帯びる場合には、給与所得や事業所得の問題になることもあります。
名称ではなく、取引の実態を見て確認します。
3. 課税対象か非課税かを確認する
生活用動産の譲渡は、非課税になることがあります。一方で、高額な貴金属、宝石、書画、骨とうなどは、課税対象になる場合があります。
非課税の譲渡であれば、利益が出ても課税されない代わりに、損失も税務上の通算対象としては扱いにくくなります。
4. 課税方式を確認する
土地建物等、株式等、先物取引等、その他の資産では、それぞれ課税方式が異なります。
分離課税の譲渡損失は、同じ分離課税の枠内であっても、通算できる範囲が限られることがあります。特に、土地建物等、上場株式等、一般株式等は、混同しないよう気をつけます。
5. 同じ区分内で通算できるかを確認する
土地建物等の譲渡損失は、まず他の土地建物等の譲渡所得と通算できるかを確認します。上場株式等の譲渡損失であれば、上場株式等の譲渡益や一定の配当所得等との通算を確かめます。
その年に資産売却益があるかどうかを把握しておくことが、ここでは大切になります。
6. 他所得との損益通算が可能な特例があるかを確認する
土地建物等の譲渡損失は原則として給与所得等と通算できませんが、居住用財産の一定の譲渡損失には特例があります。
ただし、マイホームであっても、すべての譲渡損失が対象になるわけではありません。所有期間、居住実態、買換え、住宅ローン、所得制限、申告手続が問われます。
7. 繰越控除の要件を確認する
繰越控除は、損失が残りさえすれば自動的に使えるものではありません。
上場株式等の譲渡損失も、マイホームの譲渡損失特例も、一定の書類を添付した確定申告書の提出や、翌年以後の連続申告が要件になることがあります。
最初の年に適切な申告をしていなければ、翌年以降は使えなくなってしまうこともあります。
よくある誤解
「不動産売却で損をしたので給与と相殺できる」
原則として、できません。土地建物等の譲渡損失は、他の土地建物等の譲渡所得と通算できる場合はありますが、控除しきれない損失を給与所得や事業所得と通算することは、原則としてできません。
ただし、一定のマイホーム譲渡損失については例外があります。
「マイホームなら必ず特例が使える」
必ず使えるわけではありません。所有期間、居住実態、買換え、住宅ローン、売却価額、所得要件、申告手続が問われます。
住んでいた実態が曖昧な場合、別荘的に使っていた場合、親族が住んでいただけの場合、住民票と実態が異なる場合などは、特に慎重に確認する必要があります。
「株式の損失は確定申告すれば給与所得と相殺できる」
できません。上場株式等の損失は、一定の上場株式等の配当所得等との通算や、翌年以後3年間の繰越控除が可能な場合はありますが、給与所得や事業所得と通算するものではありません。
「NISA口座で損をしたので申告すればよい」
NISA口座内の上場株式等の譲渡損失は、損益通算および繰越控除の対象になりません。
「ゴルフ会員権の損失は総合課税だから給与と通算できる」
原則として、できません。ゴルフ会員権は生活に通常必要でない資産として扱われるため、損失の通算に制限があります。
「取得費が分からないが、損失として申告したい」
取得費が不明確な場合、譲渡所得の計算そのものが不安定になります。売買契約書、領収書、取得時の登記費用、仲介手数料、相続・贈与資料、過去の申告書、固定資産台帳などを確認する必要があります。
譲渡損失の申告で確認すべき資料
譲渡損失を申告する場合には、少なくとも次の資料を整理しておきます。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 売買契約書 | 譲渡日、譲渡価額、売買対象資産 |
| 取得時の契約書 | 取得価額、取得日、売主、資産区分 |
| 仲介手数料等の領収書 | 譲渡費用・取得費に関係する支出 |
| 登記事項証明書 | 所有者、取得日、所有期間、面積 |
| 固定資産税評価明細 | 土地・建物の区分、参考資料 |
| 住宅ローン残高証明書 | マイホーム譲渡損失特例の判定 |
| 住民票・戸籍附票等 | 居住実態の確認 |
| 証券会社の年間取引報告書 | 上場株式等の譲渡損益 |
| 配当の支払通知書 | 上場株式等の配当等との通算 |
| 一般口座の取引明細 | 取得価額、売却価額、手数料 |
| 固定資産台帳 | 事業用資産の未償却残高 |
| 相続・贈与資料 | 取得費・取得時期の引継ぎ |
| 過年度申告書 | 繰越控除、過去特例、取得費資料 |
| 国外資産資料 | 外貨換算、外国税額控除、現地税務 |
資産取引は、金額が大きく、過去の資料が不足しやすい領域です。税務調査でも、土地建物等や株式等は確認の対象になりやすい取引といえます。調査統計でも、土地建物等や株式等に関する申告漏れ・追徴税額が集計されており、資産取引は税務上の説明責任が重い領域です。
譲渡損失を申告する前に考えるべきこと
譲渡損失の申告では、税額だけを見るわけにはいきません。
申告することで税額が下がる場合もありますが、同時に、他の所得、住民税、国民健康保険料、配偶者控除・扶養控除、各種の給付・負担、金融機関への説明資料に影響が及ぶことがあります。
また、譲渡損失を使うには、継続申告や添付資料が必要になることがあります。初年度の申告を誤ると、翌年以降に繰越控除を使えなくなる可能性もあります。
特に注意しておきたいのは、次のようなケースです。
- 不動産売却損を給与所得と相殺したい
- マイホーム譲渡損失特例を使いたい
- 住宅ローン残高が売却価額を上回っている
- 相続した不動産を売却した
- 取得費が分からない
- 親族間・同族会社間で売買した
- 未上場株式を売却した
- 上場株式等の損失を翌年以降に繰り越したい
- NISA口座、特定口座、一般口座が混在している
- 国外不動産や国外株式を売却した
- ゴルフ会員権や高額な貴金属を売却した
- 事業用資産を法人へ移転した
譲渡損失は、申告書の入力だけで判断できる論点ではありません。資産の取得から売却までの経緯、契約、名義、入出金、利用実態、帳簿、証憑を見なければ、正しい結論にたどり着けないことがあります。
専門家に相談すべき場面
次のいずれかに当てはまる場合は、申告期限の直前ではなく、できるだけ早い段階でご相談されることをおすすめします。
- 土地建物の売却損を他の所得と通算できるか判断したい
- マイホームの譲渡損失特例を使えるか確認したい
- 売却物件に住んでいた実態をどう説明すべきか不安がある
- 住宅ローン残高と譲渡損失の関係が分からない
- 相続した不動産の取得費や取得時期が分からない
- 売買契約書や取得資料が不足している
- 未上場株式や親族間売買の価格に不安がある
- 上場株式等の損失を繰り越すべきか判断したい
- NISA、特定口座、一般口座が混在している
- 国外資産の売却や外国税額控除が関係する
- 譲渡損失を使った申告が将来の住民税・保険料に影響しないか確認したい
犬飼公認会計士・税理士事務所では、譲渡損失について、単に「申告できるか」だけでなく、資産の種類、所得区分、課税方式、損益通算の制限、繰越控除、取得費資料、住民税等への影響、税務署・金融機関への説明可能性まで含めて整理します。
資産売却で損失が出たとき、最初に確認すべきなのは「いくら損をしたか」ではありません。「その損失が税務上どの区分に当たり、どこまで使える損失なのか」です。
譲渡損失の申告判断に不安がある方、マイホーム・不動産・株式・事業用資産の売却損をどう扱うべきか整理したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。資料と事実関係をもとに、後からきちんと説明できる申告判断へと整理してまいります。
主な出典・参考情報
出典:国税庁|No.2250 損益通算
出典:国税庁|No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
出典:国税庁|No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)
出典:国税庁|No.3158 ゴルフ会員権の譲渡による所得
出典:国税庁|No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合
出典:国税庁|No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき
出典:国税庁|No.3379 「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けるための申告手続と添付書類等
出典:国税庁|No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき
出典:国税庁|No.3393 「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けるための申告手続と添付書類
出典:国税庁|No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い
出典:国税庁|No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除
出典:国税庁|令和8年5月 土地・建物等を譲渡した場合の特例についての改正(主なもの)
振り返り
| 論点 | 重要な判断軸 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 譲渡損失の入口 | まず売却資産の種類を確認する | 損をした事実だけでは税務上の控除可否は決まらない |
| 生活用動産 | 家具、衣服、通勤用自動車などは非課税となる場合あり | 損失も通常、他所得との通算対象として扱わない |
| 土地・建物 | 原則として土地建物等の譲渡所得内で通算 | 控除しきれない損失は給与所得・事業所得と通算不可 |
| マイホーム | 一定の譲渡損失特例あり | 居住実態、所有期間、住宅ローン、買換え、申告手続が重要 |
| 特例の適用期限 | 居住用財産の譲渡損失特例は令和9年12月31日まで延長 | 災害危険区域等に関する買換資産の改正にも注意 |
| 上場株式等 | 一定の配当所得等との通算、3年繰越が可能な場合あり | 給与所得・事業所得とは通算できない |
| NISA | 非課税口座内の損失は通算・繰越不可 | 課税口座の損失と混同しない |
| 一般株式等・未上場株式 | 上場株式等とは別区分 | 親族間・同族会社間売買では時価と実態が重要 |
| ゴルフ会員権等 | 生活に通常必要でない資産に該当し得る | 損失は原則として給与所得等と通算不可 |
| 事業用資産 | 事業所得か譲渡所得か、資産の性質を確認 | 固定資産台帳、減価償却、売却資料が必要 |
| 繰越控除 | 自動適用ではない | 初年度申告、添付書類、連続申告が重要 |
| 取得費資料 | 契約書、領収書、登記資料、相続資料を確認 | 取得費が不明だと損失計算の根拠が弱くなる |
| 税務調査対応 | 売却額・取得費・譲渡費用・居住実態を説明できるか | 契約書、通帳、証憑、明細書の保存が重要 |
| 相談のタイミング | 売却前または売却直後が望ましい | 申告期限直前では資料不足や特例判断が難しくなる |