税務署から「申告内容について確認したい」と連絡が入ると、申告のどこかに重大な問題があったのではないかと、不安になるものです。
しかし、連絡を受けたという事実だけで、申告誤りや追加納税が確定したわけではありません。まず確かめておきたいのは、その連絡が正式な「調査」なのか、それとも申告内容の自主的な見直しを求める「行政指導」なのか、そして対象となる税目・年分・取引は何か、という点です。
税務調査は、単に領収書を見せる場ではありません。
副業や個人事業であれば、売上と入金の対応、所得区分、必要経費、家事関連費、家族への支払、消費税や源泉徴収まで確認されることがあります。不動産収入であれば、賃貸借契約、家賃の収入計上、修繕費と資本的支出、共有関係、借入金、減価償却などが、申告内容と整合しているかが問われます。
大切なのは、指摘を恐れて説明を急ぐことではありません。事実、契約、入出金、帳簿、証憑、申告書がどのようにつながっているかを、後から確認できる形で整理しておくことです。
本稿では、一般的な個人の所得税調査を中心に、事前通知から調査終了までの基本的な流れを、2026年6月26日現在の法令・国税庁公表情報に基づいて解説します。
税務署から連絡を受けた直後に記録したい事項
- 税務署名、部署、担当職員の氏名、連絡先
- 「税務調査」なのか「行政指導」なのか
- 対象となる税目と年分・課税期間
- 調査予定日時と場所
- 税理士への連絡が済んでいるか
- 電話で告げられた内容と連絡日時
その場で記憶に頼って申告内容を詳しく説明するより、まずは連絡内容を正確に書き留め、申告書と資料を確認する。この順序が先です。
税務調査とは何をする手続なのか
所得税は、納税者自身が所得金額と税額を計算して申告する「申告納税制度」を基本としています。
税務調査は、その申告内容が法令と事実に照らして適正かどうかを確認し、必要があれば税額を是正するための手続です。税務職員は、必要があると認めるときに、納税者や取引関係者へ質問し、帳簿書類その他の物件について提示・提出を求める質問検査権を有しています。
一般的な所得税の税務調査は、令状によって強制的に捜索・差押えを行う査察調査とは性質が異なります。その意味で「任意調査」と呼ばれることがありますが、これは納税者が受けるかどうかを自由に選べるという意味ではありません。
質問や資料提示の要求が、調査目的に照らして必要かつ相当な範囲にあるとき、正当な理由なく回答や提示を拒んだり、虚偽の回答・資料提出をしたりする行為には、罰則が設けられています。一方で、税務職員が物理的な力で帳簿を持ち去ったり、住居内を捜索したりできるわけでもありません。調査の必要性と納税者の私的利益との均衡を取りながら進める、というのが前提です。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|税務手続について
最初に区別したい「税務調査」と「行政指導」
税務署から申告内容について連絡が来ても、そのすべてが税務調査とは限りません。
計算誤りや記載漏れの可能性について、自主的な確認・修正を求める連絡が来ることもあります。これは行政指導に当たる場合があります。
| 区分 | 税務調査 | 行政指導 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 課税標準や税額等を確認し、必要に応じて更正・決定等へつなげる | 納税者に自主的な見直しや申告を促す |
| 質問検査権 | 行使される | 原則として行使されない |
| 事前通知 | 実地調査では原則として必要 | 税務調査の事前通知とは異なる |
| 資料確認 | 質問検査権に基づく提示・提出要求があり得る | 任意の協力依頼として行われる |
| 加算税への影響 | 調査通知や更正の予知の時期により異なる | 自主的な修正として扱われる余地がある |
税務職員は、納税者へ連絡する際に、その行為が調査に当たるのか、行政指導に当たるのかを明示することとされています。
この区別は、形式的なものではありません。申告誤りに気づいて修正申告を行う場合、税務調査の「調査通知」を受ける前か後か、さらに更正を予知していたかどうかによって、過少申告加算税等の取扱いが変わる可能性があるからです。
そのため、電話を受けた日時、担当者、税目、対象年分、そして調査である旨を告げられたかどうかを、記録しておく必要があります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
税務調査の全体的な流れ
個人の所得税調査は、事案によって日数や確認範囲が異なりますが、全体像は次のように整理できます。
| 段階 | 主な内容 | 納税者側で行うこと |
|---|---|---|
| 1.調査対象の選定・事前分析 | 税務署内で申告書、法定調書、過去の申告・調査情報等を確認 | 通常、この段階で連絡はない |
| 2.調査通知・日程調整 | 調査を行う旨、対象税目、対象期間等が伝えられる | 連絡内容を記録し、税理士へ連絡する |
| 3.事前通知 | 日時、場所、目的、対象資料、担当職員等が通知される | 対象範囲を確認し、必要があれば日程等を協議する |
| 4.事前準備 | 申告書、帳簿、証憑、契約、通帳、電子データ等を整理 | 元資料を保全し、申告内容との整合性を確認する |
| 5.実地調査の開始 | 身分証明書等の提示、事業概要の聴取、帳簿確認 | 事実に基づいて説明し、不明点は確認後に回答する |
| 6.追加確認 | 追加資料、照会、取引先・金融機関等への確認 | 要求事項、提出資料、回答期限を管理する |
| 7.調査結果の説明 | 誤りの有無、金額、理由等の説明 | 指摘内容を項目ごとに検討する |
| 8.調査終了 | 是認通知、修正申告等、または更正・決定 | 税額・加算税・資金繰り・翌年以降への影響を整理する |
| 9.再調査 | 新たな情報により非違が認められる場合に限り再度確認 | 前回調査との範囲、追加情報、処分内容を確認する |
一連の手続は、大きく分けると「事前通知」「質問検査等を含む調査」「調査終了手続」の三段階です。調査終了時には、申告内容に問題がない場合の通知、納税者による修正申告・期限後申告、税務署による更正・決定等のいずれかへ進みます。
「調査通知」と「事前通知」は同じではない
実務上、とりわけ注意したいのが、「調査通知」と「事前通知」の違いです。
調査通知
加算税の取扱いとの関係でいう「調査通知」は、一般に次の三点から構成されます。
- 実地の調査を行う旨
- 調査対象となる税目
- 調査対象となる期間
税務署が最初に日程調整の電話をかけてきた際、この調査通知も併せて行われることがあります。
事前通知
事前通知は、調査通知の内容に加えて、開始日時、場所、目的、対象資料、担当職員など、実際に調査を開始するための具体的な事項を知らせる手続です。
調査通知を受けた後に申告誤りに気づいた場合でも、自主的に修正すべきことに変わりはありません。ただし、加算税の判定に影響する可能性があるため、内容を十分に確認しないまま、慌てて修正申告書を提出することは避けるべきです。
正しい本税を再計算するとともに、いつ、どの内容の通知を受け、どの時点で誤りを認識したかを整理しておく必要があります。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
出典:国税庁税務大学校|国税通則法
事前通知では何が伝えられるのか
実地の調査を行う場合、原則として、納税者と税務代理人に対して事前通知が行われます。
法令・国税庁の運用を踏まえ、通知される内容を実務上の確認票として整理すると、次のようになります。
| 確認事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 調査を行う旨 | 行政指導ではなく、税務調査として行われるか |
| 調査開始日時 | 年月日、開始時刻、予定日数 |
| 調査場所 | 事業所、自宅、税理士事務所、税務署等のどこか |
| 調査の目的 | 申告内容の確認など、調査の目的 |
| 対象税目 | 申告所得税、消費税、源泉所得税等 |
| 対象期間 | 何年分、どの課税期間が対象か |
| 対象資料 | 帳簿、請求書、契約書、通帳、電子データ等 |
| 納税者情報 | 氏名、住所・居所等 |
| 担当職員情報 | 氏名、所属税務署・部署 |
| 日時・場所の変更 | 合理的な理由がある場合に変更を求められること |
| 調査範囲の追加 | 調査中に他の非違が疑われた場合、追加調査があり得ること |
これらの通知によって、調査の対象が具体化されていきます。
事前通知の一部に漏れがあったとしても、それだけで直ちに調査全体が無効になるとは限りません。後から対象範囲を追加する場合には、追加する税目・期間等について説明したうえで調査が進められる、というのが原則です。
国税庁のFAQでは、事前通知は電話による口頭通知でもよく、納税者が求めても必ず書面で通知されるものではない、とされています。また、調査日までに何日前の通知が必要かという一律の法定日数はありませんが、調査準備に要する時間を考慮し、相当の時間的余裕を置く運用とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁税務大学校|国税通則法
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
調査対象に選ばれた具体的な理由まで説明されるとは限らない
事前通知では、「所得税の申告内容を確認するため」といった調査目的は伝えられます。
一方で、「なぜ自分が調査対象に選ばれたのか」という具体的な選定理由については、税務署が必ず説明する制度にはなっていません。
選定理由を推測することに時間を使うより、通知された税目・期間について、申告書、帳簿、入出金、証憑のつながりを確認する。その方が、実務的です。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
税理士がいる場合、事前通知は誰に届くのか
税務代理権限証書が提出されている場合、原則として、税務代理人である税理士にも事前通知が行われます。
ただし、令和6年4月1日以後の税務代理権限証書には、「調査の通知・終了の際の手続に関する同意」の欄が設けられています。納税者が、調査通知等を税務代理人に対して行うことに同意している場合には、納税者本人への通知を省略し、税務代理人へ通知することがあります。
現行様式では、主に次の手続について同意内容を確認します。
- 調査の通知
- 更正決定等をすべきと認められない旨の通知
- 調査結果の内容説明、修正申告等の勧奨、法的効果の説明
複数の税理士が税務代理人となっている場合、代表する代理人が定められていれば、その代表税理士へ通知されます。
したがって、「顧問税理士がいるから本人は何もしなくてよい」と考えるのではなく、次の点を確認しておきたいところです。
- 対象年分・税目について税務代理権限証書が提出されているか
- 事前通知等を税理士へ行うことに同意しているか
- 過年度の申告を担当した税理士と現在の税理士が同じか
- 調査対象となる年分まで代理権限が及んでいるか
- 申告作成時に税理士へ渡していない資料がないか
税理士が申告書を作成していても、税理士が把握していなかった口座、取引、契約、収入があれば、それを含めた再整理が必要になります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)
出典:国税庁|税務代理権限証書
調査日時や場所は変更できるのか
事前通知を受けた日時・場所について合理的な理由がある場合、納税者または税務代理人は、その変更を求めることができます。
変更の申出について、法令上、特定の申請書様式は定められておらず、口頭で申し出ることも可能です。
合理的な理由としては、たとえば次のような事情が考えられます。
- 納税者本人の入院、病気、けが
- 親族の葬儀その他の緊急事情
- 事業上、日程変更が難しい重要な業務
- 税務代理人がやむを得ない事情で立ち会えない
- 帳簿や電子データを確認できる場所が別にある
- 自宅での調査では家族の生活や個人情報への影響が大きい
もっとも、変更を申し出れば必ず希望どおりになる、というわけではありません。単に「忙しい」という理由で繰り返し延期したり、調査開始を実質的に拒むような対応をしたりすると、変更理由が合理的ではないと判断される可能性があります。
変更を求める場合には、理由を具体的に説明し、代替候補日を複数提示することが望まれます。税理士に立会いを依頼するのであれば、その旨も早い段階で税務署へ伝えておきます。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|税務調査手続に関する事前通知等について
事前通知がない「無予告調査」もある
事前通知は原則ですが、例外もあります。
税務署が保有する次のような情報を踏まえ、事前通知をすると正確な所得・税額の把握が難しくなるおそれや、調査の適正な遂行に支障が生じるおそれがあると判断した場合には、事前通知なしで調査が行われることがあります。
- 申告内容
- 過去の調査結果
- 業種・業態、取引形態、決済方法
- 法定調書など課税庁が保有する資料
- その他、個別の取引情報等
無予告調査が行われたからといって、それだけで隠蔽・仮装や脱税が認定されたわけではありません。あくまで、事前通知の有無について課税庁が調査遂行上の判断をした、という段階にすぎません。
一方で、税務署には、なぜ事前通知をしなかったのかという具体的理由を納税者へ開示する法律上の義務はない、とされています。
無予告で税務職員が来訪した場合には、次のように対応します。
- 身分証明書と質問検査章を確認する
- 担当職員の氏名、所属、連絡先を記録する
- 対象税目、対象期間、調査目的、対象資料を確認する
- 税理士がいる場合は直ちに連絡する
- 税理士の到着までの進め方を調査担当者と協議する
- 資料を隠す、破棄する、書き換えるといった行為は行わない
- 記憶だけで答えず、資料確認が必要な事項はその旨を伝える
無予告調査への対応は、調査を妨害することでも、すべての要求へ無条件に応じることでもありません。調査の対象と必要性を確認し、事実と資料に沿って落ち着いて対応する。これが重要です。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
調査初日には何が行われるのか
実地調査では、調査担当職員が身分証明書と質問検査章を携行し、身分や氏名を明らかにしたうえで調査を開始します。
初日は、いきなり個々の領収書だけを見るのではなく、事業・収入の全体像から確認していくのが一般的です。
事業・収入の概要
個人事業や副業であれば、次のような事項が確認されます。
- どのような商品・サービスを提供しているか
- 契約から請求、入金までの流れ
- 現金売上の有無
- 使用している銀行口座、決済サービス、プラットフォーム
- 売上を帳簿に記録する時期と方法
- 記帳担当者、申告書作成者
- 家族や従業員の役割
- 事業と家計の資金をどのように区分しているか
不動産収入であれば、物件ごとに次の事項が確認されることがあります。
- 所有者、共有持分、管理者
- 賃貸借契約の内容
- 家賃、礼金、更新料、敷金・保証金
- 管理会社からの送金明細
- 借入金と返済状況
- 修繕工事の内容
- 自宅部分と賃貸部分の区分
- 売却、相続、贈与、用途変更の有無
申告書と帳簿の確認
続いて、申告書に記載された収入・経費等が、帳簿、証憑、入出金記録と一致しているかが確認されます。
確認対象となり得る資料には、次のようなものがあります。
- 確定申告書、青色申告決算書、収支内訳書
- 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳
- 売上台帳、賃料台帳、請求一覧
- 預金通帳、インターネットバンキング明細
- クレジットカード、電子マネー、決済サービスの明細
- 請求書、領収書、契約書、見積書、納品書
- 不動産の賃貸借契約書、管理明細、工事資料
- 証券会社や暗号資産交換業者等の取引資料
- 固定資産台帳、減価償却計算資料
- 給与台帳、外注契約、源泉所得税関係資料
- 電子取引データ、会計ソフトのデータ、訂正履歴
調査対象期間外の資料であっても、対象年分の取引の取得時期、継続性、残高、取得価額等を確認するために必要であれば、提示を求められることがあります。ただし、対象期間外の資料が求められたというだけで、その年分まで直ちに調査対象へ追加された、ということにはなりません。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
質問には「事実」と「推測」を分けて答える
調査時の回答で重要なのは、何でもその場で即答することではありません。
記憶が曖昧な事項について推測で答えてしまうと、後から契約書や通帳と食い違い、説明の信用性を損なうことがあります。
次のように、回答の根拠を分けて伝えることが大切です。
- 自分が直接経験し、明確に覚えている事実
- 帳簿や契約書で確認した事実
- 家族、従業員、管理会社等から聞いている内容
- 現時点では記憶が曖昧で、確認が必要な事項
- 税務上の評価・解釈について税理士と確認すべき事項
たとえば、「この支出は仕事で使いました」とだけ答えるのでは不十分です。
誰が、いつ、何の業務で、どの程度使用したのか。自宅、車両、通信費などの共用支出であれば、事業部分をどのような基準で按分したのか。こうした点を、面積、使用時間、走行距離、利用履歴等から説明する必要があります。
説明できない部分を隠すために、後から業務日報や走行記録を遡って作成することは避けなければなりません。申告時には存在しなかった資料を後から作成する場合には、それが当時の資料ではなく、調査対応のための整理資料であることを、明確に区別しておきます。
調査範囲が途中で広がる場合
調査を進める中で、当初通知された税目や期間以外について問題が疑われることがあります。
たとえば、所得税の売上確認から、次のような論点が判明する場合です。
- 消費税の課税売上高にも誤りがある
- 外注費としていた支払が給与に該当する可能性がある
- 源泉所得税を徴収・納付していない
- 別年分にも同様の売上計上漏れがある
- 共有不動産の収入帰属が他の共有者の申告にも影響する
このような場合、税務署は、追加する税目や期間等について説明し、調査への理解と協力を求めたうえで、質問検査等を行う運用とされています。
追加の話が出たときは、次の点を記録しておきます。
- 追加された税目
- 追加された年分・課税期間
- 追加の理由となった事実
- 新たに求められた資料
- 当初の調査との関係
- 他の家族、事業、法人等への波及
対象範囲が広がった場合には、当初の説明だけを前提に対応せず、必要資料と税務リスクを改めて整理する必要があります。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
帳簿書類の「提示」「提出」「留置き」は異なる
税務調査では、資料の取扱いを次のように分けて考える必要があります。
| 用語 | 実務上の意味 | 確認したい事項 |
|---|---|---|
| 提示 | 調査担当者に資料を見せ、内容を確認できる状態にする | 原本かコピーか、閲覧範囲、調査場所 |
| 提出 | 資料やデータを調査担当者へ渡す | 提出資料の一覧、提出日、返却の要否 |
| 留置き | 提出された資料を税務署側で一定期間預かる | 必要性、預り証、返却予定、コピーの確保 |
帳簿書類等を税務署へ持ち帰って確認する必要がある場合には、資料が留め置かれることがあります。
その際には、どの資料を預けたのかが分かるようにしておき、原本を預ける場合には、手元にコピーを残しておくことが重要です。電子データについても、どの期間、どのファイル、どの形式のデータを提出したのかを記録しておきます。
留置きの必要がなくなった場合には、資料は速やかに返還する運用とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
電子データは元の状態を保全する
クラウド会計、インターネットバンキング、決済サービス、ECサイト等を利用している場合、紙だけでなく電子データが重要な証拠になります。
調査連絡後に会計データを整理するときは、元データを直接上書きせず、次のように管理します。
- 申告時点の会計データをバックアップする
- 仕訳帳、総勘定元帳、取引履歴を出力する
- 修正・追加する場合は、変更日時と理由を記録する
- 調査対応用の集計表は元帳と別ファイルにする
- メール、PDF請求書、プラットフォーム明細を削除しない
- 税務署へ提出したデータのコピーを保存する
「帳簿をきれいにする」ために、過去の仕訳や電子証憑を削除してしまうと、申告時の処理過程が分からなくなります。誤りがあった場合でも、元の状態と修正後の状態を比較できることが重要です。
実地調査の後にも確認は続く
調査担当者が事業所や自宅から帰った時点で、調査が終了したとは限りません。
実地調査後には、次のような対応が行われることがあります。
- 追加資料の提出依頼
- 不明な入出金に関する質問
- 契約内容や取引条件の確認
- 税務署内での帳簿・データ分析
- 取引先への反面調査
- 金融機関等への確認
- 納税者または税理士への追加面談
- 税務署内部での処理方針の検討
反面調査とは、納税者本人の説明や帳簿だけでは取引事実を十分に確認できない場合などに、取引先や金融機関等へ質問・確認を行うことをいいます。
本人への調査と反面調査で説明が食い違うと、さらに確認が必要になります。取引先へどのように説明してもらうかを働きかけたり、回答内容を合わせたりすることは適切ではありません。取引先にも、その取引先が保有する事実と資料に沿って回答してもらう必要があります。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
追加依頼は一覧で管理する
調査が長期化すると、何を提出し、何が未回答なのか分からなくなりやすいため、次のような管理表を作っておきます。
| 論点 | 税務署からの質問・依頼 | 対応資料 | 回答期限 | 回答日 | 未解決事項 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上 | A口座の入金内容 | 請求一覧、契約書 | ○月○日 | ||
| 車両費 | 事業使用割合 | 走行記録、訪問予定表 | ○月○日 | ||
| 修繕費 | 工事内容 | 見積書、写真、工事契約 | ○月○日 | ||
| 外注費 | 業務実態 | 業務委託契約、成果物 | ○月○日 |
口頭で受けた依頼も、その場で復唱して範囲を確認し、後から記録に残しておきます。
税務署への回答、提出資料、税理士との検討内容を一つの時系列にまとめておくと、調査結果の説明を受けた際にも、どの事実に基づく指摘なのかを確認しやすくなります。
税務調査は三つの形で終了する
調査の終了は、大きく三つに分かれます。
1.更正・決定等をすべきと認められない場合
実地調査の結果、申告内容等に誤りがなく、更正・決定等を行う必要がないと判断された場合には、税務署から「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」が書面で交付されます。一般に「是認通知」と呼ばれるものです。
ただし、これは、通知時点で把握された事実に基づき、更正等を行う必要がないという意味にとどまります。将来、新たな情報により申告誤りが認められる場合まで、永久に調査されないことを保証するものではありません。
一度調査が終了した後に、同じ税目・期間を再度調査するには、新たに得られた情報に照らして非違があると認められることが必要とされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
2.修正申告・期限後申告を勧められる場合
調査の結果、申告内容に誤りがあると判断された場合、調査担当職員は、原則として次の内容を説明します。
- 問題となる税目・年分
- 誤りと判断した事実
- 更正・決定等をすべきと認めた金額
- その理由
- 加算税や延滞税が生じる可能性
- 修正申告・期限後申告を行う場合の法的効果
そのうえで、修正申告や期限後申告を行うよう勧められることがあります。
修正申告等の勧奨は、納税者自身が申告内容を是正するよう求めるものです。勧奨に応じるかどうかは納税者の判断であり、応じないという理由だけで不利益な取扱いを受けるものではない、とされています。
ただし、修正申告を提出すると、原則としてその修正申告自体を不服申立てで争うことはできません。後から納め過ぎであることが判明した場合に、更正の請求を検討できることはありますが、対象期間や要件があります。
したがって、修正申告を提出する前に、少なくとも次の点を確認しておくべきです。
- 指摘された事実は正しいか
- 税務署の計算に誤りはないか
- 所得区分や必要経費の法的評価は妥当か
- 指摘額の全額に同意するのか、一部だけか
- 加算税の区分は何か
- 消費税、住民税、個人事業税等へどう波及するか
- 納税資金をどう準備するか
「調査を早く終わらせたい」という理由だけで、内容を理解しないまま修正申告書を提出することは避けるべきです。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
3.税務署が更正・決定等を行う場合
納税者が修正申告等の勧奨に応じず、税務署が申告内容の是正を必要と判断した場合には、税務署長が更正・決定等の処分を行います。
更正等の処分には、その判断の理由が示されます。納税者が処分に納得できない場合には、再調査の請求、審査請求等の不服申立てを検討することになります。
この段階では、単に「税額が高い」と主張するだけでは足りません。
- どの事実認定が違うのか
- どの証拠が見落とされているのか
- どの法令解釈に異論があるのか
- 税務署の計算過程のどこが誤っているのか
これらを分けて整理する必要があります。
不服申立ての手続と期限は、「11-10. 不服申立て・審査請求・専門家対応の基本」で別途扱います。
事前通知を受けた後に整理したい資料
調査準備は、通知された資料を箱に詰める作業ではありません。
申告書に記載された数字が、どの取引と資料からできているかを確認する作業です。
| 整理分野 | 主な資料・確認事項 | 調査前に確認したいこと |
|---|---|---|
| 申告全体 | 申告書、決算書、過年度申告書、届出書 | 年分・税目ごとの申告内容 |
| 収入 | 売上台帳、請求書、通帳、決済サービス、支払調書 | 売上・入金・申告額の一致 |
| 必要経費 | 領収書、請求書、契約書、カード明細 | 事業関連性、支払先、支払目的 |
| 家事関連費 | 自宅、車両、通信費、水道光熱費の記録 | 按分基準と継続性 |
| 不動産 | 賃貸借契約、家賃明細、管理会社明細、工事資料 | 物件別の収入・経費、共有関係 |
| 固定資産 | 購入資料、固定資産台帳、減価償却計算 | 取得価額、使用開始日、事業割合 |
| 人件費等 | 給与台帳、外注契約、振込記録、成果物 | 給与・外注の実態、源泉徴収 |
| 消費税 | 課税区分、インボイス、届出書、売上区分 | 課税事業者判定、仕入税額控除 |
| 資産売却 | 売買契約、取得資料、譲渡費用、特例資料 | 取得費、所有期間、特例要件 |
| 電子データ | 会計ソフト、PDF、メール、CSV、操作履歴 | 元データの保全、検索・出力方法 |
| 申告経緯 | 税理士とのメール、資料依頼一覧、計算メモ | 誰が何を認識し、何を渡したか |
申告書から帳簿を見るだけでは足りない
実務上、より重要なのは、「申告書に載っていない可能性があるもの」から確認することです。
たとえば、次の資料を一覧化します。
- 事業用・家計用を含むすべての関連口座
- 家族名義だが事業で使用している口座
- 複数の決済サービス
- プラットフォームごとの年間売上
- 証券・暗号資産・国外口座
- 管理会社や仲介会社からの入金
- 現金売上・現金回収
- 補助金、助成金、保険金
- 資産売却代金
- 過去に廃止した口座・サービス
これは、税務署に無関係な家計情報を無制限に提出するという意味ではありません。まず納税者と税理士の間で、申告対象となる取引を漏れなく把握し、そのうえで調査対象との関連性に応じて、提示・提出範囲を検討する、ということです。
税務調査の連絡後に避けたい対応
元データを上書きする
申告時の状態が分からなくなります。修正が必要な場合でも、元データをバックアップしたうえで、別データとして処理します。
記憶だけで経緯を説明する
後から契約書や通帳と食い違うおそれがあります。不明点は「確認して回答します」と伝えます。
依頼された資料だけを機械的に集める
個々の資料があっても、売上総額や経費総額が申告書と一致しなければ説明できません。帳簿、入出金、申告書を相互に照合します。
税理士がすべて知っていると思い込む
税理士へ渡していない資料、口座、取引は把握されていません。申告時に何を渡したかも確認します。
資料不足を埋めるため、事実と異なる書類を作る
領収書がないことと、架空の証拠を作ることは、全く異なります。資料が不足している場合には、通帳、メール、契約書、利用履歴など、代替資料から事実を立証します。
修正申告を急いで提出する
本税の修正が必要な場合でも、税務署の指摘額がすべて正しいとは限りません。事実、計算、法令解釈、加算税を分けて確認します。
所得税だけを見て追加負担を判断する
所得税の修正は、住民税、個人事業税、国民健康保険料、消費税、予定納税等に影響することがあります。調査終了後の資金繰りまで試算する必要があります。
早い段階で専門家へ相談したいケース
次のような場合には、事前通知を受けた段階で税理士へ相談する意味が大きくなります。
- 複数年分・複数税目が調査対象になっている
- 副業、個人事業、不動産所得が混在している
- 事業所得か雑所得かなど、所得区分に疑義がある
- 売上と入金の照合ができていない
- 現金取引が多い
- 事業と家計の口座・支出が混在している
- 家族名義の口座や共有不動産がある
- 修繕費、減価償却、取得費等の判断が複雑である
- 消費税や源泉所得税も対象となっている
- 前任税理士が申告し、現在の税理士が内容を把握していない
- 無予告調査を受けた
- 重加算税、隠蔽・仮装という説明が出ている
- 修正申告書の提出を勧められている
- 電子データの提出範囲や形式が分からない
- 税務署の事実認定や計算に疑問がある
調査対応における専門家の役割は、税務署の指摘へ反論することだけではありません。
申告に誤りがある場合には、その誤りを率直に認め、適切に是正する必要があります。一方で、事実関係や法令解釈に疑問がある場合には、資料を確認せずに安易に同意すべきでもありません。
何を認め、何を確認し、どの点について見解が異なるのか。これを明確にすることが、税務調査を適切に終えるための前提になります。
重要事項の振り返り
| 論点 | 基本的な考え方 | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 調査連絡 | 連絡だけで申告誤りが確定するわけではない | 担当者、税目、期間、日時、連絡内容を記録する |
| 行政指導との違い | 質問検査権に基づく調査か、自主的見直しの要請かを区別する | 税務署へどちらかを確認する |
| 調査通知 | 調査を行う旨、対象税目、対象期間が中心 | 通知日時が加算税に影響し得るため記録する |
| 事前通知 | 日時、場所、目的、資料、担当者等が通知される | 通知事項を一覧にして確認する |
| 通知方法 | 電話等の口頭通知も認められ、法定の一律日数はない | 準備時間が不足する場合は早めに協議する |
| 税理士への通知 | 税務代理権限証書と同意内容により異なる | 対象年分・税目、代理権限、同意欄を確認する |
| 日時・場所の変更 | 合理的な理由があれば変更を求められる | 理由と代替日を具体的に伝える |
| 無予告調査 | 調査遂行上の支障が見込まれる場合の例外 | 身分・対象範囲を確認し、税理士へ連絡する |
| 質問への回答 | 即答より、事実と資料に基づく正確性が重要 | 不明点は確認後に回答し、推測で補わない |
| 資料提出 | 提示、提出、留置きは意味が異なる | 提出資料一覧とコピーを手元に残す |
| 電子データ | 申告時の元データと変更履歴が重要 | 上書きせず、バックアップと提出記録を残す |
| 調査範囲の追加 | 他税目・他年分へ広がることがある | 追加範囲、理由、必要資料を記録する |
| 調査結果 | 是認、修正申告等、更正・決定の三つが中心 | 指摘内容、金額、理由、周辺税目への影響を確認する |
| 修正申告 | 提出後は原則として自らの申告を不服申立てで争えない | 内容を理解し、計算と法的評価を確認してから提出する |
| 再調査 | 調査終了後も、新たな情報があれば行われる場合がある | 是認通知や前回調査資料を保存する |
| 将来への対応 | 調査は単年の追徴だけでなく、管理体制の課題を示す | 翌年以降の帳簿、証憑、口座、税務判断を見直す |
税務調査の連絡を受け、何から整理すべきか迷っている方へ
税務調査では、資料の量よりも、申告書、帳簿、契約、入出金、利用実態が一つの事実関係としてつながっているかどうかが重要です。
対象年分が複数ある場合、事業と家計が混在している場合、あるいは不動産収入や資産売却、消費税、源泉所得税が関係する場合には、事前通知の段階で論点を切り分けておかないと、調査中に対応が後手へ回ってしまうことがあります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事前通知の内容、過年度申告書、帳簿、通帳、契約書、電子データ等を確認し、調査対象、事実関係、申告誤りの有無、追加税額や将来への影響を整理します。
税務署から連絡があったものの、対象範囲や準備資料が分からない場合、調査前に申告内容を客観的に点検したい場合、調査結果や修正申告の判断に不安がある場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。