税務調査で確認されやすい所得区分・経費・資料|売上漏れ・家事関連費・減価償却・消費税の判断

税務調査というと、「領収書がそろっているかを確認される場」と受け止めている方が少なくありません。

しかし、実際に確認されるのは、領収書の有無だけではありません。税務署が見ているのは、申告書に記載された所得区分、収入金額、必要経費、減価償却費、消費税区分といった数字が、契約や取引実態、入出金、帳簿、証憑と整合しているかどうかです。

たとえば、領収書があっても、私生活上の支出であれば必要経費にはなりません。反対に、領収書を紛失していても、契約書や通帳、メール、カード明細などから取引の事実を確認できることがあります。ただし、消費税の仕入税額控除については、所得税の必要経費とは別に、帳簿・請求書等の保存要件を満たす必要があります。

言い換えれば、税務調査で問われるのは、申告書の数字を、取引の事実まで遡って説明できるかという一点に尽きます。

本稿では、税務調査の手続や事前通知そのものではなく、個人事業、副業、不動産収入などの申告内容について、実際にどのような点が確認されやすいのかを整理します。税務調査の流れについては「11-6. 税務調査の流れと事前通知」、反面調査や質問応答記録書については「11-8. 反面調査・資料提出・質問応答記録書への向き合い方」で扱います。

なお、本稿は2026年6月26日現在の法令・国税庁公表情報を前提としています。個別の取引に当てはめる際には、対象年分の法令や通達、届出状況、契約内容等を改めてご確認ください。

目次

税務調査で見られるのは「数字」よりも、その数字ができた過程

税務調査では、申告書の数字を眺めるだけではなく、次の流れが一本につながっているかが確認されます。

確認段階確認される内容主な資料
取引の事実誰と、何を、どのような条件で取引したか契約書、注文書、メール、業務記録
権利・義務の発生いつ収入や費用が確定したか納品書、検収書、請求書、賃貸借契約書
資金の流れ代金がどこへ入り、誰が支払ったか通帳、カード明細、決済サービス明細
帳簿への記録どの勘定科目・税区分・年分で記帳したか仕訳帳、総勘定元帳、売上台帳
申告への反映決算書・収支内訳書・申告書へ正しく反映したか青色申告決算書、収支内訳書、確定申告書

この五つが一貫していれば、調査で質問を受けても、落ち着いて説明することができます。

反対に、入金は確認できるのに売上台帳に記載がない、領収書はあるものの事業との関係が見えない、固定資産台帳と減価償却費が一致しない。こうした状態では、どうしても追加の確認が必要になります。

実際の調査では、預金通帳、手書きノート、領収書控などを相互に突き合わせ、現金売上の一覧を作成して帳簿と照合することもあります。

国税庁は、収集した資料情報を分析したうえで調査対象を選定しており、インターネット上の取引、暗号資産、無申告、消費税還付申告などについては、とりわけ重点的に確認しています。したがって、銀行口座だけでなく、プラットフォーム、決済サービス、証券口座、暗号資産交換業者などに残る電子記録も、申告内容を確認する資料になり得ます。
出典:国税庁|令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況

まず確認される所得区分

個人の所得税では、収入をその性質に応じて区分します。

同じ100万円の入金でも、事業所得、給与所得、雑所得、不動産所得、一時所得、譲渡所得のいずれに該当するかによって、所得金額の計算方法や損失の取扱いが変わってきます。

そして税務調査では、納税者が付けた名称ではなく、実際の取引内容から所得区分が検討されます。

事業所得か、業務に係る雑所得か

副業やフリーランス収入では、事業所得と雑所得の区分が重要になります。

判断の中心にあるのは、その活動が社会通念上「事業」といえる程度に行われているかどうかです。具体的には、次のような事情を総合して判断していきます。

  • 取引が継続的・反復的に行われているか
  • 独立して顧客を獲得し、価格や条件を決めているか
  • 赤字や回収不能などの事業上のリスクを負っているか
  • 相応の時間、労力、設備、資金を投入しているか
  • 収益を得る目的で計画的に運営しているか
  • 赤字が続く場合に、黒字化に向けた取組をしているか
  • 取引を帳簿に記録し、契約書や請求書等を保存しているか
  • 本業その他の収入との関係で、どの程度の規模があるか

国税庁の所得税基本通達では、帳簿書類を保存していない場合、一定の例外を除き、業務に係る雑所得に該当することに留意するとされています。

もっとも、「収入が300万円以下なら必ず雑所得」「300万円を超えれば必ず事業所得」といった一律の線引きがあるわけではありません。帳簿があっても、収入が僅少であったり、赤字が続いているのに黒字化の取組をしていなかったりする場合には、事業といえるかを個別に判断します。反対に、帳簿がない場合でも、収入規模やその他の事実から事業所得と認められることがあります。
出典:国税庁|所得税基本通達 法第35条《雑所得》関係
出典:国税庁|雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説

税務調査に備えて確認しておきたいのは、開業届の有無だけではありません。

確認事項有力な資料
事業内容と収益構造事業計画、料金表、サービス案内
継続性複数年の売上推移、継続契約
独立性業務委託契約、顧客一覧、請求書
営利性予算、採算管理、営業活動の記録
設備・人的体制事業用資産、外注契約、従業員資料
記帳状況仕訳帳、総勘定元帳、売上台帳
家計との区分事業用口座、事業用カード、按分記録

事業所得として損失を申告している場合は、とりわけ、事業の実態と赤字の原因を説明できる状態にしておく必要があります。

給与所得か、事業所得・雑所得か

業務委託契約書があるからといって、受取側の所得が必ず事業所得や雑所得になるわけではありません。

実態として雇用に近ければ、給与所得と判断される可能性があります。主な確認事項は、次のとおりです。

  • 他人に代わってもらうことが認められているか
  • 勤務時間や勤務場所を指定されているか
  • 業務の進め方について具体的な指揮監督を受けているか
  • 成果物が完成しなくても、働いた時間等に応じて報酬を請求できるか
  • 材料、工具、機材等を誰が準備しているか
  • 仕事上の損失や再作業の負担を誰が負うか
  • 複数の取引先と独立して取引しているか

契約書の表題や請求書の発行、消費税の記載だけで結論が決まるわけではありません。あくまで、契約と実際の働き方が一致しているかどうかが問われます。
出典:国税庁|大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱い
出典:国税庁|税務訴訟資料 第258号-89

支払側では、給与か外注費かによって、源泉徴収、消費税の仕入税額控除、帳簿処理などにも影響が及びます。受取側と支払側の申告内容が食い違っている場合には、双方の契約や支払実態が確認されることがあります。

不動産所得か、事業所得・雑所得か

建物や土地の貸付けによる収入は、原則として不動産所得に分類されます。

一方で、宿泊者への継続的なサービス提供、時間貸し設備の運営、物品保管サービスなど、単なる場所の貸付けを超える役務提供がある場合には、事業所得や雑所得に該当する可能性があります。

駐車場、民泊、トランクルーム、シェアスペース等では、名称ではなく、次のような実態を確認します。

  • 利用者に何を提供しているか
  • 単なる土地・建物の貸付けにとどまるか
  • 清掃、受付、予約管理、備品提供等がどの程度あるか
  • 管理会社へどこまで委託しているか
  • 契約当事者と収入の受取人は誰か
  • 事故や空室等の運営リスクを誰が負うか

一時所得・雑所得・譲渡所得の区分

保険金、解約返戻金、懸賞金、ポイント、会員権の売却、貴金属の売却などは、入金が一時的であるという理由だけで一時所得になるわけではありません。

税務調査では、次のような点から所得区分が確認されます。

  • 継続的な取引による収入か
  • 役務提供の対価か
  • 資産の譲渡による収入か
  • 支払者との契約関係は何か
  • 取得のためにどのような費用を負担したか
  • 事業や不動産貸付けとの関係があるか

資産売却であれば、売却契約書だけでなく、取得時の契約書、購入代金、改良費、所有期間、さらには相続・贈与で取得した経緯まで確認されます。

所得の帰属は口座名義だけでは決まらない

家族名義の口座へ売上が入っている場合や、共有不動産の賃料を代表者がまとめて受け取っている場合には、誰が申告すべき所得なのかが問題になります。

ここで確認されるのは、単なる口座名義ではなく、次のような事実です。

  • 契約上の権利者は誰か
  • 資産の所有者・共有持分は誰にあるか
  • 誰が取引条件を決めたか
  • 誰が費用や損失を負担したか
  • 収益を最終的に享受したのは誰か
  • 受取人が他の者へ分配する義務を負っているか

家族間や共有者間で「実際にはこの人の収入」という理解があったとしても、それを裏付ける契約、所有関係、送金記録がなければ、説明は難しくなります。

売上・収入漏れは、入金額だけでは判断できない

税務調査では、まず、申告すべき収入が漏れなく計上されているかが確認されます。

ここで押さえておきたいのは、入金された金額だけを売上にするとは限らないという点です。

所得税では、原則として、年末までに現金を受け取っていなくても、収入すべき権利が確定していれば、その年の収入金額に含めます。商品販売、請負、人的役務の提供などでは、引渡し、検収、役務完了、契約条件等から収入計上時期を判断します。
出典:国税庁|No.2200 収入金額とその計算
出典:国税庁|所得税基本通達 法第36条《収入金額》関係

確認されやすい収入経路

収入経路確認される点
銀行振込請求額、入金額、源泉徴収、振込手数料の差額
現金売上領収書控、POS、予約表、現金出納帳との一致
クレジットカード売上発生日、決済手数料、入金時期
決済アプリプラットフォーム上の総売上と銀行入金の差額
EC・仲介サイト販売総額、手数料、返金、ポイント負担
不動産管理会社家賃総額、管理料、修繕費、オーナー送金額
海外サービス外貨建売上、換算方法、海外口座への入金
補助金・保険金入金原因、補填対象、非課税・収入計上の判定
資産売却売却代金、下取り、割賦、手付金、取得費

プラットフォームや管理会社から手数料控除後の金額だけが入金される場合、銀行への入金額をそのまま売上にしてしまうと、総額の売上が帳簿から抜け落ちることがあります。

ただし、常に総額処理になると断定できるわけではありません。契約上、自らが取引主体なのか、それとも単なる仲介者なのか、手数料を誰が負担しているのかを確認したうえで処理します。委託販売では、振込額だけでなく販売総額と手数料まで確認しなければ、所得税だけでなく消費税の課税売上高にも影響することがあります。

私用口座の入金も、事業との関係を確認する

事業用口座と私用口座を分けていても、事業に関する入金が私用口座や家族口座へ入っている場合には、その口座も確認対象になり得ます。

もっとも、口座への入金がすべて売上になるわけではありません。次のような入金も混ざり込むため、内容を区分する必要があります。

  • 自分の別口座からの資金移動
  • 借入金
  • 敷金・保証金
  • 家族からの立替金返済
  • 預り金
  • 資産売却代金
  • 保険金
  • 贈与
  • 売上代金

入金の内容が分からない場合、通帳へ後から「売上ではない」と書き添えるだけでは足りません。振込人、契約、送金原因、相手方との関係を確認できる資料が必要になります。

不動産収入は、賃料以外も確認する

不動産所得の総収入金額には、賃料だけでなく、更新料、名義書換料、返還を要しない敷金・保証金、共益費等が含まれる場合があります。

家賃や地代は、原則として契約上の支払日の属する年分に計上します。一定の要件を満たし、継続的な記帳に基づいて期間対応により計上している場合には、異なる取扱いが認められることがあります。敷金・保証金は、受領時点では預り金であっても、返還不要が確定した時点で収入計上が必要です。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期
出典:国税庁|不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について

必要経費は「支払ったか」だけでは決まらない

必要経費に算入できるのは、総収入金額に対応する売上原価、その収入を得るために直接要した費用、そしてその年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用です。

税務調査では、主に次の四点が確認されます。

  1. 実際に支出した事実があるか
  2. 事業・不動産貸付け等との関連性があるか
  3. その年分の必要経費として計上すべきものか
  4. 家事費、資産取得、前払費用等が混在していないか

領収書は、支払日、支払先、金額を示す資料ではありますが、それだけで事業目的まで証明できるとは限りません。
出典:国税庁|No.2210 必要経費の知識

経費項目ごとに残したい資料

経費項目確認される点残したい資料
会議費・飲食費誰と、何の目的で会食したか領収書、参加者、議題、日程表
交際費取引先との関係、事業上の目的贈答先一覧、名刺、商談記録
旅費交通費訪問先、業務内容、私的旅行との区分行程表、訪問記録、乗車券、メール
研修費現在の業務との関連性研修案内、申込書、受講記録
書籍・情報料業務内容との関連性書名、購読目的、利用部署・業務
会費団体の活動内容と事業上の必要性規約、請求書、活動内容
通信費事業利用割合契約、利用明細、按分計算
車両費事業走行と私用走行の区分走行記録、訪問先、給油記録
外注費業務内容、成果物、給与との違い契約書、成果物、請求書、振込記録
保険料被保険者、補償対象、事業資産との関係保険証券、契約内容
修繕費維持管理か価値増加か見積書、工事明細、写真、図面

領収書に「品代」としか書かれていない場合は、購入品、利用目的、利用者を、別の資料で補う必要があります。

一方で、領収書を紛失したからといって、所得税上、ただちに取引の存在そのものが否定されるとは限りません。通帳、カード明細、注文メール、納品書、取引先発行の明細などから、支払事実と業務内容を確認できることがあります。

ただし、後から事実と異なる領収書や業務記録を作成することは認められません。調査対応のために整理表を作る場合は、当時の資料そのものではなく、既存資料を基に後日作成した整理表であることを、明確にしておきます。

家事関連費は「何割なら安全か」ではなく、使用実態で判断する

自宅、車両、スマートフォン、インターネットなどは、事業と生活の両方で使うことがあります。

こうした家事関連費のうち必要経費になるのは、取引記録等に基づき、業務遂行上直接必要であった部分を明確に区分できる金額です。

税法上、「自宅家賃は一律50%まで」「自動車費は30%なら問題ない」といった安全割合が定められているわけではありません。

支出考えられる按分基準残したい記録
自宅家賃事業専用面積、使用時間間取り図、面積計算、使用状況
水道光熱費面積、使用時間、設備別使用量請求明細、営業時間
通信費利用時間、回線数、通信量利用明細、業務用番号
車両費走行距離、利用日数運行記録、訪問先、走行距離
パソコン等使用者、用途、利用時間利用状況、業務ソフト
固定資産税事業使用面積課税明細、間取り、用途

按分割合が合理的かどうかは、事業内容、家族構成、従業員数、建物や車両の利用実態等によって変わります。

税務調査では、事業上の支出と生活上の支出の境界を確認するため、必要な範囲で生活実態について質問されることがあります。個人事業者は事業者であると同時に生活者でもあるため、家事関連費の調査は、帳簿だけでは完結しないことがあるのです。

按分割合を説明する際には、次の点が大切になります。

  • 事業実態に合った基準を選んでいるか
  • 基準の計算過程を残しているか
  • 毎年、同じ前提で継続しているか
  • 事業内容や利用状況が変わった年に割合を見直しているか
  • 経費を増やすために割合を逆算していないか

調査が始まってから都合のよい割合を決めるのではなく、日常の利用記録を基に、決算時に確認しておくことが重要です。

家族への支払は、第三者以上に事実確認が必要になる

生計を一にする配偶者その他の親族への給与、家賃、外注費等には、第三者との取引とは異なる税務上の制限があります。

青色事業専従者給与

青色事業専従者給与を必要経費に算入するためには、親族関係、年齢、専従性、届出、実際の支払、金額の相当性等を満たす必要があります。

届出書を提出しているだけでは足りません。税務調査では、次のような点が確認されます。

  • どのような業務に従事しているか
  • 週何日、1日何時間程度働いているか
  • 他の勤務先や事業がないか
  • 給与を実際に支払っているか
  • 給与額が業務内容や事業規模に見合っているか
  • 同程度の仕事をする従業員の給与と比較して不自然でないか
  • 年末にまとめて帳簿上だけ計上していないか

必要経費となる給与は、届出額の範囲内で、従事期間、労務の性質・程度、他の従業員や同種事業の給与水準、事業の種類・規模・収益状況等から相当と認められる金額に限られます。
出典:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
出典:国税庁|青色事業専従者給与に関する届出手続

資料としては、給与台帳、勤怠記録、業務日報、振込記録、源泉徴収簿、職務内容表などを整えておきます。

家族であることを理由に記録を省いてしまうと、支払実態や金額の相当性を、後から説明しにくくなります。

外注費は、請求書があれば認められるとは限らない

外注費として処理していても、実態が給与であれば、源泉所得税や消費税の問題につながります。

税務調査では、請求書の有無だけでなく、次のような実態を確認します。

確認事項外注に近い事情給与に近い事情
仕事の代替他人へ再委託できる本人が働くことを求められる
時間・場所自ら決める支払者が指定する
指揮監督成果のみ求められる作業方法まで指示される
報酬成果・完成物に対して支払う時間・日数に応じて支払う
損失負担再作業や事故のリスクを負う支払者が事業上のリスクを負う
材料・設備受注者が準備する支払者が準備する

実態が給与と判断されると、支払者には源泉徴収税額の納付が求められる可能性があります。また、給与の支払は消費税の課税仕入れには当たらないため、仕入税額控除にも影響します。

業務委託契約書、請求書、成果物、作業記録、支払条件が、互いに矛盾していないかを確認しておく必要があります。

減価償却では「買った年に支払った金額」と「その年の経費」は一致しない

事業や不動産貸付けのために建物、機械、車両、器具備品等を購入しても、その支払額をすべて購入年の必要経費にできるとは限りません。

時の経過や使用によって価値が減少する資産は、原則として使用可能期間にわたって減価償却します。一方、土地のように、通常、時の経過によって価値が減少しない資産は、減価償却資産ではありません。
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし

税務調査では、固定資産台帳と、次のような資料が照合されます。

  • 売買契約書
  • 請求書、領収書
  • 取得に伴う運送料・設置費等の資料
  • 使用開始日が分かる資料
  • 耐用年数と償却方法の計算資料
  • 事業利用割合の根拠
  • 補助金の交付資料
  • 売却・廃棄・除却の資料
  • 修理・改良工事の見積書

なかでも確認されやすいのは、次の論点です。

取得価額

本体代金だけでなく、事業に使用するために直接要した付随費用を、取得価額に含める場合があります。

不動産を一括購入した場合は、土地、建物、建物附属設備等の価額区分に、合理的な根拠が必要です。

事業供用日

購入日や支払日ではなく、実際に事業へ使用できる状態となった日から、減価償却を始めます。

年末に購入した資産を、実際には翌年から使い始めた場合には、購入年からの減価償却は認められない可能性があります。

事業使用割合

自動車、パソコン、自宅設備等を私用と共用している場合は、減価償却費も事業使用割合に応じて区分します。

少額資産の特例

少額資産には複数の取扱いがありますが、取得価額、青色申告の有無、事業供用日、対象資産、適用期限等によって、結論が変わります。

購入金額だけを見て一括経費処理せず、対象年分の制度要件を確認しておく必要があります。

修繕費か資本的支出かは、工事名では決まらない

建物や設備の工事代金を「修繕費」と記帳していても、資産の価値を高めたり、使用可能期間を延長したりする部分は、資本的支出として減価償却することがあります。

反対に、通常の維持管理や原状回復のための支出であれば、修繕費として支出年分の必要経費になるのが基本です。

区分は、請求書に記された「修理」「リフォーム」「改修」といった名称ではなく、あくまで工事の実質で判断します。
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定
出典:国税庁|No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却

税務調査の前に、工事ごとに、次のような資料をまとめておきます。

  • 工事前後の写真
  • 見積書と請求書
  • 工事項目別の金額
  • 工事の目的
  • 原状回復部分と機能向上部分の区分
  • 建築図面、仕様書
  • 保険金や補助金の受取資料
  • 会計処理を判断した際の検討記録

一つの請求書に修繕部分と設備追加部分が混在している場合には、施工業者に工事項目別の内訳を確認しておくことが重要です。

不動産所得では、物件単位の整理が重要になる

不動産所得を全物件合計でしか管理していないと、調査時に、収入と経費の対応関係を説明しにくくなります。

物件ごとに、少なくとも次のような資料を整理しておきます。

分野主な資料
所有関係登記事項証明書、遺産分割協議書、共有持分資料
賃貸条件賃貸借契約書、更新契約書、覚書
収入家賃一覧、管理会社明細、入金記録
預り金敷金・保証金台帳、返還・償却条件
借入金銭消費貸借契約、返済予定表、年末残高
税金固定資産税課税明細、納付書
修繕見積書、工事契約、写真、請求書
減価償却売買契約、土地建物区分、固定資産台帳
共用部分自宅部分・賃貸部分の面積資料
共有物件持分、収入分配、経費負担の記録

とりわけ注意したいのが、管理会社からの送金額を、そのまま家賃収入としてしまう処理です。

管理会社の送金額は、家賃、共益費、更新料などから、管理料、修繕費、送金手数料等を控除した純額であることがあります。家賃総額、控除項目、送金額を、管理明細で照合しなければなりません。

共有不動産では、代表者が家賃をまとめて受け取っていても、原則として所有持分や実質的な権利関係に応じて所得帰属を確認します。管理担当者は誰か、費用を誰が負担したか、共有者間でどのように精算したか。これらも資料に残しておきます。

消費税は、所得税の経費判断と分けて確認する

個人事業者の税務調査では、所得税と併せて消費税を確認されることがあります。

ここで押さえておきたいのは、次の二つが同じではない、という点です。

  • 所得税で必要経費になるか
  • 消費税で仕入税額控除できるか

所得税上の必要経費に該当しても、消費税では非課税取引、不課税取引、給与等に該当し、仕入税額控除の対象にならないことがあります。

反対に、取引自体が課税仕入れに該当しても、帳簿・請求書等の保存要件を満たさなければ、原則として仕入税額控除を受けることはできません。

調査で確認されやすい消費税の論点

  • 課税事業者・免税事業者の判定
  • インボイス登録日と課税期間
  • 課税売上・非課税売上・不課税取引の区分
  • 8%・10%の税率区分
  • プラットフォーム手数料控除前の課税売上高
  • 住宅、事務所、駐車場等の賃貸用途
  • 給与と外注費の区分
  • 固定資産取得時の仕入税額控除
  • 適格請求書の記載事項
  • 帳簿と請求書等の保存
  • 簡易課税の事業区分
  • インボイス制度の経過措置

2026年5月改訂の国税庁Q&Aでも、適格請求書等保存方式の下では、原則として、一定事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされています。帳簿だけで控除できるのは、公共交通機関特例など一定の場合に限られます。
出典:国税庁|消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(令和8年5月改訂)

クレジットカード明細や銀行口座との自動連携データは、支払の存在を確認する資料にはなりますが、取引内容や適格請求書の記載事項まで確認できるとは限りません。元となる請求書、領収書、利用明細等と仕訳をひも付けて保存しておくことが重要です。

2026年10月以後の経過措置にも注意する

適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、一定の帳簿・請求書等を保存することにより、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。

現行制度では、次のように割合が変わります。

課税仕入れの時期控除できる割合
2023年10月1日~2026年9月30日80%
2026年10月1日~2028年9月30日70%
2028年10月1日~2030年9月30日50%
2030年10月1日~2031年9月30日30%

したがって、2026年分の申告では、同じ仕入先への支払でも、課税仕入れの時期によって適用割合が変わる可能性があります。実際に適用する際には、今後の法改正も含め、対象取引の時期と帳簿記載を確認する必要があります。
出典:国税庁|経過措置(免税事業者等からの仕入れに係る仕入税額控除)

調査で評価されるのは、資料の量ではなく、資料同士の整合性

証憑を大量に保存していても、帳簿や申告書とつながっていなければ、説明にはどうしても時間がかかります。

説明力のある資料は、次の四層が互いに対応しています。

1.取引の原因を示す資料

  • 契約書
  • 注文書
  • 見積書
  • メール
  • 予約記録
  • 業務委託内容
  • 賃貸借契約書

2.取引の履行を示す資料

  • 納品書
  • 検収書
  • 成果物
  • 作業報告書
  • 工事写真
  • 利用記録
  • 業務日報

3.金額と決済を示す資料

  • 請求書
  • 領収書
  • 通帳
  • カード明細
  • プラットフォーム明細
  • 管理会社明細
  • 証券会社・交換業者の取引報告

4.税務処理を示す資料

  • 仕訳帳
  • 総勘定元帳
  • 売上台帳
  • 固定資産台帳
  • 消費税区分
  • 青色申告決算書
  • 収支内訳書
  • 確定申告書

たとえば、飲食費の領収書だけでは、事業目的までは分かりません。しかし、商談メール、参加者、議題、領収書、カード決済、会計仕訳がつながっていれば、取引の内容を説明しやすくなります。

青色申告制度も、単に特別控除を受けるための制度ではなく、正確な帳簿の記帳・保存を通じて適正な所得計算を行うことを前提とした制度です。

電子資料は「画面で見られる」だけでは足りない

クラウド会計、ECサイト、決済サービス、ネットバンキングを利用している場合には、電子データの保存状態も確認します。

取引に関して書面で保存すべき注文書、契約書、請求書、領収書等に相当する電子データを受領・交付した場合、対象となる保存義務者は、これを電子取引データとして保存する必要があります。保存に当たっては、改ざん防止、画面・出力環境、検索等の要件を確認します。
出典:国税庁|電子取引関係
出典:国税庁|帳簿の記帳のしかた

税務調査に備えるという観点では、次のような状態が望まれます。

  • 取引先、日付、金額で検索できる
  • 仕訳から元の請求書等を確認できる
  • データの訂正・削除履歴を確認できる
  • 解約済みサービスのデータも保存している
  • 担当者しか分からない保存方法になっていない
  • 調査時に必要な期間だけ抽出・出力できる
  • 申告後にデータを上書きしていない
  • バックアップがある

プラットフォーム上で過去データを見られる状態であっても、退会、契約変更、保存期間満了等により、閲覧できなくなることがあります。申告時に使用したCSV、PDF、取引報告書等は、自ら手元に保存しておくことが重要です。

帳簿・書類は、申告が終わっても捨てない

個人事業者には、所得区分や申告の有無に応じて、帳簿や書類の記帳・保存義務があります。

白色申告者についても、事業所得、不動産所得等を生ずべき業務を行う場合には、法定帳簿は原則7年間、任意帳簿や請求書・領収書等は原則5年間の保存が必要です。業務に係る雑所得についても、前々年の収入金額が300万円を超える場合には、現金預金取引等関係書類の保存義務があります。

消費税の仕入税額控除のために保存する請求書等や、インボイス発行事業者が交付した適格請求書の写し等は、所得税の保存期間とは別に確認する必要があります。
出典:国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告
出典:国税庁|No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度

保存年限だけでなく、実際に取り出せる状態かどうかも確認しておきます。段ボール箱に年度不明の領収書をまとめて入れているだけでは、調査対応にも経営管理にも使いにくい状態です。

税務調査前に行う、申告内容の自己点検

税務調査の連絡を受けたときは、いきなり税務署へ提出する資料を集めるのではなく、まず、申告内容を自ら点検します。

1.収入源と口座をすべて洗い出す

事業用口座だけでなく、次のものを一覧にします。

  • 私用・家族名義を含む関連口座
  • クレジットカード
  • QR決済、電子マネー
  • EC・仲介プラットフォーム
  • 証券口座、暗号資産口座
  • 海外口座
  • 不動産管理会社
  • 現金売上
  • 補助金、保険金、資産売却

2.総売上と入金額の差額を説明する

総売上から、源泉徴収、手数料、返金、相殺、立替金等を差し引いた結果が入金額になるよう、一覧表を作成します。

3.年末前後の取引を確認する

12月と翌年1月の請求、納品、検収、入金を確認し、未収入金、前受金、未払金、前払費用の計上が適切かを検討します。

4.判断が必要な経費を抽出する

次の項目は、金額が大きいものだけでなく、毎年継続して計上しているものも確認します。

  • 飲食費、交際費
  • 自宅関連費
  • 車両費
  • 研修・資格取得費
  • 家族への支払
  • 外注費
  • 高額な消耗品
  • 修繕費
  • 保険料
  • 海外支出

5.按分割合を再計算する

自宅、車両、通信費等の按分割合について、申告時に使用した基準と計算資料が残っているかを確認します。

6.固定資産と消費税を別に点検する

固定資産台帳、購入資料、事業供用日、耐用年数、消費税区分を照合します。

7.問題点を「事実・資料・税務判断」に分ける

たとえば外注費に疑問がある場合には、次のように整理します。

区分整理内容
事実どのような働き方をしていたか
資料契約書、勤怠、請求書、成果物
税務判断外注費か給与か
影響所得税、源泉所得税、消費税
未確認事項本人への確認、契約変更時期

問題点を見つけたからといって、ただちに税務署の想定する結論へ合わせる必要はありません。

一方で、明らかな売上漏れや経費の重複計上があるのなら、それを曖昧な説明で押し通すべきでもありません。認めるべき誤りと、事実・法令を検討すべき論点とを分けて考えることが大切です。

早い段階で専門家へ相談したいケース

次のような状況では、税務調査の前に、専門家と事実・資料を整理しておく意味が大きくなります。

  • 事業所得と雑所得の区分に不安がある
  • 継続的な赤字を他の所得と損益通算している
  • 事業と家計の口座・カードが混在している
  • 現金売上が多く、日々の売上記録が不足している
  • 家族への給与・家賃・外注費がある
  • 外注費と給与の区分が曖昧である
  • 自宅、車両、通信費の按分根拠が残っていない
  • 高額な修繕費や設備投資がある
  • 複数の不動産や共有不動産を保有している
  • 管理会社の送金額だけを家賃収入にしている
  • 消費税の課税区分やインボイス保存に不安がある
  • クラウド会計と元資料がつながっていない
  • 申告後に収入漏れや経費誤りへ気づいた
  • 税務署から修正申告を勧められている

専門家へ相談する際には、「この経費を認めてもらうにはどうすればよいか」という結論だけを求めるより、取引の経緯、利用実態、契約、資金の流れ、申告時の判断まで率直に共有していただく方が、適切な整理につながります。

重要事項の振り返り

論点税務調査で確認されること事前に整理したい資料
所得区分事業・雑・給与・不動産・譲渡等の実態契約、事業計画、取引記録
売上・収入計上漏れ、総額・純額、計上時期売上台帳、通帳、決済明細
現金売上領収書控や予約記録との整合現金出納帳、POS、領収書控
必要経費事業関連性、支払事実、期間帰属領収書、請求書、利用目的
家事関連費事業使用部分を合理的に区分したか面積、時間、走行距離等の記録
家族への支払実際の勤務、支払、金額の相当性勤怠、業務日報、振込記録
外注費給与との実態上の違い契約、成果物、作業記録
減価償却取得価額、供用日、耐用年数、使用割合固定資産台帳、購入資料
修繕費維持管理か価値増加か工事明細、写真、見積書
不動産所得家賃以外の収入、共有、物件別経費契約書、管理明細、物件台帳
消費税課税区分、税率、帳簿・インボイス適格請求書、税区分資料
電子資料電子保存、検索、元資料とのひも付けPDF、CSV、メール、操作履歴
帳簿保存保存年限だけでなく閲覧・出力できるか年度別帳簿、証憑、バックアップ

申告書の数字を、取引の実態まで遡って確認したい方へ

税務調査で確認される所得区分、必要経費、家事関連費、減価償却、消費税は、それぞれが独立した問題ではありません。

所得区分が変われば、経費、損益通算、青色申告、消費税にも影響が及びます。売上漏れが判明すれば、所得税だけでなく、消費税、住民税、個人事業税、国民健康保険料等へ波及することがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、過年度の申告書、帳簿、通帳、契約書、領収書、電子データ等を確認し、申告内容と取引実態がどのようにつながっているかを整理します。

税務調査の連絡を受けたものの、どの論点から確認すべきか分からない場合や、所得区分・必要経費・不動産収入・消費税の処理を客観的に点検したい場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

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