個人成り・小規模化・法人維持をどう判断するか|法人化後に見直すべき税金・資金繰り・信用・将来設計

法人化は、事業をこれから大きくしていくための判断として語られることの多いテーマです。ただ、実務の現場では、その逆の向きのご相談も決して少なくありません。

  • 「法人化したものの、思ったほど利益が出なくなった」
  • 「事業を縮小して、今後は一人、あるいは少人数で続けていきたい」
  • 「法人の維持コストや社会保険料が重く感じられる」
  • 「売上が落ちてきたので、個人事業に戻したほうがよいのではないか」
  • 「会社を残すべきか、休眠にすべきか、それとも清算すべきか判断がつかない」

こうした場面で出てくるのが、個人成り、小規模化、法人維持という選択です。

ここで最初にお伝えしておきたいことがあります。個人成りは、法人成りをそのまま逆再生する手続ではない、ということです。

法人化のときには、個人事業の売上、資産、契約、借入、取引先、従業員、消費税、社会保険、信用を、法人へと移していく問題が生じます。これに対して、法人から個人へ戻すときにも、法人名義の資産や負債、契約、許認可、従業員、借入、在庫、売掛金、消費税、役員報酬、そして法人そのものの清算・休眠管理といった論点が、あらためて残ります。

税金という一点だけを見ると、個人事業に戻したほうが身軽に映ることがあります。しかし法人をやめることで、取引先からの信用、金融機関との関係、許認可、法人名義の契約、繰越欠損金、将来の再拡大、事業承継やM&Aといった選択肢まで失ってしまう可能性もあります。

この記事では、法人化後に事業を縮小する局面を想定し、法人を維持するのか、個人事業に戻すのか、あるいは休眠・清算を検討するのかを、税務・資金繰り・実務運用の観点から整理していきます。

目次

個人成り・小規模化・法人維持は、同じ悩みに見えて判断が違う

まず、似ているようで意味の異なる言葉を整理しておきます。

選択肢意味主な判断軸
法人維持法人格を残したまま、事業を継続する信用、契約、許認可、再拡大、承継、繰越欠損金
小規模化法人のまま、役員報酬・人員・固定費・事業範囲を見直す資金繰り、社会保険、固定費、事業継続性
休業・休眠に近い状態法人を残したまま事業活動を止める、または大幅に停止する将来再開の可能性、申告・登記・地方税の管理
個人成り法人事業を縮小・整理し、個人事業として再開・継続する税負担、社会保険、契約移転、資産移転、信用
解散・清算法人を消滅させる手続に進む再開可能性の有無、残余財産、債務、清算コスト

大切なのは、「法人の利益が減ったから個人に戻す」と短絡しないことです。

利益が減った原因は、一時的なものなのか、それとも構造的なものなのか。今後、事業を再び拡大していく可能性はあるのか。法人名義の契約や許認可には、それ自体に価値があるのか。借入やリース、従業員、取引先との関係をどうしていくのか。そして、法人に残っている資産や負債を、どのように整理するのか。

こうした点を見ないまま個人成りに踏み切ると、税金はいくらか軽くなっても、事業の信用や将来の選択肢のほうを失いかねません。

判断の出発点は「法人が重い理由」を分解すること

法人を維持すべきか、個人に戻すべきかを考える前に、まず「なぜ法人が重く感じられているのか」を分解してみます。

法人が重いと感じられる理由には、少なくとも次のようなものがあります。

重く感じる理由確認すべき内容
税金が重い法人税等、役員報酬への所得税・住民税、地方税均等割など
社会保険料が重い役員報酬・従業員給与に伴う健康保険・厚生年金の負担
経理・申告が重い法人決算、法人税申告、源泉税、年末調整、社会保険手続
固定費が重い事務所、リース、顧問料、システム、役員報酬、借入返済
事業実態が縮小した売上減少、従業員退職、主要取引終了、事業内容の変化
公私分離が難しい会社と個人のお金が混ざりやすく、管理が負担になっている
将来の目的が変わった成長よりも生活維持、副業化、引退、別事業への転換を考えている

このなかでも、社会保険料や役員報酬の設計は、法人化後の手残りに大きく影響します。役員報酬を上げれば法人の利益は下がりますが、その分だけ個人側の所得税・住民税・社会保険料、そして会社側の社会保険料負担が増えていきます。ですから、税金だけでなく社会保険料まで含めて比較する必要があります。

なお、株式会社などの法人の事業所は、事業主お一人だけの場合を含めて、厚生年金保険の適用事業所とされます。
出典:日本年金機構|適用事業所と被保険者

問うべきは、法人をやめるべきかどうかよりも先に、「法人を維持するうえで、いったい何が負担になっているのか」を特定することです。ここを見極めるところから始めます。

法人維持が向くのは、法人格そのものに意味がある場合

法人を維持する意味は、税金だけにあるわけではありません。むしろ、税額だけを見れば個人事業のほうが軽く見える場面であっても、法人を残しておく意味があることは少なくありません。

法人維持を検討するに値するのは、たとえば次のような場合です。

法人維持を検討しやすい状態理由
法人名義の契約が重要取引先、賃貸借、リース、業務委託、許認可の移転が難しい
金融機関との関係がある法人名義の借入、保証、返済実績、決算書の継続性がある
従業員や外注先との関係が残る雇用契約、社会保険、源泉徴収、労務管理を継続する必要がある
将来の再拡大可能性がある一時的な縮小であり、数年以内に売上・採用・投資を戻す可能性がある
法人に繰越欠損金がある将来の法人所得と相殺できる可能性がある
事業承継・M&Aの可能性がある個人事業より、株式・持分を通じた承継や譲渡の検討がしやすい
許認可・ブランド・社歴に意味がある法人としての継続性が信用に影響する場合がある

青色申告書を提出した法人の欠損金は、一定の要件のもとで、各事業年度開始の日の前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額を、繰越控除の対象とすることができます。将来的に黒字化する可能性のある法人であれば、この繰越欠損金をどう扱うかも、法人維持の判断を左右する一要素になります。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

ただし、法人を維持するのであれば、法人としての管理もそのまま残ります。売上が少ないからといって、帳簿、申告、源泉税、社会保険、登記、地方税の確認を止めてよいわけではありません。法人を残すという判断は、いわば「箱を置いておく」ことではなく、法人として説明できる最低限の管理を続けていく、という判断なのです。

小規模化は、法人を残しながら負担を下げる選択肢

個人成りを考える前に、まず検討していただきたいのが小規模化です。

小規模化とは、法人を維持したまま、事業範囲、人員、役員報酬、固定費、借入、資産、契約を見直していくことを指します。具体的には、次のような整理になります。

見直し対象小規模化で確認すること
役員報酬会社利益、個人生活費、社会保険料、定期同額給与の要件
従業員雇用継続、業務委託化の是非、社会保険・労務リスク
固定費事務所、車両、リース、システム、顧問契約、保険
借入元本返済、条件変更、保証、資金繰り表
資産不要資産の売却、個人利用資産の整理、減価償却
事業範囲採算の悪い部門の撤退、利益率の高い業務への集中
税務処理役員貸付金、未払金、仮払金、個人経費混入の整理

小規模化で最も注意すべきなのは、役員報酬です。

法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金に算入されません。また、これらに該当するものであっても、不相当に高額な部分については損金算入が認められません。役員報酬を期の途中で自由に上げ下げして利益調整をする、という発想は危険だとお考えください。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与

法人を小さくすることは、単純に経費を削ることではありません。会社に残す機能を絞り込み、法人で持つべきものと個人で持つべきものを、あらためて分け直す作業です。

この段階で法人の数字を整えられれば、個人成りにまで進まなくても、資金繰りが改善するケースもあります。

個人成りが向くのは、法人である必要性が薄れている場合

個人成りが検討に値するのは、法人格を維持する意味が薄れ、個人事業として運営したほうが実態に合っている場合です。たとえば、次のような状態です。

個人成りを検討しやすい状態理由
事業が一人または少人数で完結する法人管理の負担に見合う規模ではなくなっている
取引先が法人格を重視しない個人名義でも契約・請求・入金に支障が少ない
法人名義の借入やリースが少ない契約移転・保証・返済条件の問題が比較的少ない
従業員がいない、または雇用を継続しない労務・社会保険の移行論点が限定される
将来の事業承継・M&Aを予定していない法人株式・持分を使った承継の必要性が低い
法人の維持コストが利益に見合わない決算申告、社会保険、登記、固定費が重い
生活維持型・副業型の事業に変わっている成長投資よりも身軽な運営を優先する

ただし、個人成りで注意しておきたいのは、法人を閉じればすべてが自動的に消えるわけではない、という点です。法人名義の資産、負債、契約、在庫、売掛金、買掛金、借入、リース、税金、社会保険、従業員、許認可は、それぞれ個別に整理していく必要があります。

個人事業として新たに事業を始める場合、所得税の関係では、個人事業の開廃業等届出書などの提出が必要になります。国税庁も、新たに事業を開始したとき、事業用の事務所等を新設・移転・廃止したとき、あるいは事業を廃止したときの手続として、この開廃業等届出書を案内しています。
出典:国税庁|No.2090 新たに事業を始めたときの届出など

個人事業に戻すのであれば、青色申告承認申請、青色事業専従者給与、消費税の届出、インボイス登録、減価償却資産の引継ぎ、在庫の取扱いについても、あわせて確認しておく必要があります。

個人成りで最も危ないのは、法人資産を曖昧に個人へ移すこと

個人成りで特に問題になりやすいのは、法人名義の資産を個人へ移す場面です。

法人名義の車両、機械、備品、在庫、ホームページ、商標、営業権、会員権、不動産、敷金、貸付金などを、そのまま個人が使い続けてしまう、というケースがあります。

ここで「どうせ自分の会社なのだから」と考えるのは危険です。

法人と個人は、あくまで別人格です。法人が所有している資産を、役員や株主である個人が無償または低額で取得すれば、法人税、所得税、消費税それぞれの論点が生じます。

所得税基本通達では、経済的利益のなかに、物品その他の資産を無償または低い対価で受けた場合の、その資産の価額、あるいは価額と対価との差額に相当する利益などが含まれる、とされています。
出典:国税庁|経済的利益

法人税基本通達でも、法人が役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合や、所有資産を低い価額で譲渡した場合には、実質的に給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらすものとして、経済的利益の供与に該当することが示されています。
出典:国税庁|第2款 経済的な利益の供与

さらに消費税についても、法人が役員に資産を贈与した場合には時価に相当する金額を課税標準として課税され、著しく低い価額で譲渡した場合にも時価を対価の額とみなして課税される、という取扱いがあります。
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

こうしたことから、個人成りにあたっては、法人資産の引継ぎを次のように整理していく必要があります。

資産・契約確認すべきこと
車両・備品・機械時価、帳簿価額、売買契約、入出金、消費税
在庫販売価額、仕入価額、棚卸、売却先、消費税
ホームページ・商標所有者、利用権、譲渡価額、事業上の必要性
賃貸借契約法人契約から個人契約へ変更できるか
リース契約名義変更、解約違約金、残債の有無
借入金金融機関の承諾、個人への引継ぎ可否、保証
売掛金・買掛金法人に残すのか、個人へ譲渡するのか
敷金・保証金返還先、名義変更、譲渡処理
従業員退職、転籍、雇用契約、社会保険、源泉税

法人から個人へ資産や契約を移す場合は、「何を」「いくらで」「いつ」「どの契約で」「どの口座で決済したか」を記録として残すことが欠かせません。形式のうえで個人事業に戻したとしても、法人名義の資産や契約を曖昧なまま使い続けていると、税務調査の場面で説明が難しくなってしまいます。

消費税は、法人維持・個人成りの判断を大きく変える

個人成りを検討するとき、消費税の確認は避けて通れません。

消費税では、基準期間や特定期間、課税事業者選択届出書、インボイス登録、簡易課税、原則課税、調整対象固定資産、高額資産など、さまざまな論点が絡み合います。

国税庁は、特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても納税義務は免除されない、としています。また、課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となっている課税期間については、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、やはり納税義務は免除されません。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除

個人成りでは、次のような点を確認していきます。

消費税の確認項目判断ポイント
法人の課税事業者判定法人として最後の課税期間に申告・納税が必要か
個人事業の課税事業者判定個人として免税・課税・インボイス登録をどう扱うか
インボイス登録取引先が適格請求書を求めるか
法人資産の譲渡法人から個人への資産譲渡に消費税がかかるか
簡易課税法人と個人で制度選択・届出期限が異なるか
調整対象固定資産過去の設備投資により免税・簡易課税に制限がないか
廃業時の棚卸・資産在庫や固定資産の処分・譲渡をどう扱うか

消費税は、届出のタイミングを一度誤ると、後から修正しにくい税目です。法人を維持するか、個人事業へ戻すかを決める前に、法人側と個人側の消費税を、それぞれ別々に確認しておく必要があります。

個人事業に戻ると、青色申告・純損失・社会保険の考え方も変わる

個人事業に戻す場合は、法人税の世界から所得税の世界へと移ることになります。

法人であれば、青色申告法人の繰越欠損金を、一定期間、法人所得との相殺に使える可能性があります。一方、個人の青色申告では、事業所得などに損失が生じ、損益通算をしてもなお控除しきれない純損失が残った場合に、その損失を翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年分の所得金額から控除できる制度があります。
出典:国税庁|No.2070 青色申告制度

このように、法人と個人では、赤字の扱いも、給与の扱いも、社会保険の扱いも異なります。個人事業に戻す場合には、次の点を確認しておきます。

項目法人個人事業
所得の帰属会社利益と個人所得を分ける事業利益は原則として本人の所得
代表者への支払い役員報酬として設計自分への給与は必要経費にならない
赤字の繰越法人の繰越欠損金個人の純損失の繰越
社会保険法人の適用事業所として確認個人事業の業種・人数・任意適用等を確認
消費税法人単位で判定個人事業者として判定
信用法人決算書で説明個人の確定申告書・事業実績で説明
承継・M&A株式・持分を使える事業用資産・契約の個別承継が中心

個人事業に戻ると、たしかに形式は軽くなります。ただし、税務上の自由度がすべて高まるわけではありません。

個人事業では、生活費と事業費の区分、家事関連費、親族への支払い、消費税、帳簿保存、インボイス対応が重要になってきます。会社と個人を分ける管理から、事業費と家計費を分ける管理へ移っていく、とお考えいただくのがよいでしょう。

休眠に近い状態は「何もしなくてよい状態」ではない

事業を一時的に止める場合、法人を休眠に近い状態にしておく、という選択もあります。

ただし、一般に「休眠会社」と呼ばれる状態は、法人格が消えることを意味しません。法人はそのまま存続します。そして法人が存続する以上、税務、登記、社会保険、地方税、金融機関、契約の管理も残り続けます。

法務局の商業・法人登記の申請書様式には、株式会社の解散及び清算人選任登記や、清算結了登記の申請書様式が用意されています。法人を完全に消滅させるには、単に事業を止めるだけでは足りず、解散・清算結了の登記を含む手続が必要になります。
出典:法務局|商業・法人登記の申請書様式

また、長期間登記をしていない株式会社等については、法務省が休眠会社等の整理作業を行っており、期限までに必要な登記、または「まだ事業を廃止していない」旨の届出をしない場合には、解散したものとみなされる取扱いがあります。
出典:法務省|令和7年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について

休眠に近い状態を選ぶ場合は、次の点を確認しておきます。

確認項目見るべきポイント
税務申告休業中でも申告・届出が必要か
地方税均等割や休業中の扱いを自治体に確認する
登記役員任期、役員変更、本店移転、みなし解散リスク
社会保険役員報酬・従業員の有無と適用関係
銀行口座凍結・解約・取引制限の有無
借入金返済条件、保証、期限の利益、金融機関への説明
契約賃貸借、リース、保守契約、サブスク、保険
再開可能性いつ、どの条件で事業を再開するのか

休眠は、あくまで将来の再開可能性がある場合の一時停止策です。再開の見込みがないにもかかわらず法人を放置してしまうと、税務・登記・債務・信用の面でリスクを残すことになります。

解散・清算を選ぶ場合は、税務と資金の出口を確認する

法人を完全に終える場合は、解散・清算を検討します。

ここで押さえておきたいのは、解散すればすぐに終わるわけではない、ということです。解散後も、清算中の事業年度、残余財産の確定、清算確定申告、債権債務の整理、残余財産の分配、清算結了登記といった手続が続きます。

法人が解散した場合の清算中の事業年度については、会社法の規定による解散の場合、残余財産の確定日までの間は、解散の日の翌日から1年ごとの期間が清算中の事業年度となります。そして、残余財産が確定する日の属する事業年度の確定申告書の提出期限は、その確定した日の翌日から1月以内とされています。
出典:国税庁|法人税法

株式会社が株主総会の決議によって解散する場合の登記では、株主総会議事録、株主リスト、清算人の就任承諾書などが必要になることがあります。
出典:法務局|株式会社解散及び清算人選任登記申請書

清算を検討する際には、次の順番で整理していきます。

整理項目確認すべきこと
資産現金、売掛金、在庫、固定資産、敷金、保険、貸付金
負債借入金、買掛金、未払金、税金、社会保険料、リース債務
契約解約、名義変更、違約金、保証、許認可
税務解散事業年度、清算中事業年度、残余財産確定、消費税
株主残余財産分配、みなし配当・譲渡所得の可能性
登記解散、清算人選任、清算結了
資金清算費用、専門家費用、納税資金、債務弁済資金

清算は、法人そのものを消す手続です。個人事業へ戻すだけであれば、必ずしもすぐに清算が必要とは限りません。ただ、法人を残す理由がなく、再開の可能性も低く、資産・負債も整理できるのであれば、清算によって将来の管理負担を終わらせる、という選択肢もあります。

法人維持・個人成り・清算の判断は、税額だけでは決められない

ここまでの論点を整理すると、判断の軸は次のようにまとめられます。

判断軸法人維持個人成り清算
税負担法人税・役員報酬・地方税を管理所得税・住民税・事業税中心清算時の税務を整理
社会保険法人としての適用関係を確認個人事業としての適用関係を確認廃止・資格喪失等を確認
消費税法人の課税関係を継続個人事業者として判定最終課税期間・資産処分を確認
資産法人名義のまま管理個人への移転価額・契約を整理換価・分配・残余財産を整理
信用法人決算書・社歴を維持個人信用で取引法人格は消滅
借入法人借入を継続管理個人引継ぎには金融機関承諾が必要弁済・整理が必要
再拡大しやすい改めて法人化が必要になる可能性法人再利用はできない
承継・M&A株式・持分を活用できる資産・契約の個別承継が中心承継対象は消える
管理コスト継続する軽くなりやすい清算後はなくなる
税務調査対応法人としての資料整備法人時代と個人時代の切替資料が重要清算時の資料保存が重要

税額だけを見れば、個人成りが有利に映ることがあります。しかし、法人名義の契約、借入、許認可、従業員、繰越欠損金、信用、そして再拡大の可能性まで失ってしまうのであれば、税額だけでは測りきれない損失が生じます。

反対に、法人として残す意味がすでに薄れており、売上も小さく、従業員もおらず、契約の移転も容易で、将来の拡大予定もない、という場合には、法人維持にこだわることで、管理コストだけが残ってしまうこともあります。

危険な個人成りに共通する特徴

個人成りで避けたいのは、形式だけを変えてしまうことです。次のような進め方は、後から問題になりやすい、と申し上げておきます。

危険な進め方問題点
法人資産を個人がそのまま使う経済的利益、低額譲渡、消費税、役員給与の論点
法人口座と個人口座の入金が混在する売上帰属、資金移動、税務調査対応が難しくなる
契約名義を変えない実際の事業主体と契約主体がずれる
借入を法人に残したまま個人事業化する返済原資、保証、金融機関説明が不明確になる
在庫・売掛金・買掛金を整理しない法人と個人の損益が混ざる
消費税・インボイスを確認しない免税・課税・登録・請求書対応を誤る
役員貸付金・仮払金を放置する会社と個人のお金の混同が残る
休眠法人を放置する申告漏れ、登記漏れ、みなし解散、地方税リスク

正しい個人成りとは、単に個人名義で請求書を出し始めることではありません。法人時代の取引を締め、個人事業として始める取引を分け、資産・契約・資金・税務資料をきちんとつないでいくことです。

判断の実務手順

個人成り・小規模化・法人維持を検討するときは、次の順番で整理していくと、判断がつきやすくなります。

1. 現在の法人の数字を確定する

まずは、直近の決算書、試算表、借入残高、売掛金、買掛金、未払金、役員貸付金、役員借入金、税金、社会保険料を確認します。

ここが曖昧なままでは、法人維持・個人成り・清算を比較することはできません。

2. 法人を維持する意味を棚卸しする

次に、法人を残す理由を確認します。法人名義の契約、許認可、金融機関との関係、従業員、社歴、ブランド、繰越欠損金、将来の再拡大、承継・M&Aの可能性を、ひととおり棚卸ししていきます。

「なんとなく残す」ではなく、「何を守るために法人を残すのか」を明確にすることが大切です。

3. 個人事業に戻した場合の収支を作る

個人成りをした場合の売上、経費、所得税、住民税、事業税、国民健康保険、国民年金、消費税、インボイス登録、生活費、事業資金を試算します。

法人のときの役員報酬ベースの手取りと、個人事業としての手取りは、そもそも構造が違います。

4. 法人資産・契約・負債の移転可否を確認する

法人から個人へ移すもの、法人に残すもの、処分するものを分けていきます。

ここでは、移転価額、契約書、入出金記録、消費税、源泉税、許認可、金融機関の承諾を確認します。

5. 社会保険・従業員・労務を確認する

役員報酬を止めるのか、下げるのか。従業員を退職させるのか、個人事業として雇用するのか。社会保険の資格取得・喪失、労働保険、源泉所得税、住民税特別徴収をどう扱うのか。

小規模化や個人成りでは、税務だけでなく労務の確認も重要になります。

6. 消費税・インボイスの届出タイミングを確認する

法人側の最後の課税期間と、個人事業側の開始時期を確認します。

インボイス登録が必要な取引先がある場合には、登録の空白期間が取引に影響することもあります。免税のメリットだけで判断せず、取引先との関係まで含めて確認しておきます。

7. 法人を残すなら、残すための管理ルールを決める

法人を維持するのであれば、休業中・小規模運営中の管理ルールを決めておきます。

申告、会計、口座、登記、社会保険、地方税、契約、借入返済、資料保存を、誰が、いつ、どの水準で管理するのかを、あらかじめ明確にしておきます。

まとめ:個人成りは「身軽になる判断」ではなく「残すものを選ぶ判断」

個人成り・小規模化・法人維持の判断は、法人化後の出口戦略にほかなりません。

法人の維持が重いからといって、すぐに個人事業へ戻すべきとは限りません。その一方で、法人に実質的な意味がなくなっているのに、管理コストだけを払い続ける必要もありません。

大切なのは、次の問いに、ご自身の言葉で答えられるかどうかです。

法人を残すことで、何を守れるのか。個人に戻すことで、何が軽くなるのか。法人資産や契約を、どのように説明できる形で移すのか。消費税、社会保険、借入、従業員、許認可に問題はないか。将来の再拡大・承継・M&Aの可能性を残しておくべきか。そして、税務署、金融機関、取引先、家族、後継者に説明できる整理になっているか。

個人成りは、法人化の失敗ではありません。事業の実態が変わったときに、その器を見直す判断です。ただし、その判断は、税金だけでなく、資金、契約、信用、資料、将来の選択肢まで含めて行う必要があります。

個人成り・法人維持で迷っている方へ

法人を維持すべきか、個人事業に戻すべきかは、税額だけでは判断できません。法人の決算書、借入、役員報酬、社会保険、消費税、法人資産、契約、許認可、今後の売上見込み、生活資金、再拡大の可能性を並べて、初めて比較ができます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、個人成り・小規模化・法人維持の判断について、税金だけでなく、資金繰り、消費税、社会保険、資産移転、金融機関対応、将来の選択肢まで含めて整理いたします。

法人を残すべきか、個人に戻すべきか、あるいは休眠・清算まで検討すべきか、一度整理しておきたいという方は、犬飼公認会計士・税理士事務所ホームページのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

論点重要なポイント
個人成りの本質法人成りの逆回しではなく、法人から個人へ事業実態を整理して移す判断
法人維持信用、契約、許認可、借入、繰越欠損金、再拡大、承継の価値がある場合に検討する
小規模化法人を残しながら、役員報酬・人員・固定費・資産・借入を見直す選択肢
休眠に近い状態法人格は残るため、申告・登記・地方税・契約管理を確認する
清算法人を消滅させる手続であり、解散・清算中申告・残余財産・清算結了登記が必要
役員報酬期中で自由に増減できる利益調整手段ではなく、損金算入要件がある
社会保険法人維持・小規模化・個人成りの手残り比較に大きく影響する
消費税法人側と個人側で課税事業者判定、インボイス、資産譲渡、届出期限を確認する
資産移転法人資産を個人が無償・低額で使うと、経済的利益・消費税・役員給与の論点が生じる
契約・借入法人名義の契約や借入は、個人へ当然に移るわけではない
判断の順番現状把握、法人維持の意味、個人事業の収支、資産・契約移転、社会保険、消費税、管理体制の順に整理する
専門家相談の目安法人資産、借入、消費税、社会保険、従業員、清算が絡む場合は実行前に相談する
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