法人で加入している生命保険を、役員個人へ移したい。法人保険を活用している会社では、この相談がしばしば持ち上がります。
背景はさまざまです。代表者の退任、役員退職金の支給、事業承継、法人契約の整理、資金繰りの見直し、相続対策、そして過去に加入した保険商品の出口設計。きっかけは会社によって異なります。
ただ、法人契約の保険を個人へ移す場面を、「契約者名義を法人から個人へ変える」という事務手続だけで捉えるのは危険です。
税務上は、法人が保有していた保険契約上の権利を役員や使用人へ移転したものと見ます。そのため、給与課税や退職給与課税、法人側の益金・損金処理、個人側の取得価額、さらには将来の解約時・満期時・死亡時の課税関係まで問題になります。
とりわけ、低解約返戻金型保険のように、契約移転時の解約返戻金が低く、その後に返戻金が大きく増えるタイプの保険では注意が必要です。令和3年の所得税基本通達改正により、評価実務上の扱いが大きく変わっているためです。
本稿では、個別商品の比較ではなく、契約者変更・名義変更・保険契約の権利評価を判断するための基本軸を整理します。
保険契約の名義変更は「名前を変えるだけ」ではない
保険契約には、契約者、被保険者、保険料負担者、保険金受取人、そして解約返戻金・満期保険金・死亡保険金を受け取る者など、複数の当事者が登場します。税務では、これらの関係を一つずつ丁寧に分けて確認する必要があります。
生命保険税務は、所得税、法人税、相続税、贈与税に加え、民法、会社法、保険法、保険約款、保険数理まで関係します。だからこそ、見た目以上に複雑です。
なかでも重要なのが、保険料負担者と受取人の関係です。契約者と保険料負担者が常に一致するとは限らないため、契約者変更のたびに課税関係を確認しておく姿勢が欠かせません。
たとえば、法人が契約者として保険料を支払ってきた契約を、代表者個人へ移す場合を考えてみます。形式上は「契約者変更」にすぎません。
しかし経済的に見れば、法人が持っていた保険契約上の権利を個人へ移転している可能性があります。その個人が役員や使用人であれば、会社から個人へ経済的利益が供与されたものとして、所得税の課税関係が問題になります。
つまり、保険契約の名義変更は、単なる名義の書換えではなく、財産的価値を持つ権利の移転として見る必要があるのです。
まず確認すべきは「誰から誰へ移るのか」
契約者変更の税務判断では、はじめに、誰から誰へ保険契約上の権利が移るのかを整理します。大きく分けると、次のような場面があります。
| 契約者変更の類型 | 主な税務論点 |
|---|---|
| 法人から役員・使用人へ移す | 給与課税、退職給与、法人側の資産譲渡・損金処理、源泉徴収 |
| 法人から第三者へ移す | 時価譲渡、寄附金、受贈益、関係者間取引 |
| 個人から個人へ移す | 贈与税、保険料負担者、将来の保険金受取時の課税 |
| 被相続人の死亡に伴い契約者が変わる | 生命保険契約に関する権利の相続税評価 |
| 契約者は変えず受取人だけを変更する | 保険金受取時の相続税・贈与税・所得税、遺産分割・遺留分 |
本稿の中心は、法人契約の保険を役員・使用人など個人へ移す場面です。ただし、個人間の契約者変更や相続時の契約者変更と混同すると、判断を誤ります。
法人から役員へ移す場合には、法人が使用者、役員が被支給者という関係になります。そのため、所得税基本通達上の「保険契約等に関する権利の評価」が重要になります。
一方、個人間の契約者変更では、契約者を変更しただけで直ちに贈与税が課税されるわけではない、という取扱いがあります。この違いをきちんと押さえておくことが大切です。
個人間の契約者変更は、変更時点で直ちに贈与税とは限らない
個人契約の生命保険について契約者を変更した場合、「その時点で贈与税がかかるのではないか」と心配される方がいます。
国税庁の質疑応答事例では、生命保険契約について契約者変更があっても、その変更に対して贈与税は課されないとされています。ただし、その新しい契約者が契約者としての地位に基づいて保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、解約返戻金相当額を保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。
出典:国税庁|生命保険契約について契約者変更があった場合
タックスアンサーでも同様に、生命保険契約の契約者を変更しただけでは贈与税は課税されないとされています。贈与税が問題になるのは、保険料を負担していない人が、満期・解約・被保険者の死亡などにより生命保険金を受け取った場合等です。
出典:国税庁|No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
ここで注意したいのは、「契約者変更時に贈与税がかからない」という話を、法人契約から役員個人へ移す場面にそのまま当てはめないことです。
個人間の名義変更では、保険事故や解約などの時点で、保険料負担者と保険金受取人の関係から課税関係を判断します。
これに対し、法人から役員・使用人へ保険契約の権利を移す場合には、会社から役員・使用人へ経済的利益を支給したものとして、移転時点で所得税の課税関係が問題になります。ここが決定的に異なります。
法人から役員・使用人へ移す場合は「経済的利益の支給」になる
法人が契約者として保険料を負担してきた保険契約を役員や使用人へ移す場合、税務上は「法人が保有していた保険契約等に関する権利を、役員または使用人に支給した」と見ます。
この場面で問題になるのが、所得税基本通達36-37です。
同通達では、使用者が役員または使用人に対して生命保険契約、損害保険契約、これらに類する共済契約に関する権利を支給した場合、原則として、その支給時に当該契約を解除したとした場合に支払われる解約返戻金の額により評価するとされています。解約返戻金のほかに前納保険料や剰余金の分配額等がある場合には、これらを合計した金額が「支給時解約返戻金の額」となります。
出典:国税庁|所得税基本通達 36-37 保険契約等に関する権利の評価
この「支給時解約返戻金の額」が、法人から個人へ移す時点での経済的利益の評価額です。
したがって、法人が保険契約を役員へ移す場合には、次のような整理が必要になります。
- 法人側では、保険契約に関する権利を役員へ移転する
- 役員側では、その権利の評価額に相当する経済的利益を受ける
- 役員との関係に応じて、給与、賞与、退職給与などの所得区分が問題になる
- 法人側では、資産計上額との差額、損金算入、源泉徴収、役員給与規制との整合性を確認する
これを「保険会社に契約者変更届を出しただけ」と考えてしまうと、税務処理がすっぽり抜け落ちます。
原則評価は「支給時解約返戻金」だが、低解約返戻金型保険には例外がある
以前は、法人から役員・使用人へ保険契約の権利を移す場合、支給時の解約返戻金を基準に評価するのが基本でした。ところが、低解約返戻金型保険では、この評価方法が問題になりました。
低解約返戻金型保険では、一定期間、解約返戻金が低く抑えられ、その期間を過ぎると解約返戻金が大きく増えることがあります。これを利用すると、解約返戻金が低い時期に法人から役員個人へ契約を移し、その後、個人が高い解約返戻金を受け取ることが可能になります。
この場合、移転時には低い解約返戻金をもとに給与課税され、その後の解約時には一時所得として課税されます。所得区分の転換を通じた租税負担の軽減が問題視されたのは、このためです。
国税庁の税務大学校論叢でも、低解約返戻金型生命保険契約を用いた場合、譲渡時の低額な解約返戻金予定額と実際の解約返戻金額との差額について、給与所得から一時所得へ転換することが可能となる点が問題として整理されています。
出典:国税庁 税務大学校論叢|法人から従業員に譲渡された生命保険契約に関する課税の在り方
そこで、令和3年の所得税基本通達改正により、一定の低解約返戻金型保険については、単純に支給時解約返戻金の額だけでは評価しない取扱いが設けられました。
支給時解約返戻金が資産計上額の70%未満なら、支給時資産計上額で評価する
所得税基本通達36-37では、原則として支給時解約返戻金の額で評価します。
ただし例外があります。支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利で、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものを支給した場合には、支給時資産計上額により評価するとされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 36-37 保険契約等に関する権利の評価
この点が、法人契約を役員個人へ移す実務では最も重要になります。
かみ砕いていえば、法人側で資産計上している価値に比べて移転時の解約返戻金が極端に低い場合には、低い解約返戻金だけで評価することは認められず、法人側の資産計上額を基準に評価する、ということです。
ここでいう支給時資産計上額とは、使用者が支払った保険料のうち、保険契約等に関する権利の支給時直前において、前払部分の保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいいます。預け金等で処理した前納保険料の金額や、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらも加算します。
出典:国税庁|所得税基本通達 36-37 保険契約等に関する権利の評価
この改正後の取扱いは、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用されます。
出典:国税庁|保険契約等に関する権利の評価
したがって、法人から個人へ移す時期が令和3年7月1日以後である場合には、旧来の感覚で「解約返戻金が低いから低い評価額で移せる」と考えるのは危険です。
払済保険に変更してから移す場合も注意が必要
さらに気をつけたいのが、払済保険への変更です。
保険契約によっては、保険料の支払いを止め、保障内容を変更して払済保険にすることがあります。この場合、契約内容が変わり、法人側の資産計上額も洗い替えられることがあります。
所得税基本通達36-37では、復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利で、元の契約が法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものを支給した場合には、支給時資産計上額に、法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより使用者が損金に算入した金額を加算した金額により評価するとされています。
出典:国税庁|所得税基本通達 36-37 保険契約等に関する権利の評価
この規定は、低解約返戻金型保険をいったん払済保険へ変更し、法人側の資産計上額を低く見せたうえで個人へ移すような処理を防ぐ趣旨と理解できます。
実務では、次のような処理を行う前に、税務上の評価を必ず確認しておく必要があります。
- 法人契約を払済保険に変更する
- 保険金額を減額する
- 契約転換を行う
- 契約者を法人から役員個人へ変更する
- 受取人を法人から個人へ変更する
- 低解約返戻期間中に移転する
- 解約返戻金が上昇する直前に移転する
保険会社の事務手続上は可能でも、税務上安全とは限りません。
法人側の処理では「資産計上額」と「移転価額」の差額を見る
法人が保険契約に関する権利を役員個人へ移す場合、法人側では、その保険契約に係る資産計上額を確認する必要があります。
法人側で保険積立金、前払保険料、長期前払費用などとして資産計上している金額がある場合には、役員へ移転する価額と帳簿価額との差額が問題になります。
具体的には、次のような点を整理していきます。
- 役員へ有償で譲渡するのか、無償で移すのか
- 退職給与として支給するのか、給与として支給するのか
- 法人側で損金算入できるのか
- 役員給与として損金不算入になる可能性があるのか
- 源泉徴収が必要か
- 消費税の課税関係があるのか
特に、役員へ支給する場合には、役員給与税務との整合性が問題になります。法人が役員等を被保険者および保険金受取人とする生命保険契約を締結し、その保険料を負担した場合には、その負担保険料相当額が役員等への給与として扱われる、という論点があります。
また、法人保険を役員退職金と絡める場合には、退職給与としての実質、支給時期、支給額の相当性、退職事実、株主総会決議、退職金規程などを確認する必要があります。
保険契約を個人へ移すことと、退職給与として適正に処理できることは、別問題として考えなければなりません。
個人側では「取得価額」と将来の出口課税を確認する
法人から保険契約を移された個人側では、移転時に課税された評価額が、その後の解約や満期時の所得計算に影響します。
たとえば、個人が保険契約を取得した後、その契約を解約して解約返戻金を受け取る場合には、原則として一時所得の問題になります。
生命保険契約に係る満期保険金等を一時金で受領した場合、保険料負担者と保険金受取人が同一であれば、一時所得として課税されます。一時所得は、受け取った保険金等の総額から、既に払い込んだ保険料または掛金の額を差し引き、さらに特別控除額50万円を差し引いて計算します。課税対象となるのは、その金額の2分の1です。
出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき
法人から個人へ移転した場合には、移転時に給与等として課税された金額、個人が法人へ支払った対価、移転後に個人が負担した保険料が、将来の所得計算上どのように扱われるかを確認しておく必要があります。
ここを見落とすと、移転時点では「低い評価額で移せた」と思っていても、将来の解約時に大きな課税が生じることがあります。
保険契約の移転は、移転時だけで完結するものではありません。移転後の出口まで見て判断する必要があります。
- 移転後に誰が保険料を負担するのか
- 誰が解約返戻金を受け取るのか
- 満期保険金を誰が受け取るのか
- 死亡保険金を誰が受け取るのか
- 受取時に所得税、相続税、贈与税のどれがかかるのか
これらを見通したうえで判断することが欠かせません。
保険料負担者と受取人がずれると、贈与税・相続税の問題が出る
保険契約の名義変更では、契約者だけでなく、保険料負担者を必ず確認する必要があります。
実務では、契約者名義と保険料負担者が一致しないことがあります。たとえば、名義上は配偶者や子の契約であっても、実際の保険料を親が負担している場合です。
このとき、満期・解約・死亡などにより保険金を受け取る時点で、保険料を負担していない人が保険金を取得すると、贈与税や相続税の問題が生じます。
保険料を負担していない人が、満期や解約、被保険者の死亡により生命保険金を受け取った場合には、保険料を負担した人からその生命保険金の贈与があったものとされます。ただし、被保険者の死亡により受け取った生命保険金のうち、被保険者が保険料負担者であったものは、贈与税ではなく相続税の対象になります。
出典:国税庁|No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
また、死亡保険金については、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。死亡保険金の受取人が相続人である場合には、「500万円×法定相続人の数」までの非課税限度額がありますが、相続人以外が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
相続対策の実務でも、保険料負担能力のない子や孫が契約者となっている場合、実質の保険料負担者が親とみなされ、贈与税課税が問題になることがあります。
契約者変更の判断では、「契約者が誰か」だけでなく、「保険料を実際に誰が負担してきたか」「今後誰が負担するか」を確認することが不可欠です。
相続時の「生命保険契約に関する権利」は解約返戻金で評価する
保険事故がまだ発生していない生命保険契約について、保険料負担者や契約者が死亡した場合には、「生命保険契約に関する権利」として相続税評価が問題になることがあります。
タックスアンサーでは、相続開始時点でまだ保険事故が発生していない生命保険契約に関する権利の価額は、相続開始時にその契約を解約するとした場合に支払われる解約返戻金の額によって評価するとされています。解約返戻金のほか、前納保険料や剰余金の分配額等がある場合にはこれらを加算し、解約返戻金につき源泉徴収されるべき所得税額等がある場合には控除します。
出典:国税庁|No.4660 生命保険契約に関する権利の評価
この考え方は、相続税評価の場面で重要になります。
たとえば、夫が契約者・保険料負担者となり、妻を被保険者とする保険契約を持っていた場合を考えます。夫が先に死亡すると、その保険契約はまだ保険事故が発生していないため、死亡保険金ではなく「生命保険契約に関する権利」として評価されることがあります。
相続対策の実務でも、生命保険契約に関する権利は、相続開始時に解約したとした場合に支払われる解約返戻金を基準に評価し、前納保険料や剰余金がある場合には加算し、源泉徴収されるべき所得税額がある場合には控除する、という整理が重要です。
法人契約を個人へ移す場合でも、将来の相続時にその契約がどう評価されるかまで見ておく必要があります。
契約者変更の情報は税務署に把握され得る
保険契約の名義変更は、当事者だけの内部情報ではありません。
保険会社や共済事業を行う法人は、一定の場合に「保険契約者等の異動に関する調書」を提出します。国税庁の手続案内によれば、この調書の提出時期は、契約者の変更の効力が生じた日の属する年の翌年1月31日とされています。
出典:国税庁|F2-4 保険契約者等の異動に関する調書(同合計表)
また、法定調書の種類としても、相続税法に規定する調書の中に「保険契約者等の異動に関する調書」が掲げられています。
出典:国税庁|No.7401 法定調書の種類
したがって、保険契約の名義変更は、税務署に把握されない前提で考えるべきではありません。契約者変更、受取人変更、解約、保険金受取、相続税申告、所得税申告、法人税申告の内容が整合しているかどうかが重要になります。
危険な契約者変更になりやすい判断
保険契約の名義変更で危険なのは、税務上の出口を確認しないまま、形式だけを先に動かしてしまうことです。特に、次のような判断は慎重に検討すべきです。
- 法人契約を低解約返戻期間中に役員個人へ移す
- 解約返戻金が大きく増える直前に契約者変更する
- 払済保険へ変更してから役員へ移す
- 法人の資産計上額を確認せずに移す
- 役員退職金目的で移すが、退職事実や退職金規程が整っていない
- 役員への給与課税や源泉徴収を検討していない
- 個人側の将来の解約時課税を確認していない
- 保険料負担者と受取人の関係を整理していない
- 相続対策として契約者や受取人を変更するが、遺産分割や納税資金を見ていない
- 保険会社や代理店の提案資料だけで判断している
これらは、契約変更自体が直ちに違法という意味ではありません。問題は、税務上の評価額、所得区分、法人側処理、個人側処理、将来課税、資料保存が整理されないまま実行されることです。
保険契約の名義変更は、税額を減らすためのテクニックではなく、法人と個人の間で財産的価値を移す行為です。ここを曖昧にすると、後から説明できない処理になってしまいます。
実行前に確認すべき資料
法人契約の保険を個人へ移す前に、少なくとも次の資料を確認しておくべきです。
- 保険証券
- 契約内容の設計書
- 解約返戻金の推移表
- 契約者、被保険者、保険料負担者、受取人の一覧
- 契約者変更・受取人変更の履歴
- 法人側の保険積立金、前払保険料、長期前払費用の残高
- 法人税申告書上の保険料処理の履歴
- 支給時資産計上額の計算根拠
- 支給時解約返戻金の額
- 払済変更、契約転換、減額、特約変更の有無
- 役員または使用人との関係
- 給与、賞与、退職給与のどれとして処理する予定か
- 退職金規程、株主総会議事録、取締役会議事録
- 源泉徴収の要否
- 個人側で将来解約・満期・死亡時にどう課税されるかの整理
- 保険会社・代理店から受けた提案資料
- 契約変更の目的を示す稟議書や社内メモ
なかでも重要なのは、契約変更の目的です。
- なぜ法人から個人へ移すのか
- 事業保障が不要になったのか
- 退職金設計の一部なのか
- 相続対策なのか
- 法人の資金繰り改善なのか
- 後継者への承継準備なのか
目的が説明できなければ、契約変更後の税務処理も説明しにくくなります。
契約者変更を検討するときの判断順序
契約者変更を安全に検討するには、次の順番で整理していくと判断しやすくなります。
1. 契約関係を確認する
契約者、被保険者、保険料負担者、保険金受取人を確認します。過去に変更があれば、変更履歴も確認します。
2. 法人側の帳簿価額を確認する
保険積立金、前払保険料、長期前払費用など、法人側で資産計上している金額を確認します。
3. 解約返戻金を確認する
支給時点の解約返戻金、将来の解約返戻金推移、最高解約返戻率、低解約返戻期間の有無を確認します。
4. 所得税基本通達36-37の評価を確認する
原則として支給時解約返戻金で評価するのか、支給時資産計上額で評価する例外に該当するのかを確認します。
5. 所得区分を整理する
役員・使用人への給与なのか、賞与なのか、退職給与なのか、譲渡なのかを整理します。役員給与の損金算入制限や源泉徴収も確認します。
6. 個人側の将来課税を確認する
移転後に解約した場合、満期保険金を受け取った場合、死亡保険金を受け取った場合に、所得税、相続税、贈与税のどれが問題になるかを確認します。
7. 相続・事業承継との整合性を確認する
受取人、遺産分割、納税資金、後継者、役員退職金、会社の資金繰りとの整合性を確認します。
8. 資料を残す
契約変更の判断過程、評価額、税務処理、議事録、稟議書、保険会社資料を保存します。
この順番で整理すれば、「契約者変更できるか」ではなく、「契約者変更後も説明できるか」という判断に近づきます。
契約者変更は「出口設計」とセットで考える
保険契約の名義変更で最も避けるべきなのは、移転時点だけで判断してしまうことです。移転の前に、その先の流れまで見通しておく必要があります。
- 法人から個人へ移した後、個人がいつ解約するのか
- 解約返戻金はいくらになるのか
- その時点で課税される所得はいくらか
- 個人が保険料を負担し続けられるのか
- 死亡保険金の受取人は誰か
- 相続税の納税資金として使えるのか
- 他の相続人との公平性に問題はないか
- 法人側では、事業保障がなくなっても問題ないか
- 借入金や金融機関対応への影響はないか
ここまで確認して初めて、契約者変更が経営判断として妥当かを検討できます。
保険契約の権利は、税務上の評価額だけでなく、将来の資金の流れを伴う財産です。低い評価額で移せるかどうかだけを見ると、判断を誤ります。
その保険を誰が持ち、誰が負担し、誰が受け取り、どの時点で税金が発生するのか。そこまで見なければなりません。
契約者変更・名義変更を検討している方へ
法人契約の保険を役員個人へ移す場合には、過去の保険料処理、法人側の資産計上額、支給時解約返戻金、支給時資産計上額、役員給与課税、退職給与、源泉徴収、そして将来の解約時課税まで、複数の論点を同時に確認する必要があります。
特に、低解約返戻金型保険、逓増定期保険、長期平準定期保険、払済変更を伴う保険、役員退職金と連動する保険は、契約変更前に税務上の整理を行っておくべきです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、保険商品の販売ではなく、税務・会計・資金繰り・役員給与・役員退職金・相続・事業承継の観点から、法人保険の契約者変更や名義変更の妥当性を整理しています。
- 「法人契約の保険を役員個人へ移したい」
- 「低解約返戻金型保険を移す前に税務リスクを確認したい」
- 「契約者変更時の評価額が解約返戻金でよいのか分からない」
- 「退職金原資として保険を使う設計が税務上問題ないか確認したい」
- 「過去に名義変更した保険の処理を見直したい」
このような段階であれば、契約変更前・解約前・決算前に一度整理しておくことで、不要な税務リスクや将来の資金繰り上の失敗を避けやすくなります。
ご相談をご希望の方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、保険証券、設計書、解約返戻金推移表、法人側の保険積立金残高、決算書、申告書、変更予定の内容をお知らせください。契約関係と数字を確認したうえで、実行前に整理すべき論点を確認します。
本稿で参照した主な公式情報
- 出典:国税庁|所得税基本通達 36-37 保険契約等に関する権利の評価
- 出典:国税庁|保険契約等に関する権利の評価
- 出典:国税庁|生命保険契約について契約者変更があった場合
- 出典:国税庁|No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
- 出典:国税庁|No.4660 生命保険契約に関する権利の評価
- 出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき
- 出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 出典:国税庁|F2-4 保険契約者等の異動に関する調書(同合計表)
- 出典:国税庁|No.7401 法定調書の種類
振り返り|契約者変更・名義変更・保険契約の権利評価の判断ポイント
| 判断項目 | 確認すべきこと | 誤りやすい考え方 |
|---|---|---|
| 契約者変更の本質 | 保険契約上の権利が誰から誰へ移るか | 名義を書き換えるだけの事務手続と考える |
| 法人から役員への移転 | 経済的利益の支給として給与・退職給与・源泉徴収を確認する | 法人契約を個人に移しても課税は後で考えればよいと考える |
| 原則評価 | 支給時解約返戻金、前納保険料、剰余金等を確認する | 解約返戻金だけを見れば足りると考える |
| 低解約返戻金型保険 | 支給時解約返戻金が支給時資産計上額の70%未満か確認する | 解約返戻金が低い時期なら低い評価額で安全に移せると考える |
| 支給時資産計上額 | 法人側の前払部分の資産計上額、前納保険料、未収剰余金等を確認する | 法人帳簿上の保険積立金を確認せずに判断する |
| 払済変更 | 復旧可能な払済保険等に変更した場合の評価額を確認する | 払済にすれば評価額を下げられると考える |
| 法人側の処理 | 資産計上額、移転価額、損金算入、役員給与規制を確認する | 契約者変更だけで法人側の処理は不要と考える |
| 個人側の処理 | 移転時課税額、将来の解約・満期時の一時所得を確認する | 移転時だけ処理すれば出口課税は問題ないと考える |
| 保険料負担者 | 過去と将来の保険料を実際に誰が負担するか確認する | 契約者名義と保険料負担者は常に同じと考える |
| 受取人 | 死亡保険金・満期保険金・解約返戻金の受取人を確認する | 受取人変更の税務影響を見落とす |
| 贈与税リスク | 保険料を負担していない人が保険金を受け取る場合の課税を確認する | 契約者変更時に課税がなければ将来も課税がないと考える |
| 相続税評価 | 保険事故未発生の契約は生命保険契約に関する権利として評価される場合がある | 死亡保険金と同じ非課税枠で処理できると考える |
| 法定調書 | 契約者変更の情報が税務署に把握され得ることを前提にする | 名義変更は税務署に分からないと考える |
| 資料保存 | 保険証券、設計書、返戻金推移表、議事録、稟議書を保存する | 保険会社の提案資料だけで説明できると考える |