リース会計で最初に誤りやすいのは「測定」ではなく「入口判定」である
新リース会計基準への対応というと、どうしても使用権資産やリース負債の測定、割引率、リース期間、短期リース・少額リースの簡便処理といった論点に関心が集まります。
しかし、実務のなかでもっとも早い段階で誤りが生じやすいのは、そもそもその契約がリースを含むのかどうか、という入口の判定です。
ここを取り違えると、その後の会計処理はすべてずれていきます。本来リースに該当する契約をサービス契約として処理してしまえば、使用権資産・リース負債の網羅性に問題が生じます。逆に、サービス契約にすぎないものをリースとして扱えば、資産・負債を過大に認識してしまうおそれがあります。
上場企業やIPO準備企業、大規模グループでは、リースの識別は経理部門だけで完結する作業ではありません。契約は、購買、不動産、店舗開発、物流、情報システム、製造、総務、法務、事業部門といった各所に分散しています。
契約書上の名称も、「賃貸借契約」「リース契約」に限りません。「業務委託契約」「サービス契約」「利用契約」「保守契約」「物流契約」「アウトソーシング契約」など、実に多様です。
だからこそリースの識別では、契約名ではなく、契約に含まれる権利義務を分解したうえで、特定された資産の使用を支配する権利が一定期間にわたり移転しているかどうかを検討する必要があります。
本稿では、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を前提に、リースの適用範囲と識別判断を、上場企業実務のなかで説明できる形に整理していきます。
新リース会計基準の適用範囲
企業会計基準第34号は、一定の例外を除き、リースに関する会計処理および開示に適用されます。
適用除外とされているのは、公共施設等運営権の取得、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産ライセンスの供与、そして鉱物・石油・天然ガス等の非再生型資源を探査または使用する権利の取得です。また、無形固定資産のリースについては、本会計基準を適用しないことができるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この適用範囲を読むうえで重要なのは、「リース契約」という名称の契約だけを探せばよいわけではない、という点です。
基準上のリースは、契約の名称ではなく、契約または契約の一部分が、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転しているかどうかで判断されます。
したがって実務上の検討対象は、従来リース契約として管理してきた範囲よりも広がります。不動産賃貸借や車両・設備・什器備品のリースはもちろん、特定設備を利用するサービス契約、倉庫・物流関連契約、サーバー・データセンター利用契約、製造委託・保守込み契約、専用資産を用いるアウトソーシング契約なども、契約内容によっては検討対象になり得ます。
一方で、すべてのサービス契約をリースとして扱うわけでもありません。サプライヤーが資産の使用を支配し、顧客はサービスの成果だけを受け取っているにすぎない場合には、リースを含まないと判断されることがあります。
リース識別の実務は、「契約名で拾う」作業ではなく、「契約の中に資産使用権が含まれるかを判定する」作業だとご理解ください。
「契約」の範囲は、契約書だけではない
企業会計基準第34号において契約とは、法的な強制力のある権利および義務を生じさせる複数の当事者間の取決めをいい、書面のほか、口頭や取引慣行等も含まれるとされています。そしてリースとは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分をいうとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
上場企業実務では、契約書が存在するかどうかだけを見ていては足りません。発注書、注文書、基本契約、個別契約、仕様書、覚書、稟議書、業務運用、更新実績、取引慣行に至るまで確認していく必要があります。
とくに注意したいのが、基本契約ではサービスの一般条件だけを定め、個別発注や仕様書で実際に使用する設備・場所・容量・期間・対価が決まる取引です。この場合、基本契約だけを見ていてもリースの識別はできません。
反対に、契約書上は資産名が明記されていても、サプライヤーが実質的な代替権を有しているのであれば、特定された資産があるとは判断されない可能性があります。
つまり、リース識別の単位は「契約書の表紙」ではなく、契約上の権利義務と実際の使用実態にあるということです。
この点は、監査対応上も重要になります。監査人に提出する資料としては、契約一覧だけでなく、どの契約を検討対象に含め、どの契約を対象外としたのか、その判断根拠を残しておく必要があります。
リース識別の基本構造
企業会計基準第34号では、契約の締結時に、その契約がリースを含むか否かを判断します。契約が、特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含むことになります。また、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、リースを含むか否かの判断を見直さないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この判断は、次の順序で整理すると実務に落とし込みやすくなります。
まず、契約が基準の適用範囲に含まれるかを確認します。次に、契約に特定された資産が存在するかを検討します。そのうえで、顧客がその資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているか、さらに、顧客がその資産の使用を指図する権利を有しているかを検討していきます。
このうち「特定された資産」「経済的利益の享受」「使用を指図する権利」は、たしかに独立したチェック項目ではありますが、実務上は相互に関連し合っています。
たとえば、顧客が資産の使用方法を細かく指定しているように見えても、サプライヤーがいつでも実質的に資産を入れ替えられるのであれば、そもそも特定された資産がない可能性があります。逆に、特定の設備を顧客専用で使用していたとしても、その使用方法に関する重要な決定をサプライヤーが行っているのであれば、使用を支配する権利は移転していないと考えられます。
リースの識別では、各要件を機械的に丸付けしていくのではなく、「その資産を誰が経済的に支配しているのか」という視点を一貫して持ち続けることが重要です。
判断軸1:特定された資産があるか
リース識別における最初の実質的な判断は、特定された資産があるかどうかです。
適用指針では、資産は通常、契約に明記されることにより特定されるとされています。ただし、資産が契約に明記されている場合であっても、サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、代替から生じる経済的利益が代替コストを上回ると見込まれるときは、サプライヤーが実質的な代替権を有していることになり、その資産は特定された資産に該当しません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
ここで注意すべきなのは、「契約上、代替できると書いてあるか」だけでは不十分だという点です。
実質的な代替権があるといえるためには、サプライヤーが使用期間全体を通じて実際に代替できる能力を持っていること、そして代替することに経済的な合理性があることの両方が必要になります。
たとえば、契約上は設備を入れ替える権利があるとされていても、その設備が顧客専用仕様であり、代替設備の調達や設置に多額のコストがかかる場合には、サプライヤーに実質的な代替権があるとはいえない可能性があります。
一方で、サプライヤーが多数の同種資産を保有し、顧客に提供する資産を効率的に入れ替えられる体制を持ち、代替によって経済的便益を得られるのであれば、特定された資産がないと判断される可能性があります。
実務上は、次の資料を確認していくことになります。
- 契約上、対象資産が個別に指定されているか
- 資産番号、所在地、設置場所、シリアル番号、専用区画などが特定されているか
- サプライヤーが使用期間中に資産を入れ替える権利を持つか
- 代替資産が実際に存在し、代替可能な運用体制があるか
- 代替によるサプライヤー側の便益が、代替コストを上回るか
- 代替権が保守・故障対応・緊急対応に限られるものか、通常運用上の実質的権利か
ここでの判断を誤ると、サービス契約とリース契約の区分が大きく変わってしまいます。契約書に資産名があるからリース、資産名がないから非リース、といった判断は危険です。
実務では、契約書と運用実態の両方を確認したうえで、代替権が「形式的な権利」なのか「実質的な支配を示す権利」なのかを見極めていく必要があります。
判断軸2:資産の一部分・稼働能力の一部を使う契約
特定された資産の判断で見落とされやすいのが、資産全体ではなく、資産の一部または稼働能力の一部を使用する契約です。
適用指針では、顧客が使用できる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合、その稼働能力部分は原則として特定された資産に該当しないとされています。ただし、顧客が使用できる稼働能力が資産全体の稼働能力のほとんどすべてであり、顧客がその使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合には、特定された資産に該当するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
この論点は、データセンター、通信回線、物流施設、製造ライン、発電設備、倉庫スペース、輸送設備などで問題になりやすいと考えられます。
たとえば、物理的に区画された特定スペースを専用使用する契約であれば、特定された資産があるという方向に傾きます。一方、サプライヤーが保有する設備全体の処理能力の一部を利用するだけで、どの設備・どの区画・どのラインを使うかをサプライヤーが決めているのであれば、特定された資産がないと判断される可能性があります。
ただし、「稼働能力の一部」という表現だけで検討対象から除外できるわけではありません。
顧客が使用する能力が実質的に設備全体のほとんどすべてに及ぶのであれば、経済的には資産全体を使用しているのと近い状態になります。この場合、形式的に「能力の一部」と表現されていたとしても、特定された資産があるかどうかを慎重に検討する必要があります。
上場企業実務では、契約書に「容量」「処理能力」「スペース」「台数」「回線」「ラック」「ライン」「専用」「優先利用」といった記載がある場合、リース識別の対象から自動的に外すのではなく、物理的な別個性、専用性、代替可能性、稼働能力の占有割合を確認することが重要です。
判断軸3:経済的利益のほとんどすべてを享受しているか
特定された資産があるというだけでは、リースとは判断されません。顧客が、その資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している必要があります。
適用指針では、特定された資産の使用期間全体を通じて、顧客がその資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、顧客がその資産の使用を指図する権利を有している場合に、サプライヤーから顧客に資産の使用を支配する権利が移転しているとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
ここでいう経済的利益とは、資産を使用することで得られる便益を指します。財やサービスの生産・提供、顧客への販売、業務遂行、コスト削減、他の資産との組み合わせによる利益などが含まれます。
重要なのは、経済的利益の「全部」を享受している必要はないものの、「ほとんどすべて」を享受しているかどうかを検討するという点です。
資産の一部を他社も利用している、サプライヤーが余剰能力を自由に使っている、顧客が利用できる時間帯や能力が限定されている、使用成果の大部分をサプライヤーが取得している。こうした事情がある場合には、顧客が経済的利益のほとんどすべてを享受しているとはいえない可能性があります。
実務上は、以下の点を確認します。
- 資産から生じるアウトプットを誰が取得するか
- 顧客が利用できる能力・時間・場所がどこまで限定されているか
- 他の顧客と資産を共用しているか
- サプライヤーが余剰能力や副産物を利用できるか
- 使用成果、コスト削減効果、収益機会が顧客側に帰属しているか
- 契約上の利用制限が経済的利益の享受を制限しているか
この判断は、契約の価格設定とも関係してきます。
顧客が資産の使用から得られる経済的便益をほぼ独占しているために、その利用権に対して対価を支払っているのか。それとも、サプライヤーが資産を使って提供するサービス成果に対して対価を支払っているのか。この違いが、リースとサービス契約の境界になります。
判断軸4:使用を指図する権利があるか
リース識別のなかで、もっとも実務判断が難しい論点が、使用を指図する権利です。
適用指針では、顧客が使用期間全体を通じて、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合、または使用方法に係る決定が事前になされており、顧客のみが資産を稼働する権利を有している場合等に、顧客は使用を指図する権利を有するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
使用を指図する権利とは、単に「顧客が資産を使っている」ということではありません。資産をどのように使用するかについて、経済的利益に影響を与える重要な意思決定を誰が行っているのかが問われます。
たとえば、顧客が使用する期間、使用場所、使用目的、稼働量、稼働方法、資産から生じるアウトプットの種類など、資産の使用から得られる経済的利益に影響する重要な決定を行っている場合には、使用を指図する権利が顧客にあるという方向に傾きます。
一方、サプライヤーが資産の運用方法、稼働スケジュール、利用先、メンテナンスを超える運用上の意思決定を行い、顧客は提供されるサービス結果を受け取るだけであるならば、使用を指図する権利が顧客にあるとはいえない可能性があります。
実務で気をつけたいのは、運転・保守・管理を誰が行っているかだけで結論を出さないことです。
サプライヤーが資産の操作や保守を担当していたとしても、資産の使用方法に関する重要な意思決定を顧客が行っていれば、リースを含む可能性があります。反対に、顧客が資産にアクセスしていても、使用方法の重要な決定をサプライヤーが支配していれば、リースを含まない可能性があります。
サービス契約との区分:成果を買っているのか、資産使用権を得ているのか
リース識別の実務上の核心は、サービス契約との区分にあります。
サービス契約では、顧客はサプライヤーから役務の提供を受けます。サプライヤーがどの資産を使うか、どのように運用するかを決め、顧客はそのサービス結果を受け取る。この場合、顧客は資産の使用を支配しているのではなく、サービスを受けているにすぎません。
これに対してリースを含む契約では、顧客は特定された資産を一定期間使用する権利を取得します。
たとえ契約書の表題がサービス契約であっても、実態として、顧客が特定資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受し、その使用を指図する権利を有しているのであれば、その契約にはリースが含まれる可能性があります。
この区分で重要なのは、「誰が資産を使ってサービスを提供しているか」ではなく、「資産の使用に関する支配が誰にあるか」です。
したがってリース識別では、次のような問いを立てる必要があります。
- 顧客は、特定された資産を使用する権利を得ているのか
- それとも、サプライヤーが資産を使って提供するサービス成果を受け取っているだけか
- 資産の使用から生じる経済的利益は、実質的に誰に帰属しているか
- 資産の使用方法を決める重要な権利は、誰にあるか
- サプライヤーは、資産を自由に代替し、別の顧客や用途に振り向けられるか
これらの問いに答えられないまま、契約名称や勘定科目だけで処理を決めてしまうと、監査上の説明が弱くなります。
とくに新基準の適用初年度には、リース負債の網羅性が監査上の重要論点となる可能性があります。サービス契約のなかにリースが含まれていないかを、体系的に確認しておく必要があります。
「リースを含む契約」は、契約全体をリース処理するとは限らない
契約がリースを含むと判断された場合であっても、契約全体を一括してリース処理するとは限りません。
企業会計基準第34号では、借手および貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うとされています。また借手については、一定の単位ごとに、リースを構成する部分と関連する非リース部分を分けずに、合わせてリースを構成する部分として会計処理することを選択できるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
適用指針では、借手は、リースを構成する部分についてリース基準等に従って会計処理し、リースを構成しない部分については該当する他の会計基準等に従って処理します。対価を配分する際には、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
この点は、実務負荷と会計処理の精度のバランスに直結します。
たとえば、設備利用契約に保守サービス、清掃、警備、消耗品補充、運用支援、通信サービスなどが含まれている場合、リース部分と非リース部分を分けるには、独立価格や配分基礎が必要になります。
これを厳密に分けることが可能なのか。重要性に照らしてどこまで分解すべきか。借手として一体処理の選択を行うかどうか。いずれも、会計方針として整理しておくべき事項です。
ただし、一体処理を選択すれば楽になる、という単純な話ではありません。非リース部分までリース部分に含めれば、使用権資産・リース負債が大きくなる可能性があります。財務指標、注記、監査対応、グループ方針との整合性まで踏まえて判断する必要があります。
貸手側では、収益認識基準との接続が重要になる
貸手側では、リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分が、収益認識基準との関係で重要になります。
適用指針では、貸手は、リースを構成する部分についてリース基準等に従い、ファイナンス・リースまたはオペレーティング・リースの会計処理を行います。一方、リースを構成しない部分については、該当する他の会計基準等に従って会計処理します。契約対価の配分は、それぞれの独立販売価格の比率に基づいて行うとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
貸手側では、リース部分はリース会計、サービス部分は収益認識という形で、複数の基準の適用が同じ契約のなかで交差することになります。
製造業、IT・通信、不動産、物流、設備提供型サービス、保守込み販売などでは、契約対価をどのように分解するかが、売上高、売上原価、リース収益、利息相当額、注記に影響します。
また貸手については、一定の条件を満たす場合に、リースを構成する部分と関連する非リース部分を合わせて取り扱うことができる場合があります。リースを構成する部分と関連する非リース部分の収益計上の時期およびパターンが同じであり、リース部分がオペレーティング・リースに分類される場合などが、その対象です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
本稿は借手側を中心とした記事ではありますが、上場企業グループでは貸手・借手双方の立場が混在することがあります。子会社が不動産、設備、システム、店舗、倉庫等をグループ内外へ提供している場合には、貸手側のリース識別と収益認識の整理も無視できません。
独立したリースの構成部分をどう分けるか
1つの契約に複数の資産使用権が含まれる場合には、それぞれを独立したリース構成部分として扱うかどうかを検討します。
適用指針では、原資産を使用する権利は、その使用から単独で、または容易に利用できる他の資源と組み合わせて借手が経済的利益を享受できること、かつ、その原資産が契約内の他の原資産に高く依存または相互関連していないこと、この両方を満たす場合に、独立したリースを構成する部分であるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
この論点は、複数の設備、土地建物、機器とソフトウェア、車両と付属設備、店舗区画と共用施設、データセンター利用契約などで問題になります。
独立した構成部分を分けるかどうかは、測定、償却、契約変更、短期・少額リースの適用、減損、注記に影響します。契約単位で処理するのが常に正しいわけではありません。契約は一つでも、経済的には複数の使用権が含まれている場合があるのです。
実務上は、次の観点で整理していきます。
- 各原資産を単独で使用して経済的利益を得られるか
- 他の資産と組み合わせることで容易に経済的利益を得られるか
- 契約内の他の資産と高度に一体化しているか
- 一方の資産を使用しなければ、他方の資産の使用価値が大きく損なわれるか
- 契約対価を合理的に各構成部分へ配分できるか
この判断は、リースの識別だけで終わるものではありません。後続のリース期間、リース料、割引率、使用権資産の償却、契約変更の処理にまで影響しますので、入口段階での整理が重要になります。
契約締結時の判断と、見直しが必要となる場面
リースを含むかどうかは、契約の締結時に判断します。そして契約期間中は、契約条件が変更されない限り、その判断を見直さないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
この取扱いは、実務上の安定性を確保してくれる一方で、契約変更管理の重要性を高めることにもなります。
契約期間中に、対象資産の追加・解約、利用範囲の変更、契約期間の延長・短縮、対価の変更、サービス内容の変更、専用利用から共用利用への変更、サプライヤーの代替権の変更などが生じた場合には、当初のリース識別判断を見直すべきかどうかを検討する必要があります。
ここで重要なのは、単に月額料金が変わったかどうかではありません。資産の使用範囲、支配、対価、期間、構成部分が変わったかどうかを確認することです。
契約変更が購買部門や事業部門だけで処理され、経理部門に連携されていない場合には、リース識別や測定の見直しが漏れてしまう可能性があります。
したがって新リース会計基準への対応では、契約締結時だけでなく、契約更新・変更時の会計連携プロセスまで整備しておく必要があります。
リース識別で実務上問題になりやすい契約
リース識別で問題になりやすい契約には、いくつかの共通点があります。
第一に、契約名称はサービス契約でありながら、特定資産の使用が前提となっている契約です。物流、保管、製造委託、ITインフラ、設備利用、業務委託、アウトソーシングなどでは、サービス提供の裏側に特定資産の使用が含まれていることがあります。
第二に、契約書に対象資産が明記されているものの、サプライヤーに代替権がある契約です。この場合、代替権が形式的なものか、実質的なものかを判断する必要があります。実質的な代替権があれば、特定された資産がないと判断される可能性があります。
第三に、資産の一部または稼働能力の一部を利用する契約です。物理的に別個の区画・設備を使用しているのか、単に処理能力やサービス能力の一部を利用しているのかで、判断が変わります。
第四に、リース部分とサービス部分が一体となっている契約です。保守、管理、運用支援、清掃、警備、通信、消耗品供給などが含まれる場合には、対価配分や一体処理の選択が問題になります。
第五に、グループ内契約です。親会社・子会社間、シェアードサービス会社、不動産保有会社、設備保有会社などが関与する場合には、契約の実質、連結上の消去、個別財務諸表上の会計処理、税務・会社法上の整理が交差します。
これらの契約については、経理部門が契約書だけを見て判断するのではなく、契約管理部門、現場部門、法務、税務、監査人と連携しながら、判断の前提を明確にしていくことが重要です。
リース識別のために整備すべき資料
リース識別は、最終的には会計判断です。しかしその前提となるのは契約情報です。監査対応に耐えうるものにするためには、判断結果だけでなく、判断に至る過程まで資料化しておく必要があります。
少なくとも、次の情報は整理しておくべきです。
- 契約名、契約相手、契約期間、更新条件
- 契約の目的、提供される財・サービスの内容
- 対象資産の有無、資産番号、所在地、設置場所、専用性
- 資産が契約に明記されているか
- サプライヤーの代替権の有無、代替可能性、代替の経済合理性
- 顧客が使用できる能力、時間、範囲、場所
- 顧客が経済的利益のほとんどすべてを享受しているか
- 資産の使用方法を誰が決定しているか
- リース部分と非リース部分の有無
- 対価配分の基礎、独立価格・独立販売価格の情報
- 判断日、判断者、承認者、監査人との協議状況
ここで作成すべきなのは、単なる契約一覧ではありません。契約一覧は出発点にすぎず、本当に必要なのは、リース識別の判断メモです。
とくに上場企業では、同じ種類の契約について、部署や子会社によって判断が異なるという事態は避けなければなりません。
契約単位での個別判断はもちろん必要ですが、その前提となる判定方針、対象契約の抽出基準、重要性の考え方、グループ内での運用ルールを明確にしておくことが重要です。
監査上の争点になりやすいポイント
リース識別は、監査上、網羅性と判断の妥当性が問題になりやすい領域です。
網羅性の観点からいえば、リース契約一覧に載っている契約だけを検討しても十分ではありません。サービス契約、業務委託契約、物流契約、データセンター契約、店舗関連契約、車両・機器利用契約など、名称上はリースではない契約にリースが含まれていないかを確認する必要があります。
判断の妥当性の観点では、次のような点が問われやすいと考えられます。
- 契約がリースを含まないと判断した理由が、契約条項と整合しているか
- 特定された資産がないと判断した場合、代替権の実質性を説明できるか
- 経済的利益のほとんどすべてを享受していないと判断した場合、他の利用者やサプライヤー側の便益を説明できるか
- 使用を指図する権利がないと判断した場合、重要な使用方法の決定権が誰にあるかを説明できるか
- リース部分と非リース部分の配分が合理的か
- 一体処理を選択した場合、その単位と継続適用が明確か
- グループ内で同種契約の判断が整合しているか
監査対応の場面では、「この契約はサービス契約なので対象外です」という説明では足りません。なぜリースを含まないのかを、基準の要件に沿って説明できる状態にしておく必要があります。
リース識別は、後続論点すべての前提になる
リース識別は、後続の記事で扱うリース期間、使用権資産・リース負債の測定、短期リース・少額リース、貸手会計、サブリース、契約変更、注記・監査対応の、いずれにも先立つ前提となります。
入口でリースを含むと判断されれば、次に検討するのはリース期間です。リース期間の判断では、解約不能期間に加え、合理的に確実な延長オプションや、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を考慮します。
適用指針では、延長・解約オプションの判断にあたり、契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約関連コスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、オプション行使条件などの経済的インセンティブを考慮するとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
このようにリース識別は、独立した論点であると同時に、後続の測定へと続く入口でもあります。契約がリースを含むかどうかを曖昧にしたまま測定に進んでしまえば、期間、リース料、割引率、構成部分の区分、注記に至るまで不安定になります。
新リース会計基準への対応において「後から説明できる数字」を整えるためには、まず「後から説明できる入口判定」を整えることが必要です。
リース識別で専門家に相談すべき場面
リース識別は、すべての契約について外部専門家の判断を仰ぐ必要がある領域ではありません。明らかな不動産賃貸借契約や、明らかにリースを含まない一般的なサービス契約については、社内方針に基づいて整理できる場合もあります。
一方で、次のような場合には、専門家を交えた検討が有効です。
- サービス契約、業務委託契約、物流契約、IT契約の中に特定資産の使用が含まれる
- 対象資産が契約書に明記されているが、サプライヤーに代替権がある
- 資産の一部または稼働能力の一部を使用している
- リース部分とサービス部分が一体となっており、対価配分が難しい
- 同種契約が多数あり、グループ全体で判定方針を整備する必要がある
- 監査人からリース負債の網羅性について説明を求められている
- 新基準適用に向けて、契約棚卸しと判定メモを整備したい
- リース識別の結果が財務指標、注記、KAM、コベナンツ、IPO審査に影響する可能性がある
犬飼公認会計士・税理士事務所では、新リース会計基準への対応について、契約棚卸し、リース識別方針の整理、判定メモの作成、監査人協議資料、リース期間・測定・注記への接続まで、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの実務判断に沿った支援を行っています。
リース識別で重要なのは、単に「リースかどうか」を答えることではありません。なぜその契約がリースを含むのか、あるいは含まないのかを、契約条項、使用実態、会計基準、監査対応の観点から説明できる状態にしておくことです。
新リース会計基準への対応にあたり、サービス契約や業務委託契約を含めた契約棚卸し、リース識別の判断方針、監査人への説明資料を整理したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
主な出典・参照情報
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の修正について
振り返り
| 重要論点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 適用範囲 | 公共施設等運営権、知的財産ライセンス、非再生型資源関連、無形固定資産リースの取扱いを確認する |
| 契約の範囲 | 契約書だけでなく、発注書、仕様書、覚書、取引慣行、実際の運用も確認する |
| リース識別の基本 | 特定された資産の使用を支配する権利が、一定期間にわたり対価と交換に移転しているかを判断する |
| 特定された資産 | 資産が契約に明記されているか、サプライヤーの実質的な代替権があるかを確認する |
| 稼働能力の一部 | 物理的に別個か、稼働能力のほとんどすべてを使用しているかを確認する |
| 経済的利益 | 資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを顧客が享受しているかを確認する |
| 使用を指図する権利 | 資産の使用方法に関する重要な決定権が顧客にあるかを確認する |
| サービス契約との区分 | サービス成果を受け取っているだけか、資産使用権を取得しているかを切り分ける |
| 構成部分の区分 | リース部分と非リース部分を分けるか、一体処理を選択するかを方針として整理する |
| 監査対応 | 対象契約の網羅性、判定根拠、契約変更時の見直し、グループ内整合性を文書化する |