借手の使用権資産・リース負債の測定|オンバランス額をどう算定し、後から説明できる形に整えるか

目次

測定は「計算シートの問題」ではなく、契約実態を財務諸表に写す判断である

新リース会計基準における借手会計の中心にあるのは、使用権資産とリース負債の計上です。

実務では、この論点を「リース料を現在価値に割り引けばよい」と受け止められることが少なくありません。しかし、上場企業、IPO準備企業、大規模グループの決算実務では、それだけでは足りないというのが率直なところです。

オンバランス額は、契約書の賃料欄を単純に集計した金額ではありません。リースの識別、リース期間、リース料の範囲、割引率、リースを構成しない部分、変動リース料、残価保証、購入オプション、資産除去債務、付随費用、リース・インセンティブ。こうした複数の判断を積み上げた結果として、はじめて金額が定まります。

企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。あわせて、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首からの早期適用も認められています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

なお、ASBJの会計基準検索システム上、企業会計基準第34号は2026年6月11日時点で最終更新されています。また、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」は、2024年9月13日公表、2025年10月16日修正として掲載されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針

本稿で扱うのは、リースの識別とリース期間の判断が終わった後の局面です。借手が使用権資産とリース負債をどのように測定し、監査人・経営者・開示担当者に説明できる形へ整えていくのか。この点を中心に据えます。

短期リース・少額リースの詳細、契約変更の詳細、貸手の分類判定については、別記事で扱う領域とします。

借手の測定は、3つの問いに分解すると整理しやすい

借手の使用権資産・リース負債の測定は、次の3つの問いに分解すると、実務判断が明確になります。

問い会計上の意味実務上の確認事項
どの期間について測定するか借手のリース期間解約不能期間、延長オプション、解約オプション、合理的に確実な判断
どの支払をリース料に含めるかリース負債の測定対象固定リース料、指数・レート連動、残価保証、購入オプション、解約違約金
どの利率で現在価値に割り引くかリース負債の現在価値測定貸手の計算利子率、借手の追加借入利率、通貨、期間、信用リスク

この3つのどれかを誤れば、使用権資産・リース負債の金額は大きく変わります。

たとえば不動産賃貸借契約で、契約期間を3年と見るのか、更新オプションを含めて10年と見るのか。この違いだけで、リース負債はまったく異なる金額になります。

賃料に共益費、固定資産税相当額、保守料、売上歩合、指数連動改定条項が含まれている場合も同様です。どの金額をリース料に含めるかによって、測定額は動きます。

つまり、測定の前に、契約を読む力が必要になるということです。

リース開始日に計上する金額の基本構造

企業会計基準第34号では、借手はリース開始日にリース負債を計上します。そのうえで、当該リース負債に、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により、使用権資産を計上するとされています。

リース負債については、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

実務上は、次のように整理できます。

項目測定の考え方
リース負債リース開始日に未払である借手のリース料を現在価値に割り引いた金額
使用権資産リース負債を基礎に、開始日前支払リース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用を加算し、リース・インセンティブを控除した金額

式で表すと、概念的には次のようになります。

測定対象算定イメージ
リース負債未払リース料の現在価値
使用権資産リース負債 + 開始日までに支払ったリース料 + 付随費用 + 資産除去債務対応除去費用 − 受け取ったリース・インセンティブ

ここで注意しておきたいのは、リース負債と使用権資産が必ず同額で始まるとは限らない、という点です。

開始日前に支払済みのリース料があれば、それはリース負債には含まれませんが、使用権資産には含まれます。契約締結に直接関連する付随費用があれば、使用権資産に加算されます。原状回復義務等により資産除去債務が認識される場合、対応する除去費用も使用権資産に含まれます。

反対に、フリーレントや内装負担金といったリース・インセンティブを受け取っている場合には、使用権資産から控除する整理が必要です。

この構造を理解しないまま、単に「リース料総額の現在価値=使用権資産」としてしまうと、前払、インセンティブ、付随費用、原状回復義務を取り込めません。結果として、測定額が説明不能になります。

リース負債に含める「借手のリース料」

企業会計基準第34号では、借手のリース料を、借手がリース期間中に原資産を使用する権利に関して貸手に対して行う支払と位置づけています。

その構成は、固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、残価保証に係る借手による支払見込額、行使が合理的に確実である購入オプションの行使価額、リースの解約に対する違約金の借手による支払額です。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

実務上は、次の表で契約ごとに整理しておくと、判断の抜け漏れを防げます。

リース料に含める項目実務上の検討ポイント
固定リース料月額・年額賃料、固定支払、実質的に支払が不可避な金額
指数またはレートに応じて決まる変動リース料CPI連動、賃料指数連動、市場賃料改定条項、金利連動等
残価保証に係る支払見込額保証額そのものではなく、借手が支払うと見込まれる額
購入オプション行使価額行使することが合理的に確実な場合に含める
解約違約金リース期間に解約オプションの行使を反映している場合に含める

ここで、契約書の支払条項をそのままリース料とするのは危険です。

毎月の請求額に、保守サービス、清掃、警備、共益費、固定資産税相当額、保険料、広告負担金、システム利用料などが含まれていることは珍しくありません。それらがリースを構成する部分に対する対価なのか、リースを構成しない部分に対する対価なのか。この確認が欠かせません。

リースを構成しない部分をどう扱うか

リースを含む契約については、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分に分けて会計処理を行います。借手が契約における対価を配分する際は、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

一方で、借手には選択肢も用意されています。対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表で表示するであろう科目ごと、または性質・用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分を分けず、合わせてリースを構成する部分として会計処理することを選択できます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

この選択は実務負荷を軽減してくれますが、その一方で、リース負債を大きくする可能性があります。

処理方法メリット注意点
リース部分と非リース部分を分けるリース負債の測定対象を絞れる独立価格の見積り、データ整備、監査証拠が必要
合わせてリース部分として処理する実務負荷を軽減しやすい非リースサービス部分までオンバランスされ、負債が大きくなる可能性

不動産リースでは、賃料、共益費、保守費、清掃費、警備費、固定資産税相当額などが一体で請求されることがあります。小売業であれば、店舗賃料に商業施設の共用サービスや販促負担金が含まれる例もみられます。

不動産業や小売業では、賃貸・店舗・商業施設・物流施設など、契約構造が多様です。リース部分とサービス部分の切り分けが、そのまま測定額に直結します。

したがって、リース負債を計算する前に、契約対価をどの単位に配分するかを決めておく必要があります。この判断を後から変更すると、影響は計算シートにとどまりません。契約管理台帳、会計方針、注記、監査資料にまで波及します。

変動リース料は「すべて除外」でも「すべて含める」でもない

変動リース料は、実務で最も誤解されやすい論点の一つです。

企業会計基準第34号の結論の背景では、指数またはレートに応じて決まる変動リース料はリース負債の計上額に含めるとされています。他方、借手の業績や原資産の使用に連動して支払額が変動するリース料については、国際的な比較可能性等を考慮し、リース負債の計上額に含めないとされています。

また、形式上は変動する可能性があっても、実質的に支払が不可避であるものや、変動可能性が解消されて固定化されるものは、固定リース料と同様にリース負債に含める整理になります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

実務上は、次のように分けて考えます。

変動リース料の種類リース負債への反映
指数・レート連動原則として含めるCPI連動、金利連動、市場賃料改定条項
売上・業績連動通常、リース負債には含めず、発生時に損益処理店舗売上の一定割合、ホテル稼働率連動
使用量連動通常、リース負債には含めず、発生時に損益処理走行距離、稼働時間、使用回数に応じた支払
実質固定化される変動支払固定リース料と同様に含める方向で検討一定時点以降に固定額となる支払、最低保証に近い支払

適用指針第33号では、指数またはレートに応じて決まる変動リース料について、リース開始日にはリース開始日現在の指数またはレートに基づきリース料を算定するとされています。

ただし、合理的な根拠をもって将来の指数またはレートの変動を見積ることができる場合には、見積られた指数またはレートに基づきリース料およびリース負債を算定することを、リースごとにリース開始日に選択できます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

また、リース負債に含めなかった変動リース料は、発生時に損益に計上します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

ここでの実務上の落とし穴は、売上歩合賃料を「変動だから除外」と単純に処理してしまうことです。

最低保証賃料がある場合、売上歩合の一部が実質的に固定化している場合、過去実績や契約条件から支払が不可避に近い場合。こうしたケースでは、固定部分、指数・レート連動部分、業績・使用量連動部分を切り分ける必要があります。

リース負債から除外するという判断には、除外する根拠が求められます。

残価保証は、保証額ではなく「支払見込額」を見る

残価保証がある場合、借手のリース料には、残価保証に係る借手による支払見込額が含まれます。ここで含めるのは、保証額の上限ではなく、借手が支払うと見込まれる額です。

たとえば、契約上、リース終了時の原資産価値が1,000万円を下回った場合に不足額を借手が保証する、とされているとします。この場合でも、直ちに1,000万円をリース料に含めるわけではありません。終了時の見積残存価値を踏まえ、借手が実際に支払うと見込まれる額を見積ることになります。

この判断が依存するのは、原資産の使用状況、技術的陳腐化、市場価値、過去の返却実績、保守状態、使用制限、二次流通市場といった要素です。車両、機械装置、IT機器、物流設備などでは、残価保証の見積りが監査上の論点になり得ます。

重要なのは、残価保証を「契約書にあるかないか」で終わらせないことです。残価保証がある場合、支払見込額の根拠を残さなければ、リース負債の測定に見積りの説明不足が残ります。

割引率は、単なる社内借入平均利率ではない

リース負債は現在価値で測定するため、割引率の選定はオンバランス額に直接影響します。

適用指針第33号では、借手がリース負債の現在価値の算定に用いる割引率について、貸手の計算利子率を知り得る場合にはその利率を用いるとされています。貸手の計算利子率を知り得ない場合には、借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率を用います。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

また、結論の背景では、借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率の例が挙げられています。借手のリース期間と同一期間のスワップレートに借手の信用スプレッドを加味した利率、あるいは新規長期借入金等の利率です。新規長期借入金等の利率を用いる場合には、借手のリース期間と同一期間の借入れを行う場合に適用される利率を用いることが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

したがって、割引率の検討では、次の要素を明示する必要があります。

要素確認すべき観点
通貨円建、外貨建で市場金利が異なる
期間3年リースと10年リースで利率は異なる
借手の信用リスク親会社、子会社、海外子会社、SPCで信用力が異なる
担保・保証リースが実質的にどのような資金調達に近いか
契約時点リース開始日または契約時点の利率をどう扱うか
グループ方針全社共通率を使う場合の合理性と限界

上場企業グループでは、親会社の借入利率を全子会社・全契約へ機械的に適用してしまう例がみられます。しかし、子会社の信用リスク、契約通貨、リース期間、所在国が異なる以上、単一の利率ですべてを説明できるとは限りません。

もちろん、重要性や実務負荷を踏まえ、グルーピングした利率を用いることはあり得ます。その場合でも、どの単位でグルーピングしたのか、なぜその単位で合理的といえるのかは、文書化しておくべきです。

割引率は計算結果に大きな影響を与えるため、監査人から「なぜその利率か」を問われやすい項目でもあります。借入実績、金融機関提示レート、格付、スワップレート、信用スプレッド、社債利回り、グループ財務方針。利用可能な外部・内部データをどのように組み合わせたのか、説明できるようにしておきたいところです。

使用権資産の測定では、リース負債以外の加減算項目を漏らさない

使用権資産はリース負債を基礎にしますが、リース負債と同額とは限りません。

実務で特に確認すべき加減算項目は、次のとおりです。

項目使用権資産への影響実務上の注意点
リース開始日までに支払ったリース料加算前払賃料、契約時一括支払、権利金等
付随費用加算仲介手数料、契約関連費用等のうち資産計上対象となるもの
資産除去債務に対応する除去費用加算原状回復義務、撤去義務、法律上・契約上の義務
リース・インセンティブ控除フリーレント、内装負担金、賃料免除等の経済的便益

とりわけ不動産リースでは、原状回復義務や敷金、権利金、建設協力金、内装負担金が絡んできます。

資産除去債務については、法律上の義務、通常の使用、除去、見積り、割引率、履行時期などが個別に問題となります。使用権資産に含める除去費用は、資産除去債務の認識・測定と整合していなければなりません。

また、固定資産会計の観点でいえば、取得原価には通常、使用可能にするために必要な付随費用が含まれ、資産は耐用年数にわたり費用配分されます。使用権資産についても同様に、何を資産の取得価額に含め、どの期間で費用配分するのかを説明する必要があります。

利息法によるリース負債の事後測定

リース開始後、借手はリース料を支払うたびに、支払額を利息相当額とリース負債の元本返済額に区分していきます。

適用指針第33号では、借手のリース料を原則として利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分に区分計算し、前者は支払利息、後者はリース負債の元本返済として会計処理するとされています。利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として利息法によります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

簡単にいえば、次の処理です。

支払時の構成会計処理
利息相当額支払利息として損益計上
元本返済部分リース負債の減少

これは、旧基準のオペレーティング・リースのように、毎月の賃借料をそのまま費用計上する処理とは異なります。

新基準では、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息が計上されます。そのため、費用の表示科目、段階損益、EBITDA、営業利益、経常利益、キャッシュ・フロー表示にまで影響が及びます。旧リース基準ではオペレーティング・リースについて賃貸借処理が行われていたのに対し、新リース会計基準では使用権資産・リース負債が貸借対照表に計上され、減価償却費と支払利息として費用化される。この構造の違いを押さえておく必要があります。

その結果、リース期間の前半では利息費用が大きく、後半に向かって利息費用が減少していく費用配分になりやすくなります。賃借料として定額費用処理していた旧処理とは、損益の出方が変わる点に注意が必要です。

使用権資産の償却

使用権資産の償却は、所有権移転があるかどうかで考え方が変わります。

企業会計基準第34号では、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに係る使用権資産について、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法で償却するとされています。この場合の耐用年数は経済的使用可能予測期間、残存価額は合理的な見積額です。

一方、所有権移転が認められるリース以外のリースでは、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じた方法を選択します。原則として、借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとします。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

実務上は、次のように整理できます。

区分償却期間・残存価額
所有権移転が認められるリース自己所有資産と同様に、経済的使用可能予測期間・合理的な残存価額を基礎に償却
所有権移転が認められないリース原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額ゼロとして償却

ここで重要になるのが、使用権資産の償却期間と、賃借物件に設置した附属設備・内装設備の耐用年数との整合性です。

たとえば、店舗リースのリース期間を5年と判断している一方で、内装設備を10年で償却している場合。その前提が整合しているかを、監査人から問われる可能性があります。

もちろん、使用権資産の償却期間と附属設備の耐用年数が常に一致するわけではありません。ただし、同一の事業計画・利用計画に基づく資産であれば、両者の前提が矛盾していないかを確認しておくべきです。

重要性が乏しい場合の利息計算の簡便化

適用指針第33号では、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱いが定められています。借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法、または利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法で配分する方法を適用できます。

ここでいう使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手リース料の期末残高が、当該期末残高、有形固定資産および無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合とされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

この取扱いは、実務負荷を軽減するうえで重要です。ただし、次の点には注意が必要です。

注意点内容
重要性判定が必要10%未満という要件を、個別・連結のどの数値で判定したかを残す
利息を無視する目的ではない使用権資産総額に重要性が乏しい場合の実務上の簡便処理であり、恣意的な費用平準化ではない
方針の一貫性が必要契約ごとに都合よく使い分けると説明が困難になる
開示・監査資料と連動する重要性判断の根拠、対象契約、適用方針を文書化する

実務上は、リース契約件数が多い企業ほど、この簡便処理を適用できるかどうかがプロジェクト全体の負荷を左右します。

もっとも、簡便処理を使えるかどうかを早期に判断するには、結局のところ、契約棚卸しとリース料残高の把握が欠かせません。

短期リース・少額リースとの関係

短期リースや少額リースについては、一定の場合、リース開始日に使用権資産・リース負債を計上せず、借手のリース料をリース期間にわたって原則として定額法で費用処理することができます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

ただし、本稿の対象は、オンバランス処理する借手リースの測定です。短期リース・少額リースの要件、適用単位、方針、管理体制については、簡便処理を扱う別記事であらためて詳細に整理する必要があります。

ここでの実務上のポイントは、短期・少額の判定を測定後の調整として行わないことです。

まずは、リースの識別、リース期間、リース料の範囲を整理する。そのうえで、短期・少額の簡便処理を適用する方針がある場合には、その対象を契約管理台帳上で明確に区分しておく。この順序が大切です。

リース負債の見直しが必要となる場合

リース負債は、リース開始日に測定して終わりではありません。

リースの契約条件に変更が生じた場合、借手は、変更前のリースとは独立したリースとして会計処理するか、リース負債の計上額を見直すかを検討します。また、契約条件の変更が生じていない場合であっても、借手のリース期間に変更があるとき、あるいは借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更があるときには、リース負債の見直しを行います。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

適用指針第33号では、借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある状況として、購入オプション行使の判定変更、残価保証に基づく支払見込額の変動、指数またはレートに応じて決まる変動リース料の変動が例示されています。

指数またはレートが変動し、今後支払うリース料に変動が生じたときには、残りのリース期間にわたり、変動後の指数またはレートに基づきリース料およびリース負債を修正します。そして、修正額に相当する金額を使用権資産に加減します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針

この論点は、後続の「契約変更・リース負債の見直し」で詳しく扱う領域です。もっとも、測定実務の段階においても、見直しが発生したときに追跡できる設計にしておく必要があります。

契約管理台帳には、少なくとも次の情報を持たせるべきです。

管理項目理由
契約変更日・発効日再測定時点を判断するため
変更内容期間変更、面積変更、単価変更、対象資産追加・削除を区分するため
割引率の見直し要否リース期間変更や契約変更により適用利率が変わり得るため
使用権資産への加減算額リース負債修正額との整合を確認するため
損益処理の有無一部解約や範囲縮小では損益が発生する場合があるため

リース契約は、締結時よりも、運用中の変更管理で差が出ます。

とりわけ店舗・オフィス・倉庫・工場などの不動産リースでは、面積変更、フリーレント、賃料改定、契約更新、解約、サブリースが継続的に発生します。測定モデルは、開始日の計算だけでなく、変更履歴を反映できる形で設計しておく必要があります。

税務とのズレを前提に、会計測定を設計する

新リース会計基準の適用に伴い、税務上のリース取引の取扱いにも改正が行われています。国税庁の令和7年度法人税関係法令の改正資料では、リース期間定額法の見直しに伴う経過措置や、貸手のリース譲渡に係る収益および費用の帰属事業年度の特例の見直しなどが示されています。
出典:国税庁|令和7年度 法人税関係法令の改正の概要

本稿の主題は会計上の測定ですが、実務では税務調整や税効果会計との接続も避けて通れません。会計上は使用権資産・リース負債を計上し、減価償却費と支払利息を認識する一方で、法人税法上の取扱いが会計処理と常に一致するとは限らないためです。

税効果会計は、企業会計上の資産・負債の額と課税所得計算上の資産・負債の額の相違を対象として、法人税等と税引前利益を合理的に対応させる手続です。

そのため、リース会計の導入プロジェクトでは、会計仕訳だけを見ていては足りません。税務上の区分、申告調整、税効果、別表管理、会計システムと税務システムのデータ連携までを、早い段階で確認しておくべきです。

監査人に説明できる測定資料の作り方

使用権資産・リース負債の測定について監査人に説明できる資料とは、単なる計算結果一覧ではありません。判断の入口から計算結果まで、次のような証跡をそろえる必要があります。

資料目的
契約書・覚書・変更契約リース期間、リース料、更新・解約条項、変動条項を確認する
リース識別メモ契約がリースを含むか、リース部分を特定する
リース期間判断メモ延長・解約オプションの合理的に確実な判断を説明する
リース料構成表固定、指数・レート連動、売上歩合、保守料、共益費等を区分する
対価配分資料リース部分と非リース部分の独立価格、配分方法を説明する
割引率方針書貸手の計算利子率、追加借入利率、グルーピング、参照データを説明する
支払スケジュール支払日、支払額、元本、利息、残高を示す
使用権資産計算表付随費用、開始日前支払、資産除去債務、インセンティブを含める
償却スケジュール償却方法、償却期間、残存価額を説明する
見直し管理表契約変更、指数改定、残価保証見直し、オプション判断変更を記録する

会計上の見積りは、将来事象に依存するため金額が確定できない場合や、既に発生している事象について金額を確定するための情報が不足している場合に、決算上その金額を見積もるものです。

見積りには経営者の偏向や不確実性が伴います。それゆえ監査上も重要な論点となりやすく、見積時点で利用可能な情報に基づく最善の見積りであったかが問われます。

リース負債の測定は、まさに会計上の見積りと内部統制の交差点にあります。割引率、残価保証、変動リース料、オプション判断、資産除去債務。複数の見積りが同じ契約に含まれるため、個別判断の整合性を確認する必要があります。

経営者・開示担当者に説明すべき影響

使用権資産・リース負債の測定は、会計処理だけの問題ではありません。経営者・開示担当者には、少なくとも次の影響を説明する必要があります。

影響領域内容
貸借対照表使用権資産、リース負債、流動・固定区分が増加する
損益計算書賃借料から減価償却費・支払利息へ表示が変わる
EBITDA賃借料が減価償却費・支払利息に置き換わることで影響する
財務制限条項有利子負債、自己資本比率、レバレッジ指標に影響する可能性
キャッシュ・フロー元本返済と利息支払の表示区分を確認する必要がある
減損使用権資産が資産グループに含まれ、減損判定に影響する
税効果会計と税務の差異により一時差異が生じる可能性がある
注記会計方針、リース特有の取引、翌期以降の金額情報が必要となる

企業会計基準第34号では、使用権資産の表示について、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に表示する科目に含める方法と、対応する原資産の表示区分で使用権資産として区分する方法が認められています。

リース負債については、貸借対照表で区分表示するか、リース負債が含まれる科目および金額を注記します。そのうえで、1年以内に支払期限が到来するものは流動負債、1年を超えるものは固定負債とされます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

さらに、リースに関する注記の開示目的は、財務諸表本表で提供される情報と併せて、リースが財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにあります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準

つまり、リース負債の測定は、単なる会計システムの設定ではないということです。投資家が企業の財政状態をどう見るか、金融機関が財務制限条項をどう評価するか、監査人が見積りと内部統制をどう見るか。そのすべてに関係してきます。

実務上の落とし穴

借手の測定で特に起こりやすい誤りは、次のようなものです。

落とし穴何が問題か
契約期間をそのままリース期間とする更新・解約オプションの判断が反映されない
請求額をそのままリース料とする非リース部分、変動部分、税・保守・サービス部分が混在する
売上歩合賃料をすべて除外する最低保証や実質固定部分の検討が不足する
割引率を一律の借入平均利率とする通貨、期間、信用リスクとの整合性を説明できない
使用権資産とリース負債を常に同額にする前払、付随費用、資産除去債務、インセンティブを漏らす
重要性判断を契約単位だけで行う使用権資産総額や連結ベースでの判断が不足する
契約変更を反映しない期間延長、賃料改定、面積変更、指数改定を取り込めない
税務処理と会計処理を混同する申告調整、税効果、別表管理に不整合が生じる

とりわけ、負債を小さく見せる方向の判断については、監査上も慎重に検討されます。

一方で、過度に長いリース期間や過大なリース料を含める判断もまた、減損や事業計画との整合性を損なう可能性があります。

重要なのは、金額を大きくすることでも小さくすることでもありません。契約実態を説明できる測定にすることです。

専門家に相談すべき場面

次のような状況では、会計方針と測定ロジックを早期に専門家と整理しておくことが有用です。

  • 店舗、工場、物流倉庫、データセンター、本社など、重要な不動産リースが多い
  • 共益費、保守料、固定資産税相当額、売上歩合、指数連動賃料が契約に含まれる
  • 契約数が多く、グループ全体で割引率・重要性・簡便処理の方針を設計する必要がある
  • リース負債の増加が財務制限条項、IPO審査、格付、金融機関説明に影響する
  • 使用権資産が減損判定、資産除去債務、税効果会計と連動する
  • 監査人から、リース料の範囲、割引率、変動リース料、対価配分、見直し処理の根拠を求められている

犬飼公認会計士・税理士事務所では、新リース会計基準への対応について、契約棚卸し、リース識別、リース期間判断、使用権資産・リース負債の測定、割引率方針、変動リース料の整理、資産除去債務・税効果・減損・注記への接続、監査人協議資料の作成まで、上場企業・IPO準備企業・大規模グループの実務に即してご支援しています。

使用権資産・リース負債の測定は、数字を作る作業ではありません。契約実態、事業計画、支払条件、見積り、根拠資料をつなぎ、後から説明できる財務数値へ整えていく作業です。

新リース会計基準への対応にあたり、オンバランス額の試算、割引率の設定、変動リース料の取扱い、契約管理台帳の整備、監査人説明資料の作成に課題がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

主な出典・参照情報

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の修正について
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針
出典:国税庁|令和7年度 法人税関係法令の改正の概要

振り返り

重要論点実務上の確認事項
リース負債の当初測定未払リース料を現在価値に割り引いて算定する
使用権資産の当初測定リース負債に開始日前支払、付随費用、資産除去債務対応除去費用を加算し、インセンティブを控除する
リース料の範囲固定リース料、指数・レート連動、残価保証支払見込額、購入オプション、解約違約金を確認する
非リース部分原則として独立価格比率で配分し、合わせて処理する選択をする場合は方針を明確にする
変動リース料指数・レート連動は含め、売上・使用量連動は通常発生時損益とする
割引率貸手の計算利子率を知り得る場合はそれを用い、知り得ない場合は追加借入利率を合理的に見積る
利息法支払リース料を利息相当額と元本返済に区分し、利息相当額を利息法で配分する
使用権資産の償却所有権移転の有無に応じて、自己所有資産型かリース期間ベースかを判断する
重要性が乏しい場合使用権資産総額の重要性が乏しい場合、利息計算の簡便処理を検討できる
見直し契約変更、リース期間変更、指数改定、残価保証見直しなどを継続管理する
監査対応契約、対価配分、割引率、変動リース料、償却、見直し履歴を文書化する
開示・税務影響表示、注記、税務調整、税効果、減損、財務指標への影響を一体で確認する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次