引当金会計の全体像|日本基準における認識要件・見積り・表示開示・監査対応の実務整理

引当金は、将来発生する費用や損失に備えて機械的に積み立てるものではありません。

日本基準における引当金とは、当期以前の事象に起因して将来発生する特定の費用又は損失について、その発生可能性と金額の見積可能性を検討したうえで、当期の負担に属する金額を財務諸表に反映させる会計処理です。

ですから、引当金の実務では、「将来損失がありそうだから計上する」という発想だけでは足りません。かといって、「まだ支払っていないから計上しない」という整理でも不十分です。

大切なのは、期末日時点で、どの過去事象に基づき、どの将来費用・損失が、どの程度の発生可能性をもって、どの程度合理的に見積れるのかを、説明できる形にしておくことです。

上場企業の決算・開示・監査対応においては、この判断過程そのものが問われます。引当金は、損益、負債、注記、税効果、KAM、適時開示、不正リスクにまで波及し得るからです。

目次

引当金は「会計上の見積り」の代表的な領域である

引当金は、会計上の見積りの中でも、過去の事象に起因して将来発生する費用又は損失を見積もる典型的な領域です。

企業会計基準第31号は、「会計上の見積り」を、資産・負債や収益・費用等の額に不確実性がある場合に、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものと定義しています。あわせて同基準は、財務諸表に計上した金額だけでは翌年度の財務諸表への影響可能性を理解しにくい場合があることから、重要な影響を及ぼすリスクがある見積りについて開示を求めるという考え方を示しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準

この考え方は、引当金の実務にもそのまま当てはまります。

引当金の金額は、期末日時点で確定していないことが少なくありません。将来の発生事象、外部環境、相手方の状況、社内方針、契約条件、法令・規制、過去実績、専門家意見など、依存する要素も多岐にわたります。

そのため引当金の判断では、最終的な実績額と見積額が一致したかどうかだけでなく、期末日時点で利用可能な情報に基づく見積りとして合理的であったかが問われることになります。

見積額と実績額に差異が生じた場合、その差異が「その後に新たに発生した事象による見積りの変更」なのか、それとも「期末時点で考慮すべき情報を見落としていた誤謬」なのか。この区分は、財務諸表の訂正や監査対応にも影響します。企業会計基準第24号も、会計上の見積りの変更と誤謬を区別して定義しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

日本基準における引当金の基本根拠

日本基準における引当金の基本的な根拠は、企業会計原則注解18です。

注解18は、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を費用又は損失として引当金に繰り入れ、引当金残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するとしています。一方で、発生可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上できないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計原則 注解18

実務の感覚としても、引当金には包括的な単独の会計基準が存在するというより、企業会計原則注解18を基本に、個別の会計基準・実務指針・業種規制・表示規則を組み合わせて判断していく構造にあります。引当金については注解18が認識・測定の要件を定める中心的な規律であり、包括的な会計基準は設定されていない、と整理してよいでしょう。

だからこそ引当金の判断では、次の4要件を形式的に確認するだけでは足りません。それぞれの要件を、財務諸表作成時点の事実関係に落とし込んでいく必要があります。

引当金の4要件

引当金の認識要件は、次の4つに整理されます。

要件実務上の確認ポイント
将来の特定の費用又は損失であること一般的な事業リスクではなく、内容を特定できる費用・損失か
その発生が当期以前の事象に起因すること期末日までに原因となる取引、契約、事象、意思決定、法的・実質的義務が存在するか
発生の可能性が高いこと支出又は損失が発生する蓋然性を、社内外の証拠に基づき説明できるか
金額を合理的に見積ることができること見積方法、基礎データ、仮定、レンジ、専門家意見等により金額を説明できるか

この4要件は、単なるチェックリストではありません。上場企業の実務では、要件ごとに「何をもって充足したと判断したのか」を説明できなければ、監査人、経営者、監査役等、開示担当者、そして投資家に対して十分な説明にはならないからです。

とりわけ論点になりやすいのが、「発生の可能性が高いこと」と「金額を合理的に見積ることができること」の2つです。引当金の計上に際しては、この2要件が会計上の論点となりやすく、発生可能性や見積可能性を慎重に検討する必要があります。

要件1:将来の特定の費用又は損失であること

引当金の対象は、将来発生する可能性があるすべての支出ではありません。

対象となるのは、あくまで「特定された」費用又は損失です。将来の経営環境悪化、需要減少、競争激化、物価上昇、人件費増加といった一般的なリスクだけでは、通常、引当金の対象にはなりません。

実務では、次のように考えていきます。

まず、費用又は損失の性質を特定します。たとえば、製品保証、工事補償、債務保証、訴訟、災害復旧、リサイクル義務、貸倒れ、賞与、退職給付、特別修繕などです。

次に、その費用又は損失が、単なる経営上の不安ではなく、財務諸表項目として認識し得る程度に具体化しているかを確認します。

ここで重要になるのは、将来費用の名称ではありません。費用発生の原因、対象、相手方、発生条件、算定方法を説明できるかどうかです。名称だけを「○○引当金」としても、対象となる費用・損失が特定できなければ、引当金としての認識根拠は弱くなります。

要件2:発生が当期以前の事象に起因すること

引当金は、将来支出の会計処理でありながら、その原因は当期以前に存在している必要があります。

この要件は、実務上きわめて重要です。将来発生する費用であっても、期末日時点でその原因となる事象が発生していなければ、当期の負担に属する費用又は損失とはいえません。

たとえば、将来の事業再編、将来の店舗閉鎖、将来の価格改定、将来の設備更新。これらは経営上重要な見込みではあっても、期末日時点で実質的な意思決定や外部への拘束、契約上・法令上の義務、過去の販売・引渡し・保証などの原因事象が存在しない場合には、引当金の認識には慎重な検討が求められます。

逆に、期末日前に販売した製品について保証義務がある、引渡済み工事について補修義務がある、期末日時点で発生済みの事象に基づき損害賠償リスクが具体化している、期末日までに災害が発生して復旧費用が見込まれる。こうした場合には、原因事象が当期以前に存在する可能性があります。

この要件で実務上確認すべきなのは、取締役会決議の有無だけではありません。契約、社内通知、外部公表、当局からの通知、相手方との交渉状況、過去の販売・引渡し・保証条件、実質的な意思決定の進捗などを含めて、期末日時点の状態を立証できるかが問われます。

要件3:発生の可能性が高いこと

発生可能性は、引当金と偶発債務を分ける重要な境界線です。

企業会計原則注解18は、発生可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については引当金を計上できないとしています。したがって、「少しでも可能性があるから計上する」という考え方は適切ではありません。反対に、発生可能性が高いにもかかわらず、金額への影響を避けるために計上しないという対応も、やはり適切ではありません。

実務では、発生可能性を次のような証拠で裏付けていくことになります。

過去実績、契約条件、法令・規制、相手方の信用状態、当局調査の進捗、訴訟の進行状況、外部専門家の見解、社内意思決定、類似事象の発生状況、そして期末日後に判明した情報のうち期末日時点の状況を示すものなどです。

重要なのは、発生可能性を「経営者の感覚」で処理しないことです。上場企業の決算では、発生可能性の判断が見積りの主観性を伴う場合、監査人から、どの情報に基づき「高い」と判断したのか、なぜ偶発債務注記にとどまらず引当計上するのか、あるいはなぜ引当計上せず注記にとどめるのかを問われます。

特に、訴訟、当局調査、独禁法関連、製品不具合、債務保証などでは、「発生可能性は高いが金額の合理的見積りが困難」という局面もあります。この場合には、引当金として認識するか、偶発債務として注記するか、追加情報として説明するかを慎重に整理しなければなりません。独禁法関連損失のような論点では、発生可能性が高くても金額見積りが困難である場合に、引当金ではなく偶発債務注記となる可能性があります。

要件4:金額を合理的に見積ることができること

引当金は見積りですから、金額が確定している必要はありません。

しかし、合理的に見積ることができる必要があります。ここでいう合理性とは、単に「何らかの金額を置ける」という意味ではありません。見積方法、前提、基礎データ、検証プロセスを説明できることを意味します。

実務上、合理的な見積りには、次のような要素が必要になります。

過去実績を用いる場合は、対象期間、母集団、異常値の取扱い、直近実績との整合性、事業環境の変化を検討します。個別見積りを用いる場合は、対象債権、対象契約、相手方の状況、回収可能額、担保・保証、外部専門家意見などを整理します。レンジで見積る場合は、どの金額を採用するのか、最頻値・期待値・保守的見積りのいずれが合理的かを説明できる必要があります。

合理的見積りが困難であるにもかかわらず、恣意的な金額を置いて引当金を計上することは適切ではありません。その場合には、引当金を計上しない理由、偶発債務注記の要否、重要な会計上の見積りの開示の要否、後発事象の可能性を検討することになります。

合理的見積りの判断では、相手方の現在の状況だけでなく、再建計画、他の債権者の状況、担保・保証による回収可能見込額など、複数の状況を勘案する必要があります。

引当金は「負債」だけではない

引当金というと、負債の部に計上されるものを想定しがちです。

しかし、企業会計原則注解18は、引当金残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するとしています。典型的には、製品保証引当金、賞与引当金、工事損失引当金、債務保証損失引当金、訴訟損失引当金などが負債性の引当金として整理されます。一方で、貸倒引当金のように、資産の評価勘定として表示されるものもあります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計原則 注解18

この違いは、表示だけの問題ではありません。

貸倒引当金は債権評価の問題であり、金融商品会計、債権区分、信用リスク、税効果、与信管理、内部統制と接続します。これに対して、製品保証引当金や工事損失引当金は、過去の販売・引渡し・契約履行から生じる将来支出の見積りです。債務保証損失引当金や訴訟損失引当金では、偶発債務や法的リスクとの境界が問題になります。

ですから引当金を検討するときは、まず「負債性引当金か、資産評価性引当金か」を整理し、そのうえで関連する個別基準・表示規則・注記規則を確認していく必要があります。

引当金と個別基準の関係

引当金の総論は企業会計原則注解18に基づきますが、すべての引当金を注解18だけで完結させることはできません。

たとえば、貸倒引当金は金融商品会計や債権評価と密接に関係します。退職給付引当金は、退職給付会計基準に基づく長期給付債務の測定論点です。工事損失引当金は、収益認識基準・適用指針において、工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱いとして定められています。収益認識適用指針では、工事契約について工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ金額を合理的に見積れる場合に、工事損失を損失処理し、工事損失引当金を計上する旨が示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針

また、返品権付き販売については、現在の収益認識適用指針では、返品が見込まれる部分について収益を認識せず、返金負債を認識したうえで、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識する構造になっています。従来型の返品調整引当金をそのまま現在の収益認識実務に持ち込むのではなく、返金負債・返品資産との関係で整理する必要があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針

このように引当金の実務判断では、注解18を入口としつつも、個別基準がある領域では個別基準を優先して確認する必要があります。

資産除去債務と引当金を混同しない

引当金実務で混同しやすいものに、資産除去債務があります。

資産除去債務は、将来の除去費用に関する会計処理ですから、広い意味では将来支出の見積りを伴います。しかし日本基準では、資産除去債務に関する会計基準・適用指針に基づいて処理される、独立した会計領域です。

したがって、原状回復、アスベスト、PCB、土壌汚染、賃貸借契約に基づく除去義務といった論点では、まず資産除去債務に該当するかを検討します。そのうえで、引当金として扱うべき一般的な将来損失見積りなのかを切り分けていくことになります。

実務では、資産除去債務、減損、税効果、引当金が同時に問題になる場面もあります。たとえば、除去費用の見積り変更は、資産除去債務の測定だけでなく、関連資産の帳簿価額、減損検討、税効果にも影響します。資産除去債務と減損・引当金・税効果の関係は、複数基準を横断して検討すべき領域として位置づけられます。

引当金の表示は「性質」で考える

引当金の表示では、貸借対照表と損益計算書の双方を考える必要があります。

貸借対照表では、負債性引当金であれば、支出時期や性質に応じて流動負債又は固定負債に表示されます。資産評価性の引当金であれば、関連する資産から控除する形式などが問題になります。

損益計算書では、引当金繰入額をどこに表示するかが重要です。表示区分は、単に「引当金繰入額」という科目名で決めるものではありません。対象となる費用又は損失の性質に基づいて判断します。

たとえば、売上原価に対応するもの、販売費及び一般管理費に対応するもの、営業外費用に対応するもの、特別損失に対応するもの。それぞれ、財務諸表利用者に与える意味が異なります。引当金繰入額についても、工事損失引当金繰入額、営業債権に係る貸倒引当金繰入額、営業外債権に係る貸倒引当金繰入額、債務保証損失引当金繰入額、災害損失引当金繰入額、訴訟損失引当金繰入額など、性質に応じた表示区分の整理が求められます。

したがって表示判断では、次の観点を整理していきます。

  • 引当対象が営業活動に直接関連するか
  • 売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失のいずれの性質を持つか
  • 臨時性、異常性、金額的重要性があるか
  • 過年度誤謬ではなく、当期の見積り変更として処理すべきものか
  • 監査人・開示担当者・経営者説明において、どの表示が財務諸表利用者の理解に資するか

表示とは、会計処理の結論を外部にどう伝えるかという問題です。引当金の表示区分が不適切であれば、営業利益、経常利益、税引前利益の理解を誤らせる可能性があります。

引当金の戻入れ・取崩しで注意すべきこと

引当金は、計上した後も期末ごとに見直されます。

見積りの対象となった事象が実際に発生した場合には、引当金を目的使用します。見積額が実績額を上回った場合、要件を満たさなくなった場合、あるいは見積りの見直しにより必要額が減少した場合には、戻入れ又は取崩しを検討します。

ここで注意していただきたいのは、戻入れの理由です。

当初見積り時点では合理的であったものの、その後に新しい情報や状況変化が生じたために戻入れが必要になったのであれば、通常は会計上の見積りの変更として処理します。一方、当初見積り時点で利用可能だった情報を使用していなかった、あるいは誤用していたことが原因であれば、過去の誤謬となる可能性があります。

引当金は、対象事象が発生した場合又は注解18の要件を満たさなくなった場合に取り崩され、実績額・再計算額・見積方法の変更などにより戻入額が発生し得ます。

上場企業の実務では、戻入額が発生した場合に、「利益が出るから戻す」のではなく、「なぜ期末日時点で必要額が減少したのか」を説明する必要があります。戻入れは利益にプラスの影響を与えることが多いため、監査上も、見積りの恣意性や利益調整の有無が検討対象になります。

注記・附属明細表・重要な会計上の見積りへの接続

引当金は、財務諸表本表だけで完結しません。

重要な会計方針として、引当金の計上基準を注記する場合があります。また、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、重要な会計上の見積りとして、会計上の見積りの開示対象となる可能性があります。企業会計基準第31号は、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別し、影響の金額的大きさと発生可能性を総合的に勘案して判断することを求めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準

また個別財務諸表では、財務諸表等規則上、附属明細表として引当金明細表が位置づけられています。引当金明細表については、当期首残高、当期増加額、当期減少額、目的使用、その他、当期末残高といった増減情報を整理する必要があります。
出典:e-Gov法令検索|財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則

開示で重要なのは、単に引当金の科目名や金額を示すことではありません。

なぜその引当金を計上しているのか、どのような見積方法によっているのか、どの仮定が重要なのか、どの程度の不確実性があるのか、翌期以降にどのような影響があり得るのか。これらを、財務諸表利用者が理解できるように整理することです。

特に、訴訟損失引当金、製品保証引当金、独禁法関連損失引当金、工事損失引当金、貸倒引当金などは、金額的重要性又は不確実性が高い場合、注記・記述情報・監査報告上のKAMとの整合性が問題になります。

会社法・金商法・税務との関係

引当金を検討するときは、会社法、金融商品取引法、税務との関係も整理する必要があります。

会社法上、株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとされています。会社計算規則も、用語の解釈及び規定の適用に関して、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌する構造を採っています。
出典:e-Gov法令検索|会社法
出典:e-Gov法令検索|会社計算規則

したがって会社法計算書類においても、引当金の会計処理は、基本的には一般に公正妥当と認められる会計基準・慣行に基づいて整理されます。会社法・会社計算規則には引当金の定義、要件、範囲について特段の規定がないため、会社法431条や会社計算規則3条を通じて、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づく取扱いがなされる、という構造です。

一方、税務上の取扱いは、会計上の引当金とは目的が異なります。

法人税法には貸倒引当金に関する規定がありますが、税法上の損金算入要件と、会計上の引当金認識要件は一致しません。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

所得計算のために行われる引当金の計上は、会計上の引当金の計上とは目的を異にします。税法で計上が求められることのみを理由として、会計上も引当計上が認められるという関係にはありません。

この点は実務上、非常に重要です。

会計上は引当金を計上すべきであっても、税務上は損金算入できず、申告調整と税効果会計が必要になることがあります。反対に、税務上の準備金・引当金制度があるからといって、それだけで会計上の引当金認識が正当化されるわけでもありません。

上場企業やIPO準備企業では、会計処理、税務申告、税効果、注記、監査対応を分断せず、一体で整理していく必要があります。

監査対応で問われるポイント

引当金は、監査上、重要な見積り領域になりやすい項目です。

日本公認会計士協会は、監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」を公表しており、会計上の見積りは監査上も重要な検討対象となります。
出典:日本公認会計士協会|監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」及び関連する監査基準委員会報告書の改正について

監査対応で重要になるのは、引当金の金額そのものだけではありません。監査人は、通常、次のような観点を検討します。

  • 引当金の対象となる事象が網羅的に把握されているか
  • 注解18の4要件をどのように判断したか
  • 発生可能性の判断に偏りがないか
  • 見積方法が合理的か
  • 基礎データが正確かつ網羅的か
  • 過去実績と現在の環境変化をどのように反映したか
  • 外部専門家の見解を利用する場合、その前提を理解しているか
  • 期末日後に判明した情報が修正後発事象に該当しないか
  • 注記、重要な会計上の見積り、KAMとの整合性があるか

上場企業の実務では、監査人に対して「この金額にしました」と説明するだけでは足りません。「なぜこの対象を引当対象としたのか」「なぜ他の事象は対象外としたのか」「なぜ発生可能性が高いと判断したのか」「なぜこの算定方法を採用したのか」「なぜこの表示区分・注記内容が適切なのか」。これらを説明できることが求められます。

引当金判断の実務プロセス

引当金の検討は、次の流れで整理すると判断がぶれにくくなります。

1. 事象を漏れなく洗い出す

まず、将来費用・損失につながり得る事象を洗い出します。

対象となるのは、債権回収、保証、補修、訴訟、債務保証、当局調査、災害、リサイクル義務、契約損失、退職給付、賞与、事業撤退、組織再編、製品不具合などです。

この段階では、会計処理の結論を急ぐ必要はありません。契約、稟議、議事録、社内通知、外部公表、弁護士意見、顧客対応履歴、当局文書、過去実績、期末日後の情報を、まずは集めることに注力します。

2. 注解18の4要件に分解する

次に、各事象について、4要件を個別に検討します。

「何となく発生しそう」「金額が大きそう」という整理ではなく、要件ごとに、充足・未充足・追加検討事項を明確にしていきます。

このとき、引当金を計上する論点だけでなく、計上しない論点についても理由を整理しておくことが重要です。監査上は、計上額だけでなく、未計上判断の妥当性も問われるからです。

3. 見積方法を決める

見積方法は、対象となる引当金の性質によって異なります。

過去実績率を用いるのか、個別見積りを行うのか、外部専門家の意見を使うのか、契約金額や通知額を基礎にするのか、期待値を使うのか、最頻値を使うのか。まずはこの点を整理します。

見積方法を決めたら、基礎データ、対象期間、異常値、環境変化、将来予測、感応度、過年度見積りとの差異を検討していきます。

4. 表示・注記・税効果を整理する

引当金は、会計処理だけで終わりません。

貸借対照表の表示、損益計算書の表示区分、注記、引当金明細表、重要な会計上の見積り、税効果、法人税申告調整、有価証券報告書の記述情報、適時開示の要否を検討します。

特に、金額的重要性が高い引当金や、事業リスクと密接に関連する引当金については、財務諸表注記だけでなく、事業等のリスク、MD&A、KAMとの整合性も確認する必要があります。

5. 監査人・経営者・開示担当者に説明できる資料にする

最後に、判断過程を資料化します。

資料には、少なくとも、事象の概要、期末日時点の状況、4要件の検討、見積方法、基礎データ、主要な仮定、前期比較、感応度、税務処理、表示・注記、監査上の想定論点を含めることが望まれます。

引当金は、決算直前に「金額だけ」を決めてしまうと、監査対応や開示対応の場面で説明が難しくなります。重要な引当金ほど、早い段階で論点メモを作成し、関係者間で判断の前提をそろえておくことが大切です。

引当金で避けるべき実務判断

引当金の実務では、次のような判断は避けるべきです。

まず、税務上損金にならないから会計上も計上しない、という判断です。会計と税務は目的が異なりますから、税務上の損金算入可否が、会計上の引当金認識要件を直接決めるものではありません。

次に、金額が不確実だから計上しない、という判断です。不確実であること自体は、引当金を否定する理由にはなりません。問われているのは、合理的に見積れるかどうかです。

また、過去から同じ方法で計上しているから問題ない、という判断も不十分です。過去実績率を用いる場合でも、事業環境、製品構成、契約条件、顧客層、法令・規制、品質状況が変化していれば、見積方法や率の見直しが必要になることがあります。

さらに、監査人から指摘されたら検討する、という運用も危険です。引当金は経営者の見積りであり、財務諸表作成者が主体的に判断すべき領域だからです。監査人対応を起点にするのではなく、会社として説明可能な判断を先に構築しておく必要があります。

引当金会計は「利益調整」ではなく「説明可能性」の問題である

引当金は、利益に直接影響します。

そのため、見積りの置き方によって損益が変動しやすく、利益調整の疑念を持たれやすい領域でもあります。しかし、引当金の本質は、利益を保守的に下げることでも、利益を平準化することでもありません。

本質は、当期以前の事象に起因する将来費用・損失を、当期の負担として適切に財務諸表へ反映することにあります。

上場企業の決算・開示実務では、引当金を「いくら計上するか」だけではなく、「なぜその金額を当期に認識するのか」「なぜその金額が合理的なのか」「なぜ注記又は非注記が適切なのか」を説明できることが求められます。

引当金は、会計基準、見積り、税務、開示、監査、内部統制が交差する領域です。重要な引当金ほど、単なる会計処理ではなく、決算判断として扱うべきものといえます。

引当金会計に関するご相談について

引当金の計上要否、見積方法、表示区分、注記、税効果、監査人対応は、個別の事情によって判断が大きく変わります。

特に、訴訟・債務保証・製品保証・工事損失・貸倒・災害損失・事業撤退・組織再編に関連する引当金は、金額的重要性だけでなく、開示・監査・内部統制・将来の訂正リスクにも影響します。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく決算・開示・監査対応を前提に、引当金の論点整理、見積方法の検討、監査人説明資料の整理、税効果・開示影響の確認まで、実務判断を「後から説明できる形」に整える支援を行っています。

引当金の判断に迷う論点がある場合や、監査人・経営者・開示担当者への説明資料を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点実務上の要点
引当金の基本根拠日本基準では企業会計原則注解18が基本となる
4要件将来の特定費用・損失、当期以前の事象、発生可能性の高さ、合理的見積可能性を検討する
発生可能性経営者の感覚ではなく、契約、過去実績、外部証拠、専門家意見等で裏付ける
合理的見積り見積方法、基礎データ、仮定、レンジ、感応度を説明できる形にする
表示引当金の名称ではなく、対象となる費用・損失の性質で表示区分を判断する
戻入れ見積り変更か過去の誤謬かを区分する必要がある
税務税法上の損金算入可否は、会計上の引当金認識要件を直接決めるものではない
開示重要な会計上の見積り、注記、引当金明細表、KAMとの整合性を確認する
監査対応金額だけでなく、判断過程と証拠資料を説明できることが重要
実務姿勢引当金は利益調整ではなく、当期負担と将来不確実性を説明可能にするための会計判断である
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