会計不正や過年度訂正が発覚したとき、実務の関心はどうしても「財務諸表をどのように訂正するか」に集まります。誤謬か不正か、過年度修正か当期処理か、訂正報告書をどの範囲で提出するか。いずれも避けて通れない重要な検討です。
しかし、上場企業の実務は、そこで終わりません。
有価証券報告書の訂正、決算短信の訂正、適時開示、監査人の追加手続。これらに加えて、必ず検討しなければならないものがあります。財務報告に係る内部統制、すなわち内部統制報告制度への影響です。
過年度の有価証券報告書を訂正するほどの誤謬や不正があった場合、会社は、過去の内部統制報告書で「財務報告に係る内部統制は有効である」と評価していたこととの整合性を問われます。とはいえ、有価証券報告書の訂正報告書を提出したからといって、内部統制報告書も機械的に訂正すればよいというものではありません。逆に、「訂正額が限定的だから内部統制には影響しない」と即断するのも、同じくらい危うい判断です。
本稿では、会計不正・不適切会計・過年度訂正が発覚した場合に、J-SOX評価をどのように見直し、監査人・経営者・監査役等・開示担当者に説明できる形へ整理していくかを解説します。
内部統制報告制度は「不正防止制度」ではなく、財務報告の信頼性を評価する制度である
内部統制報告制度を検討するとき、最初に確認しておきたいのは、J-SOXが対象とする内部統制の範囲です。
金融商品取引法上の内部統制報告制度は、会社の業務全般を評価する制度ではありません。その中心にあるのは、あくまで財務報告の信頼性を確保するための内部統制です。
金融商品取引法第24条の4の4は、一定の提出会社に対し、企業集団及び会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した内部統制報告書の提出を求めています。そして、この内部統制報告書は、公認会計士又は監査法人による監査証明の対象となります。
出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法
出典:e-Gov法令検索|財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令
ここでいう「財務報告」は、財務諸表だけを指すものではありません。金融庁・企業会計審議会の内部統制基準では、財務報告は「財務諸表及び財務諸表の信頼性に重要な影響を及ぼす開示事項等に係る外部報告」とされ、財務報告に係る内部統制とは、その信頼性を確保するための内部統制をいうものと整理されています。また、財務報告に係る内部統制が有効であるとは、適切な内部統制の枠組みに準拠して整備・運用され、開示すべき重要な不備がない状態を意味します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
したがって、会計不正が発覚した場合に検討すべき問いは、「不祥事があったかどうか」だけではありません。
実務で押さえておきたいのは、次の問いです。
| 検討軸 | 問い |
|---|---|
| 財務報告への影響 | 当該事象は財務諸表又は重要な開示事項に影響するか |
| 内部統制の不備 | 虚偽表示を防止又は発見できなかった内部統制上の不備があるか |
| 重要性 | その不備は財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高いか |
| 評価時点 | 期末日時点で不備が存在していたか、是正されていたか |
| 報告影響 | 内部統制報告書の評価結果、付記事項、特記事項、訂正報告書に影響するか |
情報漏えい、労務問題、品質不正、法令違反といった不祥事が発生しても、それだけで直ちにJ-SOX上の開示すべき重要な不備になるわけではありません。
ただし、これらの不祥事が引当金、偶発債務、減損、継続企業、収益認識、棚卸資産、税効果、記述情報に影響を及ぼす場合には、財務報告に係る内部統制の問題として扱う必要があります。
会計不正では、まず「統制不備の種類」を分解する
会計不正が発覚した場合、内部統制上の検討を「承認が漏れていた」「チェックが甘かった」という表現で終わらせてしまうのは、あまりに惜しい整理です。どの階層の統制が効かなかったのかまで、丁寧に分解する必要があります。
内部統制報告制度の実務では、大きく次の3層で評価していきます。
| 評価区分 | 役割 | 会計不正局面での典型論点 |
|---|---|---|
| 全社的な内部統制 | 統制環境、リスク評価、情報伝達、モニタリング等の基盤 | 経営者の姿勢、取締役会・監査役等の監督、内部通報、内部監査、子会社管理 |
| 業務プロセスに係る内部統制 | 売上、購買、棚卸、原価、固定資産、資金、IT等の業務処理 | 架空売上、カットオフ、在庫水増し、承認権限逸脱、取引先確認不足 |
| 決算・財務報告プロセスに係る内部統制 | 決算整理、連結、見積り、注記、開示資料作成 | 減損回避、税効果過大、引当金過小、注記漏れ、開示チェック不足 |
金融庁・企業会計審議会の内部統制基準では、経営者はまず全社的な内部統制を評価し、その結果を踏まえて、業務プロセスに組み込まれた内部統制を評価するものとされています。あわせて、評価対象となる内部統制の範囲内にある業務プロセスを分析し、財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす統制上の要点を選定して評価することが求められています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
たとえば、架空売上が発覚した場合でも、その原因が一つとは限りません。
| 発覚事象 | あり得る統制不備 |
|---|---|
| 実在しない取引先への売上計上 | 取引先マスタ登録統制、与信承認統制、契約確認統制の不備 |
| 検収前売上 | 出荷・検収証憑の照合統制、カットオフ統制の不備 |
| 循環取引 | 商流確認、エンドユーザー確認、取引の事業上の合理性確認の不備 |
| 在庫水増し | 実地棚卸、棚卸差異分析、滞留在庫評価、預け在庫確認の不備 |
| 減損回避 | 事業計画承認、将来CF検証、反証情報の検討、取締役会資料との整合性確認の不備 |
| 税効果過大 | 将来課税所得計画、スケジューリング、経営計画との整合性確認の不備 |
| 開示漏れ | 有報チェックリスト、注記対象論点の抽出、開示担当と経理・法務の連携不備 |
会計不正は、取引スキームを熟知した担当者が、内部統制の欠陥を突いて実行することがあります。しかも、不正実行者が社内で厚く信頼され、長期間にわたって同一業務を担当していたために、モニタリングが働かなかったというケースも見られます。
そのため、不正発覚後の内部統制評価では、単発のチェック漏れにとどめず、職務分掌、権限設計、ローテーション、内部監査、例外処理のモニタリングまで遡って検討していく必要があります。
「開示すべき重要な不備」は、実際の虚偽表示額だけで判断しない
開示すべき重要な不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い、財務報告に係る内部統制の不備をいいます。
ここで大切なのは、「実際に重要な虚偽表示が発生したか」だけを見るのではなく、「その不備により重要な虚偽表示が防止又は発見されない可能性が高かったか」という視点を持つことです。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
したがって、次のような誤解は避けたいところです。
| 誤解 | 実務上の考え方 |
|---|---|
| 訂正額が小さいので内部統制上も軽微 | 質的重要性、経営者関与、反復性、発見経路を確認する |
| 監査人が発見したので内部統制は有効 | 会社内部で防止・発見できなかった原因を確認する |
| 担当者不正なので全社統制には関係しない | 統制環境、権限、牽制、内部監査、上席者レビューを確認する |
| 子会社不正なので親会社の内部統制には関係しない | 連結ベースの財務報告、子会社管理、グループ決算統制を確認する |
| 期末後に発見し是正したので問題ない | 評価基準日時点の不備の有無、期末日までの是正状況を確認する |
実際の虚偽表示額が財務諸表全体の重要性を下回っていたとしても、それが利益の黒字化、財務制限条項、上場維持基準、業績予想、役員報酬、資金調達、IPO審査に影響するのであれば、質的重要性は一気に高まります。会計上の誤謬訂正における重要性判断においても、金額的重要性だけでなく、誤謬の原因や財務諸表項目の性質といった質的重要性を考慮する必要があります。
内部統制上は、次の観点から評価していきます。
| 観点 | 検討内容 |
|---|---|
| 金額的重要性 | 虚偽表示額、潜在的虚偽表示額、連結・単体・セグメント影響 |
| 質的重要性 | 経営者関与、不正性、業績指標、財務制限条項、上場審査、開示項目 |
| 発生可能性 | 同様の不備が反復する可能性、他拠点・他子会社への水平展開 |
| 発見経路 | 会社内部で発見したか、監査人・外部通報・報道で発見されたか |
| 統制階層 | 業務プロセスの不備か、決算統制か、全社統制か |
| 是正状況 | 期末日までに設計・運用が是正されていたか |
| 経営者の対応 | 原因分析、責任所在、再発防止、監査役等への報告が適切か |
繰り返しになりますが、「訂正があるから開示すべき重要な不備」と短絡してはなりません。同時に、「訂正額が限定的だから不備ではない」と考えるのも誤りです。内部統制評価は、会計上の訂正範囲とは別の判断軸を持っている、ということです。
有価証券報告書の訂正と内部統制報告書の訂正は、自動連動ではない
過年度の有価証券報告書を訂正する場合、内部統制報告書の訂正を検討する必要があります。ただし、有価証券報告書の訂正報告書を提出したという事実だけで、内部統制報告書の訂正が自動的に必要になるわけではありません。
判断の軸となるのは、過去の内部統制報告書に記載した評価結果が、当時の評価基準日時点で適切だったかどうかです。
| 検討項目 | 問い |
|---|---|
| 不備の存在時点 | 訂正対象年度末時点で内部統制の不備が存在していたか |
| 重要性 | その不備は財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高かったか |
| 評価範囲 | 当該プロセス・拠点を評価範囲に含めるべきだったか |
| 発見可能性 | 会社の統制で防止又は発見できる設計だったか |
| 是正状況 | 当時、期末日までに是正されていたか |
| 記載整合性 | 過去の内部統制報告書で「有効」とした記載に訂正が必要か |
金融庁が公表した令和6年度有価証券報告書レビューの審査結果では、改正内部統制府令において、訂正内部統制報告書に「訂正の対象となる内部統制報告書の提出日」「訂正の理由」「訂正の箇所及び訂正の内容」を記載することが求められている点が示されています。さらに、過去に「財務報告に係る内部統制は有効である」と記載していた内部統制報告書を訂正し、訂正後に「開示すべき重要な不備があり、有効でない」と記載する場合には、訂正前の内部統制報告書に当該不備の記載がなかった理由の記載が求められる、とされています。
出典:金融庁|令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等
この点は、訂正実務において極めて重要です。過去の内部統制報告書を訂正する場合、単に「有効」から「有効でない」へ書き換えるだけでは、説明として足りません。
なぜ当時その不備を識別できなかったのか。評価範囲は適切だったのか。経営者評価の手続に問題があったのか。ここまで説明できて、はじめて訂正の記載が意味を持ちます。
2024年4月以後開始事業年度からの改訂J-SOXで強まった視点
内部統制報告制度については、2023年4月7日に企業会計審議会から改訂意見書が公表され、その後、関連する内部統制府令・ガイドライン等も整備されてきました。金融庁は2023年8月31日に「内部統制報告制度に関するQ&A」及び事例集を改訂しており、2023年6月30日に公布された内部統制府令改正等は、ガイドラインと併せて2024年4月1日から施行・適用されています。
出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
出典:金融庁|「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について
出典:金融庁|「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について
改訂後の実務でとりわけ重要になるのが、評価範囲の決定理由をより説明可能にするという視点です。
金融庁の令和8年度有価証券報告書レビューに関する公表では、内部統制報告書の「財務報告に係る内部統制の評価の範囲」の記載について、改正内部統制府令ガイドラインで定められている事項に関する「決定した事由」の記載がない、あるいは不明瞭であることが、識別された主な課題として挙げられています。
出典:金融庁|有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度)
これは、会計不正発覚後の対応にも直結する論点です。
不正が発生した拠点・子会社・プロセスが評価範囲外だった場合、会社は次の点を説明できなければなりません。
| 論点 | 説明すべき事項 |
|---|---|
| 評価範囲外とした理由 | 売上高、総資産、利益、リスク、事業特性、質的重要性 |
| 不正発覚後の再評価 | 当初の評価範囲決定が合理的だったか |
| 水平展開 | 類似取引・類似子会社・類似システムに同様の不備がないか |
| 翌期以降の評価範囲 | 当該拠点・プロセスを評価対象に追加するか |
| 記載方針 | 内部統制報告書の評価範囲、決定理由、付記事項への反映 |
評価範囲の決定は、単に売上高上位の拠点を選ぶだけの作業ではありません。改訂後の考え方では、財務諸表の表示及び開示、企業活動を構成する事業又は業務、財務報告の基礎となる取引又は事象、主要な業務プロセスについて、金額的及び質的影響の重要性を考慮して合理的に決定し、その方法と根拠を記録することが求められています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
経営者による内部統制の無効化は、全社統制の問題として扱う
会計不正のなかでも、最も慎重に扱うべきなのが、経営者又は上級管理者による内部統制の無効化です。
JICPAの監査基準報告書240は、財務諸表の虚偽表示は不正又は誤謬から生じるものであり、両者は原因となる行為が意図的か否かによって区別されると整理しています。また、不正の防止・発見に対する基本的責任は経営者にあり、取締役会及び監査役等による監視も重要であるとされています。加えて、経営者は内部統制を無効化できる立場にある場合が多いことから、監査人は経営者による内部統制無効化リスクを考慮し、職業的懐疑心を保持する責任があるとされています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書240 財務諸表監査における不正
経営者の関与が疑われる場合、業務プロセスのチェックリストを追加するだけでは、到底足りません。全社的な内部統制、統制環境、監査役等の監視、内部通報制度、内部監査の独立性まで、検討の対象となります。
| 経営者無効化リスク | 確認すべき内部統制 |
|---|---|
| 期末仕訳の直接入力 | 仕訳承認、異常仕訳抽出、権限管理、仕訳テスト |
| 見積り仮定の恣意的変更 | 事業計画承認、反証情報検討、取締役会資料との整合 |
| 売上目標達成の圧力 | 予算統制、営業インセンティブ、異常値分析 |
| 子会社への不適切指示 | 親会社承認、グループ内部通報、子会社監査役・内部監査 |
| 監査人への不十分な説明 | 経営者確認、監査役等との直接コミュニケーション |
| 不都合な情報の隠蔽 | 内部通報、会議議事録、メール保全、法務・内部監査連携 |
監査実務においても、経営者による内部統制無効化リスクへの対応として、会計システムに直接計上された仕訳を対象とする仕訳テストが実施されることがあります。
会社側としては、監査人の仕訳テストに対応するだけで終わらせず、そもそも異常仕訳を会社内部で発見できる統制が備わっているかどうかを、自ら評価しておく必要があります。
IT統制・外部委託・自動化統制は、不正発覚後に見落とされやすい
近年の会計不正・不適切会計では、取引データ、販売管理システム、ポイント管理、在庫管理、原価計算、連結パッケージ、ワークフロー、電子契約、BIツールなど、IT環境が深く関わっています。
内部統制基準では、ITの利用及び統制は、内部統制の他の基本的要素の有効性を確保するために重要なものとされ、財務報告データを適切に収集・処理し、財務報告に反映するプロセスを確保することが例示されています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
もっとも、IT障害やシステム不具合が発生したからといって、それだけで直ちに財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備になるわけではありません。システム障害によってビジネスリスクが顕在化したとしても、財務報告に正しく反映する統制が機能していれば、J-SOX上の不備とは評価されない場合があります。
一方で、次のような場合は、内部統制上の重大な論点となります。
| IT関連の事象 | 内部統制上の論点 |
|---|---|
| マスタ改ざん | アクセス権限、変更ログ、承認フロー |
| 売上データの手修正 | 例外処理承認、修正理由、網羅的レビュー |
| システム間インターフェース不整合 | データ連携、突合、エラーリスト処理 |
| 外部システムからのデータ利用 | 受領データの正確性検証、委託先統制の評価 |
| 自動化された計算ロジック | プログラム変更管理、計算ロジックレビュー |
| 手作業Excelによる決算調整 | バージョン管理、数式検証、レビュー証跡 |
| 権限者による直接修正 | 職務分掌、上位者承認、ログモニタリング |
外部システムや外部委託業務についても、委託先に任せているから会社の内部統制評価の対象外になる、ということはありません。財務報告目的で重要なデータを社外システムから受領している場合には、受領データの正確性、委託先の統制、そして会社側の再計算・突合・レビュー統制まで検討する必要があります。
不正発覚後のJ-SOX評価では、評価範囲の「後知恵」を避けつつ再検討する
不正が発覚すると、「なぜこの拠点を評価範囲に入れていなかったのか」「なぜこのプロセスを評価していなかったのか」が、必ず問われます。
ただし、評価範囲の妥当性を、発覚後の結果だけで断罪するのは適切ではありません。評価範囲を決定した時点で入手可能だった情報に基づき、金額的重要性・質的重要性・リスクを考慮して合理的に判断していたか。この視点から検討することになります。
| 状況 | 評価上の考え方 |
|---|---|
| 評価範囲内のプロセスで不正発生 | 当該統制の設計・運用不備、テスト手続の妥当性、評価結果の再検討 |
| 評価範囲外の拠点で不正発生 | 評価範囲外とした理由の合理性、質的リスクの見落とし、翌期追加 |
| 評価範囲外だが同種取引が複数拠点に存在 | 水平展開、母集団再分析、評価範囲再設定 |
| 期末後に不正発覚 | 期末日時点の不備の有無、評価報告書提出時点での追加手続 |
| 過年度に同様の不備が継続 | 過去の内部統制報告書訂正、訂正理由、未記載理由の検討 |
改訂後の内部統制基準では、評価範囲の決定前後に、決定方法及び根拠等について必要に応じて監査人と協議することが適切とされています。ただし、評価範囲の決定はあくまで経営者が行うものであり、監査人との協議は監査人による指導的機能の一環である点には、留意が必要です。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
つまり、「監査人と協議していたから問題ない」という説明では十分ではないということです。会社として、なぜその範囲を評価したのか、なぜ評価しなかったのかを、文書で説明できる状態にしておく必要があります。
決算・財務報告プロセスの不備は、個別基準の誤適用よりも広く見る
会計不正や訂正が発生した場合、その原因を「収益認識基準の理解不足」「減損会計の判断誤り」「税効果の計算誤り」と整理するだけでは、まだ足りません。
J-SOX上は、なぜその誤りを決算プロセスで発見できなかったのか、というところまで踏み込んで検討します。
| 会計論点 | 決算・財務報告プロセス上の検討事項 |
|---|---|
| 収益認識 | 契約レビュー、履行義務判定、検収証憑、本人代理人判定の承認 |
| 棚卸資産評価 | 滞留在庫リスト、正味売却価額、廃棄実績、評価損ルール |
| 固定資産減損 | 減損兆候判定、事業計画、将来CF、取締役会資料との整合 |
| 税効果 | 企業分類、将来課税所得、スケジューリング、税務部門との連携 |
| 引当金 | 発生可能性、合理的見積り、法務・営業・品質部門からの情報収集 |
| 連結 | 子会社パッケージ、内部取引、未実現損益、子会社不正情報の吸い上げ |
| 注記 | 開示チェックリスト、関連当事者、重要な会計上の見積り、後発事象 |
| 適時開示 | 決算影響額、業績予想修正、開示担当との連携 |
会計上の見積りは、経営者の仮定や将来予測を含むものですから、結果が実績と乖離したこと自体が、直ちに誤謬を意味するわけではありません。
しかし、見積時点で当然考慮すべき事項を考慮していなかった場合や、楽観的な見積りをしていた場合には、誤謬や内部統制上の改善点を示唆することがあります。
そこで決算財務報告プロセスの評価では、計算チェックにとどまらず、次のような統制を確認していきます。
| 統制 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 論点抽出統制 | 新規取引、重要契約、異常値、事業撤退、訴訟、税務調査情報を拾っているか |
| 部門横断統制 | 経理、法務、営業、事業部、税務、内部監査、開示担当が連携しているか |
| 反証情報検討 | 会社に不利な情報や計画未達情報を検討しているか |
| レビュー統制 | 専門性ある者が判断過程をレビューしているか |
| 経営者承認 | 結論だけでなく、仮定・代替案・リスクを承認しているか |
| 証跡保存 | 判断の前提、根拠資料、会議体、監査人協議を保存しているか |
内部統制報告制度とKAMは、同じではないが接続している
会計不正や内部統制の不備があった場合、KAMとの関係も意識しておきたいところです。
KAMは、財務諸表監査において監査人が特に重要と判断した事項であり、J-SOX上の開示すべき重要な不備とは、そもそも制度目的が異なります。開示すべき重要な不備があるからといって、直ちにKAMになるわけではありません。逆に、KAMとして取り上げられたからといって、内部統制に開示すべき重要な不備があるという意味でもありません。
ただし実務上は、両者はしっかりと接続します。
| 項目 | 内部統制報告制度 | KAM |
|---|---|---|
| 主体 | 経営者が評価し、監査人が監査 | 監査人が監査報告書に記載 |
| 対象 | 財務報告に係る内部統制の有効性 | 財務諸表監査上、特に重要な検討事項 |
| 典型論点 | 開示すべき重要な不備、評価範囲、是正状況 | 減損、税効果、収益認識、企業結合、GC |
| 不正発覚時 | 内部統制の不備・有効性評価を検討 | 監査上の重要性、不正リスク対応を検討 |
| 開示関係 | 内部統制報告書、訂正内部統制報告書 | 監査報告書、有報の監査人情報 |
ITシステムや内部統制がKAMに取り上げられる場合、会社側としては、有価証券報告書の記述情報と内部統制報告書の記載を、一体として整えることが重要になります。IT統制の実施状況を内部統制報告書でどのように説明するか。これは、財務諸表監査・内部統制監査・KAMの関係を踏まえた、実務上の検討事項です。
不正発覚後の再発防止策は、原因と統制不備に対応していなければならない
再発防止策は、開示上もよく記載される項目です。しかし、内部統制評価の観点から見たときに問われるのは、その再発防止策が「原因に対応しているか」という一点です。
たとえば、架空売上の原因が、取引先実在性確認の欠如やエンドユーザー確認不足にあったとします。そこで再発防止策として「コンプライアンス研修を実施する」とだけ記載しても、統制不備への対応としては不十分と言わざるを得ません。
| 原因 | 対応すべき再発防止策 |
|---|---|
| 権限集中 | 職務分掌、承認権限の見直し、ローテーション |
| 証憑依存 | 取引実態確認、取引先照会、入出金突合 |
| 例外処理の放置 | 例外リストの定期レビュー、上位者承認 |
| 子会社管理不備 | 子会社決算レビュー、内部監査、親会社承認 |
| 経営者関与 | 監査役等の監視強化、内部通報、取締役会報告 |
| IT権限不備 | アクセス権限、ログ監視、変更管理 |
| 見積り偏向 | 反証情報レビュー、第三者評価、事業計画承認 |
| 開示連携不足 | 開示委員会、論点管理表、法務・IR・経理連携 |
再発防止策を内部統制評価に反映する際は、設計しただけでは足りません。期末日時点で整備され、一定期間運用され、その運用結果を検証できるかどうかまで確認する必要があります。期末日の直前に規程だけを改訂したというケースでは、それだけで内部統制が有効になったとは評価しにくいことがあります。
不正・訂正局面で作成すべきJ-SOX影響分析メモ
会計不正や過年度訂正が発覚した場合、社内外への説明に耐えるためには、内部統制影響分析メモを作成しておくことが有効です。
最低限、次の構成で整理しておきたいところです。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 事案概要 | 発見経緯、対象取引、対象期間、対象会社、財務影響 |
| 会計上の整理 | 誤謬・不正の区分、会計処理、訂正対象書類 |
| 不正性の評価 | 意図性、隠蔽、共謀、経営者関与、内部通報 |
| 統制不備の特定 | どの統制が設計・運用上機能しなかったか |
| 統制階層 | 全社統制、業務プロセス統制、決算財務報告プロセス、IT統制 |
| 重要性判断 | 金額的重要性、質的重要性、潜在的影響額 |
| 評価範囲への影響 | 当初評価範囲の妥当性、追加評価、水平展開 |
| 過年度内部統制報告書 | 訂正要否、訂正理由、未記載理由 |
| 当期内部統制報告書 | 評価結果、付記事項、特記事項、是正状況 |
| 監査人協議 | 協議事項、提出資料、未解決論点 |
| 再発防止策 | 原因別対応、責任者、実施時期、運用検証 |
| 開示連携 | 適時開示、有報訂正、短信訂正、KAM、監査役等報告 |
このメモは、監査人向けの資料であると同時に、経営者・監査役等・開示担当・法務担当にとっての共通言語にもなります。とりわけ、過年度の内部統制報告書の訂正要否を検討する場面では、後から「なぜ当時有効と判断したのか」「なぜ今回訂正するのか」を説明できる資料が欠かせません。
IPO準備企業では、J-SOX文書化よりも「不正を発見できる運用」が先である
IPO準備企業では、J-SOX対応を文書化プロジェクトとして捉えてしまいがちです。フローチャート、業務記述書、RCM、規程類を整えることはもちろん必要ですが、それだけで内部統制が有効になるわけではありません。
IPO準備段階では、次のような不正リスクが顕在化しやすくなります。
| IPO準備企業に多いリスク | 内部統制上の論点 |
|---|---|
| 売上成長圧力 | 前倒し売上、架空売上、契約条件の不明確化 |
| 経営者権限集中 | 承認省略、例外処理、資金流用、関連当事者取引 |
| 経理人員不足 | 決算レビュー不足、注記漏れ、税効果・減損判断不足 |
| システム未整備 | Excel依存、アクセス権限不備、ログ未管理 |
| 子会社・海外拠点管理不足 | 連結パッケージ誤り、不正発見遅延 |
| 外部委託依存 | 委託先データ検証不足、給与・在庫・ポイントデータ誤り |
| 関連当事者取引 | 取引条件、承認、開示漏れ |
上場審査や監査対応では、文書が存在するかどうかだけでなく、統制が実際に運用され、不正又は誤謬を防止・発見できる状態にあるかが問われます。上場直前に形式的な文書化を行ったとしても、運用実績が乏しければ、監査上の説明力は限られたものにとどまります。
内部統制報告制度は、経営者・取締役会・監査役等の責任分担を明確にする制度である
内部統制は、経理部門だけの問題ではありません。
内部統制基準では、経営者は内部統制を整備・運用する役割と責任を有し、取締役会は内部統制の整備及び運用に係る基本方針を決定するとともに、経営者による内部統制の整備・運用を監督する責任を有するとされています。また、監査役等は独立した立場から内部統制の整備・運用状況を監視・検証する役割を担い、内部監査人はモニタリングの一環として内部統制の整備・運用状況を検討・評価し、改善を促す職務を担うものとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
会計不正が発覚した後は、この責任分担を曖昧にしないことが何より重要です。
| 関係者 | 不正発覚後に果たすべき役割 |
|---|---|
| 経営者 | 事実調査、影響額把握、内部統制評価、開示判断、再発防止 |
| 取締役会 | 調査体制承認、経営者対応の監督、再発防止策の承認 |
| 監査役等 | 独立した監視、監査人との連携、経営者関与の検討 |
| 経理部門 | 会計処理、訂正範囲、影響額、J-SOX評価資料 |
| 開示担当 | 適時開示、有報訂正、短信訂正、内部統制報告書記載 |
| 内部監査 | 統制不備調査、運用検証、水平展開、改善状況モニタリング |
| 法務・外部弁護士 | 法的責任、調査体制、取締役責任、開示リスク |
| 監査人 | 財務諸表監査、内部統制監査、追加手続、監査意見 |
内部統制報告制度は、経理部門のチェックリストではありません。会社として財務報告の信頼性をどのように守っているのかを、外部に示すための制度です。
まとめ|会計不正後のJ-SOX対応は「不備を隠す作業」ではなく、信頼を再構築する作業である
会計不正や過年度訂正が発覚した場合、内部統制報告制度への対応は避けて通れません。
ただし、その対応の目的は、形式的に「開示すべき重要な不備あり」「なし」を決めることにあるのではありません。虚偽表示がなぜ発生したのか。どの統制が機能しなかったのか。過去の内部統制評価は妥当だったのか。当期末までに是正されたのか。そして、投資者にどのように説明すべきか。これらを、後から検証可能な形で整理していくことにこそ意味があります。
有価証券報告書の訂正と内部統制報告書の訂正は、自動連動ではありません。しかし、訂正を要するほどの誤謬や不正があった以上、内部統制への影響を検討しないという選択肢もまた、ありません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計不正・過年度訂正・内部統制報告制度・適時開示・監査人協議に関する論点について、会計処理、訂正範囲、J-SOX評価、開示方針、再発防止策の整理まで、一体でご支援しています。過年度訂正や不適切会計の発覚後、内部統制報告書への影響を社内だけで判断することが難しいと感じられた場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 重要論点 | 実務上のポイント |
|---|---|
| J-SOXの対象 | 会社の業務全般ではなく、財務報告の信頼性を確保する内部統制が中心 |
| 会計不正との関係 | 不正発覚時は、会計処理だけでなく統制不備の有無を検討する |
| 開示すべき重要な不備 | 実際の訂正額だけでなく、潜在的影響額・質的重要性・発生可能性を考慮する |
| 有報訂正との関係 | 有報訂正と内部統制報告書訂正は自動連動ではないが、影響分析は必須 |
| 評価範囲 | 改訂J-SOXでは、評価範囲の決定理由をより説明可能にする必要がある |
| 経営者無効化 | 経営者関与が疑われる場合は、業務プロセスだけでなく全社統制を検討する |
| IT統制 | 障害発生だけでは不備とは限らないが、データ改ざん・権限不備・外部委託は重要論点 |
| 決算財務報告プロセス | 見積り、注記、連結、税効果、減損などの論点抽出・レビュー統制が重要 |
| KAMとの関係 | 開示すべき重要な不備とKAMは同一ではないが、監査・開示上は接続する |
| 再発防止策 | 原因と統制不備に対応した具体策でなければ、説明力が弱い |
| IPO準備企業 | 文書化よりも、不正・誤謬を防止又は発見できる運用実績が重要 |
| 相談前資料 | 事案概要、影響額、統制不備、評価範囲、訂正要否、再発防止策を整理する |