IFRSの原則主義と監査上の説明可能性|判断の根拠をどこまで整理すべきか

IFRSは、しばしば「原則主義」と説明されます。便利な言葉ではありますが、実務ではしばしば誤解も生みます。「細かいルールが少ない」「企業の判断に委ねられている」「日本基準より自由度が高い」といった理解に、流れてしまいがちだからです。

けれども、IFRSの原則主義は、結論を自由に選んでよいという意味ではありません。むしろ逆だと考えています。取引の実態、契約条件、経営者の判断、見積りの前提、利用可能な証拠、そして表示・開示への影響を踏まえたうえで、「なぜその結論が財務報告として妥当なのか」を説明する責任が重くなる。原則主義とは、そのように理解しておくべきものです。

実務で問われるのは、「IFRSでは判断が認められているか」ではありません。問われるのは、その先です。

  • なぜ、その取引単位で検討したのか
  • なぜ、その基準を適用したのか
  • なぜ、その会計処理を採用し、ほかの処理を採用しなかったのか
  • なぜ、その見積り前提が合理的といえるのか
  • なぜ、注記ではその程度の説明で足りるのか
  • なぜ、監査人が検証可能な証拠として評価できるのか

IFRS実務における「判断」とは、結論を選ぶことではありません。結論にたどり着くまでの根拠を、第三者が追跡できる形で整理していく作業のことです。

目次

原則主義は「ルールがない」という意味ではない

IFRSの原則主義を理解するうえで、まず確認しておきたいことがあります。IFRSにも、明確な基準、定義、認識要件、測定要求、表示・開示要求は存在する、ということです。

IFRS第15号は、収益認識について5ステップモデルを定めています。IFRS第16号は、リースの識別、借手の使用権資産・リース負債の認識、貸手会計を定めています。IFRS第9号は、金融商品の分類・測定、減損、ヘッジ会計を定めています。IAS第36号は減損テストの枠組みを、IFRS第3号は企業結合における取得法を、それぞれ定めています。

IFRSが原則主義であるということは、これらの基準が存在しない、という意味ではありません。基準の要求事項を取引の形式に機械的に当てはめるだけでは足りず、取引の実質、企業の管理方法、契約上の権利義務、将来の見積り、そして財務諸表利用者への説明を踏まえて適用する必要がある——そういう意味です。

たとえば収益認識では、契約、履行義務、取引価格、配分、収益認識時点を、順に検討していきます。これは単なる売上計上時点の問題ではありません。契約上の約束をどの単位で識別し、顧客への支配移転をどのように説明するか、という判断です。IFRS第15号でも、5つのステップを軸に、契約の識別、履行義務、取引価格、配分、履行義務の充足、そして開示までを、一連の流れとして検討していくことになります。

リースも同じです。契約の名称がリースかどうかではなく、特定された資産の使用を支配する権利が顧客に移転しているかどうかを検討します。IFRS第16号のリース識別では、特定された資産、代替権、使用から経済的便益を得る権利、使用を指図する権利といった要素を組み合わせて判断していきます。

原則主義は、基準が曖昧であることを意味しません。基準が示す原則を、取引実態に即して一貫して適用することを求める考え方です。

原則主義のもとでは、判断の余地よりも「説明責任」が大きくなる

IFRSで判断が必要となる場面では、会計処理の結論だけを示しても足りません。監査対応やレビューの場面では、次のような問いが返ってきます。

  • その事実認定は、何に基づいているのか
  • 契約条項のどこから、その権利義務を読み取ったのか
  • 経営者の意図は、取締役会資料、投資計画、予算、資金計画、リスク管理方針と整合しているか
  • 同種の取引に、同じ判断を適用しているか
  • 異なる処理を採らなかった理由は何か
  • 見積りの主要仮定は、過去実績や外部情報と整合しているか
  • 開示によって、財務諸表利用者が判断の内容を理解できるか

IFRS財団の概念フレームワークは、それ自体がIFRS基準ではなく、個別の基準に優先するものでもありません。その役割は、あくまで支援にあります。IASBが一貫した概念に基づいて基準を開発すること、基準が直接は適用されない取引等について作成者が一貫した会計方針を策定すること、そして関係者が基準を理解し解釈することを助けること。概念フレームワークは、こうした位置づけのものとされています。
出典:IFRS Foundation|Conceptual Framework for Financial Reporting

IAS第8号も、同じ方向を示しています。特定の取引等に直接適用されるIFRS基準があれば、その基準を適用する。直接適用される基準がなければ、経営者が判断により、目的適合性と信頼性のある情報をもたらす会計方針を策定する。その際に参照するのは、類似・関連するIFRS基準の要求事項やガイダンス、そして概念フレームワークにおける資産・負債・収益・費用の定義、認識基準、測定概念です。
出典:IFRS Foundation|IAS 8 Basis of Preparation of Financial Statements

つまり、IFRSの原則主義は、「基準に書いていないから自由に決めてよい」という発想ではありません。直接適用される基準、類似する基準、概念フレームワーク、財務報告の目的を順に確認し、結論を説明可能な形で組み立てることを求めているのです。

監査上の説明可能性とは何か

監査上の説明可能性とは、監査人を説得するための言い回しを整えることではありません。

監査上の説明可能性とは、経営者が行った会計判断について、監査人が十分かつ適切な監査証拠を入手し、合理的な結論を形成できる状態にすることです。

ISA 500「監査証拠」は、監査人が監査意見の基礎となる合理的な結論を導くために、十分かつ適切な監査証拠を入手できるよう、監査手続を設計・実施する責任を扱っています。そして監査証拠には、財務諸表の基礎となる会計記録に含まれる情報と、その他の情報源から入手した情報の双方が含まれるとされています。
出典:IAASB|International Standard on Auditing 500, Audit Evidence

ここで大切なのは、監査証拠が「会計仕訳の根拠資料」に限られないことです。契約書、取締役会資料、稟議書、見積りモデル、外部評価書、事業計画、資金繰り表、顧客との合意文書、リスク管理方針、内部統制の承認記録、システムから抽出されたデータ、専門家の見解。論点によっては、これらがいずれも重要な証拠になり得ます。

IFRSの判断を監査上説明可能にするためには、会計処理の結論だけでなく、結論に至った判断過程と、その判断を裏づける証拠が必要になります。

「判断」と「見積り」は分けて説明する

IFRS実務でよく混同されるのが、「判断」と「見積り」です。

判断とは、基準を適用する過程で、分類、認識単位、適用基準、処理方法を決めることです。たとえば、次のようなものです。

  • 契約にリースが含まれるか
  • 本人か、代理人か
  • 履行義務をどの単位で識別するか
  • 金融資産を、償却原価・FVOCI・FVTPLのいずれに分類するか
  • 投資先を支配しているか
  • 企業結合か、資産取得か
  • 金融商品を、負債とするか、資本とするか

一方、見積りとは、不確実な情報に基づいて金額を測定することです。こちらは、たとえば次のようなものです。

  • 減損テストにおける将来キャッシュ・フロー
  • ECLにおけるPD、LGD、EAD、将来予測情報
  • 公正価値測定における割引率、成長率、観察不能インプット
  • 繰延税金資産の回収可能性
  • 引当金の最善の見積り
  • 退職給付債務の割引率、昇給率、死亡率

会計上の見積りは、将来事象の結果に依存するため金額を確定できない場合や、すでに発生している事象であっても金額を確定する情報が不足している場合に行われます。見積りには経営者の仮定や不確実性が含まれるため、監査上も重要な論点になりやすいものです。見積額と実績の乖離が生じた場合には、その原因が、見積時点で考慮すべき情報の不足によるものか、それとも過度に楽観的な仮定によるものかを、慎重に検討する必要があります。

IAS第1号は、経営者が会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に認識された金額に最も重要な影響を与えるものを、重要な会計方針またはその他の注記とともに開示することを求めています。
出典:IFRS Foundation|IAS 1 Presentation of Financial Statements

したがって監査対応資料では、判断と見積りを混ぜないことが大切です。判断論点では、事実認定、適用基準、代替案、採用した結論を整理する。見積り論点では、モデル、データ、主要仮定、外部証拠、感応度、過年度実績との比較を整理する。この切り分けが、説明の見通しを大きく左右します。

原則主義の実務で問題になる「説明不足」

IFRSの監査対応で論点になりやすいのは、会計処理の結論そのものよりも、説明不足のほうです。

たとえば、次のような説明は、形式上はもっともらしく見えても、監査上は不十分になりやすいものです。

  • 「IFRSでは原則主義なので、当社判断で処理した」
  • 「重要性がないため、詳細検討していない」
  • 「従来から同じ処理をしている」
  • 「監査法人と過去に協議済みである」
  • 「契約名が業務委託なので、リースではない」
  • 「経営者が売却する意図なので、売却目的保有とした」
  • 「事業計画に基づくため、減損は不要である」
  • 「外部評価書があるため、公正価値は妥当である」

これらの説明に欠けているのは、結論に至る分析です。

重要性がないというのであれば、定量面だけでなく、定性面、財務諸表利用者への影響、注記への影響まで確認する必要があります。契約名ではなく、契約上の権利義務と実質を見る必要があります。経営者の意図だけでなく、承認状況、実行可能性、過去の行動、外部との交渉状況を確認する必要があります。外部評価書がある場合でも、評価目的、基準日、評価手法、インプット、前提条件、そして会社側の事業計画との整合を検討する必要があります。

原則主義のもとで求められるのは、結論の主張ではありません。結論に至る道筋の検証可能性です。

監査上説明可能なIFRS判断に必要な6つの要素

IFRSの判断を監査上説明可能にするには、少なくとも次の6つの要素を整理しておく必要があります。

1. 事実認定

最初に必要なのは、会計基準の検討ではなく、事実認定です。

  • 取引の当事者は誰か
  • 契約上、どのような権利と義務があるか
  • 契約期間、更新条件、解除条件、価格調整条項、支払条件はどうなっているか
  • 経営者は、どのような目的で取引を行ったか
  • 取締役会、稟議、予算、事業計画では、どのように説明されているか
  • 関連する取引や契約を、一体で見る必要があるか

IFRS実務では、事実認定が曖昧なまま基準を当てはめると、後から結論が崩れます。とくに収益認識、リース、企業結合、金融商品、引当金では、契約上の権利義務を正確に把握しておかなければ、会計処理の入口を誤ってしまいます。

2. 適用基準と検討範囲

次に、どのIFRS基準を適用するかを整理します。

同じ取引に複数の基準が関係することは、珍しくありません。たとえばリース契約には、IFRS第16号だけでなく、サービス部分についてIFRS第15号、リース負債について金融商品開示、使用権資産について減損、資産除去義務についてIAS第37号が関係することがあります。

企業結合であれば、IFRS第3号、IFRS第10号、IFRS第13号、IAS第12号、IAS第36号、IAS第38号などが同時に関係します。企業結合では、企業結合に該当するかどうか、取得法の適用、測定期間、取引の一部かどうか、認識・測定の例外、分類・指定、表示・開示といった論点が、連続する形で立ち現れます。

適用基準を誤ると、後続の認識、測定、表示、開示が、すべてずれていきます。監査対応資料では、まず適用基準の入口を明確にしておく必要があります。

3. 判断の分岐点

IFRSの判断では、どこで結論が分かれるのかを、明確にしておく必要があります。

たとえばリース識別では、特定された資産があるか、供給者に実質的な代替権があるか、顧客が使用を指図する権利を持つか、が分岐点になります。

金融資産の分類では、事業モデルと契約上のキャッシュ・フロー特性が分岐点になります。金融商品でも、金融商品の定義、契約、偶発的な権利義務、非金融資産・非金融負債との比較、デリバティブ、適用除外といった入口段階の判断を、一つひとつ細かく詰めていく必要があります。

ヘッジ会計では、リスク管理目的、公式な指定と文書化、ヘッジ有効性、ヘッジ対象・ヘッジ手段の適格性が分岐点になります。IFRS第9号のヘッジ会計では、公式な指定と文書化、経済的関係、信用リスクの影響、ヘッジ比率、ヘッジ非有効部分などが中心的な論点になります。

判断の分岐点を示さずに結論だけを記載すると、監査人は、代替案を検討したかどうかを確認できません。監査上説明可能な資料では、「どこで判断が分かれ、その分岐についてどの証拠を確認したか」を、明示しておく必要があります。

4. 代替案と採用しなかった理由

IFRSの判断では、採用した結論だけでなく、採用しなかった処理の理由も重要になります。

たとえば、本人・代理人の判断で本人と結論づけたのであれば、代理人処理ではない理由を説明する必要があります。リースであれば、サービス契約として処理しない理由を説明する必要があります。企業結合であれば、資産取得ではなく企業結合と判断した理由、あるいはその逆を説明する必要があります。

この説明がないと、結論は一方的な主張に見えてしまいます。

監査上の説明可能性を高めるには、次の形で整理しておくと有効です。

  • 検討した処理案
  • 各処理案を支持する要素
  • 各処理案と矛盾する要素
  • 採用した結論
  • 採用しなかった処理の理由
  • 未解決の不確実性と、今後の確認事項

IFRS実務では、結論そのものよりも、代替案を検討した形跡が重要になることがあります。反証可能性のある資料ほど、監査上のレビューに耐えやすくなります。

5. 見積り前提と証拠

見積り論点では、前提と証拠が中心になります。

減損であれば、事業計画、成長率、割引率、資金生成単位、共用資産、のれん配分、感応度を整理します。ECLであれば、信用リスクの著しい増大、デフォルト定義、PD、LGD、EAD、将来予測情報、複数シナリオ、集合評価を整理します。金融資産の減損では、信用リスクの著しい増大の判定、デフォルトの定義、PD、関連情報、定性的評価・定量的評価が中心的な論点になります。

公正価値測定では、市場参加者、秩序ある取引、主要な市場または最も有利な市場、評価技法、インプット、レベル分類を整理します。実際には、測定対象、会計処理単位、市場参加者、出口価格、取引コスト、最有効使用、負債の不履行リスク、そしてマーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチを、体系的に検討していくことになります。

見積りでは、経営者の見解だけでは足りません。過去実績、外部市場データ、第三者評価、契約情報、専門家の見解、予算承認、事後検証、内部統制の承認記録を組み合わせて、前提の合理性を説明する必要があります。

6. 表示・開示への反映

最後に、表示・開示への反映を整理します。

IFRSの判断は、会計処理で終わりません。重要な会計方針、会計方針を適用する過程で行った重要な判断、見積りの不確実性、そして個別基準ごとの注記要求に、それぞれどう反映されるかを確認する必要があります。

IFRSの開示は、範囲が広く、体系的です。財務諸表の構成、適正表示、継続企業、発生主義、重要性と集約、相殺、比較情報、表示の継続性、財政状態計算書、包括利益計算書、持分変動計算書、キャッシュ・フロー計算書、注記、会計方針・見積り・誤謬、そして個別基準ごとの表示・開示。これらが、一つのつながりとして整理されています。

監査対応資料では、会計処理の結論だけでなく、注記にどのように反映するかまで示す必要があります。とくに判断事項と見積事項は、注記上の開示要求と直接つながっています。

「重要性がない」という説明にも根拠が必要である

IFRS実務では、重要性を理由に、詳細検討や注記を省略する場面があります。重要性判断は、実務上たしかに必要です。しかし、「重要性がない」とだけ記載して終わらせると、監査上の説明としては弱くなってしまいます。

重要性判断では、定量面だけでなく、定性面も確認する必要があります。

  • 金額的重要性はどの程度か
  • 主要な財務指標やKPIに影響するか
  • 契約条項や財務制限条項に影響するか
  • 経営者の説明や、資本市場へのメッセージと関係するか
  • 同種取引が、今後増える可能性があるか
  • 不正リスクや経営者バイアスと関係するか
  • 注記で省略した場合、利用者の理解を妨げないか

重要性は、判断を省略するための言葉ではありません。どこまで検討し、どこまで開示するかを決めるための、判断基準です。

原則主義のもとで内部統制が重要になる理由

IFRSの原則主義では、個別の判断が増えます。そのため、担当者個人の知識や経験だけに依存すると、処理が不安定になりがちです。

  • 同じような契約でも、担当者や時期によって、異なる判断が行われる
  • 見積り前提の承認プロセスが、不明確になる
  • 注記作成時に、判断事項が漏れる
  • 監査対応資料が、担当者の属人的なメモにとどまる
  • 過年度の判断を、再現できない
  • 新基準対応時に、影響範囲を把握できない

こうした問題を避けるには、IFRS判断を内部統制に組み込む必要があります。

具体的には、契約レビュー、会計論点の識別、会計方針の承認、見積り前提の承認、専門家利用、開示レビュー、監査人協議、子会社報告、基準改定対応を、決算プロセスの中で管理していくことになります。

原則主義が求めるのは、属人的な裁量ではありません。統制された判断プロセスです。

監査対応資料に含めるべき基本構成

IFRSの論点整理メモやポジションペーパーでは、次の構成で整理しておくと、監査上の説明可能性が高まります。

項目整理すべき内容
取引概要取引目的、当事者、契約構造、関連取引、経営判断の背景
関連資料契約書、稟議書、取締役会資料、事業計画、外部評価書、専門家見解
適用基準直接適用されるIFRS基準、関連基準、類似基準、概念フレームワーク
論点認識、測定、分類、表示、開示、見積り、内部統制上の論点
判断の分岐検討した代替案、採用案、採用しなかった理由
見積り前提モデル、データ、主要仮定、外部情報、感応度、過去実績との比較
会計処理仕訳、表示科目、損益・OCI・資本への影響
開示影響会計方針、重要な判断、見積り不確実性、個別基準注記
監査証拠監査人が検証可能な証拠、未入手資料、追加対応事項
今後の管理条件変更、見積り更新、基準改定、翌期以降のモニタリング

この構成にすると、会計処理、表示・開示、監査対応を分断せず、一つの判断プロセスとして整理できます。

説明可能な判断は、経営判断にも資する

IFRSの判断を監査対応のためだけに整理していると、どうしても決算作業の後処理になりがちです。しかし実際には、説明可能なIFRS判断は、経営判断そのものにも役立ちます。

  • 収益認識の判断は、契約設計、価格設定、KPI設計に影響します
  • リース判断は、資産負債、EBITDA、ROA、財務制限条項に影響します
  • 金融商品分類は、投資方針、資金調達、リスク管理に影響します
  • 減損判断は、事業計画、投資継続、撤退判断に影響します
  • 企業結合判断は、買収価格、PPA、のれん、将来減損リスクに影響します
  • 税効果判断は、将来課税所得、税務戦略、海外子会社管理に影響します

IFRSの判断を早い段階で整理しておけば、契約締結後や決算直前に、会計処理で問題が顕在化するリスクを抑えられます。逆に、会計論点を後回しにすると、すでに締結済みの契約、実行済みのM&A、承認済みの事業計画について、後から説明が難しくなることがあります。

原則主義への対応は、決算担当者だけの課題ではありません。契約、財務、税務、経営企画、M&A、海外子会社管理、内部監査、監査役等との連携が必要な領域です。

専門家に相談すべきタイミング

IFRSのすべての判断に、外部専門家が必要なわけではありません。定型的な処理や、過年度から継続している軽微な論点であれば、社内で十分に対応できる場合もあります。

一方で、次のような場合には、早い段階で専門家を交えて整理する価値があります。

  • 複数のIFRS基準が、同時に関係する
  • 契約条件が、会計処理に大きく影響する
  • 判断と見積りが、混在している
  • 監査人との協議で、見解差が生じている
  • 注記で、重要な判断または見積りの不確実性を説明する必要がある
  • M&A、組織再編、海外子会社、グループ内取引が関係する
  • 外部評価書や専門家の見解を、会計上どのように利用するか判断が必要である
  • 過年度の処理を変更すべきか、誤謬に該当するかが問題になる
  • 新基準対応や、会計方針の更新が必要である

相談すべきタイミングは、監査で指摘を受けた後ではありません。取引の設計段階、契約締結前、M&A実行前、決算方針を確定する前です。早い段階で論点を整理しておけば、会計処理、証拠、開示、内部統制を、一体で設計できます。

まとめ:原則主義とは、説明に耐える判断を積み上げることである

IFRSの原則主義は、自由な裁量ではありません。

基準本文、概念フレームワーク、取引実態、契約条件、経営者の判断、見積り前提、監査証拠、表示・開示を結びつけ、第三者が追跡できる形で結論を整理していく実務です。

監査上の説明可能性を高めるには、結論だけでは足りません。事実認定、適用基準、判断の分岐点、代替案、採用しなかった理由、見積り前提、証拠、そして開示への反映まで、一貫して整理する必要があります。

IFRS実務で重要なのは、「基準にこう書いてある」と言えることではありません。

  • なぜ、その取引にその基準を適用するのか
  • なぜ、その判断が企業の実態を忠実に表すのか
  • なぜ、その見積り前提が合理的なのか
  • なぜ、その開示で財務諸表利用者に十分伝わるのか
  • なぜ、監査人が検証可能な証拠に基づいて結論を評価できるのか

これらの問いに答えられる状態にしておくこと。それが、IFRSの原則主義に対応するということです。

IFRSの会計判断、監査対応資料、会計ポジションペーパー、見積り前提、表示・開示への反映について整理が必要な場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。取引実態、契約条件、適用基準、監査上の争点を踏まえ、説明可能な財務報告判断として整理すべき論点を確認いたします。

出典・参照情報

振り返り

項目実務上のポイント
原則主義の意味自由な裁量ではなく、取引実態に即して基準を適用し、判断根拠を説明する責任が重いということ。
監査上の説明可能性監査人が十分かつ適切な監査証拠に基づき、合理的な結論を形成できる状態にすること。
判断と見積りの区分判断は分類・処理・認識単位の決定、見積りは不確実な情報に基づく金額測定として分けて整理する。
事実認定契約、取引目的、権利義務、経営者の意思決定、関連取引を確認する。
適用基準直接適用される基準、関連基準、類似基準、概念フレームワークの順で整理する。
判断の分岐点結論が分かれる論点を明確にし、各分岐を支持・否定する証拠を整理する。
代替案採用した処理だけでなく、採用しなかった処理の理由も示す。
見積り前提モデル、データ、主要仮定、外部情報、感応度、過年度実績との比較を整理する。
表示・開示会計処理の後処理ではなく、判断と見積りを財務諸表利用者に伝えるための設計として扱う。
内部統制IFRS判断を担当者個人に依存させず、契約レビュー、会計方針承認、見積り承認、開示レビューに組み込む。
専門家相談のタイミング監査指摘後ではなく、契約締結前、M&A実行前、決算方針確定前に相談する方が有効である。
実務の結論IFRSの原則主義に対応するとは、説明に耐える判断を、証拠と開示まで含めて積み上げることである。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次