IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」において、履行義務の識別は、収益認識の実務判断の中核に位置します。
顧客との契約を識別したら、次に問うべきことは二つです。企業は顧客に対して何を約束しているのか。そして、その約束をどの単位で収益として認識すべきなのか。
収益認識の議論では、どうしても売上計上の時点や取引価格に関心が集まります。しかし、収益を「いつ」「いくら」認識するかは、そもそも履行義務をどの単位で識別するかによって大きく変わってきます。
たとえ契約金額が同じであっても、契約全体を一つの履行義務と見るのか、それとも製品、導入支援、保守、アップデート、保証、追加購入権などを別々の履行義務として識別するのかで、結論は変わります。収益認識の時期も金額も、契約資産・契約負債も、注記も、監査対応も、そのすべてが動くのです。
IFRS第15号の5ステップモデルでは、ステップ1で顧客との契約を識別し、ステップ2で契約における履行義務を識別します。IFRS財団は、履行義務を「別個の財又はサービスを顧客に移転する約束」と位置づけたうえで、取引価格の算定、履行義務への配分、履行義務充足時の収益認識へと進む構造を示しています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
本稿では、ステップ2にあたる「履行義務の識別」と「別個の財又はサービス」について整理します。基準上の考え方にとどまらず、契約レビュー、会計判断、監査説明、そして開示への接続までを視野に入れて見ていきます。
履行義務の識別は、収益認識の「単位」を決める判断である
履行義務とは、企業が顧客に財又はサービスを移転する約束です。
IFRS第15号では、契約開始時に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価します。そのうえで、次のいずれかを顧客に移転する約束を、履行義務として識別します。
| 履行義務として識別する約束 | 内容 |
|---|---|
| 別個の財又はサービス | 単独の財又はサービス、又は別個の財又はサービスの束 |
| 一連の別個の財又はサービス | 実質的に同一で、顧客への移転パターンが同じ一連の財又はサービス |
IFRS第15号は、契約開始時に契約上約束された財又はサービスを評価し、別個の財又はサービス、又は実質的に同一で同じ移転パターンを有する一連の別個の財又はサービスを、履行義務として識別することを求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
この作業は、単なる契約の分解ではありません。
履行義務は、収益認識における会計単位そのものです。取引価格は履行義務ごとに配分され、収益は履行義務が充足された時、又は充足されるにつれて認識されます。だからこそ、履行義務の識別を誤れば、収益認識の時期、売上総利益率、契約資産・契約負債、そして注記情報まで、連鎖的に誤ってしまうおそれがあります。
実務の観点から整理しても、ステップ2の中心にあるのは、契約における履行義務の識別、顧客との契約に含まれる約束、別個の財又はサービスの移転、そして一連の別個の財又はサービスという論点です。
まず、契約上の「約束」を漏れなく識別する
履行義務を識別するには、その前に、契約に含まれる約束を把握しておく必要があります。
ここでいう約束は、契約書に明示された条項だけを指すのではありません。IFRS第15号のもとでは、企業の取引慣行、公表済みの方針、具体的な声明などによって、契約締結時に顧客が財又はサービスの移転を期待する合理的な根拠が生じている場合、黙示的な約束も履行義務に含まれます。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
この点は、実務では思いのほか重くのしかかります。
契約書だけを眺めれば、販売対象は製品又はサービスだけに見えることがあります。しかし実際には、次のような約束が含まれている場合が少なくありません。
| 契約上又は実務上の約束 | 履行義務の検討上の視点 |
|---|---|
| 導入支援、初期設定、セットアップ | 顧客に別個のサービスを移転しているか、単なる契約履行活動か |
| 保守、サポート、アップデート | 製品本体と別個のサービスか、製品を機能させるための一体的な約束か |
| 標準保証、延長保証 | アシュアランス型か、サービス型保証か |
| ポイント、クーポン、更新権 | 顧客に重要な権利を付与しているか |
| 配送、取扱い、設置 | 顧客が支配を獲得する前後のどちらの活動か、別個のサービスか |
| ライセンス、アクセス権、利用権 | 他の財又はサービスと別個か、一体的なアウトプットか |
| 顧客の顧客に対するサービス | 契約相手以外への移転を約束しているか |
| 待機義務 | 顧客が要求した時に財又はサービスを提供可能な状態を維持する約束か |
履行義務の識別で最初に避けたいのは、契約書の見出しや請求項目だけで判断してしまうことです。
請求書の上では「初期費用」「ライセンス料」「保守料」「月額利用料」と分かれていても、会計上の履行義務がその区分と一致するとは限りません。逆に、請求書では一括料金であっても、会計上は複数の履行義務を識別し、取引価格を配分すべき場合もあります。
契約履行活動は、顧客に財又はサービスを移転しなければ履行義務ではない
契約を履行するために企業が行う活動であっても、それ自体が顧客に財又はサービスを移転しないのであれば、その活動は履行義務にはなりません。
IFRS第15号は、契約を履行するために企業が実施しなければならない活動であっても、その活動によって顧客に財又はサービスが移転しない場合には、履行義務に含めないとしています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
ASBJの収益認識適用指針でも、契約を履行するための活動は、その活動により財又はサービスが顧客に移転する場合を除き、履行義務ではないと整理されています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
この考え方は、初期費用、セットアップ活動、契約管理活動といった場面でとくに問題になります。
企業は、契約開始時に、顧客登録、社内設定、環境構築、契約管理、プロジェクト準備、社内教育、システム設定などを行うことがあります。しかし、それらの活動が顧客に独立した財又はサービスを移転していないのであれば、活動それ自体は履行義務ではありません。
このとき、受け取った初期費用を活動の実施時点で収益認識するのではなく、将来の財又はサービスに対する前払いとして扱う可能性が出てきます。返金不能の前払報酬についても、考え方は同じです。契約開始時やその前後に行う活動が顧客への財又はサービスの移転をもたらさないのであれば、その活動は履行義務ではなく、前払報酬は将来の財又はサービスに対する前払いとして整理することになります。
実務で確認すべきは、次の問いに尽きます。
その活動を企業が行うことで、顧客は何かを受け取っているか。
受け取っているものが、顧客にとって利用、消費、販売、保有、あるいは経済的便益を生じさせる財又はサービスであれば、それは履行義務になり得ます。反対に、企業が契約を履行するための内部準備をしているだけであれば、履行義務ではありません。
「別個の財又はサービス」は2つの要件で判断する
IFRS第15号では、約束された財又はサービスが「別個」であるといえるためには、次の2つの要件をいずれも満たす必要があります。
| 要件 | 判断内容 |
|---|---|
| その財又はサービスから顧客が便益を得ることができる | 単独で、又は顧客が容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得られるか |
| 契約の観点から区分して識別可能である | 企業の約束の性質が、個々の財又はサービスを移転するものか、結合後のアウトプットを移転するものか |
IFRS第15号は、約束された財又はサービスが別個であるためには、顧客がその財又はサービスから単独で、又は容易に利用可能な他の資源とともに便益を得られること、かつ、その財又はサービスを移転する企業の約束が契約における他の約束と区分して識別可能であることを求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
この2要件は、一見似ていますが、担う役割が違います。
第1の要件は、財又はサービスそれ自体が便益を生み得るか、という視点です。第2の要件は、契約全体のなかで、その財又はサービスを他の約束から切り離して見ることができるか、という視点です。
したがって、ある財又はサービスが単独で販売できるものであっても、契約のなかでは他の財又はサービスと一体となって顧客が契約したアウトプットを構成している――そうした場合には、別個とはいえないことがあります。
第1要件:顧客が財又はサービスから便益を得ることができるか
第1要件では、顧客がその財又はサービスから便益を得られるかどうかを判断します。
IFRS第15号では、顧客が財又はサービスを使用、消費、売却、保有するなどして経済的便益を得られる場合、その財又はサービスから便益を得ることができるとされています。顧客がすでに保有している資源や、市場で容易に入手できる資源と組み合わせて便益を得られる場合も、ここに含まれます。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
実務では、次の観点から検討していきます。
| 確認観点 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 単独利用可能性 | 顧客がその財又はサービスを単独で使用又は消費できるか |
| 市場での販売実績 | 企業又は他社が当該財又はサービスを単独で販売しているか |
| 顧客保有資源との組合せ | 顧客が既に保有する設備、システム、ライセンス、人員等と組み合わせて利用できるか |
| 他社資源との組合せ | 市場で容易に入手できる他のサービス等と組み合わせて便益を得られるか |
| 廃棄又は転売可能性 | 廃棄価値を超える金額で売却できるか、又は保有することで経済的便益を得られるか |
この要件では、「その企業が単独で販売しているか」が有力な手がかりになります。ただし、それだけで結論が決まるわけではありません。
あるサービスを企業自身が単独販売していなくても、他社が同様のサービスを提供しており、顧客がそれを利用できるのであれば、顧客は便益を得られると判断される余地があります。逆に、顧客がその財又はサービスを他の特定の財又はサービスなしには利用できないのであれば、第1要件を満たさないこともあります。
第2要件:契約の観点から区分して識別可能か
第2要件では、契約全体のなかで、企業の約束が個々の財又はサービスを移転するものなのか、それとも複数の財又はサービスをインプットとして使い、結合後のアウトプットを移転するものなのかを見極めます。
IFRS第15号は、契約の観点から区分して識別可能かを判断する目的を、次のように示しています。すなわち、企業の約束の性質が、個々の財又はサービスを移転するものか、それとも約束された財又はサービスをインプットとして使用した結合後のアウトプットを移転するものかを判断することにある、というものです。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
区分して識別できないことを示す要因として、IFRS第15号は、統合サービス、重要な修正又はカスタマイズ、高い相互依存性又は相互関連性を挙げています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
ASBJの収益認識適用指針も、財又はサービスを顧客に移転する約束が契約に含まれる他の約束と区分して識別できるかを判定する際には、その約束の性質が、個々の財又はサービスを移転するものか、結合後のアウトプットを移転するものかを判断すると整理しています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
ここで問われているのは、契約全体の目的です。
顧客が契約したのは、個々の部品、ライセンス、作業、設定、保守を、それぞれ別々に受け取ることなのか。それとも、それらを組み合わせた一体的なアウトプットを受け取ることなのか。
この見極めを誤ると、本来は複数の履行義務に分けるべき契約を一括で収益認識してしまったり、一体として処理すべき契約を過度に分解してしまったりすることになります。
区分して識別できないことを示す3つの要因
契約の観点から区分して識別できないことを示す主な要因は、次の3つです。
| 要因 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 重要な統合サービス | 複数の財又はサービスを統合して、顧客が契約した結合後のアウトプットを提供している |
| 重要な修正又はカスタマイズ | ある財又はサービスが他の財又はサービスを著しく修正又は顧客仕様化している |
| 高い相互依存性又は相互関連性 | それぞれの財又はサービスが他の財又はサービスから著しく影響を受け、独立して履行できない |
ASBJの収益認識適用指針も、複数の約束が区分して識別できないことを示す要因として、重要な統合サービス、著しい修正又は顧客仕様化、高い相互依存性又は相互関連性を挙げています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
重要な統合サービス
複数の財又はサービスを企業が統合し、顧客が契約した結合後のアウトプットを提供している場合、個々の財又はサービスは区分して識別できないことがあります。
このとき、企業の約束の本質は、個別の要素をそれぞれ渡すことにあるのではありません。統合された成果物を提供することにあります。
監査対応の場面では、次のような事実を確認していきます。
- 契約上、顧客が求めている成果物は何か
- 企業が全体設計、統合、調整、管理責任を負っているか
- 個別要素が単独で顧客に意味のある便益を提供するか
- 顧客は個々の要素ではなく、統合後のアウトプットを検収しているか
- 価格交渉、契約管理、納品、検収が一体として行われているか
統合サービスが重要である場合には、契約書の上で複数の項目が列挙されていても、会計上は単一の履行義務として処理されることがあります。
重要な修正又はカスタマイズ
ある財又はサービスが、他の財又はサービスを著しく修正し、又は顧客仕様のものにしている場合にも、区分して識別できないことがあります。
たとえば、標準的なソフトウェア、装置、システム、部品、ライセンスが提供されるとします。それに重要なカスタマイズや修正を加えることで初めて、顧客が契約した機能が果たされる。こうした場合には、標準品とカスタマイズサービスを別個に識別することが、必ずしも適切とはいえません。
判断の中心にあるのは、顧客が受け取るものが、標準的な財又はサービスと追加作業の組合せなのか、それとも顧客仕様に作り込まれた一体的な成果物なのか、という点です。
高い相互依存性又は相互関連性
複数の財又はサービスが高く相互依存し、又は相互関連している場合、それぞれを別個の履行義務として識別できないことがあります。
ここで問われるのは、単に関連しているかどうかではありません。多くの複合契約では、財又はサービスは何らかの意味で関連し合っています。むしろ重要なのは、一方を移転する約束が、他方を移転する約束によって著しく影響を受けるかどうかです。
実務では、次の点を確認します。
- 企業は各財又はサービスを独立して履行できるか
- 一方の不履行が他方の価値や機能を著しく損なうか
- 顧客は一方だけを受け取っても契約目的を達成できるか
- 複数要素の設計、納品、検収、料金設定が相互に連動しているか
- 契約変更時に一方だけを切り離して変更できるか
高い相互依存性がある場合、個別の項目ごとに収益認識してしまうと、企業の履行実態を忠実に描き出せないおそれがあります。
別個でない場合は、別個の束になるまで結合する
約束した財又はサービスが別個でない場合、企業はその財又はサービスを他の約束した財又はサービスと結合します。別個の財又はサービスの束が識別できるところまで、結合を続けます。
IFRS第15号は、約束した財又はサービスが別個でない場合、その財又はサービスを他の約束した財又はサービスと結合し、別個の財又はサービスの束を識別するまで結合することを求めています。場合によっては、契約上約束されたすべての財又はサービスが、単一の履行義務として会計処理されます。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
この考え方は、実務で見落とせません。
履行義務の識別は、「すべてを細かく分解する」作業ではないからです。あくまで、顧客への移転を忠実に描写する会計単位を見つける作業です。
したがって、契約に複数の要素が含まれていても、個々の要素が別個でなければ、それらを結合して一つの履行義務とします。一方で、複数の要素がそれぞれ別個であれば、別々の履行義務として識別します。
一連の別個の財又はサービスは、単一の履行義務として扱う
IFRS第15号では、一連の別個の財又はサービスが、実質的に同一で、かつ顧客への移転パターンも同じ場合には、これを単一の履行義務として識別します。
移転パターンが同じであるといえるためには、各別個の財又はサービスが一定期間にわたり充足される履行義務の要件を満たし、かつ進捗度の測定に同じ方法が用いられる必要があります。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
これは、実質的に同じサービスを継続的に提供する契約で重要になる考え方です。
たとえば、日々又は月々のサービス、待機サービス、継続的なアクセス、継続的な処理、一定期間にわたるアウトソーシングなどが挙げられます。こうした契約では、個々の日次サービス又は月次サービスがそれぞれ別個であっても、全体を単一の履行義務として扱うことがあります。
この一連の別個の財又はサービスという概念は、収益認識モデルを単純化するためのものだと理解しています。実質的に同一の財又はサービスを一定期間にわたり連続的に提供する取引について、首尾一貫した形で履行義務を識別できるようにする仕組みだからです。そして、要件に該当する場合、これは任意の選択ではありません。単一の履行義務として扱う必要があります。
ここで注意したいのは、単一の履行義務として扱うことと、財又はサービスが「別個ではない」ことは、同じではないという点です。
一連の財又はサービスは、個々には別個です。それでも、実質的に同一で同じ移転パターンを有するために、収益認識の上では単一の履行義務として扱う、ということなのです。
黙示的約束は、契約書に書かれていなくても履行義務になり得る
履行義務の識別では、明示的な契約条項だけでなく、黙示的な約束にも目を向けておく必要があります。
顧客が契約締結の時点で、企業が特定の財又はサービスを移転すると合理的に期待している。その期待を生じさせた取引慣行、公表方針、具体的な説明が、履行義務の根拠になることがあるからです。
実務で黙示的約束が問題になりやすいのは、次のような場面です。
| 領域 | 黙示的約束として検討すべき事項 |
|---|---|
| ソフトウェア・クラウド | 無償アップデート、継続サポート、移行支援、障害対応 |
| 製品販売 | 無償保守、技術サポート、顧客教育、付属サービス |
| 会員制サービス | 初期登録後の継続利用権、会員限定サービス、更新特典 |
| 製造・建設 | 調整、検査、引渡後対応、初期不具合対応 |
| 小売・ポイント制度 | ポイント、クーポン、将来値引、返品・交換慣行 |
黙示的約束を見落とすと、取引価格を本来識別すべき履行義務に配分せず、収益を早期に認識してしまうおそれがあります。
そのため監査対応では、契約書だけでなく、販売資料、提案書、ウェブサイト、営業資料、約款、過去の対応実績、顧客説明資料、サポートポリシーなども確認しておく必要があります。
保証は、アシュアランス型かサービス型かを判断する
製品保証は、履行義務の識別のなかでも、実務上迷いやすい領域です。
IFRS第15号では、保証の性質を大きく2つに分けて考えます。
| 保証の種類 | 会計上の考え方 |
|---|---|
| アシュアランス型保証 | 製品が合意された仕様どおりに機能することを保証するものであり、通常はIAS第37号等に従って引当金として処理する |
| サービス型保証 | 製品の仕様適合保証を超えて、追加的なサービスを顧客に提供するものであり、履行義務として識別する |
IFRS第15号は、顧客が保証を別途購入するオプションを有する場合、その保証は別個のサービスであり、履行義務として処理するとしています。また、顧客が保証を別途購入できない場合であっても、保証又はその一部が仕様適合の保証を超えたサービスを提供しているのであれば、そのサービス部分は履行義務となります。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
保証が追加的なサービスを提供しているかどうかを判断する際の要因として、IFRS第15号は、法律で要求されているか、保証期間の長さ、企業が履行を約束している作業の性質を挙げています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
実務では、顧客が保証を独立して購入できる場合、その保証を独立した履行義務として会計処理します。取引価格の一部を保証に配分し、保証期間にわたって収益を認識していきます。反対に、標準保証と追加の延長保証サービスを合理的に区別できない場合には、両者をまとめて単一の履行義務として処理することになります。
実務で確認すべきは、次の点です。
- 保証が法令上求められる最低限の保証か
- 保証期間が通常より長いか
- 顧客が保証を別途購入できるか
- 保証が保守、点検、交換、アップデート、サポートを含むか
- 保証価格が独立して設定又は交渉されているか
- 標準保証と延長保証を合理的に区分できるか
保証は、引当金の論点だけで終わるとは限りません。サービス型保証が含まれている場合には、取引価格の配分と、期間にわたる収益認識の論点へとつながっていきます。
顧客オプションは、重要な権利を提供する場合に履行義務となる
顧客に、追加的な財又はサービスを無料又は値引価格で取得する権利を付与する場合には、そのオプションが履行義務となるかどうかを判断する必要があります。
IFRS第15号では、顧客に追加的な財又はサービスを取得するオプションを付与する場合、そのオプションが、当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を提供するときにのみ、契約における履行義務となります。重要な権利を提供する場合、顧客は実質的に将来の財又はサービスに対して前払いをしていると考えられ、将来の財又はサービスが移転した時、又はオプションが失効した時に、収益を認識します。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
顧客オプションには、たとえば次のようなものがあります。
| 顧客オプション | 検討すべき論点 |
|---|---|
| ポイント | 将来の財又はサービスを無料又は値引価格で取得する権利か |
| クーポン | 通常の販促値引を超える増分的な権利か |
| 更新オプション | 契約を締結しなければ得られない有利な更新条件か |
| 数量値引 | 将来購入に対する実質的な値引権か、単なる価格体系か |
| 追加購入権 | 独立販売価格を反映する価格か、重要な値引を含むか |
ここで大事なのは、値引があるかどうかではありません。
問われるのは、その値引又は権利が、同じ地域又は市場において同じ顧客層に通常提供される値引を超えているかどうか。言い換えれば、契約を締結したことで顧客が追加的な経済的便益を得ているかどうかです。IFRS第15号は、追加的な財又はサービスを独立販売価格を反映する価格で取得するオプションについては、たとえ過去の契約を締結しなければ行使できないとしても、重要な権利を提供するものではないとしています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
追加的な財又はサービスを将来無料又は値引価格で取得できるオプションについても、考え方は同じです。そのオプションが、契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を提供するのであれば、契約における履行義務として扱います。
この判断では、次の資料が手がかりになります。
- 通常の販売価格
- 同種顧客への通常値引
- キャンペーン条件
- 更新率、解約率、行使率
- ポイント失効率
- 過去の利用実績
- オプション行使時の価格条件
- 顧客が契約を締結しなかった場合に得られる条件
顧客オプションを履行義務として識別する場合には、その独立販売価格を見積り、取引価格を配分することになります。独立販売価格を直接観察できないときは、顧客がオプション行使時に得る値引、オプションなしでも得られる値引、そして行使可能性を反映して見積ります。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
このように、顧客オプションはステップ2の履行義務識別にとどまりません。ステップ4の取引価格配分や、ステップ5の収益認識時期にまで影響を及ぼします。
返金不能の前払報酬は、独立した履行義務とは限らない
返金不能の前払報酬は、履行義務の識別で誤りやすい論点の一つです。
入会金、加入手数料、セットアップ手数料、初期登録料、初期導入費用――こうした名目で、契約開始時に顧客から返金不能の前払報酬を受け取ることがあります。
しかし、前払報酬を受け取ったこと自体は、収益認識の根拠にはなりません。
企業が契約開始時に行う活動が、顧客に別個の財又はサービスを移転していないのであれば、その活動は履行義務ではないからです。この場合、前払報酬は将来の財又はサービスに対する前払いとして扱い、将来の財又はサービスの提供に応じて収益を認識していくことになります。
IFRS第15号は、返金不能の前払報酬について、その報酬が約束された財又はサービスの移転に関連するかどうかを評価するよう求めています。前払報酬が契約開始時の活動に関連していても、その活動が顧客への財又はサービスの移転をもたらさないのであれば、前払報酬は将来の財又はサービスに対する前払いとして整理されます。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
この論点は、サブスクリプション型、会員制、クラウド、通信、保守サービス、継続利用契約などでとくに重要になります。
契約開始時に多額の初期費用を受け取る場合でも、それが顧客への別個のサービス移転ではなく、契約設定又は内部準備にすぎないのであれば、収益認識は将来期間にわたって配分される可能性があるのです。
本人・代理人の判断でも、履行義務の単位が前提となる
本人・代理人の判断は、一般には収益の総額表示・純額表示の論点として扱われます。しかし、その前提には、やはり履行義務の識別があります。
IFRS第15号は、他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与する場合、企業の約束の性質が、指定された財又はサービスを自ら提供することなのか、それとも他の当事者による提供を手配することなのかを判断するとしています。そして、この指定された財又はサービスは、顧客に提供される別個の財又はサービス、又は別個の財又はサービスの束であるとされています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
つまり本人・代理人の判断では、まず「指定された財又はサービス」が何であるかを特定することが出発点になります。
指定された財又はサービスの単位を誤れば、支配の判断も誤ります。一つの契約のなかで、企業がある財又はサービスについては本人であり、別の財又はサービスについては代理人である、ということも起こり得ます。
だからこそ、履行義務の識別は、総額表示・純額表示の判断にもそのままつながっていきます。
取引価格の配分に進む前に、履行義務の識別を固定する
履行義務を識別したら、企業はステップ3で取引価格を算定し、ステップ4でその取引価格を履行義務に配分していきます。
この順序は、実務でとても重要です。
取引価格の配分は、履行義務が適切に識別されていることを前提に行われるからです。履行義務の単位が不適切であれば、独立販売価格の見積りも、値引の配分も、変動対価の配分も、そして収益認識の時期も、すべてが不適切になってしまいます。
そのため複数要素契約では、次の順序で検討していくことが大切です。
- 顧客との契約を識別する
- 契約上及び黙示的な約束を漏れなく把握する
- 契約履行活動と顧客への財又はサービス移転を区別する
- 各財又はサービスが別個かを2要件で判断する
- 別個でない財又はサービスを束として結合する
- 一連の別個の財又はサービスに該当するかを判断する
- 保証、オプション、前払報酬、本人・代理人などの特殊論点を確認する
- 識別した履行義務に取引価格を配分する
この順序を踏まずに、先に請求項目や価格表から収益配分を始めてしまうと、会計処理が契約の実態から乖離してしまうおそれがあります。
監査対応上、履行義務の識別で準備すべき資料
履行義務の識別は、監査でも重点的に検討されやすい領域です。
とりわけ、複数要素契約、長期契約、サブスクリプション、ソフトウェア、保守・保証、ポイント制度、販売代理・プラットフォーム取引などでは、履行義務の単位が収益認識に大きく影響します。
監査対応では、次の資料を整理しておくことが望まれます。
| 確認事項 | 主な資料 |
|---|---|
| 契約上の約束 | 契約書、注文書、約款、仕様書、SOW、提案書 |
| 黙示的約束 | 営業資料、ウェブサイト、サポート方針、過去の取引慣行 |
| 財又はサービスの便益 | 単独販売実績、他社提供状況、顧客利用状況、既存資源との組合せ |
| 契約の観点での区分可能性 | 契約目的、検収条件、統合責任、カスタマイズ内容、相互依存性 |
| 一連の財又はサービス | 提供頻度、サービス内容の同質性、移転パターン、進捗度測定方法 |
| 保証 | 保証条項、法定保証、延長保証条件、保証期間、サービス内容 |
| 顧客オプション | ポイント規程、更新条件、通常値引、行使率、失効率 |
| 前払報酬 | 初期活動の内容、顧客への移転有無、契約期間、更新オプション |
| 価格配分 | 独立販売価格、見積方法、割引配分、価格承認資料 |
とりわけ大切なのは、会計上の結論と契約の実態を結びつけておくことです。
「履行義務は1つである」「複数の履行義務に分かれる」――こうした結論だけを述べても、監査対応としては十分ではありません。なぜその財又はサービスが別個であるのか、あるいはなぜ別個でないのか。それを、契約条件、顧客の便益、企業の履行実態、価格設定、検収、取引慣行に照らして説明できることが求められます。
開示との関係
履行義務の識別は、IFRS第15号の開示にも影響します。
IFRS第15号では、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期、そして不確実性を、財務諸表利用者が理解できるようにすることが目的とされています。出典:IFRS Foundation|IFRS 15 Revenue from Contracts with Customers
履行義務の識別は、次のような開示項目に影響します。
| 開示領域 | 履行義務識別との関係 |
|---|---|
| 収益の分解 | 履行義務の性質や収益認識時期に応じた分解が必要になる |
| 履行義務の内容 | 企業が顧客に何を約束しているかを説明する |
| 収益認識時点 | 一時点認識か一定期間認識かを履行義務ごとに説明する |
| 重要な支払条件 | 前払、後払、マイルストーン、変動対価との関係を説明する |
| 重要な判断 | 履行義務の識別、別個性、保証、オプション等に関する判断を説明する |
| 残存履行義務 | 未充足の履行義務と将来認識予定収益に影響する |
| 契約資産・契約負債 | 履行と請求・入金のタイミング差を説明する |
履行義務の識別を誤れば、注記もまた実態を反映しなくなります。
とくに、契約上の表現が抽象的な場合、収益区分が管理会計上の区分と異なる場合、標準契約と個別契約が混在する場合には、会計方針と実際の履行義務識別とが整合しているかどうかを、丁寧に確認しておく必要があります。
日本基準との関係で注意すべき点
日本の収益認識会計基準は、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点としています。ASBJの収益認識会計基準では、契約において顧客への移転を約束した財又はサービスが所定の要件を満たす場合には、別個のものとして履行義務を区分して識別することが示されています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
ただし、IFRS財務諸表を作成する場合には、日本基準で認められる代替的な取扱いや、日本の実務慣行を、そのままIFRS判断に持ち込むことはできません。
たとえばASBJの適用指針には、約束した財又はサービスが顧客との契約の観点で重要性に乏しい場合に履行義務として識別しない代替的な取扱いや、顧客が商品又は製品の支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動に関する会計処理の選択が設けられています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
IFRS連結パッケージやIFRS任意適用企業の会計方針では、こうした日本基準上の取扱いとIFRS上の要求事項を切り分けたうえで、グループ会計方針としてどのように処理するのかを明確にしておく必要があります。
履行義務の識別で専門家に相談すべき場面
履行義務の識別は、契約の読み方と会計処理の結論とが、そのまま直結する領域です。
とくに、次のような場合には、早い段階で論点を整理しておくことをおすすめします。
- 契約に複数の製品、サービス、保守、保証、ライセンスが含まれている
- 初期費用、セットアップ手数料、加入料、入会金が含まれている
- ポイント、クーポン、更新権、追加購入権が付与されている
- 標準保証と延長保証又は保守サービスの区分が明確でない
- 契約書上の請求区分と、実際の履行内容が一致していない
- 顧客仕様のカスタマイズや統合サービスを提供している
- 顧客への移転が一定期間にわたるのか、一時点なのかの判断が難しい
- 本人・代理人、第三者提供サービス、プラットフォーム取引が含まれている
- IFRS導入、M&A、グループ会計方針統一、監査指摘を契機に収益認識を見直す必要がある
履行義務の識別は、単に売上計上ルールを決める作業ではありません。契約、商流、価格設定、顧客への約束、内部統制、監査証拠、そして開示を、一体として整理していく作業です。
まとめ
IFRS第15号における履行義務の識別は、収益認識の単位を決める重要な判断です。
企業は、契約に明示された約束だけでなく、取引慣行、公表方針、具体的な説明によって生じる黙示的約束も含めて、顧客に移転する財又はサービスを識別する必要があります。そのうえで、各財又はサービスが別個であるかどうかを、顧客が便益を得られるか、契約の観点から区分して識別可能か、という2つの要件で判断していきます。
別個でない財又はサービスは、別個の束になるまで結合します。一方で、実質的に同一で同じ移転パターンを有する一連の別個の財又はサービスは、単一の履行義務として扱います。
さらに、保証、顧客オプション、返金不能の前払報酬、本人・代理人といった論点も、履行義務の識別と密接に関わってきます。これらを適切に整理しておかなければ、取引価格の配分、収益認識の時期、契約資産・契約負債、注記、そして監査対応にまで影響が及びます。
IFRS第15号の履行義務の識別、複数要素契約の分解、保証・顧客オプション・前払報酬の整理、監査対応資料の作成などについて検討が必要な場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所までご相談ください。
振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 履行義務の役割 | 収益認識の会計単位を決める判断であり、取引価格配分と収益認識時期の前提となる |
| 契約上の約束 | 契約書に明示された約束だけでなく、取引慣行、公表方針、具体的説明による黙示的約束も確認する |
| 契約履行活動 | 顧客に財又はサービスを移転しない活動は履行義務ではない |
| 別個性の第1要件 | 顧客が単独又は容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得られるかを確認する |
| 別個性の第2要件 | 契約の観点から、個々の財又はサービスを移転する約束か、結合後のアウトプットを移転する約束かを判断する |
| 統合サービス | 複数の要素を統合して顧客が契約した成果物を提供している場合、単一の履行義務となる可能性がある |
| カスタマイズ | 一方の財又はサービスが他方を著しく修正又は顧客仕様化している場合、別個でない可能性がある |
| 相互依存性 | 複数の財又はサービスが高く相互依存又は相互関連している場合、区分して識別できない可能性がある |
| 別個でない財又はサービス | 別個の財又はサービスの束を識別するまで、他の約束と結合する |
| 一連の別個の財又はサービス | 実質的に同一で移転パターンが同じ場合、単一の履行義務として扱う |
| 保証 | アシュアランス型かサービス型かを判断し、サービス型保証は履行義務として識別する |
| 顧客オプション | 重要な権利を提供する場合、将来の財又はサービスに対する履行義務として識別する |
| 返金不能の前払報酬 | 初期活動が顧客への財又はサービス移転を伴わない場合、将来サービスへの前払いとして扱う可能性がある |
| 本人・代理人 | 指定された財又はサービスの単位を特定したうえで、企業の約束の性質を判断する |
| 監査対応 | 契約書、提案書、価格資料、保証条件、オプション条件、取引慣行、独立販売価格資料を整理する |