IFRS第9号の予想信用損失モデルでは、金融資産について、すでに発生した損失を拾うだけでなく、これから発生し得る信用損失まで見積もることが求められます。
前回までに整理したとおり、IFRS第9号の金融資産の減損では、ステージ1で12か月の予想信用損失を、ステージ2・ステージ3で全期間の予想信用損失を測定します。信用リスクが著しく増大しているかどうかは、あくまでステージ判定の問題です。本稿で扱うのは、その判定を踏まえたうえで、予想信用損失をどう測定するのか、という論点になります。
ここで大切にしたいのは、ECLの測定を、単なる貸倒引当金率の設定や、機械的なモデル計算として扱わないことです。IFRS第9号が求めているのは、信用損失を、確率加重、時間価値、そして過去・現在・将来の合理的で裏付け可能な情報に基づいて測定することにほかなりません。
IFRS第9号5.5.17は、予想信用損失の測定にあたり、次の三つを反映するよう求めています。複数の起こり得る結果を評価して導かれる、偏りのない確率加重金額。貨幣の時間価値。そして、報告日時点で過大なコストや労力を掛けずに利用できる、過去事象・現在の状況・将来の経済状況の予測に関する、合理的で裏付け可能な情報です。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
したがって、実務で本当に問われるのは、「モデルを持っているかどうか」ではありません。モデルの入力値、シナリオ、マクロ情報、経営者調整、検証結果、そして開示上の説明まで含めて、なぜそのECLが報告日時点における最善の見積りといえるのか。そこを説明できるかどうかが問われます。
この記事で扱う範囲
本稿では、IFRS第9号の予想信用損失の測定について、次の論点を中心に整理していきます。
| 扱う論点 | 内容 |
|---|---|
| 測定原則 | 確率加重、時間価値、合理的で裏付け可能な情報 |
| 測定要素 | PD、LGD、EAD、割引率、キャッシュ・ショートフォール |
| 将来予測情報 | マクロ経済情報、シナリオ、非線形性、経営者調整 |
| 実務運用 | 個別評価、集合評価、モデル検証、バックテスト |
| 監査・開示 | 仮定、インプット、感応度、モデル変更、説明資料 |
一方で、営業債権・契約資産・リース債権・金融保証契約・ローンコミットメントといった、商品別の詳細な適用については、主に7-4の記事で扱います。本稿では、それらに共通する「ECL測定の考え方」に焦点を当てて整理します。
予想信用損失は「信用損失の確率加重平均」である
IFRS第9号における予想信用損失は、最も起こりやすい損失額のことではありません。かといって、最悪シナリオの損失額でもありません。
IFRS第9号上、信用損失は、契約上企業に支払われるべきすべてのキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込むすべてのキャッシュ・フローとの差額、すなわちキャッシュ・ショートフォールの現在価値として整理されます。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
これを実務の言葉に置き換えると、ECLの測定では、次のような問いに順番に答えていくことになります。
| 問い | 確認する内容 |
|---|---|
| 契約上受け取るべき金額はいくらか | 元本、利息、手数料、返済スケジュール |
| 実際に受け取ると見込む金額はいくらか | 返済、回収、担保処分、保証履行、回収コスト |
| いつ受け取ると見込むか | 回収時期、法的手続、期限前返済、リスケジュール |
| どの程度の確率で発生するか | デフォルト確率、シナリオ確率、ポートフォリオ特性 |
| 現在価値にどう割り引くか | 実効金利、信用調整後実効金利、適切な割引率 |
ECLは、「貸し倒れるか、貸し倒れないか」という二者択一で捉えるものではありません。信用損失が発生する可能性が低い場合であっても、その可能性をゼロとみなして切り捨てられるとは限らないからです。この点はIFRS第9号5.5.18も、すべてのシナリオを識別する必要まではないとしつつ、信用損失が発生する可能性と発生しない可能性の双方を考慮するよう求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
12か月ECLは「12か月分の損失」ではない
実務で誤解を招きやすいのが、12か月ECLという言葉の意味です。
12か月ECLは、今後12か月間に発生すると見込まれるキャッシュ・ショートフォールだけを測定するものではありません。また、今後12か月以内にデフォルトすると予測した金融商品について、その全期間の損失を合計したものでもありません。
12か月ECLとは、金融商品の全期間にわたる信用損失のうち、報告日後12か月以内に起こり得るデフォルト事象から生じる部分を指します。IFRS第9号の適用指針でも、12か月ECLは、今後12か月以内にデフォルトすると予測される金融商品について企業が被る全期間ECLではなく、また今後12か月に予測されるキャッシュ・ショートフォールでもない、と整理されています。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
この区別は、モデルを設計するうえでも見過ごせません。
| 区分 | 測定対象 |
|---|---|
| 12か月ECL | 12か月以内に発生し得るデフォルトに起因する全期間の信用損失 |
| 全期間ECL | 金融商品の予想存続期間全体にわたって発生し得るすべてのデフォルトに起因する信用損失 |
| 今後12か月のキャッシュ不足 | 12か月ECLとは異なる概念 |
| 12か月以内にデフォルト見込みの資産の全損失 | 12か月ECLそのものではない |
したがって、ステージ1の金融資産であっても、そのデフォルトが12か月以内に起きた場合に、その後の全期間でどれだけの回収不足が生じるかまで含めて考えます。逆にステージ2では、12か月という区切りを設けず、金融商品の予想存続期間全体のデフォルトリスクを反映します。
PD・LGD・EADはECLを構造化するための実務上の枠組みである
ECLの測定では、実務上、PD・LGD・EADという要素を用いることが多くあります。
| 要素 | 意味 | 実務上の主な確認事項 |
|---|---|---|
| PD | Probability of Default、デフォルト確率 | 12か月PD、全期間PD、内部格付け、外部格付け、デフォルト定義 |
| LGD | Loss Given Default、デフォルト時損失率 | 担保、保証、回収率、回収コスト、回収期間 |
| EAD | Exposure at Default、デフォルト時エクスポージャー | 残高、未使用枠、追加引出し、期限前返済、返済スケジュール |
| 割引率 | 将来キャッシュ・ショートフォールを現在価値化する率 | 実効金利、信用調整後実効金利、ローンコミットメント・保証の取扱い |
一般には、ECLを「PD × LGD × EAD」という形で整理することがあります。ただし、これはIFRS第9号が特定の単一の数式を要求している、という意味ではありません。大切なのは、採用した測定方法が、偏りのない確率加重、時間価値、そして合理的で裏付け可能な情報という、IFRS第9号の測定原則と整合していることです。実務では、PD・LGD・EADを入力値とするモデルが使われることが多く、ECLをこれらの組合せとして説明する整理も、一般的な実務として定着しています。
金融機関であれば、高度な統計モデルを用いることもあるでしょう。他方、一般事業会社では、営業債権の年齢表、過去の貸倒実績、主要顧客の信用情報、グループ会社貸付の事業計画、担保・保証情報などを組み合わせ、より実務に即したモデルを組み立てることもあります。
もっとも、モデルの複雑さそのものが目的なのではありません。監査の場面で問われるのは、むしろ次のような点です。
| 監査・レビュー上の問い | 実務上の説明ポイント |
|---|---|
| なぜそのPDを使うのか | デフォルト定義、格付け、過去実績、将来調整との整合 |
| なぜそのLGDを使うのか | 担保価値、回収コスト、保証履行、回収期間の根拠 |
| なぜそのEADを使うのか | 残高、未使用枠、予想引出し、期限前返済の見込み |
| なぜそのシナリオを使うのか | 経済前提、発生確率、非線形性、経営者判断 |
| なぜその調整を行うのか | モデルで捕捉できないリスク、外部環境、事後検証 |
PDは「デフォルト定義」と切り離せない
PDを使う場合、まず確認すべきなのは、何をもってデフォルトと定義しているか、という点です。
デフォルトの定義が曖昧なままPDを設定してしまうと、モデルの見た目はきれいに整っていても、測定結果が何を意味しているのかが不明確になります。特に、会計目的のデフォルト定義と、規制目的、内部与信管理目的、回収管理目的の定義とが食い違う場合には注意が必要です。どの定義をECLの測定に用いるのか、そして定義間の差異をどう調整するのかを、はっきりさせておかなければなりません。
IFRS第9号では、デフォルトの定義は、内部の信用リスク管理で用いている定義と整合させることを基本としつつ、必要に応じて財務特約条項の遵守状況などの定性的な指標も考慮するとしています。加えて、合理的で裏付け可能な情報によってより遅い時点が適切だと示せる場合を除き、90日超の延滞よりも遅くデフォルトが発生するとは推定しない、という反証可能な推定が置かれています。
PDを設定する際には、少なくとも次の点を整理しておきたいところです。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| PDの期間 | 12か月PDか、全期間PDか |
| PDの単位 | 個別債務者単位か、金融商品単位か、ポートフォリオ単位か |
| デフォルト定義 | 延滞、破産、条件変更、財務制限条項、内部管理区分 |
| データソース | 内部実績、外部格付け、信用調査、同業データ |
| 将来調整 | 景気、金利、業界環境、失業率、住宅価格、商品価格等 |
| モデル更新 | 実績乖離、格付け遷移、デフォルト発生状況の反映 |
規制上のモデルからPDを流用する場合にも、それをそのまま会計上のECLに使えるとは限りません。規制上の保守性、長期平均的なPD、ストレス前提などが織り込まれていることがあり、その場合には、IFRS第9号が求める報告日時点の予想信用損失と整合するよう、調整が必要になることがあります。
LGDでは担保・保証・回収期間を「損失率」に落とし込む
LGDは、デフォルトが発生したときに、どの程度の損失が生じるかを表す要素です。
ECLの測定では、「担保があるから損失は小さい」と判断するだけでは足りません。担保や保証を回収キャッシュ・フローにどう反映するか、回収までにどれだけの時間を要するか、回収コストがどの程度かかるか。こうした点まで整理してはじめて、損失率として意味を持ちます。
LGDの検討では、次の観点が重要になります。
| 観点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 担保価値 | 担保評価額、評価時点、流動性、強制売却時の減価 |
| 保証 | 保証人の信用力、保証履行可能性、保証契約の範囲 |
| 回収コスト | 法的手続費用、担保処分費用、回収委託費用 |
| 回収期間 | 任意回収、担保処分、法的整理の期間 |
| 優先順位 | 他債権者、担保順位、相殺可能性 |
| 契約条件 | 財務制限条項、期限の利益喪失、担保追加条項 |
| 過去実績 | 過去の回収率、類似債権の回収経験 |
ここで気をつけたいのは、担保や保証が、SICR判定とECL測定とで異なる役割を担う、という点です。信用リスクが著しく増大しているかどうかは、主にデフォルトリスクの変化を見ます。一方、担保や保証は、LGDを通じて損失額の測定に大きく効いてきます。
ただし、担保価値の下落が、債務者の返済行動やデフォルトリスクそのものに影響するのであれば、PDやSICR判定にも波及することがあります。ですから、担保を「LGDだけの問題」と機械的に割り切るのではなく、信用リスク評価全体のなかでの位置づけを、その都度はっきりさせておく必要があります。
EADでは「デフォルト時にいくら残っているか」を見積もる
EADは、デフォルトの時点で、企業がどれだけ信用リスクにさらされているかを表す要素です。
通常の貸付金であれば、返済スケジュールに沿って残高が減っていくため、デフォルト時点のエクスポージャーは、現在の残高と一致しないことがあります。また、ローンコミットメントや当座貸越、クレジットカード型の契約では、報告日時点で未使用の枠が残っていても、デフォルトに至るまでに追加の引出しが行われる可能性があります。
IFRS第9号の設例でも、信用リスクが著しく増大したクレジットカード枠について、引出済みの残高だけでなく、未使用枠からの追加引出しまで考慮してEADを見積もる、という考え方が示されています。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments Illustrative Examples
EADの見積りでは、次の点を確認します。
| 観点 | 確認事項 |
|---|---|
| 元本残高 | 報告日時点残高、予定返済、期限前返済 |
| 未使用枠 | コミットメント、利用可能額、取消可能性 |
| 追加引出し | デフォルト前の引出し行動、過去実績 |
| 契約上の制限 | 財務制限条項、停止条項、期限の利益喪失 |
| 信用リスク管理行動 | 枠の縮小、停止、担保追加、回収強化 |
| 予想存続期間 | 契約期間、実務上の更新、期限前解約 |
とりわけ一般事業会社では、グループ会社貸付や資金支援枠について、実質的に追加支援が予定されているにもかかわらず、報告日時点の貸付残高だけをEADとして扱ってよいのか、という点が問題になります。契約上の義務、過去の支援実績、経営者の支援方針、取締役会決議、資金繰り計画。こうした事情を踏まえて、EADの範囲を慎重に見極める必要があります。
割引率はECL測定の「時間価値」を支える
ECLの測定では、将来のキャッシュ・ショートフォールを現在価値に割り引きます。
IFRS第9号では、ECLは、予想デフォルト日やその他の日ではなく、報告日まで割り引きます。通常の金融資産では、当初認識時に決定した実効金利、またはその近似値を用い、変動金利の場合には現在の実効金利を用います。購入または組成した信用減損金融資産については、信用調整後実効金利を用います。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
割引率の検討では、次のような点が論点になります。
| 論点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 通常の金融資産 | 当初認識時の実効金利または近似値 |
| 変動金利金融資産 | 現在の実効金利 |
| POCI金融資産 | 信用調整後実効金利 |
| ローンコミットメント | 将来認識される金融資産に適用される実効金利 |
| 金融保証契約 | 適切な実効金利を決定できない場合の市場評価ベースの割引率 |
| リース債権 | IFRS第16号との関係を踏まえた測定 |
割引率は、モデルの上では技術的な要素に見えます。しかし、回収期間の長い債権や、法的整理を伴う債権では、ECLに大きく影響することがあります。担保処分に時間がかかるとき、保証履行までに長期間を要するとき、返済猶予や条件変更が行われているとき。こうした場面では、割引の影響を軽く見ることはできません。
将来予測情報は「過去実績への上乗せ」ではなく、測定の中核である
IFRS第9号のECLモデルが、従来の発生損失モデルと大きく異なるのは、将来予測情報を明示的に取り込む点にあります。
過去の貸倒実績は、たしかに重要な出発点です。とはいえ、過去の実績だけでは、報告日時点の信用リスクや、これからの経済状況を十分に映し出すことはできません。IFRS第9号は、過去の情報を土台としながらも、現在の観察可能なデータと、将来の状況の予測を反映するための調整を求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
将来予測情報には、たとえば次のようなものが含まれます。
| 区分 | 情報の例 |
|---|---|
| マクロ経済情報 | GDP、失業率、金利、インフレ率、為替、住宅価格、商品価格 |
| 業界情報 | 需要動向、価格競争、規制変更、サプライチェーン、倒産件数 |
| 債務者固有情報 | 業績、資金繰り、受注残、主要顧客、財務制限条項 |
| ポートフォリオ情報 | 延滞率、回収率、格付け遷移、貸倒実績、条件変更実績 |
| 外部情報 | 格付け、信用調査、統計、公的データ、金融市場情報 |
| 内部情報 | 与信審査、ウォッチリスト、回収部門情報、経営会議資料 |
ここで見落としたくないのは、「利用可能な情報」と「都合のよい情報」を取り違えないことです。
IFRS第9号は、過大なコストや労力を掛けずに利用できる、合理的で裏付け可能な情報を考慮するよう求めています。財務報告目的で利用できる情報は、通常、過大なコストや労力を掛けずに利用可能な情報とみなされます。情報収集のために網羅的な探索まで求められるわけではありませんが、関連する合理的で裏付け可能な情報は考慮しなければなりません。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
したがって、経営会議ですでに把握している業績の悪化、資金繰りの悪化、主要顧客の喪失、業界環境の悪化、返済条件の見直し。こうした事実を、ECLの測定では考慮していない、という状態は、後から説明するのが難しくなります。
単一シナリオで足りるか、複数シナリオが必要か
ECLの測定では、将来の経済状況について、複数の可能性を考慮します。
IFRS第9号は、起こり得るすべてのシナリオを識別することまでは求めていません。ただし、予想信用損失が経済状況に対して非線形に変動する場合には、単一の基本シナリオだけでは、偏りのない確率加重金額を表せないおそれがあります。
金融資産の減損実務では、住宅価格、失業率、金利、商品価格、為替といった変数の変化に対して、信用損失が直線的に増減するとは限りません。たとえば、担保価値が一定水準を下回った瞬間に損失が急増する。業績が一定水準を下回ると借換えができなくなる。景気の悪化局面で、複数の債務者のデフォルトが同時に増える。こうした非線形性が生じます。実務上も、複数の将来予測シナリオと、デフォルトリスクやECLの変動との間に非線形の関係がある場合には、単一の基本シナリオだけではIFRS第9号の目的を満たさないことがある、と整理できます。
実務では、たとえば次のようなシナリオを検討することがあります。
| シナリオ | 役割 |
|---|---|
| 基本シナリオ | 最も中心的な経済見通し |
| 悪化シナリオ | 景気後退、金利上昇、需要減少、資産価格下落等を反映 |
| 回復シナリオ | 景気改善、需要回復、資金調達環境改善等を反映 |
| ストレスシナリオ | 通常の悪化を超える低頻度・高影響の状況を検討 |
| 個別シナリオ | 特定債務者・特定案件に固有の回収可能性を反映 |
もっとも、「3シナリオを作れば十分」というわけではありません。必要なシナリオの数は、金融商品の性質、ポートフォリオの信用リスク、非線形性の程度、利用可能な情報、そして重要性によって変わってきます。実務上も、基本シナリオ、景気回復シナリオ、景気悪化シナリオを用いることは多いものの、3つが常に適切な数だとは限りません。重要な非線形性を捉えるためのシナリオ数は、事実および状況に応じて判断し、定期的に見直していく必要があります。
シナリオのウェイト付けは「見た目の合理性」ではなく確率分布との整合で考える
複数のシナリオを使う場合、次に問題になるのがウェイト付けです。
悪化シナリオ、基本シナリオ、回復シナリオを設定しても、それぞれにどの確率を割り当てるかで、ECLは大きく変わります。ここで、単に「基本シナリオ80%、悪化10%、回復10%」と置くだけでは、そのウェイトが確率分布を適切に表しているのかを説明しきれないことがあります。
実務上も、選んだシナリオと発生確率の対応関係によってECLの見積額は大きく変わるため、シナリオに紐づくウェイト付けが偏りのないECLの見積りになっているかどうかを、慎重に検討する必要があります。
シナリオのウェイト付けでは、次の観点を整理します。
| 観点 | 確認事項 |
|---|---|
| シナリオの位置づけ | 何パーセンタイルの経済状況を表すか |
| 発生確率 | 過去データ、外部予測、経営見通しとの整合 |
| 非線形性 | 損失がどの範囲で急増するか |
| ポートフォリオ差 | 同じシナリオでも部門・地域・債務者層で影響が違うか |
| 更新頻度 | 報告日時点の最新情報を反映しているか |
| 経営者調整 | モデルで捉えきれない事象をどう補正したか |
グループ全体で同一のマクロシナリオを使う場合でも、各事業、地域、債務者層ごとに、シナリオの影響度は異なります。たとえば、同じ景気悪化シナリオであっても、住宅ローン、無担保貸付、売掛債権、グループ会社貸付、リース債権では、PD・LGD・EADへの効き方がそれぞれ違ってきます。
ですから、シナリオは「全社共通で作ったから終わり」ではありません。対象となる金融資産の信用リスク特性に応じて、どのように測定へ反映したのかを、あらためて説明する必要があります。
引当マトリクスを使う場合も、将来予測情報の調整が必要になる
一般事業会社では、営業債権について引当マトリクスを使うことが多くあります。
引当マトリクスは、営業債権の年齢区分ごとに貸倒率を設定し、それを債権残高に乗じてECLを測定する、実務上の便法です。IFRS第9号でも、測定原則と整合する限りにおいて、営業債権のECL算定に引当マトリクスを用いる方法が認められています。実務としても、自社の過去の観察された損失率を基礎に置きつつ、将来予測情報によって調整した引当マトリクスを作成する、という整理が一般的です。
ただし、引当マトリクスを使う場合でも、過去の貸倒率をそのまま当てはめるだけでは足りないことがあります。
| 検討事項 | 具体的な確認 |
|---|---|
| 過去損失率 | どの期間の実績を使うか、異常値を除外するか |
| 債権区分 | 取引先属性、地域、業種、販売チャネル、担保・保証 |
| 年齢区分 | 未経過、30日超、60日超、90日超など |
| 現在状況 | 直近の回収遅延、顧客の財務悪化、取引条件変更 |
| 将来予測 | 景気、業界環境、顧客層の変化 |
| 重要顧客 | 個別評価すべき大口・高リスク先の切り出し |
| データ品質 | 債権年齢表、入金消込、貸倒実績の正確性 |
引当マトリクスの弱点は、ポートフォリオ全体の平均損失率に引きずられやすい点にあります。特定の大口顧客、特定の業界、特定の地域、特定の回収条件に信用リスクが集中している場合、平均的な引当率だけでは、ECLを適切に表せないおそれがあります。
そのため実務では、一般債権はマトリクスで測定し、重要な信用リスクを抱える債権は個別評価に切り出す、という設計が必要になることがあります。
モデルで捕捉できないリスクは、経営者調整として整理する
ECLモデルは、過去のデータや統計モデルを基礎とすることが多いため、モデルだけでは報告日時点のすべてのリスクを拾いきれないことがあります。
たとえば、次のような状況です。
| モデルで捕捉しにくい事象 | 調整が必要になり得る理由 |
|---|---|
| 急激な景気悪化 | 過去データに類似局面が少ない |
| 新規事業・新規顧客層 | 過去損失率が十分にない |
| 特定業界の構造変化 | 過去の回収実績が将来を代表しない |
| 大口顧客の信用悪化 | ポートフォリオ平均では埋もれる |
| 政策変更・規制変更 | 過去データに反映されていない |
| 災害・感染症・地政学リスク | 発生確率と影響額の推定が難しい |
| 気候関連リスク | 長期的・非線形の影響があり得る |
こうした場合には、モデルの結果に対して、経営者調整、いわゆるマネジメント・オーバーレイを加えることがあります。
ただし、経営者調整は、都合よくECLを平準化するための手段ではありません。モデルの限界、調整の対象、調整の理由、金額の算定、解除の条件、そして前期からの変化を、明確にしておく必要があります。
経営者調整を行う場合には、次の資料化が重要になります。
| 資料化すべき事項 | 内容 |
|---|---|
| 調整理由 | モデルが何を捕捉できていないか |
| 対象範囲 | どの金融資産・ポートフォリオに適用するか |
| 金額算定 | どのデータ・仮定に基づき調整額を算定したか |
| 方向性 | 増額調整か、減額調整か |
| 期間 | 一時的調整か、継続的調整か |
| 解除条件 | どの情報が得られれば調整を解除するか |
| 承認 | 誰がレビューし、承認したか |
| 開示影響 | 重要な仮定やモデル変更として説明が必要か |
監査の場面では、経営者調整は重点的に見られやすい領域です。調整があること自体が問題なのではありません。調整の根拠が曖昧で、モデルの結果と経営者の判断との境界が説明できないこと。そこが問題になります。
個別評価と集合評価をどう使い分けるか
ECLの測定では、金融資産ごとに個別評価する場合と、信用リスク特性が共通するグループごとに集合評価する場合があります。
個別評価が必要になりやすいのは、次のような金融資産です。
- 大口貸付金
- グループ会社貸付金
- 条件変更・リスケジュール済みの債権
- 信用減損がある金融資産
- 担保・保証・返済条件の個別性が強い債権
- 特定債務者の事業計画に回収可能性が依存する債権
一方で、集合評価が有効なのは、次のような金融資産です。
- 多数の営業債権
- 小口ローン
- 同質的なリース債権
- 過去実績に基づく損失率を観察できるポートフォリオ
- 個別には信用悪化を把握しにくいが、グループ単位ではリスクを把握できる金融資産
集合評価では、信用リスク特性の共通性がものを言います。異なるリスク特性を持つ金融資産をまとめすぎると、高リスク資産の損失が平均のなかに紛れてしまいます。かといって細分化しすぎると、今度はデータが不足し、統計的な信頼性や運用のしやすさが損なわれます。
そこでグルーピングでは、次のような軸を検討します。
| グルーピング軸 | 例 |
|---|---|
| 金融商品の種類 | 営業債権、貸付金、リース債権、保証 |
| 債務者属性 | 業種、地域、規模、格付け |
| 契約条件 | 支払サイト、金利、返済方法、担保 |
| 延滞状況 | 未延滞、30日超、60日超、90日超 |
| 取引チャネル | 直販、代理店、オンライン、店舗 |
| 信用補完 | 担保付き、保証付き、無担保 |
| 過去実績 | 類似の貸倒実績、回収率、条件変更実績 |
ECLの測定では、集合評価の単位が会計上の結論を大きく左右します。監査対応の場面でも、「なぜそのグループ単位で信用リスクが同質といえるのか」を説明できることが求められます。
グループ会社貸付金のECLでは、事業計画と支援方針を切り分ける
一般事業会社のIFRS実務のなかでも、とりわけ判断が難しいのが、グループ会社貸付金のECLです。
グループ会社貸付金では、外部への貸付とは違い、親会社の支援意思、グループの資金管理、資本政策、事業再編、税務、配当方針などが複雑に絡んできます。そのためECLの測定では、貸付先単体の返済能力だけでなく、グループとしてどのように回収・支援・再編を行う予定なのかまで、整理しておく必要があります。
ただし、支援意思を理由にECLを小さく見積もろうとするのであれば、支援意思だけでは足りません。支援能力と、実行可能性が伴っていなければなりません。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 貸付先の返済能力 | 単体事業計画、資金繰り、営業CF |
| グループ支援 | 支援方針、支援能力、取締役会決議、資金計画 |
| 回収シナリオ | 通常返済、リファイナンス、増資、債務免除、清算 |
| 担保・保証 | 実効性、順位、評価額 |
| 追加貸付 | 将来支援がEADに影響するか |
| 税務・法務 | 債務免除、寄附金、移転価格、会社法上の制約 |
| 監査証拠 | 事業計画、資金繰り表、経営会議資料、契約書 |
グループ会社貸付金では、経営者の意図が重要な意味を持ちます。とはいえ、意図だけでは測定の根拠にはなりません。支援する予定であるなら、いつ、誰が、どの資金で、どの法的手続によって支援するのか。それを説明できる資料が必要になります。
モデル検証とバックテストは「翌期以降の監査対応」に直結する
ECLは、会計上の見積りです。見積りである以上、実績との乖離が生じることは避けられません。
大切なのは、乖離が生じたこと自体ではありません。その乖離が、見積時点で利用できた情報を適切に考慮していなかったことによるものなのか、それとも見積後に発生した新たな事象によるものなのか。ここを見極めることです。会計上の見積りは経営者の仮定に依存し、不確実性を伴うため、監査上も重要な論点になりやすい領域です。実績との乖離が生じた場合には、その原因と、内部統制への影響を検討する必要があります。
ECLモデルについては、定期的に次のような検証を行います。
| 検証項目 | 内容 |
|---|---|
| バックテスト | 実際のデフォルト・貸倒・回収率と過去の見積りを比較 |
| モデル精度 | PD、LGD、EADの予測精度を検証 |
| データ品質 | 債権年齢表、回収実績、格付け、担保情報の正確性 |
| シナリオ検証 | 実際の経済環境とシナリオ前提の乖離を分析 |
| 経営者調整 | 調整の有効性、解除条件、継続要否を検討 |
| 重要な仮定 | 変更理由、影響額、開示要否を整理 |
| 内部統制 | 承認、レビュー、職務分掌、証跡管理を確認 |
IFRS第9号の適用指針でも、ECLの見積りに用いる方法と仮定を定期的にレビューし、見積りと実際の信用損失の経験との差異を小さくしていくことが求められています。出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
モデル検証は、単なる監査対応のための資料ではありません。ECLの測定を継続的に改善し、翌期以降の見積りの信頼性を高めていくための、内部統制そのものです。
FVOCIで測定する負債性金融資産では表示にも注意する
IFRS第9号のECLモデルは、償却原価で測定する金融資産だけでなく、FVOCIで測定する負債性金融資産にも適用されます。
ただし、FVOCI負債性金融資産では、金融資産そのものは公正価値で財政状態計算書に表示されます。そのため、償却原価資産のように貸倒引当金を帳簿価額から直接控除する表示とは、扱いが異なります。ECLは純損益に認識されますが、これに対応する損失評価引当金は、その他の包括利益に認識される形で整理されます。
このため、FVOCI負債性金融資産では、次の点を切り分けておく必要があります。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 測定基礎 | 財政状態計算書上は公正価値 |
| 減損認識 | ECLは純損益に反映 |
| 表示 | 損失評価引当金は帳簿価額を直接減額しない |
| OCI | 公正価値変動と損失評価引当金の関係を整理 |
| 開示 | 分類、信用リスク、ECL、FVOCIの整合性を確認 |
この論点は、金融商品の分類・測定と減損とが接続する領域です。ECLだけを見ていると、表示や開示の面で誤りが生じやすくなります。金融資産の分類と測定区分を前提に置いたうえで、確認していく必要があります。
開示では、モデルの中身を財務諸表利用者に説明する
ECLの測定は、注記にもそのまま直結します。
IFRS第7号は、信用リスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期、不確実性に及ぼす影響を、財務諸表の利用者が理解できるよう、いくつかの開示を求めています。信用リスク管理実務とECLの認識・測定との関係、ECLの測定に用いた方法・仮定・情報、ECL金額が変動した理由、そして信用リスクエクスポージャーなどです。出典:IFRS Foundation|IFRS 7 Financial Instruments: Disclosures
さらにIFRS第7号35Gは、12か月ECLおよび全期間ECLの測定、SICR判定、信用減損判定に用いたインプット・仮定・見積技法、将来予測情報の織り込み方、マクロ経済情報の使用、そして見積技法や重要な仮定を変更した場合はその内容と理由を説明するよう求めています。出典:IFRS Foundation|IFRS 7 Financial Instruments: Disclosures
したがってECLの開示では、少なくとも次のような情報を準備しておく必要があります。
| 開示論点 | 準備すべき情報 |
|---|---|
| ECL測定方法 | PD・LGD・EADモデル、引当マトリクス、個別評価 |
| 主要仮定 | デフォルト定義、回収率、担保価値、割引率 |
| 将来予測情報 | マクロ情報、シナリオ、ウェイト、経営者調整 |
| 重要な変更 | モデル変更、仮定変更、データ更新 |
| ステージ別残高 | 12か月ECL、全期間ECL、信用減損 |
| 損失評価引当金の増減 | 期首から期末への調整表 |
| 信用リスク集中 | 大口債務者、業種、地域、担保タイプ |
| 感応度 | 重要な仮定が変わった場合の影響 |
開示は、モデルの専門用語を並べて見せるためのものではありません。財務諸表の利用者が、その企業の信用リスクとECLの見積りを理解できるように、何を前提とし、どの程度の不確実性を含んでいるのかを、伝えるためのものです。
監査対応では「モデル」「データ」「判断」の3層で証拠化する
ECL測定の監査対応では、計算表を提出するだけでは十分とはいえません。
監査では、ECLの金額そのものだけでなく、モデルの設計、データの正確性、そして経営者判断の合理性まで確認されます。とりわけ、将来予測情報、シナリオ、経営者調整、そしてステージ判定との整合性は、重点的に検討されやすい領域です。
ECL測定の監査資料は、次の3層で整理しておくと、説明がしやすくなります。
| 層 | 整理する内容 |
|---|---|
| モデル | 測定方法、PD・LGD・EAD、割引率、シナリオ、計算ロジック |
| データ | 債権残高、年齢表、回収実績、格付け、担保、保証、外部情報 |
| 判断 | SICR判定、個別評価、経営者調整、シナリオ選択、仮定変更 |
そのうえで、決算実務では、次のような資料を整えておくことが重要です。
- ECL対象金融商品の母集団一覧
- 分類・測定区分と減損モデルの対応表
- ステージ1・2・3の判定資料
- PD、LGD、EADの設定根拠
- 引当マトリクスの作成資料
- 将来予測情報の入手元と反映方法
- シナリオとウェイト付けの根拠
- 経営者調整の承認資料
- モデル検証・バックテスト資料
- 前期からの変更点と影響額
- IFRS第7号開示との整合表
ここまで整理してはじめて、ECLは「計算結果」ではなく、「説明可能な会計上の見積り」になります。
ECL測定で実務上よく問題になる判断
ECLの測定では、次のような判断が、実務上とくに問題になりやすいところです。
| 判断領域 | 問題になりやすい点 |
|---|---|
| 過去損失率 | どの期間を使うか、異常値を除くか |
| 将来予測情報 | どのマクロ情報を使うか、どこまで反映するか |
| シナリオ | 単一シナリオでよいか、複数シナリオが必要か |
| ウェイト付け | 発生確率をどう設定するか |
| 担保評価 | 担保価値の下落、処分コスト、回収期間 |
| 保証 | 保証人の信用力と履行可能性 |
| グループ会社貸付 | 支援意思、支援能力、返済原資 |
| 経営者調整 | モデル外リスクの根拠と解除条件 |
| モデル変更 | 改善か、恣意的な変更か |
| 開示 | 仮定・変更・感応度をどこまで説明するか |
これらの論点は、いずれも「ケースバイケース」で片づけてよいものではありません。判断の分岐点を明確にし、どの事実を確認すれば結論が変わるのかを、あらかじめ整理しておくことが大切です。
ECL測定は、信用リスク管理を財務報告へ翻訳する作業である
IFRS第9号のECL測定は、単なる会計計算ではありません。
企業が持っている信用リスク管理情報、与信審査、回収管理、担保管理、資金繰り、事業計画、経済見通し。これらを、財務報告上の見積りへと翻訳していく作業です。
ですから、ECL測定の品質は、会計部門だけで決まるものではありません。営業部門、与信管理部門、財務部門、経営企画部門、子会社管理部門、法務部門、外部評価者、そして監査人。こうした関係者との情報連携が欠かせません。
ECLを適切に測定するためには、次のような状態を整えておく必要があります。
| 必要な状態 | 内容 |
|---|---|
| 対象の網羅性 | 減損対象となる金融商品が漏れなく把握されている |
| データの正確性 | 債権残高、年齢表、回収実績、担保情報が正確である |
| モデルの妥当性 | 測定方法が金融商品の性質に合っている |
| 将来情報の反映 | 報告日時点の経済見通しが反映されている |
| 判断の一貫性 | SICR判定、ECL測定、開示がつながっている |
| 証拠化 | 監査・レビューに耐える資料が残っている |
| 更新可能性 | 翌期以降も継続して運用できる |
ECL測定が不十分なままだと、単に貸倒引当金の金額がずれるだけでは済みません。信用リスク管理、会計上の見積り、開示、内部統制、監査対応の弱さとして、表面に出てきます。
逆に、ECL測定のプロセスが整っている企業では、信用リスクの変化を早い段階で捉え、財務報告のうえでも説明可能な形で反映することができます。IFRS第9号のECLモデルは、まさにそのための仕組みなのです。
主な出典
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments
出典:IFRS Foundation|IFRS 9 Financial Instruments Illustrative Examples
出典:IFRS Foundation|IFRS 7 Financial Instruments: Disclosures
出典:IFRS Foundation|Post-implementation Review of IFRS 9—Impairment
この記事の振り返りと相談前整理
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| ECL測定の原則 | 偏りのない確率加重、時間価値、合理的で裏付け可能な情報を反映する |
| 信用損失 | 契約上受け取るべきキャッシュ・フローと受け取ると見込むキャッシュ・フローとの差額の現在価値 |
| 12か月ECL | 今後12か月の損失ではなく、12か月以内のデフォルトに起因する全期間損失 |
| 全期間ECL | 金融商品の予想存続期間全体のデフォルトに起因する損失 |
| PD | デフォルト確率。デフォルト定義、期間、格付け、将来調整との整合が重要 |
| LGD | デフォルト時損失率。担保、保証、回収コスト、回収期間を反映する |
| EAD | デフォルト時エクスポージャー。未使用枠や追加引出しも論点になる |
| 割引率 | 原則として当初認識時の実効金利またはその近似値を使う |
| 将来予測情報 | 過去実績を現在状況と将来経済状況の予測で調整する |
| 複数シナリオ | 非線形性がある場合、単一の基本シナリオでは不十分となる可能性がある |
| 経営者調整 | モデルで捕捉できないリスクを補正するが、根拠、金額、解除条件の資料化が必要 |
| 引当マトリクス | 営業債権で有用だが、過去損失率を将来予測情報で調整する必要がある |
| 個別評価・集合評価 | 大口・高リスクは個別評価、同質的な多数債権は集合評価を検討する |
| モデル検証 | バックテスト、実績乖離分析、仮定変更、内部統制の見直しが必要 |
| 開示 | IFRS第7号に基づき、インプット、仮定、見積技法、将来予測情報、モデル変更を説明する |
IFRS第9号のECL測定は、会計基準の理解だけで完結するものではありません。信用リスク管理、債権管理、事業計画、マクロ経済情報、監査証拠、開示説明を、一体のものとして整理していく必要があります。
貸付金、営業債権、グループ会社貸付金、リース債権、金融保証、ローンコミットメント。これらについて、PD・LGD・EADの設定、将来予測情報の反映、複数シナリオ、経営者調整、監査説明資料の整理に不安がある場合は、決算直前ではなく、モデル設計と資料化の段階で論点を可視化しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRS第9号に基づく金融資産の減損、ECL測定、会計上の見積り、開示、監査対応資料の整理について、ご相談をお受けしています。現在の金融資産の種類、測定方法、監査上の論点、開示対応の状況を整理したうえで、お問い合わせページよりご相談ください。