従業員給付の会計処理というと、給与、賞与、退職給付債務、年金資産といった典型論点にどうしても目が向きます。
ところが、実務で判断が難しくなるのは、むしろその中間にある給付です。早期退職制度、希望退職の募集、退職時の上乗せ給付、一定期間の勤務継続を条件とする特別加算金。あるいは、長期勤続休暇やサバティカル休暇、長期障害給付、長期インセンティブ、期末後12か月を超えて支払われる賞与や利益分配。こうした給付は、実務の現場でしばしば頭を悩ませます。
これらは「人件費をいつ費用計上するか」だけの問題ではありません。その給付は、従業員が提供した勤務の対価なのか、それとも雇用終了の対価なのか。将来の勤務を条件としているのか。企業は給付の申込みを撤回できるのか。リストラクチャリング引当金の認識時点と整合しているのか。12か月以内に決済されるのか。割引計算や見積り変更をどう反映するのか。ここを整理しないまま進めると、会計処理、表示、開示、監査対応、さらにはM&A・PMIにおける負債把握まで、いずれも大きくぶれてしまいます。
IAS第19号は、従業員給付を、短期従業員給付、退職後給付、その他の長期従業員給付、解雇給付の四つに分類し、株式に基づく報酬はIFRS第2号の対象としています。IFRS実務の上でも、その他の長期給付と解雇給付は、従業員給付のなかで独立した検討領域として位置づけられています。
この記事で扱う範囲
本稿では、IAS第19号のうち、次の二つを中心に取り上げます。
| 領域 | 主な内容 | 中心となる判断 |
|---|---|---|
| その他の長期従業員給付 | 長期勤続休暇、サバティカル休暇、長期障害給付、期末後12か月を超える賞与・利益分配、繰延報酬など | 勤務提供に応じて義務が発生しているか、12か月以内決済か、測定に割引・確率を反映すべきか |
| 解雇給付 | 企業都合退職、希望退職、早期退職、退職上乗せ給付、退職に伴う年金増額、勤務を伴わない通知期間給与など | 給付が勤務の対価か雇用終了の対価か、企業が申込みを撤回できない時点はいつか |
一方で、次の論点は別記事で主に扱います。
| 別記事で主に扱う論点 | 理由 |
|---|---|
| 通常の短期給与・賞与・有給休暇 | IAS第19号の短期従業員給付として、17-1で総論的に扱う領域 |
| 確定給付制度、退職給付債務、制度資産、数理差異 | 17-2の中心論点 |
| 株式報酬、譲渡制限付株式、ストック・オプション、業績連動株式報酬 | IFRS第2号を中心に、17-4・17-5で扱う領域 |
| リストラクチャリング引当金全般 | IAS第37号を中心に、16-3で扱う領域 |
| 労働法上の有効性、解雇規制、税務上の退職所得該当性 | 会計判断と関係するが、本稿では詳細な法務・税務判断までは踏み込まない |
ここで押さえておきたいのは、会計上の分類が、制度名や人事上の呼称だけでは決まらないという点です。「早期退職制度」「退職特別加算金」「リテンションボーナス」「長期インセンティブ」といった名称に引きずられるのではなく、その給付が何の対価として発生しているのかを基準に整理していく必要があります。
IAS第19号における従業員給付の分類
IAS第19号でいう従業員給付とは、従業員が提供した勤務、あるいは雇用の終了と交換に、企業が与えるすべての形態の対価を指します。その他の長期従業員給付は、短期従業員給付、退職後給付、解雇給付のいずれにも該当しない従業員給付と定義されます。解雇給付は、企業が通常の退職日前に雇用を終了する決定をした場合、または従業員が雇用終了と交換に給付を受け入れた場合に提供される給付です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
実務では、次の順序で分類していくと、誤りを防ぎやすくなります。
| 判断順序 | 確認する問い | 該当する分類 |
|---|---|---|
| 1 | 株式、ストック・オプション、自己株式、現金選択権付き株式報酬などか | IFRS第2号の株式に基づく報酬 |
| 2 | 雇用終了後に支払われる退職給付・年金・退職後医療などか | 退職後給付 |
| 3 | 雇用終了の対価として支払われるか | 解雇給付 |
| 4 | 勤務提供の対価で、関連勤務期間終了後12か月以内に全額決済見込みか | 短期従業員給付 |
| 5 | 勤務提供の対価で、12か月を超えて決済されるか | その他の長期従業員給付 |
この順序は、実務の上でかなり重要です。とりわけ、退職時に支払われる給付だからといって、そのすべてが解雇給付になるわけではありません。退職理由を問わず支払われる退職金や、定年退職時に通常支払われる給付は、雇用終了の対価というよりも、勤務期間にわたって稼得された退職後給付として整理されます。
その他の長期従業員給付とは何か
その他の長期従業員給付は、短期従業員給付、退職後給付、解雇給付のいずれにも当たらない従業員給付です。IAS第19号は、その例として、長期勤続休暇、サバティカル休暇、記念給付・長期勤続給付、長期障害給付、期末後12か月以内に全額決済されない利益分配・賞与、繰延報酬などを挙げています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
実務に照らして整理しても、その他の長期従業員給付には、長期勤続休暇、研究休暇、記念休暇、長期障害補償給付、そして期末から12か月以内にそのすべてが支払われるわけではない利益分配・賞与・繰延報酬などが含まれると考えられます。
実務上、その他の長期従業員給付に該当しやすいのは、次のような給付です。
| 給付の種類 | 実務上の例 | 判断上のポイント |
|---|---|---|
| 長期有給休暇 | 長期勤続休暇、リフレッシュ休暇、サバティカル休暇 | 権利が勤務に応じて累積するか、未消化分が将来に繰り越されるか |
| 長期勤続給付 | 永年勤続表彰金、勤続記念金、一定年数到達時の特別給付 | 一定年数到達までの勤務に応じて義務が発生するか |
| 長期障害給付 | 長期病気休職手当、長期障害補償 | 給付額が勤続年数に依存するか、障害発生時点で認識するか |
| 長期賞与・利益分配 | 決算後12か月を超えて支払われる業績賞与、複数年業績連動賞与 | 勤務条件、業績条件、支払予定時期、失効条件 |
| 繰延報酬 | 一定期間後に支払われる現金報酬、リテンション現金報酬 | 将来勤務条件があるか、株式報酬に該当しないか |
| 長期インセンティブ | 株式ではなく現金で支払う複数年インセンティブ | IFRS第2号の範囲か、IAS第19号の現金給付か |
ここで鍵になるのは、これらが「将来の勤務を受けるための費用」なのか、それとも報告日までに従業員がすでに提供した勤務に応じて企業に義務が生じているのか、という視点です。
その他の長期従業員給付の測定は、確定給付制度に似ているがOCIを使わない
IAS第19号は、その他の長期従業員給付について、確定給付制度と類似した測定方法を用います。ただし、退職後給付ほど不確実性が高くないことを前提に、会計処理そのものは簡素化されています。再測定も、その他の包括利益ではなく純損益に認識されます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
つまり、退職給付債務に近い現在価値測定の発想を用いながらも、損益認識の扱いは確定給付制度とは異なる、というわけです。
| 項目 | 確定給付制度 | その他の長期従業員給付 |
|---|---|---|
| 測定方法 | 予測単位積増方式等により現在価値測定 | 類似の測定アプローチを適用 |
| 割引 | 重要な場合に反映 | 重要な場合に反映 |
| 勤務費用 | 純損益 | 純損益 |
| 利息純額 | 純損益 | 純損益 |
| 再測定 | その他の包括利益 | 純損益 |
| OCIの使用 | あり | 原則なし |
| 開示 | 詳細な確定給付制度注記 | IAS第19号固有の詳細開示は限定的。ただし他基準で要求される場合あり |
この違いは、財務諸表上の表示や経営者への説明の場面で効いてきます。確定給付制度の数理差異はOCIに認識される一方、その他の長期給付の再測定は純損益に入るからです。したがって、長期インセンティブや長期勤続給付の見積りが変わる場合には、営業利益、税引前利益、KPIへの影響をあらかじめ整理しておく必要があります。
その他の長期従業員給付で確認すべき実務論点
その他の長期従業員給付では、次のような観点を整理していきます。
| 論点 | 確認事項 |
|---|---|
| 給付の性質 | 勤務の対価か、雇用終了の対価か、株式報酬か |
| 決済時期 | 関連勤務期間終了後12か月以内に全額決済される見込みか |
| 勤務条件 | 給付を受けるために将来勤務が必要か |
| 権利確定条件 | 勤続年数、在籍条件、業績条件、懲戒・退職時失効条件 |
| 支払額の見積り | 固定額か、給与・業績・評価に連動するか |
| 支払確率 | 退職率、失効率、達成確率、障害発生確率 |
| 割引 | 支払時期が長期であり、時間価値が重要か |
| 再測定 | 見積り変更・実績差異を純損益に反映しているか |
| 税効果 | 費用認識時期と税務上の損金算入時期が異なるか |
| 開示 | 従業員給付費用、見積りの不確実性、関連当事者報酬との関係 |
会計上の見積りとは、将来事象に依存して金額が確定できない場合に、期末時点の合理的な仮定に基づいて金額を見積もることをいいます。そこには経営者の偏向や不確実性がつきまとうため、監査の場でも詳細な説明を求められることがあります。
その他の長期従業員給付は、まさにこの会計上の見積りに該当しやすい領域です。特に、複数年業績連動賞与、長期インセンティブ、長期休暇、長期障害給付では、従業員データ、勤続年数、権利確定条件、失効率、支払時期、割引率、業績達成見込みを、監査証拠として整えておくことが求められます。
長期休暇・長期勤続給付の認識
長期勤続休暇、サバティカル休暇、永年勤続表彰金といった給付は、従業員が一定期間勤務することによって権利を得るものです。
したがって、会計処理でも、給付が実際に支払われる時点ではなく、従業員が勤務を提供する期間にわたって義務を認識していきます。権利が累積し、将来の休暇取得や現金支給につながる場合には、報告日までに従業員が提供した勤務に対応する部分を、負債として測定することになります。
実務上は、次の点が問題になりやすいところです。
| 論点 | 実務上の整理 |
|---|---|
| 権利の累積 | 勤続年数に応じて給付権利が積み上がる場合、勤務提供に応じて負債を認識する |
| 未消化権利 | 未使用休暇が繰り越される場合、将来使用見込みを反映する |
| 失効条件 | 退職時に失効する場合、退職率や失効率を見積りに反映する |
| 支払形態 | 休暇付与か、現金支給か、福利厚生給付かを整理する |
| 支払時期 | 12か月を超えて決済される場合、その他の長期従業員給付として扱う |
| 割引 | 決済までの期間が長く、影響が重要な場合は割引を検討する |
長期休暇は、金額的な重要性が小さいと見過ごされがちです。しかし、海外子会社を含むグループでは、国や地域ごとに長期休暇制度、勤続表彰制度、休職制度がそれぞれ異なります。IFRS連結の上では、各社のローカル制度を単純に足し合わせるのではなく、IAS第19号上の分類と測定に引き直す作業が欠かせません。
長期障害給付の判断
長期障害給付について、IAS第19号は、給付額が勤務期間に依存する場合には、勤務提供に応じて義務が発生するとし、その測定には支払が必要となる確率と支払見込期間を反映するとしています。一方、勤務年数にかかわらず給付水準が同じ場合には、長期障害を引き起こす事象が発生した時点で予想コストを認識します。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
この考え方は、実務では非常に重要です。
| 給付設計 | 会計上の考え方 |
|---|---|
| 勤続年数に応じて障害給付が増える | 従業員の勤務に応じて義務が発生する |
| 障害発生時点で一律の給付が支払われる | 障害発生事象が起きた時点で義務を認識する |
| 給与水準に連動する | 将来給与・給付額の見積りが必要になる |
| 長期間にわたり支払われる | 割引、死亡率、回復可能性、支払期間の見積りが必要になる |
| 保険でカバーされる | 保険契約に基づく権利や補填請求権、費用・収益の表示を確認する |
長期障害給付は、労務・福利厚生制度として管理されていることが多く、会計部門が制度の中身を十分に把握できていないケースも見受けられます。それでも、支払が長期に及ぶ場合や、海外制度に重要性がある場合には、IAS第19号上の負債測定が必要になります。
長期インセンティブ・繰延報酬の分類
長期インセンティブは、株式報酬と現金報酬の境界で誤りやすい領域です。
株式、ストック・オプション、自己株式、親会社株式、株価連動現金決済などが絡む場合には、まずIFRS第2号の範囲を検討します。IFRS第2号では、適用範囲の広さ、分類に基づく会計処理、個別取引ごとの取決め判断、資本・負債の測定の難しさが、主要な論点として整理されています。
一方、株式に基づく報酬ではなく、現金で支払われる複数年インセンティブ、複数年業績賞与、繰延現金報酬であれば、IAS第19号のその他の長期従業員給付として検討することになります。
| 報酬制度 | 主な適用基準 |
|---|---|
| 現金固定額の長期リテンション報酬 | IAS第19号 |
| 複数年業績に連動する現金賞与 | IAS第19号 |
| 自社株式を交付する報酬 | IFRS第2号 |
| 親会社株式を交付する報酬 | IFRS第2号を検討 |
| 株価に連動して現金決済する報酬 | IFRS第2号またはIAS第19号の範囲を慎重に判断 |
| 退職を条件とする特別加算金 | IAS第19号の解雇給付または退職後給付を検討 |
| 一定期間の勤務継続を条件とする退職加算 | 勤務の対価部分と解雇給付部分を区分する可能性 |
長期インセンティブの会計処理では、「長期」「インセンティブ」という名称よりも、決済方法、権利確定条件、勤務条件、業績条件、株式価値との連動、失効条件を一つひとつ確認していくことが求められます。
解雇給付とは何か
IAS第19号における解雇給付とは、雇用終了と交換に提供される従業員給付です。企業が通常の退職日前に従業員の雇用を終了する決定をした場合、または従業員が雇用終了と交換に企業の給付申込みを受け入れた場合に生じます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
解雇給付の本質は、それが「勤務提供の対価」ではなく「雇用終了の対価」である点にあります。IAS第19号が解雇給付を他の従業員給付と分けて扱うのも、義務を生じさせる事象が、従業員の勤務ではなく雇用の終了だからです。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
実務上、解雇給付に当たり得るのは、次のような給付です。
| 給付 | 解雇給付となる可能性 |
|---|---|
| 会社都合退職に伴う特別退職金 | 高い |
| 希望退職募集に伴う割増退職金 | 高い |
| 早期退職制度における雇用終了の対価 | 高い |
| 工場閉鎖・事業撤退に伴う退職補償 | 高い |
| 退職に伴う年金給付の増額 | 内容により解雇給付または退職後給付 |
| 通知期間中の給与 | 勤務提供がない場合は解雇給付となり得る |
| 在籍継続を条件とするリテンション報酬 | 勤務の対価として扱う可能性が高い |
| 定年退職金 | 原則として退職後給付 |
| 従業員都合退職時にも支払われる通常退職金 | 原則として退職後給付 |
解雇給付かどうかは、人事制度上の呼称ではなく、その給付が雇用終了と交換に提供されるものかどうかで判断します。
退職時に支払う給付でも、解雇給付とは限らない
退職時に支払われる給付は、直感的にはつい「解雇給付」と考えたくなります。しかし、IAS第19号では、退職理由を問わず支払われる給付や、定年退職など一定の退職要件によって支払われる給付は、解雇給付ではなく退職後給付として扱われることがあります。
IAS第19号は、従業員からの退職申出により支払われる給付や、強制退職要件による給付については、企業の給付申込みに基づく雇用終了の対価ではないため、解雇給付には含めず、退職後給付として扱うとしています。また、退職理由にかかわらず支払われる給付は、たとえ支払時期が不確実であっても、解雇給付ではなく退職後給付として処理するとしています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
この区分は、次のように整理できます。
| 給付の性質 | 分類 |
|---|---|
| 通常の退職金規程に基づき、定年・自己都合・会社都合を問わず支払われる給付 | 退職後給付 |
| 会社都合退職の場合にのみ通常退職金に上乗せされる給付 | 上乗せ部分は解雇給付となる可能性 |
| 希望退職に応募した従業員に支払われる割増金 | 解雇給付となる可能性 |
| 従業員が一定期間勤務しないと支払われない上乗せ額 | 勤務の対価部分として区分する可能性 |
| 退職時に年金額を増額する措置 | 解雇給付として認識後、退職後給付の測定ルールを適用する可能性 |
この判断を誤ると、認識時点、測定方法、純損益への影響、そして退職給付債務との関係まで変わってきます。
解雇給付の認識時点
IAS第19号では、解雇給付に係る負債および費用を、次のいずれか早い日に認識します。一つは、企業がその給付の申込みを撤回できなくなった日。もう一つは、IAS第37号の範囲に含まれるリストラクチャリングで、解雇給付の支払いを伴うものについて、企業がリストラクチャリング費用を認識する日です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
このうち「撤回できなくなった日」が、実務上の中心論点になります。
| 解雇給付の類型 | 企業が撤回できなくなる時点 |
|---|---|
| 従業員の応募・受諾に基づく希望退職 | 従業員が申込みを受け入れた時点、または撤回制限が発効した時点のいずれか早い時点 |
| 企業が一方的に雇用終了を決定する場合 | 影響を受ける従業員に、一定の要件を満たす解雇計画を伝達した時点 |
| 法令・労働協約・契約により撤回不能となる場合 | その法的・契約上の制限が発効した時点 |
| リストラクチャリングと一体の場合 | IAS第37号上のリストラクチャリング費用認識時点との整合を確認 |
企業が意思決定をしたからといって、直ちに解雇給付を認識できるとは限りません。取締役会決議、経営会議決定、人員削減方針の内部承認があっても、それだけでは従業員に対する現在の義務が発生していない場合があります。あくまで問われるのは、企業が実質的に撤回できなくなったかどうかです。
企業都合の解雇計画で必要となる要件
企業が従業員の雇用終了を決定する場合、IAS第19号では、影響を受ける従業員に解雇計画を伝達し、その計画が一定の内容を満たしたときに、企業が給付申込みを撤回できなくなったと判断します。
具体的には、その計画について、重要な変更が行われる可能性が低いこと、雇用終了の対象者の人数、職務分類または機能、勤務地、完了予定日を識別していること、そして従業員が受け取る給付の種類と金額を判断できる程度に詳細であることが求められます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
実務では、次のような資料が監査証拠になります。
| 証拠資料 | 確認内容 |
|---|---|
| 取締役会・経営会議議事録 | 解雇計画の承認内容、対象範囲、実行方針 |
| 従業員向け通知 | 計画が従業員に伝達された日、内容の具体性 |
| 対象者リスト | 人数、職務、勤務地、雇用区分、対象条件 |
| 給付条件表 | 給付の種類、計算方法、上乗せ額、支払時期 |
| 募集要項 | 申込期間、撤回可否、応募条件、会社の承認権 |
| 労働組合・従業員代表との合意 | 合意時点、法的拘束力、撤回制限 |
| 法務確認メモ | 労働法・契約上の撤回可能性 |
| 予算・事業計画 | リストラクチャリング施策との整合性 |
「おおむね何人程度を削減する予定」といった内部方針だけでは、認識要件を満たすとは限りません。対象者、給付内容、完了時期、撤回可能性が、従業員にとって十分に具体的な形で示されているかどうかを見極める必要があります。
将来勤務を条件とする給付は、解雇給付ではなく勤務の対価となることがある
早期退職制度や工場閉鎖の場面では、従業員に一定期間の勤務継続を求めることがあります。閉鎖日まで勤務した従業員に追加金を支払う、引継ぎ完了まで在籍した場合に特別加算金を支払う、一定期間の勤務を条件に割増額を増やす、といった設計です。
IAS第19号は、給付が将来勤務を条件としている場合や、将来勤務によって給付額が増える場合、その給付は勤務の対価であることを示す指標になるとしています。IFRS解釈委員会も、給付が所定の勤務期間の完了を完全に条件としているなら、それは雇用終了の対価ではなく勤務の対価である、との考え方を示しています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
IAS第19号の設例でも、工場閉鎖に伴って全従業員に支払われる基本的な退職給付部分は解雇給付として扱う一方で、閉鎖日まで勤務した従業員に追加で支払われる部分は、勤務の対価として勤務期間にわたり費用認識する、という考え方が示されています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
そのため早期退職制度では、給付を一括して「解雇給付」と処理するのではなく、次のように分解する必要があります。
| 給付部分 | 会計上の扱い |
|---|---|
| 退職に応じること自体への対価 | 解雇給付 |
| 退職日まで勤務することへの追加対価 | 短期従業員給付またはその他の長期従業員給付 |
| 通常退職金規程に基づく給付 | 退職後給付 |
| 退職後給付制度の増額 | 退職後給付の測定ルールを適用 |
| 株式報酬の権利確定条件変更 | IFRS第2号を検討 |
この分解を怠ると、費用認識の時点が早すぎたり、逆に遅すぎたりします。特に、勤務継続を条件とする割増給付を一括で費用化してしまうと、本来なら将来勤務に対応するはずの費用を、前倒しで計上しかねません。
解雇給付の測定
IAS第19号では、解雇給付を、その給付の性質に応じて測定します。解雇給付が退職後給付の増額に当たる場合には、退職後給付の要求事項を適用します。それ以外の場合は、解雇給付を認識した年度末後12か月以内に全額決済される見込みであれば短期従業員給付の要求事項を、12か月を超える場合にはその他の長期従業員給付の要求事項を適用します。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
測定の考え方を整理すると、次のとおりです。
| 解雇給付の性質 | 測定方法 |
|---|---|
| 12か月以内に全額決済される現金給付 | 割引せずに支払見込額で測定 |
| 12か月を超えて決済される現金給付 | その他の長期従業員給付として現在価値測定を検討 |
| 退職後給付制度の増額 | 退職後給付の測定方法に従う |
| 給付額が応募者数に依存する | 応募・受諾見込みを反映 |
| 法令・協約により最低額が定まる | 法的義務と上乗せ部分を区分 |
| 将来勤務条件付きの追加給付 | 勤務の対価として勤務期間にわたり認識 |
解雇給付は勤務の対価ではないため、IAS第19号の、勤務期間への給付帰属に関する規定は適用されません。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
この点は、退職給付債務の測定とは大きく異なります。退職給付債務では従業員の勤務期間に給付を帰属させますが、解雇給付は雇用終了の対価であるため、認識要件を満たした時点で、負債と費用を認識します。
リストラクチャリング引当金との関係
解雇給付は、事業撤退、拠点閉鎖、組織再編、人員削減といったリストラクチャリングと一体で発生することがあります。その場合には、IAS第19号とIAS第37号の関係を整理しておかなければなりません。
IAS第37号では、リストラクチャリング引当金は、引当金の一般認識要件を満たす場合にのみ認識されます。リストラクチャリングに係る推定的義務が生じるのは、詳細な公式計画があり、かつ、その計画の実行開始または主要内容の公表によって、影響を受ける者に、企業がリストラクチャリングを実行するとの妥当な期待を生じさせた場合です。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets
IAS第37号が求める詳細な公式計画には、対象事業、主要拠点、補償を受ける従業員の勤務地・職務・概算人数、発生する支出、実施時期などが含まれます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets
ただし、リストラクチャリングに関連する支出を、すべて引当金に含められるわけではありません。IAS第37号では、引当金に含める支出は、リストラクチャリングに必然的に伴い、かつ企業の継続活動に関連しない直接支出に限られます。継続従業員の再訓練・配置転換、マーケティング、新システムや販売網への投資、将来の営業損失などは、原則としてリストラクチャリング引当金には含めません。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets
これらの関係を整理すると、次のようになります。
| 支出項目 | 主な会計処理 |
|---|---|
| 雇用終了と交換に支払う退職割増金 | IAS第19号の解雇給付 |
| 会社都合退職に伴う年金増額 | IAS第19号の退職後給付測定を適用 |
| 閉鎖拠点の原状回復費 | IAS第37号またはIFRS第16号等を検討 |
| 不利な契約の違約金 | IAS第37号の不利な契約 |
| 継続従業員の再訓練費 | 原則として発生時費用 |
| 新システム投資 | 資産計上または費用処理を別基準で判断 |
| 将来営業損失 | 引当金計上不可。減損の兆候として検討 |
| 店舗・工場閉鎖に伴う減損 | IAS第36号を検討 |
減損の場面でも、IAS第37号によってリストラクチャリング引当金が認識されているかどうかによって、CGUの使用価値にリストラクチャリングのコスト・便益を含めるかどうかは変わってきます。
つまり、解雇給付、リストラクチャリング引当金、減損テスト、売却目的保有、税効果は、それぞれ独立した論点ではありません。人員削減施策を決めた場合には、IAS第19号だけでなく、IAS第37号、IAS第36号、IFRS第5号、IAS第12号への影響を、同時に整理しておく必要があります。
希望退職・早期退職制度で迷いやすい判断
希望退職制度では、企業が従業員に退職を促し、応募者に対して通常退職金に加えて割増給付を支払うことがあります。この場合、認識時点は制度の発表日とは限りません。
従業員が応募を受け入れるタイプの解雇給付については、企業が申込みを撤回できなくなる時点は、従業員が申込みを受け入れた時点か、法令・契約・規制等による撤回制限が発効した時点か、そのいずれか早い時点になります。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
実務では、次の点を確認します。
| 確認事項 | 会計上の意味 |
|---|---|
| 募集要項に会社の承認権があるか | 応募だけで撤回不能とはいえない可能性 |
| 応募後に従業員が撤回できるか | 応募者数見積りに影響 |
| 会社が募集自体を撤回できるか | 負債認識時点に影響 |
| 労働組合・従業員代表との合意があるか | 撤回可能性に影響 |
| 対象者が限定されているか | 測定の信頼性に影響 |
| 募集期間が長期か | 新たな従業員給付制度の設定かを検討 |
| 応募後も一定期間勤務が必要か | 勤務の対価部分を区分する可能性 |
「募集を発表したから全額費用計上」「応募が締め切られるまで一切認識しない」といった単純な処理は危険です。制度の法的拘束力、撤回可能性、応募条件、勤務条件、承認プロセスを、一つひとつ具体的に確認する必要があります。
解雇給付と解雇後の勤務継続給付を分ける
早期退職制度では、従業員が退職日まで勤務を続けることを条件に、追加給付が支払われることがあります。この追加給付は、雇用終了の対価ではなく、退職日までの勤務の対価として扱われる可能性があります。
実務では、給付を次のように分けて考えると、判断がしやすくなります。
| 給付内容 | 会計上の見方 |
|---|---|
| 退職に応じた時点で支払われる最低保証額 | 解雇給付 |
| 退職日まで勤務した場合にのみ増額される部分 | 勤務の対価 |
| 引継ぎ完了を条件とする特別加算 | 勤務またはサービス提供の対価 |
| 競業避止義務に対する支払 | IAS第19号以外の契約対価として検討する可能性 |
| 再就職支援サービス | 解雇給付またはサービス契約の性質を確認 |
| 未消化有給休暇の買取 | 短期またはその他の長期従業員給付 |
この区分は、損益計上の時期だけでなく、内部管理にも影響します。退職施策のコストを一時費用として説明するのか、退職日までの勤務に対応する人件費として配分するのか。その扱い方によって、月次損益、事業別損益、経営指標、予算管理の見え方が変わってくるからです。
解雇給付と引当金の関係を混同しない
日本基準の引当金実務では、将来の特定の費用または損失であり、当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、金額を合理的に見積もることができる場合に、引当金を計上するという考え方が整理されています。
IFRSでも、負債認識の基本には、現在の義務、経済的便益の流出可能性、信頼性ある見積りという発想があります。ただし解雇給付については、IAS第19号が具体的な認識時点を定めています。したがって、「人員削減を予定している」「将来退職者が出る可能性が高い」「経営上必要な施策である」というだけでは、解雇給付負債を認識することはできません。
会計上は、次の点を切り分けておく必要があります。
| 状況 | 会計処理上の注意点 |
|---|---|
| 将来の人員削減方針を内部決定しただけ | 通常、解雇給付負債を認識するには不十分 |
| 詳細な計画を従業員に通知し、企業が撤回困難 | 解雇給付の認識を検討 |
| 従業員が希望退職に応募し、会社が撤回不能 | 応募者に係る解雇給付を認識 |
| 継続従業員の再配置・教育費 | リストラクチャリング引当金に含めないことが多い |
| 将来赤字見込み | 引当金ではなく減損兆候として検討 |
| 不利な契約が存在 | IAS第37号の不利な契約として検討 |
解雇給付は、「引当金を積むかどうか」という問題ではありません。IAS第19号上の従業員給付として、どの時点で企業が現在の義務を負ったのかを判断する領域です。
表示・開示上の留意点
IAS第19号は、その他の長期従業員給付や解雇給付について、確定給付制度のような詳細な固有開示を直接求めているわけではありません。ただし、IAS第24号では経営幹部報酬について従業員給付の種類別開示が求められる場合があり、IFRS第18号では従業員給付費用の開示要求が関連してきます。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 19 Employee Benefits
また、IAS第37号は、引当金・偶発負債・偶発資産について、利用者がその性質、時期、金額を理解できるよう、十分な注記情報を提供することを目的としています。出典:IFRS Foundation|International Accounting Standard 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets
実務では、重要性に応じて次のような情報を整理します。
| 開示・説明項目 | 内容 |
|---|---|
| 給付の性質 | 解雇給付、その他の長期給付、退職後給付、株式報酬の区分 |
| 認識時点 | 企業が撤回不能となった時点、従業員の受諾時点、リストラクチャリング認識時点 |
| 金額 | 費用計上額、負債計上額、支払済額、未払残高 |
| 測定前提 | 対象人数、応募率、退職率、支払時期、割引率、業績達成率 |
| 表示科目 | 人件費、リストラクチャリング費用、その他費用、特別項目的表示の有無 |
| キャッシュ・フロー | 支払時期、翌期以降の支出見込み |
| 関連当事者 | 経営幹部に対する解雇給付・長期給付 |
| 税効果 | 税務上の損金算入時期との差異 |
| 後発事象 | 期末後に計画が公表・受諾された場合の取扱い |
| 監査上の見積り | 見積りの不確実性、感応度、内部統制 |
開示は、基準の要求項目を単に埋める作業ではありません。財務諸表利用者が、当期損益に含まれる一過性費用、将来のキャッシュ・アウトフロー、事業再編の実行状況、人的資本への影響を理解できるように設計してこそ、意味を持ちます。
M&A・PMI・事業再編での実務上の重要性
解雇給付やその他の長期従業員給付は、M&AやPMIの場面で重要な論点になります。
買収対象会社に、未認識の長期インセンティブ、長期勤続給付、未払賞与、早期退職制度、役員・従業員向けの退職加算、Change in Control条項、リテンションボーナスがある場合、それらは買収価格、Net Debt調整、Debt-like item、PPA、のれん、PMIコスト、将来キャッシュ・フローに影響します。
PPAでは、取得した資産と引き継いだ負債の公正価値評価が行われ、取得原価から資産・負債の時価を差し引いた残余として、のれんが認識されます。したがって、人的関連債務や未認識の従業員給付を適切に把握しておかないと、取得日時点の負債、取得後費用、のれんの説明に影響が及びます。
M&A・PMIでは、次の観点を確認します。
| 確認項目 | 実務上の影響 |
|---|---|
| 未払賞与・長期賞与 | Working Capital調整、Debt-like item、取得後費用 |
| 長期インセンティブ | 取得日前後の勤務帰属、権利確定条件、株式報酬該当性 |
| 希望退職制度 | 解雇給付の認識時点、取得日前後の費用帰属 |
| 退職金上乗せ | 退職後給付か解雇給付か |
| Change in Control給付 | 取得に伴う義務か、取得後勤務の対価か |
| リテンションボーナス | 将来勤務の対価として取得後費用となる可能性 |
| PMI人員削減 | IAS第19号、IAS第37号、IFRS第3号の関係整理 |
| 海外子会社制度 | ローカル制度のIFRS組替、通貨、税務、労働法上の制約 |
特に、買収後に実施する人員削減計画については、取得日時点の負債として認識できるのか、それとも取得後のリストラクチャリング費用となるのかを、慎重に見極める必要があります。買収前から対象会社に現在の義務が存在していたのか、それとも取得企業の将来計画にすぎないのか。ここで会計処理が分かれます。
内部統制・監査対応で整えるべき資料
解雇給付とその他の長期従業員給付は、人事部門、法務部門、経営企画、財務経理、税務、監査人のあいだで、情報が分散しやすい領域です。だからこそ、会計処理そのものだけでなく、資料の整備と内部統制が重要になります。
| 領域 | 整えるべき資料 |
|---|---|
| 制度内容 | 就業規則、給与規程、退職金規程、長期休暇規程、賞与規程、インセンティブ規程 |
| 解雇給付 | 募集要項、対象者リスト、通知文、応募・受諾状況、撤回可否、労使合意 |
| リストラクチャリング | 取締役会資料、詳細計画、対象拠点、支出見積り、実施時期 |
| 測定 | 対象人数、支給単価、応募率、失効率、退職率、割引率、支払時期 |
| 長期給付 | 勤続年数データ、休暇残高、権利確定条件、業績条件、支払予定 |
| 税務 | 損金算入時期、源泉徴収、退職所得・給与所得の区分、繰延税金 |
| 表示・開示 | 費用科目、負債科目、注記、関連当事者、後発事象 |
| 監査対応 | 判断メモ、基準参照、代替案、結論、未解決事項 |
監査対応では、結論そのものだけでなく、なぜその給付を解雇給付、その他の長期給付、退職後給付、短期給付、株式報酬のいずれに分類したのかを、きちんと説明できることが重要です。
実務判断メモに含めるべき項目
解雇給付・その他の長期従業員給付については、次のような論点整理メモを用意しておくと、監査対応や専門家への相談がスムーズになります。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 取引・制度の概要 | 制度目的、対象者、支給条件、支払時期、決定プロセス |
| 適用基準 | IAS第19号、IAS第37号、IFRS第2号、IAS第12号等 |
| 分類判断 | 解雇給付、その他の長期給付、退職後給付、短期給付、株式報酬の区分 |
| 認識時点 | 勤務提供時点、撤回不能時点、従業員受諾時点、リストラクチャリング認識時点 |
| 測定方法 | 支払見込額、確率、割引、勤務期間配分、見積り変更 |
| 将来勤務条件 | 勤務継続条件、業績条件、失効条件、追加給付の有無 |
| リストラクチャリングとの関係 | IAS第37号の認識要件、直接支出、除外すべき支出 |
| 表示・開示 | 純損益、OCIの有無、注記、関連当事者、後発事象 |
| 税効果 | 会計処理と税務処理の差異、繰延税金の要否 |
| 監査証拠 | 規程、通知、受諾、議事録、法務確認、人員データ、計算資料 |
| 未解決事項 | 監査人・外部専門家と協議すべき論点 |
このメモでは、「制度名」ではなく「給付の対価性」を軸に整理することが大切です。勤務の対価なのか、雇用終了の対価なのか。将来勤務を条件としているのか。企業が撤回できるのか。この三つが、会計処理の分岐点になります。
まとめ|解雇給付とその他の長期給付は、人事施策を財務報告へ変換する判断領域である
解雇給付とその他の長期従業員給付は、人事制度や事業再編に付随する、副次的な会計処理ではありません。
長期休暇、長期勤続給付、長期障害給付、長期インセンティブについては、従業員の勤務に応じて企業に義務が生じているかどうかを、丁寧に見極める必要があります。解雇給付は、雇用終了と交換に提供される給付であり、企業が申込みを撤回できなくなった時点、または関連するリストラクチャリング費用を認識した時点で、負債・費用の認識を検討します。
とりわけ、早期退職制度や希望退職の募集では、退職の対価部分と将来勤務の対価部分を分けて考えることが重要です。リテンション目的の上乗せ給付、閉鎖日までの勤務継続を条件とする追加給付、退職後給付制度の増額、通常退職金、株式報酬は、それぞれ異なる会計処理につながっていきます。
また、リストラクチャリング引当金との関係では、IAS第37号の詳細な公式計画、影響を受ける者への妥当な期待、直接支出の範囲、将来営業損失の除外を確認しなければなりません。人員削減施策は、IAS第19号、IAS第37号、IAS第36号、IFRS第5号、IAS第12号にまたがる、横断的な論点になり得ます。
解雇給付、早期退職制度、長期インセンティブ、長期休暇、リストラクチャリングに伴う人件費について、会計処理、認識時点、測定、開示、監査対応資料の整理に迷われる場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページよりご相談ください。制度内容、契約条件、経営者の意思決定、従業員への通知、撤回可能性、見積り前提、開示まで含めて、説明可能なIFRS実務判断として整理いたします。
振り返り
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| その他の長期従業員給付 | 短期給付、退職後給付、解雇給付以外で、関連勤務期間終了後12か月以内に全額決済されない給付 |
| 具体例 | 長期勤続休暇、サバティカル休暇、長期障害給付、長期賞与、繰延報酬、現金型長期インセンティブ |
| 測定 | 確定給付制度に類似した測定を行うが、再測定はOCIではなく純損益に認識する |
| 長期障害給付 | 勤続年数に依存する場合は勤務提供に応じて認識し、一律給付の場合は障害発生事象で認識する |
| 解雇給付 | 勤務の対価ではなく、雇用終了の対価として支払われる従業員給付 |
| 退職後給付との違い | 退職理由にかかわらず支払われる通常退職金や定年退職給付は、原則として解雇給付ではなく退職後給付 |
| 認識時点 | 企業が給付申込みを撤回できなくなった時点、またはIAS第37号上のリストラクチャリング費用認識時点のいずれか早い時点 |
| 企業都合の解雇計画 | 対象人数、職務・機能、勤務地、完了予定日、給付内容が十分に具体化され、従業員に伝達されているかを確認する |
| 希望退職制度 | 従業員の受諾、会社の承認権、撤回制限、募集期間、勤務継続条件を確認する |
| 将来勤務条件 | 勤務継続を条件に増額される部分は、解雇給付ではなく勤務の対価として処理する可能性がある |
| 測定 | 12か月以内決済なら短期給付の測定、12か月超ならその他の長期給付の測定、退職後給付の増額なら退職後給付の測定を適用する |
| リストラクチャリング | IAS第37号の詳細な公式計画、妥当な期待、直接支出の範囲を確認する |
| 引当金との違い | 将来の人員削減予定だけでは不十分で、IAS第19号上の撤回不能時点を確認する |
| 監査対応 | 規程、通知、受諾状況、議事録、人員データ、計算資料、法務確認、表示・開示資料を整える |
| M&A・PMI | 未認識の長期給付、早期退職制度、リテンションボーナス、Change in Control給付は、取得価格・PPA・取得後損益に影響する |