IFRSにおける1株当たり利益と希薄化の実務判断|IAS第33号の分子・分母・潜在株式・開示

1株当たり利益、いわゆるEPSは、単なる株価指標ではありません。

IFRS財務諸表におけるEPSは、普通株式1株に帰属する企業業績を、比較可能な形で財務諸表利用者に示すための表示項目です。株価分析や投資判断そのものを担う指標というより、当期の業績を「普通株主に帰属する利益」と「普通株式数」という2つの要素に分解し、資本構成の変化や潜在的な希薄化を織り込んで説明するための、財務報告上の指標と捉えておくのがよいでしょう。

IAS第33号は、このEPSの算定と表示に関する原則を定めた基準です。同一期間における企業間の比較や、同一企業の期間比較を改善することを目的としています。基準自体も、EPSには利益数値の決定に用いる会計方針の違いによる限界がある一方で、分母を一貫して決定することが財務報告の質を高める、と位置づけています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

実務で難しいのは、計算式そのものではありません。

分子にどの利益を使うのか。分母にどの株式数を含めるのか。優先株式、転換社債、新株予約権、ストック・オプション、業績条件付株式、逆取得、子会社の潜在株式をどう扱うのか。希薄化効果と逆希薄化効果を、どの順序で判断するのか。そして、表示や注記でどこまで説明すべきか。

こうした点を整理しておかなければ、EPSは一見正しく計算されているように見えても、財務諸表利用者に対して説明可能な数値にはなりません。

本稿では、IFRSにおける1株当たり利益と希薄化の実務判断を、IAS第33号を中心に整理します。取り上げるのは、基本的1株当たり利益、希薄化後1株当たり利益、潜在株式、株式報酬、逆取得、そして表示・開示です。株価分析や企業価値評価、投資判断そのものは、本稿では扱いません。

目次

EPSは「親会社の普通株主に帰属する業績」を測る指標

EPSを検討するときは、まず「誰に帰属する利益を、どの株式数で割るのか」を明確にしておく必要があります。

IAS第33号におけるEPSは、親会社の普通株主に帰属する利益を基礎とします。連結財務諸表を前提とする場合でも、連結純利益をそのまま用いるわけではありません。非支配持分を控除した後の、親会社の普通株主に帰属する利益が出発点になります。

この点は、EPSをグループ全体の業績指標として見るうえで重要です。連結財務諸表には、親会社株主以外の持分、すなわち非支配持分に帰属する利益も含まれています。しかしEPSは普通株式1株に帰属する利益を示す指標ですから、親会社の普通株主に帰属しない部分を分子に含めることはできません。

IAS第33号は、基本的EPSについて、親会社の普通株主に帰属する純損益、また表示される場合には継続事業からの純損益について計算することを求めています。基本的EPSは、親会社の普通株主に帰属する純損益を、当期中の加重平均普通株式数で除して算定します。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

ここでいう「普通株主」は、すべての株主を指すわけではありません。普通株式とは、他の種類の資本性金融商品が利益に参加した後に、残余の利益に参加する資本性金融商品です。優先株式、参加型資本性金融商品、複数種類株式がある場合には、どの株式がIAS第33号上の普通株式に該当し、どの持分が普通株主に帰属するのかを、あらかじめ整理しておく必要があります。

IAS第33号の適用対象

IAS第33号が適用されるのは、普通株式または潜在的普通株式が公開市場で取引されている企業、あるいは公開市場で普通株式を発行する目的で財務諸表を証券規制当局等に提出している企業です。加えて、EPSを任意に開示する企業も、IAS第33号に従ってEPSを計算・開示する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

実務上は、上場会社や上場準備会社にとどまりません。IFRS連結財務諸表を作成するグループ、海外投資家向けに財務情報を提供する企業、M&Aや資本政策を進めている企業でも、EPSの整理が重要になります。

とりわけ、次のような取引がある場合には、EPSを単なる開示項目として決算末まで後回しにするのは危険です。

  • 転換社債型新株予約権付社債を発行している
  • 優先株式や参加型株式を発行している
  • ストック・オプションや譲渡制限付株式を付与している
  • 業績条件付株式報酬を導入している
  • 自己株式の取得・処分を行っている
  • 株式分割、株式併合、無償交付、ライツ・イシューを行っている
  • 株式対価M&Aや逆取得がある
  • 子会社、共同支配企業、関連会社が潜在株式を発行している
  • 非継続事業を表示している

EPSは、資本取引、金融商品分類、株式報酬、企業結合、連結、表示・開示が交差する領域です。だからこそ、決算末に機械的に計算するのではなく、資本政策や契約設計の段階から、分子・分母・希薄化への影響を意識しておきたいところです。

基本的1株当たり利益の分子

基本的EPSの分子は、親会社の普通株主に帰属する利益です。

この分子を決めるうえで押さえておきたいのは、「親会社に帰属する利益」と「普通株主に帰属する利益」は必ずしも一致しない、という点です。親会社に帰属する利益のなかに優先株主に帰属する部分が含まれているなら、普通株主に帰属する利益を算定するために調整が必要になります。

IAS第33号では、基本的EPSを算定する際、親会社の普通株主に帰属する金額は、親会社に帰属する純損益および継続事業からの純損益について、資本に分類された優先株式に係る税引後の優先配当、優先株式の決済差額、その他これらに類する効果を調整した金額とされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

ここで実務上つまずきやすいのが、優先株式が資本に分類されているのか、それとも金融負債に分類されているのか、という点です。

資本に分類される優先株式に係る配当は、普通株主に帰属する利益を算定するうえで控除対象になります。一方、金融負債に分類される優先株式や金融商品に係る利息・配当は、すでに純損益に費用として反映されています。そのため、EPSの分子を調整する際には、この処理との二重計上を避けなければなりません。

したがって、分子を検討するときは、次の順序で確認していくと整理しやすくなります。

まず、連結純損益から非支配持分に帰属する部分を除いた、親会社に帰属する純損益を確認します。継続事業と非継続事業を区分している場合には、続いて継続事業からの親会社に帰属する純損益を押さえます。そのうえで、資本に分類された優先株式や参加型資本性金融商品があれば、普通株主に帰属しない利益を控除します。さらに、優先株式の買戻し、早期転換、条件変更などがある場合には、普通株主に帰属する利益への影響を別途検討します。

この分子の調整を誤ると、EPSは見かけ上大きく歪みます。とくに複数種類株式や参加型資本性金融商品を発行している企業では、普通株主に帰属する利益の定義を会計メモで明確にしておくことが重要です。

基本的1株当たり利益の分母

基本的EPSの分母は、当期中の加重平均普通株式数です。

IAS第33号は、基本的EPSの分母について、当期中に発行済みであった普通株式数の加重平均を用いることを求めています。加重平均を用いるのは、期中に増資、自己株式取得、株式発行、転換、株式交換などがあると、期間中の資本量が一定ではなくなるためです。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

分母の実務判断では、次の点が重要になります。

株式をいつから分母に含めるか

普通株式は、通常、対価を受け取ることができる日から加重平均株式数に含めます。現金発行であれば現金を受け取ることができる時点、負債の決済として発行する株式であれば決済日、資産取得の対価として発行する株式であれば当該取得を認識する日、サービス提供の対価として発行する株式であればサービスが提供される期間に応じて含める、という考え方です。

ここで「発行日」だけを見て機械的に判断すると、実態とずれてしまうことがあります。株式発行の条件、払込日、契約上の権利発生日、役務提供期間、M&Aの取得日を確認し、株式がいつから企業の業績に対応する資本として機能しているのかを見極める必要があります。

自己株式をどう扱うか

自己株式は、発行済株式数には含まれていても、EPSの分母に含めるべき普通株式ではありません。企業自身が保有している自己株式は、外部の普通株主に帰属する利益の分配対象ではないからです。

したがって、期中に自己株式を取得した場合には、取得日以後の期間について分母から控除します。逆に期中に処分した場合には、処分日以後の期間について分母に含めます。

自己株式取得が資本政策上重要な意味を持つ場合、EPSへの影響も投資家説明上の重要事項になります。自己株式取得によって分母が減少すれば、他の条件が同じであればEPSは増加します。ただし、それは事業収益力の改善によるものではなく、資本構成の変化によるものです。この違いをきちんと説明できることが、資本市場対応の場面では重要になります。

株式分割・無償交付・ライツ・イシュー

株式分割、無償交付、株式併合、ライツ・イシューのボーナス要素などは、資源の増減を伴わずに株式数だけを変化させることがあります。この場合、当期の発生日以後だけを調整するのではなく、表示されるすべての期間の株式数を遡及的に調整する必要があります。

IAS第33号は、普通株式数が無償交付や株式分割により増加した場合、または株式併合により減少した場合、基本的EPSおよび希薄化後EPSの計算を遡及的に調整することを求めています。さらに、これらの変化が報告期間の後、財務諸表の承認日までに生じた場合であっても、表示される期間の1株当たり計算は新たな株式数に基づいて行い、その旨を開示することとされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この処理は、EPSの期間比較を確保するためのものです。株式分割で1株が2株になったにもかかわらず、過年度EPSを調整しなければ、過年度と当期の1株当たり数値は比較できなくなってしまいます。

希薄化後1株当たり利益の基本思想

希薄化後EPSは、潜在的普通株式が普通株式に転換された場合の影響を反映したEPSです。

ここで注意しておきたいのは、希薄化後EPSは「将来必ず発行される株式数」を予測する指標ではない、という点です。IAS第33号における希薄化後EPSは、当期中に存在した希薄化性潜在的普通株式が普通株式に転換されたと仮定した場合に、普通株式1株に帰属する業績がどの程度薄まるかを示す指標です。

IAS第33号は、希薄化後EPSの目的を、基本的EPSと同様に普通株式1株の企業業績への持分を示すこととしつつ、当期中に存在したすべての希薄化性潜在的普通株式の効果を反映するものと位置づけています。その算定にあたっては、親会社の普通株主に帰属する利益と加重平均株式数の双方を、希薄化性潜在的普通株式の影響について調整します。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

このため、希薄化後EPSでは、分子と分母を同時に見なければなりません。

たとえば転換社債を普通株式に転換したと仮定する場合、分母は増加します。同時に、転換後は利息費用が発生しないと仮定するため、税引後の利息費用を分子に加算する必要があります。転換優先株式を転換したと仮定する場合も、分母は増加しますが、優先配当を控除しなくてよくなるぶん、分子に調整が生じます。オプションやワラントを行使したと仮定する場合には、分母は増加するものの、行使により受け取ると仮定される資金で平均市場価格により自己株式を取得したものとみなすため、分母に加算されるのは、無償で発行されたものとみなされる増分株式にとどまります。

つまり希薄化後EPSは、「すべての潜在株式を足す」だけの計算ではありません。潜在株式の種類ごとに、分子と分母への影響を整合的に反映していく必要があります。

希薄化性と逆希薄化性の判定

潜在的普通株式は、常に希薄化後EPSに含めるわけではありません。

IAS第33号では、潜在的普通株式は、普通株式への転換によって継続事業からの1株当たり利益を減少させる、または1株当たり損失を増加させる場合にのみ、希薄化性があると扱われます。逆に、転換によってEPSが増加する、または1株当たり損失が減少する場合には、逆希薄化性があるため、希薄化後EPSの算定には含めません。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

ここで鍵になるのが、希薄化性の判定に用いる「コントロール・ナンバー」です。

IAS第33号では、潜在的普通株式が希薄化性か逆希薄化性かを判定する際、非継続事業を除外した、親会社に帰属する継続事業からの純損益を基礎とします。したがって、全体としては純損失であっても、継続事業が利益であれば、継続事業に対して希薄化性を有する潜在株式を含めることがあります。反対に、全体としては利益であっても、継続事業が損失であれば、潜在株式が逆希薄化となることもあります。

この考え方は、実務上きわめて重要です。非継続事業の損益が大きい場合、全体の純損益だけを見て希薄化性を判断すると、判定を誤ります。EPSの計算資料では、継続事業、非継続事業、親会社普通株主帰属額を切り分けたうえで、希薄化性判定の基礎を明示しておく必要があります。潜在的普通株式の希薄化性は、継続事業からの普通株主帰属利益を基準に判定するため、純損益合計で見たEPSとの直感的な関係とは異なる結果になることがある、と押さえておくとよいでしょう。

希薄化後EPSに含める順序

複数の潜在的普通株式がある場合には、希薄化効果を判定する順序が問題になります。

IAS第33号では、基本的EPSの希薄化を最大化するため、潜在的普通株式の各発行または系列を、最も希薄化効果が大きいものから順に考慮します。一般に、オプションやワラントは分子に影響せず、分母のみを増加させるため、先に含められることが多いとされています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

実務では、各潜在株式について「増分1株当たり利益」を算定し、低いものから順に含めていく考え方が有用です。

たとえばオプション、転換社債、転換優先株式がある場合、それぞれについて分子の調整額と分母の増加株式数を計算します。分子の調整額を増加株式数で割ったものが、増分1株当たり利益です。この増分1株当たり利益が低いものほど、EPSをより希薄化させる可能性があります。

ただし、計算順序を機械的に処理するだけでは足りません。各金融商品の条件、転換比率、利息、配当、税効果、条件変更、期中発行・期中消滅、行使価格、平均市場価格を、ひとつずつ確認していく必要があります。とくに、転換社債型新株予約権付社債、優先株式、ワラント、株式報酬が複数存在する場合には、Excel上の計算式だけに頼らず、各商品の権利義務と会計分類を一覧化しておくことが大切です。

オプション・ワラント・ストック・オプション

オプションやワラントは、希薄化後EPSの実務で最も頻繁に問題になる潜在株式です。

IAS第33号では、希薄化性のあるオプションやワラントについて、行使されたものと仮定します。その際、行使により受け取ったとみなされる資金は、当期中の普通株式の平均市場価格で普通株式を発行したものとして扱います。結果として、希薄化後EPSの分母に加算されるのは、実際の行使株式数の全体ではなく、無償で発行されたものとみなされる増分株式です。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この考え方は、一般に自己株式方式に近いものとして理解されています。

行使価格が平均市場価格を下回っていれば、オプションやワラントはイン・ザ・マネーとなり、希薄化効果を持ちます。反対に、行使価格が平均市場価格以上であれば、通常は逆希薄化となり、希薄化後EPSには含めません。

ストック・オプションや株式報酬の場合には、さらに注意が必要です。IAS第33号は、IFRS第2号が適用される株式オプションその他の株式に基づく報酬について、行使価格や発行価格に、将来企業に提供される財またはサービスの公正価値を含めることを求めています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この点は、実務上見落とされやすい論点です。

未権利確定のストック・オプションについて、行使価格と市場価格だけを比較して希薄化効果を判定してしまうと、IFRS第2号に基づく未提供サービスの公正価値を反映できないおそれがあります。また、勤務条件、業績条件、市場条件、そして権利確定条件以外の条件がある場合には、IFRS第2号上の測定・費用認識と、IAS第33号上の希薄化判定を整合させておく必要があります。株式市場条件や権利確定条件以外の条件は、株式報酬の公正価値測定や費用認識に影響するため、EPS上の潜在株式評価とも無関係ではありません。

業績条件付株式と条件付発行株式

業績条件付株式、リストリクテッド・ストック・ユニット、業績連動型株式報酬、M&Aに伴う条件付株式対価などでは、条件付発行株式の扱いが問題になります。

IAS第33号では、条件付発行普通株式は、条件が満たされた場合に基本的EPSに含めます。条件がまだ満たされていない場合には、基本的EPSには含めません。一方、希薄化後EPSでは、条件が満たされていれば含め、まだ満たされていない場合でも、報告期間末が条件判定期間の末日であったと仮定したときに発行される株式数を基礎として検討します。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この論点では、条件の内容を丁寧に分類していく必要があります。

単に一定期間の経過だけが条件であれば、時間の経過は確実に訪れますから、条件付発行株式とは異なる扱いになります。これに対して、一定の利益目標、売上目標、株価目標、TSR、上場維持、退職・在籍条件などがある場合には、報告期間末の時点で条件がどこまで達成されているかを確認します。条件が将来の株価や将来の利益に依存するのであれば、報告期間末時点の状況を基礎として、希薄化後EPSに含める株式数を判断します。

実務上は、株式報酬制度の規程、報酬委員会資料、取締役会決議、付与通知、業績条件の達成状況、権利確定見込み、退職者の扱い、税務上の源泉徴収に伴う純額決済の有無などを、あわせて整理しておくことになります。EPSは開示数値ですが、その背後には人事・報酬制度、資本政策、税務、ガバナンスの判断が入り込んでいます。

転換社債・転換優先株式

転換社債や転換優先株式では、希薄化後EPSの計算が分子・分母の双方に及びます。

転換社債については、普通株式への転換を仮定すると、転換後は利息費用が発生しないため、税引後の利息費用を分子に加算します。一方、分母には転換により発行される普通株式数を加算します。

転換優先株式については、転換を仮定すると、優先配当を普通株主帰属利益から控除しなくなるため、分子に調整が生じます。分母には、こちらも転換により発行される普通株式数を加算します。

IAS第33号は、希薄化後EPSを算定する際、希薄化性潜在的普通株式に関連して控除された配当、当期に認識された利息、そして転換により生じるその他の収益・費用の変動を、税引後で分子に調整することを求めています。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

ここで重要になるのが、IAS第32号上の金融負債・資本分類との整合です。複合金融商品では、負債部分と資本部分が区分されていることがあります。転換オプションが資本に分類されるのか、それとも組込デリバティブとして負債に分類されるのかによって、当期損益に認識される費用や評価差額が変わり、EPSの分子調整も変わってきます。EPSの計算担当者が、金融商品分類の会計処理を理解しないまま希薄化計算だけを行うと、分子調整を誤りかねません。

転換金融商品のEPS資料では、少なくとも次の事項を整理しておきたいところです。

  • 発行条件
  • 転換価格・転換比率
  • 利息・配当条件
  • 負債・資本分類
  • 当期損益に認識された利息・評価差額
  • 税効果
  • 期中の発行・消滅・転換・条件変更
  • 希薄化性判定
  • 分子調整と分母調整の根拠

現金または株式で決済できる契約

企業または保有者が、現金決済と株式決済のいずれかを選択できる契約も、EPS上の重要論点です。

IAS第33号では、企業が普通株式または現金で決済できる契約を発行している場合、それが企業の選択権であっても、普通株式で決済されると推定し、その結果生じる潜在的普通株式を、希薄化効果があるなら希薄化後EPSに含めます。また、保有者が現金決済または株式決済を選択できる契約については、より希薄化する決済方法を用います。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この論点では、契約上の決済選択権が誰にあるのか、実務上の決済方針がどうなっているのか、会計上は資産・負債・資本のどの表示になっているのかを、順に確認していく必要があります。

なお、EPS上の仮定は、必ずしも実際の将来決済を予測するものではありません。EPSの目的は、当期中に存在する潜在的な普通株式の希薄化効果を財務諸表利用者に示すことにあります。したがって、経営者が現金決済を予定しているという説明だけを理由に、IAS第33号上の潜在株式の検討を省略できるとは限りません。

子会社・共同支配企業・関連会社が発行する潜在株式

連結財務諸表では、親会社自身の潜在株式だけでなく、子会社、共同支配企業、関連会社が発行する潜在株式にも注意が必要です。

IAS第33号は、子会社、共同支配企業、関連会社の潜在的普通株式が、当該投資先の普通株式に転換されるのか、それとも報告企業の普通株式に転換されるのかに応じた取扱いを定めています。投資先自身の普通株式に転換される商品については、まず投資先の希薄化後EPSを算定し、その結果を報告企業の持分に応じて連結EPSに反映します。一方、報告企業の普通株式に転換される商品は、報告企業の潜在的普通株式として扱います。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この論点は、海外子会社、上場子会社、持分法適用会社、ジョイント・ベンチャーが資本性金融商品や転換商品を発行している場合に問題になります。

とくに、次の点を確認しておく必要があります。

  • 子会社等の潜在株式が、子会社等自身の普通株式に転換されるのか
  • 親会社の普通株式に転換されるのか
  • 転換により親会社持分比率が変動するのか
  • 持分法損益や配当収益に影響するのか
  • 非支配持分に帰属する損益が変わるのか
  • 親会社EPSの分子と分母のどちらに影響するのか

連結EPSでは、投資先レベルの希薄化と親会社レベルの希薄化が混在します。親会社の発行済株式数だけを見ていると、子会社等の潜在株式による親会社普通株主帰属利益への影響を見落としかねません。IAS第33号の実務整理においても、子会社が発行する金融商品が親会社の連結EPSに影響する場面は、独立した論点として扱われます。

逆取得におけるEPS

逆取得は、EPSの分母を大きく誤りやすい領域です。

逆取得では、法律上の取得企業と会計上の取得企業が異なります。IFRS第3号では、逆取得後の連結財務諸表は、法律上の親会社名で発行されるものの、会計上は法律上の子会社、すなわち会計上の取得企業の財務諸表の継続として扱われます。資本構成は、法律上の親会社の資本構成を反映するように調整されます。
出典:IFRS Foundation|IFRS 3 Business Combinations

EPSについても、通常の株式発行とは異なる考え方が必要になります。

IFRS第3号は、逆取得が発生した期間の加重平均普通株式数について、取得日までの期間は法律上の被取得企業、すなわち会計上の取得企業の普通株式数に合併契約上の交換比率を乗じて算定し、取得日以後は法律上の取得企業の実際の発行済普通株式数を用いると定めています。また、逆取得後に表示される取得日前の比較期間の基本EPSは、法律上の被取得企業の過去の利益を、交換比率を反映した株式数で除して算定します。
出典:IFRS Foundation|IFRS 3 Business Combinations

この処理は、逆取得後の連結財務諸表が、会計上の取得企業の継続財務諸表であるという考え方に基づいています。

実務上、逆取得では、次の整理が欠かせません。

  • 法律上の取得企業と会計上の取得企業の識別
  • 取得日
  • 交換比率
  • 取得日前後の株式数
  • 比較期間のEPS再計算
  • 非支配持分の有無
  • 上場維持・上場サービスを含む取引で、IFRS第3号とIFRS第2号のどちらが適用されるか
  • プロフォーマ情報や資本構成の説明

とくに、上場会社を利用した取引、SPAC類似取引、上場維持を目的とした取引では、取得対象が事業に該当するかどうかによって、IFRS第3号の企業結合なのか、IFRS第2号に基づく株式に基づく報酬取引なのかが変わることがあります。EPSだけでなく、企業結合、株式報酬、資本表示、開示を同時に検討していく必要があります。

表示・開示の実務判断

IAS第33号は、基本的EPSと希薄化後EPSについて、親会社の普通株主に帰属する継続事業からの純損益、および当期の親会社普通株主に帰属する純損益について表示することを求めています。普通株式の種類ごとに利益に対する権利が異なる場合には、各種類ごとの表示が必要です。また、基本的EPSと希薄化後EPSは同じ重要性で表示し、希薄化後EPSが基本的EPSと同額であっても、表示期間全体について整合的に表示します。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

非継続事業を報告している場合には、非継続事業に係る基本的および希薄化後の1株当たり金額を、包括利益計算書上または注記で表示・開示します。

注記では、基本的EPSおよび希薄化後EPSの分子として使用した金額と、親会社に帰属する純損益との調整表を開示します。あわせて、分母として使用した加重平均普通株式数について、基本的EPSと希薄化後EPSの分母の調整表を開示します。さらに、将来希薄化する可能性はあるものの当期は逆希薄化のため希薄化後EPSに含めなかった金融商品等や、報告期間の後に発生した普通株式・潜在的普通株式取引で、期末日前に発生していれば株式数に重要な影響を与えていたものも、開示対象になります。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

EPS注記は、単なる計算過程の開示ではありません。財務諸表利用者が、当期の普通株主帰属利益、株式数の変動、潜在的な希薄化リスクを理解するための開示です。

実務上は、次のような情報を整理しておくと、開示の説明可能性が高まります。

  • 基本的EPSの分子調整表
  • 希薄化後EPSの分子調整表
  • 基本的EPSの加重平均株式数
  • 自己株式取得・処分の反映
  • 株式分割・無償交付・ライツ・イシューの遡及調整
  • 潜在的普通株式の種類別一覧
  • 各潜在株式の希薄化性・逆希薄化性判定
  • 転換金融商品の税引後利息・配当調整
  • ストック・オプションや株式報酬の未提供サービス相当額
  • 条件付発行株式の条件達成状況
  • 報告期間後の株式発行・転換・消却・条件達成
  • 非継続事業がある場合の継続事業・非継続事業別EPS

EPS開示でよくある問題は、表の数値は合っているのに、背後の判断過程を説明できない、という点です。とくに、逆希薄化として除外した金融商品、業績条件付株式、期末後の株式取引、種類株式の利益参加権は、監査上もレビューされやすい領域です。

IFRS第18号による追加的な1株当たり指標への影響

IAS第33号は、基本的EPSと希薄化後EPSに加えて、一定の追加的な1株当たり指標を注記で開示することを認めています。ただし、IFRS第18号の公表により、この追加的なEPS指標の取扱いにも影響が及びます。

IFRS第18号は、2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用され、早期適用も認められます。IFRS第18号はIAS第1号を置き換えるものであり、変更のないIAS第1号の要求事項は、IFRS第18号や他の基準に移管されます。
出典:IFRS Foundation|Project Summary IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements

IFRS第18号に伴うIAS第33号の修正では、企業が追加的な1株当たり金額を開示する場合、その分子はIFRS第18号で識別される合計・小計、または経営者定義業績指標、いわゆるMPMに基づく金額に限定されます。また、その追加的な1株当たり金額は注記で開示し、基本的および希薄化後の追加的金額を同じ重要性で開示する必要があります。
出典:IFRS Foundation|IAS 33 Earnings per Share

この点は、実務上見落としやすい変更です。

従来、企業が任意に「調整後EPS」「コアEPS」「営業利益ベースEPS」などを説明資料や注記で示していることがあります。IFRS第18号の適用後は、そうした追加的EPS指標が、IFRS第18号上の合計・小計またはMPMに基づくものか、注記表示にとどまっているか、基準上求められる説明と整合しているかを、あらためて確認する必要があります。

つまりIFRS第18号への対応は、損益計算書の表示区分だけの問題ではありません。EPSの追加指標、経営者業績指標、投資家説明資料、決算短信・プレゼンテーション資料との整合にも影響してきます。

監査対応で確認されやすいポイント

EPSは、計算結果だけを提出しても、監査対応としては十分ではありません。

監査上は、次のような観点が確認されます。

  • 親会社普通株主に帰属する利益の算定根拠
  • 優先株式、参加型資本性金融商品、種類株式の利益参加権
  • 普通株式の加重平均株式数の算定過程
  • 自己株式、株式分割、株式併合、無償交付、ライツ・イシューの反映
  • 転換社債、転換優先株式、オプション、ワラント、株式報酬の一覧
  • 潜在的普通株式ごとの希薄化性・逆希薄化性判定
  • 希薄化後EPSに含める順序
  • 税引後利息・配当の調整
  • IFRS第2号に基づく株式報酬の未提供サービス部分
  • 条件付発行株式の条件達成状況
  • 子会社、共同支配企業、関連会社の潜在株式
  • 逆取得における交換比率と比較期間EPS
  • 報告期間後の株式取引
  • EPS注記と資本注記、株式報酬注記、金融商品注記、企業結合注記との整合性

EPSの監査対応では、株式数の集計資料だけでなく、契約書、取締役会決議、株主総会決議、発行要項、報酬制度規程、株式報酬の付与通知、転換条件、期中行使履歴、自己株式明細、M&A契約、そしてIFRS第2号・IAS第32号・IFRS第3号の会計メモを、横断的に整理しておく必要があります。

EPSは、財務諸表のなかでは1行、あるいは数行で表示される項目です。しかしその背後には、資本政策、金融商品、株式報酬、企業結合、連結、後発事象が集約されています。だからこそ、単なる計算作業としてではなく、財務報告上の説明責任として整理していく姿勢が求められます。

実務上の整理手順

IFRSにおけるEPSを整理する際には、次の順序で検討すると、論点の漏れを防ぎやすくなります。

  1. 適用対象を確認する … 普通株式または潜在的普通株式が公開市場で取引されているか、あるいはEPSを任意開示するかを確認します。
  2. 分子を確定する … 親会社に帰属する純損益、継続事業からの純損益、普通株主に帰属しない優先配当や参加型持分の影響を整理します。
  3. 基本的EPSの分母を確定する … 期首株式数、期中発行、自己株式、株式分割、株式併合、無償交付、条件付発行株式を時系列で整理します。
  4. 潜在的普通株式を洗い出す … 転換商品、オプション、ワラント、株式報酬、条件付株式、現金・株式選択決済契約、子会社等の潜在株式を一覧化します。
  5. 潜在株式ごとに希薄化性を判定する … 継続事業からの普通株主帰属利益を基礎に、逆希薄化となるものを除外します。
  6. 希薄化後EPSの分子・分母を調整する … 税引後利息、優先配当、その他の損益変動、増分株式数を整合的に反映します。
  7. 表示・開示を確認する … 基本的EPS、希薄化後EPS、継続事業、非継続事業、分子・分母の調整表、除外された潜在株式、期末後取引を整理します。
  8. 監査資料化する … 計算表だけでなく、契約条件、取締役会資料、報酬制度、金融商品分類、企業結合資料、注記案を一体で説明できるようにします。

まとめ

IFRSにおけるEPSは、計算式としては単純に見えます。基本的EPSは、普通株主に帰属する利益を加重平均普通株式数で割る。希薄化後EPSは、希薄化性潜在的普通株式の影響を反映する。それだけといえば、それだけです。

しかし、実務判断はその裏側にあります。

普通株主に帰属する利益はどこまで調整するのか。加重平均株式数にどの株式をいつから含めるのか。潜在株式は希薄化性か、逆希薄化性か。株式報酬の未提供サービスや業績条件をどう反映するのか。逆取得ではどの株式数を分母とするのか。注記で分子・分母・除外項目をどこまで説明するのか。そして、IFRS第18号適用後の追加的EPS指標は基準と整合しているのか。

EPSは、資本市場が注目する指標である一方で、IFRS実務上は、資本表示、株式報酬、金融商品、企業結合、連結、後発事象の論点が集中する表示項目でもあります。

1株当たり利益、希薄化後1株当たり利益、潜在株式、株式報酬、逆取得、IFRS第18号適用後の追加的EPS指標について、計算方法だけでなく、契約条件・会計分類・開示・監査対応まで含めた整理が必要になる場面では、早い段階で論点を分解しておくことが重要です。犬飼公認会計士・税理士事務所では、IFRSに関する会計処理、表示・開示、監査対応、論点整理資料の作成について、取引実態に即した形で整理を支援しています。必要に応じて、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点実務上のポイント
EPSの目的普通株式1株に帰属する業績を比較可能に示す指標であり、株価分析そのものではない。
適用対象公開市場で普通株式または潜在的普通株式が取引される企業、またはEPSを任意開示する企業が対象となる。
基本的EPSの分子親会社の普通株主に帰属する純損益を用い、資本に分類された優先株式等の影響を調整する。
基本的EPSの分母当期中の加重平均普通株式数を用い、自己株式、期中発行、株式分割等を適切に反映する。
希薄化後EPS希薄化性潜在的普通株式が普通株式に転換されたと仮定し、分子と分母を調整する。
希薄化性判定継続事業からの普通株主帰属利益を基礎に、EPSを減少させるものだけを含める。
オプション・ワラント平均市場価格と行使価格を比較し、無償発行とみなされる増分株式を分母に加算する。
株式報酬IFRS第2号に基づく未提供サービス、公正価値、権利確定条件、業績条件をEPS計算と整合させる。
転換社債・転換優先株式税引後利息や優先配当を分子に調整し、転換株式数を分母に反映する。
条件付発行株式条件達成状況を確認し、基本的EPSと希薄化後EPSで含める時点を切り分ける。
子会社等の潜在株式投資先自身の株式に転換されるのか、親会社株式に転換されるのかを区別する。
逆取得会計上の取得企業と法律上の取得企業を区分し、交換比率を反映してEPS分母を算定する。
表示・開示基本的EPSと希薄化後EPSを同等の重要性で表示し、分子・分母の調整表と除外項目を開示する。
IFRS第18号対応追加的EPS指標は、IFRS第18号上の合計・小計またはMPMとの整合を確認する。
監査対応計算表だけでなく、契約、決議、金融商品分類、株式報酬、企業結合、注記案を一体で整理する。
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