医療機関の決算書を眺めていると、全体としては黒字に見える、ということがよくあります。
ただ、その全体黒字だけを追いかけていても、どの診療機能が利益を支え、どの機能が資金や人員を圧迫しているのかまでは見えてきません。たとえば、こうした状況です。
- 外来は忙しいものの、待ち時間とスタッフの負荷の割には利益が薄い。
- 在宅医療は売上が伸びているが、移動時間、24時間対応、記録業務まで含めると院長の負担が大きい。
- 検査機器に高額な投資をしたが、稼働率が上がらず、減価償却と保守料の負担が重い。
- 自由診療は単価こそ高いが、カウンセリング時間、広告費、キャンセル対応、説明責任まで含めると採算が見えにくい。
- 病床や介護・訪問看護を併設しているものの、共通費の扱いが曖昧で、どの機能が本当に利益を生んでいるのか説明できない。
このような状態では、経営判断はどうしても感覚に寄ってしまいます。
「患者数が多いから外来を伸ばす」 「売上が伸びているから在宅を強化する」 「単価が高いから自由診療を増やす」 「せっかく機器を買ったのだから検査件数を増やす」
いずれも、方向性そのものは間違っていないこともあります。しかし、数字の分け方が不十分なまま進めてしまうと、売上は増えているのに資金が残らない、スタッフが疲弊する、院長の時間ばかりが削られていく、といった結果になりかねません。
部門別・機能別採算は、こうした医療機関の強みと弱みを見極めるための管理会計です。税務申告のための会計とは、そもそも目的が異なります。
最終的に目指すのは、きれいな表を作ることではありません。「どの機能を伸ばすべきか」「どこを改善すべきか」「どの投資なら回収できるか」「撤退や縮小を検討すべき領域はないか」を、自信を持って判断できる状態をつくることにあります。
全体黒字では、医療機関の実態は見えない
全体の損益計算書は、自院全体の経営成績を把握するうえで欠かせません。ただ、医療機関の中には、性質の異なる収益源が数多く混在しています。
- 保険外来
- 生活習慣病管理
- 検査
- リハビリ
- 自由診療
- 予防接種
- 健診
- 在宅医療
- 訪問看護
- 有床診療所の入院
- 介護・周辺事業
- 分院
- 医師別・診療科別の診療機能
これらを一つの損益計算書にまとめてしまうと、採算の良い機能と悪い機能が相殺されてしまいます。全体では黒字に見えても、実際には次のような状態が起きていることは珍しくありません。
- 外来の利益が、在宅医療の立ち上げ赤字を補っている。
- 自由診療の利益が、保険診療の固定費を支えている。
- 検査部門の稼働不足を、外来の患者数で吸収している。
- 院長の長時間労働によって、部門別の赤字が表面化していない。
- 訪問看護や介護部門の人件費増加が、法人全体の利益率を押し下げている。
- 分院の赤字を本院の利益で補っているものの、借入返済後の資金繰りは厳しい。
全体黒字は、たしかに重要な数字です。しかし、それだけでは経営判断には足りません。
医療機関が成長戦略を描こうとするなら、全体損益を「部門」「機能」「時間」「人員」「設備」「資金負担」へと分解して読み解く必要があります。
部門別採算と機能別採算は、何を分けるのか
部門別採算というと、大規模病院の原価計算を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですが、クリニックや診療所であっても、部門別・機能別採算の考え方は十分に有効です。むしろ、小規模な医療機関ほど院長の判断が経営へ直接響くため、最低限の採算区分を早めに整えておく価値があります。
ここでいう「部門」は、組織上の部署だけを指すものではありません。経営判断に使うための区分、と考えてください。たとえば、次のように分けます。
| 区分の例 | 見たい内容 |
|---|---|
| 外来 | 保険診療の患者数、診療単価、診療時間、人員負荷 |
| 在宅医療 | 訪問件数、患者単価、移動時間、24時間対応、連携業務 |
| 検査 | 機器稼働率、検査単価、減価償却、保守料、技師・看護師時間 |
| 自由診療 | 自費売上、材料費、説明時間、広告費、キャンセル、消費税 |
| 健診・予防接種 | 単価、実施時期、スタッフ配置、自治体委託料、在庫管理 |
| リハビリ | 単位数、療法士人員、面積、設備、予約枠 |
| 病床 | 病床稼働率、入院単価、在院日数、夜勤体制、施設基準 |
| 介護・訪問看護 | 医療とは異なる制度収入、人件費、記録業務、管理者配置 |
| 分院 | 拠点別売上、人員、家賃、借入返済、院長・管理医師稼働 |
最初から厳密に分けようとしすぎる必要はありません。大病院並みの原価計算をいきなり目指すと、現場に負荷がかかり、続かない管理になってしまいます。
まずは、経営判断に直結する区分から始めるとよいでしょう。
- 伸ばすかどうか迷っている機能
- 赤字か黒字か分からない機能
- 人員を追加すべきか迷っている機能
- 設備投資を検討している機能
- 院長の時間を大きく使っている機能
- 承継・M&Aで説明が必要になる機能
この順で分けていくと、実務にそのまま使える採算管理になっていきます。
医療法人会計基準と管理会計は、目的が違う
医療法人では、一定規模の法人に医療法人会計基準が適用され、財産目録、貸借対照表、損益計算書、純資産変動計算書、附属明細表などの作成が求められます。この会計基準の運用指針は、法人全体にかかる会計制度を定めたものであり、具体的な処理方法については各医療法人が経理規程などで決めていくべきものとされています。
出典:厚生労働省|医療法人会計基準適用上の留意事項並びに財産目録、純資産変動計算書及び附属明細表の作成方法に関する運用指針
ここで気をつけたいのは、制度会計と管理会計を混同しないことです。
制度会計は、外部報告、行政対応、税務申告、監査、法人運営のために必要なものです。一方の管理会計は、院長・理事長・事務長が経営判断に使うためのものです。
制度会計の損益計算書だけでは、部門別・機能別の採算は通常、十分には見えてきません。経理規程の面から見ても、医療法人の経理業務には、現預金、債権債務、棚卸資産、固定資産、リース、原価計算、予算、管理会計などが含まれ得ます。だからこそ、日常経理と管理会計を切り離さずに設計しておくことが大切です。
つまり、部門別採算は「決算書の代わり」ではありません。決算書を出発点として、経営判断のために分解し直す資料、と捉えていただくのが正確です。
採算を見るときは、売上ではなく「貢献利益」から始める
部門別採算で最初に見るべきなのは、最終利益ではなく貢献利益です。
貢献利益とは、簡単にいえば、その部門の売上から、その部門に直接対応する費用を差し引いた利益のことです。全体の家賃、事務長人件費、会計顧問料、法人本部費などを細かく配賦する前の段階で、その機能が固定費を支える力を持っているかどうかを確かめるための数字、とお考えください。
たとえば、次のように整理します。
部門売上 − 直接材料費 − 直接人件費 − 直接外注費 − 部門固有の保守料・リース料 − 部門固有の広告費 = 部門貢献利益
ここでいきなり共通費をすべて配賦しようとすると、かえって判断を誤ることがあります。
たとえば、外来と在宅医療に本部事務費を売上比で配賦すると、売上の大きい部門に過大な共通費が乗ってしまうことがあります。逆に、院長の時間を使っている部門に人件費を配賦しなければ、実態よりも利益が出ているように見えてしまいます。
そこで、まずは次の三段階で見ると、実務上は扱いやすくなります。
- 第一段階:直接費だけを引いた貢献利益。
- 第二段階:人員・設備・場所など、比較的合理的に対応づけられる費用を加味した部門利益。
- 第三段階:本部費・管理費・院長稼働などを一定の基準で配賦した、管理上の最終利益。
この順番を守ると、「その機能自体は強いが共通費負担が重いのか」「そもそも直接費の段階で採算が合っていないのか」を、分けて考えられるようになります。
共通費配賦は、正しさよりも「判断に使える一貫性」が重要
部門別採算で最も難しいのは、共通費の配賦です。
医療機関では、次のような費用が複数の部門にまたがります。
- 家賃
- 水道光熱費
- 受付・会計スタッフ人件費
- 事務長人件費
- 院長報酬
- 電子カルテ・予約システム
- レセコン・会計ソフト
- 清掃・警備・保守
- 広告宣伝費
- 会計・税務・社労士・弁護士等の専門家費用
- 借入利息
- 減価償却費
- 本部費
これらをどの部門にどう配賦するかによって、部門利益は大きく変わります。
そして、配賦に絶対的な正解はありません。重要なのは、配賦基準に経営上の意味があること、そして毎月同じ前提で比較できることです。
| 共通費 | 配賦基準の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 家賃・水道光熱費 | 使用面積、診察室・検査室の占有時間 | 面積だけでは実際の稼働を反映しない場合がある |
| 受付・会計人件費 | 患者数、会計件数、予約件数 | 1件あたりの処理負荷が診療機能により異なる |
| 看護師・事務スタッフ | 勤務時間、担当業務時間、シフト表 | 兼務が多い場合は簡易な時間集計から始める |
| 院長報酬・医師人件費 | 診療時間、訪問時間、管理時間 | 院長の管理業務や移動時間を無視しない |
| 医療機器減価償却 | 使用件数、稼働時間、対象診療収入 | 低稼働でも固定費は発生する |
| 広告費 | 来院動機、対象ページ、診療メニュー別導線 | 全額を外来に寄せると自由診療の採算を誤る |
| 本部費・管理費 | 売上比、人員比、拠点数、管理工数 | 売上比だけでは管理負荷を反映しにくい |
配賦基準は、細かすぎると続きません。最初は粗くても構いません。
ただし、毎月変えてはいけません。都合のよい結果に見せるために配賦基準を動かしてしまうと、管理会計そのものの信頼性が失われてしまいます。
外来採算は、患者数だけではなく「診療時間あたり」で見る
外来は、多くの診療所にとって収益の中心です。
ただ、外来患者数が多いことと、外来の採算がよいことは、同じではありません。外来では、次の数字を分けて見ていきます。
- 外来患者数
- 初診数・再診数
- 診療単価
- 患者1人あたり診療時間
- 医師1時間あたり売上
- 看護師・事務スタッフの配置
- 待ち時間
- 予約枠の消化率
- 検査・処置・医学管理料の構成
- キャンセル・無断キャンセル
- 受付・会計処理件数
- クレーム・再説明対応
外来は、診察室、受付、会計、待合、検査室、看護師、事務スタッフ、電子カルテなど、固定費を多く使う機能です。そのため、患者数が一定の水準を下回ると、採算が急に悪化します。
その一方で、患者数を増やしすぎれば、今度は診療品質や患者さんの満足、スタッフの定着に影響が出てきます。
採算管理では、単に「1日何人診たか」ではなく、「その患者数を、どの人員体制で、どの診療時間で、どの利益水準で実現しているか」を確認することが大切です。
とりわけ、院長がすべての診療を担っているクリニックでは、外来利益の中に院長の長時間労働が隠れています。院長の時間をゼロ円として扱ってしまうと、外来部門は実態以上に利益が出ているように見えてしまうのです。
外来採算を見るときは、少なくとも「医師1時間あたり売上」「医師1時間あたり貢献利益」は確認しておきたいところです。
在宅医療は、売上単価だけでなく移動・体制・連携コストを見る
在宅医療は、外来中心の経営からの成長領域として検討されることの多い分野です。
患者単価だけを見ると、在宅医療は魅力的に映ることがあります。しかし採算を見るときには、移動時間、訪問ルート、記録業務、緊急対応、電話対応、看取り対応、連携先との調整、同意書・計画書・施設基準の管理まで含めて考える必要があります。
在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院では、24時間連絡を受ける体制、24時間往診体制、24時間訪問看護体制、緊急時の入院体制、連携医療機関等への情報提供などが、施設基準として整理されています。令和8年度診療報酬改定でも在宅医療に関する評価や施設基準は見直されているため、採算シミュレーションを行う際には、最新の告示・通知・疑義解釈を必ず確認してください。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定に係る施設基準届出チェックリストの一部訂正について
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定の概要 8.質の高い在宅医療の推進
在宅医療の採算では、少なくとも次の区分が必要になります。
- 一般居宅
- 施設・同一建物
- 重症患者
- 軽症患者
- 定期訪問
- 臨時往診
- 看取り
- 訪問看護・介護との連携
- 医師単独訪問か、看護師同行か
- 外来の空き時間で対応しているのか、専任体制か
実際に収支シミュレーションを行ってみると、外来40人規模と在宅医療を比較した場合、一般居宅と施設とでは、必要となる患者数や運用負荷が大きく異なってきます。単価、移動、訪問件数、施設基準上の減算、診療の密度がそれぞれ違うため、在宅医療を一つの部門としてまとめすぎると、判断を誤りやすくなります。
在宅医療は、単に「外来より儲かるか」ではなく、次の問いで見ていくべきです。
- どの患者層を対象にするのか。
- 一般居宅と施設の構成比をどうするのか。
- 何人の医師で対応するのか。
- 24時間対応を自院単独で担うのか、連携で担うのか。
- 看護師・事務スタッフ・ドライバーの配置をどうするのか。
- 移動時間を含めた医師1時間あたりの採算はどうか。
- 外来を縮小してでも在宅を伸ばすべきか。
- 看取りや緊急往診まで担う体制に進むのか。
在宅医療では、売上だけでなく、組織が耐えられる体制を数字に落とし込むことが何より重要です。
検査部門は、機器の稼働率と固定費を見る
検査は、医療機関の診療品質を高めてくれる一方で、高額な医療機器、保守料、減価償却、専門スタッフ、スペースを必要とします。
検査部門の採算で見るべき数字は、次のとおりです。
- 検査件数
- 検査単価
- 検査別売上
- 直接材料費
- 外注検査費
- 技師・看護師の人件費
- 医療機器の減価償却費
- リース料
- 保守料
- 検査室面積
- 予約枠の稼働率
- 検査待ち時間
- 再検査・キャンセル
- 診療上の必要性
- 紹介・逆紹介への影響
検査は、単体で利益を生む場合もありますが、外来診療全体の診断精度や患者さんの満足に貢献している場合もあります。したがって、「検査単体で赤字だからやめる」と短絡的に判断するのは危険です。
その一方で、低稼働のまま大型機器を保有し続けると、固定費が全体利益を圧迫していきます。
検査部門では、次のような管理が有効です。
- 機器ごとの月間検査件数
- 検査1件あたり貢献利益
- 機器1時間あたり売上
- 予約枠稼働率
- 減価償却・保守料を含めた採算
- 外注した場合との比較
- 更新時期と投資回収期間
- 医師・スタッフの診療効率への貢献
固定資産や医療機器の管理は、税務上の減価償却だけにとどまりません。購買承認、固定資産台帳、棚卸・廃棄、リース会計、保守契約、設備更新の判断にまでつながっていきます。医療法人の経理規程例でも、棚卸資産、固定資産、リース、減価償却・減損、予算管理、管理会計などが体系的に位置づけられています。
検査部門は、設備投資の判断と一体で見ていく必要があります。
自由診療は、粗利だけでなく説明・広告・税務を含めて見る
自由診療や自費診療は、保険診療に比べて単価が高く、収益改善の柱として検討されやすい領域です。
ただし、自由診療の採算を見るときに、粗利だけを見てはいけません。自由診療では、次のような費用と時間が発生するからです。
- カウンセリング時間
- 治療説明・同意取得
- 費用説明
- リスク説明
- 広告・Webサイト更新費用
- 予約管理
- キャンセル対応
- 材料費
- 外注費
- 医療機器・設備投資
- スタッフ教育
- 消費税対応
- クレーム・返金リスク
- 医療広告規制への対応
自由診療では、患者さんに十分な説明を行い、費用、治療期間、リスク、代替となる選択肢を示す必要があります。収益性ばかりを前面に出してしまうと、患者さんの満足や説明責任を損ない、長期的な信頼を失いかねません。
採算の面では、自由診療をさらに細分化して見ていく必要があります。
- 美容・審美系
- 予防・メンテナンス
- 矯正
- 自費検査
- ワクチン
- 物販
- サプリメント等
- 企業健診・自費健診
自由診療は、売上総額ではなく、メニュー別の貢献利益、説明時間、広告費、キャンセル率、再来率で見ていきます。
また、保険診療中心の医療機関が自由診療を伸ばす場合には、消費税や医療広告規制、医療法人の業務範囲との関係も確認が欠かせません。ここを曖昧にしたまま売上拡大を進めてしまうと、後から税務・法務・広告面の論点が次々と出てくることになります。
病床・有床診療所は、稼働率だけでなく人員と施設基準を見る
有床診療所や病院では、病床の採算管理が重要になります。
病床は、外来よりも固定費と人員配置の影響が大きい機能です。病床稼働率、入院単価、在院日数、夜勤体制、看護配置、施設基準、給食、清掃、リネン、医薬品、診療材料、医師の当直負担などを、一体で見ていく必要があります。
病床採算を見るときには、次の数字が必要です。
- 病床稼働率
- 入院患者数
- 平均在院日数
- 入院単価
- 入退院ルート
- 外来からの入院
- 在宅からの入院
- 救急・紹介入院
- 看護師・医療職人件費
- 夜勤体制
- 委託費
- 給食材料費
- 設備関係費
- 施設基準の維持状況
- 返還リスク
- 病床機能の地域ニーズ
病院経営に関する公的な調査でも、病院、一般診療所、歯科診療所、保険薬局の医業経営等の実態把握は、診療報酬に関する基礎資料として位置づけられています。自院の病床・外来・在宅などの採算管理も、こうした制度環境と切り離して読むことはできません。
出典:中央社会保険医療協議会|第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和7年11月26日公表)の概要
病床は、単に「埋まっているか」ではなく、「どの患者さんを、どの機能で、どの人員体制で受け入れるか」が採算を左右します。
人件費は部門別採算の中心に置く
医療機関の部門別採算で最も重要なのは、人件費です。
医療機関は、専門職の組織です。医師、看護師、医療事務、技師、療法士、管理栄養士、相談員、ドライバー、事務長など、多職種の連携によって医療が提供されています。
そのため、人件費を全体でまとめて見ているだけでは不十分です。部門別には、次のように見ていきます。
- 外来に何人の看護師・事務スタッフが必要か。
- 在宅医療にどれだけの医師時間・看護師時間・事務時間がかかっているか。
- 検査部門の稼働に、技師・看護師がどの程度必要か。
- 自由診療のカウンセリングに、誰が何分使っているか。
- リハビリの売上は、療法士1人あたりでどれだけか。
- 病床の夜勤体制は、収益に見合っているか。
- 訪問看護や介護部門の管理者・記録業務は、採算に反映されているか。
院長・理事長の時間も重要です。
院長の時間を部門に配賦しないと、実態よりも利益が出ているように見える機能が出てきます。たとえば、在宅医療の立ち上げ、自由診療の説明、スタッフ教育、連携先への営業、行政対応、施設基準の管理、クレーム対応などは、いずれも院長の時間を大きく使います。
この時間を無視してしまうと、「数字の上では黒字だが、院長が疲弊している」という状態を見逃すことになります。
部門別採算では、人件費率だけでなく、時間あたりの採算を見ます。
- 医師1時間あたり売上
- 医師1時間あたり貢献利益
- 看護師1人あたり売上
- 事務スタッフ1人あたり処理件数
- 療法士1人あたり単位数・売上
- 訪問1件あたり移動時間
- カウンセリング1件あたり成約率
- 教育期間中の人件費負担
人件費は、削減の対象ではありません。医療提供価値の基盤です。だからこそ、部門ごとに適切に見ていく必要があります。
部門別採算表は、最初はシンプルでよい
部門別採算表は、最初から精密である必要はありません。
重要なのは、毎月作成できること。経営会議で使えること。そして、院長、理事長、事務長、顧問の専門家が同じ前提で議論できることです。
最初の形は、次のような表で十分です。
| 項目 | 外来 | 在宅 | 検査 | 自由診療 | 共通・本部 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上 | |||||
| 直接材料費 | |||||
| 直接外注費 | |||||
| 直接人件費 | |||||
| 部門固有費 | |||||
| 貢献利益 | |||||
| 共通費配賦 | |||||
| 管理上の部門利益 | |||||
| 医師時間 | |||||
| スタッフ時間 | |||||
| 設備稼働率 | |||||
| 判断メモ |
この表を作るために、最初から複雑なシステムを導入する必要はありません。まずは、会計データ、レセプトデータ、予約データ、勤怠データ、シフト表、固定資産台帳、広告費、診療メニュー別売上を整理していきます。
そのうえで、次の順に進めます。
- 部門を決める。
- 売上を分ける。
- 直接費を分ける。
- 人件費と時間を分ける。
- 設備・場所・広告費を分ける。
- 共通費を一定基準で配賦する。
- 毎月同じ前提で比較する。
- 経営判断と改善アクションにつなげる。
表を作ること自体が目的ではありません。判断に使えることが目的です。
採算分析で見落としやすい落とし穴
部門別・機能別採算を始めるとき、よく陥る落とし穴があります。
売上だけを部門別に分け、費用を分けていない
売上だけを部門別に分けても、採算は分かりません。
自由診療の売上が伸びても、広告費、説明時間、材料費、キャンセル対応を見なければ、利益は見えてきません。在宅医療の売上が伸びても、医師時間、看護師時間、移動、記録、電話対応を見なければ、採算は分からないのです。
共通費配賦を細かくしすぎて、継続できない
部門別採算は、続けられなければ意味がありません。
最初から全費用を細かく分けようとすると、現場から資料が集まらず、会計処理が遅れ、結局は毎月の判断に使えなくなってしまいます。
まずは、経営判断に影響の大きい費用から分けていくべきです。
院長の時間を無視している
院長の時間をゼロ円で扱ってしまうと、すべての部門が黒字に見えやすくなります。
しかし実際には、院長の時間こそ、最も制約の強い経営資源です。外来、在宅、自由診療、検査説明、スタッフ教育、法人運営、金融機関対応、承継準備をすべて院長が担っている場合には、部門別採算で必ず院長の時間を見える化しておく必要があります。
税務上の区分と管理会計上の区分を混同している
税務上の収益事業・非収益事業、保険診療・自由診療、課税売上・非課税売上と、管理会計上の部門区分は、一致しないことがあります。
たとえば、自由診療は消費税の論点を伴うことがありますが、管理会計では広告費や説明時間も含めて見ます。在宅医療は診療報酬上の区分が複雑ですが、管理会計では一般居宅、施設、看取り、臨時往診などの機能別に見ていきます。
税務と管理会計は、目的が異なります。ただし、どちらも後から説明できる資料であることが求められます。
部門別黒字を「伸ばすべき」と短絡的に判断する
ある部門が黒字であっても、すぐに伸ばすべきとは限りません。次のような制約があれば、黒字の部門であっても、拡大には慎重さが必要です。
- 人材が足りない。
- 院長が対応できない。
- 資金繰りが追いつかない。
- 施設基準を維持できない。
- 患者さんの満足が下がる。
- スタッフ離職が増える。
- 承継時に後継者が運営できない。
部門別採算は、成長投資と撤退判断の前提になる
部門別・機能別採算は、単なる分析ではありません。次のような判断に、直接つながっていきます。
- 在宅医療を始めるか。
- 在宅を一般居宅中心にするか、施設中心にするか。
- 検査機器を購入するか、リースにするか、外注するか。
- 自由診療を強化するか。
- スタッフを採用するか。
- 分院を出すか。
- 診療時間を延長するか。
- リハビリを拡張するか。
- 訪問看護や介護に広げるか。
- 病床機能を見直すか。
- 赤字部門を改善するか、縮小するか。
- 後継者に引き継げる体制か。
- M&A時に買い手へ説明できるか。
部門別採算が整っていないと、投資判断はどうしても「期待」や「印象」に寄ってしまいます。
一方、部門別採算が整っていれば、次のような議論ができるようになります。
「在宅医療は売上ではなく医師時間あたり貢献利益で見ると、一般居宅中心であれば拡大余地がある」 「検査機器は現状の稼働率では更新投資を回収しにくい。外注との比較が必要だ」
「自由診療は粗利が高いが、広告費と説明時間を含めるとメニューごとの差が大きい」
「分院は売上が伸びているが、本院からの管理工数と院長稼働を含めると黒字化の時期が遅れる」
「訪問看護は地域ニーズがあるが、管理者の採用と人件費計画が固まるまで投資判断を保留する」
このように、部門別採算は、攻めの判断を慎重に進めていくための基盤になります。
医療機関の説明責任にもつながる
部門別・機能別採算は、院内の経営判断だけでなく、外部への説明にも役立ちます。たとえば、次のような場面です。
- 金融機関に、設備投資や運転資金を説明する。
- 後継者に、自院の収益構造を説明する。
- 社員総会・理事会で、新規投資を説明する。
- 承継・M&Aで、買い手に収益力を説明する。
- 赤字部門の改善計画を説明する。
- 行政報告や経営情報の整理に対応する。
医療法人については、事業報告書等や経営情報等の報告をシステムで行う流れも進んでおり、病院・診療所ごとの経営情報の整理は、外部説明の観点からも重要性を増しています。
出典:厚生労働省|医療法人に関する情報の調査及び分析等について
部門別採算は、法定書類そのものではありません。しかし、法定書類や決算書だけでは説明しきれない経営の実態を補ってくれる資料になります。
承継やM&Aの場面では、全体損益よりも、「どの機能が利益を生んでいるか」「どの機能にリスクがあるか」「院長依存がどこにあるか」が問われます。
部門別採算を整えておくことは、将来の説明可能性を高めておくことでもあるのです。
まず整えるべき資料
部門別・機能別採算を整えるためには、いきなり精密な原価計算を始めるのではなく、次の資料を揃えるところから始めます。
- 月次試算表
- 損益計算書
- 貸借対照表
- 勘定科目内訳
- レセプト関連資料
- 診療科・診療メニュー別売上
- 保険診療・自由診療の売上区分
- 在宅患者一覧
- 訪問件数・訪問ルート
- 検査件数
- 固定資産台帳
- リース契約一覧
- スタッフ別・職種別人件費
- シフト表・勤怠データ
- 広告費・Web関連費
- 家賃・水道光熱費・共通費
- 借入返済予定表
- 設備更新予定
- 事業計画・予算
- 分院・在宅・自由診療などの将来構想
これらをもとに、まずは3〜5区分程度で部門別採算を作るのが、現実的なところです。
まとめ:強みは売上ではなく、採算と再現性で見る
医療機関の強みは、単に売上が大きい部門のことではありません。
強みとは、患者さんに価値を提供でき、スタッフが無理なく運営でき、資金繰りに耐えられ、制度変更にも対応でき、後継者や外部の関係者に説明できる機能のことです。
そのためには、部門別・機能別の採算を見ていく必要があります。外来、在宅、検査、自由診療、病床、介護、分院。それぞれの売上、直接費、人件費、共通費、稼働率、診療時間、設備投資、資金負担を分けて見ることで、自院の強みと弱みが見えてきます。
部門別採算は、医療機関を縛るための管理ではありません。伸ばすべき領域を見極め、無理な拡大を避け、必要な投資を説明し、将来の承継やM&Aにも耐えていくための、経営管理です。
最後に、本稿の重要事項を振り返っておきます。
| 論点 | 確認すべきこと | 経営判断への使い方 |
|---|---|---|
| 全体損益 | 全体黒字でも部門ごとの採算が見えているか | 強い部門と弱い部門の相殺を防ぐ |
| 部門区分 | 外来、在宅、検査、自由診療、病床、介護、分院など | 判断に使う単位で分ける |
| 部門別売上 | 保険、自費、健診、在宅、介護等を分けているか | 売上増加の源泉を把握する |
| 直接費 | 材料費、外注費、部門固有人件費を分けているか | 貢献利益を確認する |
| 共通費 | 家賃、人件費、本部費、システム費の配賦基準があるか | 毎月同じ前提で比較する |
| 人員配置 | 医師、看護師、事務、技師、療法士の時間を見ているか | 人件費と生産性を結びつける |
| 院長時間 | 院長の診療・管理・説明・連携時間を見える化しているか | 院長依存のリスクを把握する |
| 稼働率 | 検査機器、診察室、病床、訪問枠の稼働状況 | 投資回収と設備更新を判断する |
| 在宅医療 | 一般居宅、施設、看取り、緊急対応を分けているか | 体制負荷を含めて拡大可否を判断する |
| 自由診療 | 粗利、広告費、説明時間、消費税、規制対応を見ているか | 収益性と説明責任を両立する |
| 承継・M&A | 部門別の収益力、院長依存、設備、人員を説明できるか | 第三者に説明できる医療機関にする |
部門別採算を、経営判断に使える数字へ整えるために
「部門別・機能別採算を作りたいが、どこまで細かく分けるべきか分からない」 「外来、在宅、自由診療、検査、分院の採算を、同じ前提で比較したい」 「設備投資や採用の前に、どの部門が本当に利益を生んでいるのか確認したい」 「将来の承継・M&A・金融機関への説明に耐える管理資料を整えたい」
このような課題をお持ちの場合、まず必要になるのは、決算書や月次試算表を経営判断用に分解し、部門別売上、直接費、人件費、共通費、稼働率、資金繰りをつなげていくことです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次決算、管理会計、資金繰り、部門別採算、設備投資判断を、経営者ご自身が説明できる数字として整える支援を行っています。
自院の強みと弱みを、売上感覚ではなく、採算と資金の両面から確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。