部門別・機能別管理会計で、投資判断に使える数字をつくる

「全体では黒字だから、在宅医療を始めても大丈夫だろう」 「患者数は増えているから、検査機器を入れても採算は合うはずだ」 「分院を出せば、売上は自然に伸びるはずだ」

医療機関の成長を考えるとき、こうした感覚が判断の出発点になることは少なくありません。

もちろん、院長や理事長が現場で培った感覚は、とても重要です。患者さんのニーズ、地域の変化、スタッフの雰囲気、紹介元との関係、診療の手応え。こうしたものは、数字だけでは決してつかみきれません。

ただ、投資をするかどうかという段階になると、感覚だけでは足りなくなります。

在宅医療、自由診療、検査機器、分院、移転、病床機能、訪問看護、健診、介護周辺事業。これらはいずれも、売上だけの話では済みません。人員、時間、固定費、診療報酬、設備、資金繰り、制度対応が複雑に絡み合います。

そして、法人全体の損益計算書をいくら眺めても、「どこで利益が出ているのか」「どこに負荷が集中しているのか」「どの投資が回収できているのか」までは見えてこないのです。

ここで力を発揮するのが、部門別・機能別管理会計です。

管理会計は、税務申告のための会計ではありません。経営者が投資・採用・撤退・改善を判断するために、手元にある会計情報を組み替えていく考え方だと捉えていただくとよいでしょう。

本稿では、この部門別・機能別管理会計をどう設計すれば、医療機関の投資判断に本当に使える数字になるのかを、順を追って整理していきます。

目次

決算書があっても、投資判断に使えるとは限らない

どの医療機関にも、決算書や月次試算表はあります。しかし、それがあれば投資判断ができるかというと、必ずしもそうではありません。

通常の損益計算書は、法人全体、あるいは事業全体の収益と費用を示すものです。税務申告や外部への報告にはもちろん必要ですが、次のような問いには、なかなか答えてくれません。

経営者が知りたいこと通常の試算表だけでは見えにくい理由
在宅医療は本当に黒字か外来の人件費、車両費、事務負担、夜間対応が混ざっている
検査機器を入れるべきか検査件数、保守料、減価償却、スタッフ時間が分かれていない
自由診療は利益を生んでいるか広告費、説明時間、キャンセル、材料費、消費税影響が混在している
分院は採算に乗っているか本院からの応援人員、本部費、院長稼働、共通システム費が見えにくい
病棟機能を変えるべきか病床稼働率、入院単価、在院日数、人員配置、施設基準が会計と結びついていない

決算書はあくまで「結果」を示すものです。一方、投資判断に必要なのは、その奥にある「構造」のほうです。

どの収益が、どの人員・設備・時間・制度要件によって生み出されているのか。どの費用が、その部門に直接かかっているのか。どの費用は、共通費として合理的に配賦すべきなのか。そして、どの投資が、何件・何時間・何年で回収できるのか。

こうした問いに答えられる形に情報を組み替えること。それが、部門別・機能別管理会計の役割です。

部門別と機能別は、似ているようで目的が違う

管理会計を設計するとき、最初につまずきやすいのが、「部門別」と「機能別」の違いです。

部門別管理会計は、組織や場所で分ける考え方です。これに対して機能別管理会計は、医療サービスの機能で分ける考え方になります。

区分主な目的
部門別本院、分院、病棟、診療科、検査部、リハビリ部、事務部、本部組織・施設・責任単位ごとの採算を見る
機能別外来、入院、在宅、健診、自由診療、検査、訪問看護、介護、オンライン診療医療サービス・事業機能ごとの採算を見る
投資案件別新規CT導入、分院開設、在宅チーム立上げ、自由診療メニュー導入投資回収と継続可否を判断する

たとえば在宅医療なら、「在宅部門」として管理する方法もあります。一方で、外来診療所の中で一部だけ在宅を行っているようなケースでは、「外来」「在宅」という機能別に見たほうが、実態に近いこともあります。

病院であれば、急性期病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟、外来、リハビリ、在宅支援、健診といった単位で分ける必要が出てきます。診療所であれば、外来、健診、予防接種、自由診療、訪問診療、検査、物販などで分けることが多いでしょう。

大切なのは、形式的に部門コードを増やすことではありません。経営判断に必要な単位で分ける、ということに尽きます。

法定会計と管理会計を、混同しない

医療法人会計基準や病院会計準則は、医療機関の会計情報を整理するうえで欠かせない基盤です。ただ、これらがそのまま管理会計になるわけではない、という点には注意が必要です。

医療法人会計基準では、損益計算書上、事業損益を本来業務・附帯業務・収益業務に区分する考え方が示されています。これは、附帯業務や収益業務が本来業務に支障を与えていないかを判断するための、一つの手がかりとなるものです。
出典:厚生労働省|医療法人会計基準について

また病院会計準則では、医業収益を入院診療収益、外来診療収益、保健予防活動収益、受託検査・施設利用収益などに区分し、医業費用を材料費、給与費、委託費、設備関係費などに区分する考え方が示されています。
出典:厚生労働省|病院会計準則の改正について

これらは、管理会計を設計するうえで大いに参考になります。

ただ、投資判断のためには、ここからもう一歩踏み込んだ内部用の数字が必要になります。

たとえば、病院会計準則上は外来診療収益としてまとめられていても、経営判断の上では、一般外来、専門外来、救急外来、健診、自由診療を分けて見たい場面があります。医療法人会計基準上は本来業務に含まれていても、在宅医療、訪問看護、外来、検査、病棟機能ごとの採算を見たいことも出てきます。

つまり、法定会計は外部説明の基礎であり、管理会計は内部判断の道具です。両者を矛盾させてはいけませんが、必ずしも同じ形でなければならないわけではない、ということです。

管理会計は「どの投資を判断するか」から逆算してつくる

部門別・機能別管理会計をつくるとき、最初に決めるべきは勘定科目ではありません。まず固めておきたいのは、「その数字を、どの判断に使うのか」という点です。

たとえば、こんなふうに問いを立ててみます。

判断したいこと必要になる数字
在宅医療を始めるべきか訪問件数、医師時間、看護師・事務負担、車両費、連携先、夜間対応、在宅収益
検査機器を導入すべきか検査件数、診療報酬、自費検査収入、材料費、保守料、減価償却、スタッフ時間
自由診療を伸ばすべきか自費売上、材料費、説明時間、広告費、キャンセル率、消費税、患者満足
分院を出すべきか新規患者数、人員体制、家賃、院長稼働、初期投資、借入返済、本部管理負荷
病棟機能を転換すべきか病床稼働率、入院単価、在院日数、人員配置、施設基準、紹介元、退院支援

こうした問いを持たないまま部門別損益を組んでしまうと、見た目は整っていても、肝心の判断には使えない資料ができあがってしまいます。

管理会計は、経理部門だけで完結する作業ではありません。院長、理事長、事務長、医事課、看護部、現場責任者、そして外部の専門家が、「何を判断したいのか」を共有したうえで設計していく必要があります。

まずは「直接費」を正しくつかむ

部門別・機能別の採算を見るとき、最初に手をつけるべきは共通費の配賦ではありません。まずは、直接費をつかむことです。

直接費とは、その部門・機能に直接ひもづく費用を指します。

機能直接費の例
外来医師・看護師・事務スタッフの時間、診療材料、検査委託費、処置材料
在宅医療医師・看護師・事務時間、車両費、訪問バッグ、通信費、連携事務、夜間対応費
検査試薬、検査委託費、機器保守料、技師・看護師時間、減価償却費
自由診療材料費、広告費、カウンセリング時間、決済手数料、消費税、在庫
分院家賃、人件費、医療機器、受付・会計、広告費、システム利用料
病棟看護師・看護補助者人件費、給食、材料費、委託費、設備関係費

この段階で大事なのは、「完全に正確に分けること」ではありません。「判断を誤らない水準で分けること」です。

実際の現場では、医師が外来と在宅を兼務している。看護師が処置、検査、自由診療の説明を兼務している。事務スタッフが受付、会計、レセプト、在宅書類を兼務している。こうした医療機関がほとんどでしょう。

そうなると、費用を100%厳密に分けるのは、現実的に難しい話です。

それでも、時間記録、勤務シフト、予約枠、患者数、訪問件数、検査件数といった情報を使えば、一定の把握はできます。

まずは直接費をつかむ。たったそれだけでも、全体試算表では見えてこなかった採算の違いが、はっきりと浮かび上がってきます。

共通費配賦は、配賦後の数字だけを見てはいけない

部門別損益で、最も議論が割れやすいのが共通費の配賦です。

共通費とは、複数の部門に共通して発生する費用のことです。院長報酬、事務長人件費、本部人件費、会計・労務の顧問料、システム費、家賃、光熱費、広告費、減価償却費、借入関連費用などが、これにあたります。

共通費を配賦しなければ、各部門の本当の利益は見えにくくなります。とはいえ、配賦の基準が不合理だと、今度は部門の評価そのものを誤ってしまいます。

たとえば、すべての共通費を売上比で配賦すると、高単価でも手間の少ない部門に、過大な負担がかかることがあります。反対に、患者数比だけで配賦すれば、低単価でも回転数の多い部門が、重い負担を背負うことになりかねません。

そこで、共通費は次のように整理していきます。

共通費配賦基準の例
家賃・水道光熱費面積、使用時間、診療枠
受付・会計スタッフ患者数、会計件数、予約件数、業務時間
医師時間診療時間、訪問時間、手術時間、予約枠
システム費利用ID数、端末数、部門数、利用量
広告費来院動機、広告対象、売上比、患者数
本部費売上比、人員比、施設数、業務量、管理負荷
減価償却費利用部門、使用時間、検査件数、設置場所

ここで欠かせないのが、配賦前利益と配賦後利益を、両方見るという姿勢です。

配賦前は黒字でも配賦後に赤字となる場合、その部門自体は現場の採算には貢献しているものの、全社共通費まで負担する力はまだ弱い、と読み取ることができます。配賦前から赤字であれば、収益構造そのもの、価格設定、診療報酬、人員配置、稼働率を見直す必要があるでしょう。

配賦後の数字だけを見て、「この部門は赤字だからやめる」と判断するのは危険です。その部門が、患者さんの紹介、地域連携、病棟稼働、自由診療への導線、後継者育成に寄与していることもあるからです。

管理会計は、撤退判断を機械的に下すための道具ではありません。判断に必要な事実を、見えるようにするための道具です。

稼働率を入れない管理会計は、医療機関では機能しにくい

医療機関の採算は、売上と費用だけでは読み解けません。そこに稼働率を加えて見る必要があります。

医療機関には、いくつもの制約資源が存在します。

  • 医師の診療時間
  • 診察室
  • 処置室
  • 検査機器
  • 病床
  • 看護師配置
  • 訪問車両
  • 予約枠
  • カウンセリング枠
  • レセプト・書類処理能力

これらは、無限に増やせるものではありません。

だからこそ、同じ利益額であっても、少ない時間・少ない設備・少ない人員で生み出しているのか、それとも多くの資源を使っているのかで、評価は大きく変わってきます。

たとえば、月100万円の利益を生む機能が二つあるとしましょう。

機能月利益医師時間評価
A機能100万円20時間時間当たり5万円
B機能100万円80時間時間当たり1.25万円

利益額だけを見れば、両者は同じです。しかし、医師時間という制約資源で見れば、A機能のほうが明らかに効率的だとわかります。

もちろん、医療には公共性があります。時間当たり利益だけで診療を選別すべきではありません。

それでも、医師時間や看護師時間が足りていない医療機関では、どの機能がどれだけ時間を使っているかを把握しなければ、採用判断も、予約設計も、診療体制の見直しもできないのです。

とりわけ在宅医療、自由診療、検査、病棟運営においては、稼働率と時間当たり採算が大きな意味を持ちます。

時間当たり採算は、院長依存を見える化する

クリニック経営では、院長の時間こそが最大の制約になることがあります。

外来、検査説明、自由診療のカウンセリング、在宅、採用面接、スタッフ面談、金融機関対応、行政対応、理事会、広報確認まで——院長がこれらをすべて抱え込んでいる場合、数字の上では黒字でも、組織としては限界に近いことがあります。

このとき管理会計で見るべきは、単なる部門利益ではなく、時間当たり採算です。

指標見る意味
医師1時間当たり医業収益医師時間をどの機能で使うべきかを見る
医師1時間当たり限界利益患者数増加・診療単価上昇の効果を見る
看護師1時間当たり処置・検査件数人員配置と業務導線を見る
事務1時間当たり受付・会計・レセプト処理量事務負担とDX投資の必要性を見る
診察室1コマ当たり売上予約枠と診療メニューの設計を見る
訪問1件当たり移動時間・診療時間在宅医療のエリア設計を見る

こうした指標を持っておくと、「売上は伸びているのに、院長が疲弊している」という状態を、数字で説明できるようになります。

投資判断においても同様です。設備投資だけでなく、「院長の時間を空ける投資かどうか」という視点で見られるようになります。

たとえば、予約システム、Web問診、会計自動化、検査機器、事務長の採用、看護師の増員。これらは、必ずしも直接売上を増やす投資ではありません。

しかし、院長やスタッフの時間を減らし、より価値の高い診療や経営判断へその時間を振り向けられるのであれば、そこには確かな投資効果があります。

この効果を見落としてしまうと、医療機関の投資判断は、どうしても狭いものになってしまいます。

人員別採算は、人件費削減ではなく体制設計のために見る

管理会計で人員別採算を見るときには、注意していただきたい点があります。人件費を単に削るために使ってはいけない、ということです。

医療機関における人件費は、コストであると同時に、医療提供体制そのものでもあります。看護師、事務、検査技師、リハビリ職、歯科衛生士、訪問看護師、医師事務作業補助者。こうした人材が不足すれば、診療の質、患者さんの満足、医師の負担、施設基準、収益性のすべてに影響が及びます。

人員別採算で見るべきは、たとえば次のような論点です。

  • この部門には、どの職種が何時間関与しているか
  • 売上に対して人件費が重いのは、単価の問題か、稼働率の問題か、それとも業務設計の問題か
  • 増員すれば、売上増加・待ち時間短縮・院長負担軽減につながるか
  • 教育期間中の人件費を見込んでいるか
  • 離職による採用費・教育費・現場負荷を考慮しているか
  • 資格者の配置が、施設基準や診療報酬に影響していないか
  • 部門利益だけでなく、他部門への貢献を見ているか

人員別採算は、スタッフを評価するためだけの資料ではありません。診療体制を設計するための資料です。

採用すべきか。非常勤にすべきか。業務を委託すべきか。システム化すべきか。教育して職域を広げるべきか。こうした判断にこそ、活かしていきたいものです。

投資回収を見るときは、減価償却費だけでは足りない

医療機器や内装、分院、在宅医療、自由診療メニューへの投資を判断するとき、「減価償却費を負担できるかどうか」だけを見ていては不十分です。

投資判断では、次の五つを分けて見る必要があります。

見る項目内容
初期投資医療機器、内装、システム、広告、研修、採用、備品
月次損益追加売上、材料費、人件費、保守料、家賃、減価償却費
資金繰り借入返済、リース料、税金、運転資金、未収金の増加
稼働条件必要患者数、検査件数、訪問件数、予約枠、病床稼働率
撤退条件何か月・何年で見直すか、損失許容額、転用可能性

会計上は黒字でも、借入返済によって資金が不足することがあります。逆に、減価償却費で損益は重く見えても、キャッシュ・フローの上では安定している、というケースもあります。

ですから投資判断では、損益と資金繰りを分けて見ることが欠かせません。

とりわけ医療機関では、診療報酬の入金タイミング、自由診療の前受金、リース料、借入返済、消費税、補助金、未収金が影響してきます。

投資回収とは、単なる利益計算ではなく、資金回収の計算でもある——そう捉えておくとよいでしょう。

在宅医療の採算は、外来と同じ物差しでは読めない

在宅医療は、部門別・機能別管理会計の必要性が特に高い領域です。外来と在宅では、収益構造も費用構造も大きく異なるからです。

外来では、患者さんが院内に来院します。一方の在宅では、医師や看護師が患者さんのご自宅や施設へ出向きます。

外来で重要になるのは診察室の稼働率です。在宅で重要になるのは、訪問ルート、移動時間、患者密度、連携先、書類、緊急対応です。

外来の中心は受付・会計・待合の導線です。在宅の中心は、ケアマネジャー、訪問看護、薬局、ご家族、施設との連携になります。

こうした違いがあるため、在宅医療を外来と同じ損益表で評価してしまうと、採算を見誤ることがあります。

在宅医療では、少なくとも次の数字を押さえておきたいところです。

項目確認すべき内容
売上訪問診療、往診、医学管理料、書類、看取り、施設・居宅別
直接費医師時間、看護師時間、事務時間、車両費、通信費、訪問バッグ
稼働訪問件数、訪問ルート、移動時間、1日当たり件数
体制24時間対応、連携先、当番制、非常勤医師、訪問看護
間接効果入院紹介、外来継続、地域連携、看取り実績
リスク夜間負荷、スタッフ疲弊、算定要件、同意書、記録管理

在宅医療は、直接の収益だけでなく、地域連携や患者基盤にも影響を及ぼします。その一方で、夜間・休日対応や書類負担が重くのしかかることもあります。

ですから、「在宅は単価が高いから始める」「外来が減っているから在宅に行く」といった単純な判断は避けたいところです。

管理会計で、外来と在宅を分ける。そのうえで、共通の人員・共通費・時間・体制負荷を見える化する。ここが、在宅医療の投資判断の出発点になります。

検査機器投資は、検査件数だけでなく「診療設計」で見る

検査機器の投資判断でも、管理会計が大きな助けになります。

検査機器は、導入後の件数が見込みどおりにならなければ、採算が合いません。とはいえ、検査件数だけを追いかけると、今度は過剰検査や現場負荷につながるおそれが出てきます。

見るべき数字は、次のようなものです。

項目確認すべき内容
投資額本体価格、設置費、内装、保守、リース料、更新費
収益保険診療収益、自費検査収益、健診収益、紹介検査
直接費試薬、消耗品、技師・看護師時間、保守料、廃棄物
稼働1日検査件数、予約枠、検査時間、キャンセル率
診療価値診断精度、患者利便性、紹介元対応、診療方針との整合性
資金借入返済、リース料、税務処理、更新サイクル

検査機器は、それ単独で黒字かどうかだけでなく、診療全体にどう効いてくるかも合わせて見ます。

院内で検査を受けられることで診療の質が上がる。外注検査の待ち時間が減る。専門性を示しやすくなる。紹介元との連携が強くなる。こうした効果は、確かにあります。

その反面、医師やスタッフの説明時間が増え、予約枠が詰まり、保守費がかさむこともあります。

ですから検査機器投資では、「機器単体の損益」と「診療全体への効果」を分けて整理しておく必要があるのです。

自由診療は、売上総額ではなく説明コストと回収条件を見る

自由診療は、保険診療に比べて単価が高く見えます。そのため、売上だけを見ていると、とても魅力的に映ることがあります。

しかし、自由診療の採算を見るときには、次の点を確かめておかなければなりません。

  • カウンセリングや説明に、どれだけ時間を使っているか
  • 医師ではなくスタッフが説明できる範囲は、どこまでか
  • 材料費、外注費、機器償却、広告費が、どれだけかかっているか
  • キャンセル、返金、分割払い、未収金の管理をどうするか
  • 消費税の課税関係を整理できているか
  • 医療広告規制や費用表示に対応できているか
  • 患者さんの満足やクレーム対応に必要な体制があるか

自由診療では、売上だけでなく、説明責任と信頼管理が収益性を左右します。とりわけ美容、歯科矯正、予防医療、健康診断、自費検査、物販などでは、会計・税務・広告・患者さんへの説明が、すべて一本につながっています。

自由診療の管理会計では、単に「自費売上」を眺めるのではなく、メニュー別、患者導線別、担当者別、説明時間別に見ていきます。

どのメニューが利益を生んでいるのか。どのメニューは、手間の割に利益が薄いのか。どの広告費が来院につながっているのか。どのスタッフ配置なら、説明品質と採算を両立できるのか。

ここまで見て、ようやく自由診療の投資判断ができるようになります。

分院・移転は、院長時間と本部管理負荷を入れて判断する

分院や移転は、売上拡大の機会であると同時に、管理負荷の大きな投資でもあります。

新しい施設を構えれば、家賃、内装、医療機器、人件費、広告費、採用費、システム費、借入返済が増えます。さらに、本院からの応援、院長の移動時間、事務長の管理負荷、法人手続、行政届出、スタッフ教育、患者さんへの説明も発生します。

分院投資でよく見落とされるのが、本部費と院長時間です。

分院単体の損益だけを見れば黒字に見えても、実際には本院の院長がかなりの時間を割いている、ということがあります。事務長や本部スタッフが、採用、シフト、クレーム、会計、レセプト、物品管理を陰で支えていることもあります。

これらを分院損益に反映しなければ、実態よりもよく見えてしまう可能性があるのです。

分院・移転の管理会計では、次のように見ていきます。

項目確認すべき内容
施設別損益分院単体の売上、直接費、人件費、家賃、広告費
本部負担本部人件費、会計・労務、システム、採用、経営管理
院長時間移動、診療、採用、教育、現場確認、トラブル対応
資金繰り初期投資、借入返済、運転資金、税金
患者基盤新規患者、紹介元、本院からの移行、診療圏
撤退条件何か月で黒字化するか、損失許容額、原状回復費

分院は、単なる売上拡大ではありません。法人運営力と管理会計の水準が、そのまま問われる投資です。

病院では、病棟・機能別採算を制度と一体で見る

病院や有床診療所になると、部門別・機能別管理会計の重要性はいっそう高まります。病床稼働率、入院単価、在院日数、DPC、地域包括ケア病棟、リハビリ、外来、救急、在宅支援、施設基準、人員配置が、互いに絡み合うからです。

病院では、単に「入院部門が黒字」「外来部門が赤字」と見るだけでは不十分です。

外来は赤字でも、入院への入口として重要な場合があります。リハビリ部門は、単体の利益だけでなく、病棟機能や退院支援にも影響します。地域包括ケア病棟は、在宅・急性期・介護との連携の中で評価すべきものです。救急や不採算医療は、地域での役割や施設基準と一体で考える必要があります。

病院の管理会計では、次の数字を組み合わせて見ていきます。

項目見るべき内容
病棟別損益入院収益、給与費、材料費、委託費、設備関係費
病床稼働率採算ライン、空床損失、入退院調整
入院単価患者構成、診療密度、施設基準、DPC影響
在院日数回転率、退院支援、地域連携
人員配置看護師、リハビリ職、医師、補助者、事務
機能別採算急性期、地域包括ケア、療養、リハビリ、在宅支援
本部費配賦法人本部、管理部門、共通システム、借入関連

病院会計準則でも、医業における材料費、給与費、設備関係費、経費等を、医業収益に対応する医業費用として控除し、本部会計を設置している場合には本部費配賦額を控除して医業利益を表示する、という考え方が示されています。
出典:厚生労働省|病院会計準則の改正について

この考え方は、病院の管理会計にもそのまま活きてきます。

経営情報報告の時代には、施設単位の数字を整える意味が増している

医療法人については、事業報告書等だけでなく、経営情報等の報告も、制度上の重みを増しています。

厚生労働省は、事業報告書等を法人単位の活動状況等として、経営情報等を病院・診療所単位での収益および費用、職員の職種別人数および給与総額などとして整理し、毎会計年度終了後の一定期間内に報告する仕組みとしています。
出典:厚生労働省|事業報告書等と経営情報等の報告が義務付けられています

さらに厚生労働省は、医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)によって、事業報告書等および経営情報等のシステム報告を進めています。
出典:厚生労働省|医療法人に関する情報の調査及び分析等について

この流れは、医療法人にとって、施設単位・機能単位の数字を整える必要性が高まっていることを意味します。

経営情報等の報告は、外部制度への対応です。一方、管理会計は内部判断のための資料です。とはいえ、両者は決して無関係ではありません。

普段から、施設別、職種別、収益費用別の情報を整えておけば、外部報告も、月次管理も、金融機関対応も、承継・M&A対応も、ぐっと進めやすくなります。

逆に、年に一度の報告のときだけ慌てて数字をかき集めているようでは、経営判断にはなかなか使えません。

管理会計レポートは、複雑にしすぎない

部門別・機能別管理会計は、最初から細かくつくり込みすぎると、運用が続きません。

医療機関の現場は忙しく、経理担当者や事務長の人数も限られています。上場企業のような原価計算制度をいきなり導入しても、現場の負荷が大きく、月次決算が遅れてしまうおそれがあります。

まずは、次のようなレポートから始めるのが現実的でしょう。

項目外来在宅検査自由診療分院
売上
直接材料費
外注費・委託費
直接人件費
減価償却・リース
その他直接費
配賦前利益
共通費配賦
配賦後利益
医師時間
スタッフ時間
件数・患者数
時間当たり利益

この表を、毎月完璧に仕上げる必要はありません。まずは四半期ごとでも十分です。

大切なのは、継続して、同じ前提で見続けることです。

前月と今月で配賦基準が違う。担当者によって科目が違う。ある月だけ減価償却が入っていない。人件費が部門別に分かれていない。売上だけ速報で出るが、費用は翌月にならないとわからない。こうした状態では、経営判断には使えません。

管理会計には、正確性とスピードのバランスが求められます。投資判断に使う数字は、遅すぎても、粗すぎても機能しないのです。

よくある失敗:管理会計をつくっても判断に使えない理由

部門別・機能別管理会計を導入しても、思うように機能しないことがあります。主な原因は、次のとおりです。

1. 売上だけを分けて、費用を分けていない

外来売上、在宅売上、自由診療売上は分けているのに、人件費、材料費、外注費、広告費、設備費が分かれていない。これでは、採算判断には使えません。

2. 共通費をすべて売上比で配賦している

売上比配賦は手軽ですが、いつも合理的とは限りません。医師時間、スタッフ時間、面積、患者数、検査件数など、費用の発生実態に近い基準を選ぶ必要があります。

3. 院長時間をコストとして見ていない

院長が無償で支えている分院、自由診療、在宅医療は、数字の上では黒字に見えやすくなります。しかし、院長時間は有限です。経営判断では、必ず考慮すべきものです。

4. 稼働率を見ていない

検査機器、病床、診察室、訪問車両、予約枠は、稼働して初めて収益を生みます。投資額と売上だけでなく、稼働条件まで見なければなりません。

5. 資金繰りを別に見ていない

管理会計上は利益が出ていても、借入返済、リース料、税金、未収金、賞与で資金が不足することがあります。投資判断では、損益と資金繰りを同時に見る必要があります。

6. 数字をつくるだけで、会議で使っていない

管理会計は、作成すること自体が目的ではありません。経営会議、理事会、院内幹部会議、金融機関への説明、投資判断に使って、初めて意味を持ちます。

段階的に整えるなら、この順番で進める

部門別・機能別管理会計は、一気にではなく、段階的に整えていくのがよいでしょう。

第1段階:全体損益を安定させる

まずは、月次決算が正しく、早く出る状態をつくります。全体試算表が不安定なまま部門別管理を始めると、部門別の数字もまた、信頼できないものになってしまいます。

第2段階:売上を機能別に分ける

外来、在宅、健診、自由診療、検査、分院、病棟など、経営判断に必要な単位で売上を分けます。

第3段階:直接費を分ける

材料費、委託費、人件費、減価償却費、広告費など、直接ひもづく費用から分けていきます。最初からすべての共通費を配賦しようとしないことが、ここでのポイントです。

第4段階:時間・稼働率を入れる

医師時間、スタッフ時間、診察室稼働、検査件数、訪問件数、病床稼働率を加えます。これにより、利益額だけでなく、効率と負荷まで見えるようになります。

第5段階:共通費配賦を設計する

配賦基準を定め、配賦前利益と配賦後利益を両方見ます。配賦基準は毎月変えず、変更する場合には、その理由を記録に残しておきます。

第6段階:投資回収モデルに接続する

新規投資について、初期投資、月次損益、資金繰り、稼働条件、撤退条件を整理します。こうして、管理会計を「投資判断の前提資料」へと育てていきます。

管理会計は、攻めの判断を慎重にするための基盤である

部門別・機能別管理会計は、成長を止めるためのものではありません。むしろ、攻めるべき領域を見極めるためのものです。

どの診療機能に強みがあるのか。どの部門は、人員を増やせば伸びるのか。どの投資は回収できるのか。どの機能は、採算だけでなく地域連携の上でも重要なのか。どの部門は、赤字の理由を改善できるのか。どの投資は、資金繰りや組織体制から見て、まだ時期尚早なのか。

こうした判断は、全体の決算書だけでは、なかなか難しいものです。

医療機関経営では、公共性と経営性を両立させなければなりません。すべてを採算だけで判断することはできません。

けれども、採算を見ないまま拡大を続ければ、資金、人材、管理体制が崩れ、医療の継続そのものが難しくなることがあります。

管理会計は、医療機関を冷たく数字だけで見るためのものではありません。良い医療を長く続けていくために、数字で支えられる経営をつくるためのものです。

部門別・機能別管理会計を整えたい医療機関へ

外来、在宅、自由診療、検査、分院、病棟、訪問看護、介護周辺事業。医療機関の機能が広がるほど、全体試算表だけでは経営判断が難しくなっていきます。

どの機能が利益を生んでいるのか。どの部門に人員負荷がかかっているのか。どの投資が回収できているのか。どの共通費配賦が合理的なのか。将来の分院、在宅医療、設備投資、承継・M&Aに向けて、どの数字を整えておくべきか。

これらは、会計入力や申告作業だけでは、なかなか整理しきれない領域です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関の月次決算、部門別・機能別管理会計、共通費配賦、投資回収シミュレーション、資金繰り、医療法人運営、そして承継・M&Aを見据えた財務資料の整備を支援しています。

自院の数字が、投資判断に使える状態になっているかを確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

振り返り:この記事の重要ポイント

論点確認すべきこと
管理会計の目的税務申告ではなく、投資・採用・撤退・改善判断に使う
部門別管理本院、分院、病棟、診療科、本部など組織・施設単位で見る
機能別管理外来、在宅、検査、自由診療、健診、訪問看護など機能単位で見る
直接費材料費、人件費、委託費、減価償却費など直接ひもづく費用を把握する
共通費配賦売上比だけに頼らず、時間、面積、人員、患者数など合理的基準を選ぶ
配賦前・配賦後利益配賦後だけでなく、配賦前の現場採算も見る
稼働率医師時間、診察室、検査機器、病床、訪問枠など制約資源を把握する
時間当たり採算院長依存、スタッフ負荷、診療機能の効率を見える化する
人員別採算人件費削減ではなく、体制設計・採用判断・教育投資に使う
投資回収初期投資、月次損益、資金繰り、稼働条件、撤退条件を分けて見る
在宅医療外来と同じ物差しではなく、訪問件数、移動時間、連携負荷を含めて見る
検査機器投資検査件数だけでなく、保守料、スタッフ時間、診療価値を含めて判断する
自由診療売上総額だけでなく、説明時間、広告費、材料費、消費税、回収条件を見る
分院・移転分院損益だけでなく、本部費、院長時間、管理負荷、撤退条件を見る
病院管理会計病床稼働率、入院単価、在院日数、人員配置、施設基準を会計とつなげる
整備の順番全体月次決算、売上区分、直接費、稼働率、共通費配賦、投資回収の順で整える

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