中小病院の経営再生を考えるとき、最初に確認すべきは「赤字をどう埋めるか」ではありません。
本当に問うべきは、自院がこれからも地域のなかでどの医療機能を担うのか。そして、その機能を続けていけるだけの人員・資金・設備・管理体制が整っているのか、という点です。
赤字が続いている病院では、どうしても目先の資金繰り、金融機関への対応、人件費、材料費、委託費、設備更新、そして賞与を出せるかどうかに意識が向きます。それ自体は、当然のことです。ただ、病院の機能そのものが地域のニーズや自院の人員体制と噛み合っていなければ、経費削減だけで再生することはできません。
急性期を維持するのか。
地域包括ケアや包括期医療へ寄せるのか。
慢性期・療養・精神科の役割を見直すのか。
在宅医療や介護施設の後方支援に軸足を移すのか。
外来機能を縮小し、入院・在宅・紹介患者に集中するのか。
単独運営を続けるのか、それとも提携・承継・M&Aを検討するのか。
中小病院の経営再生は、単なる財務改善ではありません。病院機能の再設計そのものなのです。
本稿では、赤字病院や伸び悩む中小病院が、機能分化、地域ニーズ、組織改革、財務改善、投資抑制を、どの順番で整理していけばよいのかを解説します。
中小病院の再生は「何を削るか」ではなく「何を残すか」から始める
経営が悪化した病院では、まず経費削減が検討されがちです。
委託費を下げる。
材料費を見直す。
賞与を抑える。
残業を減らす。
採用を止める。
設備更新を先送りする。
いずれも、必要になる局面はあります。ただ、これだけでは病院の再生にはなりません。むしろ、削ってはいけない機能まで削ってしまうと、施設基準を維持できなくなり、患者受入れが減り、職員が離職し、結果としてさらに収益が落ちていくことすらあります。
中小病院でまず整理すべき問いは、次の3つです。
| 最初に問うべきこと | 確認する内容 |
|---|---|
| 地域で必要とされている機能は何か | 高齢者救急、回復期、慢性期、精神科、在宅後方支援、看取り、外来、健診など |
| 自院が現実に担える機能は何か | 医師、看護師、リハ職、薬剤師、事務、設備、病棟構成、施設基準 |
| その機能は資金的に継続できるか | 医業収支、病棟別採算、借入返済、設備更新、補助金依存度 |
「地域に必要だから続ける」という判断だけでは、いずれ資金が尽きてしまうかもしれません。
逆に「赤字だからやめる」という判断だけでは、地域医療や承継の可能性を損なってしまうこともあります。
再生の入口は、必要性と継続可能性を、同じ一枚の表に並べて見ることです。
病院経営の環境は、補助金後の実力値で見る局面に入っている
病院経営は、公立・民間を問わず厳しさを増しています。
独立行政法人福祉医療機構が公表した2024年度の病院経営状況では、コロナ補助金収益がなくなったことで経常利益率がさらに落ち込み、病院経営は非常に厳しい局面にあると整理されています。同じ資料によれば、赤字病院の割合は、一般病院で58.3%、療養型病院で44.1%、精神科病院で56.9%にのぼります。
出典:独立行政法人福祉医療機構|2024年度 病院の経営状況について
こうした環境で大切なのは、補助金を含めた経常収支だけで判断しないことです。
コロナ関連補助金、物価高騰対策、病床関連支援、自治体からの繰入金などが一時的に収支を支えていた場合、それを自院の実力値と取り違えてしまうと、再生計画の前提そのものが崩れてしまいます。
再生の局面では、少なくとも次の3つに分けて見ていきます。
| 区分 | 見るべき意味 |
|---|---|
| 医業収支 | 本業の診療でどれだけ利益・損失が出ているか |
| 経常収支 | 補助金、受取利息、医業外収益等を含めた全体収支 |
| 返済後キャッシュ | 借入元本の返済後に手元資金が残るか |
会計上の赤字幅が小さく見えても、借入返済、設備更新、賞与、修繕費、未収金の増加が重なれば、資金繰りは悪化していきます。反対に、減価償却費の影響で損益上は厳しく見えていても、短期の資金は保たれている、というケースもあります。
ですから中小病院の再生では、損益計算書だけを見るのではなく、資金繰り表、借入一覧、設備更新予定表、病棟別損益を、同時に確認していく必要があるのです。
地域医療構想は「病床削減の話」ではなく、機能再設計の話である
中小病院の機能転換を考えるうえで、地域医療構想との整合性は避けて通れません。
厚生労働省の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」では、地域医療構想の策定を2028年度までに行うこととされています。そして2026年度から2027年度上半期を目途に、構想区域ごとの現状把握、必要病床数の設定、医療機関機能の確保、2040年に向けて取り組むべき課題の設定などを進める方向性が示されています。
出典:厚生労働省|新たな地域医療構想に関するとりまとめ
また地域医療構想では、医療資源投入量によって高度急性期、急性期、回復期、慢性期それぞれの医療需要を算出し、病床稼働率で割り戻して病床の必要量を推計する、という考え方が示されています。
出典:厚生労働省|新たな地域医療構想策定ガイドラインについて
ここで誤解してはいけないのは、地域医療構想は単に「病床を減らす話」ではない、ということです。
実務のうえでは、次のような問いに置き換えて考える必要があります。
| 地域医療構想上の論点 | 中小病院の経営判断に置き換えると |
|---|---|
| 必要病床数 | 自院の病床数は将来需要と合っているか |
| 医療機能区分 | 急性期・回復期・慢性期のどこで残るべきか |
| 医療機関機能 | 高齢者救急、在宅後方支援、リハ、慢性期など何を担うか |
| 構想区域 | 自院単独ではなく、地域内の他病院・診療所との役割分担はどうか |
| 病床機能報告 | 報告内容と実態、将来方針にズレはないか |
中小病院の再生では、地域医療構想を「外部環境」として読むだけでは足りません。自院の事業計画、金融機関への説明、施設基準、人員計画、投資判断にまで、しっかりと接続していく必要があります。
機能転換で検討すべき主な方向性
中小病院の機能転換には、複数の選択肢があります。大切なのは、流行している機能を選ぶことではなく、自院の診療圏、人員、設備、資金、地域連携に合った機能を選ぶことです。
| 転換方向 | 向いている可能性がある病院 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 急性期機能の維持・集中 | 救急、手術、紹介患者、診療密度を確保できる病院 | 医師体制、救急実績、手術件数、入院単価、人員配置 |
| 地域包括医療・地域包括ケアへの転換 | 高齢者救急、在宅復帰、退院支援を担える病院 | 在院日数、ADL、在宅復帰率、退院支援、介護連携 |
| 回復期リハビリ機能の強化 | リハ職を確保でき、退院支援に強みがある病院 | リハ単位数、実績指数、在宅復帰、職種別人員 |
| 慢性期・療養機能の再設計 | 長期療養、医療依存度の高い患者を受ける病院 | 医療区分、看護・介護配置、介護医療院転換可能性 |
| 精神科機能の再構築 | 地域移行、身体合併症、認知症、在宅支援に対応する病院 | 長期入院比率、退院支援、訪問看護、身体合併症対応 |
| 在宅後方支援・施設後方支援 | 診療所、訪問看護、介護施設との連携がある病院 | 緊急入院受入れ、協力医療機関、訪問診療連携 |
| 外来縮小・入院重点化 | 医師負担が重く、外来採算が低い病院 | 外来患者数、紹介率、逆紹介、外来損益、医師時間 |
| 承継・M&A・提携 | 単独再生に限界がある病院 | 財務DD、税務、労務、施設基準、患者・職員説明 |
病院経営の実務では、病床稼働率、初診率、入院ルート、外来診療圏・入院診療圏、損益分岐点、借入金水準などを、総合的に読んでいく必要があります。病床稼働率の採算ライン、外来患者数の損益分岐点、病院数の減少、DPC病床の広がり、機能分化の効果。こうした要素はいずれも、機能転換を考えるうえでの土台になります。
令和8年度診療報酬改定も、機能選択をより明確に求めている
診療報酬改定は、病院の機能選択に大きな影響を与えます。
令和8年度診療報酬改定の説明資料では、地域包括医療病棟について、高齢者の中等症までの救急疾患等を幅広く受け入れていく観点から、平均在院日数、ADL低下割合、重症度、医療・看護必要度の基準を見直す方向性が示されています。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定の概要 4.包括期・慢性期入院医療
厚生労働省は令和8年度診療報酬改定の説明資料を公表しており、包括期・慢性期入院医療、急性期・高度急性期入院医療、DPC、外来、在宅医療といった各資料を確認しておく必要があります。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定説明資料等について
ここから見えてくるのは、中小病院に対して「何となく急性期」「何となく療養」「何となくケアミックス」という運営が、許されにくくなっているということです。
高齢者救急を受けるなら、受けるだけの体制が必要です。
在宅復帰を掲げるなら、退院支援と介護連携が必要です。
回復期を強化するなら、リハ職と実績管理が必要です。
慢性期を維持するなら、医療必要度と人員配置が問われます。
在宅後方支援を担うなら、診療所・訪問看護・介護施設との関係が必要です。
制度は、単なる点数表ではありません。中小病院に対して、地域で果たす機能をより明確にすることを求めているのです。
なお、診療報酬の算定要件や施設基準は、告示・通知・疑義解釈などによって詳細が定められます。実際の届出や算定の判断にあたっては、最新の正式資料と個別事情の確認が欠かせません。
「コミュニティホスピタル」は法定名称ではなく、経営戦略として理解する
中小病院の再生をめぐる文脈では、「コミュニティホスピタル」という言葉が使われることがあります。
ここでいうコミュニティホスピタルは、一つの法定病院類型を指すというより、地域密着型の多機能病院として、高齢者救急、在宅後方支援、退院支援、リハビリ、慢性期、地域連携を担っていく方向性として理解するのが、実務的だと考えています。
急性期の大病院のように、高度医療を広域から集めるのではありません。地域の高齢者や在宅の患者さん、介護施設の入所者、診療所から紹介された患者さんを受け、必要に応じて大病院へつなぎ、状態が安定すれば在宅や施設へ戻していく。この「地域内の循環」を担うのが、コミュニティホスピタル型の病院です。
中小病院がこの型へ転換する場合、見るべき数字は次のように変わってきます。
| 従来の見方 | 転換後に重視すべき見方 |
|---|---|
| 病床稼働率 | どの患者が、どのルートから入院しているか |
| 入院単価 | 高齢者救急、リハ、退院支援、在宅復帰との整合性 |
| 外来患者数 | 入院・在宅・紹介につながる外来か |
| 診療科別売上 | 地域で担う機能ごとの採算 |
| 医師数 | 常勤医、非常勤医、連携医療機関を含む体制 |
| 退院数 | 在宅復帰、施設復帰、転院、再入院の流れ |
| 連携先数 | 診療所、訪問看護、介護施設、ケアマネとの実働関係 |
この転換は、名称を変えたり広報の表現を整えたりするだけでは実現しません。病棟構成、施設基準、人員配置、退院支援、在宅・介護連携、資金計画を、同時に変えていく必要があるのです。
在宅連携は「外来患者減少の穴埋め」ではなく、入院機能の再設計である
在宅医療や介護施設との連携は、中小病院の再生において重要な論点です。
ただし、在宅医療を単に新しい売上源として捉えてしまうと、うまくいきません。在宅患者数を増やそうとすれば、医師・看護師・事務・連携担当者の負荷が増えます。24時間対応、緊急入院、看取り、訪問看護、薬局、介護施設との調整も必要になってきます。
一方で、在宅連携がうまく機能すると、中小病院にとって大きな意味を持ちます。
在宅の患者さんの状態が悪化したときに、入院を受け止める。
介護施設の協力医療機関として、後方支援を担う。
退院後の受け皿を確保する。
診療所と病院の役割分担を、明確にする。
高齢者救急を、地域で受け止める。
地域包括ケア病棟・地域包括医療病棟などの機能と、接続する。
実際に在宅医療を導入した病院では、地域包括ケア病床の確保、施設基準の向上、在宅患者の確保による収益増、そして在宅患者からの安定した入院患者の確保といった効果が現れています。
在宅連携は、病院の外側に手を広げる戦略ではありません。病院の入院機能を、地域の患者動線に合わせて作り直していく戦略なのです。
精神科病院・慢性期病院では「長期入院の維持」だけでは将来を描きにくい
精神科病院や慢性期病院もまた、経営再生の難しさを抱えています。
長期入院の患者さんが多い病院では、病床稼働率は高く見えても、安心はできません。将来の患者構成、入院期間、地域移行、人員確保、建物の老朽化、身体合併症への対応、認知症への対応、在宅・施設連携まで考えると、現在の稼働率だけで判断するのは危ういのです。
精神科病院では、地域移行、身体合併症、認知症、救急、訪問看護、外来、デイケア、地域生活支援との接続が問われます。慢性期病院では、医療区分、介護医療院への転換、療養病床の将来需要、看護・介護職員の確保、看取り、施設連携が重要になってきます。
再生の論点は、単に「病床を埋める」ことではありません。
| 病院類型 | 再生で問うべきこと |
|---|---|
| 精神科病院 | 長期入院依存から、地域移行・身体合併症・認知症・訪問支援へどう広げるか |
| 慢性期病院 | 医療必要度、介護需要、看取り、介護医療院等との役割分担をどう整理するか |
| ケアミックス病院 | 急性期、回復期、慢性期、在宅支援の患者動線をどう設計するか |
精神科病院の経営は、いま大きな岐路に差しかかっていると感じています。そして戦略を転換していくうえで、在宅医療や訪問看護とどうつながるかは、収益の面でも地域連携の面でも軽視できません。これは中小病院の再生を考えるときにも、同じように重視すべき視点だと考えています。
財務改善は、まず「止血」と「再生投資」を分ける
経営再生というと、すぐに新しい戦略や投資を考えたくなるものです。しかし、資金繰りが悪化している病院では、まず止血が必要になります。
止血とは、短期的に資金の流出を抑え、破綻を避けるための対応です。
再生投資とは、将来の収益力や地域機能を高めるための投資です。
この2つを混同してしまうと、危険です。
| 区分 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 止血 | 支払予定確認、資金繰り表、返済条件見直し、在庫・未収金管理、不要支出停止 | 医療機能を壊す削減を避ける |
| 再生投資 | 病棟転換、退院支援強化、在宅連携、リハ体制、電子カルテ、採用 | 投資回収と人員負荷を事前に見る |
たとえば、地域包括ケアや在宅後方支援を強化するには、人員や連携体制が要ります。退院支援担当者、リハ職、看護師、医療ソーシャルワーカー、事務管理体制を強化しなければ、機能転換は形だけのものに終わってしまいます。
その一方で、資金繰りが厳しい状態のまま、建物の更新や高額医療機器への投資を先行させると、返済負担がかえって再生を阻んでしまいます。
病院の再生では、「投資したいもの」ではなく、「再生シナリオに不可欠なもの」から優先していきます。
借入返済は、再生計画上のフリー・キャッシュ・フローで考える
借入返済が重い病院では、金融機関への対応が避けられません。
ここで大切なのは、返済の猶予をお願いすること自体ではありません。返済条件を見直したあとに、病院として何を実行するのかを示すことです。
経営改善計画では、借入返済前のキャッシュ・フローを明確にし、その範囲内で返済可能額を検討していく、という考え方が一般的です。複数の金融機関がある場合には、金融機関どうしの公平性を踏まえた調整も必要になります。
計画に含めるべき内容は、少なくとも次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現状分析 | 医業収支、資金繰り、借入、病棟別採算、施設基準 |
| 窮境要因 | なぜ赤字・資金不足になったのか |
| 改善施策 | 機能転換、稼働率改善、単価改善、費用管理、外来見直し |
| 数値計画 | 損益計画、貸借対照表、キャッシュ・フロー、返済計画 |
| アクションプラン | 誰が、いつ、何を実行するか |
| モニタリング | 月次・四半期で何を確認するか |
| 金融支援 | リスケ、新規融資、借換え、保証条件の見直し等 |
経営改善計画には、ビジネスモデル俯瞰図、資金繰り実績表、具体的な施策、実施計画、モニタリング計画、計数計画などを盛り込み、金融機関への説明と同意形成を進めていくことが求められます。
計画は、作って終わりではありません。月次で予実を確認し、金融機関へ状況を共有し、必要に応じて施策を修正していく。この積み重ねが重要です。きちんとした経営計画があると、金融機関も事業内容や進捗状況を把握しやすくなり、資金支援や改善のための助言につながりやすくなります。
病床数の適正化は、補助金ありきではなく将来機能から判断する
中小病院の再生では、病床数の見直しも重要な論点です。
厚生労働省は、病床数適正化緊急支援事業について、医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更などにともなう職員雇用等の課題によって生じる負担を支援する事業だと説明しています。
出典:厚生労働省|病床数適正化緊急支援事業の実施について
同事業の実施要綱では、給付金の申請にあたって、都道府県が必要と認める書類を添えて申請し、都道府県が審査を行う、という流れが示されています。
出典:厚生労働省|病床数適正化緊急支援事業の実施について 実施要綱
ただし、病床削減や病床転換は、補助金があるから実行するものではありません。
補助金は、あくまで将来機能に合った再編を進めるための支援です。自院の将来像が曖昧なまま病床を減らせば、収益の基盤を失ってしまうおそれがあります。反対に、需要のない病床を維持し続ければ、職員配置・固定費・設備維持費が経営を圧迫していきます。
病床数の見直しでは、次の順番で考えます。
- 地域で必要な機能を確認する
- 自院が担う機能を決める
- 必要な病棟構成と病床数を試算する
- 人員配置と施設基準を確認する
- 減収・減費・補助金・退職費用・改修費用を資金繰りに織り込む
- 職員、患者、地域、金融機関への説明資料を整える
病床を減らすこと、それ自体は再生ではありません。
病床数を将来の医療機能に合わせていくこと。これが再生です。
組織改革なしに機能転換は進まない
病院の機能転換は、理事長や院長の決定だけで進むものではありません。
病棟運営、外来、医事課、看護部、リハ部門、地域連携室、薬剤部、栄養部、総務・経理、人事、情報システム。これらが同じ方向を向かなければ、実行の段階で止まってしまいます。
とくに中小病院では、次のような問題が起こりやすくなります。
院長や事務長に判断が集中する。
看護部と事務部門の数字がつながっていない。
病棟別損益を、現場が理解していない。
施設基準の管理が、担当者任せになっている。
採用・退職の情報が、経営計画に反映されていない。
金融機関向けの計画と、現場の行動計画が別物になっている。
理事会・幹部会が報告会で終わり、意思決定の機能を果たしていない。
再生の局面では、会議体の設計が重要になります。
| 会議体 | 役割 |
|---|---|
| 理事会・経営会議 | 方針決定、資金繰り、金融機関対応、投資判断 |
| 病棟運営会議 | 稼働率、在院日数、入退院、転棟、退院支援 |
| 収益改善会議 | 施設基準、加算、査定返戻、医事課管理 |
| 人員計画会議 | 採用、離職、職種別配置、残業、教育 |
| 地域連携会議 | 紹介、逆紹介、在宅、介護施設、退院先 |
| 月次モニタリング | 計画と実績の差異、資金繰り、改善アクション |
病院事業の業務改善では、週次の業務改善会議やタスクフォースを通じて、経営管理の手法を確立していくことが効果を上げています。
機能転換とは、病棟名を変えることではありません。現場の行動、管理資料、会議体、そして責任者を変えていくことです。
投資抑制とは「何もしない」ことではない
赤字病院では、投資を止める判断が必要になることがあります。
しかし、投資抑制は「何もしない」という意味ではありません。むしろ、限られた資金をどこに使うのかを、厳しく選ぶことなのです。
中小病院には、建物の老朽化、空調・給排水・電気設備、医療機器、電子カルテ、ナースコール、厨房、リハ設備、車両など、更新が必要な資産が数多くあります。これらをすべて同時に更新することは、できません。
再生の局面では、投資を次の4つに分類します。
| 投資区分 | 判断の考え方 |
|---|---|
| 安全維持投資 | 医療安全、法令、感染対策、停電・漏水等に関わるため優先度が高い |
| 収益改善投資 | 施設基準、稼働率、単価、業務効率に明確に効くものを選ぶ |
| 維持更新投資 | 故障リスクと診療停止リスクを見て優先順位をつける |
| 見送り投資 | 戦略との関係が弱い、回収根拠が薄い、資金繰りを圧迫するもの |
投資を止めすぎれば、病院機能が劣化します。
投資を続けすぎれば、資金繰りが破綻します。
ですから投資の判断には、設備更新予定表、借入返済表、資金繰り表、投資回収表が必要になるのです。
中小病院の再生で作るべき「機能別採算表」
中小病院の経営再生では、病院全体の損益だけを見ていても、原因は見えてきません。
病棟別、診療科別、機能別に分けて、採算を見ていく必要があります。
| 区分 | 見るべき項目 |
|---|---|
| 急性期病棟 | 新入院患者数、救急、紹介、入院単価、平均在院日数、材料費 |
| 地域包括ケア・地域包括医療 | 在宅復帰、退院支援、リハ、介護連携、緊急入院 |
| 回復期リハ | リハ単位数、実績指数、在宅復帰、リハ職人件費 |
| 療養・慢性期 | 医療区分、長期入院、看護・介護配置、介護施設連携 |
| 精神科 | 長期入院、退院支援、身体合併症、訪問看護、地域移行 |
| 外来 | 患者数、初診、紹介、逆紹介、医師時間、外来損益 |
| 在宅・訪問 | 訪問件数、看取り、オンコール、入院連携、訪問看護 |
| 検査・画像 | 件数、単価、保守費、稼働率、外部委託比較 |
ここで大切なのは、精密な原価計算を最初から求めすぎないことです。
厳密な配賦計算にこだわる前に、まずは「どの機能が赤字を生み、どの機能が地域への価値と収益を支えているのか」を見える化すること。これが何より重要です。
部門別・機能別の管理会計は、在宅、自由診療、検査、分院などの採算を把握し、共通費の配賦、稼働率、時間当たり採算、人員別採算、投資回収を見ていくために欠かせません。
再生計画は「90日・180日・1年」で分ける
中小病院の再生では、最初から5年計画だけを作っても、現場は動きません。
かといって、目先の支払いだけを追っていては、将来像が描けません。
実務のうえでは、90日、180日、1年、3年という時間軸で整理していきます。
| 期間 | 主な目的 | 実行内容 |
|---|---|---|
| 最初の90日 | 現状把握と資金繰りの安定 | 月次資料整備、資金繰り表、借入一覧、未収金、支払予定、病棟別収支 |
| 180日 | 再生方針の決定 | 機能転換案、病床数、施設基準、人員計画、金融機関説明 |
| 1年 | 施策実行とモニタリング | 病棟運営改善、紹介強化、退院支援、費用管理、採用改善 |
| 3年 | 再生後の成長・承継準備 | 設備更新、法人運営整備、M&A・承継可能性、地域連携強化 |
最初の90日で必要なのは、美しい計画書ではありません。現実を直視するための資料です。
現預金はいくらあるのか。
3か月後に、資金ショートしないか。
どの病棟が赤字なのか。
未収金は増えていないか。
借入の返済はいくらか。
賞与の資金は足りるか。
人員不足で、施設基準のリスクはないか。
老朽化した設備に、緊急修繕のリスクはないか。
ここを曖昧にしたまま中期計画を作っても、その計画は実行されません。
単独再生が難しい場合は、承継・M&Aも早めに検討する
中小病院の再生では、単独での立て直しに限界がある場合もあります。
後継者の不在、医師確保の困難、過大な借入、老朽化した建物、施設基準のリスク、職員の離職、地域での役割の低下。こうした要因が重なってきたときには、単独再生にこだわるよりも、他法人との提携、事業譲渡、法人承継、M&A、グループ入りを検討したほうが、患者さんや職員、地域医療を守れる場合があります。
ただし、M&Aは「逃げ道」ではありません。買い手は、財務、税務、労務、施設基準、患者基盤、医療機器、建物、借入、訴訟・クレーム、個人情報、行政手続、法人議事録を、一つひとつ確認します。
医業承継の実務では、小規模病院の第三者承継、親子間承継と戦略転換、サービサーによる債権圧縮、民事再生、事業譲渡など、再生と承継が結びつく場面が少なくありません。
また小規模病院の承継では、既存の収入源を残しながら戦略転換を図ること、外部の専門家の力を借りて市場調査や新院長就任後の医療経営を検討すること、こうした視点も実務上は重要になります。
承継・M&Aを検討する場合でも、早めに月次資料、契約書、議事録、労務資料、施設基準資料、借入一覧を整えておくことが大切です。資料が整っていない病院は、価格交渉の前に、そもそもリスクの把握が難しくなってしまうからです。
中小病院再生で避けるべき判断
中小病院の再生で避けたいのは、根拠の薄い楽観です。
次のような判断は、あとで大きな問題になりやすいものです。
| 避けるべき判断 | 問題点 |
|---|---|
| 稼働率を上げれば何とかなる | 患者構成、単価、人員配置、在院日数を見なければ採算は改善しない |
| 人件費を削れば黒字化する | 施設基準、医療安全、職員離職、患者受入れに影響する |
| 補助金で当面しのげる | 補助金終了後の実力値を見誤る |
| 地域包括ケアに転換すればよい | 退院支援、在宅復帰、介護連携、人員体制がなければ機能しない |
| 在宅医療を始めれば収益が増える | 24時間対応、連携、看取り、緊急入院の体制が必要 |
| 借入を借り換えれば再生できる | 返済原資がなければ問題の先送りになる |
| M&Aなら何とかなる | 財務・税務・労務・施設基準リスクが整理されていなければ評価されにくい |
再生とは、都合のよい数字を作ることではありません。悪い数字を早く見つけ、その原因を分け、改善の可能性を見極めていくことです。
中小病院が再生に向けて最初に整えるべき資料
専門家や金融機関と協議する前に、次の資料を整えておくと、議論の精度が大きく上がります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 過去3期分の決算書 | 収支構造、借入、純資産、補助金依存度を確認する |
| 直近12か月の月次試算表 | 直近の悪化要因と季節変動を確認する |
| 資金繰り表 | 3か月、6か月、12か月の資金不足を把握する |
| 借入一覧 | 返済額、金利、担保、保証、返済期限を確認する |
| 病棟別・診療科別損益 | 赤字要因と強みを分ける |
| 病床稼働率・在院日数・入院単価 | 入院収益構造を確認する |
| 入院ルート表 | 救急、紹介、外来、在宅、施設からの流れを確認する |
| 職種別人員表 | 人件費、施設基準、人員不足を確認する |
| 施設基準一覧 | 届出、維持要件、返還リスクを確認する |
| 設備更新予定表 | 修繕・更新・投資資金を把握する |
| 主要契約書 | 賃貸借、リース、業務委託、保守契約を確認する |
| 理事会・社員総会議事録 | 法人運営と意思決定の整備状況を確認する |
医療法人の内部管理では、診療報酬請求、未収金、会計窓口収納、支払業務、資金管理、購買、固定資産、決算、監査などが、重要な管理領域になります。
また経理規程や内部統制の面では、資金管理、購買管理、医業収益管理、債権債務管理、棚卸資産、固定資産、予算管理、内部・外部監査などを、体系的に整えていくことが求められます。
経営再生とは、地域医療を続けるための説明責任を整えること
中小病院の経営再生は、単に黒字化を目指すものではありません。
もちろん、資金が尽きれば医療は続けられません。利益とキャッシュ・フローを軽視するわけにはいきません。それでも、病院は地域医療の一部です。患者さん、ご家族、スタッフ、診療所、介護施設、行政、金融機関、後継者、買い手候補に対して、自院が何を担い、どのように継続していくのかを、きちんと説明できなければなりません。
再生で問われるのは、次のような説明です。
この病院は、地域で何を担うのか。
急性期、回復期、慢性期、精神科、在宅後方支援。そのどこに軸足を置くのか。
赤字の原因は、稼働率なのか、単価なのか、人件費なのか、施設基準なのか、それとも借入なのか。
どの機能を残し、どの機能を縮小・転換するのか。
職員をどう守り、どう再配置するのか。
設備更新をどこまで抑え、どこに投資するのか。
金融機関に、どの返済計画を示すのか。
承継・M&Aの選択肢を、いつ検討するのか。
中小病院の再生に、単純な正解はありません。
ただし、判断の順番はあります。
現状を数字で把握する。
地域で担う機能を決める。
機能別の採算を確認する。
資金繰りを守る。
投資を選別する。
組織を動かす。
そして、金融機関・行政・後継者に説明できる計画にする。
この順番を誤らないこと。それが、病院再生の第一歩になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
中小病院の経営再生と機能転換は、決算書だけを見ても判断できません。
医業収支、病棟別採算、資金繰り、借入返済、施設基準、診療報酬、地域医療構想、人員配置、設備更新、法人運営、税務、そして承継・M&Aの可能性。これらを一体として整理していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、医療機関を、継続的に経営管理されるべき事業体として捉えています。そのうえで、月次決算、資金繰り、部門別・機能別採算、医療法人会計、税務、内部統制、経営改善計画、金融機関への説明、承継・M&Aを見据えた資料整備を支援しています。
赤字要因を分解したい。病棟別採算を見える化したい。機能転換の数値計画を作りたい。金融機関に説明できる経営改善計画を整えたい。承継・M&Aも含めて選択肢を検討したい。そうしたお考えがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
経営再生の出発点は、都合のよい結論を探すことではありません。
自院の数字と機能を、第三者に説明できる状態へと整えていくことです。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要な考え方 | 確認すべき資料・数字 |
|---|---|---|
| 再生の入口 | 赤字削減ではなく、地域で残す機能を決める | 地域ニーズ、病床構成、診療圏 |
| 実力値の把握 | 補助金・一過性収益を除いた医業収支を見る | 月次試算表、補助金内訳、医業利益 |
| 地域医療構想 | 病床削減ではなく、医療機能の再設計として読む | 病床機能報告、構想区域資料 |
| 機能転換 | 急性期、回復期、慢性期、在宅後方支援等を選ぶ | 施設基準、人員配置、患者構成 |
| コミュニティホスピタル | 地域内の患者循環を担う中小病院を目指す | 入院ルート、退院先、連携先 |
| 在宅連携 | 外来減少の穴埋めではなく、入院機能の再設計 | 訪問件数、緊急入院、協力施設 |
| 精神科・慢性期 | 長期入院維持だけでは将来を描きにくい | 長期入院比率、身体合併症、地域移行 |
| 財務改善 | 止血と再生投資を分ける | 資金繰り表、借入一覧、投資計画 |
| 金融機関対応 | 返済前キャッシュ・フローを示す | 経営改善計画、返済計画、CF計画 |
| 病床適正化 | 補助金ありきではなく将来機能から判断する | 病床数、稼働率、削減・転換シミュレーション |
| 組織改革 | 会議体、責任者、管理資料を整える | 経営会議資料、病棟別会議資料 |
| 承継・M&A | 単独再生が難しい場合は早めに選択肢を検討する | 決算書、契約書、議事録、施設基準資料 |